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2023年3月1日水曜日

新たな輸出の成功:ナイジェリアがトルコの「OPV 76」哨戒艇を発注した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコ製兵器で国際市場で成功を収めているのは無人機だけではありません。トルコの武器産業は他の分野でも世界全体で高い評価を得ています。

 これらにはブルキナファソとトーゴによって最近調達された「MEMATT」地雷除去車のケースのように、あまり魅力的ではない(それでも非常に重要な)役割のおかげで国際的なアナリストによって全く注目を受けていないシステムも含まれています。[1] [2]

 最近、ナイジェリアがトルコの「ディアサン」造船所から2隻の76m級洋上哨戒艇(OPV):「OPV 76」を発注した事例のように、ほかのトルコ製兵器がより多くの注目を集めつつあります。現代の広い市場における厳しい競争を考慮すると、2隻のOPVの購入は「ディアサン」造船所にとって注目に値する成功と言えるでしょう。

 近年のナイジェリア海軍は、中国やアメリカ、イスラエル、そしてシンガポールといった国々から調達したOPV群から成る相当な規模の艦隊を運用していることで知られています。

 2021年から2030年までの艦隊再編プランの一環として最新型OPVを必要とするにあたり、ナイジェリアは最終的に「ディアサン」の「OPV 76」案を選定する前に、中国、オランダ、イスラエルの造船所が売り込んでいる艦船を検討していたようです。

 2隻のOPVはどちらも(「ギュルハン」造船所との合弁事業として)イスタンブールの「ディアサン」造船所で建造され、37か月以内にナイジェリア海軍に引き渡されるスケジュールとなっています。[3]

 このOPVは主にトルコで設計・開発されたセンサー類や兵装が搭載される予定です。

 さらに、「ディアサン」のCEOは、この取引にはナイジェリアへの技術と専門的知識(ノウハウ)の移転も含まれていることを明らかにしました。[3]

 すでにナイジェリア海軍は小型哨戒艇の設計・建造に熟練していることから、「ディアサン」からの技術移転によって将来的にはより大きな艦艇の建造計画に取りかかる可能性が考えられます。 [4]

 今や「ディアサン」造船所は、トルクメニスタン海軍と国境警備隊の主要なサプライヤーとなっています。同造船所は、今までトルクメニスタンに「デニズ・ハン」級コルベット1隻、「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速ミサイル艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級揚陸艇1隻、「HSV41」測量船1隻、人員輸送用の双胴船1隻、2隻のタグボートを納入してきました。[5]

 海軍の増強はトルクメニスタンをカスピ海で相当に強力な海軍力を持つ国へと一変させましたが、特に重要なのは、この偉業が「ディアサン」造船所の尽力を通じて実現されたということでしょう。[5]

握手を交わすナイジェリア海軍のアワル・ガンボ提督とディアサン造船所のムラット・ゴルディCEO。「OPV 76」の模型に「SH-60 "シーホーク"」が搭載されている点に注目。実際には、このOPVのヘリ甲板はナイジェリア海軍によって数機が運用されている「AH109W」によって仕様される可能性が高いでしょう。

 「OPV 76」は、最低限の軍事力を行使する範囲内でさまざまな任務を遂行するために設計されました。この哨戒艇の全長は78.6mで、4基の「MAN」社製「18VP185」ディーゼルエンジンを搭載しているため、最大28ノット(約51.8km/h)の速さで航行することが可能です。 やや低速で航行した場合の航続距離は3000海里(5500km以上)となります。[6]

 顧客が選択した艦載兵装に左右されますが、この船は概ね40名の乗組員で運用されます。

 艦尾には「NHインダストリーズ」「NH90」ヘリコプターを搭載できるヘリ甲板が備えられていますが、格納庫は設けられていません。

 「ディアサン」によって販売されている標準仕様の「OPV 76」は、艦首に「レオナルド」社製76mmスーパーラピッド砲、上部構造物の後方に同社製「マーリン40」40mm機関砲 、2門の12.7mm重機関銃(HMG)装備型リモートウェポンステーション(RWS)、2門の12.7mmHMG、そして2門の「MBDA」製携帯式対空ミサイル(MANPADS)用2連装発射機、それと共に任務に必要とされるレーダーやセンサー類を備えていますが、ナイジェリアは発註した2隻に別の兵装を選択しました。

 実際、ナイジェリアの「OPV 76」でトルコから調達していない艦載兵装は艦首にある76mm砲であり、同位置には代わりとして「マーリン40」40mm機関砲が搭載されています。後部上部構造の「マーリン40」があるべき位置には「アセルサン」製の「STOP」25mm RWSが装備され、MANPADS発射機も3門の同社製「STAMP」12.7mm RWSに置き換えられています。

 そして、前述の装備に加えて数門の手動式機関銃がナイジェリア向け「OPV 76」の兵装を構成しています。

 これらの装備の変更については、トルコは自国で必要とする防衛装備の国産化をますます進めてイタリアの76mm砲の国産コピーも製造するようになったため、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなったことを意味します。[7]

 このOPVに装備されているほかの「アセルサン」製品には、「MAR-D 3D」3次元捜索レーダー、「アルペル LPI(低被探知性)」航海レーダー、「デニズ・ギョジュ-アフタポット」EO/IRセンサー・システムが含まれていることにも注目すべきでしょう。[8]

標準の兵装一式が装備された「OPV 76」のイメージ図

 「OPV 76」が就役した場合、これらは「P18N(注:056型コルベットの輸出型)」級OPV2隻、「ハミルトン」級OPV2隻、そしてOPVに転用された多数の小型高速攻撃艇を補完するでしょう。

 「OPV 76」と違って「P18N」級と「ハミルトン」級カッターにはヘリコプター用の格納庫がありますが、ナイジェリア海軍は作戦でOPVを展開させる際にヘリコプターを艦載用に割り当てることをめったにしません。

 領海内での作戦のために、ナイジェリア海軍は数隻の「シャルダグMk2」「シーイーグル」高速哨戒艇を運用しています。

 ナイジェリアは一般的に想定し得る海上の脅威(敵艦艇)に関しては全く直面していないため、対艦ミサイルを搭載していたあらゆる艦艇から撤去してしまいました。

NMS「ユニティ(F92)」はナイジェリアが2隻保有する中国製「P18N」級OPVの1隻。 ヘリ甲板への着艦を試みている「A109」ヘリコプターに注目。

 トルコがアフリカにおける拠点を拡大するにつれて、武器取引も比例して増加しつつあります。この国は幅広い種類の現代的で信頼性の高い兵器を手頃な価格で提供できるという独特の立場を徐々に構築してきており、ナイジェリアは今やその恩恵を享受しています。

 トルコにとって、ナイジェリアはすでにサハラ以南におけるアフリカ諸国で最大の貿易相手国であり、トルコは貿易と防衛産業面での協力をさらに促進することを目指しています。[9]

 2021年10月におけるエルドアン大統領のナイジェリア訪問では、両国間でエネルギー、鉱業、そして防衛の分野でいくつかの協定が結ばれました。これには、ナイジェリアが以前から大きな関心を示していた「バイラクタルTB2」UCAVの売却も含まれていたかもしれません。[10][11]

 「OPV 76」に関する取引は、単にトルコ側がナイジェリアへのOPVの売却の手配をしただけではありません。繰り返しますが、これはトルコの造船所が輸出用の艦艇を売り込む際に、もはや外国製の艦載兵装に依存する必要がなくなったことも証明しているのです。

 トルコの防衛産業が、レーダーや垂直発射システム(VLS)といった装備や大砲、対艦ミサイル、対空ミサイルを含むあらゆる種類の兵器類を生産できるようになる日が来るのはそう遠くはないでしょう。

 このペースでいけば、トルコの防衛産業は10~15年以内には必要とする兵器や装備品のほぼ全てを自給自足できるようになるかもしれません。トルコの自給自足へ向けた道のりは、現時点の世界で存在している同じ動きの中では間違いなく最速であり、韓国のペースよりも上回っています。

 現在トルコに兵器類を供給している国々が10年後には代わりにトルコから兵器を導入するかもしれません。それが実現した暁には、数十年に及ぶ防衛産業への投資の成果を世に示すことになるでしょう。


[1] Turkey to Export Unmanned Mine Clearing Equipment to Burkina Faso https://www.thedefensepost.com/2021/07/30/turkey-minesweepers-burkina-faso/
[2] Togo gets Turkish remote-controlled mine clearance vehicles https://defensehere.com/en/HaberDetay/togo-gets-turkish-remote-controlled-mine-clearance-vehicles/1
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard to Build 2 OPVs for the Nigerian Navy https://www.navalnews.com/naval-news/2021/11/turkeys-dearsan-shipyard-to-build-2-opvs-for-the-nigerian-navy/
[4] Hull of Nigeria’s Seaward Defence Boat 3 (SDB III) comes together https://www.africanmilitaryblog.com/2020/05/hull-of-nigerias-seaward-defence-boat-3-sdb-iii-comes-together
[5] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[6] Offshore Patrol Vessel OPV 76 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/offshore-patrol-vessel-opv76
[7] MKEK’nin 2023 Vizyonunda Hedef 76mm’den Sonra 127mm Deniz Topu’nu da Millileştirmek! https://www.defenceturkey.com/tr/icerik/mkek-nin-2023-vizyonunda-hedef-76mm-den-sonra-127mm-deniz-topu-nu-da-millilestirmek-4845
[8] https://twitter.com/BarbarosToprak2/status/1455952042283913220
[9] 'Turkey aims to boost cooperation in defense industry with Nigeria' https://www.aa.com.tr/en/africa/turkey-aims-to-boost-cooperation-in-defense-industry-with-nigeria/2396812
[10] Turkey, Nigeria determined to deepen cooperation: Erdoğan https://www.dailysabah.com/politics/diplomacy/turkey-nigeria-determined-to-deepen-cooperation-erdogan
[11] French media eyes Turkish drones during Erdoğan’s Africa trip https://www.dailysabah.com/business/defense/french-media-eyes-turkish-drones-during-erdogans-africa-trip

  です。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。



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2022年7月17日日曜日

ビッグ・ビジネスの予感:トルコが「F142」級フリゲート(案)を公開した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ヨーロッパにおける海軍関連の各造船所は、それぞれが今後数十年を生き抜くにはあまりに規模が小さくなってしまった市場で受注を勝ち取るために激しい競争に直面していますが、トルコの場合は逆に好景気に沸いています。

 近年におけるトルコの造船所は、さまざまな種類の艦艇や、間違いなくそれとほぼ同じくらい重要な艦載兵装とレーダーシステムを世界中のほとんどの国が実際に手に届く価格で売り出しているため、過去10年間で著しい成功を収めているのです。

 トルコで最も商業的に成功している造船所としては、「ヨンジャ・オヌク」「STM」、そして「ディアサン」が挙げられます。後者の2社は、小型潜水艦から大型フリゲートまでのあらゆる艦艇(案)を売り出しており、そのうちの1つが今回の記事のテーマとなります。

 トルコの海軍分野における技術的な進歩は、同時にこの国の造船所のラインナップがこれまでになく大型で、さらには斬新な艦艇の設計案を含むまで着実に拡大していることも意味しています。

 2021年には、「アレス」造船所の「ULAQ(ウラク)」シリーズ、「セフィネ」造船所「NB57/RD09」「ディアサン」造船所「USV11/15」という3種類の武装無人水上艇(AUSV)が発表されました。[1] [2] [3]

 「ウラク」シリーズは対艦ミサイルや対潜兵装、さらには長射程の対戦車ミサイルで武装可能なUSVです。

 これらのUSVが大量にエーゲ海に導入された場合、近年における海軍戦力上のバランスをトルコの有利に変えたり、これまで有人艦艇によって遂行されてきた任務の多くを引き受けることになるかもしれません。その斬新性から、USVが最も注目を集めることは間違いないでしょう。

 とはいえ、新たな大型艦艇の設計案もトルコの防衛産業における能力の向上と現代化に向けた潮流が継続していることを示しています。

 これらの1つが、2021年後半に「ディアサン」造船所によって初公開された「F142」級大型フリゲートです。[4]

 このフリゲートは同造船所で設計されたものでは最大級の軍艦であり、全長142m、全幅18.5m、そして5,500tの排水量を誇ります。ちなみに、「ディアサン」がそれまでに設計した最大の艦艇は、全長が「わずか」92mで、排気量が1,600tでした。[5]



 「F142」級が有する最も強力な艦載兵装システムは、射程20kmの「VL MICA」艦対空ミサイル(SAM)を発射できる32セルもの垂直発射装置(VLS)です。

 また、魚雷発射管も2基搭載されているため、「F142」自身のソナーや搭載されている対潜(ASW)ヘリコプターで探知した潜水艦に魚雷を発射することが可能となっています。

 近接戦闘用には、「ラインメタル」社「ミレニアム」35mm近接防御火器システム(CIWS)が艦の前部・後部にそれぞれ1基ずつ、12.7mm重機関銃付き遠隔操作式銃架(RWS)2基、チャフ・デコイ発射システム6基が装備されています。

 そして、主砲はイタリアの76mmスーパーラピッド砲か国産の76mm艦載砲(注:前者のコピー)です。[6]

 驚くべきことに、「F142」級は16発もの対艦ミサイル(AShM)も装備しており、顧客の要求に応じて国産の「アトマジャ」AShMか他国製のAShMを選択することが可能と思われます。

 最大で16発が装備されたAShMの能力を制限することが考えられる唯一の要因は目標の探知能力であることから、適切なレーダーシステム等を搭載するためにかなりのスペースが用意されています。「F142」級の場合、これらは長距離で複数の目標をアクティブに探知・追尾するために設計された多数のレーダーと複数のEO/IRセンサーという形でもたらされています。

 また、防御的電子戦(EW)用として、イタリアの「エレトロニカ」社製の大がかりなEWシステムが搭載されています。


 「ディアサン」造船所は2010年から2014年にかけてトルコ海軍向けに16隻の「ツヅラ」級哨戒艇を建造した後、(「ギュルハン造船所」との合弁事業で)2010年代前半以降にトルクメニスタンから国境警備隊(沿岸警備隊)と海軍に装備させる艦艇の発注を数多く受けることに成功しました。

 これまでのところ、トルクメニスタンに引き渡された艦艇の数は29隻に達しており、この中には1隻のコルベット、10隻の哨戒艇や6隻の高速攻撃艇(FAC)が含まれています。

 2021年11月、「ディアサン」はイスラエル、オランダ、中国、シンガポールの造船所を打ち破って、ナイジェリア海軍に2隻の「OPV 76」級76m哨戒艇を納入する契約を獲得したことが明らかとなりました。[7]

 今までに「ディアサン」で実際に建造された最大の軍艦は、92mサイズの「デニズ・ハン(メーカー側呼称:C92級)」コルベットであり、トルクメニスタン海軍に「トルクメン」級コルベットとして導入が決定された2隻のうちの最初の艦です。

 「デニズ・ハン」はカスピ海で最も強力な武装を備えた艦艇の1隻であり、「オート・メラーラ(現レオナルオドS.p.A.)」社製の76mm艦載砲を1門、200kmの射程を誇る「オトマートMk 2 ブロックIV」AShMを8発、20kmの射程を持つ「VL MICA」艦対空ミサイルを16発、「ロケトサン」社製ASWロケット弾発射機を1門、「アセルサン」社製「ギョクデニズ」35mm CIWSを1門、25mm機関砲か12.7mm重機関銃を装着したRWSを4門装備しています。

 また、このコルベットには「F142」級と同じEW装置も装備されています。


 「ツヅラ」級哨戒艇はトルコ海軍での運用でその価値が実証されてきたものの、「F142」級はトルコの将来型フリゲートの入札に参加するには、設計案の登場があまりにも遅すぎました。この入札については、結果として2010年代半ばに「STM」が勝ち取りました。[8]

 結果として採用されたフリゲートは「イスタンブール」級と知られており、「F142」級と同様に16発の対艦ミサイルが搭載されることになっています(注:「イスタンブール」級は「イスティフ(İstif)」級と呼称される場合もありますが、メーカー側の呼称は「I」級フリゲートです)。

 1番艦にしてネームシップでもある「TCG イスタンブール(F-515)」は2021年1月に進水しており、2022年の初頭にはもう3隻の同型艦の建造に向けた入札が開始される予定となっています。[9]

 「ディアサン」が売り出している艦艇のほとんどは輸出向けに特化されたものです。ただし、「F142」級は特定の国からの要求を満たすように設計されたものではないようですが、このフリゲートに関心を持つ可能性のある国には、インドネシア、マレーシア、モロッコ、南米の多くの国が含まれています(注:このコルベットは特定の国からの発注を見越して特別に設計された艦ではないということ)。

 「STM」はすでに2021年12月下旬にコロンビアに「アダ」級コルベットをベースにした「CF3500」級フリゲートを売り込んでおり、トルコが南米の海軍市場に参入する下地を作りつつあるのです。[10]



 トルコの造船所は、この約10年の間で、ほぼ全ての種類の軍用艦艇において見事な数の設計を考案してきました。そして、各種艦艇と一緒に多数の最新の国産兵装システム、レーダーやセンサー類も設計・開発されてきました。

 その結果として、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要性が限りなくゼロに近くなるでしょう。特に「ディアサン」造船所の場合、その恩恵を受ける対象は新たに公開されたUSVシリーズや33m級小型潜水艦だけでなく、「トルクメン」級コルベットや「F142」級フリゲートなど従来型の艦艇も含まれます。

 これらの艦艇や兵装システムが近いうちに、ヨーロッパ、南米、東南アジアといった全く新しい市場に手を伸ばすことについては、考えられないことではないと思われます。

「ディアサン」造船所の33m級小型潜水艦「L SUB 33」

この記事の作成にあたり、 Kemal氏に感謝を申し上げます。

[1] Turkey begins the mass-production of ULAQ armed USV https://navalpost.com/turkey-begins-the-mass-production-of-ulaq/
[2] Turkish Companies Team Up For New Armed USV Projects https://www.navalnews.com/naval-news/2021/07/turkish-companies-team-up-for-new-armed-usv-projects/
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard unveils new combat USV https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-dearsan-shipyard-unveils-new-combat-usv/
[4] Frigate F-142 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/frigate-f142
[5] Corvette C92 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/corvette-c92
[6] Turkey’s New 76mm Naval Gun to Enter Service in 2022 https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-new-76mm-naval-gun-to-enter-service-in-2022/
[7] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[8] I Class Frigate https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/i-class-frigate
[9] Turkey opens bidding for three new frigates https://www.dailysabah.com/business/defense/turkey-gears-up-to-build-3-new-domestic-warships
[10] STM, A Reliable Partner Of The World’s Navies, Presents Its Naval Projects And Tactical Mini UAV Systems At Expodefensa! https://www.stm.com.tr/en/media/news/stm-reliable-partner-worlds-navies-presents-its-naval-projects-and-tactical-mini-uav-systems-expodefensa-en

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。


2021年7月22日木曜日

小さくても命取りな存在:トルクメニスタンの高速攻撃艇


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 カスピ海の海軍バランスを考えるとき、トルクメニスタンが最初に思い浮かぶ国ではないことはほぼ確実でしょう。それにもかかわらず、継続的な海軍の増強はこの点についてロシアと並ぶ地域有数の海軍力を持つ国に変えました。これはトルコのディアサン造船所によるところが大きく、同社はトルクメニスタン海軍が保有する現代的な艦艇のほぼ全てを供給しています。

 それらの一つが、過去10年で運用を開始した世界でも極めて数少ない高速攻撃艇(FAC)の一種である「FAC 33(上の画像)」です。(ほぼ確実に)サイズと運用者が小国のおかげで、このFACは設計された国(トルコ)以外ではほとんど知られていません。それでもなお、その滑らかなデザインと比較的軽い武装によって、同クラスの他の艦艇とは際立ったものになっています。

 33メートルという小さなサイズと搭載可能な武装は「FAC 33」をミサイル艇というよりはFACに近いものにしていますが、対艦巡航ミサイル(AShM)の登場以降はどちらの呼称もほぼ同義語になっていますので、特に問題はありません。

 (当然ながら世界最大の称号は北朝鮮が持っているため)トルコは確かに世界最大のFAC保有国ではありませんが、今日でも新型FACの設計を依然として積極的に行っている数少ない国の一つです。それらには、従来の船型から双胴船ベースのデザイン、さらには表面効果船(SES)型までのあらゆるタイプのものが含まれています。

 2013年に大統領府国防産業庁(SSB)は現在トルコ海軍で使用されているFACを置き換える新型FACの入札を開始しましたが、30近くの国内で設計された案から選定することができました。[1]

 これら全ての半分だけがトルコ型FAC計画の一部として入札に提案されましたが、これは(幅広い)設計の流行が(当局に)ほとんど過大評価されていないことを示しています。最終的には、僅かに非従来型のデザインを抑えた(しかし同等に見栄えの良い)STM社「FAC55(下の図)」をベースにした設計案が選定されました。


 トルコのFACを獲得する取り組みが始まった1年後の2014年、トルクメニスタンも新型FACの導入による自国海軍の強化を試みていました。ただし、トルコとは対照的に、すでに就役している既存の同クラスの艦艇を置き換えるのではなく、トルクメン海軍をカスピ海で最も恐るべき艦隊へと劇的に変化させることを目指した野心的な拡大計画の一環として新造艦の調達に関心を向けていたのです。

 トルクメニスタンとトルコとの間で享受されている文化的、経済的、そして軍事的に緊密な関係を考慮すると、アシガバートがその野望を実現するための計画を提示する先としてトルコに目を向けたことは自然なものでした。

 数多くあるトルコの造船会社からパートナーを選んだ結果、トルクメニスタンは最終的にディアサン造船所を選定しました。理由としては、おそらく同社がトルクメニスタンのニーズに完全に適合した幅広い種類の艦艇を売りに出していたからでしょう。

 追加的な利点として、ディアサンによって設計された艦艇のいくつかは、すでに運用面での実績があります。これらの中で最も人気があるのが2011年から16隻がトルコ海軍に配備されている「ツズラ」級哨戒艇であり、これも最終的にはトルクメニスタンで運用されている別の哨戒艇「NTPB」のベースになっています。

 2014年6月にはディアサンとの間で6隻の「FAC 33」に関する契約が結ばれました。[2] 

 最初の船は2014年7月に建造が開始され、翌2015年1月に進水して同年の7月にトルクメニスタンに引き渡されました。残りの艦艇の引き渡しは3ヶ月間隔で続き、2017年には納入が完了しました。[2]

 その後、この6隻は「SG-119 Naýza」、「SG-120 Ezber」、「SG-121 Kämil」、「SG-122 (名称不明)」、「SG-123 Galjaň」、「SG-124 Gaplaň」として、(一般的にSBSと略されるか、トルクメニスタンでは「Serhet Gullugy」と呼ばれている)国境警備隊に就役しました。

 2016年、これらの新型艦はトルクメニスタン初の共同演習「ハザル-2016」に参加しました(注:ハザルはカスピ海のテュルク語名です)。


 「FAC 33」は全長33メートルで2基のウォータージェットに動力を供給する「MTU M90」または「MTU M93L」ディーゼルエンジンを2基備えており、エンジンの選択に応じて37ノット以上または43ノット以上の速度を出すことができます。それよりも僅かに遅い速度を出した場合では、「FAC 33」の航続距離は350海里(650km)です。[3]

 「FAC 33」の艦載兵装は、艦橋前部のアセルサン社「STOP」25mm遠隔操作式銃架(RWS)、艦橋上部に(乗員用の)12.7mm重機関銃を2門、さらには艦尾に2発の「マルテMk2/N」対艦ミサイルを搭載しています。


 ディアサン造船所は(ギュルハン造船所との合弁事業で)国境警備隊とトルクメニスタン海軍の主要な供給業者となっています。

 これまでに、ディアサン造船所は(「ツヅラ」級をベースにした)「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速攻撃艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級上陸用舟艇1隻、「HSV 41」測量船1隻、「FBF 38(別名FPF 38)人員輸送用双胴船1隻、タグボート2基をトルクメニスタンに納入しています(注:「FBF 38」はディアサン社などのウェブサイトでトルクメニスタンに納入された船の画像があります)。

 その後、2隻を除く全ての艦艇が国境警備隊に就役しましたが、これはトルクメニスタン海軍の発展が忘れ去られているというわけではありません。それどころか、海軍はさらに別の艦を全海上戦力の活動拠点であるトルクメンバシで建造中の「C92」コルベットという形でディアサン社から受け取ることになっています(注:この「C92」級は、2021年8月11日に「Deniz Han」として同国海軍に就役しました)。

 海軍と国境警備隊はこの都市にそれぞれ独自の基地と造船所を置いており、そこには「FAC 33」や大型の「NTPB」をメンテナンスしやすくするために、それらを水面から吊り上げて陸上に置く巨大なクレーンも備えています(注:海軍の基地国境警備隊の基地 の衛星画像はこちらです)。


 国境警備隊で就役しているディアサン造船所のもう一つの艦艇は、最大で40ノット以上の速度で航行可能な高速介入艇である「FIB 15」です。

 この高速艇は全長15メートルではるかに小型で軽量ですが、就役した10隻の武装は「FAC 33」と同じ「STOP」 25mmRWSが装備されています。

 その特性から、この船は海上阻止、沿岸警戒、港湾警備任務に非常に適したものになっています。

 「STOP」25mm RWSは近距離の目標と交戦するには最適な装備ですが、遠距離の敵艦を狙うには全く別の種類の武器が必要となります。FAC 33では、それはイタリアの「マルテ Mk2/N」AShM発射機を2基搭載という形でもたらされています。

 この亜音速シースキミング・ミサイルは、中間地点を通過するミッド・コースでの慣性航法と終末段階でのアクティブ・レーダー誘導を使用して、30kmを超える圏内にいる敵艦艇をターゲットにします。これは「Kh-35」「エグゾゼ」などの他の対艦ミサイルよりもはるかに短い射程ですが、このミサイルはヘリコプター発射型AshMの「マルテ Mk2/S」の派生型であることを留意しておく必要があります。[4]

 トルクメニスタンの「FAC 33」には「Mk2/N」用の単装発射機が2基しか搭載されていませんが、この発射機を二段重ね(スタック・ツイン)式に容易にアップグレードすることが可能です。この方式を用いた場合、甲板面積に影響を与えることなく「FAC 33」のミサイル搭載数が2倍となります。

 もし、このようなアップグレードがトルクメニスタンによってまだ想定されていないのであれば、これは僅かなコストで6隻の船の火力を増強するという、将来的な中間期近代化(MLU)の一環としての魅力的な選択肢になり得るでしょう。


 「FAC 33」は、高度な自動化に貢献している多機能ディスプレイを備えたコントロール・ステーションや遠隔操作式の武装を含む最先端技術を取り入れています。自動化は大幅な人員削減も可能としており、FAC33では乗員数が12名を超えないものと推定されています。


 「FAC 33」のユニークな特徴として、船尾に高速艇用の(スターン・ランプとしても知られている)スリップ・ウェイを設けていることがあります。これは船の活動範囲の拡大に大いに貢献し、不審な船の迅速な停止と検査を容易にしています。

 現代のFACの多くは後部甲板に小型ボートを搭載していますが、これらは原則としてクレーンを使って水面に降ろす必要があります:外洋での高速追尾に従事する際は降下作業が不可能となります。

 「FAC 33」は依然として比較的新しい設計ですが、ディアサン社のラインナップではすでに「FIB 33(33m級高速介入艇)」と呼ばれる新型に更新されています。航続距離と速度が向上した以外では、最も明らかな外観上の違いに船体の上部構造が延長されたことや2基の「マルテ Mk2/N」発射機の位置が船尾に変更されたことがあります。

 艦橋上部に携帯式地対空ミサイル(MANPADS)の2連装発射機が新たに追加されていますが、その他の武装はFAC33と同じです(注:MANPADS発射機は後述の「FAC 43」と同様に「ミストラル」用の「SIMBAD-RC」であると思われます)。

 現在、ディアサン社が売り込んでいるFACは「FIB 33」だけではありません。「FAC 43」は基本的に「FIB 33」の大型版であり、結果としてより豊富な種類のレーダーや武装がその設計に取り入れられています。

 それに対して、「FAC 65」は全く異なる種類の設計案となっています。「FAC 65」は全長が65メートルもありますが、その長さだけでなく、8セルの「VL MICA-M」艦対空ミサイル用VLSを搭載しているという重対空兵装の点から、この船については重装備型ミサイル艇かコルベットと呼ぶことがふさわしいかもしれません。






























 少人数の乗員で運用するコンパクトな設計で驚くほど幅広い機能を提供していることから、「FAC 33」とその後継型の「FIB 33」は21世紀の多目的船という称号を大いに獲得しています。現在ではパキスタンやバングラデシュといった国が艦隊を更新している途中のため、これらのようなトルコの設計案は彼らの魅力的な採用候補となるかもしれません。

 もっと身近なところでは、カスピ海を共有するほかの国々によって深刻なほどに(水上戦力が)劣勢となっている、アゼルバイジャンやカザフスタンが有望な顧客に含まれる可能性があるでしょう。

 ひとつだけ確かなことは、この地域では約30種類の設計案が売り込まれているため、どのような条件だろうと顧客の要件を満たす艦船が常にあるということです。


[1] Turkish FAC-FIC Designs https://defencehub.live/threads/turkish-fac-fic-designs.558/
[2] IDEF 2015: Dearsan set to deliver first fast attack craft for Turkmenistan https://web.archive.org/web/20150717004314/www.janes.com/article/51221/idef-2015-dearsan-set-to-deliver-first-fast-attack-craft-for-turkmenistan
[3] 33m Attack Boat https://web.archive.org/web/20160731140456/http://www.dearsan.com/en/products/33-m-attack-boat.html
[4] Marte Mk2/N https://www.mbda-systems.com/product/marte-mk2-n/

特別協力: Hufden氏 from https://forums.airbase.ru

 ※  この記事は、2021年3月22日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。