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2026年6月13日土曜日

商業的成功への道のり:トルコ国産の新型電車「METS」

「E44000」系METS

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 この20年間で、トルコの鉄道輸送は大規模な近代化が進められてきました。トルコ政府は今後数年間にかけて、国内の鉄道網をさらに発展させることを決心しているようです。

 現在、トルコは韓国、アメリカ、イギリスといった国々よりも長い高速鉄道網を有しており、現在整備中あるいは計画段階にある路線が完成すれば、世界第3位の規模を誇る高速鉄道網を持つことになる見込みです。[1] [2]

 この野心はそれだけで終わりません。必要不可欠な鉄道インフラの整備に加え、その路線を走る列車の設計開発も自国で手掛ける予定なのです。つまり、この国は鉄道大国となる道を着実に歩んでいます。

 すでに世界の広範な地域で、トルコ企業は鉄道インフラの建設に積極的に取り組んでいます。2021年、ヤプ・メルケジ社はセネガルにおける「地域高速鉄道(TER)」の第1期工事を完了させました。同事業の契約額は4億ドル(約676億円)にも上ります。TERの完成直後、ヤプ・メルケジ社は、タンザニアと近隣諸国を結ぶ全長368キロメートルの鉄道区間建設に関する19億ドル(約3,200億円)の契約を獲得しました(編訳者注:2022年にはタンザニアの鉄道事業で契約を獲得した)。[3][4]

 トルコ企業が鉄道インフラのほぼ全分野で活躍していることは、アヴィテン社がトルクメニスタンのアシガバートにあるモノレール向けに旅客情報システムを構築する契約を獲得したような小規模なプロジェクトからも裏付けられています。[5] [6]

 これらのプロジェクトに共通する特徴としては、トルコ企業がアフリカ諸国にとって現実的な価格で高品質な鉄道インフラを建設でき、それによってトルコが中国にとっての強力なライバルとして位置づけられている一方、現在のトルコは自国で整備した線路を走行させるための列車を自力供給できていないという点が挙げられます。実際、トゥヴァサシュ(トルコ車両製造株式会社)やユーロテム、トゥロムサシュ(トルコ機関車エンジン工業:現TÜRASAŞ)といった車両製造メーカーはいずれも列車や機関車の組み立てを行ってきたものの、これらの車両は一般的に外国の設計に基づいたものです。

 今後数年のうちに数種類の国産列車が導入されることで、車両面における外国依存は終わりを告げることになるでしょう。その中でも、アフリカ、アジア、さらにはヨーロッパやその他の地域でも商業的な成功を収めることがほぼ確実視されている存在があります:それが時速160kmの走行速度を誇る「Milli Elektrikli Tren(国家電気列車)」です(編訳者注:現「E44000」のこと)。[7]

 トルコが国産電車(EMU)の設計を手掛けている一方で、欧州諸国の大半では、旅客列車の開発と製造がポーランド、スイス、フランス、スペインの企業にアウトソーシングされています。

 国家電気列車(METS)は、欧州及び中央アジア市場における欧州鉄道メーカーの独占体制に挑み、東南アジア、サハラ以南のアフリカ、南米でトルコに全く新しい販路を拓くことになるかもしれません。まもなくトルコ企業が鉄道のほぼ全分野で事業を展開できるようになるという事実は、外国にとってトルコが鉄道事業における極めて魅力的な取引相手となるでしょう。トルコの国際的な影響力の拡大は、この傾向をさらに強めることになると思われます。


 ハイテク鉄道技術の開発・製造に向けたトルコの取組みは、新型EMUだけにとどまりません。今後数年間で、トルコは国産の「E5000電気機関車、通勤列車、ハイブリッド機関車、電気・ディーゼル機関車、そしておそらく最も注目されるであろう国産高速列車の生産を開始する予定です。[8] [9]

 METSの開発・整備を通じて得られたインフラと知見を活用して最高速度225km/hを誇る国産高速列車が登場したならば、トルコは国産高速鉄道の生産を推し進めるでしょう。

 これらのプロジェクトが同時に展開されているおかげで、トルコは(高速)列車、機関車、地下鉄、路面電車、バスなど、あらゆる種類の公共交通機関を自国で整備できる段階に到達しようとしています。

 こうした成果により、そう遠くないうちにトルコでは技術と専門知識を世界中に輸出できる土台が整うことになります。その対象はアジアやアフリカのみならず、南米や欧州に及ぶ可能性があるでしょう。トルコ製の列車がヨーロッパの路線を走るというアイデアについて、一見奇妙に思えるかもしれません。しかし、トルコ産のバスはすでにユーラシア大陸の広範囲にわたって運行されています。それに加えて、チェコ、オーストリア、ハンガリー、セルビアの鉄道事業者がすでに中国製の(旅客)列車を導入していることを踏まえると、トルコ製の列車という構想は決して非現実的なものではないのです。[10] [11] [12] [13]

 中国と同様に、トルコも欧州のメーカーよりも低価格で先端技術を生産することができます。ただし、中国とは異なって、トルコ製の製品には一般的に「中国製」に付きまとうような否定的なイメージがありません。

 トルコの鉄道車両メーカーの競争力の高さは、すでにルーマニアやポーランドにおける複数の契約獲得をもたらしています。その中でも特に注目すべきなのは、ドゥルマズラー社がルーマニアの首都ブカレスト向けに路面電車100両を納入するという1億8000万ユーロ規模(約335億円)の契約を勝ち取った事例でしょう。同社は入札の過程で中国やルーマニアの企業を退けてせり勝ったのです。[14]

 同年、路面電車メーカーであるボザンカヤ社は、ルーマニアのヤシ市に路面電車16両を納入するという3,000万ユーロ(約56億円)の契約を締結しました。この契約も競合していたポーランド企業を制して落札に至りました。ちなみに、同社は2019年の初めにティミショアラ市に路面電車16両の納入に関する3,300万ユーロの契約を獲得しています。また、ドゥルマズラー社は2018年にポーランドのオルシュティン郡と路面電車12両の納入に関する2,380万ユーロ(約44億円)の契約も勝ち取っています。こうした事例は、トルコの鉄道車両メーカーの競争力をはっきりと証明していると言えるのではないでしょうか。[14][15]

 METSのコストは、将来の受注を確保する上での重要な要素となるだけでなく、欧州の鉄道事業者に、いつの日かトルコ製列車への置き換えを働きかける上でも重要なものになると考えれられます。現在のところ、METSは輸入品に比べて80%未満のコストで製造可能であり、量産が本格化すれば、その価格はさらに下落することは間違いないでしょう。METSのプロトタイプの現地調達率は65%であり、量産時には最大80%まで引き上げられる予定です。列車のコンポーネントと技術の80%がトルコ企業から調達されるという事実は、この国の経済を活性化させるほか、数億ドルの資本が国外流出するのを防ぐことにもなります。[16] [17]

トルコの高速鉄道プロジェクトの初期イメージ図

 トゥラサシュは、2025年までにトルコ国鉄(Türkiye Cumhuriyeti Devlet Demiryolları – TCDD)にMETS EMU(電車)を計56編成納入する計画です。2022年には4編成、2023年にさらに15編成の納入が予定されています。トゥラサシュは、国内鉄道車両メーカーの効率性を向上させるため、2020年3月にトゥヴァサシュ、トゥロムサシュ、そしてトゥデムサシュが合併して設立された企業です。[17]

 トゥラサシュによるMETS EMUの製造とトルコ国鉄による導入は、海外からの列車調達に終止符を打つことになうでしょう。これはまさに驚異的な成果と言えます。[18]

 METSの製造と同様に極めて重要なのが、その開発と製造のために整備されたインフラです。これはMETSのみならず、トルコにおける今後のあらゆる列車の開発・製造プロジェクトにも恩恵をもたらすことになるでしょう。このインフラには、車体を製造するための最新鋭の施設と国産の列車統合管理装置(TCMS)が含まれます。

 METSのTCMSはアセルサン社によって設計されました。同社がこれまで多種多様な防衛システムの設計開発で積み重ねてきた経験が、今では公共交通部門に活用されているのです。[18] [19]


 METSは5両編成で最大324名の乗客を収容可能であり、身体の不自由な乗客のために車椅子専用スペースが2か所設けられています。また、この5両編成には、ユニバーサルデザイントイレ(車椅子対応)が1か所、一般トイレも4か所備わっています。

 列車にはファーストクラスとセカンドクラスの区分が設けられており、各車両には小さなテーブル付きのグループ席が配置されています。

 全車両に、天井設置型の乗客用インフォメーションシステムが装備される予定です。ちなみに、運転室には6台の運転席用ディスプレイとスクリーンが設置されています。



 トルコは、タンザニアやセネガルなどの国における鉄道建設において、すでに大きな成果を上げていることは先に申し上げました。今後、この国がこれらの線路を走る列車も製造することになるという事実は、まもなく完全に新しい顧客層を誘引し、トルコ企業が以前よりも大きな市場シェアを獲得することを可能にするでしょう。

 世界的な影響力を高めているトルコは、今まさにこの機会を大いに活用できる絶好の立場にあります。これまで、大部分の国は中国か欧州のいずれかから列車を調達せざるを得なかったわけですが、トルコはまもなく世界の鉄道市場において非常に重要な存在となる可能性があるのです。

 METSは長年にわたる鉄道関連技術への投資の集大成です。しかしながら、トルコの取組みはMETS EMUで終わることはないでしょう。と言うのも、トゥラサシュは近いうちに、鉄道車両や気動車(DMU)といった、輸出向けに特別設計されたより多く種類の車両を既存の製品ラインナップに加える可能性があるからです。

 他国のニーズに適合する列車や設備を設計開発することは、世界各国に向けてあらゆる製品の販売で成功を収めてきたトルコの防衛企業による幅広い取り組みを反映するものになるでしょう。


編訳者による補足:この記事で言及されたMETSは「E44000」と呼称され、2023年5月にアンカラとイスタンブール間の主要路線であるアダパザル~ゲブゼ間での運行が開始された。(2025年時点で)発注された22編成のうち、最後のものは2026年末までに納入されるということだ。[20]

[1] High speed lines in the World https://uic.org/IMG/pdf/20180420_high_speed_lines_in_the_world.pdf
[2] High-speed rail in Turkey: Vision 2023 https://www.globalrailwayreview.com/article/112860/high-speed-rail-turkey/
[3] Rolling Into Modernity: Senegal’s Express Régional https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/rolling-into-modernity-senegals-express.html
[4] Turkish firm lands $1.9B deal to build standard railway in Tanzania https://www.aa.com.tr/en/africa/turkish-firm-lands-19b-deal-to-build-standard-railway-in-tanzania/2459886
[5] Ashgabat’s Quirky Monorail System https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/ashgabats-quirky-monorail-system.html
[6] Ashgabat Olympic Complex - Monorail https://www.aviteng.com/en/monorail.html
[7] NATIONAL ELECTRIC TRAIN SET https://www.turasas.gov.tr/national-electric-train-set
[8] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[9] Karaismailoğlu: National Commuter Train Set Project Started https://en.rayhaber.com/2021/03/karaismailoglu-milli-banliyo-tren-seti-projesi-basladi/
[10] Leo Express to deploy new trains from China https://english.radio.cz/leo-express-deploy-new-trains-china-8121022
[11] Chinese electric multiple units boost regional connectivity across Europe http://www.cseba.eu/news/chinese-electric-multiple-units-boost-regional-connectivity-across-europe/528/
[12] Chinese Bison Arrived In Europe https://www.railvolution.net/news/chinese-bison-arrived-in-europe
[13] Chinese companies start work on $1bn high-speed rail line in Serbia https://www.globalconstructionreview.com/chinese-companies-start-work-on-1bn-high-speed-rail-line-in-serbia/
[14] Turkish tram manufacturers capture Romanian market https://www.railtech.com/rolling-stock/2019/11/19/turkish-tram-manufacturers-capture-romanian-market/
[15] Turkish trams Panorama have appeared in Olsztyn, Poland https://www.railway.supply/en/turkish-trams-panorama-have-appeared-in-olsztyn-poland/
[16] Bakan Varank: Milli elektrikli trenimiz mayıs sonunda raylara indi, bugün itibarıyla da fabrika testlerine başlanıyor https://www.yenisafak.com/ekonomi/sanayi-ve-teknoloji-bakani-mustafa-varanktan-son-dakika-milli-elektrikli-tren-aciklamasi-3547184
[17] Final testing of first Turkish-built EMU begins https://www.railjournal.com/news/final-testing-of-first-turkish-built-emu-begins/
[18] 'Milli Elektrikli Tren' ile ekonomide büyük kazanım https://www.tgrthaber.com.tr/ekonomi/milli-elektrikli-tren-ile-ekonomide-buyuk-kazanim-2693074
[19] Capabilities ASELSAN https://www.aselsan.com.tr/en/capabilities

 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました

2026年4月25日土曜日

現代化への歩み寄り:セネガルの地域高速鉄道(TER)

TERの「コラディア・ポリバレント」:ナンバーから「B83500」系の車両と思われる。

著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月25日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 アフリカの各国では、効率的な公共交通機関の必要性に対する認識がますます高まってきています。2018年にはモロッコ初の高速鉄道が開通したほか、さらに4つのアフリカ諸国がモロッコの後を追う見通しです。

 2021年、セネガルは首都ダカールと新たな国際空港を結ぶことを目的とした通勤鉄道「地域高速鉄道:Train Express Régional(TER)」の運行を開始し、公共交通の効率化で飛躍的な進展を遂げました。TERでは、最高速度160km/hを誇る仏アルストム社製の最新型車両が使用されています。

 TER最大の目的は、国内の経済活動の大部分が集中している首都とセネガル国内の他地域とのアクセスを向上させることにあります。

 TERの工事は2016年後半に開始され、フランスのエクアンス社とタレス社のグループが電化関連及び信号設備を担当し、鉄道自体の建設はエファージュ社とトルコのヤピ・メルケジ社が結成した共同企業体によって行われました。ちなみに、ヤピ・メルケジ社は、ダカールの国際会議センターブレーズ・ジャーニュ国際空港など、セネガルで数多くの建設プロジェクトに携わってきた実績を有しています。[1]

 この鉄道路線は全長55kmで14の駅が配置されており、1日あたりの乗客数の見込みは11万5000人です(ダカール都市圏の人口は約400万人と推定)。TERの第1区間は2021年12月に開通していますが、ブレーズ・ジャーニュ国際空港へと繋がる第2区間の完成は2023年末の予定となっています。このプロジェクトの総費用は推定13億ドル(約1400億円)と見込まれているようです。[2]

 ティエスおよびンブールへの路線延伸工事については、早ければ2024年に着工される予定です(編訳者注:2026年現在で着工は開始されていない)。

人目を引くダカール駅は1914年に建設されたものの、長年にわたり放置されていました。TER開通のおかげで、再びダカール市のターミナル駅としての役割を担っています。

 ディアムニアディオという新興都市は、TERの恩恵を受けている都市の一つです。この都市の整備は、セネガル政府が推進する経済活性化計画(セネガル新興計画)において重要な役割を果たしています。

 ディアムニアディオ経済特区のねらいは、ダカールへの人口集中を緩和しつつ、全長32kmの新高速道路とバス高速輸送システム(BRT)、そしてTERを活用して、ダカールへの迅速なアクセスを提供することにあります。TERの片道料金は3ドルですが、セネガルの人口の半数が貧困ライン以下の生活を送っていることを考えると、多くの人々にとって依然として法外な価格設定と言えるでしょう。


 TERはセネガル初の電化路線であると同時に、同国初の標準軌路線(1435mm)という特徴を持っています。というのも、この国における既存の鉄道網は(当然ながら)軌間1メートルのメーターゲージを採用しているからです(編訳者注:フランス語圏のアフリカではメーターゲージを採用している鉄道が多い)。

 アルストム製の列車が最高時速160kmで走行できる2本のTER路線に加えて、同路線の隣接部には貨物列車用のメーターゲージ路線も敷設されていますが、さらに同路線をもう1本増設するスペースも残されています。このことは、セネガルが貨物輸送用に既存の貨物列車をそのまま活用できることを意味しています。つまり、わざわざ新しい標準軌の車両を購入する必要がないというわけです。

 左側には2本の標準軌路線が、右側には貨物列車用のメーターゲージ路線と2本目の貨物線路用のスペースが見える。

 セネガル向けの「コラディア・ポリバレント」は、アルストム社が設計・製造した電気・ディーゼル両用車両(EDMU)です。[4] この列車は4両編成で、1等車と2等車に分かれており、最大収容人数は約400名となっています。[5]

 EDMUには充実した空調システムが搭載されている点は大いに注目すべき特徴と言えます。
なぜならば、これはサハラ以南のアフリカにおけるあらゆる公共交通機関にとって不可欠な設備でありながら、旧式列車の大半には備わっていないものだったからです。

 また、「コラディア・ポリバレント」は(主に欧州で製造される新世代の列車に一般的に見られる規格の)低床構造 を採用したことで、特に身体の不自由な乗客にとって、車内への乗り降りがより容易なものとなっています。


 TERの開通に先立ち、セネガルは1987年にダカールとティエスを結ぶ通勤鉄道「Petit train de banlieue (PTB) 」の運行を開始しました。PTBは現在も運行されており、2010年代初頭にインドから導入した空調付きディーゼル気動車(DMU)が使用されています(編訳者注:PTBは2016年には廃止されたとのこと)。[6]

 新型の「コラディア・ポリヴァレント」EDMUに比べれば快適性はかなり劣るものの、それでも、これらの気動車(DMU)は今なおセネガルで最も近代的な列車の一つであり続けています。これは、この国が公共交通分野で成し遂げた進歩を明確に示している事例と言えるでしょう。

 ちなみに、セネガルでは首都ダカールにバス高速輸送システム(BRT)を導入する計画も立てられています。これは、首都の混雑した道路でスペースを奪い合い、大気汚染の源となっている小型バスに取って代わるものです。 [7]


 セネガルでは今でもよく見かける機関車牽引列車:PTBが運用しているDMUと同様に、これらの客車もインドから導入されたものだ。

 「地域高速鉄道(TER)」はセネガルをアフリカにおける公共交通の最先端に押し上げ、首都ダカールとその広大な郊外地域は今後数十年にわたる発展に向けて準備を整えています。TERの線路が通る場所には、新たな都市が次々と誕生していくことは、決してあり得ない話ではないでしょう。

 今後の延伸計画により、国内のさらに広範な地域をカバーする見込みのTERは、交通渋滞の緩和や大気汚染の削減を図りながら、セネガルの(経済的)成長を促進する上で極めて重要なアセットとなり得ます。他のアフリカ諸国の大半が同様の成果を望めるようになるのは、数年あるいは数十年先のことではないでしょうか。


 編訳者による補足:TERの第2区間( ダカール~ブレーズ・ディアニュ国際空港)は2025年12月にシステム統合試験が完了し、早ければ2026年前半に運行が開始される予定だ。[8]

[1] Senegal launches first stage of express railway line https://www.aa.com.tr/en/africa/senegal-launches-first-stage-of-express-railway-line/1364720
[2] Senegal's new commuter train makes first journey from capital Dakar https://www.reuters.com/markets/commodities/senegals-new-commuter-train-makes-first-journey-capital-dakar-2021-12-27/
[3] Senegal's new commuter train makes inaugural journey from Dakar https://youtu.be/nILd4I8Ec_0
[4] Alstom celebrates Coradia Polyvalent’s first journey in Senegal with APIX https://www.alstom.com/press-releases-news/2019/1/alstom-celebrates-coradia-polyvalents-first-journey-senegal-apix
[5] Alstom begins shipping Coradia Polyvalent regional trains for Senegal https://www.alstom.com/press-releases-news/2018/10/alstom-begins-shipping-coradia-polyvalent-regional-trains-senegal
[6] In a first, RCF to roll out AC metre gauge DMU for export http://archive.indianexpress.com/news/in-a-first-rcf-to-roll-out-ac-metre-gauge-dmu-for-export/768935/
[7] Senegal wants to introduce electric buses for public transport in the capital by 2025 https://www.africalogisticsmagazine.com/?q=en/content/senegal-wants-introduce-electric-buses-public-transport-capital-2025
※ 以下は編訳に際して参考とした資料である。
[8] TER Phase 2: Dakar–airport line completes system integration tests
https://railmarket.com/news/passenger-rail/44730-ter-phase-2-dakar-airport-line-completes-system-integration-tests?region=eu
[9] DAKAR https://www.urbanrail.net/af/dakar/dakar.htm
[10] 西アフリカ最大規模の経済特区整備計画が進むセネガル https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/aaefae0aaf919060.html
[11] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート 要約版 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375358.pdf
[12] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375366.pdf


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました


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2024年4月7日日曜日

カダフィ大佐の遺産:イタリアから贈られた彼専用の高速列車


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

''エイブラハム・リンカーンは外部や他人の助けを借りずに無から自分自身を創り上げた男だ。彼と私にはある程度の共通点があるように思える。 (ムアンマル・カダフィ)''

 Oryxブログで鉄道を題材にした記事?そう、これはあなたの見間違いではありません。私たちはあなたが何を考えているか知っています:" 戦車や飛行機や船はどこへ行ったのですか?"と。実際のところ、(少なくとも一部の分野の)鉄道は非常に興味深いものです。

 例を挙げると、日本のリニア中央新幹線は時速603kmの世界新記録を持っています。1990年代にクライナ・セルビア人民共和国軍が使用した即席の装甲列車「クライナ急行」は、正真正銘の戦闘要塞のように見えました。

 まだ納得できませんか?それでは、厳密には未だにデンマークが所有しているカダフィ大佐専用のイタリア高速列車はどうでしょうか...興味が湧きましたか?それでは、今回はリビアのVIP用高速列車「IC4」の奇妙な物語に迫ってみましょう。

 この気動車両(DMU)がリビアにたどり着いた経緯は、極めて注目に値します:本質的には、カダフィに賄賂を贈ってリビアの鉄道プロジェクトにイタリア企業を選定させるという、当時のイタリア首相シルヴィオ・ベルルスコーニによる狡猾な策略の産物でした(仮にイタリア企業が選定されたら数十億ユーロの利益を得る可能性があっため)。

 ただし、一つだけ小さな問題がありました:カダフィに贈られた列車は一度もイタリアの所有物になったことがなかったのです。実際のところ、この列車はデンマークの国有鉄道会社であるDanske Statsbaner(DSB)向けに同国がイタリアのアンサルドブレダ社(現在の日立レール・イタリア)に発注した83両の車両の一部でした。

 当初は2003年に運行を開始する予定だったものの、最初の「IC4」は2007年後半から乗客を乗せた運行を開始しましたが、その数か月後、列車にいくつかの問題が発生したため、再び運行が停止に追い込まれてしまいました。この状況はこの先に起こるであろうことを暗示していたのかもしれません。計画の遅延と技術的な問題が積み重なり、アンサルドブレダ社は最終的に当初の契約額の半分である53億デンマーク・クローネ(1,140億円)を返金せざるを得なくなったのです。

 おそらく赤字を生む列車に苛立ったのかもしれません、アンサルドブレダ社はまだ生産ラインにあった「IC4」のうちの1編成を、2009年のカダフィ政権樹立40周年記念としてカダフィに寄贈する前にこっそりと豪華なVIP専用列車に改造したのです。

 ベルルスコーニはクーデター40周年の数日前にリビアを訪問していました―他の西側諸国首脳からは敬遠されていたにもかかわらず、です。彼はカダフィに真新しいピカピカに輝く専用の列車を案内したことに加え、(1911年から1943年まで続いた)イタリアによるリビア植民地化の賠償として35億ユーロの投資を約束しました。[1]


 伝えられるところによれば、デンマークは自分たちの列車がイタリアのどこかで放置されているのではなく、カダフィに寄贈され、現在はトリポリ郊外の廃線跡で埃をかぶっていることを把握するのに2013年までかかったとのことです。[2]

 しかし、この発見の結果がコペンハーゲンを悲嘆に暮れさせることはなかったと思われます。なぜならば、2020年7月までにDSBは2024年以降に全車両を段階的に引退させることを見越して、11両の「IC4」を売り出したからです。

 列車の真価は走る路線で決まるのですから、皮肉はここで止まることはありません。これもアンサルドブレダ社にとっては問題でした:トリポリに路線が存在していないからです。実際には、リビア全土で運行されている鉄道は1本もありません。

 (提案されたトリポリとチュニジアを結ぶ路線が完成するまでに)せめて列車を動かせるようにするため、「カダフィ急行」が往復可能な全長3kmの複線線路が敷設されました。提案された路線が2011年の革命前に完成していたらば、 カダフィがアンサルドブレダ社からさらに多くの列車を調達していたことは大いに考えられます。

 アンサルドブレダ社が低品質の列車を製造してきた実績を考慮すると、リビアはこの計画の失敗で実は危機を逃れたことになります。「IC4」の製造品質には多くの不十分な点があります – デンマークでは故障する傾向が非常に高いほどでした。

 同様の問題は「V250」(オランダ向けに製造された別タイプの高速列車)やアンサルドブレダ社が手掛けた他の鉄道プロジェクトにも及んでいることから、問題が設計にあることを明らかにしています。

 世界中の国家元首が利用する現代のVIP列車と比較すると、「カダフィ急行」はその現代風のデザインと最高時速200kmというスピードで際立っています。

 現在、ほとんどの国家元首は車で移動するには不便な距離を移動する場合は主に航空機やヘリコプターに依存しているため、VIP専用列車という概念は徐々に過去の遺物となりつつあります。日本だけが「IC4」と似たような列車を天皇のために運行していますが、最高速度は僅か130km/hしかありません。

 今でも現役で使用されている個人の専用列車で最も著名なものは間違いなく北朝鮮の金一族のものでしょう。この列車は外見や高速性よりも保護に重点を置いたものです。金王朝の全員が頻繁に鉄道を利用していますが、1976年に発生したヘリコプターの事故で飛行機恐怖症になったとされる金正日総書記(故人)は、遠方への移動ではもっぱら列車に頼っていました。安全上の懸念や旧式化した車両、そして一部の区間では時速40km以下しか出せないという北朝鮮の鉄道のお粗末な現状のおかげで、金専用列車は通常では時速60kmというカタツムリのような速度で運行されています。


 カダフィの「IC4」については、オリジナルのデンマーク製内装の少なくとも一部が彼と側近のためのVIPラウンジのために撤去されました。

 画像下のインテリアについては、カダフィとベルルスコーニの会談のために特別に設置されたものと思われます:ただし、列車がこの状態で普通に運行されていたならば、 ボルトで床に固定されていない調度品の全てが(列車が高速に達した後やブレーキを掛けた際に)車内のあちこちへ転がったでしょう。



「カダフィ急行」の別車両には、ソファが縦に向かい合うように設置されていました(下の画像)。一見すると快適に見えますが、実際には豪華なソファではなく小さな折りたたみ式の座席が使われています。これはデンマーク製ICEが持つインテリア・デザインの特徴でもありました。


 デンマークの「ICE」に欠けていたのは、トリポリ郊外にある3kmの線路の端まで移動する間、重要な戦略について議論するために不可欠な会議室でした(下の画像)。


 上述した特別車両以外の客車の内装はオリジナルのデザインから変更されていない状態であり、リビアの「IC4」の外観の鮮やかな色彩とは対照的なものとなっています。


 アンサルドブレダ社が「IC4」を改造してリビアに出荷した際の無計画さは、元のDSBの運転士の銘板とデンマーク語のステッカーが全てそのまま残されていたという事実からも読み取れます。もしカダフィがこの列車を積極的に利用していたならば、デンマーク語のマークが車内の至る場所に貼られていることを尋ねたかもしれません。

 その一方で、彼はすでにパスポートを読むことに側近を頼っていたため、単に気づくことはなかった可能性もあるでしょう。



 チュニジアとの国境までの鉄路建設を見越して、トリポリ近郊の約30kmの地面は2003年の時点でにすでに整地されていました。しかし、中国铁道建筑总公司による建設がやっと開始されるまでには、さらに6年もの歳月を要することになったのです。

 プロジェクト全体には54か月を要する予定だったものの、2011年の革命によって全ての工事はすぐに中止となり、カダフィが実際にこの列車を使う機会も消えてしまいました。[3]

 それでも、この路線の工事はすでに一部で進められており、特筆すべきものとしては、トリポリ中央駅となる予定だった場所の近くで長さ1km以上の地下トンネルが建設されたことが挙げられます。

 これによってリビアは高速鉄道と地下トンネルの路線の両方を持つ世界唯一の国となりましたが、実際の鉄道輸送は行われていません(注:新幹線は上野駅のホーム及び付近の路線が地下にあるため、厳密にはリビアが世界唯一というわけではありません)。

全長3kmの線路

未完成のまま放置された駅

地下トンネルの一部(現在はほとんど砂で覆われている)

 これまで設計された列車の中で最も美しいと言うには議論の余地がありますが、その流麗なデザインは下の画像で堪能することができます。車体にある文章は次のとおり: قطار الحياة - 「生命の列車」と الجماهيرية الليبية الشعبية الاشتراكية العظمى - 「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国」。



 2013年3月にデンマークのコメディアンがこの列車を訪れた際に「デンマーク国民からの贈り物」としてデンマーク女王(当時)であるマルグレーテ2世のポスターをリビアの当局者に手渡しましたが、これは実質的に列車がリビアに正式に引き渡されたことを意味する出来事と言えるでしょう。

 その後数年間で風雨と破壊行為の両方が列車の外装と内装に大損害をもたらすことになりましたが、線路自体にも被害が及んだほか、鋼鉄製であった線路の大部分が撤去されてしまいました。



 すでにカダフィが専用のジャグジーさえ設けられた自家用「A340」を含む膨大なVIP用航空機を利用することができたことを踏まえると、豪華な列車を適切に利用できないことに少しも苦に思わなかったでしょう。

 最終的に列車の基本的な利用を可能にするのに十分な線路が敷設されていたならば、デンマークが突き止めたものと同じ問題が運行会社を悩ませることになったかもしれません。

ただし、それ以前に1編成の列車がしか与えられていないこと、そしてリビアでこれらの列車を運行した経験が皆無だったという事実だけでも、おそらくそれ自体が問題を引き起こしていたと思われます。

 振り返ってみると、この試練全体は、カダフィにイタリアの列車と将来的に登場する鉄道用の設備を購入させるための巨額な賄賂にすぎませんでした。

 2011年の革命以降、リビアは何度か鉄道プロジェクトの再開を試みてきました。こうした試みはまだどれも成功していませんが、仮に成功した場合でも寄贈されたこの「IC4」がその一部に加わることはないでしょう。現在、この列車はあまりにも常軌を脱した物語ではなく、実用性の考慮が贅沢さや夢物語に取って代わられた過去の時代の象徴として、その役割をうまく果たしています。

 より現実的な性格での新たな投資は、リビアで急速に影響力を強めているトルコからの援助によって成立するかもしれません。

 結果的に、カダフィの列車は一国の願望を乗せて終点に到着したのでしたーーー。


[1] Berlusconi and Gaddafi launch Libya motorway project https://www.france24.com/en/20090831-berlusconi-gaddafi-launch-libya-motorway-project-
[2] DSB: Vi aner intet om Gadaffi-tog https://ekstrabladet.dk/underholdning/filmogtv/tv/article4737291.ece
[3] Contract placed for next stage of Libyan network https://www.railwaygazette.com/news/contract-placed-for-next-stage-of-libyan-network/33725.article

※ この記事は、2021年2月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。