著 スタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)
シリア・アラブ空軍(SyAAF)のMi-8/17「ヒップ」飛行隊は、シリア内戦における空中戦力の活用を明らかにした、一般的に樽爆弾と呼ばれる爆弾の投下によるシリア各地の民間人居住地区に対する無差別爆撃の主役として、(おそらく)最もよく知られている。
これまでのところ、即席の簡易爆撃機という役割はシリアのMi-8/17の主要な任務の1つのままであるが、過去6年にわたる過酷な戦いの間にMi-8/17飛行隊が遂行したその他の任務はひどく過小報告されている。
おそらく、ヒップ飛行隊の最も重要な役割は、時には数年に及んで完全に陸路が遮断されたシリア政府の支配地域とシリア各地の包囲されたシリア軍守備隊との間を繋ぐライフラインを象徴したことだろう。
Mi-8/17は輸送機とは対照的に、地上に増援を直接送り込んだり、負傷者を病院に運ぶことができた。
実際、デリゾール空港が戦場には近すぎるとして、増援部隊の輸送や民間人や怪我人を避難させるために、デリゾールの都市は今やシリア軍のMi-8/17飛行隊に完全に依存している。
輸送ヘリコプターや即席の爆撃機としての役割に加えて、シリアのMi-8/17の数機が、依然としてほとんど知られていない任務のためにアップグレードされていた。
これらのヘリコプターのいくつかが新しい形態で運用を続けるのかは不明瞭であり、これらが興味を惹く事柄を象徴すると同時にSyAAFでほとんど語られることのないものだが、この記事の対象となるだろうことは間違いない。
シリアのアップグレードされたMi-17について詳しく説明する前に、1982年にレバノン内戦の主要な時期が終了した直後、1980年代初頭の時点で最初の「特殊用途」のヒップがすでにシリアに到着していたことに言及することには興味深いものがある。
イスラエルが電子戦での優位性を十分に活用していたレバノン上空の空中戦で、SyAAFとシリア・アラブ防空軍(SyAADF)はイスラエル空軍に深刻な損失を被った。
シリアがその時点で運用していた装備では同様の方法(電子戦)で対応できないため、ハーフィズ・アル=アサド大統領はソ連に援助を要求した。
Mi-8電子戦型の試験投入を切望していたソ連は、その後、最大で8機のMi-8PPA、Mi-8MTP / U、Mi-8SMVをシリアに配備し、T4空軍基地を拠点を置いてイスラエルが占領していたゴラン高原の近くに位置するメッゼ空軍基地へ定期的に派遣した。
これらのヘリコプターには、敵の地対空ミサイルシステム(SAM)の誘導レーダーを妨害する任務が与えられており、80年代終わりにソ連へ撤収する前の平時にイスラエル軍のMIM-23「ホーク」のSAMサイトに対抗したかもしれない。
これらはソ連へ戻った後、最終的にヘリコプターのスクラップ置き場に行き着いた。
話題を、SyAAFのMi-8とMi-17の大部分がオリジナルの形態で運用され続けているシリアに戻してみると、これらは後部ドアを取り外して、いわゆる樽爆弾(現在の基準では、実際には樽とはほとんど関係の無いより洗練されたデザインである)を簡単に搭載したり投下することができるようになっている。
SyAAFのMi-8/17のいくつかが改修されたという事実は、十数機のMi-8/17とMi-25が失われるという結果をもたらした、2013年1月11日のタフタナズ空軍基地の陥落直後に初めて示唆された。
タフタナズ基地は、2012年11月25日にマルジュ・スルタンヘリポートの陥落に続いて反政府軍によって制圧された2番目のヘリポートだった。
ここにあるヘリコプターのいくつかを瀬戸際で退避させるための必死の努力をしたにもかかわらず、タフタナズの喪失はSyAAFへの最初の大きな打撃を意味した。
結果として現在運用状態にある機体とほぼ同じくらいの数の多くのMi-8/17を失ったのだ。
ここで鹵獲された機体を注意深く調査すると、Mi-17の胴体の下にEOシステムが追加されたことが判明した。
後のタフタナズからの映像には、取り外された電気光学(EO)システムと関連するコントロールパネルも映されている。
メッゼ空軍基地で2013年に撮影された別の画像は、コックピットの各側面を防護する装甲板について、よく見える最初の姿を私たちにもたらした。
興味深いことに、この乗組員の生存率を増加させることを目的とした比較的簡単な改修は、少数のヘリコプターにしか施されてされていなかった。
これらのアップグレードされたヘリコプターは、6年以上に及ぶ内戦中に散発的にしか目撃されなかったため、おそらく少数のMi-17が内戦の勃発前にこの新しい規格へ改修されたものと考えられる。
この改修型のMi-17と他の非改修型機を識別することは、この例で目撃されたように依然として困難であり続けている。
このMi-17をSyAAFのヘリコプター部隊で使用されている通常型のMi-17の1機と見間違えやすいかもしれないが、見づらい操縦席の装甲板とEOタレットの存在は、それを改修型の例の1つとして識別することに役に立つ。
すでにシリアのMi-17には、胴体の両側にロケット弾ポッド、爆弾、または上の画像のケースと同様に23mm機関砲のUPK-23ガンポッドの搭載を可能にする各3つのハードポイントが標準装備されているが、EOシステムの追加は目標の捕捉および脅威の識別において、このヘリコプターの能力を大幅に高めるだろう。
同様に、操縦席の周辺に増設された装甲板はヘリコプターの乗員の生存率を高めることから、シリアにおける対空兵器の恵まれた環境ではありがたい追加である。
これらの改修は、SyAAFのMi-8/17のほぼすべてに搭載されている固有装備のチャフ/フレア発射機の設計と製造を担当している、ナイラブ空軍基地 / アレッポ国際空港に所在するSyAAFの修理および整備施設である「工廠」によって実施された可能性が高い。
装甲板と下の画像で詳細に見られるEOシステムは、ヘリコプターで同様の改修をしたイランから入手されたものとみられている(注:イランはベル214AやAH-1J「トゥーファンⅡ」にEO/IRセンサーのタレットを搭載した改修をしているので、これはそれを指しているかもしれない)。
他の特殊なMi-17が、戦争で荒廃した国のいたる所へ非常に重要な人物(VIP)を輸送するといった、命取りにはならない比較的安全な任務のために使用されている。
道路を使用してシリアの端から他への移動がその間に不可能になったり(注:戦況などによる遮断)、全国への急速な展開を可能にするには時間がかかりすぎているとして、「虎」ことスハイル・アル・ハッサン少将は、今日では、彼が長距離を迅速に通過できるようにVIP輸送機として配置されたMi-17を利用している。
SyAAFはすでに、VIP輸送のために数機のMi-8P(通常のMi-8/17にみられる円形の窓の代わりに長方形または正方形の窓があるため識別が可能)を運用していたが、シリア内戦の勃発以前に既にこれらを退役させてしまった。
バッシャール・アル=アサド大統領は、彼自身が所有する2機のVIP用ヘリコプターを利用している。
このヘリコプターについては、後日に彼専用の他の輸送機と一緒に別の記事で扱う予定です。
前記のヘリコプターの任務は比較的単純なもの(注:VIP輸送)である点に対して、SyAAFは敵の防空レーダーを妨害するために少なくとも2機の空中電子妨害プラットホーム仕様のMi-17も運用している。それが最初に目撃されたのは2012年7月に実施されたSyAAFの大規模な演習であり、同機には胴体の両側に2基の奇妙な形状のコンテナが装備されていた。
これらのコンテナの正確な用途は不明だったが、現在では(少なくとも1機のSyAAFのMi-17に搭載された)北朝鮮の「TACAN」電子妨害システムの一部であると考えられている(注:いわゆる戦術航法装置ではない)。
伝えられるところによれば、2012年の初頭に実施された一連のテストで「TACAN」電子妨害システムはロシア人が乗り込んだSyAADF(シリア防空軍)のパーンツィリ-S1自走対空システムに対して使用された。
このテストはイスラエル空軍がシリアの軍事施設への襲撃の際に多く使用されている、電子妨害に対処するパーンツィリ-S1の能力に対するシリア側の告発の後に行われた(注:電子妨害に全く対処できていないということ)。
ソ連及びロシア製の軍事用資機材に対する批判への一般的な対応は(不調の原因が)資機材自体の品質ではなく運用者のせいにすることだったが、2012年のテストで「TACAN」電子妨害システムがパーンツィリ-S1へのジャミングをなんとかして成功させた時点でロシア側は深刻な打撃を受けた。
パーンツィリ-S1が猛烈な電子妨害に対応できると考えられていたにもかかわらず、ロシア人乗員の妨害を回避するべく費やした努力は無駄に終わった。
シリアで運用されているヘリコプターの中でおそらく最も興味深い機体は最も謎めいている:たった1機だけがSyAAFに就役したと考えられている。
このMi-8MT(注:ロシアではMi-17と識別される)「2981番機」はたったの一度しか目撃されていない。
それは、シリア軍の参謀総長アリー・アブドゥッラー・アイユーブ大将が、2015年7月にブレイ空軍基地を視察した際のことだ。
このヘリコプターはシリアで運用されている他のMi-8/17では見られていない、新たに施された迷彩パターンのおかげで目立っていた。
胴体の右側にある緑色の四角形は、このヘリコプターの素性とミッション・プロファイルについて最初の大きなヒントを私たちに提供してくれた。
Mi-17「2981番機」について、本当のところはSyAAFの唯一のMi-8MTPR1空中電子妨害プラットフォームを構成する機体であり、2013年に「Mi-8MTとL187AE」としてシリアに引き渡されたものだ。
Mi-8MTPR1には防空レーダー妨害用のL187A Rychag-AV妨害装置が装備されており、販売市場で最も先進的なロシア製の空中電子妨害プラットフォームの1つだ。
しかし、イスラエルに対する将来の空中戦がますます発生しそうになく、敵の防空システムから妨害される可能性という面において現実の脅威が見られなかったシリア内戦では(電子戦システムが)殆ど役に立たなかったため、Mi-8MTPR1はSyAAF飛行隊では無用の産物という立場に事実上格下げされた。
シリア内戦が7年目に入った現在、SyAAFのMi-8/17ヒップ飛行隊は反抗勢力に対する空爆作戦の最前線に残っている。
これらのヘリコプターが即席の簡易爆撃機としての有効性が問われる可能性があるが、ヒップはよく知られているとおり信頼できる馬車馬だということを再度証明した。
運用可能な機体の数は減少し続けているが、Mi-8/17の融通性と多機能性は、これらが最後の最後まで使用され続けて、間違いなくこの内戦よりも長持ちするだろうことを保証する。
※ この翻訳元の記事は、2017年6月8日に投稿されたものですが、詳細不明な部分が解明されたため、2018年10月6日に大幅に加筆訂正されました。
当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
正確な表現などについては、元記事をご一読願います。
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スタイン・ミッツァー、ヨースト・オリーマンズ
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