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2022年7月17日日曜日

ビッグ・ビジネスの予感:トルコが「F142」級フリゲート(案)を公開した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ヨーロッパにおける海軍関連の各造船所は、それぞれが今後数十年を生き抜くにはあまりに規模が小さくなってしまった市場で受注を勝ち取るために激しい競争に直面していますが、トルコの場合は逆に好景気に沸いています。

 近年におけるトルコの造船所は、さまざまな種類の艦艇や、間違いなくそれとほぼ同じくらい重要な艦載兵装とレーダーシステムを世界中のほとんどの国が実際に手に届く価格で売り出しているため、過去10年間で著しい成功を収めているのです。

 トルコで最も商業的に成功している造船所としては、「ヨンジャ・オヌク」「STM」、そして「ディアサン」が挙げられます。後者の2社は、小型潜水艦から大型フリゲートまでのあらゆる艦艇(案)を売り出しており、そのうちの1つが今回の記事のテーマとなります。

 トルコの海軍分野における技術的な進歩は、同時にこの国の造船所のラインナップがこれまでになく大型で、さらには斬新な艦艇の設計案を含むまで着実に拡大していることも意味しています。

 2021年には、「アレス」造船所の「ULAQ(ウラク)」シリーズ、「セフィネ」造船所「NB57/RD09」「ディアサン」造船所「USV11/15」という3種類の武装無人水上艇(AUSV)が発表されました。[1] [2] [3]

 「ウラク」シリーズは対艦ミサイルや対潜兵装、さらには長射程の対戦車ミサイルで武装可能なUSVです。

 これらのUSVが大量にエーゲ海に導入された場合、近年における海軍戦力上のバランスをトルコの有利に変えたり、これまで有人艦艇によって遂行されてきた任務の多くを引き受けることになるかもしれません。その斬新性から、USVが最も注目を集めることは間違いないでしょう。

 とはいえ、新たな大型艦艇の設計案もトルコの防衛産業における能力の向上と現代化に向けた潮流が継続していることを示しています。

 これらの1つが、2021年後半に「ディアサン」造船所によって初公開された「F142」級大型フリゲートです。[4]

 このフリゲートは同造船所で設計されたものでは最大級の軍艦であり、全長142m、全幅18.5m、そして5,500tの排水量を誇ります。ちなみに、「ディアサン」がそれまでに設計した最大の艦艇は、全長が「わずか」92mで、排気量が1,600tでした。[5]



 「F142」級が有する最も強力な艦載兵装システムは、射程20kmの「VL MICA」艦対空ミサイル(SAM)を発射できる32セルもの垂直発射装置(VLS)です。

 また、魚雷発射管も2基搭載されているため、「F142」自身のソナーや搭載されている対潜(ASW)ヘリコプターで探知した潜水艦に魚雷を発射することが可能となっています。

 近接戦闘用には、「ラインメタル」社「ミレニアム」35mm近接防御火器システム(CIWS)が艦の前部・後部にそれぞれ1基ずつ、12.7mm重機関銃付き遠隔操作式銃架(RWS)2基、チャフ・デコイ発射システム6基が装備されています。

 そして、主砲はイタリアの76mmスーパーラピッド砲か国産の76mm艦載砲(注:前者のコピー)です。[6]

 驚くべきことに、「F142」級は16発もの対艦ミサイル(AShM)も装備しており、顧客の要求に応じて国産の「アトマジャ」AShMか他国製のAShMを選択することが可能と思われます。

 最大で16発が装備されたAShMの能力を制限することが考えられる唯一の要因は目標の探知能力であることから、適切なレーダーシステム等を搭載するためにかなりのスペースが用意されています。「F142」級の場合、これらは長距離で複数の目標をアクティブに探知・追尾するために設計された多数のレーダーと複数のEO/IRセンサーという形でもたらされています。

 また、防御的電子戦(EW)用として、イタリアの「エレトロニカ」社製の大がかりなEWシステムが搭載されています。


 「ディアサン」造船所は2010年から2014年にかけてトルコ海軍向けに16隻の「ツヅラ」級哨戒艇を建造した後、(「ギュルハン造船所」との合弁事業で)2010年代前半以降にトルクメニスタンから国境警備隊(沿岸警備隊)と海軍に装備させる艦艇の発注を数多く受けることに成功しました。

 これまでのところ、トルクメニスタンに引き渡された艦艇の数は29隻に達しており、この中には1隻のコルベット、10隻の哨戒艇や6隻の高速攻撃艇(FAC)が含まれています。

 2021年11月、「ディアサン」はイスラエル、オランダ、中国、シンガポールの造船所を打ち破って、ナイジェリア海軍に2隻の「OPV 76」級76m哨戒艇を納入する契約を獲得したことが明らかとなりました。[7]

 今までに「ディアサン」で実際に建造された最大の軍艦は、92mサイズの「デニズ・ハン(メーカー側呼称:C92級)」コルベットであり、トルクメニスタン海軍に「トルクメン」級コルベットとして導入が決定された2隻のうちの最初の艦です。

 「デニズ・ハン」はカスピ海で最も強力な武装を備えた艦艇の1隻であり、「オート・メラーラ(現レオナルオドS.p.A.)」社製の76mm艦載砲を1門、200kmの射程を誇る「オトマートMk 2 ブロックIV」AShMを8発、20kmの射程を持つ「VL MICA」艦対空ミサイルを16発、「ロケトサン」社製ASWロケット弾発射機を1門、「アセルサン」社製「ギョクデニズ」35mm CIWSを1門、25mm機関砲か12.7mm重機関銃を装着したRWSを4門装備しています。

 また、このコルベットには「F142」級と同じEW装置も装備されています。


 「ツヅラ」級哨戒艇はトルコ海軍での運用でその価値が実証されてきたものの、「F142」級はトルコの将来型フリゲートの入札に参加するには、設計案の登場があまりにも遅すぎました。この入札については、結果として2010年代半ばに「STM」が勝ち取りました。[8]

 結果として採用されたフリゲートは「イスタンブール」級と知られており、「F142」級と同様に16発の対艦ミサイルが搭載されることになっています(注:「イスタンブール」級は「イスティフ(İstif)」級と呼称される場合もありますが、メーカー側の呼称は「I」級フリゲートです)。

 1番艦にしてネームシップでもある「TCG イスタンブール(F-515)」は2021年1月に進水しており、2022年の初頭にはもう3隻の同型艦の建造に向けた入札が開始される予定となっています。[9]

 「ディアサン」が売り出している艦艇のほとんどは輸出向けに特化されたものです。ただし、「F142」級は特定の国からの要求を満たすように設計されたものではないようですが、このフリゲートに関心を持つ可能性のある国には、インドネシア、マレーシア、モロッコ、南米の多くの国が含まれています(注:このコルベットは特定の国からの発注を見越して特別に設計された艦ではないということ)。

 「STM」はすでに2021年12月下旬にコロンビアに「アダ」級コルベットをベースにした「CF3500」級フリゲートを売り込んでおり、トルコが南米の海軍市場に参入する下地を作りつつあるのです。[10]



 トルコの造船所は、この約10年の間で、ほぼ全ての種類の軍用艦艇において見事な数の設計を考案してきました。そして、各種艦艇と一緒に多数の最新の国産兵装システム、レーダーやセンサー類も設計・開発されてきました。

 その結果として、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要性が限りなくゼロに近くなるでしょう。特に「ディアサン」造船所の場合、その恩恵を受ける対象は新たに公開されたUSVシリーズや33m級小型潜水艦だけでなく、「トルクメン」級コルベットや「F142」級フリゲートなど従来型の艦艇も含まれます。

 これらの艦艇や兵装システムが近いうちに、ヨーロッパ、南米、東南アジアといった全く新しい市場に手を伸ばすことについては、考えられないことではないと思われます。

「ディアサン」造船所の33m級小型潜水艦「L SUB 33」

この記事の作成にあたり、 Kemal氏に感謝を申し上げます。

[1] Turkey begins the mass-production of ULAQ armed USV https://navalpost.com/turkey-begins-the-mass-production-of-ulaq/
[2] Turkish Companies Team Up For New Armed USV Projects https://www.navalnews.com/naval-news/2021/07/turkish-companies-team-up-for-new-armed-usv-projects/
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard unveils new combat USV https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-dearsan-shipyard-unveils-new-combat-usv/
[4] Frigate F-142 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/frigate-f142
[5] Corvette C92 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/corvette-c92
[6] Turkey’s New 76mm Naval Gun to Enter Service in 2022 https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-new-76mm-naval-gun-to-enter-service-in-2022/
[7] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[8] I Class Frigate https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/i-class-frigate
[9] Turkey opens bidding for three new frigates https://www.dailysabah.com/business/defense/turkey-gears-up-to-build-3-new-domestic-warships
[10] STM, A Reliable Partner Of The World’s Navies, Presents Its Naval Projects And Tactical Mini UAV Systems At Expodefensa! https://www.stm.com.tr/en/media/news/stm-reliable-partner-worlds-navies-presents-its-naval-projects-and-tactical-mini-uav-systems-expodefensa-en

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。


2022年3月30日水曜日

ロシア・ウクライナ戦争で失われた艦艇一覧


著:ヤクブ・ヤノフスキ, アロハ, ダンケマル(翻訳:Tarao Goo)

  1. 当記事は、2022年2月24日に本ブログのオリジナルである「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(翻訳者は一覧の精査には関与していません)。
  2. この戦争で撃破されたり、鹵獲された両軍艦艇の詳細な一覧を以下で見ることができます。
  3. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
  4. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された艦艇だけを掲載しています。したがって、実際に喪失したものは、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  5. この一覧は、各種情報を精査して確実と判断したものだけを掲載しています。したがって、後で誤りや重複が判明したものは適宜修正されます。
  6. 戦争以前からすでに放棄されていた艦艇や民間船はこのリストには掲載されていません。
  7. 「撃沈」や「大破・着底」の艦艇を当記事では「沈没」として扱います。
  8. 各艦艇の名称に続く数字をクリックすると、撃破や鹵獲された当該艦艇の画像を見ることができます。
  9. 本国版「Oryx」ではこの一覧の更新が常時なされていますが、日本語版については翻訳作業だけでも非常に大変なため、特異なものがない限りは3日か2日に1回程度の更新とさせていただきます。
  10. 当一覧の最終更新日:2023年11月19日(英語版は11月17日


ロシア - 19,  このうち沈没・撃破: 12, 損傷: 7 

ロケット巡洋艦(1, このうち沈没:1)

小型ロケット艦(コルベット)

潜水艦(1, このうち撃破:1)

揚陸艦(5, このうち沈没・撃破:3, 損傷:2)

掃海艦(1,このうち損傷:1)


高速艇 (5, このうち沈没・撃破:3, 損傷:2)


救助曳船(1, このうち沈没:1)



ウクライナ - 27, このうち沈没:8, 自沈:1, 損傷:1, 鹵獲:17

フリゲート(1, このうち自沈:1)

高速艇(11, このうち撃破・沈没:4, 損傷:1, 鹵獲:6)

多目的艦艇(15, このうち沈没:3, 鹵獲:12




おすすめの記事

2017年1月13日金曜日

フォトレポート:シリア・アラブ海軍


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2016年8月5日に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
 
 シリア・アラブ海軍はシリア内戦で重要な役割を果たしていないことから、シリア軍の中では疑いも無く最も知名度の低い軍種と言えるでしょう。それでも、シリア海軍は世界中の他の海軍では既にかなり前に引退している艦船を興味深い組み合わせで運用し続けています。

 今回の記事は、シリア海軍の多種多様な艦船と部隊が参加した2012年の演習風景を中心に取り上げたものです。同演習はシリアが無視できない存在であることを「外の世界」へ見せ付けることを目的としたものであり、シリアの全軍種が参加しました。

 シリア海軍の「ペチャIII」級フリゲートは2隻が運用されています。同フリゲートはシリア海軍の中では最大の戦闘能力を備えた艦ではありますが、対潜用に特化して設計されたものです。その結果として、この艦の潜水艦以外に対する能力は微々たるものしかありません。

 この能力不足はイスラエル海軍が新型潜水艦を導入したことによって悪化しており、すでにこれらの艦は本来の役割を果たすことには役に立ちません。両艦は依然として正式に運用されてはいるものの、共にほとんどの時間をタルトゥース港の埠頭で朽ち果てながら過ごしています。

 2018年4月15日にロシア海軍の演習で「アル・アッサリ(1-508)」と思われる一隻が標的艦として沈められてしまいました。引き続き、「アル・ヒラサ(2-508)」も錆び付いた状態で再び動くことなく2019年11月から2020年1月の間に退役を迎えたようです(後者の時点で衛星画像上で姿を発見できなかったことから、これも標的艦となったか解体されたものと思われれる)。[1]





 下の画像では、(現在では事実上解体された)シリア海軍歩兵の兵士たちが練習艦「アル=アサド」の前でゴムボートで海岸へ移動している状況が見えます。

 この練習艦は、将来の海軍を担う人材の訓練とシリア海軍歩兵のための揚陸艦として行動するという二つの役割を有しています。




 下の画像では、シリア・アラブ空軍の「Ka-28」が海軍歩兵たちの上空を低空飛行しています。

 老朽化した「Ka-25」を置き換えるため、80年代後半に4機の「Ka-28」が空軍に導入されました。少なくともこのうちの2機は、シリア内戦の開始直前にウクライナでオーバーホールを受けたことが確認されています。

 シリアの「Ka-28」については、2015年9月にフメイミムに派遣されたロシア空軍部隊へ道を明けるために新ヘリポートへ配置転換される前まで、全4機がフメイミム/バーセル・アル=アサド国際空港を拠点としていました。



 下の画像は、「SPU-35V」沿岸防衛システムの発射機から発射される「4K44 "リドゥート" 地対艦ミサイルの様子です。

 シリアは現代的な「K-300P "バスチオン-P"」を含む沿岸防衛システムを運用しています。この種のシステムについては過去数十年間も新規導入がありませんでしたが、それでも「K-300P」は現在でもシリア海軍で最も現代的なシステムに入ります。



「オーサ」級ミサイル艇は、依然としてシリア海軍の中核であることを象徴しています。

 シリアは北朝鮮と共に「オーサI」級ミサイル艇を運用する残り僅かの国として知られています。下の画像の船はより先進的な「オーサII級」ですが、「オーサI」級に装備された「P-15」艦対艦ミサイル用の箱形発射機と比較すると、(前者は管状の発射機のため)容易に見分けることができます。

 追記:2024年12月のアサド政権崩壊に乗じて、イスラエル軍がシリア軍基地への攻撃を実施しました。この攻撃でラタキアに配備された「オーサII級」5隻が沈没・大破着底(事実上の撃破)が確認されています。[2]





 下の画像では、シリア海軍歩兵が直立不動の姿勢をとっています。

 当然のことながら、海軍将兵の平均年齢はシリア軍の他の軍種に比べて非常に高いものとなっています。この年齢の格差は、内戦が始まって以来の徴兵がほぼ独占的にシリア陸軍と国防軍(NDF:シリア政権の民兵組織)に集中していることで更に大きくなる可能性が否定できません。


 近年におけるシリア海軍への追加装備として、2006年に6隻のイラン製「TIR-II(IPS-18)」級ミサイル艇が導入されました。

 北朝鮮の設計に基づいたこれらのミサイル艇は、2発の「C-802(またはヌールという名前のイラン製コピー)」対艦ミサイルを装備することが可能で、通常はラタキアの北に位置するミナト・アル=バイダ海軍基地で運用されています(注:1隻はタルトゥースに配備されていることが確認されている)。




[1] http://www.hisutton.com/Russian-Navy-In-Tartus-Syria.html
[2] https://x.com/ZiratNews/status/1866439846736048203

2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です

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