2023年12月23日土曜日

中央アジアの戦力:タジキスタンの軍用車両・重火器(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 タジキスタン国軍は、1991年にソ連軍から引き継いだり、中国やロシアだけでなくアメリカから購入または贈呈された多種多様な装甲戦闘車両(AFV)を運用しています。また、数種類のAFVの戦闘能力を向上させるために、多くの独自プロジェクトも実施されてきました。

 中央アジアに位置するタジキスタンは、北にキルギス、東に中国、南にアフガニスタン、西にウズベキスタンと国境を接しています。

 タジキスタンは1992年から1997年にかけて国を荒廃させた内戦に巻き込まれたほか、キルギスとは不明瞭な境界線を巡って国境で何度も小規模な武力衝突をしてきました。こうした小競り合いや2021年夏のタリバンによるアフガニスタン制圧に刺激されたタジキスタンは、自国軍により近代的な兵器類の再装備を開始したのです。

 その結果として、今までに(タジキスタンにも軍事的プレゼンスを維持している)ロシアからか「TOS-1A」サーモバリック弾用多連装ロケット砲を、中国からは多数のAFVを導入するに至っています。さらに、この2カ国とアメリカはタジキスタンに装備類の寄贈を頻繁に行っています。

 タジキスタンは「TOS-1A」や「BM-27」MRLの存在を通じて火力面で優位に立っていたものの、その砲兵戦力の優位性は2022年9月に発生した国境における武力衝突で、キルギスが「バイラクタルTB2」UCAVを投入したことによって本質的に損なわれてしまいました。[1]

 これに負けじとばかりに、タジキスタンも敵と同様に(武装した)UAVを自国の軍事力に組み込むため試みを図っています。

 同国は2022年にイランの「アバビル-2」無人偵察機と「アバビル-2T」徘徊兵器の生産ラインを立ち上げた後、今やUCAVの導入を視野に入れているようであり、現時点では(キルギスも運用している)トルコの「バイラクタルTB2」とイランの「モハジェル-6」が有力候補と考えられています。[2]

 将来的に、タジキスタン軍はさまざまな種類の装備の陳腐化に対処し続ける一方で、移動式地対空ミサイルシステムや(最新の)誘導兵器システムなどの新装備を導入するための限定的な試みも行っていくことになるでしょう。

  1. 以下に列挙した一覧では、タジキスタンが保有しているAFVなどを掲載しています。
  2. この一覧は、現時点でタジキスタン軍で運用されているあらゆるAFVなどをすることを試みて作成されたものです。
  3. この一覧に掲載されているものは、画像などの視覚的なエビデンスに基づいて確認されたものだけに限定されています。
  4. レーダー、対戦車ミサイル、携帯式地対空ミサイルシステム、トラック及びジープ類はこの一覧には含まれていません。
  5. キルギスが保有しているものについては、ここで見ることができます。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、タジキスタンで運用されている当該兵器類などの画像を見ることができます。

戦車
装甲兵員輸送車

MRAP(耐地雷・伏撃防護車両)
工兵・支援車両
自走砲
固定式地対空ミサイル(SAM)システム 
  • S-75 (退役したと思われる)
  • S-125 (首都ドゥシャンベ防空用に専用の陣地1つが存在)


自走式地対空ミサイル (SAM)システム
  • ペチョラ-2M (首都ドゥシャンベ防空用に専用の陣地1つが存在)

無人偵察機

徘徊兵器


この記事の作成にあたり、 Buschlaid と ファルーク・バヒーの両氏に感謝を申し上げます。

[1] Documenting Losses During The September 2022 Kyrgyzstan–Tajikistan Border Clash https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/documenting-losses-during-september.html
[2] Iran Inaugurates Military Drone Factory in Tajikistan https://caspiannews.com/news-detail/iran-inaugurates-military-drone-factory-in-tajikistan-2022-5-18-0/

※  当記事は、2022年10月4日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。

2023年12月20日水曜日

「マーチン139」から「クズルエルマ」まで」 :トルコ軍爆撃機の85年


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「İstikbal göklerdedir. Göklerini koruyamayan uluslar, yarınlarından asla emin olamazlar - 未来は空にあります。自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)」

 2022年12月14日、「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機がテキルダー・チョルル・アタチュルク空港で初フライトを実施しました。偶然にも、この85年前にはアメリカから購入した20機のマーチン「139WT」爆撃機の1号機がトルコ空軍に就役するために同じ空港に着陸しています。

 1937年にチョルルでアメリカから初の本格的な爆撃機が納入されてから85年後に同じ場所で初の国産無人戦闘機の試験飛行を行うまでに至ったトルコは、軍事大国として飛躍的な発展を遂げています。

 85年前と根本的に異なるもう一つの状況としては、トルコがアメリカから軍用機を調達する能力(というよりは能力の欠如)が挙げられます。何年にもわたって多くの西側諸国から事実上の武器禁輸措置を受けているトルコは、2019年にはロシアから「S-400」地対空ミサイルシステムの調達を決定したことを受け、F-35の国際共同プログラムからも追放されてしまったのです。

 トルコ空軍は旧式化した「F-4E "ターミネーター2020"」の後継機として最大100機の「F-35A」を、トルコ海軍は「TCG アナドル」強襲揚陸艦で使用するための「F-35B」の導入を計画していました。

 トルコのF-35国際共同プログラムからの除名と「F-16V」の調達に行き詰まっている状況は、2020年代から2030年代初頭にかけて(少なくともその10年の間に「TF-X」ステルス戦闘機が導入されるまで)トルコ空軍は自身の戦闘機よりはるかに最新で高性能な戦闘機を保有するギリシャ空軍に対抗せざるを得ないことを意味しています。

 しかし、このような環境下であるからこそトルコの兵器産業は栄えてきたことを見落としてはならないでしょう:つまり、今が全ての状況がトルコにとって不利になり、赤字を埋め合わせるために創意工夫が必要とされるというわけです。

 「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の開発後、メーカーである「バイカル・テクノロジー」社は 「クズルエルマ」無人戦闘機を開発することを通じてトルコの航空戦力不足の解消に取り組もうとしています。

 同社は、「AI-25TLT」エンジンを1基搭載した亜音速型の「クズルエルマ-A1」と2種類の遷音速型:同エンジンを2基搭載した「クズルエルマ-A2」と「AI-322TF」を1基搭載した「クズルエルマ-B1」を製造する計画です。超音速型の「クズルエルマ-B2」は2基の「AI-322TF」が搭載されることになるでしょう。

 「クズルエルマ」は「バイラクタルTB3」と共に「アナドル」からの運用が可能であり、これまで艦載機として検討されていた「F-35B」を代替するシステムにもなり得ます。

 この新型無人機がその真価を発揮する前には何度かの反復作業を経る必要がありますが、その回を重ねるごとに、この新型UCAVが従来の航空アセットの能力を次第に再現していくことは間違いありません。少なくとも、ロシアから「S-400」の購入を決めた結果として、トルコが「F-35」国際共同プログラムから外されたことによるギャップを部分的に埋め合わせることができるでしょう。その真価には、射程275km以上の巡航ミサイルと(100km離れた目標を攻撃可能な)目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)の発射能力も含まれます。
 
「バイラクタル・クズルエルマ-A1」試作初号機

 1930年代のトルコは、現在と全く異なる安全保障上の問題に直面していました。つまり、拡張政策を唱えるファシスト・イタリアの台頭です。

 地中海で急速に近代化が進むイタリアの脅威に対抗するには十分な装備をもってなかったトルコ軍は、将来の脅威に対処できる現実的な抑止力を構築すべく、自国に航空機の販売を望んでいる意思があると確認されたあらゆる国から運用機を調達し始めたのです。

 その結果、トルコ空軍はポーランドからPZL「P.24」戦闘機を66機、アメリカからマーチン「139WT」爆撃機20機の導入を通じて増強されました。こうした軍用機の調達は(トルコ空軍に対する)ここ数年で最初の設備投資であり、最終的には、ヨーロッパで新たな世界大戦が近づくことが予想される情勢下で、より大規模な航空機の発注へと道を開けるものとなったのです。

 その数年前に、ムスタファ・ケマル・アタテュルク大統領がトルコ空軍に初めての爆撃機を調達するよう命じたため、慎重な検討を重ねた結果としてアメリカのマーチン「B-10」が選定されました。これを受けてトルコの代表団が現地へ派遣され、マーチン「139WT」と呼称されるようになったエンジンを改良したモデルを20機調達するに至りました。 [1]

 1937年9月に納入されたマーチン「139WT」は、チョルル基地を拠点とする第9航空大隊(Tayyare Taburu)の第55・56飛行隊(Tayyare Bölüğü)に配備されました。同爆撃機は引き渡されてから僅か2年で時代遅れと化したものの、第二次世界大戦中には黒海上空の偵察任務で広く活用されました。

 1944年にイギリス製ブリストル「ブレニム」及び「ボーフォート」に置き換えられた後のマーチン「139WT」は、1946年まで第二線機として活躍し続けたことが記録されています(その時点でも、残存する16機のうち12機が依然として稼働状態にありました)。[1]

テキルダー・チョルル・アタチュルクに並ぶマーチン「139WT」

 航空機の設計における進歩(とりわけエンジン開発の発展)のおかげで戦闘機や爆撃機のペイロードは機体のサイズ以上に大きな割合で増加してきましたが、このことはマーチン「139WT」や「クズルエルマ」の場合でも変わりません。

 1930年代のマーチン「139WT」は機内の爆弾倉に搭載可能な爆弾のペイロードが1,025kgである一方、「クズルエルマ-A1」は1,500kgで、さらに「クズルエルマ-B2」では推定3,000kgのペイロードを搭載可能となっているのです。

 搭載する兵装自体も、無誘導爆弾から巡航ミサイルやBVRAAMへと大きな進化を遂げています。
 

マーチン「139WT」が僅か1,025kgしか爆弾を搭載できない一方、「クズルエルマ-B2」はその3倍近い積載量を有することになるだろう

 1世紀近くにも及ぶ技術革新がもたらした違いこそあるにもかかわらず、現代のトルコ製UAVは、この国が爆撃機を運用し始めた際の機体が有していた一部のDNAを継承しています。

 「バイラクタル・アクンジュ」はマーティン「139WT」と同様に2基のエンジンを持つプロペラ機で、エンジンはより効率の良いターボプロップ式ですが、最高出力はほぼ同一です。また、外形寸法においても両機は驚くほど似ていますが、前者はその流線形の機体を活用して最大1,350kgという見事なペイロードも誇っているのです。
 


 マーチン「139WT」と「クズルエルマ」は、過去80年間で航空機の設計及び性能がどれだけ進化してきたかだけでなく、軍備の調達面でトルコが1930年代から2010年代までずっと他国に頼っていたのが2020年代にはほぼ全てを国内産業から調達を目指すことで、トルコがどのようにして安全保障上の課題を対処から発展してきたのかについて興味深い考察を可能にします。

 その目標の実現に向けたトルコの発展は猛烈なスピードで前進していますが、その流れは当然のことでしょう。なぜならば、トルコは世界中の国々と同様に、現代において次の言葉の重要性をますます悟っているためです:「...自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。」


[1] Martin 139-WT (B-10) http://www.tayyareci.com/digerucaklar/turkiye/1923ve50/martin139wt.asp

注:当記事は2023年1月7日に本国版「Oryx」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事であり、意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。


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2023年12月13日水曜日

プラハのショッピングリスト: チェコによる兵器調達計画の概要


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 チェコ軍は、冷戦時代から残っていた装備の大部分を最終的に現代的な西側製に置き換えるという大変革を成し遂げようとしています。

 この構想にある西側の兵器には、 73台の「レオパルト2A8」戦車、246台の「CV90 MkIV」歩兵戦闘車、62門の「カエサル"8x8"」トラック搭載式砲兵システム、4個中隊分の「スパイダー」地対空ミサイルシステム、10機の「AH-1Z」攻撃ヘリコプター、そして最大で24機の「F-35A」ステルス戦闘機が含まれており、結果的にチェコ共和国は高度な能力と装備が整った軍を保有することになるでしょう。

 この望ましい状態については、「マイルストーン2025」と「マイルストーン2030」の一環として、2つの段階を経て達成される予定です。

 約1,100万弱の人口を踏まえると、チェコ軍は比較的小規模な軍隊です。内陸国で国内に大きな河川が流れていないので、チェコは海軍を有していません。

 「チェコ軍 整備構想2030」の一環として、将来的な陸軍の主力戦闘部隊は第7重機械化旅団、第4中機械化旅団の2個機械化旅団と第43空挺旅団、第13砲兵旅団、そして約10,000人の予備兵力で構成される予定となっています。
 
 機械化旅団の戦力は将来的に多連装ロケット砲(MRL)を導入することで拡大する可能性が見込まれます。というのも、MRLは2011年に最後の「RM-70」が退役して以来、著しく不足している装備からです。

 対戦車ミサイルや偵察用UAVの大規模な導入も、ロシア・ウクライナ戦争で学んだ戦訓に基づく論理的なものなのでしょう。

 チェコ空軍が将来的に調達する兵器には「AGM-158B」空中発射型巡航ミサイルと「AGM-88G」対レーダーミサイルといったスタンドオフ兵器が含まれていますが、「NATO空中給油・輸送機飛行隊プログラム」において各国に割り当てられた飛行時間の追加のような貢献がなされる可能性もあります。 

  1. 以下に列挙した一覧は、チェコ陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. 「将来的な数量」は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものを示しています。
  4. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です


陸軍 - Pozemní Síly

戦車 (将来的な数量: 73)

歩兵戦闘車 (将来的な数量: ~340)
  • 172 CV90 MkIV [2026年から2030年にかけて調達] (最大で120台の「BVP-2」の更新用)
  • 68 KBVP「パンデュール II」 [調達予定] (すでに運用中である99台の同型IFVの補完用)

工兵・各種支援車両(将来的な数量:137+)

軽攻撃車両(将来的な数量: 174+)

砲兵装備 (将来的な数量: 62 自走榴弾砲 及び 8+ 自走迫撃砲)

電子戦システム (将来的な数量: 8)

無人航空機(将来的な数量: 200+)
  •  200 小型無人偵察機の調達計画 [2020年代半ば以降の就役予定] (現時点で運用中のアメリカ製の同種UAVの補完用)


空軍 - Vzdušné Síly

戦闘機 (将来的な数量: 48)
  • 24 F-35A [2020年代半ばから後半にかけて納入予定] (14機の「JAS-39 "グリペン"」の更新用)

ジェット練習機 (将来的な数量: 4+)

輸送機 (将来的な数量: ~2)

無人航空機
  • 中高度長時間滞空(MALE)型無人偵察機 [調達予定]

攻撃ヘリコプター (将来的な数量: 10)

汎用ヘリコプター (将来的な数量: 35)
  • 10 UH-1Y "ヴェノム" [2023年以降に納入予定] (「Mi-8/17」飛行隊の一部の更新用)

偵察気球 (将来的な数量: 1 または 2)
  • 1 または 2 STRATOM [2023年以降に納入予定]

偵察衛星 (将来的な数量: 1)

防空システム (将来的な数量: 4個中隊分+)

[1] The Czech Armed Forces Development Concept 2030 https://www.army.cz/images/id_8001_9000/8503/CAFDC.PDF

※  当記事は、2023年7月11日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。


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2023年12月10日日曜日

南シナ海に響く咆吼:インドネシアの「CH-4B」UCAV


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 インドネシア空軍は現在、自国領を守り、ますます自己顕示欲を強める中国に対抗するための質的な戦力の構築を目的とした再装備計画を推進しています。この計画には多目的戦闘機、空中給油機、新型攻撃ヘリコプターなどの導入も含まれていますが、インドネシア軍が無人戦闘航空機(UCAV)の導入・開発にも投資していることに注目すべきでしょう。

 UCAVについて、同国は今までに中国から6機の「CH-4B」を調達したことに加え、国産の「エラン・ヒタム(黒鷲)」の設計・開発プロジェクトも進めています。[1]

 UCAVの運用に対するインドネシアの関心が生じたのは2010年代半ばと考えられており、最終的に2017年に中国から4機の「翼竜Ⅰ」の発注に至らせました。[2]

 しかし、この契約はインドネシア企業が関与していないとの批判を受けた後の2018年初頭に突如としてキャンセルされ、2018年11月に調達事業を再スタートすることを余儀なくされたのです。

これを受けて、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「PTDI(PT ディルガンタラ・インドネシア)」と提携して「アンカ-S」を提案しましたが、最終的に「中国航天科技集団(CASC)」の「CH-4B」が勝者に選ばれて6機が発注されました。この取引にオフセット契約やインドネシア企業への技術移転も含まれているのか、仮に含まれているとすればどの程度なのかは不明です(注:2023年8月、インドネシアは12機の「アンカ-S」を導入することを公表しました)。[3]

 最初の2機は実証飛行のために2019年8月にインドネシアに到着し、同年10月の国軍記念日に実施された軍事パレードで一般公開されました。[4] [5]

 「CH-4B」は2019年9月に東ジャワで行われた陸海空軍の合同軍事演習で運用デビューを果たし、その際に偵察ミッションをこなしたり、「AR-1」空対地ミサイルを地上の模擬標的に向けて発射しました。[6]

 この演習以降におけるUCAVの運用は、主に戦闘ドクトリンの確立とオペレーターの訓練に向けられていたようです。[7]

 2021年8月、「CH-4B」はインドネシア当局によって正式に軍用の耐空証明を取得しました。[7]


 インドネシアの「CH-4B」は、西カリマンタン州ポンティアナック近郊にあるスパディオ空軍基地に拠点を置く第51飛行隊に所属しています。

 同飛行隊は2013年に導入された4機のイスラエル製「エアロスター」UASも運用している無人機部隊です。[8]

 インドネシアの「CH-4B」には、1,500kmを超える距離での運用を可能にさせる衛星通信装置(SATCOM)が装備されています。約1,500kmの航続距離があるため、(SATCOMを使用した場合の)「CH-4B」は西カリマンタン州の基地からインドネシアを形成する群島の大部分をカバーすることができます。

 スパディオ基地は、南シナ海に位置するインドネシアのリアウ諸島から数百キロメートル離れた場所にあります。現在、リアウ諸島の周辺地域はインドネシアと南シナ海にある他国の島の(一方的な)領有も主張している中国との間で領有権をめぐる論争が繰り広げられています。


 2021年8月には、胴体下部に詳細不明のセンサーポッドを搭載した1機の「CH-4B」が目撃されました。[9]

 このポッドの正確な用途はまだ不明ですが、現時点では通信中継ポッドまたは通信情報収集(COMINT)ポッドのいずれかと考えられています。

 この目撃時には、機体に「03」というシリアルナンバーが追加されていることや、大きな「TNI AUインドネシア国軍-空軍)」の文字が消されて非常に小さなマークに置き換えられていることも明らかとなりました(注:空軍の表記は胴体側面の後部に移動しており、文字も小さくなっています)。

 尾翼のインドネシア国旗はカラーのままですが、インドネシア空軍のラウンデル(国籍マーク)はより小型の低視認性タイプに変更されました。しかし、翼の下面に施されたラウンデルは従来のサイズを維持しているようです。


 さまざまなセンサーポッドや専用の電子情報収集(ELINT)またはCOMINTポッドを搭載することに加えて、インドネシアの「CH-4B」は主翼下に設けられた4基のハードポイントに数種類の兵装を装備することが可能です。

 これまでのところ、TNI-AUが「CH-4B」用に中国製「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを調達したことが確認されています。[10]

 これらのミサイルの射程距離は最大で8kmであり、「AR-1」は10kg弾頭を、「AR-2」は5kg弾頭を備えています。[11] [12]  

 「AR-1」は「CH-4B」の標準的な兵装であり、このUCAVを運用する全ての国が導入しています。「AR-2」は「AR-1」の軽量版であり、2連装または4連装発射機に装備できます。「CH-4B」の場合はハードポイントが4基あることを踏まえると、最大で16発の「AR-2」を搭載可能ということになります。

「CH-5」UCAVに搭載された「AR-1」(右)と「AR-2」(左)空対地ミサイル

 「CH-4B」の運用で得られた経験は、いつの日か、インドネシアに領域主権全体を防護・哨戒するための十分な力をもたらす、より大規模なUCAV飛行隊の導入に至らせるかもしれません。

 インドネシアでは現在、国産の中高度・長時間滞空(MALE)型UCAVプロジェクトを進めているほか、トルコ製UAVの導入にも関心を示していることから、この飛行隊がより多くの中国製ドローンで構成されることになるかどうかは定かではありません(注:2022年9月、国産の「エラン・ヒタム」UCAV計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上頓挫してしまったようです)。[13]

 しかし、新型のUCAVは有人機が有する戦闘効力をますます再現することができるため、UCAVが将来のインドネシア軍で重要な役割を果たすことだけは確実でしょう。

国産の「エラン・ヒタム」UCAV

[1] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[2] Indonesia acquires four Wing Loong I UAVs from China http://www.janes.com/article/78147/indonesia-acquires-four-wing-loong-i-uavs-from-china
[3] Turkish Aerospace Industries Offering Anka UAV to Indonesia http://aviationweek.com/awindefense/turkish-aerospace-offering-anka-uav-indonesia
[4] https://twitter.com/towersight/status/1171500495917088773
[5] Upacara Peringatan Ke-74 Hari Tentara Nasional Indonesia Tahun 2019 https://youtu.be/egYMHb8sDCk
[6] Indonesia tests CH-4B Cai Hong UCAV in latest combined military exercises https://www.asiapacificdefensejournal.com/2019/09/indonesia-tests-ch-4b-cai-hong-ucav-in.html
[7] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[8] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[9] https://twitter.com/RupprechtDeino/status/1432933641483608065
[10] Indonesian Air Force Receives First Batch of AR-2 Missiles for Its CH-4 UCAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-receives-first-batch-of-chinese-made-ar-2-missiles-for-its-ch-4-uavs
[11] AR-1 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-1.htm
[12] AR-2 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-2.htm
[13] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を 
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所      があります。



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