2022年7月11日月曜日

真の友人とは:リトアニアによるウクライナへの軍事支援(一覧)


 ポーランドから230台以上の「T-72」戦車、アメリカから126門の「M777」榴弾砲、オランダから「ハープーン」対艦ミサイル(ASHM)が供与される一方で、より多くの国が各自の方法で貢献しているにもかかわらず、ウクライナへの職規模な装備の供与が見落とされがちとなっています。[1] 

 そのうちの1国がリトアニアです。同国はウクライナに自国がストックしている軍備を供与することの加え、地元のジャーナリストでテレビキャスターでもあるアンドリウス・タピナス氏によって立ち上げられたクラウドファンディングなどの注目すべきキャンペーンがいくつも展開されています。
 
 タピナス氏の尽力とリトアニア国民の寛大な支援によって、「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を購入のために約600万ユーロ(約8.5億円)を集めることに成功しました(これを受けて、製造元の「バイカル・テクノロジー」社は同UCAVを無償で寄贈することを決めました)。この実績は、2014年からウクライナ軍に(衣服や車両、ドローンといった)非致死性の軍備を提供するリトアニアの慈善組織「Blue/Yellow」のために、すでに同国の市民によって集められた2300万ユーロ(約3.2億円)に加わる偉業です。[2][3]                           
 タピナス氏がTB2調達のために集めた数百万ドルは、大型のVTOL型UAV4機(注:エストニア・「Threod Systems」社の「EOS C VTOL」無人偵察機)や対ドローン銃、TB2用の兵装などウクライナ軍向けの別の広範にわたる物品に費やされることになりました。

 民間と同様に、リトアニア軍もウクライナに対する貴重な支援の源となっています。エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国がほかのNATO加盟国よりも運用している兵器の数が著しく少ないことを考慮すると、彼らによるウクライナ軍の戦闘力を維持させる取り組みは見事なものと言えます。

 2022年4月下旬にはリトアニアから寄贈された軍事援助は1億ユーロ(約142億円)に達し、追加の物資輸送も行われていると報じられています。[4] [5]
 
 リトアニア軍はさまざまな種類の対戦車兵器や弾薬、手榴弾、小銃、車両、通信機器などに加えて、少なくとも20台の「M113」装甲兵員輸送車(APC)、120mm重迫撃砲、多数の「FIM-92 "スティンガー"」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)もウクライナへ引き渡してきました。今後、「M113」APCが追加供与される可能性は高いようです。

 リトアニア陸軍は第二次世界大戦時代の「M101」105mm榴弾砲を予備兵器として最大で54門保有していますが、(「D-30」122mm榴弾砲などの15kmに比べると)僅か11kmという射程距離の短さを考えると(アウトレンジされてしまうために)ウクライナで使用するには適していないと思われます。

タピナス氏がクラウドファンディングで集めた資金で調達した6機のエストニア製「EOS C VTOL」UAVのうちの1機。これらはリトアニアの死の女神にちなんで「Magyla(マギラ)」と命名されました。

  1. 以下の一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の直前と最中にリトアニアがウクライナに供与したか、または供与を約束した軍事装備の追跡調査を試みたものです。
  2. 以下の項目は、兵器類の種類ごとに分類されています(名前の前にある旗は当該装備の原産国を示すものです)。また、一部の武器供与に伴う機密性のため、供与された武器の数はあくまでも最低限の数が判明しているものを表示しています。
  3. このリストは、さらなる軍事支援の表明や判明に伴い更新される予定です。 
  4.  各兵器などの名前をクリックすると、当該兵器類の画像が表示されます。画像が無い場合は供与について公式に言及した情報源が表示されます。

ヘリコプター

  • 2 Mi-8 汎用ヘリコプター [2023年8月以前に供与]

無人戦闘航空機(UCAV)

徘徊兵器

無人偵察機

地対空ミサイルシステム (SAM)発射機 

携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)

対空機関砲

牽引砲

自走迫撃砲

重迫撃砲

装甲戦闘車両 (AFV)

非装甲戦闘車両

レーダー

対ドローン銃

小火器(弾薬と共に供与)※全てが形式不明

弾薬
  • 155mm砲弾(「PzH2000」自走砲用) [2022年12月以降に供与]
  •  4,500,000 小火器用弾薬 [2023年8月]
  • 数千 RPG用弾頭 [予定]

その他の装備品


[1] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[2] Go-Fund Ukraine: Baykar Tech Donates TB2 For Ukraine After Lithuanian Crowdfunder https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/go-fund-ukraine-lithuania-raises-funds.html
[3] Let your money fight https://blue-yellow.lt/en#about-us
[4] JAV inicijuotame pasitarime dalyvavęs A. Anušauskas: esame pasiryžę visokeriopai prisidėti prie ilgalaikio Ukrainos ginkluotųjų pajėgų stiprinimo https://kam.lt/lt/naujienos_874/aktualijos_875
[5] https://twitter.com/a_anusauskas/status/1534218840493768704

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



おすすめの記事

2022年7月5日火曜日

エチオピアにおけるイスラエル産兵器:「サンダー」歩兵機動車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア国防軍(ENDF)が老朽化したソビエト製の兵器とより現代的なロシア製の武器のいくらかを混ぜ合わせたものだけに依存していた時代は、とっくの昔に過ぎ去りました。過去10年間でエチオピアは武器の輸入元を多様化してきており、現在では、中国、ドイツ、ウクライナ、ベラルーシといった国々を含む多数の別の供給源も存在しています。

 間違いなく驚くべきこととしては、このリストにイスラエルやUAEといった国も含まれていることです。実際、これらの国はエチオピアに多くの高度な兵器システムを提供してます。多くのアフリカ諸国にとって、イスラエルは小火器からドローン、さらには艦艇に至るまで何でも供給する人気の高い兵器のサプライヤーであることが証明されています。

 エチオピアは、ハイレ・セラシエⅠ世時代の1950年代にイスラエルと最初に軍事的な関係を構築しました。興味深いことに、エチオピアとイスラエルの軍事協力は、1974年から1991年までエチオピアに存在した共産・社会主義政権の下でも継続されていました。この時代、メンギスツ政権はアラブ諸国とイスラエルの両方と緊密な関係を保っていましたが、後者についてはアラブの同盟国を動揺させさないように、ほぼ秘密にされていました。

 近年におけるエチオピアとイスラエルの強い結びつきは、「メイド・イン・イスラエル」の軍事装備の引き渡しにも現れました。これらの1つが「サンダー」歩兵機動車(IMV)であり、同車はこれまでにエチオピアとカメルーンで運用されています。エチオピアの場合は、自国の武器産業の知識と能力を築き上げるために、国内で車両を組み立てました。

 同様のノックダウン生産はウクライナや中国の間でも行われており、このような動きは、決してこの分野におけるエチオピアの能力を強化するための形だけの努力ではないことを示しています。

       

 2011年から2013年の間に、イスラエルの「ガイア・オートモティブ」社は、エチオピアに80台のサンダーIMVを納入する契約を獲得しました。[1]

 最初の5台はイスラエルで製造され、残りの75台を組み立てるための資材だけでなく、それに必要な全ての工場設備もエチオピアへ出荷されました。ガイア社はエチオピアでさらに5台の「サンダー」IMVを組み立て、その後でエチオピアの人々が自力で残りの70台を完成させました。

 このようなプロジェクトでエチオピア側が得た貴重な経験は、将来にこの国が国産の装甲車両を作り上げようと試みる際に役立つはずです。



 「サンダー」IMVは、民生品であるフォード社製のピックアップトラックのシャーシをベースにした軍用車両です。

 ピックアップトラックから「サンダー」にするためには、まず、このトラックの上部構造(つまり運転室)が完全に剥ぎ取られ、シャーシとエンジンだけを残した状態にします。その後、装甲ボデーを何も載せられていないシャーシの所定の位置に載せて溶接してから、この新たに組み立てられた車両に追加の装備が取り付けられるというわけです。

 最後の仕上げとして、「サンダー」が起伏の多い地形を走破できるようにするためにオリジナルのタイヤを軍用グレードのものに交換することににも注目です。




 ENDFは、ドーザーブレードを装着した派生型を含めて最低でも4種類の「サンダー」IMVを運用しているようです。この派生型は従来型の軍事作戦にはほとんど役に立たないように見えますが、装備されたドーザーブレードは、抗議活動でデモ隊が設置したバリケードを撤去するのに最適です。

 抗議デモはエチオピアの現代社会で頻繁に発生しており、2014年から2016年にかけての反政府デモはその中でも間違いなく最も重要な出来事であり、2018年の政権交代につながりました。

 憲兵隊と連邦警察も独自の派生型を運用していますが、そちらには小型のサーチライトが装備されているように見えます。それらに加えて、エチオピア陸軍では、救急車型と「DShK」12.7mm 重機関銃(HMG)を装備した派生型も運用しています(後者は固定武装を装備した唯一の派生型です)。

 「サンダー」の各型には合計で7基の銃眼(両側面に3基、背面のドアに1基)が装備されているので、(敵襲を払いのけるために)乗員はそこから自分が持つ武器を撃つことができます。




 「サンダー」IMVは、現在のENDFで使用されている唯一のイスラエル産の装備ではありません。(少なくとも名前は)エリートである共和国防衛隊に装備させるため、エチオピアはイスラエルから少数のIWI製TAR-21「タボール」アサルトライフルも導入しました。

 おそらくさらに重要なのは、エチオピア空軍が少なくとも2種類のイスラエル製無人航空機(UAV)を運用していることでしょう。これには「エアロスター」UAVと「ワンダーB ミニ」 UASが含まれており、後者はエチオピア初のUAV連隊を編成するために2011年に調達されました。[2]




 ほとんどがソ連、ロシアや中国製で占められているエチオピアの兵器庫の背後では、新たな外来の装備がそのギャップを埋めています。イスラエル、北朝鮮やドイツから供給されたものであろうと、そのような装備は例によって目立たないように引き渡されていたため、アナリストや一般の人々から全く注目されていません。

 イランによる「モハジェル-6」UCAVの販売もあって、このアフリカの一角における武器市場は成長を続けているようですが、その需要の増加に応じるためのサプライヤーも増えています。

 ティグレ州での紛争が猛威を降り続けているため、(もし未だに投入されていない場合は)この外来の装備も間違いなくそこで使用されることになるでしょう。



[1] The Establishment of an APC Production Line in Ethiopia http://gaia-auto.com/en/the-establishment-of-an-apc-production-line-in-ethiopia/
[2] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html

 のです。



おすすめの記事

2022年7月1日金曜日

再び前線へ:エチオピアにおける「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 エチオピア軍は、(この国で輸出されていなければ)輸出市場では全く成功していない多数のロシア製兵器を運用しており、これらの1つであるSu-25TK「Tankovy Buster」については、すでに当ブログの記事で紹介しています

 そして、もう1つの兵器は「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲(SPG)であり、約12台がエチオピア国防軍(ENDF)で運用されています。エチオピア北部のティグレ州における武力衝突の勃発を受けて、今やこの自走榴弾砲もティグレ防衛軍(TDF)に対抗するために展開した多くの兵器の間にいます。

 エチオピアが「2S19 "ムスタ-S"」最初の輸出先となったのは1999年のことであり、彼らは少なくとも12台を入手しました。「Su-25TK」と同様に、エチオピアの「ムスタ-S」は、1998年5月から2000年6月まで猛威を振るったエリトリア・エチオピア戦争の際に戦時緊急調達として導入されたものです。エチオピアへの納入を早めるために、「2S19」はロシア軍のストックから直接調達されました(注:新規製造品ではないということ)。

 このほぼ同時期に、エリトリアも最初の自走砲を導入しました。エチオピアに続くことを追い求める中で、エリトリアは当時で入手可能な最も高度な自走砲を購入するのではなく、ブルガリアから中古の「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲の購入で落ち着かせる必要がありました。[1]

 これらは最大射程距離である15kmまでの目標だけを攻撃することが可能ですが、「2S19」の25kmと比較した場合は不十分な距離でした。そうは言っても、「2S19」も「Su-25TK」も最終的にはエチオピアが期待していた軍事的な突破口をもたらすことがなかったことが今では明らかとなっています。

 エチオピアに納入された当時、「2S19」はアフリカ大陸で使用されている最も現代的な自走砲であり、就役後は以前にENDFで使用されていた北朝鮮製の自走砲よりも大幅な戦力向上をもたらしました。これらは「D-30」122mm榴弾砲を(APCをベースとした)装軌式の車体に搭載したものですが、機動性と弾薬の収納量が増加したことを除くと、牽引式の「D-30」榴弾砲から能力が少しも改善されていませんでした。

エリトリア・エチオピア戦争でエチオピア軍で使用されている北朝鮮製「M-1977」122mm自走榴弾砲。これらの自走砲は後に退役してスクラップとなりました。

「ATS-59」砲兵トラクターの車体に「M-46」130mmを搭載したもの。運用している北朝鮮の自走砲を補完するためにこのようなDIY兵器がいくつか生産され、エリトリア軍に対して急いで使用されました。

 北朝鮮の自走砲や「BM-21 "グラート"」122mm MRLと共にエリトリア兵の集結地点を叩くなどして激しい戦闘を展開したエリトリア・エチオピア戦争後、「2S19」については、2020年11月にティグレ人がアディスアベバの中央政府に対して反旗を翻した際に再び戦闘に加わった様子が見られました。

 ティグレ州の各地にある基地を占領したティグレ防衛軍は、大口径のMRL誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムさえも含む重火器で自らを素早く武装させました。

 これを受けて、中央政府はこの反乱を鎮圧するためにENDFを投入しました。これには「2S19」も含まれており、輸送トラックに搭載されて前線を移動する姿が何度か目撃されています。



 航空機の整備やオーバーホールだけでなく、パイロットの訓練もほぼ完全に自給自足しているエチオピア空軍とは異なり、陸軍は(「2S19」について)未だにある程度はロシア人のインストラクターに依存しているようです。エチオピアにおける彼らの存在が、エチオピア人乗員の訓練または装備のメンテナンス、あるいはその両方に関係しているのかは不明です(おそらく後者の可能性があると思われます)。

 ロシアの軍事インストラクターはアフリカの至る場所で活動しており、彼らがカメラに向かってポーズをとるのが好きなことが、アフリカの軍隊で使用されているロシア製装備の画像がネット上に流出する原因であることは珍しくありません。



 1990年代後半にロシアから少なくとも12台の「2S19 "ムスタ-S"」を調達したことが、エチオピア軍による最後の自走砲の導入として知られています。

 エチオピアの砲兵装備は、より多くの「2S19」に投資するのではなく中国から多数の兵器システムを導入することを通じて、これまでで最大となる戦力の押し上げを経験しました。現在までのところ、これらには「AH-1」155mm牽引式榴弾砲、「AR2」300mm多連装ロケット砲(MRL)「A200」300mm誘導ロケット弾発射システム、さらには「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)も含まれています。

         

 砲兵戦力をさらに向上させるため、エチオピアは国内の兵器産業に対してすでに運用しているいくつかのシステムの機能改善を求め、「D-30」122mm榴弾砲をトラックに搭載した、安価ながらも機動性の高い自走榴弾砲を開発しました(下の画像)。

 また、老朽化した「グラード」122mm MRLも、発射機を新しいトラックに搭載することによって新たな命が吹き込まれました(下の画像の左側)。


 さらに別のプロジェクトでは、「ビショフツ・オートモティブ・インダストリー」が一部の「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)を迫撃砲牽引車(注:自走迫撃砲である可能性もあります)に改修するというものもありました(下の画像)。

 これらのプロジェクトのどれもが試作の域を超えて進行したのかどうかは不明であり、それぞれが僅かなサンプルの生産だけでストップしている可能性は十分にあります。



 2S19は世界のこの地域では異色の軍用装備の一部であり、これからもそうであり続けます。

 エチオピアが宿敵のエリトリアよりも優位に立つことを可能にさせる現代的な装備を必死に探していた時期に導入された「ムスタ-S」は、別の敵との別の戦いに参加するために十分な期間の現役を務めてきました。

 20年後のティグレ戦争で、エチオピアは自身が当時と驚くほど似たような状況に直面していることに気づきました。ただし、今回は紛争で必要とする装備を求める相手がロシアではなくイランとなり、そこから「モハジェル-6」UCAVを入手しました

 しかし、この調達が戦争の新しい装備に対する渇望を満たすかどうかはまだ不明であり、「ムスタ-S」も、自身がすぐに(新しく導入された)さまざまな外国産の兵器と一緒に並ぶことに気付くかもしれません(注:この戦争で新装備がどんどん追加調達される可能性があるということ)。



[1] Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は2021年9月20日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので
 す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
 ます。