2023年3月1日水曜日

新たな輸出の成功:ナイジェリアがトルコの「OPV 76」哨戒艇を発注した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコ製兵器で国際市場で成功を収めているのは無人機だけではありません。トルコの武器産業は他の分野でも世界全体で高い評価を得ています。

 これらにはブルキナファソとトーゴによって最近調達された「MEMATT」地雷除去車のケースのように、あまり魅力的ではない(それでも非常に重要な)役割のおかげで国際的なアナリストによって全く注目を受けていないシステムも含まれています。[1] [2]

 最近、ナイジェリアがトルコの「ディアサン」造船所から2隻の76m級洋上哨戒艇(OPV):「OPV 76」を発注した事例のように、ほかのトルコ製兵器がより多くの注目を集めつつあります。現代の広い市場における厳しい競争を考慮すると、2隻のOPVの購入は「ディアサン」造船所にとって注目に値する成功と言えるでしょう。

 近年のナイジェリア海軍は、中国やアメリカ、イスラエル、そしてシンガポールといった国々から調達したOPV群から成る相当な規模の艦隊を運用していることで知られています。

 2021年から2030年までの艦隊再編プランの一環として最新型OPVを必要とするにあたり、ナイジェリアは最終的に「ディアサン」の「OPV 76」案を選定する前に、中国、オランダ、イスラエルの造船所が売り込んでいる艦船を検討していたようです。

 2隻のOPVはどちらも(「ギュルハン」造船所との合弁事業として)イスタンブールの「ディアサン」造船所で建造され、37か月以内にナイジェリア海軍に引き渡されるスケジュールとなっています。[3]

 このOPVは主にトルコで設計・開発されたセンサー類や兵装が搭載される予定です。

 さらに、「ディアサン」のCEOは、この取引にはナイジェリアへの技術と専門的知識(ノウハウ)の移転も含まれていることを明らかにしました。[3]

 すでにナイジェリア海軍は小型哨戒艇の設計・建造に熟練していることから、「ディアサン」からの技術移転によって将来的にはより大きな艦艇の建造計画に取りかかる可能性が考えられます。 [4]

 今や「ディアサン」造船所は、トルクメニスタン海軍と国境警備隊の主要なサプライヤーとなっています。同造船所は、今までトルクメニスタンに「デニズ・ハン」級コルベット1隻、「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速ミサイル艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級揚陸艇1隻、「HSV41」測量船1隻、人員輸送用の双胴船1隻、2隻のタグボートを納入してきました。[5]

 海軍の増強はトルクメニスタンをカスピ海で相当に強力な海軍力を持つ国へと一変させましたが、特に重要なのは、この偉業が「ディアサン」造船所の尽力を通じて実現されたということでしょう。[5]

握手を交わすナイジェリア海軍のアワル・ガンボ提督とディアサン造船所のムラット・ゴルディCEO。「OPV 76」の模型に「SH-60 "シーホーク"」が搭載されている点に注目。実際には、このOPVのヘリ甲板はナイジェリア海軍によって数機が運用されている「AH109W」によって仕様される可能性が高いでしょう。

 「OPV 76」は、最低限の軍事力を行使する範囲内でさまざまな任務を遂行するために設計されました。この哨戒艇の全長は78.6mで、4基の「MAN」社製「18VP185」ディーゼルエンジンを搭載しているため、最大28ノット(約51.8km/h)の速さで航行することが可能です。 やや低速で航行した場合の航続距離は3000海里(5500km以上)となります。[6]

 顧客が選択した艦載兵装に左右されますが、この船は概ね40名の乗組員で運用されます。

 艦尾には「NHインダストリーズ」「NH90」ヘリコプターを搭載できるヘリ甲板が備えられていますが、格納庫は設けられていません。

 「ディアサン」によって販売されている標準仕様の「OPV 76」は、艦首に「レオナルド」社製76mmスーパーラピッド砲、上部構造物の後方に同社製「マーリン40」40mm機関砲 、2門の12.7mm重機関銃(HMG)装備型リモートウェポンステーション(RWS)、2門の12.7mmHMG、そして2門の「MBDA」製携帯式対空ミサイル(MANPADS)用2連装発射機、それと共に任務に必要とされるレーダーやセンサー類を備えていますが、ナイジェリアは発註した2隻に別の兵装を選択しました。

 実際、ナイジェリアの「OPV 76」でトルコから調達していない艦載兵装は艦首にある76mm砲であり、同位置には代わりとして「マーリン40」40mm機関砲が搭載されています。後部上部構造の「マーリン40」があるべき位置には「アセルサン」製の「STOP」25mm RWSが装備され、MANPADS発射機も3門の同社製「STAMP」12.7mm RWSに置き換えられています。

 そして、前述の装備に加えて数門の手動式機関銃がナイジェリア向け「OPV 76」の兵装を構成しています。

 これらの装備の変更については、トルコは自国で必要とする防衛装備の国産化をますます進めてイタリアの76mm砲の国産コピーも製造するようになったため、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなったことを意味します。[7]

 このOPVに装備されているほかの「アセルサン」製品には、「MAR-D 3D」3次元捜索レーダー、「アルペル LPI(低被探知性)」航海レーダー、「デニズ・ギョジュ-アフタポット」EO/IRセンサー・システムが含まれていることにも注目すべきでしょう。[8]

標準の兵装一式が装備された「OPV 76」のイメージ図

 「OPV 76」が就役した場合、これらは「P18N(注:056型コルベットの輸出型)」級OPV2隻、「ハミルトン」級OPV2隻、そしてOPVに転用された多数の小型高速攻撃艇を補完するでしょう。

 「OPV 76」と違って「P18N」級と「ハミルトン」級カッターにはヘリコプター用の格納庫がありますが、ナイジェリア海軍は作戦でOPVを展開させる際にヘリコプターを艦載用に割り当てることをめったにしません。

 領海内での作戦のために、ナイジェリア海軍は数隻の「シャルダグMk2」「シーイーグル」高速哨戒艇を運用しています。

 ナイジェリアは一般的に想定し得る海上の脅威(敵艦艇)に関しては全く直面していないため、対艦ミサイルを搭載していたあらゆる艦艇から撤去してしまいました。

NMS「ユニティ(F92)」はナイジェリアが2隻保有する中国製「P18N」級OPVの1隻。 ヘリ甲板への着艦を試みている「A109」ヘリコプターに注目。

 トルコがアフリカにおける拠点を拡大するにつれて、武器取引も比例して増加しつつあります。この国は幅広い種類の現代的で信頼性の高い兵器を手頃な価格で提供できるという独特の立場を徐々に構築してきており、ナイジェリアは今やその恩恵を享受しています。

 トルコにとって、ナイジェリアはすでにサハラ以南におけるアフリカ諸国で最大の貿易相手国であり、トルコは貿易と防衛産業面での協力をさらに促進することを目指しています。[9]

 2021年10月におけるエルドアン大統領のナイジェリア訪問では、両国間でエネルギー、鉱業、そして防衛の分野でいくつかの協定が結ばれました。これには、ナイジェリアが以前から大きな関心を示していた「バイラクタルTB2」UCAVの売却も含まれていたかもしれません。[10][11]

 「OPV 76」に関する取引は、単にトルコ側がナイジェリアへのOPVの売却の手配をしただけではありません。繰り返しますが、これはトルコの造船所が輸出用の艦艇を売り込む際に、もはや外国製の艦載兵装に依存する必要がなくなったことも証明しているのです。

 トルコの防衛産業が、レーダーや垂直発射システム(VLS)といった装備や大砲、対艦ミサイル、対空ミサイルを含むあらゆる種類の兵器類を生産できるようになる日が来るのはそう遠くはないでしょう。

 このペースでいけば、トルコの防衛産業は10~15年以内には必要とする兵器や装備品のほぼ全てを自給自足できるようになるかもしれません。トルコの自給自足へ向けた道のりは、現時点の世界で存在している同じ動きの中では間違いなく最速であり、韓国のペースよりも上回っています。

 現在トルコに兵器類を供給している国々が10年後には代わりにトルコから兵器を導入するかもしれません。それが実現した暁には、数十年に及ぶ防衛産業への投資の成果を世に示すことになるでしょう。


[1] Turkey to Export Unmanned Mine Clearing Equipment to Burkina Faso https://www.thedefensepost.com/2021/07/30/turkey-minesweepers-burkina-faso/
[2] Togo gets Turkish remote-controlled mine clearance vehicles https://defensehere.com/en/HaberDetay/togo-gets-turkish-remote-controlled-mine-clearance-vehicles/1
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard to Build 2 OPVs for the Nigerian Navy https://www.navalnews.com/naval-news/2021/11/turkeys-dearsan-shipyard-to-build-2-opvs-for-the-nigerian-navy/
[4] Hull of Nigeria’s Seaward Defence Boat 3 (SDB III) comes together https://www.africanmilitaryblog.com/2020/05/hull-of-nigerias-seaward-defence-boat-3-sdb-iii-comes-together
[5] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[6] Offshore Patrol Vessel OPV 76 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/offshore-patrol-vessel-opv76
[7] MKEK’nin 2023 Vizyonunda Hedef 76mm’den Sonra 127mm Deniz Topu’nu da Millileştirmek! https://www.defenceturkey.com/tr/icerik/mkek-nin-2023-vizyonunda-hedef-76mm-den-sonra-127mm-deniz-topu-nu-da-millilestirmek-4845
[8] https://twitter.com/BarbarosToprak2/status/1455952042283913220
[9] 'Turkey aims to boost cooperation in defense industry with Nigeria' https://www.aa.com.tr/en/africa/turkey-aims-to-boost-cooperation-in-defense-industry-with-nigeria/2396812
[10] Turkey, Nigeria determined to deepen cooperation: Erdoğan https://www.dailysabah.com/politics/diplomacy/turkey-nigeria-determined-to-deepen-cooperation-erdogan
[11] French media eyes Turkish drones during Erdoğan’s Africa trip https://www.dailysabah.com/business/defense/french-media-eyes-turkish-drones-during-erdogans-africa-trip

  です。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。



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2023年2月23日木曜日

戦力維持で悪戦苦闘:沿ドニエストルの重火器・軍用車両(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれる沿ドニエストル(トランスニストリア)はモルドバとウクライナの間に位置する分断国家であり、1990年にソビエト社会主義共和国として独立を宣言した後の1992年にモルドバから流血を伴った離脱をして以来、世界からの注目を避け続けています。

 沿ドニエストルが領土内の武器保管庫の大部分を掌握した際には大量の高度な特殊車両を受け継ぎましたが、(自走)砲や歩兵戦闘車両(IFV)は僅かな数しか残されていませんでした。

 かつて存在していた限られた量のIFVなどもモルドバとの内戦終結後にロシアに返還されたため、PMRには世界の数カ国でしか使用されていない工兵車両の豊富なストックが残された一方で、大砲やIFVのような装備はほとんど完全に取り上げられた状態となってるのです。

 それ以降、この未承認国家は自国で開発した多数の車両で戦力のギャップを補おうと試み続けています。こうした独自開発の兵器の大部分は、全く新しい用途に適合させるために既存のAFVを改造したものです。 その最も良い例を挙げるならば、ほぼ間違いなく「BTRG-127 "バンブルビー"」装甲兵員輸送車(APC)、自走対空砲型「MT-LB」汎用軽装甲牽引車「トランスヴィー」歩兵機動車(IMV)、そして「プリボール-2」多連装ロケット砲(MRL)でしょう。[1] [2] [3] [4]

 牽引砲や自走砲のストックが不足しているため、沿ドニエストルは旧式の「KS-19」100mm高射砲を通常の火砲として再利用することも余儀なくされています。新しい装備を獲得する選択肢がほとんど無い沿ドニエストルは適切な戦闘力を維持するために悪戦苦闘していることから、今後も好奇心をそそるデザインのAFVを発表していくことは間違いありません。
  1. この一覧は、現在の沿ドニエストル軍で使用されている全種類のAFVをリストアップ化を試みたものです。
  2. この一覧には利用可能な画像・映像などの視覚的エビデンスに基づいて確認されたものだけを掲載しています。
  3. 対戦車ミサイル、携帯式地対空ミサイルシステム、トラックやジープ類はこのリストの対象外です。
  4. 兵器の名前をクリックすると沿ドニエストルで運用中の当該兵器の画像を見ることができます。
  5. モルドバが保有する重火器・軍用車両の一覧はこちらで読むことができます

戦車

装甲戦闘車両

自走式対戦車ミサイルシステム

歩兵戦闘車

装甲兵員輸送車

歩兵機動車

テクニカル・高速攻撃車両

指揮通信車両

工兵・支援車両

牽引砲

多連装ロケット砲
  • ZPU-1 14.5mm対空機関砲
  • ZPU-2 14.5mm対空機関砲
  • ZPU-4 14.5mm対空機関砲
  • ZU-23 23mm対空機関砲 2種類: (2)
  • AZP S-60 57mm対空機関砲

自走対空砲

レーダー

[1] A Forgotten Army: Transnistria’s BTRG-127 ’Bumblebee’ APCs https://www.oryxspioenkop.com/2017/02/a-forgotten-army-transnistrias-btrg-127.html
[2] DIY On The Dniester: Russia’s Transnistrian SPAAG https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/a-poor-mans-anti-aircraft-vehicle.html
[3] Ingenuity In Isolation: Transnistria’s Humvee Copy https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/ingenuity-in-isolation-transnistrias.html
[4] A Forgotten Army: Transnistria Unveils New Type Of Multiple Rocket Launcher https://www.oryxspioenkop.com/2018/09/a-forgotten-army-transnistria-unveils.html

 ※  この記事は、2022年11月25日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



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