著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
(当記事の執筆時点である2021年10月現在で)少なくとも世界中の7カ国で運用が開始されている中、最近ではさらに数カ国が
「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を導入するべくトルコと交渉段階にあると考えられています。[1]
これらの機種に加え、同国は現時点で数種類の国産UCAVの開発中です。少なくともこの中の1機種については、
「アンカ」 U(C)AVを開発した
「トルコ航空宇宙産業(TAI)」との協力を通じてトルコの技術を取り入れることを目標とした開発が進められています。 [3]
すでにUCAV飛行隊が存在しており、今後10年の間にいくつかの国産UCAVが就役する見込みであるため、同国のTB2への関心について異論を示す人がいるかもしれません。
とはいえ、パキスタンは多くの異なる供給源からUCAVを入手しようと試みる世界で最初の国ではありません。なぜならば、今の時点でナイジェリアは(国産機が開発中であると同時に)中国とUAE製の武装ドローンを運用しており、サウジアラビアも中国とトルコのUCAVを運用しているだけでなく、「サクル」という国産機も開発中だからです。
パキスタンが「バイラクタルTB2」に興味を示す動機の背景には、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビアでの素晴らしい運用実績が大きく関係していると思われます。
中国製UCAVもリビアやイエメンで頻繁に実戦投入されていますが、ヨルダンでは
「CH-4B」を導入してから2年も経たないうち全機を売りに出すなど、性能に不十分な点が多くあります。[4]
同型機はイラクでも同じ結果を辿っており、全20機のうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために、現在は格納庫で放置され続けているようです。
サウジアラビア、カザフスタン、ナイジェリア、UAE)といった中国製UCAVを運用している国でも、同様に
「翼竜Ⅰ」と
「翼竜Ⅱ」や
「CH-3」と「CH-4」シリーズの運用で問題に直面したようです。[7]
よく遭遇する問題として、修理や整備に関する資料が不足していたり、スペアパーツの在庫や発注システムが無いといったことが含まれていると云われています。[7]
ただし、ヨルダンとイラクとは逆に、UAEやサウジアラビアには、スペアパーツの調達やアフターサービスの量を増やすか、単純に(損失などで)運用から外れたドローンの代替機としてより多くのドローンを調達することによって、どんなときでもUCAV飛行隊の大部分の機体を運用し続けるための膨大な資金があります。
お金で解決できる可能性がほとんど無いのは彼らのUAV運用における根本的な欠点であり、
「バイラクタル外交」と比較した場合、地上では成果を全くもたらしていません。
パキスタンが現在保有するUCAVの戦力は、国内の一部で活動している武装勢力に必要とされる精密攻撃には十分であるとは思われますが、インドとの従来型の戦争に直面した場合には完全に不十分なものです。
つまり、パキスタンが「TB2」に興味を持った理由は、最新の地対空ミサイル(SAM)システムや電子妨害・欺瞞(EW)システムとの戦いで何度も勝利を収めたことにあるのかもしれません。
同じSAM・EWシステムの多くがインドでも運用されているため、TB2が継続的なソフトウェアのアップグレードを通じて絶え間ない能力向上が図られ、前述のような戦果を享受してきたことは、パキスタン当局に大きな関心を生じさせたはずです。
したがって、パキスタンがTB2を導入する可能性については、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンが得た成功を再現するための試みと解釈することができます。
アゼルバイジャンと同様に、パキスタンも全長3.323kmにわたるインドとの国境に沿いに配備された大規模なインド軍機械化部隊と対峙しており、インド軍は戦車だけでも約4,000台を擁しているだけでなく、さらに数千台にも及ぶAFVも一緒に運用しています。
2020年ナゴルノ・カラバフ戦争では、アルメニアの戦車部隊の多くがTB2や(同機によって目標が指示されることが多かった)「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)と徘徊兵器の手によって壊滅し、さらに100台の「T-72」戦車がアルメニアの乗員によって戦場で放棄されました。[8]
戦いの規模は違うかもしれませんが、地球上で相当数の国がこの非常に重要な戦争から教訓を各自の先述に取り入れようと試みていると思ってもいいでしょう。
パキスタン軍はナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンの軍事的な突破口を切り開くことを可能にしたいくつかの重要な戦力、特に長射程型ATGM、誘導式ロケット弾、徘徊兵器を欠いているものの、現在ではこれらの欠点の大半を改善する試みが進められています。
このシリーズの最初のものは今後数年で運用が開始される予定となっており、その暁には、パキスタン軍は最大140kmの射程距離内の標的に対する精密なロケット弾攻撃を行うことが可能となるでしょう。また、最大で200kmの射程距離を持つ能力向上型も開発中にあると思われています。[9]
これらの誘導式MRLは、パキスタン陸軍の長距離精密打撃能力の向上に大いに貢献するでしょう。
戦時における作戦シナリオとしては、「バイラクタルTB2」がシギントや(車両などの目標に対して75km以上あるとみられる)EO/IRセンサーの驚異的な能力によって敵の陣地や部隊の集結地点を検知し、その情報を受けた「ファター」誘導式MRLがそれらを攻撃する、というものが想定されます。
運用状態にある長距離誘導式ロケット砲についてパキスタン軍では依然として不足していますが、それは大規模な弾道ミサイルと巡航ミサイル戦力で部分的に相殺されています。
パキスタンは、今までに(射程面での)あらゆるカテゴリーの弾道ミサイルや巡航ミサイルを設計・開発したり、使用してきました。
とはいうものの、それらの中でも巡航ミサイルだけが、アゼルバイジャンの兵器システム:特にイスラエルの
「ロラ」弾道ミサイルやトルコの
「TRLG-230」誘導式ロケット弾と同程度の命中精度を有する可能性が高いと思われます。
ただし、この分野におけるパキスタン軍の戦力をさらに発展させることを目的とした同国の将来的な投資が行われる可能性は極めて高く、実際はすでに行われているのかもしれません。
現在の開発状況がどんな状態にあろうと、こういった長距離兵器システムは、その潜在能力を最大限に活用するためにはUAVなどのアセットによる偵察に左右されることになるでしょう。
ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
があります。
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