著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
無関心な読者が、「アルメニアの軍隊はソ連から引き継いだソ連時代の兵器や、近年にロシアから得た兵器だけを運用している」と思ってしまうことは無理もありません。
実際には、「T-72」戦車や「BM-21」多連装ロケット砲(MRL)、9K33「オーサ」SAMなどのありふれた兵器は、さらに驚くべき供給源から入手したいくつかの装備と一緒に運用されています。それらには、フィンランドから購入した Sako 「TRG-42」狙撃銃、インドから入手した「Swathi」対砲兵レーダーや中国から得た「WM-80」273mm MRL も含まれています。特に後者のシステムは、ナゴルノ・カラバフの係争地をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの戦闘が再発した際に、大きな役割を果たす可能性のあるアセットとして頻繁にもてはやされました。
長い間、アルメニアが運用する弾道ミサイル以外の兵器の中で最も長射程かつ重量級の兵器システムだった「WM-80」は、アゼルバイジャンの軍事的な近代化がアルメニアの戦力に追いつく2000年代半ばまでは、事実上、アルメニアにアゼルバイジャン軍全体をアウトレンジ攻撃することを可能にさせました。
その数年前の1999年、アルメニアは中国から大口径多連装ロケット砲を導入した世界で最初の国の1つでした。
無関心な読者が、「アルメニアの軍隊はソ連から引き継いだソ連時代の兵器や、近年にロシアから得た兵器だけを運用している」と思ってしまうことは無理もありません。
実際には、「T-72」戦車や「BM-21」多連装ロケット砲(MRL)、9K33「オーサ」SAMなどのありふれた兵器は、さらに驚くべき供給源から入手したいくつかの装備と一緒に運用されています。それらには、フィンランドから購入した Sako 「TRG-42」狙撃銃、インドから入手した「Swathi」対砲兵レーダーや中国から得た「WM-80」273mm MRL も含まれています。特に後者のシステムは、ナゴルノ・カラバフの係争地をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの戦闘が再発した際に、大きな役割を果たす可能性のあるアセットとして頻繁にもてはやされました。
長い間、アルメニアが運用する弾道ミサイル以外の兵器の中で最も長射程かつ重量級の兵器システムだった「WM-80」は、アゼルバイジャンの軍事的な近代化がアルメニアの戦力に追いつく2000年代半ばまでは、事実上、アルメニアにアゼルバイジャン軍全体をアウトレンジ攻撃することを可能にさせました。
その数年前の1999年、アルメニアは中国から大口径多連装ロケット砲を導入した世界で最初の国の1つでした。
現代の中国産誘導式大口径MRLは、現在では世界中の数多くの軍隊の装備に豊富に含まれていますが、(83式として知られている)「WM-80」のオリジナルデザインは、実際には1970年代にさかのぼります。その後、1980年代に射程距離の延長と精度を向上させるためのアップグレードが図られましたが(これが「WM-80」になりました)、このシステムにはいかなる誘導装置も搭載されていないため、長射程では精度が次第に不正確なものとなっていきます。
「WM-80」はロシアの「BM-30」 300mm MRLによく似ていますが、後者は前者よりも弾頭重量が大きく(150kg vs 243kg)、射程距離がやや短く(80km vs 70km)、より多くの弾頭の種類があります。中国のシステムには弾頭の種類が全く欠けており、HE弾頭と、380個のHEAT弾を散布するように設計されたクラスター弾頭だけが使用可能です。これらの欠点のほとんどは、最終的に2010年にヨルダンに採用された誘導型「WM-120」MRLの導入によって改善されました。
「WM-80」が「BM-30」よりも大きな優位性があるのは8発の273mmロケット弾が2つのロケット弾ポッドに収められていることであり、(2つのポッドと油圧クレーンを装備した)専用の再装填トラックで、ロケット弾を斉射した後に素早く発射機へ予備弾を補充することができます。
その一方で、「BM-30」の発射管はロケット弾をそれぞれに再装填しなければならないため、再攻撃が可能になるまでに貴重な時間がかかり、対砲兵射撃や頭上に潜む敵のドローンに脆弱になります。
アルメニアが武器や装備の提供についてほぼ唯一ロシアの気前の良さだけに頼っていた時代に、彼らが中国製MRLの購入を決定したということは、なおさら驚くべきことかもしれません。
ロシア軍のストックから「BM-30」MRLをアルメニアに供給することについて、アゼルバイジャンとの現状に挑む可能性があることから望ましいことではないと異議を唱えることはできましたが、(アルメニアが「WM-80」などで近代化を進めていた)同じ10年の間、ロシアは彼らに「スカッド」弾道ミサイルシステムを提供することに何の不安もありませんでした。
ただし、 1990年代後半までにロシア軍からすでに退役した「スカッド」とは異なり、「BM-30」は当時のアルメニアで不足していた外貨で購入する必要があったというのが説得力があるように思われます(注:アルメニアに十分な外貨があればロシアは「BM-30」を販売していた可能性があるということ)。
MRLに関してより多くの輸出契約を受けることを熱望していた中国は、アルメニアに「WM-80」に関して有利な価格を提示した可能性があります。アルメニア側の資金不足については、導入した「WM-80」の数が少なく、発射機と専用の再装填車を各4台だけしか調達しなかったことからも説明できます。
追加の支援車両は受け取らなかったため、アルメニアは指揮・参謀用車両として単にソ連製のGAZ-66やZiL-131トラックを使用することを選択しました。
そもそも、「WM-80」中隊の必要最低限的な特質がアルメニアをこのシステムに惹きつけた可能性があります。当時としては素晴らしい戦力を大幅に削減されたコストで入手することができたからでしょう。
おそらくは軍事機密の理由で、アルメニアで「WM-80」が初公開されたのは2006年に首都エレバンで実施された独立15周年記念の軍事パレードの際であり、それ以来、このMRLは同国の主要な軍事パレードに引き続き参加しています。
注目すべきものとして、それらには2012年に実際されたナゴルノ・カラバフのステパナケルトにおけるパレードも含まれていることです。[2]
ここでの「WM-80」の登場が、少なくとも2台の発射機が(実際にはアルメニア軍と不可分の存在である)アルツァフの軍隊に就役したと信じるに至った人を生じさせたかもしれませんが、これらは実際にはアルメニアのシステムであり、この軍事パレードのためにステパナケルトに持ち込まれたものにすぎません。
「WM-80」は、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争以前の戦闘で投入されたとは考えられていません。アゼルバイジャンとの砲撃戦や中規模な武力衝突から全面戦争にエスカレートしてしまうのではないかという懸念が、そのような重火器の使用を妨げた可能性があります(注:「WM-80」を使用した場合は当然ながらアゼルバイジャンによる「BM-30」の使用を誘発し、戦闘がより激化する可能性があったため)。
しかし、2020年9月に無人機戦や精密誘導弾で引き起こされたアゼルバイジャン軍の襲来を阻止するためにアルメニア軍が緊急出撃すると、「WM-80」はすぐに紛争地域の近くに移動させられました。
この戦争でアルメニアの軍用装備はアゼルバイジャンの猛攻撃から免れられず、2台の「WM-80(及び/又はその再装填車)」が配備地に向かう途中で徘徊兵器によって破壊されたと考えられています。[3]
(公開された)情報が不足しているにもかかわらず、2020年の戦争におけるこのMRLシステムが戦闘で使用されたかどうかについて、ある情報筋は以下のように主張しています...
''中国製の「WM-80」MLRS - カラバフの戦いにおけるアルメニアの最も失敗した兵器:これらのMLRSを使用した事実は1つしか知られていませんが、ミサイルはよく言われるように野原に落ちて、散布された(クラスター弾の)子弾は機能しませんでした。どうも保存期間(使用期限)が切れたことが影響しているらしいです。'' [4]
それらの主張はどれもが現実に基づいた根拠があるのかが不明であり、確認するための裏付けとなる証拠もないため、疑ってかかる必要があります。
少なくとも2台の発射機(及び/又は再装填車)が破壊されたことが確認されているため、アルメニアの「WM-80」部隊が昨年の戦争で打撃を受けたことは間違いありません。
この戦争での彼らの戦闘効率は不明のままですが、戦時状態におけるこのシステムの運用で得られた経験が、21世紀の戦いのためのさらなる要求を生み出したことはほぼ間違いないでしょう。これには誘導型のMRLも含まれることが十分に考えられ、仮にこれを対砲兵レーダーや「WM-80」のような長距離MRLシステムと組み合わせた際には、敵の砲兵や陣地に壊滅的な打撃を与える可能性があります。
「WM-80」の性能が実際に乏しかったのであれば、(計4台の)喪失したものと残存したものを置き換えるために、追加の「BM-30」が調達されるかもしれません。
戦争遂行努力へのささやかな貢献にもかかわらず、アルメニアの「WM-80」は、それでも大陸でこれまでに使用された数少ない現代的な中国製兵器システムの1つとして、21世紀におけるヨーロッパでの戦いの興味深い一連の出来事を提示しています。
[1] РСЗО WM-80 Армянской Армии/Armenian Army. MLRS WM-80 https://youtu.be/7U5SzHleSAg
[2] Военный парад в Карабахе. Զորահանդես ԼՂՀ 09.05.2012 FULL https://youtu.be/kBpWDNr0_jU?t=4237
[3] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[4] Chinese WM-80 MLRS – Armenia's most failed weapon in the battle for Karabakh https://vpk.name/en/465776_chinese-wm-80-mlrs-armenias-most-failed-weapon-in-the-battle-for-karabakh.html
「WM-80」はロシアの「BM-30」 300mm MRLによく似ていますが、後者は前者よりも弾頭重量が大きく(150kg vs 243kg)、射程距離がやや短く(80km vs 70km)、より多くの弾頭の種類があります。中国のシステムには弾頭の種類が全く欠けており、HE弾頭と、380個のHEAT弾を散布するように設計されたクラスター弾頭だけが使用可能です。これらの欠点のほとんどは、最終的に2010年にヨルダンに採用された誘導型「WM-120」MRLの導入によって改善されました。
「WM-80」が「BM-30」よりも大きな優位性があるのは8発の273mmロケット弾が2つのロケット弾ポッドに収められていることであり、(2つのポッドと油圧クレーンを装備した)専用の再装填トラックで、ロケット弾を斉射した後に素早く発射機へ予備弾を補充することができます。
その一方で、「BM-30」の発射管はロケット弾をそれぞれに再装填しなければならないため、再攻撃が可能になるまでに貴重な時間がかかり、対砲兵射撃や頭上に潜む敵のドローンに脆弱になります。
アルメニアが武器や装備の提供についてほぼ唯一ロシアの気前の良さだけに頼っていた時代に、彼らが中国製MRLの購入を決定したということは、なおさら驚くべきことかもしれません。
ロシア軍のストックから「BM-30」MRLをアルメニアに供給することについて、アゼルバイジャンとの現状に挑む可能性があることから望ましいことではないと異議を唱えることはできましたが、(アルメニアが「WM-80」などで近代化を進めていた)同じ10年の間、ロシアは彼らに「スカッド」弾道ミサイルシステムを提供することに何の不安もありませんでした。
ただし、 1990年代後半までにロシア軍からすでに退役した「スカッド」とは異なり、「BM-30」は当時のアルメニアで不足していた外貨で購入する必要があったというのが説得力があるように思われます(注:アルメニアに十分な外貨があればロシアは「BM-30」を販売していた可能性があるということ)。
MRLに関してより多くの輸出契約を受けることを熱望していた中国は、アルメニアに「WM-80」に関して有利な価格を提示した可能性があります。アルメニア側の資金不足については、導入した「WM-80」の数が少なく、発射機と専用の再装填車を各4台だけしか調達しなかったことからも説明できます。
追加の支援車両は受け取らなかったため、アルメニアは指揮・参謀用車両として単にソ連製のGAZ-66やZiL-131トラックを使用することを選択しました。
そもそも、「WM-80」中隊の必要最低限的な特質がアルメニアをこのシステムに惹きつけた可能性があります。当時としては素晴らしい戦力を大幅に削減されたコストで入手することができたからでしょう。
おそらくは軍事機密の理由で、アルメニアで「WM-80」が初公開されたのは2006年に首都エレバンで実施された独立15周年記念の軍事パレードの際であり、それ以来、このMRLは同国の主要な軍事パレードに引き続き参加しています。
注目すべきものとして、それらには2012年に実際されたナゴルノ・カラバフのステパナケルトにおけるパレードも含まれていることです。[2]
ここでの「WM-80」の登場が、少なくとも2台の発射機が(実際にはアルメニア軍と不可分の存在である)アルツァフの軍隊に就役したと信じるに至った人を生じさせたかもしれませんが、これらは実際にはアルメニアのシステムであり、この軍事パレードのためにステパナケルトに持ち込まれたものにすぎません。
「WM-80」は、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争以前の戦闘で投入されたとは考えられていません。アゼルバイジャンとの砲撃戦や中規模な武力衝突から全面戦争にエスカレートしてしまうのではないかという懸念が、そのような重火器の使用を妨げた可能性があります(注:「WM-80」を使用した場合は当然ながらアゼルバイジャンによる「BM-30」の使用を誘発し、戦闘がより激化する可能性があったため)。
しかし、2020年9月に無人機戦や精密誘導弾で引き起こされたアゼルバイジャン軍の襲来を阻止するためにアルメニア軍が緊急出撃すると、「WM-80」はすぐに紛争地域の近くに移動させられました。
この戦争でアルメニアの軍用装備はアゼルバイジャンの猛攻撃から免れられず、2台の「WM-80(及び/又はその再装填車)」が配備地に向かう途中で徘徊兵器によって破壊されたと考えられています。[3]
(公開された)情報が不足しているにもかかわらず、2020年の戦争におけるこのMRLシステムが戦闘で使用されたかどうかについて、ある情報筋は以下のように主張しています...
''中国製の「WM-80」MLRS - カラバフの戦いにおけるアルメニアの最も失敗した兵器:これらのMLRSを使用した事実は1つしか知られていませんが、ミサイルはよく言われるように野原に落ちて、散布された(クラスター弾の)子弾は機能しませんでした。どうも保存期間(使用期限)が切れたことが影響しているらしいです。'' [4]
それらの主張はどれもが現実に基づいた根拠があるのかが不明であり、確認するための裏付けとなる証拠もないため、疑ってかかる必要があります。
発射態勢にある「WM-80」。背景の岩石に対する迷彩パターンの効果にも要注目。 |
少なくとも2台の発射機(及び/又は再装填車)が破壊されたことが確認されているため、アルメニアの「WM-80」部隊が昨年の戦争で打撃を受けたことは間違いありません。
この戦争での彼らの戦闘効率は不明のままですが、戦時状態におけるこのシステムの運用で得られた経験が、21世紀の戦いのためのさらなる要求を生み出したことはほぼ間違いないでしょう。これには誘導型のMRLも含まれることが十分に考えられ、仮にこれを対砲兵レーダーや「WM-80」のような長距離MRLシステムと組み合わせた際には、敵の砲兵や陣地に壊滅的な打撃を与える可能性があります。
「WM-80」の性能が実際に乏しかったのであれば、(計4台の)喪失したものと残存したものを置き換えるために、追加の「BM-30」が調達されるかもしれません。
戦争遂行努力へのささやかな貢献にもかかわらず、アルメニアの「WM-80」は、それでも大陸でこれまでに使用された数少ない現代的な中国製兵器システムの1つとして、21世紀におけるヨーロッパでの戦いの興味深い一連の出来事を提示しています。
[1] РСЗО WM-80 Армянской Армии/Armenian Army. MLRS WM-80 https://youtu.be/7U5SzHleSAg
[2] Военный парад в Карабахе. Զորահանդես ԼՂՀ 09.05.2012 FULL https://youtu.be/kBpWDNr0_jU?t=4237
[3] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[4] Chinese WM-80 MLRS – Armenia's most failed weapon in the battle for Karabakh https://vpk.name/en/465776_chinese-wm-80-mlrs-armenias-most-failed-weapon-in-the-battle-for-karabakh.html
※ この記事は、2021年5月28日に「Oryx」本国版(英語)に投稿されたものです。当記
事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所がありま
す。