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2023年7月15日土曜日

繰り返される商業的成功:トルクメニスタンが徘徊兵器「スカイストライカー」を導入した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルクメニスタンはイスラエル製武器と装備類を大規模に導入した国であり、現在までにそれらには「TAR-21」アサルトライフルや数種類の歩兵機動車といったものが含まれています。

 おそらくほとんど知られていないのは、トルクメニスタンがイスラエル製UAVも保有していることでしょう。2021年までの同国におけるイスラエル製UAV飛行隊については、エルビット「スカイラーク」エアロノーティクス・ディフェンス「オービター2B」といったよく知られた偵察任務専用の機体で構成されていました。これらは2010年代初頭に入手したものであり、ソ連時代から受け継いだターゲット・ドローンではないトルクメニスタン初のUAVとなりました。

 イスラエルはいかなる種類の無人戦闘航空機(UCAV)の輸出をしていないことから、トルクメニスタンは武装ドローンを得るべく中国から「CH-3A」と「WJ-600A/D」を、後にトルコから「バイラクタルTB2」の調達を開始しました。[1] [2]

 同様に、この国はイスラエルの「エアロスター」、IAI「ヘロン」や「ヘルメス450」を調達するのではなく、3機のセレックスES「ファルコXN」無人偵察機を導入するためにイタリアに目を向けました。[3]

 これらの機体の導入で、一度はより多くの新型イスラエル製UAVがトルクメニスタン軍での運用に就く機会を失ったように考えられました。

 しかし、2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードでは、自国の保有兵器に新しい兵器システム「徘徊兵器」が加わったことが明らかにされたのです。つまり、新カテゴリーの兵器の購入するために、トルクメニスタンは再びイスラエル製UAVの系譜に求めたということになります。

 新規導入した徘徊兵器は実績のある「スカイストライカー」であり、この調達はトルクメニスタンに既存の無人攻撃能力を大幅に拡張させることを可能にします。

 これらを調達する決定が、ナゴルノ・カラバフ上空における非常に効果的な使用を目撃してからなされたという可能性は信じがたい話ではないようです。

 ナゴルノ・カラバフで、アゼルバイジャンはSTM「カルグ」、エアロノーティクス・ディフェンス「オービター1K(とアゼルバイジャン生産型の「Zarba-K)」、IAI「ハロップ」そしてエルビット「スカイストライカー」を投入しました。トルコの「カルグ」以外はイスラエルによって設計・製造されたものです。そえゆえに、世界中に無数の競合相手が出現しているにもかかわらず、イスラエルは徘徊兵器のマーケット・リーダーであり続けています。

 イスラエルは新型の徘徊兵器を導入し続けている一方で、(スカイストライカーなどの)既存のシステムの改良もしていることを考えると、イスラエルが近い将来にその地位を失う可能性は極めて低いと思われます。



 「スカイストライカー」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争やそれ以前にあった小競り合いでアゼルバイジャンがアルメニア側に対して実戦投入され、多大な効果を発揮しました。

 アゼルバイジャンはスカイストライカーの初期型(下の画像)及びトルクメニスタンも採用した最新型を運用しています。

 1機100万ドル(約1.1億円)と云われるIAI「ハロップ」と比較すると、 「スカイストライカー」は価格が大幅に低いものとなっています。「ハロップ」用の移動式発射システムは合計9機を搭載可能で価格は900万ドル(約10億円)ですが、これは「バイラクタルTB2」UCAV2機分の輸出価格とほぼ同じなのです!この価格で「ハロップ」は1,000kmの射程距離と23kgの弾頭を誇るのに対し、「スカイストライカー」は射程距離が約100kmで、ほとんどの目標を一撃で破壊することに十分な5kgまたは10kgの弾頭を搭載しています。[4][5] [6]

 目標地点に到達すると、この徘徊兵器は5kg弾頭を搭載している場合は最大で2時間、10kg弾頭の場合は最大で1時間は標的を捜索するために滞空することが可能であるほか、仮に標的を発見できなかった場合、「スカイストライカー」は基地に戻して回収することが可能というメリットを持っています。[5]

 巡航中と滞空中の「スカイストライカー」は自律航法を用いますが、標的をロックする際にはジンバル式2重赤外線シーカーに切り替わります。この徘徊兵器が目標に向かって最後の急降下をする間の速度は時速555km以上にも達しますが、最大40ノット(74.08km/h)の風にも精度を僅かに低下させるだけのレベルで耐えることができるため大きな問題とはなりません。[5]

牽引式発射機に搭載されたアゼルバイジャンの「スカイストライカー(初期型)」

 「スカイストライカー」の導入は、間違いなくトルクメニスタンの無人攻撃能力を大きく向上させます。

 この国による徘徊兵器「スカイストライカー」と「バイラクタルTB2」UCAVの調達は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニア軍に対して激しい戦闘を経験したアゼルバイジャンが保有する無人兵器の構成を模倣したようです。

 世界中のどこの国でもこの戦争の成功を再現することに熱心であり、モロッコはトルコの「バイラクタルTB2」UCAVとイスラエルの(「スカイストライカー」と思しき)詳細不明の徘徊兵器を入手しました。

  これらの国々は将来における無人機戦のパイオニアであり、より多くの国が確実に彼らの例に倣うことでしょう。


[1] Turkmenistan’s Freak UCAV: The WJ-600A/D https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkmenistans-freak-ucav-wj-600ad.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Nurmagomedov’s Birds Of Prey: The Italian Falco XN UAV In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/nurmagomedovs-birds-of-prey-italian.html
[4] Harop Loitering Munitions UCAV System https://www.airforce-technology.com/projects/haroploiteringmuniti/
[5] SkyStrikerTactical loitering munitions for covert and precise airstrikes https://elbitsystems.com/media/SkyStriker.pdf
[6] Army buys 'Skystrikers' to carry out Balakot-type missions: How these drones act as force multipliers https://www.timesnownews.com/india/article/army-buys-skystrikers-to-carry-out-balakot-type-missions-how-these-drones-act-as-force-multipliers/807739

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2023年6月14日水曜日

久しぶりのロシア製:トルクメニスタンの「タイフーン」MRAP


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2000年代後半、ロシアの兵器メーカーにとって今後のトルクメニスタンとのビジネスの見通しが有望視されていたに違いありません。なぜならば、当時はトルクメニスタンから装甲戦闘車両(AFV)やヘリコプター、艦船などの受注が絶え間なく舞い込んできたからです。

 ところが、トルクメニスタンは軍の近代化をロシアにかなり依存していましたものの、ほどなくして同国からロシア製兵器の発注がすぐに途絶え始めました。その代わり、トルクメニスタンはロシアやウクライナの武器メーカーを犠牲にして、他国の数多くある兵器メーカーを含むように兵器類のサプライヤーの多角化を図りました。

 この突然の調達方針の転換によって、機械化部隊にあるソ連時代の装備類をロシアの「T-90S」戦車と「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)で部分的に置き換えて近代化を図るというトルクメニスタンの計画はほぼ終止符を打たれてしまったようです。

 一見して装輪式AFVを好むこの国の新たな防衛ドクトリンのおかげで、前述のロシア製AFVは最終的にごく少数の導入で終わりました。前者は歩兵機動車が中核となっており、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAE、韓国、オーストリア、イタリア、そしてベラルーシなどの国々から調達されました。

 それにもかかわらず、2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードで、トルクメニスタンが兵器類の供給に関して再度ロシアに目を向けたことが明らかとなりました。驚くべきことに、「カマズ-63968 "タイフーン" 」耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)が初めて軍事パレードに登場・初披露されたのです。[1]

 残念ながら、実際にこのMRAPが調達された数の情報が皆無に近いため、現時点では運用テストのための少数の導入にとどまっている可能性があります(注:たった1台という情報がある)。

 「カマズ-63968」は2016年にシリアで同国に展開したロシア軍によって戦闘デビューを果たしており、今回のパレードでトルクメニスタンがその初の輸出先として判明したということです。

 世界中の他のMRAPとは異なって、「タイフーン」は固有の武装を備えていませんが、顧客の要求に応じて12.7mm銃機関銃を備えた遠隔操作式銃架(RWS)を装備することが可能となっています。[2]

 それでもなお、ロシア軍もトルクメニスタン軍も今のところ「タイフーン」用にRWSを調達したことはないようです。

00年代後半に引き渡された数少ない「BMP-3」IFVの1台(00年代後半か10年代前半の軍事パレードにて)

 「タイフーン」はカマズ社とウラル社が設計したMRAPシリーズであり、兵員の輸送だけでなく、より特殊な任務のためのベース車両として用いられることを意図して開発されました。

 このMRAPは底部のV字型モノコック構造は車体や乗員を爆風から遠ざけることによって、地雷に対する高い防護性能を確保しているほか、車内には2名の乗員と最大16名人の兵員用に耐衝撃・衝撃吸収座席が設けられています。

 全周囲に14.5mm徹甲弾に耐える装甲を施されていることから、「カマズ-63968」はこのクラスで最も優れた防護性能を持つ車両の1つとなっています。



 以前のロシア製AFVと比較すると、「カマズ-63968」の人間工学は著しく改善されています。例えば、このMRAPの前面、背面、両側面にはビデオカメラが搭載されているため、車内にいながら周囲を視察したり、フロントガラスに銃弾が撃ち込まれて視界不良になった場合でも車両を操縦することを可能にしています。

 16人の兵員は車両後部のランプ・ドアで乗降するほか、天井に設置されている合計で7つのハッチからも緊急時に脱出することができます。

1台のイスラエル製「コンバットガード 4x4」 IMVに続き、3台の中国製「EQ2050」と1台の「カマズ-63968 」MRAPが行進しています。

 トルクメニスタンによる兵器類の爆買いは長期間続く可能性が高く、すでに毎年の多数の新型車両や航空機、そして艦艇の披露で国際的なアナリストを驚かせています。

 これがロシアからの新たな兵器類の調達に含まれることになるのかはまだ不明ですが、最近になってトルクメニスタンが国内全域で救急搬送任務を行うために救急搬送仕様の「Mi-17」と「アンサット」ヘリコプターを発注したことは、ロシアが手頃な価格の軍事・航空技術の供給源として忘れられていないことを裏付けています。[3]

トルクメニスタン陸軍の「BTR-80A」IFV

[1] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[2] https://i.postimg.cc/j2Sr8FLB/438.png
[3] Russian Company Delivers Ansat, Mi-17-1W Ambulance Helicopters to Turkmenistan https://business.com.tm/post/6900/russian-company-delivers-ansat-mi171w-ambulance-helicopters-to-turkmenistan

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2023年2月3日金曜日

最後の中国製無人機:トルクメニスタンの「CH-3A」UCAV



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 中国製無人戦闘機(UCAV)の商業的成功については、中東、中央アジア、北アフリカの国々がこれまでになく大量の「翼竜」や「CH」シリーズUCAVを導入したことから、かつてはその快進撃を止めることができないだろうと思われていました。

 しかし、この素晴らしい販売実績の理由は、明らかに中国製UCAVが好まれていたということではなかったようです。それどころか、ここ10年の前半はUCAV市場にはほとんど競争がありませんでした。特にUCAVの導入を検討している国がアメリカから武器を調達できる余裕を持っていなかった場合は選択肢自体が事実上中国に限られていたのです。

 ただし、米国と密接な関係にある国でさえ、大抵は武装型「MQ-1 "プレデター "」や「MQ-9 "リーパー"」の購入が禁じられていたり、(トルコの場合のように)特定の地域には展開させないという約束の下でしか入手できませんでした。

 ロシアといったほかの主要な武器生産国はいまだにUCAVの量産や実用化に至っておらず、イスラエルは武装ドローンの輸出販売をしていません。

 競争市場では、生産者が互いに競争することによって販売価格が押し下げられる効果が生じます。

 UCAVの主要生産国としてトルコが出現したことは、ほぼ間違いなく中国を犠牲にする形で武装ドローン市場を一変させました。ただし、UCAV生産国としてのトルコの台頭は、2010年代初頭のトルクメニスタンが必要としていたUCAVのニーズに対応するにはあまりにも遅すぎましたのは周知のとおりでしょう。

 当時は中国からUCAVを調達する以外に選択する余地がほとんど無い状況に迫られていたため、トルクメニスタン空軍はまさにその現状に従って「CASC」「CASIC」「CH-3A」「WJ-600A/D」UCAVを大量に発注しました。[1]

 これらは2016年に実施された独立25周年記念日の軍事パレードで盛大なファンファーレと共に披露されたものの、調達数やその後のトルクメニスタンでの運用に関する情報はほとんど知られていません。

 トルクメニスタンの「CH-3A」で判明していることは、2011年にイタリアから購入した3機の「セレックスES(現レオナルドS.p.A.)」社「ファルコXN」無人偵察機と共に、アク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることです。[2]

 「CH-3A」は左右の主翼にハードポイントを各1基ずつ備えているため、最大で8kmの射程を持つ「AR-1」空対地ミサイル(ASM)を2発搭載するのが標準的な武装となっています。

 また、このUCAVの巡航速度は 200km/hであり、12時間程度の滞空性能を誇ります。現代の基準からすると物足りませんが、それでもジェットエンジンを搭載した「WJ-600A/D」の3〜5時間という滞空時間を上回っています。[4]

アク・テペ・ベズメイン空軍基地で、中国製「FD-2000」及び「KS-1」地対空ミサイルシステムの前を自転車に乗って通過するグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領。「CH-3A」が「KS-1A」の右に置かれている様子は注目すべきことであり、これが2016年の軍事パレードに登場して以降に公開された同UCAV唯一の資料です。

 トルクメニスタンが追加の「CH-3A」、「CH-4B」、あるいは「翼竜」UCAVを導入する代わりに「バイラクタルTB2」を調達するという決定は、「バイカル・テクノロジー」社にとってさらなる注目すべき成功の1つです。[5]

 トルクメニスタンはTB2を導入した5番目の国であり、同機はこれまでに28カ国以上に販売されました。[6]

 武装ドローンの調達における世界的変化は、中国とアメリカという伝統的なサプライヤーを犠牲にしながら表面化しはじめています。このことは一度は停滞した市場を競合する他社から奪取できることを証明しており、この偉業はトルクメニスタンの「CH-3A」と「バイラクタルTB2」によって象徴されているのです。

主翼に「AR-1」空対地ミサイルを搭載した状態で軍事パレードに登場した「CH-3A」

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



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2023年1月13日金曜日

ベルディムハメドフの荒鷲:トルクメニスタンのイタリア製「ファルコXN」UAV

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンはイタリア製品:軍備や(そして特に)大理石の主要な買い手です。首都であるアシガバートは白い大理石で作られた建造物の密度が世界で最も高い都市としてギネスブックに認定されており、「ホワイト・シティ」というニックネームが付けられています。[1]

 この国のイタリア製品に対する愛着は軍隊の保有装備にも持ち込まれており、近年では戦闘機、装甲車両、そして対艦ミサイルといったあらゆる装備がイタリアから調達されています。[2] [3] 

 イタリアの「ARX-160」はトルクメニスタン軍の主力小銃でもあり、2021年に実施された独立記念日の軍事パレードでは、イタリアからの武器の調達が依然として盛んに行われていることが示されました。[4]

 約10年前、「セレックスES」社によって設計されたイタリアの「ファルコXN」無人航空機(UAV)は、トルクメニスタンが初めて導入したイタリア製兵器類の1つでした(注:「セレックスES」社は後に「レオナルド」社に統合されました)。[5] [6]

 また、「ファルコ」は同国初の大型UAVでもあり、同国軍ですでに運用されていたイスラエルの「オービター2B」「スカイラーク」といった多数の小型軽量型UAVの能力をもカバーしました。

 「ファルコ」は同クラスの無人機としては初めて中央アジア地域で運用が開始された最初の機体となりましたが、数年後に中国からの「翼竜Ⅰ」「CH-3A」、そして「WJ-600A/D」無人戦闘航空機(UCAV)の納入によって非常に目立たない存在にさせられてしまいました。

 トルクメニスタンが導入したイタリア製UAVの数は3機と少数であり、軍事演習で撮影された映像も極めて少ないことから、同国における「ファルコXN」の運用状況はほとんど知られていません。毎年恒例の軍事パレードに登場していることを除けば、このUAVはたった一度しか目撃されていません。

 それでも、「ファルコ」が僅かに登場した数秒の映像は、同機がアシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることを把握するには十分なものでした。この映像では、2013年にアシガバート郊外に建立された馬の地上絵の上を「ファルコ」が飛行している様子を観ることができました(下の画像)。

「タマム」FLIR装置を搭載したトルクメニスタンの「ファルコ」UAVがアク・テペ・ベズメイン空軍基地近くにある巨大な馬の地上絵の上空を飛行している様子。左上に滑走路の端が見えることに注目。

 「ファルコ」UAVは、パキスタン、バングラデシュ、サウジアラビア、ヨルダン、そしてトルクメニスタンで使用されており、リビアへも複数のシステムを販売する予定でしたが、2011年にリビアのカダフィ体制崩壊によって契約自体も瓦解してしまいました。

 このUAVシステムは最大上昇限度が5,000mで、最大で14時間の滞空性能を誇ります。

 製造元である「セレックスES」社は「ファルコ」にインテグレートするための多数のセンサー類も売り込んでおり、それらには3種類のFLIR(前方監視型赤外線)装置、マルチモード監視レーダー、「PicoSAR」または「オスプレイ」マルチモードAESAレーダー(後者はポーランドが「バイラクタルTB2」用に導入)が含まれています。[7]

 また、「ファルコ」は「SAGE」電波探知装置を搭載することも可能ですが、似たような見た目の中国製「CH-3A」とは異なって武装を搭載することはできません。[7]

 トルクメニスタンの場合、胴体の下にFLIR装置だけを搭載した純粋な偵察仕様の「ファルコ」を導入したと考えられています。



 「ファルコ」UAVを導入して10年後、トルクメニスタンは自国の空軍を強化するために再びイタリアへ目を向けました。

 2020年5月、イタリア上院は、トルクメニスタンが2019年に4機のM-346FA(戦闘攻撃機型)と2機のM-346FT(訓練機型)を2億931万ユーロ(約388億円)で発注したことを明らかにしました。[8]

 また、トルクメニスタンは2機の「C-27J NG」輸送機もイタリアから調達しました。 [9]

 ブラジルから5機の「A-29B "スーパーツカノ"」軽攻撃機を調達したことに加えてこれらのイタリア機を導入したことは、トルクメニスタンによる軍を近代化するという試みが決して形だけの努力ではないことを示しています。実際、今やトルクメニスタン空軍はこの地域で最も高度な戦闘機とU(C)AVを運用している空軍となっています。[10]

6機編隊でフライパスを披露するトルクメニスタンの「M-346」

「An-74TK-200」に先導されてフライパスを披露する2機の「 C-27J NG」(2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードにて)

 「ファルコ」の武装搭載型や「P.1HH "ハンマーヘッド"」 MALE型UASを含むほかのイタリア製無人機の設計・開発が事実上停止しているため(「ファルコ・エクスプローラー」ISR機の場合、目新しい機能は全くありません)、ほかのイタリア製UAVがトルクメニスタン軍に就役するチャンスはほとんど無いでしょう。

 その代わり、近年のトルクメニスタンは無人機を中国、イスラエル、トルコから調達していることから、今後はより多くの無人機戦力を得るために後者の2カ国に依存する可能性があります。

 いつの日か、そのような新型無人機が「ファルコ」を置き換えることになることについては疑う余地がありません。その日が来るまで、「ファルコ」UAVは(おそらく)導入されることが想定外だった運用国で、忠実に任務を果たし続けるでしょう。



[1] Turkmenistan's Capital Named World's 'White-Marble' City https://www.rferl.org/a/turkmenistan-marble-record-architecture/24998685.html
[2] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[3] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[4] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[5] Italia: ecco le armi esportate da Berlusconi a dittatori e regimi autoritari https://www.unimondo.org/Notizie/Italia-ecco-le-armi-esportate-da-Berlusconi-a-dittatori-e-regimi-autoritari-135097
[6] L’export armato italiano ai regimi dell’ex URSS Intervista a Giorgio Beretta https://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/L-export-armato-italiano-ai-regimi-dell-ex-URSS-Intervista-a-Giorgio-Beretta-b0a850b2-32fd-457e-b715-9f43da2b047e.html?refresh_ce
[7] Diminutive Falco UAV is first to carry both video and radar https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2009-11-12/diminutive-falco-uav-first-carry-both-video-and-radar
[8] Turkmenistan's air force operating new M-346FA, C-27J, and A-29 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/turkmenistans-air-force-operating-new-m-346fa-c-27j-and-a-29-aircraft
[9] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[10] Turkmen Tucanos: Turkmenistan Unveils A-29B Attack Aircraft https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/turkmen-tucanos-turkmenistan-unveils.html

※  当記事は、2021年12月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年10月18日火曜日

トルクメニスタンの風変わりなUCAV:中国製「WJ-600A/D」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは中国から購入した多数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しています。ナイジェリア、アルジェリア、ミャンマー、そしてパキスタンにも輸出された「CH-3A」を別とすれば、トルクメニスタン空軍はまだ世界中のどこの国でも導入されていない独特なドローンも調達しました。それが今回のテーマである「WJ-600A/D」です。

 この型破りなUCAVは、ロケット補助推進離陸(RATO)で発進し、任務を終えた後にパラシュートで着地・回収されるという世界でも数少ない武装ドローンの1つです。

 ほぼ間違いなく「WJ-600A/D」は見た目からするとUCAVというよりも巡航ミサイルにしか見えませんが、同機は世界中に存在するUCAVの大半が用いているターボプロップエンジンの代わりにターボファンエンジンを搭載することによって、従来型のUCAVよりも著しい高速性能を持つことに成功しています。

 「CH-3A」の速度がたった200km/h程度であることと比較すると、「WJ-600A/D」はこのエンジンのおかげで最大で700km/hという素晴らしい速度を誇ります。とはいえ、約3〜5時間の滞空性能は、約12時間の滞空性能を誇る「CH-3A」をはるかに下回っています。[1]

 その結果としてもたらされる航続距離は従来型機とそれほど違わないものとなりましたが、UCAVは頻繁に戦場の上空をパトロールや攻撃可能な標的を索敵するために飛び回り続けるため、確かに「WJ-600A/D」はやや独特でニッチなニーズを満たした機体と言うことができます。

 「WJ-600A/D」はCASIC (中国航天科工集团有限公司)「HW-600 "スカイホーク"(WJ-600)」の発展型であり、偵察任務と対地攻撃任務の双方を実施できる能力を有しています。

 トルクメニスタンがパレードで公開した機体では見られませんでしたが、このUCAVには胴体下部にFLIR(前方監視型赤外線装置)が搭載されています。

 このUCAVに採用されたデザインを考慮すると、探知されることを避けるために速度と小型巡航ミサイルのような低RCS(レーダー反射断面積)を活用し、敵地の奥深くで攻撃任務を行うことに重点を置いたものに見えます。

 UCAVの「CH」シリーズと「翼竜」シリーズをそれぞれ開発しているCASCとCAIGの成功のおかげで、CASICはほとんど影に隠れた存在のままとなっています。トルクメニスタンへの「WJ-600A/D」の販売がCASIが成功した唯一知られている輸出実績ですが、最終的に何機を販売できたのかは知られていません。

 2018年、CASICはジェットエンジンを搭載した「WJ-700」UCAVを発表しました。同機は「WJ-600A/D」の高速性能と低RCSをより従来型機的なデザインに組み合わせたものであり、素晴らしいペイロードを誇っています。



 「WJ-600A/D」は最大で2発の「CM-502KG」空対地ミサイル(AGM)で武装させることができます。このミサイルは「AR-1B/AR-2」の長射程及び高威力化を図った発展型であり、11kgの弾頭と最大有効射程が25kmの性能を有しています。

 「WJ-600A/D」には別の兵装もインテグレートできる可能性はありますが、トルクメニスタンが「CM-502KG」以外の兵装を導入したか否かは現時点では不明です。より小型の「AR-1」はトルクメニスタンで運用されている「CH-3A」のみならず「WJ-600A/D」にも搭載できることは言うまでもないでしょう。




 トルクメニスタンで運用されている、補助推進ロケットを用いたもう1つの中国製UAVは「S300」シリーズ無人標的機です(注:似た名前の「S-300」地対空ミサイルシステムと混同しないでください)。

 「S300」は2010年代半ばに同じサプライヤー(中国)から調達した「FM-90」「KS-1A」「FD-2000」地対空ミサイルシステムの標的用として、「ASN-9」と共に大量に導入されました。

 トルクメニスタンにおける運用では、「S300」と「ASN-9」はいまだに僅かに運用が続けられているソ連時代の「La-17」無人標的機の後継機種として活用されているようです。ちなみに、「La-17」もRATOブースターで発射される方式の無人機でした(ブースターは前述の無人機と異なり、両主翼の付け根に装備されていました)。

トルクメニスタンの防空演習で発射される直前の「S300」

「WJ-600A/D」が射出された瞬間

 当初、トルクメニスタンは中国製の「WJ-600A/D」と「CH-3A」やベラルーシの「ブセル-MB2」を当てにして武装UAVの戦力を構築していましたが、最近ではイスラエルやトルコにも目を向けてUCAVを追加購入し始めています。[2] [3]

 トルコとの取引については、UAVの運用を念頭に置いて特別に設計された、この地域では初となる空軍基地の建設も含まれていました。[2]

 これらの調達のおかげで同国が中国製のUCAVをさらに導入することについて、当分の間は起こりそうにないことは間違いないと思われます。

 それでも、「WJ-600A/D」は現在の世の中に存在している最も独特な戦闘ドローンの1つとして今後も運用され続け、トルクメニスタンに多くの国々には真似できない特殊な戦力をもたらすことでしょう。



[1] CASIC WJ-600 Reconnaissance Strike UAV https://www.militarydrones.org.cn/casic-wj-600-uav-price-china-manufacturer-procurement-portal-p00172p1.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2022年10月15日土曜日

"ペイシャント・ゼロ" :トルクメニスタンが救急搬送用にカザン「アンサット」と「Mi-17-1V」ヘリコプターを導入した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 今のトルクメニスタンは、同国の歴史上で最大の航空機購入ラッシュの中にあります。

 これまでにトルクメニスタン空軍には「M-346」軽戦闘機と「A-29B」攻撃機、「C-27J NG」輸送機、そして「バイラクタルTB2」UCAVを、トルクメニスタン航空には「ボーイング777-200LR」旅客機4機とエアバス「A330-2002P2F」貨物機2機を導入しています。[1] [2]
 

 また、全国各地で救急医療サービスを提供するために、「 Mi-17-1V」とカザン「アンサット」も1機ずつ導入されました。[3]

 これらのヘリコプターは2021年4月と5月に納入されてトルクメニスタン航空で就航しましたが、運用自体は保健・医療工業省のために行われます。[4]

 航空救急の利用は、中央アジアでは比較的斬新な偉業です。カザフスタンだけが医療専用のヘリコプターを多数運用しており、キルギスやタジキスタンといった国々はすでに小規模な空軍の維持ことですら苦労しているため、そのようなヘリコプター部隊を運用すること自体がほぼ不可能なことは言うまでもないでしょう。

 ユーロコプター製「EC135」と「EC145」(現エアバス・ヘリコプターズの「H135」と「H145」)は、特に救急医療サービス用のヘリコプターとして特に人気があることが実証されています。トルクメニスタンはすでに多数の「EC145」を運用しているのに、それでもロシア製ヘリを調達することが決定されたのです。[5]

 「アンサット」と「 Mi-17-1V」ヘリコプターを供給する契約については、2020年3月にカザン・ヘリコプターとトルクメニスタン航空の間で締結されました。[3]

 両ヘリコプターは、人工呼吸器、心電図解析装置、気管挿管セット、除細動器を含む特殊な医療機器を装備しています。[6]

 「Mi-17-1V」には、航続距離を延長するための2個の機外燃料タンクや「SLG-300」ホイストシステム、そして最大4トンまでの貨物を吊り下げて輸送するためのスリング装置を追加装備されています。[4]

 2020年11月には、トルクメニスタンの(技術者や操縦要員を含む)航空専門家30人が、発注したヘリコプターを生産しているロシア・タタールスタン共和国のカザン・ヘリコプター製造工場で訓練を開始しました。[6]

「Mi-17-1V(左)」とカザン「アンサット(右)」。Mi-17の機外燃料タンクに注目。

 両ヘリコプターはアシガバート国際空港(IAP)を拠点にしている可能性が高いと思われます。トルクメニスタンの推定人口約600万人の約6分の1(つまり100万人)が首都:アシガバートに住んでおり、国内で最も現代的な病院もここにあることを考慮すれば、そこを拠点にするのは不思議なことではないでしょう。一部を除いて全ての現代的な病院には、「アンサット」と「Mi-17」を運用可能にするヘリポートを備えられています。 

 首都以外の大規模な人口集中地域としては、ダショグズ、テュルクメナバート、マリーがあります。これらの都市やほかの地域をよりうまくカバーするため、将来的にさらに多くのヘリコプターを導入することについては非現実的な話ではないように思えます。


グルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領に医療目的用のカザン「アンサット」導入構想がプレゼンされている様子(2020年1月)

 世界中のどこでも見かける「Mi-17」と比べると、カザンの「アンサット」はまだ大きな商業的成功を収めていません。 

 1990年代以降に、ロシアは「Mi-38」、「Ka-62」、「アンサット」といった数種類の最新型多目的ヘリを開発・売り込んできたにもかかわらず、優れた「Mi-17」は依然として輸出に人気があります。この原設計が古いヘリコプターは現在も新モデルがリリースされていることから、この状況がすぐに変わらないことは確実のようです。[7]

 これまでに「アンサット」は、ロシアの複数の顧客、メキシコの「クラフト・アヴィア・センター」社、スルプスカ共和国内務省、そして現在ではトルクメニスタン航空でも就航しています。[8] [9]

[1] The new passenger airliner "Boeing 777-200LR" has arrived in Turkmenistan https://caa.gov.tm/en/item/232
[3] Acquisition of ANSAT and Mi-17-1V medical helicopters https://caa.gov.tm/en/item/213
[4] Special helicopter purchased in Russia arrives in Turkmenistan https://turkmenportal.com/en/blog/35764/special-helicopter-purchased-in-russia-arrives-in-turkmenistan 
[8] Mexico's Craft to put Ansat into action https://www.businessairnews.com/mag_story.html?ident=18931  
 
 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇
 所があります。
 

 
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2022年10月8日土曜日

輸出成功への第一歩:トルクメニスタンに採用されたセルビアの「ラザー3」歩兵戦闘車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは、世界各国から導入した多種多様な装甲戦闘車(AFV)から構成される戦力を保有しています。興味深いことに、これらの導入の多くは実際に正真正銘の軍事的に必要とされる装備を充実させるというよりも、特定の国との関係を強化する意図から行われているようです。

 この「武器の買収を通じた友好」政策は、ますます複雑化する兵站システムに負担をもたらしており、今やトルクメニスタンの歩兵機動車(IMV)だけのために10数カ国からスペアパーツを調達しなければならなくなったのです!

 最近のAFVのサプライヤーの1つはセルビアであり、2021年にトルクメニスタンへ詳細不明の数の8x8「ラザー3」歩兵戦闘車(IFV)を供給しました。

 トルクメニスタンが膨大な数のIMV群を保有しているのと同様に、「ラザー3」の導入もセルビアとの政治的な結びつきを強化するための試みである可能性があります。なぜならば、トルクメニスタンはすでに同種の装甲兵員輸送車(APC)やIFVを複数保有しているからです。この中には「BTR-80A」 IFVや大量の「BTR-70」と「BTR-80」 APCが含まれており、その多くは最近にウクライナとトルコによってアップグレードされました。[1] [2]

 トルクメニスタンの「ラザー3」には、12.7mm重機関銃を備えた遠隔操作式銃架(RWS)やセルビア国産の砲塔ではなく、通常は「BTR-80A」に搭載されているロシアの「MB2」外装式砲塔(30mm機関砲)が装備されています。この砲塔を装備したことによって、「ラザー3」は実質的にはAPCではなくIFVとなりました(注:本来、「ラザー3」はAPCに分類されています)。

 車体のエンブレムやデジタル迷彩パターンに用いられている色が示しているとおり、このIFVは予想に反してトルクメニスタン陸軍ではなく国家保安省で運用が開始されました。



 トルクメニスタンによる「ラザー3」の導入が最初に報じられたのは2021年初頭のことでした。[3]

 しかし、「ラザー3」を本当に調達したという証拠が最初に公開されたのは、2021年9月に行われたトルクメニスタン独立30周年記念パレードに2台が登場した際のことでした。つまり、調達情報がリリースされてから数ヶ月以上の時間がかかってようやく事実が確認されたということです。[4]

 トルクメニスタンが導入した正確な数は現在時点では不明のままです。「MB2」砲塔を装備している以外でトルクメニスタンの「ラザー3」で判明していることは、国家保安省に納入された最初のIFVということだけです(ちなみに、同IFVは8人の兵員とその装備を収容することが可能です)。

 また、国家保安省が新たに導入した別の車両には、イスラエルのプラサン「ストームライダ」IMVがあります。[3]

 さらに、2021年にはイヴェコ「LMV(Light Multirole Vehicle)」IMVもこの機関に導入されたことが確認されました。[5]

 そして同省ではユーロコプタ「EC145」とロビンソン「R44」ヘリコプターも多数運用しており、大規模な装備調達の流れが近いうち減速する兆候は見られません。

 トルクメニスタンの国境警備隊や内務省も同様に、膨大な量の重火器や航空機、さらには艦艇も運用しています。

1台のイヴェコ「LMV」と複数のプラサン「ストームライダー」の後に2台の「ラザー3」が続く(トルクメニスタン独立30周年記念パレードにて)

 「ラザー3」はセルビアの「ユーゴインポート SDPR」によって設計・開発されたAFVファミリーの最新型です。この車両は幅広いミッションに対応可能なAPCやIFV、そして装甲救急車両として設計されたものであり、「RALAS」長距離多目的ミサイルを8発搭載したバージョンさえ存在します。

 (トルクメニスタン以外で)「ラザー3」を導入しているのはセルビアだけであり、陸軍の歩兵大隊と国家憲兵隊用に数十台程度の車両が調達されました。これらには「MB2-03」30mm機関砲塔か12.7mm重機関銃装備型RWSが搭載されています。

 また、セルビアは独自に設計した「ケルベル」20mm機関砲装備型RWSとロシアの「32V01」30mm機関砲装備型 RWSも新たに調達した「ラザー3」へ搭載しました。[6]

 最近になって潜在的な顧客に売り込み始めた別の兵装システムは、「M53/59 "プラガ" 」30mm機関砲2門と「ノヴァ」対戦車ミサイル4発を搭載しています(下の画像)

 通常、「ラザー3」には車体側面の片側に5個の銃眼が設けられていますが、搭載する砲塔の種類によって4個しか銃眼が存在しないタイプもあります(後者はトルクメニスタンの車両に当てはまります)。



 現在、セルビアの武器産業は多数の高度な各種装備を売り込んでいます。それにもかかわらず、実際の輸出は今まで主に小火器と「B-52 "ノーラ" 」自走榴弾砲に限られていましたが、トルクメニスタンへの「ラザー3」の販売は注目すべき例外となります。

 これらが導入された理由がセルビアとの関係強化のためなのか、それとも国家保安省が実際に必要としていたからなのかは不明ですが、最終的にはたいした問題ではありません。「ラザー3」と新型の「ラザンスキー8x8」IFVの継続的な発展と開発を進めれば、今回の取引に支えられてすぐに全く新しい顧客を引き寄せる可能性があります(注:トルクメニスタンの導入に注目して他国が追随して導入する可能性があるということ)。

 そして、場合によっては – 再びトルクメニスタンがそれらを最初に導入するかもしれません。



[1] https://i.postimg.cc/hjSY43j5/u1.jpg
[2] https://i.postimg.cc/C1LvpBry/688.jpg
[3] Набавка нових "Лазара 3" за Војску Србије, вредност уговора 3,7 милијарди динара https://www.rts.rs/page/stories/ci/story/124/drustvo/4301968/lazar-vojska-nabavka.html
[4] Snaps From Ashgabat: Turkmenistan’s 2021 Military Parade https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/snaps-from-ashgabat-turkmenistans-2021.html
[5] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[6] Partner 2021: Serbia integrates Russian unmanned weapon stations on Lazar III A1 ACVs https://www.janes.com/defence-news/land-forces/latest/partner-2021-serbia-integrates-russian-unmanned-weapon-stations-on-lazar-iii-a1-acvs

※  当記事は、2021年12月1日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。

2022年10月4日火曜日

ニューフェイス:トルクメニスタンが新たに導入した「バイラクタルTB2」を公開した


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo 

 トルクメニスタンが持つ軍事力の最新の公開は独立30周年を記念した軍事パレードという形で行われ、豪華な行進、乗馬隊や装甲戦闘車両の列など、中央アジアの隔絶された国として海外のウォッチャーに期待されるようになった特色が再び披露されました。

 また、2021年のパレードでは、新たに導入したトルコの無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」も初公開されました。トルクメニスタンによるTB2の調達は、今や悪名高くなった相次ぐ兵器の導入の中でも最も新しいものです。

 実際、直近でTB2を導入したモロッコを含めると、「バイラクタルTB2」は現在までに運用国の数を踏まえると最も商業的に成功しているUCAVです。

 直接的な(中国の)競合機種である「翼竜Ⅰ/Ⅱ」と「CH」シリーズUCAVはその低いコストとアメリカや欧州諸国が一般的に課す利用制限がないため、すぐに国際的な人気を博し、結果的にトルクメニスタンも2016年と2017年に複数の中国製ドローンを導入しました。

 しかし、中国製UCAVの性能には不十分な点が多く、ヨルダンは「CH-4B」を購入してから2年足らずで全機を売りに出してしまいました。[1]

 イラクでの同型機も同じようなもので、導入した20機のうちの8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために現在も格納庫で放置され続けています(注:2022年8月に最初の「CH-4B」が運用に復帰したと報じられました)。 [2]

 トルクメニスタンが中国製の「CH-3A」「WJ-600A/D」 UCAVを運用している際に同じ問題に遭遇し、最終的にはよりコストパフォーマンスに優れた代替機としてトルコから「バイラクタルTB2」を導入するに至ったとは考えられないことではありません。


  トルクメニスタンのTB2には、カナダの「MX-15D」やトルコのアセルサン社の「CATS」FLIRシステムではなく、ドイツ・ヘンゾルト社の「アルゴス-II HDT」 電子光学/赤外線・FLIRシステムが装備されています。TB2が採用しているモジュラー方式はいくつかの異なる種類のFLIRシステムを搭載することを可能にしており、この特徴がTB2の商業的成功に大きく貢献した可能性があります。

 トルクメニスタンのTB2には以前のバージョンよりも多くの改良が加えられています。例えば、機体上部の対妨害装置と思われる物体や夜間運用のための2基目の尾翼搭載カメラの追加などがあります。

パレードに登場した3機のTB2のうちの1機。主翼に搭載されている「MAM-C」と「MAM-L」誘導爆弾に注目。

 トルクメニスタンは歴史的に中国やイタリアU(C)AVを首都アシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地で運用してきましたが、「バイラクタルTB2」はUAVの運用を念頭に置いて新たに建設された空軍基地を拠点にするようです。 

 アシガバートの北に位置するこの小さな空軍基地は、2021年2月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領がこの地を訪れた際にはまだ建設中でした。当時、この国を注意深く観察していたウォッチャー(どうやら私たちだけだったかもしれませんが)は、すでにこの空軍基地でまもなく運用されることになるドローンの種類を初めて垣間見ることができていたのです。

右下にある格納庫の内部図にある6機の「バイラクタルTB2」に注目。

 公式には「無人航空機センター」と呼ばれているこの基地は(この類のものでは)この地域では初めてのものであり、トルクメニスタンがUAVとその効果的な運用に高い価値を置いていることを明確に示しています。

 2015年8月にオープンしたこのセンターでは今までに数種類の小型ドローンの製造と組み立てに携わっており、最近の拡張事業ではUAV専用の滑走路を1本備えた小さな飛行場と共にに格納庫などUAVの運用に必要な全てのインフラが整備されました。

 名目上は「無人航空機センター」の工場部分は内務省の管理下にあるものの、「バイラクタルTB2」は内務省航空隊ではなく空軍の仲間入りをすることが予想されます。

 トルクメニスタン政府の多くの省庁は独自の航空アセットを保有しており、現在の内務省はロシア製「Mi-17」、ユーロコプター「AS365」と「EC145」ヘリコプターと数機のキャバロン・オートジャイロを運用しています。


 

 「バイラクタルTB2」の低コスト、高い稼働率、安全性に関する記録、そして優れたアフターサービスの確立は、国際的な成功に不可欠な手法であることがすぐに証明されています。そのような要素に実績のある戦闘ステータスと迅速に生産を増強できる能力を組み合わせたものが、実質的にTB2を同クラスのUCAVの世界市場を席捲する態勢を整えさせ、その過程でドローン戦がより広範囲にわたって展開される時代の到来を告げる大いなる嵐にしているのです。 

 トルクメニスタンの次にTB2を導入するのはどの国でしょうか?

[1] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[2] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[3] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads

※  当記事は2021年9月27日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの         です。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

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2022年9月8日木曜日

アシガバートの「ス-パーツカノ」: トルクメニスタンが「A-29B」攻撃機を公開した



著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは様々な種類の新型戦闘機や輸送機の導入による空軍の近代化を目的として、野心的な再装備プログラムに乗り出しています。その新型機には、イタリアから発注した「M-346FA」軽戦闘攻撃機や「C-27J NG」輸送機が含まれています。

 導入が見込まれていたもう一つの導入機が、これまでに世界中の15カ国以上で購入されたブラジルの「A-29B "スーパーツカノ"」ターボプロップ軽攻撃機です。トルクメニスタンは人気の高い攻撃機の獲得を視野に入れていると以前から噂されており、2019年の短期間に1機の「スーパーツカノ」が同国で試験されたことがありました。

 5機のA-29Bの導入は、トルクメニスタンがアフガニスタンと接している長さ804kmの東部国境沿いにおける治安状況の悪化に直面していることに伴ったものです。

 アメリカがアフガニスタンから撤退した後、この地域の諸国は国境を守ることを急いでいますが、トルクメニスタンはすでに2010年代の初頭から軍の戦力向上に重点を置いた投資を行っていました。

 国内外の脅威に対処するために現代的な装備のストックを大幅に増やして訓練を強化したことを別として、その成果は、中国から数種類の無人戦闘航空機(UCAV)を導入したり、既存の「Su-25」飛行隊の大半をオーバーホールすることでも実現しました。

 アフガニスタンの状況が近い将来にどのように展開し続けるのかを予測することについて、まだ今の時点では困難ですが(注:この記事の執筆はカブール陥落の前に執筆されたものです)、紛争がトルクメニスタン自体を台無しにする恐れがある場合に備えて大規模な国境防御部隊が待機しているなど、トルクメニスタンは現時点で国境沿いにおける紛争が激化する可能性に対処するための最善の準備をしていると言えるかもしれません。

 最も注目すべきこととしては、トルクメニスタン軍は対反乱作戦(COIN)戦術に重点を置いていることと、この地域では数少ない地上目標に対して最新の精密誘導爆弾(PGM)を使用する能力を持つ国の一つであるということがあります。

 さまざまなガンポッド、無誘導ロケット弾、汎用爆弾を使用できることに加えて、「A-29B」は幅広い種類のPGMを搭載することが可能なので、同機はこの分野におけるトルクメニスタンの将来の戦力をさらに強化することに貢献するでしょう。


 トルクメニスタンに到着する前の2021年5月から6月にかけて、カーボベルデ、スペイン領カナリア諸島、ポルトガル、マルタ、そしてトルコを経由して同国へ向かった際の5機が広範囲にわたって撮影されました。[1] [2]

 トルクメニスタンに属する機体であることを示すラウンデルやマークは注意深くテープで隠されていました。しかし、マルタ島のルア空港に立ち寄った際に「A-29B」の尾翼にトルクメニスタン空軍のラウンデルがあることを、大型レンズ付きのデジタルカメラで「武装」した航空機スポッターによって明らかにされてしまいました。[3]

 これらの5機は、フィリピン空軍の「A-29B」でも採用されているものをベースにしたように見える迷彩パターンが施されています。この国々では運用する地域の特性や気候が全く異なっていますが、トルクメニスタン空軍は大半の機体にカラフルな塗装を施していることで知られています。この傾向は、今や「A-29B」や同様に新たに導入したばかりの「M-346」M-346「C-27J NG」にも引き継がれているようです。

 5機のA-29Bは青色で「01」,「02」,「03」,「04」,「05」とシリアルナンバーが付与されており、これらは2021年8月1日にトルクメンバシ国際空港を訪れたトルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)による視察ツアーの放送で初公開されました。

A-29B「青色の02」の視察を終えたグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)

 2019年6月、エンブラル社の「EMB314 "スーパーツカノ"」のデモンストレーション機「PT-ZTU」がトルクメニスタンでデモ飛行を実施しました。

 当時、トルクメニスタン空軍は再装備プログラムのために多数の西側製航空機の導入を検討していたことから、同機や「M-346」、「C-27」、そして「C-295」がそれぞれのメーカーによって同国に売り込むために持ち込まれたのです。

 持ち込まれた機種のうち、どうやら「C-295」だけは調達されていないようです。この機体の導入がまだ計画されているのか、あるいは最終的にイタリアの「C-27JNG」に敗れて頓挫したのかは不明のままです。



 「A-29B」と共にさまざまな種類の搭載兵装も数多く導入されました。これには、主翼内に搭載された「M3」12.7mm 重機関銃2門、70mmロケット弾用の発射ポッド、「BDU-33」訓練爆弾用「SUU-20」ディスペンサー、「Mk-82」500lb 無誘導爆弾、増槽、チャフ・フレア用ディスペンサーが含まれています。

 トルクメニスタン軍に就役した「A-29B」には、(精密誘導爆弾で)攻撃する前に自身の標的を発見・照準することを可能にする電子光学・赤外線センサー:FLIR装置も搭載されています。

 今のところ「A-29B」用のPGMはトルクメニスタンの保有兵器リストには存在していないようですが、将来的には導入されるかもしれません – それはトルコから得る可能性があります。なぜならば、同国は幅広い種類のPGMを製造しており、過去に数多くの兵器をトルクメニスタンに供給してきたからです。



 トルクメニスタンが保有する5機の「A-29B」は、マル市の北部に位置するマル-2空軍基地を拠点にしています。

同基地はマル市周辺に存在する3つの軍用飛行場のうちの1つです:もう1つのマル空軍基地・国際空港は「MiG-29」と「Su-25」の拠点であり、残りの1つは街の中にある、「Mi-17」や「Mi-24」によって使用されているヘリコプター基地です。

 トルクメニスタンではさらに2つの空軍基地に作戦機が恒久的に配備されており、ほかの2つの基地にはSu-25が分遣されています。

 さらにいくつかの空軍基地が運用可能な状態を維持しているため、必要に応じて作戦機を展開させることが可能となっています。アフガニスタンとの国境付近での治安情勢が悪化した場合、例えば、「A-29B」は現時点で2機の「Su-25」が配備されている南部のGalaýmor基地に配備されるかもしれません。

マル-2空軍基地で5機のEMB314「スーパーツカノ」が6機のSu-25と一緒に駐機しています。上に並んでいる退役したSu-17やMi-8ヘリコプター、La-17無人標的機にも注目。

上の画像を拡大図。5機のEMB314の形状がよりはっきりと示されています。

 隣接する多くの国々は老朽化した機体を使用し続けているためにひどく疲弊した空軍を抱えていますが、「A-29B」にM-346軽戦闘攻撃機、そして「C-27J」輸送機を導入したことはトルクメニスタン空軍をこの地域における現代的な空軍の中心に押し上げました。「A-29B」用PGMといった兵装のさらなる導入はこの地位を強化することに貢献し、トルクメニスタン空軍を必要と思われる種類の任務を遂行するための、比較的充実した装備を持つ空軍にさせるでしょう。

 トルクメニスタンの空軍力を増強する動きについては、「A-29B」が私たちが最後に目にするものとならないことは間違いないでしょう。例えばトルコから「バイラクタルTB2」の導入を通じて別方面の戦力の拡大を図ることも考えられないことはありません(注:その後、トルクメニスタンは実際にTB2を導入しました)。



[1] Delivery flight Turkmenistan Super Tucanos https://www.scramble.nl/military-news/delivery-flight-turkmenistan-super-tucanos
[2] Three more Super Tucanos for Turkmenistan https://www.scramble.nl/military-news/three-more-super-tucanos-for-turkmenistan
[3] Turkmenistan Tucanos! https://milavreachout.org/2021/05/28/turkmenistan-tucanos/

  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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