多くのNATO加盟国が重火器の供与を求めるウクライナの呼びかけにきちんと応じた一方で、そうしない国々にとって、ゼレンスキー大統領の窮状は数十年にわたる防衛費の削減が何をもたらしたのかを容赦なく突きつけるものとなりました。
2022年3月に自国のストックから送る重火器が存在しないという厳しい結果に追い込まれたベルギーほど、この言葉が当てはまる国はありません。この驚異的な「偉業」は長年にわたる慢性的な資金不足の結果によるもので、ベルギー陸軍は携帯型地対空ミサイルシステム(MANPADS)を運用するための費用さえも払えなくなり、もはや陸軍全体があらゆる形態の地上配備型防空システムが維持できなくなってしまっていたのです。
その後、ベルギーは軍への追加支出を発表しましたが、この緊急対策によって実際に効果が現れるまでには何年もかかるでしょう。
ベルギーが安全保障を他のNATO加盟国やNATO自体にフリーライドしている姿勢については、2014年に当時のエリオ・ディルポ首相が2024年までに自国のGDPの2%を防衛支出に充てる意向を宣言し、後の2022年にデ・クロー首相が同様の宣言をしたものの、その達成時期が11年遅れの2035年となった事実が最もよく示しているのではないでしょうか(注:先延ばしでフリーライドできる年月を稼ごうという方針かもしれないということ)。[1]
近年にやや増加した後でもベルギーの防衛予算はNATO加盟国の中でも最低のレベルの支出国の1つにとどまっており、その規模は2020年と2021年に数年ぶりにかろうじてGDPの1%を上回った程度でしかありません。[2]
残念ながらロシア・ウクライナ戦争の早期終結は現時点ではあり得ませんが、(仮に実現した場合は)ベルギー政府にとって防衛予算をGDPの2%以下に抑えるための絶好の機会となる可能性があると容易に想像できるでしょう。
2000年代以降のベルギー政府は陸軍の重火器を徐々に整理することに努め、その結果として2008年に最後の「M109」自走榴弾砲が、2014年には残存していた「レオパルト1A5BE 」戦車が退役しました。
ほかの大多数の国とは逆に、ベルギーは適切な買い手が見つかるまでの保管費用の負担を避けるため、退役した装備を防衛企業にほぼスクラップ同然の価格で早急に売却する方針を選びました。この対象には戦車や大砲などの重火器だけでなく「ミラン」対戦車ミサイル(ATGM)までもが含まれており、第三者に売却されてしまいました。
こうした痛ましい結果、ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始した時点におけるベルギーの兵器貯蔵庫はほとんど空になっていたのです。
軍とは対照的に空っぽでなかったのは、ベルギーの防衛企業「OIP・ランド・システムズ」社と「フランダース・テクニカル・サプライ(FTS)」社のデポでした。そのため、2022年4月にベルギー政府は数年前に「FTS」社に売却した「M109A4BE」の一部を買い戻すことを試みました。[3]
「M109A4BE」は、2005年から2007年にかけて改良を受けた「M109A2/A3」 自走榴弾砲の近代化改修型です。2008年に近代化改修事業が成功裏に終了した直後にベルギーは全装軌式AFVの段階的な退役を決定したことに伴って64台の「M109A4BE」もすぐに退役させられたため、この近代化改修は実質的に膨大な税金の無駄遣いに終わってしまいました。[4]
信じがたいことに「M109」は完全にリファビッシュと改修を受けたばかりだったにもかかわらず、ベルギー政府は後で残存しているこの自走砲を(予備部品を含めて)1台15,000ユーロ(約200万円)という破格の値段で「FTS」社に売却したのです。[5]
「M109A4BE」は、2005年から2007年にかけて改良を受けた「M109A2/A3」 自走榴弾砲の近代化改修型です。2008年に近代化改修事業が成功裏に終了した直後にベルギーは全装軌式AFVの段階的な退役を決定したことに伴って64台の「M109A4BE」もすぐに退役させられたため、この近代化改修は実質的に膨大な税金の無駄遣いに終わってしまいました。[4]
信じがたいことに「M109」は完全にリファビッシュと改修を受けたばかりだったにもかかわらず、ベルギー政府は後で残存しているこの自走砲を(予備部品を含めて)1台15,000ユーロ(約200万円)という破格の値段で「FTS」社に売却したのです。[5]
2022年4月にベルギー政府が(2016年にインドネシアに売却されずに残った)28台の「M109」の一部を買い戻そうとした際、「FTS」社は自走砲1台につき、ベルギー政府が数年前に売却した価格の10倍以上の販売価格を提示したとのことです。[5]
ベルギー政府が文字通り深刻な税金の無駄遣いのショックを克服しようと精一杯だった間に、イギリスが間に入ってベルギーに提示された価格と同じ値段で「M109」を買い取ってしまいました。[6]
ウクライナ軍が「M109A4BE」のような砲兵戦力を緊急に要していたことを考慮すると、10倍という法外な対価を支払うのを嫌ったと言う理由で契約を結ばなかったベルギー政府の危機感の欠如は、実に情けないとしか言いようがありません。
2022年5月にベルギー政府が「FTS」社と「M109」の価格について最終交渉を試みたところ、同社から自走砲はすでに別の相手に売却されたと告げられましたが、後にその相手がイギリスであることが判明したのです。[6]
結局、ベルギー政府は「M109」の代わりに「OIPランドシズテムズ」社から「AIFV」や「M113」装甲兵員輸送車など他に必要なAFVを調達し、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相は(取引は決裂したものの)「最も肝心なことは、今やウクライナがベルギーの"M109"を得たことです」と言い張りました。 [7]
この一連の出来事全体については、実質的な支援よりも象徴的な言動や終わりなき予算の議論に関心を向けるベルギー政治の象徴と言い表せるかもしれません。
今でも「OIPランドシステムズ」社と「FTS」社が売り込んでいるAFV:左奥から「ゲパルト」自走対空砲、「M109A4BE」自走榴弾砲、「レオパルト1A5BE」戦車、「SK-105」軽戦車、「AMX-13」軽戦車、「M113」装甲兵員輸送車、「AIFV-B」装甲兵員輸送車 |
アサルトライフル以外に引き渡された武器としては、200発の「M72 "LAW"」 使い捨て対戦車ロケット弾と100万ユーロ(約1.37億円)相当する量の「ミラン」ATGMが含まれています。[8]
ベルギーはウクライナへの軍事援助の総額について(現時点における供与した武器の著しく下落した時価ではなく、小売価格を抜け目なく踏まえることで)約7700万ユーロ(約105億円)だと表明しているものの、実際の援助の規模はヨーロッパの中で最低レベルです。[9]
戦車や重火器の不足は深刻ですが、ベルギー軍の地上部隊は430台のイヴェコ「LMV」歩兵機動車(IMV)と218台の「ディンゴ2」 MRAPを保有していますが、「LMV」は2023年以降にオシュコシュ製「JTLV」に置き換えられ、「ディンゴ2」も同様に今後数年で更新される予定となっています。
そのような流れを考慮すると、これらの装甲車両を1台もウクライナへ供与しないという決定は非常に驚くべきこととしか言いようがありません。仮に供与したならば、少なくともベルギーがウクライナの窮状を救うために積極的な支援をしているという対外イメージを向上させることができたことは間違いないでしょう(注:2023年2月初旬にベルギー政府は80台の「LMV」を供与することを表明しました)。
対照的に、オランダとフランスはウクライナへの軍事援助のために現役装備のストックから兵器類を引き上げることを選択し、フランスは保有する「カエサル」SPGのほぼ4分の1をウクライナに寄贈しているのです。[10]
- 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にベルギーがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備の追跡調査を試みたものです。
- 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
- この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
- 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。
- 100万ユーロ相当 MBDA「ミラン」 [2022年5月 または 6月]
- 少数 RK-2S「バリヤー」 [2022年11月] (ベルギーのCMIグループが調達)
- 4 「MO-120 RT」120mm重迫撃砲 [2022年11月]
無人航空機
- ''少量の'' スカイヒーロー「ロキ MkII」 クアッドコプター [2022年12月以前に供与]
無人潜水艇
- 10 「R7」遠隔操作式無人潜水艇 [供与予定]
- FNハーフスタル「FAL」アサルトライフル [2022年]
- 5,000 FNハーフスタル「FNC」アサルトライフル [2022年3月]
- 少数 FNハーフスタル「F2000」 及び 「F2000 "タクティカル" アサルトライフル [2022年5月]
- 少数 FNハーフスタル「SCAR-L」アサルトライフル [同上]
- FN「MAG」汎用機関銃 [2022年]
- FN「ミニミM1」及び「パラ」軽機関銃 [同上]
- 1,450 M2 重機関銃 [2022年以降に供与]
- 3,700 形式不明のアサルトライフル [予定]
- 120 形式不明の擲弾発射機 [同上]
弾薬
- ''小火器用の弾薬'' [2022年]
- 1,500,000 12.7mm機関銃弾 [同上]
- 3,240万ユーロ(約48.6億円)相当の105mm砲弾 [予定]
その他の装備品類
- 「M92」"ヘルメット・モデル95"[2022年3月 または 4月]
- フラックジャケット(ボディアーマー) [同上]
- 暗視ゴーグル [同上]
- 3,800トンの燃料 (300万リットル以上) [2022年3月 または 4月 と 6月]
- 発電機 [2022年11月以前]
- 寝袋 [同上]
- 2 CBRN防護用の移動実験室 [予定]
[2] Belgium's defence budget should increase to 2% by 2035, says De Croo https://www.brusselstimes.com/225723/nato-belgiums-defence-budget-should-increase-to-2-by-2035-says-de-croo
[3] Belgium to send new weapons to Ukraine, including anti-tank guided missiles https://www.vrt.be/vrtnws/en/2022/04/22/belgium-to-deliver-new-weapons-to-ukraine-including-anti-tank-g/
[4] Mondelinge vraag inzake de M109 Houwitser https://www.karolien-grosemans.be/mondelinge-vraag-inzake-de-m109-houwitser
[5] Belgium will not send howitzers to Ukraine due to unreasonable prices https://www.brusselstimes.com/231363/belgium-will-not-send-howitzers-to-ukraine-due-to-unreasonable-prices
[6] Britain redeemed Belgian M109 ACSs from a private company for Ukraine https://mil.in.ua/en/news/britain-redeemed-belgian-m109-acss-from-a-private-company-for-ukraine/
[7] La Défense n'a pu récupérer ses anciens obusiers, qui semblent bien partis vers l'Ukraine https://www.dhnet.be/actu/belgique/2022/06/01/la-defense-na-pu-recuperer-ses-anciens-obusiers-qui-semblent-bien-partis-vers-lukraine
[8] België levert antitankraketten aan Oekraïne https://www.tijd.be/dossiers/oorlog-in-oekraine/belgie-levert-antitankraketten-aan-oekraine/10382587.html
[9] Belgium made a decision to hand over artillery to Ukraine – the media https://mil.in.ua/en/news/belgium-made-a-decision-to-hand-over-artillery-to-ukraine-the-media/
[10] Arms For Ukraine: French Weapons Deliveries To Kyiv https://www.oryxspioenkop.com/2022/07/arms-for-ukraine-french-weapon.html
[11] ヘッダー画像の出典: The Firearm Blog
※ 当記事は、2022年8月20日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
あります。
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