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2022年7月16日土曜日

土壌流出との戦い:エチオピアにおけるドイツ製ドローン



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年11月のティグレ戦争開戦前の時点でエチオピアが最後に入手した(無人)航空機は、紛争の初期段階で投入されたと頻繁に報じられた「翼竜Ⅱ」 UCAVではありません。

 エチオピアが戦前の最後に入手した無人機は、2020年10月にドイツ政府から贈呈品として受け取った1機の「クァンタム・システムズ」社製「トリニティF9」eVTOL-UAS(電動垂直離着陸型無人機システム)でした。[1]

 このドローンは天然資源の保護の分野で支援するためにエチオピア農業自然資源省に寄贈された3機のうちの第1陣となるはずでしたが、2020年11月のティグレ戦争が勃発した後にドイツが残りの2機の供給を停止したため、結果的にF9は1機しか引き渡されませんでした[2]。

 もちろん、ドイツ政府が2020年10月に84,000ユーロ(約1,100万円)相当の「トリニティF9」3機をエチオピアに寄贈する計画を立てた時点で、これらが最終的に軍事転用されることを全く想定していなかった可能性があります。なぜならば、軍事目的で使用されることを防ぐため、寄贈された1機のF9の航続距離は約5kmから1km未満に制限されていたからです。[2]

 1kmという航続距離は農業部門などの(当初から目的とされた)民生用途には十分なものですが、現在敵の支配下にある地域のマッピングといった軍事作戦での使用では全く役に立ちません。

 「トリニティF9」で(オプションで)利用可能なカメラは空中から地表の画像データと地理情報を収集するための理想的なツールとなっています。これらのオプションは、F9を近年にエチオピアが直面している最大の自然災害の1つである土壌流出のイメージングに最適なシステムにもさせてくれます。

 F9がエチオピアに引き渡された後、ティグレ州から離れた場所にあるソマリ州にて同国の農業機関と共同でドローンを使用する許可がようやく与えられたのは、2021年10月になってからのことでした。[2]

      

 おそらくティグレ戦争の初期段階で使用するのに適したドローンが不足していため、エチオピア空軍は他の政府部門から、当初から民生用途で使用するために導入されたいくつかの「民生用ドローン」を譲り受けて配備したようです。そのうちの3種類:「ZT-3V」「HW-V230」DJI「マヴィック2」は、エチオピア連邦警察(EPF)から譲り受けました。[3]

 興味深いことに、エチオピア国防軍(ENDF)はこのシステムを黙って受け入れて就役させるのではなく、これらを(中国の市販モデルではなく)独自に設計した無人機として報道陣の前で発表しました。[4]



 一撃離脱戦法と待ち伏せ攻撃に優れている歩兵中心の敵部隊に直面したENDFは、当記事の執筆時点(2021年10月)でエチオピア北部の山間部におけるティグレ軍との戦いにおいて重大な困難に遭っています。

 「トリニティF9」の設計・製造者である「クァンタム・システムズ」社は自社製品を主に民間市場向けに販売していますが、オランダ陸軍は現在(F9の後継モデルである)「トリニティF90+」UASをパスファインダー(降下誘導)部隊で使用するためのトライアルを実施しています。

オランダ陸軍で評価試験を受ける「トリニティF90+」UAS

 現在、UAVが決定的な役割を果たしている紛争で戦っているエチオピア空軍が軍事攻勢の前に地形をマッピングするなどの軍事目的のために、「トリニティF9」と同様の機能をもたらす無人プラットフォームに強い関心を持っていることは考えられません。短い航続距離と滞空性能を踏まえると、そのような用途におけるこれらのドローンの有効性が極めて限定されたものになる可能性が高いからです。

[1] Germany donates unmanned aerial vehicles (drones) to Ethiopia https://www.fanabc.com/english/germany-donates-unmanned-aerial-vehicles-drones-to-ethiopia/
[2] https://twitter.com/mupper2/status/1445887012079210496
[3] Made In China: Ethiopia’s Fleet Of Chinese UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/made-in-china-ethiopias-fleet-of.html
[4] Chief Commander of the Ethiopian Air Force, Maj. Gen. Yilma Merda.#Ethiopia #Tigray(Courtesy of EBC) https://youtu.be/leUr8ZECQd0

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年6月22日水曜日

リーダー・オブ・ザ・パックス:リトアニアの「ヴィルカス」歩兵戦闘車


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 西ヨーロッパ諸国の大部分が安全を保障するための具体的な軍事力の必要性にやっと気づいたように見える中、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト諸国は2014年初頭のロシアによるクリミア併合以来、バルト地域へのロシアの侵略に対処する準備をする必要性をすでに悟っています。

 その情勢に応じて、バルト各国は自国軍の規模や態勢を飛躍的に拡大させてきました。当初は軍と予備役に装備させる小火器、対戦車ミサイル(ATGM)と携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の調達が大部分を占めていたものの、後にさらなる投資のおかげで防空・対艦ミサイルシステム、長距離砲や数百台の装甲戦闘車両(AFV)導入の道が開かれました。

 ラトビアがイギリスとオーストリアから中古の「CVR(T)」AFV約200台と「M109」155mm自走砲(SPG)53台を調達し、エストニアはオランダから「CV9035NL」歩兵戦闘車(IFV)44台、ノルウェー「CV9030N」IFV37台、韓国の「K9 "サンダー"」155mm SPG18台を機械化部隊に装備させています。

 その一方で、リトアニアは2015年以降、91台の「ボクサー」IFVと18台の「PzH2000」SPGを導入するためにドイツを頼りにしました。それどころか、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、リトアニア国防省はさらに120台のIFV型とAPC型などを合わせて合計211台の「ボクサー」を導入する意向を明らかにしたのです。[1]

 フランスから「カエサル」6x6型155mmSPGとアメリカから「M270」MLRSシステム、そしてトルコから「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の調達計画は、アメリカからの200台の統合軽戦闘車(「JLTV」)や大量のMANPADSと(「ジャベリン」)ATGM、ノルウェーから高度な「NASAMS-3」SAMを2セットの調達と共に、リトアニアが現実的な戦闘能力とこの地域におけるロシアに干渉に対する強い抑止力を構築する道を着実に歩み続けていることを示しています。[2] [3] [4] 

 リトアニアは人口が約275万人であるにもかかわらず、地上部隊へのタイムリーな投資をした結果、NATOのいくつかの大国を質的にも量的にも凌駕する戦力を持つことになるでしょう。
 
 リトアニア陸軍の中核は同国で「ヴィルカス(狼)」と呼ばれている「ボクサー」IFVです。リトアニアが導入した「ボクサー」IFVは、完全に安定化された「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲と「スパイク-LR」ATGMを2発、そして7.62mm同軸機銃を装備したイスラエル製の「サムソンMkII」無人砲塔が搭載されています。

 「サムソンMkII」は高度な照準システムを備えているため、昼夜を問わず正確な照準が可能です。砲塔の左右に各4発の発煙弾発射機も備えられていますが、これがIFVの位置を一時的に隠すために用いられることは言うまでもないでしょう。 

「スパイク-LR」を放つ「ヴィルカス」

 「ヴィルカス」の最も強力な武装にして、必殺パンチとなり得るのが「スパイク-LR」ATGMです。射程4km(「スパイク-LR2」は5.5km)を誇る「スパイク-LR」の優れた対装甲貫通力は、「ヴィルカス」に敵戦車の有効射程圏外でも敵機甲戦力と交戦して撃破することを可能にさせます。

 「ヴィルカス」が近距離で敵AFVと遭遇した場合、主砲たる「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲 は徹甲弾(AP弾)を装備していれば強力な切り札となり得ます。

 エストニアの「CV9035NL」に搭載された35mm機関砲の威力には劣るものの、30mmAP弾は何度もMBTに有効であることを実証しています。実際、ウクライナ軍の「BTR-3」あるいは「BTR-4」IFVが30mm機関砲の連射でロシア軍の「T-72」戦車の側面装甲を貫通したり、照準装置を破壊して無力化に成功した実例をご存じの方も多いのではないでしょうか。[5] [6] [7] 


 「サムソンMkⅡ」が採用されるまで、さまざまな種類の砲塔が検討されました。その中には、ドイツが「ボクサー」IFV型に選定した「プーマ」IFV用の「RCT30 "ランス"」無人砲塔も含まれています。

 その一方で、オランダはAPC型「ボクサー」の火力向上用として、30mm砲機関砲1門と7.62mm同軸機銃、さらに「スパイク」ATGM2発を搭載した「EOS R400S-Mk2」デュアル式RWSをトライアル中です

 「R400S」と同様に「MkⅡ」は(少なくともドイツのIFV型「ボクサー」の「ランス」と比べると)低いシルエットであることに加えて車体内部に埋め込まれていないため、車内に占める専用のスペースが大幅にカットされています。


 最初の契約で調達された「ボクサー」91台(約3億8560万ユーロ=約546億円)には運転訓練仕様の2台も含まれており、最初の「ヴィルカス」IFVは、2019年7月初旬に「アイアンウルフ」機械化歩兵旅団に属する「アルギルダス大公」機械化歩兵大隊に正式に引き渡されました。[9] [10]

 そして、2022年2月にはリトアニアがドイツから120台の「ボクサー」を追加調達し、翌2023年から2024年にかけて納入される予定であることが発表されました。この第2陣には、「ヴィルカス」IFV30台と1基の12.7mm RWSを装備したAPC型「ボクサー」90台で構成される予定です。[11] 

 これらのAFVは、リトアニアの200台以上にもなる「M113」APCを少なくとも部分的に置き換える可能性があるかもしれません。更新されずに残る「M113」もいつか「ボクサー」あるいは(もしかすると)装軌式APCで置き換えられるのかは、現時点では判然としません。

 しかし、2022年6月に初めて発表された装軌型「ボクサー」は、(コンポーネントなどで)装輪型との高い共通性があることから、リトアニアにとって魅力的な次の選択肢となる可能性があるでしょう。[12]

リトアニア軍で運用中の運転訓練型「ボクサー」

 リトアニアの「ボクサー」APCと「ヴィルカス」IFVに対する相当規模の投資は、同国が国防に極めて真剣であることを示すほんの1例にすぎません。これらのプラットフォームにより、リトアニア陸軍は近い将来に想定される安全保障上の脅威に対処する準備ができているようです。

 「ボクサー」のプラットフォームの高い汎用性は、リトアニアがこのAFVへより依存させるかもしれません。例えば戦闘被害修理モジュールなどの調達は賢明な投資であり、同時に陸軍全体の統一性を高めることになるでしょう。

 仮に本当に「ボクサー」に専念するのであれば、120mm迫撃砲モジュールや、同じプラットフォームをベースにした未来的な外観の「スカイレンジャー30」SPAAGといった全く新しいシステムも揃えることすら可能であることは火を見るより明らかです。

 自身の安全保障態勢の構築に多大な投資を行い、装備の導入計画に真剣に取り組む国であれば、それを制約する上限は事実上存在しないのです。


[1] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[2] La Lituanie va acheter 18 canons Caesar à Nexter https://www.lesechos.fr/industrie-services/air-defense/la-lituanie-va-acheter-18-canons-caesar-a-nexter-1412947
[3] https://www.defensenews.com/global/europe/2022/01/12/lithuania-accelerates-rocket-artillery-buy-amid-russian-military-buildup/
[4] Lithuania plans to buy multiple launch systems from US https://www.delfi.lt/en/politics/lithuania-plans-to-buy-multiple-launch-systems-from-us.d?id=89403651
[5] https://twitter.com/RALee85/status/1505464350164848643
[6] https://twitter.com/Osinttechnical/status/1512061253019185152
[7] https://twitter.com/RALee85/status/1503443368650682369
[8] https://i.postimg.cc/YqHjQ7xL/159267048-4175123882505935-9223333389964861122-n.jpg
[9] First Vilkas Infantry Fighting Vehicles officially handed over to Lithuania Vilkas Infantry Fighting vehicles delivered for training https://kariuomene.lt/en/newsevents/vilkas-infantry-fighting-vehicles-delivered-for-training/17971
[10] https://www.armyrecognition.com/july_2019_global_defense_security_army_news_industry/first_vilkas_infantry_fighting_vehicles_officially_handed_over_to_lithuania.html
[11] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[12] https://twitter.com/JonHawkes275/status/1536646438616178688

 ※  この記事は、2022年6月14日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



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2021年12月17日金曜日

「モハジェル-6」から「翼竜Ⅰ」まで:拡大するエチオピアの無人機戦力(一覧)

この「翼竜Ⅰ」の画像はイメージであり、エチオピアとは無関係です

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 進行中のティグレ戦争の流れを変えるため、エチオピアは世界中の国々からのU(C)AV:無人(戦闘)航空機の入手に重点を置いた投資を行っています。

 長年にわたって世界中の現代の軍事的な発展を無視してきたおかげで、エチオピア空軍は(1機のSu-25TKを除いて)精密誘導爆弾(PGM)の運用能力がある航空機が1機もない状態で紛争に巻き込まれ、結果としてティグレ防衛軍が戦場を自由に歩き回り、政府軍からの鹵獲に成功した大量の重火器の運用を許すことになってしまいました。[1]

 エチオピア国防軍(ENDF)にとって不幸だったのは、ティグレ軍が鹵獲した重火器には誘導式の多連装ロケット砲と弾道ミサイルでさえ含まれており、それらが後でエチオピアの2つの空軍基地のみならずエリトリアの首都を攻撃するのにも使用されたことです。[2] [3]

 ENDFはUCAV導入の突貫計画に着手したと予想されていましたが、2021年8月になってようやく(真の)UCAVを入手した最初の証拠が明るみに出ました。興味深いことに、エチオピアは以前に運用が報じられていた中国製の「翼竜」を調達するのではなく、その代わりにイランから2機の「モハジェル-6」を入手しました。[4]

 現在ではさなざまな種類のUCAVプラットフォームが入手可能であることを踏まえると、「モハジェル-6」(しかも2機だけ)の選択する決定がなされたことは、好奇心をそそります。運用可能な高度が低いために地上からの対空砲火に脆弱であり、FLIR(前方監視型赤外線装置)の品質が低いことや「モハジェル-6」自体の戦闘における実績が皆無に近いという事実から、実戦では乏しい効果しかもたらさない可能性があります。

 エチオピアにおける「モハジェル-6」の働きは今のところ全く成功していないようであり、両機は運用パフォーマンスが乏しいせいか、現在は駐機状態にあります。 [6]
 
 したがって、エチオピアはより効果的なUCAVを探し続けることを余儀なくされており、最終的には中国から「翼竜Ⅰ」を導入し、さらに伝えられるところによれば、トルコからも(現時点では形式不明の)UCAVを入手したとの情報があります。[5](注:11月8日にハラールメダ空軍基地の近くで「バイラクタルTB2」らしきUCAVが飛行しているのが目撃されたという情報が出回っています)[8]

 その数ヶ月前、エチオピアはすでに2発の120mm迫撃砲弾で武装した大型のVTOL型のUCAVを入手し、ティグレ州のマイチュー地区に配備していました。しかし、これらのマルチコプター式UCAVは、「翼竜Ⅰ」のような真のUCAVの能力を少しも備えていません。[7]

 ティグレ戦争でUCAVが極めて重要な役割を果たす可能性があり、それらの入手で示されたエチオピアの取り組みを考慮すると、これらや別のUCAVの導入で終わりとならないかもしれません。


注意
  1. このリストは実際にエチオピアで運用・保有が確認されたUAVだけを掲載しています
  2. UAVの名前をクリックすると、エチオピアでの当該機種の画像を見ることができます


無人偵察機


訓練用無人航空機


農業用無人航空機

[1] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html
[2] From Friend To Foe: Ethiopia’s Chinese AR2 MRLs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/from-friend-to-foe-ethiopias-chinese.html
[3] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html
[4] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[5] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[6] 著者がエチオピアのデジェン航空工学産業 (DAVI)で働く整備員から得た情報
[7] https://twitter.com/wammezz/status/1445034651085639688
[8] https://twitter.com/Gerjon_/status/1458174559748767749?s=20

※  当記事は、2021年10月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと言い回しを変更した箇所があり
  ます。




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2017年7月18日火曜日

あの世からの復活:スーダンの「Bo-105」が再び空を飛ぶ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 スーダンが英国から独立した1956年1月に設立されて以来、 スーダン空軍(SuAF)は激動の歴史を歩んできました。もともとエジプトと英国から装備を得て訓練していたものの、1960年代後半にソ連から航空機とヘリコプターを導入した数年後には中国からの装備の導入が続いたのです。

 SuAFはフランスから航空機の購入も試みましたが、結局はアメリカから「F-5E」「C-130」を導入という形で終わりを迎えました。

 1980年代後半になると、彼らはリビアからの航空機とヘリコプターを供与される形で軍事支援を受け始め、その後すぐにより多くの中国製航空機が引き渡されました。中国は、おそらく過去20年の間にスーダンへ航空機を供給し続けたものと思われます。

 近年におけるSuAFの中核は、ロシアやベラルーシ、そして当然ながら中国の航空機によって構成されているものの、彼らはドイツ・スイス・オランダ・カナダといった国から導入した航空機を運用した経験がある(または今でも運用している)ので、東側の機体だけしか知らないというわけではありません。

 幅広い供給源に及ぶ多くの種類の航空機を運用することは既に物流面と財政面では悪夢となっており、1960年代から1990年代初頭のスーダンにおける政情不安は、スーダンが異なる政治的方針と外交政策を持つ政府を頻繁に切り替えることを意味していました。その結果、SuAFが最近導入した航空機用のスペアパーツを入手することができず、作戦能力が低下をもたらし、最終的には1956年の創設以来、飛行隊のほとんどが駐機された状態をもたらしたのです。

 ここ数十年の間、スーダンはより安定した政治的・経済的状況を享受してきました。その主な要因は大規模な油田の発見と大規模な開発であり、これはSuAFのためにより高性能な航空機と装備を購入することを可能にしたようです。

 また、スーダンは中国やイラン、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く企業の支援を受けて、自国で特定の種類の航空機やヘリコプターのオーバーホールを可能にする施設の設立に成功しました。(より一般的には「サファット・アヴィエーション グループ」の一部である「サファット・アヴィエーション・コンプレックス」と知られる)「サファット・メンテナンスセンター」は2004年に開設され、2006年に航空機のオーバーホール作業が始められました。


 当初、サファットは主にソ連製航空機やヘリコプターのオーバーホールを行うためにもっぱら外国人に依存していたものの、スーダン人の数が増加することで他の外国人の大部分を置き換えることに成功したようです。

 現在のサファットはいくつかの種類の航空機とヘリコプターを独自にオーバーホールすることが可能ですが、大部分の(主要な)プロジェクトでは依然として外国の援助に依存しています。中国製航空機のオーバーホールでは中国人技術者の関与が大きく、ソ連時代の航空機のオーバーホールと整備は主にロシア人とウクライナ人の支援を受け、イランは他のほとんどのプロジェクトで人員と専門的技術を提供しています。

 (以前は「DAVEC(デジェン・アヴィエーション・エンジニアリング・コンプレックス)」として知られていた)「デジェン航空産業」との協定によって、エチオピアはソ連時代のヘリコプターや輸送機、さらにはスーダンとエチオピアの「MiG-23」のオーバーホールでサファットを支援しました。

 それにもかかわらず、SuAFは一部の航空機とヘリコプターをオーバーホールのために海外に送り続けており、サファットがいまだにSuAFの要求への対応ができないことを示しています。

 下の画像はサファットのヘリコプター整備用格納庫の内部を示しており、「Mi-24P(912番機)」 だけでなく背景には4機の「Bo-105」も映しています。



 この4機の「Bo-105」の目撃は、スーダンが長年保管されていたこのヘリの数機を稼動状態に戻すために取り組んでいた最初の兆候でした。同国は1977年に西ドイツから20機の「Bo-105」を発注し、その1年後には全機が引き渡されたと考えられていました。

 これらのヘリコプターの少なくとも12機がスーダンの警察部隊に配備され、残りの8機はある時点でSuAFに配置転換されたようです。警察が運用していた機体は民間用の塗装が施され、SuAFによって運用された「Bo-105」はスーダンの地形に適応した迷彩が塗装されていたので識別は極めて容易でした。


 引き渡された時点の「Bo-105」は新品でしたが、スーダンは80年代初めにさらに深刻な危機に陥ったため、SuAFとスーダン軍全体に損失をもたらしはじめました。社会不安、立て続けに発生する戦争、政情不安は最終的に新たなクーデターをもたらしてオマル・アル=バシール現大統領を権力の座につけ、すぐにスーダンの同盟関係を西側から遠ざけてイランとリビアの方にシフトさせたのです。

 この急激な転換はSuAFが今では西側製航空機のスペアパーツを入手できなくなったことを意味し、「F-5」や「C-130」と他の航空機を飛行禁止にさせる結果に至らせました。もちろん、この対象には、短期間の間に極めてまれにしか飛行していなかったと考えられていた「Bo-105」飛行隊も含まれています。

 残存するこのヘリコプターの大半はSuAF最大の航空基地であるワディ・セイドナに保管され、そこで最終的な生涯を終える可能性が高いと思われていました。



 専門技術やノウハウが向上したおかげで、サファットは(外国からの支援はあるものの)数が増え続ける飛行機やヘリコプターの修理ができるようになり、かつてSuAFで運用されていた(「Bo-105」を含む)二度と飛行しないと思われていた数種類の航空機のオーバーホールも着手しました。
 
 4機の「BO-105」、つまり3機の旧SuAF機と警察が運用する1機は(一般的に「パンハ」として知られている)「IHSRC(イラン・ヘリコプター・サポート・アンド・リニューアル・カンパニー」の支援を受けて2012年にオーバーホールされました。その過程でほかの機体が共食い整備の餌食になったり闇市場を介してスペアパーツを入手した可能性があることは言うまでもありません。

 全4機のヘリコプターに関する作業は、サファットの整備用格納庫の外で駐機している4機の「Bo-105」が衛星画像で発見された2012年後半または2013年初めの時点で完了したと考えられています。

 これらのヘリコプターは2014年の時点でも衛星画像に写り続けており、いまだに試験飛行を行っているのか、単にSuAFへの引渡しを待っていることを示唆している可能性があります(注:2017年現在では駐機されていない)。

 再び運用状態に入った「Bo-105」の1機を下の画像で見ることができます。



 スーダンの「Bo-105」は全機が28発入りのSNIA 50mmロケット弾ポッドと2門の7.62mm機銃を搭載したガンポッドで武装することが可能であり、これは下の画像で見ることができます。

 もちろん、SuAFによって運用されている「Mi-24/35」といった攻撃専用のヘリコプターに比べると、この武装の数は実に少ないものです。こうしたソ連製ヘリコプターはSuAFの主要な攻撃ヘリとしての地位を獲得しており、その耐久性や航続距離とペイロードは彼らをSuAFにとって理想的なプラットフォームにしています。

 それとは反対に「Bo-105」は全く異なるプラットフォームであり、スーダンの厳しい戦場の上で有効活用するための航続距離と装甲が不足しているのは一目瞭然ですが、代わりに武装偵察ヘリコプターとして使用したり、より平和的な任務のために警察へ引き渡すこともできる利点があるのです。


 「Bo-105」がSuAFの能力を大幅に強化する見込みはありませんが、最小限の努力で飛行状態に戻し、結果としてSuAFに少なくとも4機を再び存在させることになりました。  

 おそらくより重要なのは、このヘリに関する作業がスーダンにとっての重要な一歩を示していることであり、将来的に航空機やヘリコプターのオーバーホールをより自立して行うことになる可能性があるということでしょう。

 編訳者追記:復活したスーダンの「Bo105」については3機がSuAF、1機が警察に引き渡されたようですが、2016年10月26日に空軍所属機1機が墜落しパイロットが殉職し乗員2名が負傷する事故を起こしたという報道があって以降、2023年2月28日現時点で残存機がどのような状態にあるのかは判然としてません。

※  当記事は、2016年6月18日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。



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