著:
ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (この記事の執筆時点で)ロシア・ウクライナの戦争が勃発から1年が迫る中、ウクライナの戦力増強だけでなく、数回にもわたる和平交渉の主催や黒海経由の穀物輸出に関する協定の交渉に関与するなど、トルコはNATO加盟国でありながらロシアと西側諸国をつなぐ唯一の存在として、自身が持つ独特な立場を活用しています。
トルコはNATO加盟国の中で最もモスクワに友好的であり続けていますが、ロシア国内にある標的に対して使用しないという明確な条件を設けずにウクライナへ兵器類を供給している唯一のNATOの国でもあります。ウクライナはこうした運用の柔軟性を喜んで活用し、トルコ製の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を使用して、ロシアのクルスク州とベルゴロド州にある標的を何度も攻撃しているのです。[1] [2]
しかし、トルコがウクライナの友好国の中で目立っているのは、その戦略的な寛大さが唯一の理由ではありません。なぜならば、同国による支援は全NATO加盟国の中でも最も包括的な軍事支援の一つとなっているからです。
ウクライナに対するトルコの支援の強さについては、過去数年にわたってトルコの外交政策の決定を追いかけてきた人にとっては少しも驚くようなことではないでしょう。
トルコは背後にロシアがいるハリーファ・ハフタル将軍のリビア国民軍(LNA)に対して国際的に承認された国民合意政府(GNA)の側に立って介入した唯一のNATO加盟国であり、最終的にLNAとPMC「ワグネル」を押し戻してGNAを確実視されていた敗北から救った過去があります。[3] [4]
実際にその功績が評価されることはありませんでしたが、トルコの介入は、NATOの南側にロシアが確かな軍事的拠点を獲得することを妨げた唯一の要因だったと言えます。
ただし、ロシアの利益にダイレクトに対抗するトルコの外交政策の決定が大きなリスクなしでなされているとは言っているわけではありません。すでにトルコはロシアの支援を受けたり、報復行為としてロシアが支援を拡大する可能性のある敵対勢力からの脅威に直面しているからです。
なお、イスラエルはウクライナに軍事支援を行わない理由として、このような脅威を利用してきました(同時に、イスラエルはヨーロッパ諸国によるウクライナに対する同国製兵器の供与についても禁止しています)。[5]
具体的には、イスラエルは自国製兵器によってロシア兵が殺害されることがシリアにおける同国の安全保障上の利益をロシアが害することに至る可能性を懸念しているようです。[6]
イスラエルとは正反対に、トルコはリビアで(ロシア軍の非公然部隊として活動している)PMC「ワグネル」の陣地や兵士を空爆することに、少しの躊躇も見せませんでした。
トルコは良好な対外関係を維持することに注力しているように見える一方で、自国や戦略的パートナーの利益が脅威に晒されたと感じれば、とっさに行動を開始するような一面も持っているようです。
ウクライナへの行動について具体的に挙げると、トルコは2022年3月以降のウクライナ・ロシア間の仲裁に大々的に尽力したでけではなく、
「バイラクタルTB2」UCAV約35機、
「バイラクタル・ミニ」無人偵察機24機、
「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲(MRL)、電子戦装備、BMC
「キルピ」MRAP200台、迫撃砲、弾薬など多くの物品の引き渡しも実施しています。
トルコは軍事支援の規模を公にするよりも、これらの引き渡しに関する発表を最小限に抑えることを選択しました。送られた兵器類については、その大半がウクライナで目撃されるか、ウクライナの情報源から私たちに報告されて初めて明らかになる場合を占めているのが実情です(この記事で取り上げた兵器のほとんどが該当します)。
ちなみに、兵器類の大部分は寄贈されて残りは大幅に値引きされて販売されたとのことです。
ウクライナの窮状に対するトルコの援助は、その全てが政府によるものばかりではありません。
リトアニア・ウクライナ・ポーランドの各国で行われた「バイラクタルTB2」5機を調達するためのクラウドファンディングが目標に成功した後に、メーカーの「
バイカル・テクノロジー(バイカルテック)」社は同数のTB2をウクライナへ寄贈することを決定し、集められた3,200万ドル(約42.2億円)をウクライナの人道・防衛・復興プロジェクトに転用することが可能になったおかげで国際的な名声を得るに至りました。[7] [8] [9]
興味深いことに、これは全体の話の半分にすぎないようです。ウクライナ政府筋の情報によると、同国は「バイカルテック」からさらに15機の「バイラクタルTB2」を無償で受け取り、さらに別の15機も同社の製造コストのみを負担する価格で販売されたとのことでした。
また、「バイカルテック」は24機の「バイラクタル・ミニ」無人偵察機もウクライナに寄贈しています。この機種はウクライナに引き渡された他の(小型)UAVとは異なって電子妨害に強い特徴を有していることから、妨害電波が飛び交うウクライナの戦場において大いに歓迎されるものと言えるでしょう。
これまでに報じられていなかったトルコによる武器供与には、その精密誘導ロケット弾のおかげで高い殺傷力を誇る(数量不明の)「TRGL-230」230mm誘導式多連装ロケット砲(MRL)があります。
(ペイロード上の関係で)最大で4つの目標しか攻撃できないものの、24時間以上の滞空時間と(車両などの目標に対しては75km以上と考えられている)長い探知距離を誇るEO/IRセンサーによって多くの目標を探知するTB2との共同作戦で、「TRLG-230」は(70km圏内にいる)TB2が指示した目標を連続して正確に撃破することが可能です。
「バイラクタルTB2」が目標を攻撃している様子を映す映像が少ないことについて、TB2が全機撃墜された(あるいはもっと不可思議なことに、存在する全映像は最初の数日間に記録されたもので、後で徐々に流出していった)と説明しようとする人もいますが、ウクライナのTB2は戦場での脅威が進化するにつれて長距離偵察や電子戦、そしてスタンドオフ兵器での攻撃を含む数多くの新たな役割に投入されています。ただし、後者に関する詳細は依然として情報不足のままです。
トルコにはウクライナ軍に非常に適したアセットが他にも豊富に存在します。
すでに、この国はUCAVや誘導式MRLに加えて考えられる限りのあらゆる兵器システムを輸出しており、この中には
「T-122」122mm MRLや
「TRG-300」300mm MRLのみならず、射程15kmの
「ヒサール-A+」対空ミサイルシステム(SAM)、射程25kmの
「ヒサール-O」SAM、
「コルクート」35mm自走対空砲など、徘徊兵器の脅威に対抗するのに理想的な防空システムも含まれています。
NATOはソ連時代の兵器を調達するために(まだ保有している)加盟国を探し続けていますが、こうした調達先が徐々に枯渇していけば、より高度な兵器を(ウクライナに代わって)トルコから調達する方向へ転換するかもしれません。なぜならば、トルコはウクライナに高度な兵器を供給することについては、仮にそれがロシア国内の攻撃目標に使用できるものであっても特に問題がないことを実証したからです。
その一方で、ウクライナも数年以内にトルコに発注した
「アダ」級コルベット2隻のうち1隻を受け取る予定です。「F211 "ヘトマン・イヴァン・マゼーパ"」は2022年10月2日に正式に進水し、ウクライナ海軍に引き渡しできるまでトルコで就役の準備を続けることになっています。[10]
黒海におけるロシア海軍のプレゼンスは当面の間にわたって新型艦の使用を妨げるかもしれませんが、トルコはウクライナのより差し迫った問題に対処するための取り組みを継続して実施しています。
また、イラン製の徘徊兵器という脅威と戦うために「バイカルテック」が「バイラクタルTB2」に
「スングル」赤外線誘導式携帯型地対空ミサイルシステム(MANPADS)をインテグレートしてウクライナを支援することを模索している旨の報道も、トルコが(仮にロシアとの関係が損なわれたとしても)ウクライナ防衛に賛意を示す信頼できる味方としての地位を際立たせることに貢献していることは言うまでもないでしょう。[11]
- 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の最中にトルコがウクライナに引き渡した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
- 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています。
- 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
- この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
- * はウクライナがトルコの防衛企業から調達したものです。
- 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。
無人戦闘航空機 (UCAV)- 30+ バイラクタルTB2 [2022年3月以降に引き渡し] (半分は「バイカル」による寄贈で、残りの半分は半額で販売)
- 5 バイラクタルTB2 [2022年6月以降に引き渡し] (リトアニア、ウクライナ、そしてポーランド国民によって調達資金がクラウドファインディングされたものだが、これを受けた「バイカル」で無償供与することを決め、集まった3,200万ドルを人道支援などに転用)
無人偵察機
(誘導式) 多連装ロケット砲
自走砲
電子戦装備- 地上ベースの電子戦装備 [2022年夏に引き渡し]
- 航空機用電子戦装備 (「バイラクタルTB2」用) [同上] (「バイカルテック」による寄贈)
装甲兵員輸送車 (APC)- ''装甲兵員輸送車'' [予定]
MRAP:耐地雷・伏撃防護車両
歩兵機動車
迫撃砲小火器