ラベル バイカル社 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル バイカル社 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年4月1日土曜日

艦載機の有力候補:「バイラクタルTB3」がインドネシアへ?


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
 
 「バイカル・テクノロジー」社製UCAVを導入したいということを表明したインドネシアの意思は、いつの日か空母やLHD(強襲揚陸艦)からも運用できる、TB2の重量型として設計された「バイラクタルTB3」に関心を示すことに至るかもしれません。

 インドネシア海軍はすでに、「ディポヌゴロ」級コルベット「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から国産UAV「LSU-02」離陸させる実験を行っています。この実験は艦艇からの離陸のみであって海軍艦艇にUAV運用能力があることを示すものではありませんが、この実験はインドネシアがVTOL型に加えて艦載型の固定翼式UAVの運用に興味を持っていることを明確に示しているように思われます。

 現在、インドネシア海軍は病院船として建造された2隻を含めて計6隻のLPD(ドック型輸送揚陸艦)を運用しています。LPDの3隻は、国営造船所である「PT PAL インドネシア」「マカッサル」級揚陸艦を設計した韓国の「大鮮造船所」と協力し、同揚陸艦の建造ライセンスを得て導入されたものです(注:最初の2隻は韓国で、残りの3隻は国内で建造されました)。2014年6月には、「PT PAL」はフィリピン海軍に2隻のLPDを納入する9200万ドルの契約に署名しました。[3]

 西側諸国における現代艦艇で標準とされるシステムの多くは搭載されずに納入されてはいますが、「マカッサル」級の約4500万ドル(約57億円)という低価格は、インドネシアやフィリピンなどの国にとって実際に経済的な面で入手可能な船であることを意味しています。

 現在、インドネシア海軍は今この先の10年で数隻のヘリコプター揚陸艦(LPH)を調達する意図があると考えられています。 2018年に「PT PAL」は、インドネシア海軍に売り込まれるLPHのベースとなる可能性が高い全長244mのLPHの設計案を公表しました。[4]

 トルコの232mを誇る「アナドル」級LHDと同様に、このLPHはヘリコプターや大型U(C)AVを飛行甲板やハンガーに移動できる大型の後部エレベーターを備えています。「バイラクタルTB3」は当初から空母やLPHからの配備を前提にして設計されているため、その設計の変更をほとんど要せずにインドネシアのLPHで運用可能と思われます。

 TB3は小型で翼が折りたたみ式のため、相当な数を対潜ヘリコプターや他のドローンと一緒に艦載できることから、 インドネシアに初の(無人機)空母をもたらす可能性を秘めていることは言うまでもありません。

インドネシアが構想している244メートル級LPHのイメージ図
 
 「バイラクタルTB3」は280kgのペイロードを搭載しつつ、最大で24時間の滞空が可能です。このペイロードは射程30km以上の「MAM-T」を含む最大で6発の「MAM」シリーズ誘導爆弾や敵のUAV・ヘリコプターを攻撃可能な「サングル」空対空ミサイル、海上捜索レーダー、あるいはそれらの組み合わせで成り立っています。[5] 

 これによって、TB3は敵艦との交戦や上陸作戦の支援、海上監視を行うことが可能となっているのです。

 インドネシアのLPH(LPDと同様に)は低価格が見込まれているため、TB3の導入と組み合わせた場合、これらがインドネシア海軍に全く新しい可能性を切り開く可能性があるでしょう。

  その意味では、ヘリ甲板からUAVを離陸させるだけでは、戦力投射能力を格段に向上させることができるLPHからの真のUCAV運用能力には遠く及びません。

「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から「LSU-02」が発艦した直後のカット

 以前、タイが「HTMS チャクリ・ナルエベト」によってこの地域に空母をもたらすことを試みましたが、同艦の「AV-8S "ハリアー"」は資金不足のため後継機がないまま退役し、今では全長183mの無用の長物と化してしまいました。現在、タイ海軍は運用するのに十分な数のヘリコプターと無人偵察機を保有していないのにもかかわらず、同艦はヘリコプターと無人偵察機用空母としての役割を担っています。

 つまり、「HTMS チャクリ・ナルエベト」は野心が現実に負けた一例であり、必要なアセットがないままプラットホームが取得されてしまった状況を明らかにしているのです。

 このような観点から、共に安価なLPHと「バイラクタルTB3」を調達することは、より費用対効果が高く、リスクの少ない固定翼式洋上偵察・武装アセットを導入する方法であるといえます。もしTB3の成功が証明され、将来的にジェットエンジンを搭載した「バイラクタル・クズルエルマ」UCAVを導入して戦力を拡大するならば、可能な限り低い投資額と引き換えに、インドネシアが現代の海上戦力の最前線にとどまることを保証することになるでしょう。

「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機


[1] Indo Defence 2022: Baykar in talks with Indonesian government on Bayraktar TB2, Akinci UAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indo-defence-2022-baykar-in-talks-with-indonesian-government-on-bayraktar-tb2-akinci-uavs
[2] https://i.postimg.cc/FR8hbv3T/854.png
[3] Philippine Navy Commissions New Ships in 118th Anniversary Celebration https://thediplomat.com/2016/06/philippine-navy-commissions-new-ships-in-118th-anniversary-celebration/
[4] https://i.postimg.cc/gkBHvBTn/776.jpg
[5] BAYRAKTAR TB3 https://baykartech.com/en/bayraktar-tb3/


※  当記事は、2022年11月8日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳    
 したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
 箇所があります。

 

2023年3月22日水曜日

射程275kmの狙撃銃:「バイラクタル・アクンジュ」と「SOM」巡航ミサイル


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 新しいタイプの無人戦闘航空機(UCAV)が登場して以来、無人機戦の分野で完全に新しい能力が到来を告げるまでに驚くほど長い時間がかかりました。UCAVの一部には、従来型よりも搭載量や航続距離を増やしたり、センサー能力を向上させたタイプもありますが、近年のUCAVによる使用のために準備された兵装類にはほとんど革新性がありません。

 これを変えたのは、これまでに製造されたどのタイプのUCAVにも見られなかった数多くの特徴を誇る「バイラクタル・アクンジュ」の登場でした。

 その特徴の一つが、275km以上も離れた目標に向けて高精度の巡航ミサイルを発射できることです。この斬新な能力は、このUCAVにTÜBİTAK(トルコ科学技術研究会議)防衛産業研究開発機関が開発した「SOM」巡航ミサイルをインテグレートすることによって実現されました。

 サイズと重量に制約があるため、巡航ミサイルは1発しか「アクンジュ」の胴体に設けられたハードポイントに搭載できません。それでも、これは世界中のあらゆる無人機が運用できる巡航ミサイルの搭載能力を100%上回っています。

 「SOM」ミサイルを運用できる能力が、決して「アクンジュ」が持つ唯一の切り札ではありません。「アクンジュ」が持つ、間違いなく最も革新的な特徴は、将来的に付与される空対空ミサイル(AAM)の発射能力です。運用可能なAAMは、国産の「ボズドアン」赤外線誘導式AAM、「ゴクドアン」BVRAAM(目視外射程空対空ミサイル)、「スングル」近距離 AAM(FIM-92「スティンガー」MANPADSのトルコ版)で構成されています。

 「アクンジュ」のAESAレーダーは遠距離にいる目標を自律的に見つけ出し、低速で飛行している固定翼機やヘリコプター、その他の無人機を100km離れた位置から攻撃することを可能にします。



 素晴らしい空対空戦闘能力以外では、「アクンジュ」の広範囲にわたる空対地兵装がこの機体の主な(武装面での)最大のセールスポイントになるでしょう。この点では、敵の要塞・艦船や230kgの弾頭を正確に命中させる必要がある標的に使用するために設計された「SOM」巡航ミサイルの複数の派生型を搭載できる能力が、最終的に真のゲームチェンジャーになる可能性があります。

 彼らを搭載した「アクンジュ」はその運用国のUCAV飛行隊の戦力を向上させるだけではなく、ジェット戦闘機を対地攻撃任務から解放して制空任務に充てることも可能にさせます。この偉業は、F-35プログラムから除外された後にトルコにとっては特に貴重なものとなるはずです。



 トルコと「バイカル・テクノロジー」社はこれらの能力や利益をトルコ軍に提供することに加えて、「アクンジュ」を「SOM」のような兵装と一緒に友好国に販売することができるという、やや独特な立場にもあります。

 この点において、彼らは現時点で同じ能力を提供できる国との競争に少しも直面していません。ヨーロッパ、ロシア、中国やアメリカのどれもが同カテゴリーの兵器を外国に引き渡すことができないため、これらの能力は、今はトルコ製兵器の顧客ではない国々に「アクンジュ」の入手の試みをさせる可能性があります。

 当初からさまざまな種類の兵装と「アクンジュ」の互換性があることを考慮すると、パキスタンやブラジルのような国産の巡航ミサイルを運用または開発中の国は、これらの兵装を「アクンジュ」にもインテグレートできる可能性を秘めています。

 外国のシステムを「アクンジュ」にインテグレートできるという事実は大いに評価される見込みがあり、このことは特にアメリカや中国のような従来のサプライヤーの間では全く前例のないレベルの柔軟性を提供します。


 多くの国が新しく調達した西側製の航空機のために高度な兵装を入手しようと苦労している一方で、アメリカや欧州諸国は政治・財政的に妥当なコストでPGMを提供したがらないことが頻繁に証明されていますが、信頼できる代替手段が今や利用可能という事実は市場を大きく揺るがすことを確信しています。

 トルコの無人機プラットフォームと連携して使用される高度な誘導兵器の広範囲にわたる普及は、まだ始まったばかりです。当分の間、その範囲は主に各種PGMで成り立っていますが、現在は巡航ミサイル、近い将来を含めると空対空兵装にまで拡大しつつあります。

 手頃な価格で最終的には消耗品となるプラットホームにどのタスクをアウトソーシングできるかという点で絶え間なく限界に挑み続けている「バイラクタル・アクンジュ」については、間違いなく国際的な顧客が急速に列を作って並ぶでしょう。

2023年3月4日土曜日

稀な理想主義の具現化:「バイカル・テクノロジー」によるウクライナ支援(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

Святість життя полягає в робленні добра людям - 生命の尊厳とは、人々を助けることにある (フルィホーリイ・スコヴォロダ)

 ロシアがウクライナに侵略したことを受けて、多くの国と民間企業がウクライナを支援する行動を起こしています。

 このうちの後者については、「スペースX」社による「スターリンク」衛星インターネットシステムの無償提供、「フィリップ・モリス・インターナショナル」社によるウクライナ軍に対するタバコ50万箱の寄贈、「ウィズ・エア」社による東欧にいるウクライナ難民への無料航空券10万枚の提供など、ウクライナの独立を維持するために無数の取り組みがなされてきました。[1] [2] [3]

 世界中の防衛企業もウクライナ軍に多大な貢献をしており、その大部分は軍装品・弾薬・小型無人機・武器の寄贈を通じて行われてきました。[4]

 こうした支援の殺到は戦史上前例がないものであり、まさに消滅の危機にある欧州の一国を支援する(官民を問わない)西側の決意がいかにロシアの誤算であったかを示していると言えるでしょう。

 この決意はEU加盟国にとどまらず、トルコもウクライナに対する軍事支援の重要な供給者となっています。同国の支援で特筆すべきものとしては、アメリカの「HIMARS」がウクライナに到着する前に「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲(MRL)を提供していたこと挙げられます。[5]

 また、トルコは、ロシア国内にある標的に対して使用しないという明確な条件なしにウクライナへ武器を提供した唯一の(NATO加盟)国であり、ウクライナはこの寛大さを喜んで活用したのでした。[5]

 トルコ政府によるウクライナへの(軍事)支援は相当なものですが、トルコの無人機メーカーである「バイカル・テクノロジー(以降、バイカルテックと表記)」社も軍事支援で極めて重要な役割を果たしました。2022年2月24日以降、「バイカルテック」は20機以上の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)、30機の「バイラクタル・ミニ」無人偵察機、電子戦装置、そしてトラック12台分の人道支援物資をウクライナに寄贈しています。[5] [6]

 これらの提供に加えて「バイカルテック」はさらに15機のTB2を半額で販売し、リトアニア、ウクライナ、そしてポーランドがクラウドファンディングで集めた5機分のTB2を寄付するという決定をしたことで、本来支払われるはずだった3,200万ドル(約42.2億円)をウクライナの人道・復興プロジェクトに転用することができるようにしました。

 「バイカルテック」による寄贈や割引の総額について現時点では推測することしかできませんが(著者の知識に基づく推測では1億ドル:約132億円に近い)、いくつかの西側諸国がウクライナに提供した軍事支援額よりも多いのはほぼ間違いないでしょう。

 「バイカル・テクノロジー」社がこのような人目を集める姿勢を取ることになった動機を知らない人々のために説明すると、特に同社のハルク・バイラクタルCEOとセルチュク・バイラクタルCTO(最高技術責任者)はウクライナの支持者であることを積極的に表明しており、同社にとって「お金は優先ではない」とし、ロシアへドローンを供給することをあり得ないことだとしています。[7]

 弱肉強食の世界にある防衛企業、特に競争の激しいUAV市場でこのような発言がなされたことは前代未聞です。

「バイラクタル・ミニ」無人偵察機:30機がウクライナへ寄贈された

 2019年以降に「バイラクタルTB2」UCAVをウクライナへ供給していることに加え、「バイカルテック」とウクライナは2021年9月に「バイラクタル」の製造工場をウクライナに設立する契約を結び、さらなる協力関係の構築を目指しています。[8]

 ロシア・ウクライナ戦争が近いうちに終結する兆しを見せていないという事実にもかかわらず、ハルクCEOはウクライナの製造工場は2年後に完成すると見積もっており、次のように述べました:「私たちの計画は前進しています。そして、私たちは実際に建設を進めていくでしょう。工場を2年以内に完成させたいと考えています」。[9]

 そのほかにも、同社によってウクライナとの強い結びつきを明確に示す数多くの取り組みが立ち上げられています。特に注目するべきものとして、「バイカルテック」は「サングル」IIR誘導式携帯型対空ミサイルシステム(MANPADS) をTB2にインテグレートすることを通じて、イラン製徘徊兵器という脅威と戦うウクライナを支援しようと試みているのです。[10]

 2022年3月以降、「バイカルテック」はトラック12台分の人道支援物資をウクライナに送りました。[6]

 また、2022年8月には、140人のウクライナの子供たちが同社の費用でイスタンブールで1週間のサマーキャンプに参加できるようにしたり、(イスタンブールにもある)工場の見学さえしてもらいました。[10]

 さらに、2022年には30人のウクライナの大学生が「バイカルテック」から奨学金を支給されており、2023年にはさらに30人の学生が同じ栄誉を受ける予定です。
 

将来的にウクライナで設立される「バイカルテック」の工場(イメージ図)

 防衛企業が世界の諸問題に対して理想主義的なスタンスをとることは一般的に知られておらず、過剰な貪欲さと政府を腐敗させる傾向があるという典型的なイメージが連想されがちです。「バイカルテック」がこうしたネガティブな評価から脱却したことは歓迎すべき変化であり、比較的低い露出度にもかかわらず取り組みを継続していることは称賛に値すると言えるでしょう。

 懐疑的な人々はウクライナに「バイラクタルTB2」を寄贈すれば2倍のPR効果が得られるからだろうと常に否定的な見方をするかもしれませんが、(それが正しければ)トラック12台分の人道支援やウクライナの子供たちに対するサマーキャンプの組織、イスタンブールのウクライナ難民への経済支援はしないでしょうし、(商業面で)犠牲の大きい製品の割引や関連機器の寄贈も行わないはずです。

 このような支援が他の追随を許さないほど広範かつ大量に行われていることは、今や純粋な動機が無用な負担とみなされることがあまりにも多いこの世界では稀なこれらの決定に、極めて誠実な理想主義的な一面が含まれていることを疑う余地はありません。


  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降に「バイカルテック」が実施したウクライナへの支援を追跡調査を試みたものです。
  2. この一覧は、さらなる支援の表明や判明した場合に更新されます。

無人戦闘航空機 (UCAV)
  • 30+ バイラクタルTB2 [2022年3月以降に引き渡し] (半分は「バイカルテック」による寄贈で、残りの半分は半額で販売)
  • 5 バイラクタルTB2 [2022年6月以降に引き渡し] (リトアニア、ウクライナ、そしてポーランド国民によって調達資金がクラウドファインディングされたものだが、これを受けた「バイカルテック」で無償供与することを決め、集まった3,200万ドルを人道支援などに転用)

無人偵察機

電子戦装備
  • 航空機用電子戦装置 (「バイラクタルTB2」用) [2022年夏に引き渡し] (「バイカルテック」による寄贈)

地上管制ステーション
  • ''いくつかの'' 地上管制ステーション(「バイラクタルTB2」用) [2022年中に引き渡し] (「バイカルテック」による寄贈)

人道支援

助成
  • トルコにいる30人のウクライナ人大学生に対する奨学金(4年分) [2022年に実施]
  •  同上 [2023年に実施]
  •  ウクライナでの無人機製造工場の設立 [2023年 または 2024年]


[1] Elon Musk’s SpaceX sent thousands of Starlink satellite internet dishes to Ukraine, company’s president says https://www.cnbc.com/2022/03/22/elon-musk-spacex-thousands-of-starlink-satellite-dishes-sent-to-ukraine.html
[2] Philip Morris handing over 500,000 packs of cigarettes to Ukrainian army – MP Hetmantsev https://en.interfax.com.ua/news/general/804866.html
[3] WIZZ AIR SUPPORTS UKRAINIAN REFUGEES: 100,000 FREE SEATS FROM NEIGHBOURING COUNTRIES IN MARCH https://wizzair.com/en-gb/information-and-services/about-us/news/2022/03/02/wizz-air-supports-ukrainian-refugees-100-000-free-seats-from-neighbouring-countries-in-march
[4] List of foreign aid to Ukraine during the Russo-Ukrainian War https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_foreign_aid_to_Ukraine_during_the_Russo-Ukrainian_War
[5] The Stalwart Ally: Türkiye’s Arms Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/11/the-stalwart-ally-turkiyes-arms.html
[6] https://twitter.com/BaykarTech/status/1587116030844862465
[7] https://twitter.com/defenceu/status/1563234161871441921
[8] Ukraine to produce Turkish armed drones: Minister https://english.alarabiya.net/News/world/2021/10/07/Ukraine-to-produce-Turkish-armed-drones-Minister
[9] Turkey's Baykar to complete plant in Ukraine in two years -CEO https://baykartech.com/en/press/turkeys-baykar-to-complete-plant-in-ukraine-in-two-years-ceo/
[10] Turkish drone maker Baykar to counter 'kamikaze' threat in Ukraine https://baykartech.com/en/press/turkish-drone-maker-baykar-to-counter-kamikaze-threat-in-ukraine/

※  当記事は、2022年12月24日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が 
  あります。


2023年2月12日日曜日

たくましい味方:トルコによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ 

 (この記事の執筆時点で)ロシア・ウクライナの戦争が勃発から1年が迫る中、ウクライナの戦力増強だけでなく、数回にもわたる和平交渉の主催や黒海経由の穀物輸出に関する協定の交渉に関与するなど、トルコはNATO加盟国でありながらロシアと西側諸国をつなぐ唯一の存在として、自身が持つ独特な立場を活用しています。

 トルコはNATO加盟国の中で最もモスクワに友好的であり続けていますが、ロシア国内にある標的に対して使用しないという明確な条件を設けずにウクライナへ兵器類を供給している唯一のNATOの国でもあります。ウクライナはこうした運用の柔軟性を喜んで活用し、トルコ製の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を使用して、ロシアのクルスク州とベルゴロド州にある標的を何度も攻撃しているのです。[1] [2]

 しかし、トルコがウクライナの友好国の中で目立っているのは、その戦略的な寛大さが唯一の理由ではありません。なぜならば、同国による支援は全NATO加盟国の中でも最も包括的な軍事支援の一つとなっているからです。

 ウクライナに対するトルコの支援の強さについては、過去数年にわたってトルコの外交政策の決定を追いかけてきた人にとっては少しも驚くようなことではないでしょう。
 
 トルコは背後にロシアがいるハリーファ・ハフタル将軍のリビア国民軍(LNA)に対して国際的に承認された国民合意政府(GNA)の側に立って介入した唯一のNATO加盟国であり、最終的にLNAとPMC「ワグネル」を押し戻してGNAを確実視されていた敗北から救った過去があります。[3] [4]

 実際にその功績が評価されることはありませんでしたが、トルコの介入は、NATOの南側にロシアが確かな軍事的拠点を獲得することを妨げた唯一の要因だったと言えます。

 ただし、ロシアの利益にダイレクトに対抗するトルコの外交政策の決定が大きなリスクなしでなされているとは言っているわけではありません。すでにトルコはロシアの支援を受けたり、報復行為としてロシアが支援を拡大する可能性のある敵対勢力からの脅威に直面しているからです。

 なお、イスラエルはウクライナに軍事支援を行わない理由として、このような脅威を利用してきました(同時に、イスラエルはヨーロッパ諸国によるウクライナに対する同国製兵器の供与についても禁止しています)。[5]

 具体的には、イスラエルは自国製兵器によってロシア兵が殺害されることがシリアにおける同国の安全保障上の利益をロシアが害することに至る可能性を懸念しているようです。[6]

 イスラエルとは正反対に、トルコはリビアで(ロシア軍の非公然部隊として活動している)PMC「ワグネル」の陣地や兵士を空爆することに、少しの躊躇も見せませんでした。

 トルコは良好な対外関係を維持することに注力しているように見える一方で、自国や戦略的パートナーの利益が脅威に晒されたと感じれば、とっさに行動を開始するような一面も持っているようです。

 ウクライナへの行動について具体的に挙げると、トルコは2022年3月以降のウクライナ・ロシア間の仲裁に大々的に尽力したでけではなく、「バイラクタルTB2」UCAV約35機、「バイラクタル・ミニ」無人偵察機24機、「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲(MRL)、電子戦装備、BMC「キルピ」MRAP200台、迫撃砲、弾薬など多くの物品の引き渡しも実施しています。

 トルコは軍事支援の規模を公にするよりも、これらの引き渡しに関する発表を最小限に抑えることを選択しました。送られた兵器類については、その大半がウクライナで目撃されるか、ウクライナの情報源から私たちに報告されて初めて明らかになる場合を占めているのが実情です(この記事で取り上げた兵器のほとんどが該当します)。

 ちなみに、兵器類の大部分は寄贈されて残りは大幅に値引きされて販売されたとのことです。

ウクライナ軍のBMC「キルピ」MRAPの列:最大で200台がトルコから供与される予定

 ウクライナの窮状に対するトルコの援助は、その全てが政府によるものばかりではありません。

 リトアニア・ウクライナ・ポーランドの各国で行われた「バイラクタルTB2」5機を調達するためのクラウドファンディングが目標に成功した後に、メーカーの「バイカル・テクノロジー(バイカルテック)」社は同数のTB2をウクライナへ寄贈することを決定し、集められた3,200万ドル(約42.2億円)をウクライナの人道・防衛・復興プロジェクトに転用することが可能になったおかげで国際的な名声を得るに至りました。[7] [8] [9]

 興味深いことに、これは全体の話の半分にすぎないようです。ウクライナ政府筋の情報によると、同国は「バイカルテック」からさらに15機の「バイラクタルTB2」を無償で受け取り、さらに別の15機も同社の製造コストのみを負担する価格で販売されたとのことでした。

 また、「バイカルテック」は24機の「バイラクタル・ミニ」無人偵察機もウクライナに寄贈しています。この機種はウクライナに引き渡された他の(小型)UAVとは異なって電子妨害に強い特徴を有していることから、妨害電波が飛び交うウクライナの戦場において大いに歓迎されるものと言えるでしょう。

「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOとウクライナ軍総司令官であるヴァレリー・ザルジュニー大将が「アクンジュ」の模型を手に記念撮影している様子

 これまでに報じられていなかったトルコによる武器供与には、その精密誘導ロケット弾のおかげで高い殺傷力を誇る(数量不明の)「TRGL-230」230mm誘導式多連装ロケット砲(MRL)があります。

 (ペイロード上の関係で)最大で4つの目標しか攻撃できないものの、24時間以上の滞空時間と(車両などの目標に対しては75km以上と考えられている)長い探知距離を誇るEO/IRセンサーによって多くの目標を探知するTB2との共同作戦で、「TRLG-230」は(70km圏内にいる)TB2が指示した目標を連続して正確に撃破することが可能です。

 「バイラクタルTB2」が目標を攻撃している様子を映す映像が少ないことについて、TB2が全機撃墜された(あるいはもっと不可思議なことに、存在する全映像は最初の数日間に記録されたもので、後で徐々に流出していった)と説明しようとする人もいますが、ウクライナのTB2は戦場での脅威が進化するにつれて長距離偵察や電子戦、そしてスタンドオフ兵器での攻撃を含む数多くの新たな役割に投入されています。ただし、後者に関する詳細は依然として情報不足のままです。

「バイラクタルTB2」が指示した目標を打撃できる「TRLG-230」230mm誘導式多連装ロケット砲(MRL):トルコは数量不明の同MRLをウクライナに供与した

 トルコにはウクライナ軍に非常に適したアセットが他にも豊富に存在します。

 すでに、この国はUCAVや誘導式MRLに加えて考えられる限りのあらゆる兵器システムを輸出しており、この中には「T-122」122mm MRLや「TRG-300」300mm MRLのみならず、射程15kmの「ヒサール-A+」対空ミサイルシステム(SAM)、射程25kmの「ヒサール-O」SAM、「コルクート」35mm自走対空砲など、徘徊兵器の脅威に対抗するのに理想的な防空システムも含まれています。

 NATOはソ連時代の兵器を調達するために(まだ保有している)加盟国を探し続けていますが、こうした調達先が徐々に枯渇していけば、より高度な兵器を(ウクライナに代わって)トルコから調達する方向へ転換するかもしれません。なぜならば、トルコはウクライナに高度な兵器を供給することについては、仮にそれがロシア国内の攻撃目標に使用できるものであっても特に問題がないことを実証したからです。

 その一方で、ウクライナも数年以内にトルコに発注した「アダ」級コルベット2隻のうち1隻を受け取る予定です。「F211 "ヘトマン・イヴァン・マゼーパ"」は2022年10月2日に正式に進水し、ウクライナ海軍に引き渡しできるまでトルコで就役の準備を続けることになっています。[10]

 黒海におけるロシア海軍のプレゼンスは当面の間にわたって新型艦の使用を妨げるかもしれませんが、トルコはウクライナのより差し迫った問題に対処するための取り組みを継続して実施しています。

 また、イラン製の徘徊兵器という脅威と戦うために「バイカルテック」が「バイラクタルTB2」に「スングル」赤外線誘導式携帯型地対空ミサイルシステム(MANPADS)をインテグレートしてウクライナを支援することを模索している旨の報道も、トルコが(仮にロシアとの関係が損なわれたとしても)ウクライナ防衛に賛意を示す信頼できる味方としての地位を際立たせることに貢献していることは言うまでもないでしょう。[11]

ウクライナが発注した「F211 "ヘトマン・イヴァン・マゼーパ"」:2022年10月にトルコで進水した

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の最中にトルコがウクライナに引き渡した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています。
  3. 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. * はウクライナがトルコの防衛企業から調達したものです。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

無人戦闘航空機 (UCAV)
  •  30+ バイラクタルTB2 [2022年3月以降に引き渡し] (半分は「バイカル」による寄贈で、残りの半分は半額で販売)
  •  5 バイラクタルTB2 [2022年6月以降に引き渡し] (リトアニア、ウクライナ、そしてポーランド国民によって調達資金がクラウドファインディングされたものだが、これを受けた「バイカル」で無償供与することを決め、集まった3,200万ドルを人道支援などに転用)

無人偵察機

(誘導式) 多連装ロケット砲


自走砲

電子戦装備

  •  地上ベースの電子戦装備 [2022年夏に引き渡し]
  •  航空機用電子戦装備 (「バイラクタルTB2」用) [同上] (「バイカルテック」による寄贈)

装甲兵員輸送車 (APC)
  • ''装甲兵員輸送車'' [予定]

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

歩兵機動車

迫撃砲

小火器

弾薬

  •  100,000 155mm砲弾 [供与予定]
  • M483A1 155mmクラスター砲弾 [2023年8月以前に引き渡し]
  •  「MAM-L」誘導爆弾 (「バイラクタルTB2」用) [2022年3月以降に引き渡し]
  •  「MAM-C」誘導爆弾 (同上) [同上]

個人装備

その他の装備品類


[1] https://twitter.com/UAWeapons/status/1519305213831782400
[2] https://twitter.com/UAWeapons/status/1520045425625030656
[3] Al-Watiya - From A Libyan Super Base To Turkish Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/al-watiya-airbase-capture.html
[4] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[5] Vetoing Victory - Israel Is Blocking (Military) Aid To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/vetoing-victory-israel-is-blocking.html
[6] Israel refused US request to transfer anti-tank missiles to Ukraine — report https://www.timesofisrael.com/israel-refused-us-request-to-transfer-anti-tank-missiles-to-ukraine-report/
[7] Go-Fund Ukraine: Baykar Tech Donates TB2 For Ukraine After Lithuanian Crowdfunder https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/go-fund-ukraine-lithuania-raises-funds.html
[8] A Ukrainian TV host crowdfunded $20 million to buy Bayraktar drones. The company making them refused the money and said it'd donate the aircraft instead https://www.businessinsider.com/bayraktar-firm-refuses-20m-says-will-donate-drones-to-ukraine-2022-6?international
[9] Baykar to donate another drone to Ukraine after Polish crowdfunding campaign https://www.aerotime.aero/articles/31748-baykar-to-donate-drone-to-ukraine-after-polish-fundraiser
[10] Turkish shipyard launches Ukraine’s 1st MILGEM corvette https://www.navalnews.com/naval-news/2022/10/turkish-shipyard-launches-hetman-ivan-mazepa/
[11] Turkish drone maker Baykar ‘to counter kamikaze threat in Ukraine’ https://www.dailysabah.com/business/defense/turkish-drone-maker-baykar-to-counter-kamikaze-threat-in-ukraine

※  当記事は、2022年11月21日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



おすすめの記事