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2022年10月18日火曜日

トルクメニスタンの風変わりなUCAV:中国製「WJ-600A/D」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは中国から購入した多数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しています。ナイジェリア、アルジェリア、ミャンマー、そしてパキスタンにも輸出された「CH-3A」を別とすれば、トルクメニスタン空軍はまだ世界中のどこの国でも導入されていない独特なドローンも調達しました。それが今回のテーマである「WJ-600A/D」です。

 この型破りなUCAVは、ロケット補助推進離陸(RATO)で発進し、任務を終えた後にパラシュートで着地・回収されるという世界でも数少ない武装ドローンの1つです。

 ほぼ間違いなく「WJ-600A/D」は見た目からするとUCAVというよりも巡航ミサイルにしか見えませんが、同機は世界中に存在するUCAVの大半が用いているターボプロップエンジンの代わりにターボファンエンジンを搭載することによって、従来型のUCAVよりも著しい高速性能を持つことに成功しています。

 「CH-3A」の速度がたった200km/h程度であることと比較すると、「WJ-600A/D」はこのエンジンのおかげで最大で700km/hという素晴らしい速度を誇ります。とはいえ、約3〜5時間の滞空性能は、約12時間の滞空性能を誇る「CH-3A」をはるかに下回っています。[1]

 その結果としてもたらされる航続距離は従来型機とそれほど違わないものとなりましたが、UCAVは頻繁に戦場の上空をパトロールや攻撃可能な標的を索敵するために飛び回り続けるため、確かに「WJ-600A/D」はやや独特でニッチなニーズを満たした機体と言うことができます。

 「WJ-600A/D」はCASIC (中国航天科工集团有限公司)「HW-600 "スカイホーク"(WJ-600)」の発展型であり、偵察任務と対地攻撃任務の双方を実施できる能力を有しています。

 トルクメニスタンがパレードで公開した機体では見られませんでしたが、このUCAVには胴体下部にFLIR(前方監視型赤外線装置)が搭載されています。

 このUCAVに採用されたデザインを考慮すると、探知されることを避けるために速度と小型巡航ミサイルのような低RCS(レーダー反射断面積)を活用し、敵地の奥深くで攻撃任務を行うことに重点を置いたものに見えます。

 UCAVの「CH」シリーズと「翼竜」シリーズをそれぞれ開発しているCASCとCAIGの成功のおかげで、CASICはほとんど影に隠れた存在のままとなっています。トルクメニスタンへの「WJ-600A/D」の販売がCASIが成功した唯一知られている輸出実績ですが、最終的に何機を販売できたのかは知られていません。

 2018年、CASICはジェットエンジンを搭載した「WJ-700」UCAVを発表しました。同機は「WJ-600A/D」の高速性能と低RCSをより従来型機的なデザインに組み合わせたものであり、素晴らしいペイロードを誇っています。



 「WJ-600A/D」は最大で2発の「CM-502KG」空対地ミサイル(AGM)で武装させることができます。このミサイルは「AR-1B/AR-2」の長射程及び高威力化を図った発展型であり、11kgの弾頭と最大有効射程が25kmの性能を有しています。

 「WJ-600A/D」には別の兵装もインテグレートできる可能性はありますが、トルクメニスタンが「CM-502KG」以外の兵装を導入したか否かは現時点では不明です。より小型の「AR-1」はトルクメニスタンで運用されている「CH-3A」のみならず「WJ-600A/D」にも搭載できることは言うまでもないでしょう。




 トルクメニスタンで運用されている、補助推進ロケットを用いたもう1つの中国製UAVは「S300」シリーズ無人標的機です(注:似た名前の「S-300」地対空ミサイルシステムと混同しないでください)。

 「S300」は2010年代半ばに同じサプライヤー(中国)から調達した「FM-90」「KS-1A」「FD-2000」地対空ミサイルシステムの標的用として、「ASN-9」と共に大量に導入されました。

 トルクメニスタンにおける運用では、「S300」と「ASN-9」はいまだに僅かに運用が続けられているソ連時代の「La-17」無人標的機の後継機種として活用されているようです。ちなみに、「La-17」もRATOブースターで発射される方式の無人機でした(ブースターは前述の無人機と異なり、両主翼の付け根に装備されていました)。

トルクメニスタンの防空演習で発射される直前の「S300」

「WJ-600A/D」が射出された瞬間

 当初、トルクメニスタンは中国製の「WJ-600A/D」と「CH-3A」やベラルーシの「ブセル-MB2」を当てにして武装UAVの戦力を構築していましたが、最近ではイスラエルやトルコにも目を向けてUCAVを追加購入し始めています。[2] [3]

 トルコとの取引については、UAVの運用を念頭に置いて特別に設計された、この地域では初となる空軍基地の建設も含まれていました。[2]

 これらの調達のおかげで同国が中国製のUCAVをさらに導入することについて、当分の間は起こりそうにないことは間違いないと思われます。

 それでも、「WJ-600A/D」は現在の世の中に存在している最も独特な戦闘ドローンの1つとして今後も運用され続け、トルクメニスタンに多くの国々には真似できない特殊な戦力をもたらすことでしょう。



[1] CASIC WJ-600 Reconnaissance Strike UAV https://www.militarydrones.org.cn/casic-wj-600-uav-price-china-manufacturer-procurement-portal-p00172p1.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2022年7月29日金曜日

旧式艦+新型兵装:トルコ製RWSがアゼルバイジャンの旧式艦に装備された



著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 アゼルバイジャン海軍は、同国のほかの軍種やカスピ海に存在する他国の海軍と比較した場合、現代化の点で後れを取っています。

 その代わり、アゼルバイジャンは沿岸警備部隊の近代化に多額の資金を投じ、国境警備隊用の「スパイクNLOS」(射程25km)や「スパイクER」(射程8km)対戦車ミサイル(ATGM)を装備したイスラエルの「サール62」級哨戒艦(OPV)6隻と「シャルダグMk V」級高速哨戒艇6隻を導入しました。[1]

 興味深いことに、アゼルバイジャン海軍はどの艦艇にも対艦ミサイル(AShM)を搭載しておらず、純粋に同国が有する排他的経済水域(EEZ)の哨戒部隊として運用されています。

 この国の海軍はコルベットや高速攻撃艇を運用するのではなく、数多く存在するソ連時代の哨戒艇、揚陸艦、掃海艇を活用しているほか、1960年代に建造された「ペチャ」級フリゲートの運用も続けていますが、艦載兵装については銃砲、魚雷、対潜装備しか搭載されていません。

 ごく最近になって、海軍は国境警備隊(SBS)から多数の艦の譲渡されることで戦力が増強されました。とはいえ、これらはソ連時代の「ステンカ」級哨戒艇や対空砲から機関銃まで装備していた大型のタグボートで構成されていたことから、譲渡された艦艇は海軍が保有する艦艇数を少なくとも2倍に増やしたものの、海軍に新たな戦力をもたらすようなことは少しもありませんでした。

 現時点でAShMを搭載できる艦艇を一切保有していないアゼルバイジャン海軍は、旧式化した艦艇の一部に重火器を搭載することによって戦闘能力の向上を図ろうと試みています。

 これまでのところ、この火力向上策には、「AK-230」2連装30mm機関砲塔を第二次世界大戦時代の「70K(61-Kの艦載型)」37mm機関砲といったほかの火砲に換装したことも含まれていますが、このような策が各艦艇の火力増強に全く寄与しなかったことは一目瞭然でしょう(注:後述のとおり、「MR-104」FCSレーダーで管制可能な「AK-230」近接防御システム(CIWS)をわざわざ手動操作式の旧式機関砲に置き換えることに意味を見出すことを理解すること自体が無理に近いでしょう)。

 これとは逆に、少なくとも1隻の「ステンカ」級にトルコの「アセルサン」社「SMASH」30mm遠隔操作式銃架(RWS)を搭載するという最近の近代化事業で、旧式艦艇により合理的なアップグレードが施されるようになり始めたようです。

艦首に「SMASH」RWSを装備した「ステンカ」級(G124)

 現在のアゼルバイジャン海軍は、イスラエル製OPVと哨戒艇が就役した後のSBSから得た「G122」から「G125」までの艦番号を付与された4隻の「ステンカ」級を運用していると考えられています。

 当初、「ステンカ」級には「MR-104」火器管制レーダーによって管制された「AK-230」2連装30mm機関砲が艦首と艦尾にそれぞれ1門ずつ搭載されていましたが、少なくとも数隻はどちらかの「AK-230」を「70K」30mm対空機関砲に換装されました。現代の水準における「70K」は本来の対空用途で少しも役立つことはできませんが、迎撃された相手国の艦艇の前方に向けて警告射撃を行うには理想的な火器です。

 現在までのところ、「G124」のみが「SMASH」RWSを装備されていることが知られています。興味深いことに、艦首の「AK-230」だけでなく後部の同機関砲塔も「SMASH」RWSに置き換えられています(上の画像では前部の「AK-230」のみが「SMASH」に換装されているため、段階的に「G124」の近代化を進めているか、または別の同型艇の後部に「SMASH」を装備した可能性があるからです)。

 当然ながら、使用されていないときの「SMASH」RWSは、波や風雨から保護するために防水カバーで覆われています。[2]

艦橋上部から見た艦首部の「SMASH」RWS
艦尾に搭載された「SMASH」RWS

 「SMASH」RWSは近年では世界で最も人気がある艦載用RWSであり、クロアチア、マレーシア、カタール、バングラデシュ、フィリピン、そしてアゼルバイジャンといった国々で導入されています。

 カタールは自国の(トルコ製)巡視船の大部分に装備させるためにこのRWSを調達してきた、世界最大の「SMASH」運用国です。

 同等の「アセルサン」製RWSの大口顧客はトルクメニスタンであり、28隻の艦艇に合計で38の「STOP」25mm RWSを装備しています。また、同国は世界初の「アセルサン」製「ギョクデニズ」35mm CIWS運用国でもあります。

 トルクメニスタンによって導入された海軍艦艇といった新型兵器に装備されたことに加え、「アセルサン」社はEO/IRセンサーやRWSを含む各種兵器システムを陸・海・空のさまざまな旧式プラットフォームにインテグレートすることによって、めざましい商業的な成功も収めています。

 最近の例では、ウクライナの「モトールシーチ」社と共同で同国と潜在的な輸出顧客向けに「Mi-8/17」と「Mi-24」攻撃ヘリコプターを近代化する契約を締結しており、これは「アセルサン」社がEO/IRセンサーを供給し、東側のヘリコプターに最新のトルコ製精密誘導兵器の運用能力をインテグレートするというものです(注:ロシアのウクライナ侵攻で実現はするかは不透明な状況)。[3]

 また、トルクメニスタンが保有する「BTR-80」装甲兵員輸送車の一部に同社製の「SARP(サープ)-DUAL」RWSを搭載してアップグレードを図ったも実例もあります。[4] [5]

現時点のカスピ海で最も強力な海軍艦艇であり、「STOP」25mm RWSや「ギョクデニズ」35mm CIWSを含む多数の「アセルサン」社製艦載兵装を搭載しているトルクメニスタンのコルベット「デニズ・ハン」

 「SMASH」RWSはデュアルフィード機能のおかげで毎分200発の射撃速度を誇る「Mk44 "ブッシュマスターⅡ"」30mm機関砲を備えています。機関砲の両側面には各1つの大型弾倉があり、合計で175発の砲弾を入れることができます。

 このRWSは完全にスタビライザーで安定化されているため、荒波の中でも移動する標的に対して正確な照準が可能となっていることが特徴です。

 「STAMP」12.7mm RWSや「STOP」25mm RWSで用いられている固定式の照準システムとは対照的に、「SMASH」は安定化された独立型EO/IRセンサーを搭載しているため、システム全体を旋回させることなく標的を追尾することができる利点が特徴的と言えるでしょう。

少なくとも5か国で運用されている「SMASH」RWSの旧バージョン

 現時点で、アゼルバイジャン海軍によってさらなる「SMASH」RWSが導入される計画が存在するのかは不明です。

 SBSから多数の艦艇が移管されたことは、この国の海軍がしばらくの間は現時点で運用している艦艇で間に合わせる必要があることを示している可能性があります。したがって、対艦ミサイルを搭載した艦船でますますあふれていくカスピ海で戦力を何らかの形で維持するために、アゼルバイジャン海軍は何度も艦艇の改修を余儀なくされるかもしれません。

 少なくとも4隻の「ステンカ級」哨戒艇が就役していることから、「SMASH」RWSがその価値を誇示する機会は十分にあることは確かでしょう。

艦首に「70K」37mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G122)

 「アセルサン」社は自ら開発した製品で世界中で広幅広い成功を収めてきました。これはカスピ海も例外ではなく、今や2か国の海軍が同社の製品を装備した海軍艦艇でこの海を航海しています。

 アゼルバイジャンがいつの日か自国の海軍の近代化のためにトルコ製軍用艦艇の調達を選定したり、カザフスタンもトルコ製艦艇に投資する可能性があることを考えると、どうやらトルコ製の海軍用防衛装備品の見通しは明るいようです。

 もちろん、これらにも「アセルサン」社の製品が装備されることについて、疑う余地はないでしょう。

 「SMASH」RWSのような艦載兵装は実際に搭載された船よりも確かに目立つものではありませんが、中央アジアの国々で進められている軍の近代化を示す重要な指標であることには間違いありません。

標準装備である「AK-230」30mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G124)

[1] INFOGRAPHICS OF COAST GUARD VESSELS #4: Azerbaijan and Colombia https://www.navalanalyses.com/2017/03/infographics-of-coast-guard-vessels-4.html
[2] https://i.postimg.cc/nrqg7HvB/69.jpg
[3] Aselsan to Supply EO Targeting Pods, AAMs for Modernization of Ukraine’s Mi-8 Helicopter Fleet https://en.defence-ua.com/news/aselsan_to_supply_eo_targeting_pods_aams_for_modernization_of_ukraines_mi_8_helicopter_fleet-2004.html
[4] https://postimg.cc/HJR0QxC3
[5] SARP-DUAL Remote Controlled Stabilized Weapon System https://www.aselsan.com.tr/en/capabilities/land-and-weapon-systems/remote-controlled-weapon-systems-land/sarpdual-remote-controlled-stabilized-weapon-system

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。




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2021年10月16日土曜日

ブルガリアの空に注目: 「MiG-25」から「バイラクタルTB2」まで



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 最近、軍事アナリストの間では、ブルガリアがトルコから少なくとも6機の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の導入を視野に入れているとの推測で沸き上がっています。

 この調達が成立すれば、ブルガリアで長い間失われていた戦力が復活すると同時に、同国は急速に増加しつつあるTB2の導入に関心を持つ国々や現在導入の途上にある国のリストに追加されることになります。しかし、ブルガリアは2020年にTB2を購入する試みを開始したものの、COVID-19のパンデミックで決定を延期したと言われています。[1]

 TB2が結果的にブルガリアに納入されれば、同国は2021年5月にポーランドが24機のTB2を導入したのに続いてEU諸国で2番目(ラトビアが導入した場合は3番目)のTB2調達国となるでしょう。

 中・東欧諸国がTB2に関心を寄せているという事実は、リビアやシリア、そして最近ではナゴルノ・カラバフでの度重なる成功の結果であることは間違いありません。もう一つの明らかな要因はシステムの初期費用と運用コストが低いことであり、これはMQ-9Bのような同種のシステムが単に高価すぎるブルガリアのような国では、最新のU(C)AVを運用することの費用対効果の分析が実際に有利に働いたようです。
 
 また、仲間のNATO加盟国からTB2を購入できるという点も間違いなく評価されることでしょう(さらなるセキュリティ面だけでなく、ほかのサプライヤーには欠けている品質の保障も提供します)。

 ブルガリアが過去に一時期はMiG-25RBT「フォックスバット」でさえも装備していた相当規模の偵察飛行隊を運用したことは全く知られていません。

 ブルガリアは強力なフォックスバットを運用していたワルシャワ条約機構唯一の加盟国でした。その高度に専門化された特性と法外な運用コストは、ほかの全加盟国にこの機体の導入を思いとどまらせるには十分だったと思われます。ブルガリア自体は4機のMiG-25を調達しただけですが、運用中における1機あたりの運用・保守コストは少しも改善されなかったようです。

 おそらくはこの理由のみならず冷戦後の安全保障環境が激変したこともあり、残ったMiG-25は就役から10年以内に退役し、1991年にはロシアとの間で5機のMiG-23MLDと交換されてしまいました。

 これでブルガリアにおける「フォックスバット」の運用が終了したわけですが、ウクライナは1996年までMiG-25PD(S)迎撃機とMiG-25RBTを運用し続け、ロシアは就役から約50年後の2013年11月に最後のMiG-25RB(T)を退役させました。

         

 約30年前である1982年11月、3機のMiG-25RBT(シリアルナンバー:「731、「736」、「754」)と1機のMiG-25RU複座練習機型(シリアルナンバー:「51」)がブルガリア北東部にあるドブリッチ空軍基地に到着しました。

 その後、これらの機は写真偵察と電子情報収集(ELINT)任務のため、第26偵察航空連隊に就役しました。

 1984年4月12日、1機のMiG-25RBTが悪天候の中で燃料切れを起こし、パイロットが脱出を余儀なくされた結果として機体が失われるという悲劇が発生しましたが、幸運なことにパイロットは無傷であり、これがブルガリアにおけるMiG-25唯一の損失となりました。

 1991年5月、残った3機は崩壊しつつあるソ連での不確かな未来へと旅立ったため、これがブルガリア領空における最後の飛行となりました。

 ソ連崩壊後、これらの機体はロシア空軍に引き継がれ、リペツク基地や後にシャタロヴォ基地から飛ばされ、さらにその後にはチェチェン紛争にも投入されました。[2]



 1950年代、第26偵察航空連隊は当初、偵察用途に全く適していない機体の寄せ集めを装備しており、そのほとんどはオリジナルの状態の(未改修の)爆撃機で構成されていました。しかし、その後の数十年間で、この飛行隊は最終的にワルシャワ条約機構加盟国の中でも最も装備が整えられた航空偵察部隊へと成長していきました。

 1950年代の間に、この飛行隊に14機のIL-28R(及び1機のIL-28U練習機)が導入され、1960年代の初頭には約12機のMiG-15bisRが追加されました。ブルガリアでの運用は特に長続きしませんでしたが、このような航空機がほかの場所で時代を乗り越えて現在でも使用されている様子が見られることは特筆に値します。なぜならば、北朝鮮は未だにこれらの機体を稼働状態で維持しているからです。[3]

 IL-28RとMiG-15bisRは、後にMiG-21R戦術偵察機と偵察任務用に改修されたMiG-21MFによって補完・更新されました。

 1980年代にはMiG-25RBTだけでなくSu-22M-4も配備されたことで、この飛行隊の10年に及ぶ黄金期が到来しました。[4] [5]

 最後に残ったMiG-21RとMiG-21MF-Rが運用から退いたためにドブリッチ空軍基地は2002年に閉鎖され、その2年後にはSu-22M-4も退役してしまいました。それ以来、ブルガリア空軍によって運用される偵察専用機はありません。

2機のMiG-21に挟まれて飛行するブルガリアのMiG-25の姿は、その巨大なサイズをはっきりと示しています。

 マルチプル・エジェクター・ラック(MER)を装備した場合、偵察用に開発されたMiG-25RBTは、最大で8発の「FAB-500T」500kg爆弾を搭載した高速爆撃機に変えることが可能です。しかし、ブルガリアがMiG-25用のMERを入手したことや、そもそも爆撃機としてこの機体を配備することに関心を持っていたことを示唆する証拠もありません。[6]

 これは、MiG-25を爆撃機として使用することに関連する酷い命中精度のためだったと思われます。本来は核爆弾を投下することのみを目的としていたため、その精度はあまり重要ではなかったのです。



 ブルガリアが偵察専用機を運用していた時代はとうの昔に過ぎ去り、空軍はMiG-29やSu-25といった別のソ連時代の機体を維持し、最終的にはより現代的な西側の機体に完全に置き換えようと奮闘しています。この点で、TB2のようなUCAVは貴重な偵察アセットをもたらすだけではなく、現在でも運用されているSu-25やMi-24の役割の少なくとも一部を引き継ぐ費用対効果の高いオプション(対地攻撃能力)も構成しているため、より現在の財政支出と両立し得る価格でブルガリアを無人機主導の戦争の時代に推し進めることが可能です。

 この購入が最終的に実現するか否かであろうと、バイカル社のTB2がEU諸国を相手にした最後の販売を終える可能性は極めて低いでしょう。実際、最近のこのタイプの無人機に関心が寄せられている現象は、ヨーロッパ亜大陸だけにとどまらない実質的な輸出の波が手元にあることを示しているようです。

 現在、ブルガリアはこの波に乗る最初のEU加盟国の1つであり、(TB2の導入は)偵察機を運用してきた豊かな歴史の存続を確かなものとするでしょう(注:2021年10月現在でポーランドやアルバニアがTB2の購入を表明しています)。



[1] Avrupa sıraya girdi! Yunanistan'dan Türkiye itirafı https://ekonomi.haber7.com/ekonomi/haber/3057811-avrupa-siraya-girdi-yunanistandan-turkiye-itirafi
[2] МиГ-25 в България https://www.pan.bg/view_article-30-8605-MiG-25-v-Bylgariq.html
[3] North Korea's Armed Forces: On the Path of Songun https://www.helion.co.uk/military-history-books/the-armed-forces-of-north-korea-on-the-path-of-songun.php
[4] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1983 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_8.html
[5] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1988 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_81.html
[6] http://airgroup2000.com/forum/viewtopic.php?t=4985

※  当記事は、2021年8月16日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所

2020年11月22日日曜日

海軍自身の「沈没」:ギニアのソ連製「ボゴモール」級哨戒艇



著:ステイン・ミッツアー

 ギニア・コナクリと呼ばれるギニア共和国は西アフリカに位置するフランス語圏の国で、乏しい経済的な見込みに苦しめられながらも人口が急速に増加しています。この国にはイギリスよりも僅かに広い面積に約1240万人が住んでいますが、ギニアは未だに発展途上国であり続けています。また、ギニアはイスラム教徒が主流の国で、人口の約85%かそれ以上を彼らが占めています。

 ボーキサイトの産出量が世界第二位であることに加えて、ギニアには 「敵の砲火によってではなく、純粋な怠慢によって全ての戦闘艦を沈没させた」という、全くありがたくない名誉を持っています。この驚くべき偉業の中心には、(この記事のテーマである)比較的先進的なソビエト製の「ボゴモール」級哨戒艇がいました。

 「プロジェクト02065 "ヴィーフリ-III(NATO側呼称:ボゴモール)"」は1980年代後半にソ連で設計・建造された哨戒艇です。この哨戒艇は「プロジェクト206MR "ヴィーフリ(NATO側呼称:マトカ)"」級ミサイル艇がベースになっており、1989年に建造が終了するまでに僅か9隻しか完成されませんでした。 [1] 
 
 「ボゴモール」級の武装は「AK-176」76mm速射砲と「AK-630」近接防御システム(CIWS)であり、どちらも艦橋上部に搭載された「MR-123」火器管制レーダーによって制御されます。設計目的の哨戒任務においては、この哨戒艇を依然として今日でも強力なプラットフォームと言えるでしょう。

 興味深いことに、ソ連はボゴモル級を1980年代までに先進的な艦艇の運用と維持が比較的可能となっていたキューバ、ベトナムやイエメンといった国々へ引き渡す代わりに、全9隻のうち4隻をイラクとギニアに輸出しました。

 ギニアは艦艇の維持に関して言えば不注意と怠慢だったという確かな実績がありますが、この国は歴史上極めて重要な時期(ソ連の没落)に間違いなく西アフリカ沿岸全体で最も近代的な艦艇を入手したことは注目すべき出来事と言えます。

 ただし、兵器・スペアパーツの供給や技術支援をしてくれる従来からのサプライヤーが(ソ連崩壊で)いなくなったため、これらの船はすぐに荒廃状態へと陥ってしまったのでした。


 最初に独立を得たフランスの植民地の一つとして(1958年)、ギニアは(特に初期の段階における)ソ連の軍事援助の被援助国となり、1950年代後半には最初の援助が到着し始めました。

 ソ連圏と緊密な関係を築いたことで、ギニアの要衝はソ連とキューバの両方によって完全に悪用されました。これらの国はギニアを植民地支配者からの独立をまだ達成していない近隣諸国の独立運動を支援するための前進基地として使用したのです。
 
 それにもかかわらず、ソ連との緊密な関係が外国からの攻撃に対してギニアを脆弱にしてしまうのではという懸念の結果として、ソ連圏との関係は1960年代の大半を通じて衰退しました。この衰退は、ポルトガルの侵攻が差し迫っているというアフメド・セク・トゥーレ大統領の被害妄想が高まった結果、1960年代後半に再びソ連圏との緊密な関係が築かれるまで続きました。

 実際、ポルトガルはギニアビサウにおける(ポルトガルによる)植民地支配と戦う独立運動へのギニアの支援に、ますます苛立ちを募らせるようになっていたのです。[2]


 トゥーレ大統領の恐怖は無駄ではありませんでした。1970年11月には、約200人のギニア系ポルトガル兵と100人の反体制派ギニア人からなるポルトガルのコマンドー部隊がポルトガル軍の将校に指揮されて、公然とギニアに侵攻しました。彼らの目標はトゥーレ政権の転覆とギニアビサウの独立運動の指導者アミルカル・カブラルの暗殺、25人のポルトガル人捕虜の解放であり、捕虜の解放のみが成功しました。[2]

 ポルトガルの攻撃を受け、トゥーレはソ連との緊密な関係を再構築して、将来に予想されうるポルトガルの侵略を払いのける追加のMiG戦闘機や戦車、高射砲の供与を受けました。

 ポルトガル人が再びギニアの地に足を踏み入れることを制止するため、数隻の艦艇から構成されたソ連海軍の哨戒部隊が頻繁にこの地域に呼ばれました。この派遣は、コナクリに定期的に配備されていたいくつかの「Tu-95RT」洋上哨戒機も含む、西アフリカ沖へソ連海軍が恒常的に配備される前触れとなったようです。

 その後の1973年1月、ギニアでのアミルカル・カブラル暗殺事件を受け、コナクリに停泊していたソ連の駆逐艦が暗殺犯を追跡・拘束してギニア当局に引き渡しました[3]。

 ポルトガルが1974年にギニアビサウの独立を認めて徐々に(1999年に中国に返還したマカオを除く)植民地から撤退し始めたため、トゥーレが抱いていたポルトガルへの恐怖は殆ど解消されました。

 自国における大規模なソ連海軍の存在が効果的な防衛策というよりはむしろ重荷になりつつあったため、トゥーレはソ連の活動を抑制し始めました。

 1977年にトゥーレはソ連の「Tu-95RT」がギニアへアクセスする許可を取り消し、続く1978年後半にはソ連とキューバの顧問団が追放され、1979年前半にはコナクリにおけるソ連艦艇の動きに更なる制限をかけたのです。

 これらの動きが、最終的に(ギニアにはるかに巨大で恒久的な海軍基地を建設するという)ソ連の希望に終止符を打つことになります。 [3]

 ギニア領海におけるソ連の漁業権に関する論争や、ソ連のギニアに有意義な経済支援を提供するという意思の欠如のため、数年間は両国の関係が冷え切ったままとなりました。[4] 

 トゥーレが死去した1984年に軍事クーデターが勃発してランサナ・コンテ将軍が実権を握り、彼は2008年に死去するまでギニアを支配し続けました。


 ソ連との緊密な関係は、虚弱なギニア海軍に大きな影響を与えました。なぜならば、ギニアは創設直後のソ連の衛星国海軍と同じような訓練と装備を受け、全ての海軍装備はソ連由来のものだったからです。
 
 ポルトガルによる侵略の後で、ギニア海軍の人員は150人から300人に増加し、1972年にはさらに150人が増強されました。同年にはギニア海軍の要員はいくつかの中国の哨戒艇の獲得を見越して中国で訓練を開始しましたが、その調達は実現しなかったようです。[5] 

 1970年代初頭におけるギニア海軍の艦船は、双連の12.7mm重機関銃2基を装備した4隻の「ポルチャット-Ⅰ」級哨戒艇、2基の533mm魚雷発射管と双連の25mm機関砲を装備した数隻の「P-6」魚雷艇、双連の25mm機関砲2基と対潜弾投射機2基だけでなく対潜水艦戦用(!)の爆雷も装備した2隻の「MO-VI」級駆潜艇で構成されていました。[5]      

 ギニアによる不十分な整備は1967年までに既に2隻の船の沈没を引き起こしており、他の船が似たような運命に遭うことを防ぐため、1971年にはソ連の技術派遣団が介入しなければいけないほどでした。[5]

 これによって艦隊の運用性が改善されたとはいえ、艦船の大半は滅多に出港することはありませんでした。ギニアは装備の信頼性の欠如と、艦船を適切に整備するための予備部品が十分に供給されないことに不満を訴えました。[3]

 ソ連はこの問題に取り組むのではなく、魚雷発射管が撤去された3隻か4隻の「シェルシェン級」哨戒艇と西アフリカの熱帯気候での運用のために改修を施された1隻の「T-43級」掃海艇を引き渡すことで、ギニア海軍に(装備面で)創設以来最大級の大変動をもたらしました。[3] 

 これらの艦船の引き渡しはギニアにとって「ボゴモール級」が引き渡される前の最後の目立った艦艇の入手となりましたが、結局は1980年代後半か1990年代初頭に密かに就役してその数年後には退役しました。

 それでもなお、ギニアは1980年代の半ばから後半にかけて、(「MiG-21bis」戦闘機と「9K35 "ストレラ-10 "地対空ミサイルシステムを含む)毎年数千万ドル相当の装備をソ連から受け取り続けました。 [6]

2007年2月:2隻のボゴモール級は既に用廃となっていましたが、埠頭にしっかりと係留されています。

2007年12月:1隻目の船尾はすでに水没しています。浸水による重量の増加で、この船はさらに海の底までゆっくりと引きずり込まれていきます。

2008年8月:満潮時ですと、かろうじて艦橋とレーダー・マストだけが水面に突き出ている状態を見ることができます。もう一隻は埠頭の反対側に移動されています。

2009年12月:干潮時には(AK-176速射砲を含めた)1隻目の上部構造の大半を視認することができます。この港の至る所では、さらに数隻の沈没船を見ることができます。

2013年3月:水圧でAK-176速射砲が船体から外れたようです。画像の左側にある浮きドックにも注目してください。

2019年8月:2隻目のボゴモール級も浸水が始まり、船首と上部構造のみがかろうじて水面より上にある状態になっています。その一方で、2013年の時点でまだ使用されていた浮きドックも沈没しました。


 イラクのような輸出先にとっては未だに比較的高度な水準であるとはいえ、(レーダー誘導式の「AK-176」76mm速射砲と「AK-630」CIWSを装備している)「ボゴモール」級はギニアのような小さな海軍のニーズを完全に超過していましたし、今でもそうと言えます。驚くべきことではないでしょうが、ギニアの場合、退役した「ボゴモール」級などを代替した艦隊は維持と運用が容易な(軽機関銃だけを装備した)小船で構成されていました。

 ギニアの隣国であるギニアビサウも1988年から1990年にかけて2隻の「ボゴモール」級哨戒艇を入手したと報告されていますが、それらが実際に引き渡されたことを示す公的な証拠は現時点で存在しません。[1][7] 

 だからといって、実際に引き渡しがなかったと言うことはできません。これらの船が、商業衛星画像の登場以前にスクラップにされたり、港の底に存在していた(既に沈没していた)可能性があるからです。

(ギニア以外で)唯一「ボゴモール」級を受け取ったことが確認されているイラクとイラン(1991年にイラクから1隻を引き継ぎました)の例については、将来的にこのブログで紹介する予定です。

 ロシアでは、「ボゴモール」級は最終的により近代的な「プロジェクト10410 "スヴェトリャク"」級に取って代わられ、たった2隻 (PSKR-726 と PSKR-727)が今でも太平洋艦隊で運用されていると考えられています。


 「ボゴモール」級の沈没 - この武勇伝は、かなりの財政的・物的支援なしに運用できない顧客国に高度な兵器を提供するというソ連の失政を証明しています。この失政の結果は今でもアフリカ各地で錆びついており、それらは港の底にいるか、解体を待っているかのどちらかとなります: それは苦痛を伴いながらも崩れていく、失敗した野望と、ゆっくりと消えていく過去の記念碑です。

[1] RussianShips.info http://russianships.info/eng/borderguard/project_02065.htm
[2] MEMORANDUM SOME REPERCUSSIONS OF THE RAID ON GUINEA https://www.cia.gov/library/readingroom/document/cia-rdp85t00875r002000110005-8
[3] IMPACT OF SOVIET NAVAL PRESENCE IN THIRD WORLD COUNTRIES https://www.cia.gov/library/readingroom/document/cia-rdp84t00658r000100030004-5
[4] EQUITIES IN THE SOVIET-GUINEAN RELATIONSHIP https://www.cia.gov/library/readingroom/document/cia-rdp85t00287r001400740001-7
[5] GUINEA https://www.cia.gov/library/readingroom/docs/CIA-RDP01-00707R000200110060-7.pdf
[6] THE SOVIET RESPONSE TO INSTABILITY IN WEST AFRICA https://www.cia.gov/library/readingroom/document/cia-rdp86t00591r000300440002-2
[7] SIPRI Trade Registers http://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は、2020年11月16日に「Oryx」本国版に投稿された記事を翻訳したもので 
  す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。 

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