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2022年5月27日金曜日

来たるべきUAVの「スウォーム戦」時代に備えよ :その実現に向けたトルコの取り組み



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「あなた方がわざわざ不可能な夢の実現に全力を尽くすことはない。私たちと彼ら(欧米の防衛装備製造メーカー)の間の架け橋を築き、私たちの通訳として行動してくれるだけで十分だ。」 (2000年代半ば、トルコ国防産業局の官僚が、現「バイカル・テクノロジー」社の最高技術責任者であるセルチュク・バイラクタル及びCEOであるハルク・バイラクタル兄弟に向けて発した一言)[1] ※「バイカル社」はあの「バイラクタルTB2」のメーカーです

 いわゆる「スウォームUAV」のコンセプトは戦争における戦い方を激変させる可能性があります。なぜならば、機敏なUAVの群れ(スウォーム)が地上と空中の目標を攻撃し、偵察や電子戦の任務を遂行し、互いに密接に交信し合いながら、これまでの戦場では見られなかった独立した戦争の階層をもたらすことになるからです(※スウォームUAV:飛行制御技術等により、鳥や蜂の群れのように、あたかも1個体のごとく密集しながら同時に動いたり、分散・集合することができるUAV。自動プログラミングやAIで制御される場合が多い)。

 その全てが斬新であるため、近年にテストされている大部分の「スウォームUAV」のコンセプトが実践的な運用の域に達するには、まだ何年もかかると思われます。

 とはいえ、「スウォームUAV」が近接状態で連携して相乗効果的に機能できることは、すでに数々の国際的なイベントで知られているドローンで演出された、見応えのある「光のショー」によって証明されています。

 しかしながら、民生用のアプリケーションを敵の電子妨害やなりすまし攻撃に直面しても実戦投入可能な軍事技術に変えることは、依然として大きな課題のままとなっています。
特に、最近の中国で200機のドローンが同時に衝突した事故は、ドローンの運用を一本化した際に何か問題が生じた場合は、全機が一斉に衝突・喪失する可能性を意味することを痛々しく思い出させてくれる事例となるはずです。[2] [3]

 同様に、2018年には個人が市販のドローン・ジャマーを用いて香港のドローンによる光のショーを妨害し、46機ものドローンを地上に落下させるという事件があったことにも注目する必要があることは言うまでもありません。[4]

 近年では、いくつかの国が軍事利用を目的とした「スウォームUAV」関連の技術開発中であり、その国々には中国やロシアといった予想され得る大国だけでなく、スペインや南アフリカも含まれます。[5] [6] [7] [8]

 これらの国々がどこまで多重使用の運用システムを実用化できるのかは未知数であり、現在続行されているプロジェクトの多くが完全に単なる技術実証にとどまる可能性があります。

 一方、アメリカでは、陸・海・空軍、海兵隊、そしてDARPA(国防高等研究計画局)の全てが各自に「スウォームUAV」プロジェクトを推進しており、中には同時に複数のプロジェクトに取り組んでいる軍種もあります。[9]

 「スウォームUAV」に大きな関心を持って注目しているもう1つの国があります...トルコです。現時点でトルコ軍は「STM」社製の回転翼型徘徊兵器「カルグ」を運用していますが、能力向上型である「カルグ-2」が、急速に拡大しつつある無人機戦力の一部として、近いうちに導入される予定となっています。

 技術的には「スウォームUAV」ではないものの、「カルグ」シリーズの大規模な実戦投入で得られた運用経験は、今後の「スウォームUAV」の研究において非常に有益なものとなるでしょう。

 「カルグ」はこれまでに、シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフでの戦いに投入されています(注:特にリビアにおいては「自立型AI兵器」が初めて実戦投入されたということで、我が国でも悪名高い兵器として広く知られています)。 [10] [11] [12]

「STM」製「カルグ」徘徊兵器は、リビアやシリア、そして2020年のナゴルノ・カラバフに投入されて絶大な効果を発揮しました。

 トルコの防衛産業を管理する機関であるトルコ国防産業局(SSB)は、現在、トルコにおける「スウォームUAV」の技術基盤を徐々に構築することを目的として、数多くのプロジェクトを支援しています。

 SSBのスマイル・デミール局長によると、これらのプロジェクトは、中小企業が「スウォームUAV」の運用で必要とされるソフトウェアやアルゴリズムの開発を手助けすることを目的としたものです。[13]

 これらのプロジェクトにおいて中小企業に焦点を当てることは、小規模な防衛関連企業を開花させるための環境を構築するというトルコ政府による幅広い取り組みに合致しており、これまでのところ、この政策は同国にとてつもない効果をもたらしています。

 2020年9月には、自身でUAV専用の飛行空域を有するアンカラ近郊の「カレジックUAV試験センター」にて、初の「スウォームUAV」競技会が開催されました。[13] [14]

 このコンペは、それぞれ複数のステージから成る全4つのフェーズで構成されています。第1フェーズでは、合計で26社が参加し、固定翼型「スウォームUAV」が屋外環境下における目標の探知と破壊のシミュレーションを実施しました。より多くの企業が参加できるようにするため、このコンペでは競技者が技術開発費に関する補助金を申請することができる仕組みを採用しています。[13]

この「スウォームUAV」競技会の模様はここで視聴することができます



 トルコは、既存の企業に「スウォームUAV」技術に取り組むことへ誘い入れ、それを可能にする財政支援をするだけではなく。世界でも類を見ない規模で、子どもたちや若者の間でテクノロジー分野のあらゆるものに対する関心を高めようと試みています。

 これを成し遂げようとする方法の1つが、毎年開催されるトルコ最大の航空・宇宙技術展覧会「テクノフェスト」というイベントです。

 今の若者は明日の未来であり、彼らはいつか軍用レベルの「スウォームUAV」の設計を担ったり、ほかの分野のハイテク産業で働くかもしれません。

 したがって、「テクノフェスト」では、高校生や大学生を対象とした「スウォームUAV」の競技会も開催されています。このコンペの主要な目的は、与えられた課題を遂行できるUAVのスウォームを組織するために必要なソフトウェアやアルゴリズムを開発し、実際の環境下でその性能を実証することにあります。[15]

 このコンペでは、参加チームがヴァーチャルと現実の両方で「スウォームUAV」を飛行させます。

 コンペで実施されるミッションには、編隊を組んでの離陸、同時操作の実施、スウォームへの機体の追加や離脱、そして各ドローンの一体化的な集結・散開が含まれます。[15]



 (アメリカなどを除くと)トルコはUAVの使用に関してパイオニア的存在であり、かつてはUAVの使用が不可能とされてきた戦闘シナリオにUAVを投入してきました。

 今やほぼ全てのカテゴリーのUAVを開発しているトルコが世界で最初に「スウォームUAV」を実用化し、最終的に使用面での高い信頼性と価格面での手頃なシステムを創出する国の1つとなる可能性については、考えられないことではないように思われます。

 「テクノフェスト」で競い合う学生たちは、明日のパイオニアです。(「バイラクタルTB2」などを生み出した)「バイカル・テクノロジー」社と同様に、彼らも小さいことから始めるでしょう。しかし、彼らの技術基盤の支援を決意していると思われる国家の姿勢と「テクノフェスト」のようなイベントがあれば、技術的なブレークスルーが起こり得ることは間違いなくあるでしょう。

彼らの成功は、いつの日か当記事冒頭の引用文に対する激しい反証を示すことになるに違いありません。

"私たちは状況を見極め、私たち自身で義務を果たしました"(オズデミル・バイラクタル:1949年 - ∞バイカル・テクノロジー」社の創業者

[1] SELÇUK BAYRAKTAR - BAYRAKTAR AKINCI TESLİMAT VE MEZUNİYET TÖRENİ KONUŞMASI https://youtu.be/dGETmeQXemc?t=144
[2] Drone show in China goes horribly wrong: dozens of drones crashed https://dronexl.co/2021/07/07/drone-show-drones-crashed/
[3] Watch Drones Rain Down From the Sky During a Failed Light Show https://interestingengineering.com/drones-rain-down-from-the-sky-during-failed-light-show
[4] HK$1 million in damage caused by GPS jamming that caused 46 drones to plummet during Hong Kong show https://www.scmp.com/news/hong-kong/law-and-crime/article/2170669/hk13-million-damage-caused-gps-jamming-caused-46-drones
[5] China Conducts Test Of Massive Suicide Drone Swarm Launched From A Box On A Truck https://www.thedrive.com/the-war-zone/37062/china-conducts-test-of-massive-suicide-drone-swarm-launched-from-a-box-on-a-truck
[6] Russia’s latest combat drone to control swarm of reconnaissance UAVs https://tass.com/defense/1265961
[7] Escribano designs a swarm system of UAVs for Surveillance and Recognition missions https://www.edrmagazine.eu/escribano-designs-a-swarm-system-of-uavs-for-surveillance-and-recognition-missions[8] Paramount Group pitches new drone swarm amid region’s lack of countermeasures https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/idex/2021/02/22/paramount-group-pitches-new-drone-swarm-amid-regions-lack-of-countermeasures/
[9] What Are Drone Swarms And Why Does Every Military Suddenly Want One? https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/03/01/what-are-drone-swarms-and-why-does-everyone-suddenly-want-one/?sh=5eca88062f5c
[10] STM’nin yerli kamikaze İHA’sı KARGU PKK/YPG’li teröristleri vurdu https://www.defenceturk.net/stmnin-yerli-kamikaze-ihasi-kargu-pkk-ypgli-teroristleri-vurdu
[11] Indigenous kamikaze drone KARGU by STM appears in Libya https://en.defenceturk.net/indigenous-kamikaze-drone-kargu-by-stm-appears-in-libya/
[12] STM’s KARGU spotted in Azerbaijan https://en.defenceturk.net/stm-kargu-spotted-in-azerbaijan/
[13] First Stage Left Behind in SSB’s Swarm UAV Competition https://www.savunmahaber.com/en/first-stage-left-behind-in-ssbs-swarm-uav-competition/
[14] UAV and Drone Test Center Opens in Ankara https://en.rayhaber.com/2020/07/ankarada-iha-ve-drone-test-merkezi-aciliyor/
[15] Swarm UAV Competition https://teknofest.org/en/yarisma-detaylar-17.html
[16] What Are Drone Swarms And Why Does Every Military Suddenly Want One?https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/03/01/what-are-drone-swarms-and-why-does-everyone-suddenly-want-one/?sh=449d08e2f5c6(これ以降の引用記事は日本語へ翻訳した際の参考資料)
[18] 1000機の「群れ」が一斉突撃? 米のマイクロドローン群実験成功で空戦は一変するか https://trafficnews.jp/post/63639
[19] 群制御の手法を応用した 無人機の編隊飛行 - 防衛省 https://www.mod.go.jp/atla/research/dts2011/dts2011.files/low_pdf/P.pdf
[20] 無人機とエア・パワー戦略 - 防衛省 https://www.mod.go.jp/asdf/meguro/center/img/03_mujinki_to_airpwr1.pdf
[21] 米海兵隊、いよいよスウォーム攻撃対応の自爆型UAV調達検討に着手 https://grandfleet.info/us-related/u-s-marine-corps-considers-self-destruct-uav-to-respond-to-swarm-attacks/
[22] 五輪のドローン演出と軍事用ドローン・スウォーム戦術の違い https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20210724-00249601
[23] 誤解:「イージス艦ですらドローン攻撃に対処できない?」と論文の読み方 https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20210805-00251713
[24] 殺人AI兵器、世界初使用か https://nordot.app/779997234987859968

2022年5月18日水曜日

未来戦に備えよ:トルコが無人機による空戦技術の礎を築くための手法



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 「息子よ、聞きなさい - 君たちは偉大で立派に教育を受けた子供たちだが、外国のメーカーは君たちが手の届かないレベルにあるという事実を受け入れなさい。」(2000年代半ば、トルコ国防産業局の官僚が、現「バイカル・テクノロジー」社の最高技術責任者であるセルチュク・バイラクタル及びCEOであるハルク・バイラクタル兄弟に向けて発した一言)※「バイカル」社はあの「バイラクタルTB2」のメーカーです。

 無人航空機(UAV)の未来が議論されるたびに、いつの日か従来の戦闘機を時代遅れにする可能性がある技術的進歩として、他の航空機との交戦や撃墜できるUAVの能力が頻繁に言及されています。

 それにもかかわらず、そのような未来の実現に向けた実際の歩みは苦痛なほど遅いものでした。

 広く普及している議論の中では、戦闘用UAVの性能が、現実世界の能力よりはるかに先を行っていると考えられがちです。しかし、ロシアといった世界有数の兵器大国でさえ依然として国産の無人戦闘航空機(UCAV)飛行隊を生み出すことに苦労しており、ましてや近い将来に機敏な無人のドッグファイターを誕生させることが机上の空論なのは言うまでもありません。

 アメリカと中国は共にUCAVに短距離空対空ミサイル(AAM)を搭載する試験を行っており、前者は2017年の演習で、それを用いて別のドローンの撃墜に成功するまでに至っています。しかし、この演習でAAMの発射母体として使用された「MQ-9 "リーパー"」は比較的低速な機体であるため、おそらく誰もが思い描くような俊敏な戦闘機の機動性を欠いていることは火を見るよりも明らかです。[2]

 このような無人戦闘機を開発しようとするプロジェクト群は未だに計画段階で固まったままであり、ほとんどの設計案が生産に移行することは起こりえないでしょう。

 それでも、いつか無人戦闘機が有人戦闘機から空を奪取する日が来るであろうことは否定できません。

 無人戦闘機開発の最前線に立つことが見込まれている世界の超大国とは別に、近い将来における無人戦闘機技術の実用化に向けて、今や大躍進を遂げつつある別の国があります...トルコです。

 同国が進めている 「MİUS(ミウス:戦闘無人航空システム)」無人戦闘機計画では、2023年に実機が初の試験飛行を行う予定となっています(注:これは2022年春に「バイラクタル・クズルエルマ」という名称と完成待ちの機体が公開されました)。

 この超音速戦闘ドローンは、 精密爆撃、ドッグファイト、敵防空網の制圧などを遂行するために設計されたものであり、トルコ軍に斬新な能力をもたらすことになるこの開発は、当記事冒頭の引用文に対する激しい反証であることを示しています。

「ミウス」こと「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘機

 トルコは「アクンジュ」や「クズルエルマ」といった無人戦闘機の開発に加え、いつかそれらの後継機を設計したり、先端技術を特徴とするその他の分野において働くであろう優秀な人材の確保にも入念に注意を払っています。

 この国は、世界でも類を見ない規模で、子どもたちや若者の間でテクノロジー分野のあらゆるものに対する関心を高めることを通じて、その目標を達成することを試みています。

 これを成し遂げようとする方法の1つとしては、毎年開催される「テクノフェスト」などのハイテク関連のイベントが挙げられます。

 「テクノフェスト」を純粋な航空ショーや軍事的な性格だけのイベントと誤解することは許されますが、実際のところ、このイベントはAIを活用した農業プロジェクトから電気自動車の設計までのあらゆるものを含む、30以上の技術コンペが開催されるテクノロジーの祭典なのです。

 前述のような熱狂が伴った非常に多くのコンテストで特に目立つのは、固定翼機と回転翼機による戦闘UAVの競技会と言っても差し支えないでしょう。競技は、異なるタイプのUAVが想定された空戦シナリオの中で、敵UAVに狙われることを阻みながらドッグファイトを行って制空権を争うものです。

イスタンブール上空で繰り広げられる無人機によるドッグファイト(テクノフェストにて)

 当然ながら、この競技でUAVから敵UAVに向けて実弾が発射されることはありませんが、その代わりとして、各UAVは胴体に搭載されたカメラを用いて相手の「ロックオン」を試みます。「ロックオン」するために使用されるカメラは、UAVの前方視界が得られる位置と角度に固定されています。

 敵UAVを最も多く「ロックオン」した一方で、可能な限り敵の「ロックオン」から回避することに成功した人が、この競技の勝者となります。したがって、実際の「撃墜」は物理的ではなく、バーチャルに行われます。

 ルールは至ってシンプルで、試合も実際の空戦の初歩的なシミュレーションにすぎませんが、このようなコンペは、まさに国の優れた若者の間で情熱の炎を燃え立たせるために必要なものなのです。

 その一方で、こうしたイベントは競技の参加者たちに、いつの日か高度なUAVの生産を可能にする関連ハイテク分野に携わるために必要な、知識の最初の基礎的な要素を提供します。[3]

 これらのコンペの参加者には、多くの高校生や大学生が含まれていることにも注目すべきでしょう。



 バラクタル兄弟と2人の父であるオズデミル氏が、仮に国防産業局の官僚のアドバイスを受け入れていたら、「ミウス」プロジェクトが進められているどころか「バイラクタル・アクンジュ」が空を飛ぶこともなかったでしょう(注:もちろん、あの「TB2」も存在しなかった世界になっていたはずです)。

 トルコの防衛産業が敗北主義という遅効性の毒に強く蝕まれていた時代に、自身のプロジェクトの開発に着手した彼らの奮闘は、いつか新しい世代が彼らの仕事を受け継ぐ道を開きました。

 今や賞金や公的な財政支援、大学入学の機会を通じて、新しい世代が自己のスキルや興味を高める機会を与えられているという事実は、将来的に莫大な効果をもたらす可能性があります。



 「国の富は子にあり」というありふれた決まり文句は、まさにそれが真実だからこそ存在しているのではないでしょうか。

 テクノフェストを訪れた人の中には軍用機の展示や見事な航空ショーを長く記憶にとどまっている人もいるでしょうが、真に重要な進歩については、コンペ等でインスピレーションを得た人々の心の中でしっかりと根付いていることがわかるでしょう。

 「バイカル・テクノロジー」社は最先端技術の設計で素晴らしい偉業を成し遂げたことで、国が無制限の研究開発予算を持つ超大国である必要はないことを証明しました。

 同社の創業者であるオズデミル・バイラクタル氏の逝去は、彼からインスピレーションを受けた人々を悲しませるかもしれません。しかし、同社の作業が止まることなく、彼のレガシーと物語は新しい世代の心の中に生き続け、いつの日かトルコ初の真の無人戦闘機という実を結ぶ弾みをもたらすことは間違いないでしょう。

 「私たちの仕事は、我が国がUAV技術の完全に独立したリーダーになるという目標に到達するまで全身全霊で絶え間なく続くでしょう。」(オズデミル・バイラクタル:1949 - ∞)

若き日のオズデミル・バイラクタル氏

[1] SELÇUK BAYRAKTAR - BAYRAKTAR AKINCI TESLİMAT VE MEZUNİYET TÖRENİ KONUŞMASI https://youtu.be/dGETmeQXemc?t=144
[2] Heat-Seeking Missile-Armed MQ-9 Reaper Shot Down Target Drone During Exercise https://www.thedrive.com/the-war-zone/23694/heat-seeking-missile-armed-mq-9-reaper-shot-down-target-drone-during-exercise
[3] Fighter UAV Competition https://teknofest.org/en/yarisma-detaylar-10.html

※  この翻訳元の記事は、2021年10月21日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳した
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
  す。




おすすめの記事

2022年4月11日月曜日

【独占】ウクライナで別の「バイラクタル」の投入が確認された


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 現代において最も激しく、そして急速に展開しつつある戦争の1つで、無人機はますます重要な役割を果たすようになり、最終的な戦局を左右する重要な要因の1つとなる可能性があります。

 したがって、戦前のウクライナが保有していた18機に加え、開戦後に少なくとも16機の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)が追加で納入されたことは、ウクライナの窮状に対する支援として最も重要な事例の1つと言えるでしょう。[1] 

 最近、私たちはトルコによるドローンの貢献がTB2だけにとどまらないという証拠が出たことを把握しました。「バイカル・テクノロジー」社の「バイラクタル・ミニ」UAVがウクライナで撮影した映像が公開されたことで、この機種が同国へ納入されたことが初めて確認されたのです。[2]

 「バイラクタル・ミニ」は、見た目は大型のUCAVと比較するとかなり華やかさに欠けてはいますが、捜索や偵察任務に最適化された手投げ式の小型機であり、 まさにこのタイプの無人機が 一般的な歩兵部隊の戦闘効率を高める点において極めて重要であることが実証されています。

 さらに、このUAVは誕生から絶えず改良が続けられており、最新のD型は30kmの通信距離、約120分以上の滞空時間、約1200mの最大高度を備えるまでに能力が向上しました。[3]

 この能力向上は、「バイラクタルTB2」の成功にも貢献し、「バイカル・テクノロジー」社をおそらく全世界で最も成功した唯一のUAV輸出企業であることを決定づけた、同社による継続的な改良という方針にこのUAVにも適用されていることがわかります。

 「バイラクタル・ミニ」のようなUAVが持つ最大のメリットは、 戦場で普通の兵士が簡単に持ち運ぶことが可能で、発進や回収のために滑走路(などの専用の設備)を必要としないことです。

 そして、このような無人機は、対戦車ミサイル(ATGM)や(迫撃砲を含む)その他の軽装備、またはより典型的な砲兵部隊が攻撃すべき目標を発見するために活用することができるのは言うまでもありません。

 こうした運用で、(より初歩的な民生品のクアッドコプター型を含む)小型UAVはすでにキーウ周辺のロシア軍に驚くほどの損害を与えることに寄与しています。正確に発見さえしてしまえば、彼らは実質的にウクライナ軍の砲兵戦力の格好の餌食となってしまったのです。

 最近にSNS上に投稿されたウクライナからの映像では、1人のロシア兵が自分の部隊に戻るまで追跡され、その後に彼の部隊がウクライナの砲兵部隊から攻撃される様子が映し出されていましたが、その画面から「バイラクタル・ミニ」の特徴的なインターフェイスが明確に識別することができました。(注:兵士を追跡したUAVは映像の特徴から、別の機体である可能性があります)。[4] 

 結果として、この砲撃を受けたロシア軍の「BMP-2」の損傷状況を評定することはできませんが、どうやら放棄されたようです。

 この戦闘は、「バイラクタル・ミニ」の想定していた使用例と、高画質なジンバル装置付きカメラの有用性を見事に実証しました。

 簡易パラシュートと胴体着陸・回収システムは現地の地上部隊による簡易かつ迅速な運用も可能にさせるため、このUAVが持つ強固な耐妨害性と優れた耐久性は、ウクライナの広大な野原や森林でも重宝されるでしょう。[5] 

左:「バイラクタル・ミニ」がロシア軍の陣地が砲撃を受ける様子を撮影した画面
右:トルコで「バイラクタル・ミニ」がFLIRカメラを使用した際の画面(比較用)

 これまで「バイラクタル・ミニ」の運用が確認されている国はカタールとリビアだけでした。前者は早くも2011年にこのUAVに導入する価値があることを見出し、「バイカル・テクノロジー」社初の輸出先となったのです。[6] 

 この機体はまだカタールで公開されていませんが、2011年にイスタンブールで開催された国際防衛産業フェア(IDEF)で締結された契約に基づいて、10機が納入されことが知られています。[7]

 今までのところ、トルコは戦争中のウクライナに無人偵察機を提供する最初の供給国であり、それによって自身が(重装備を引き渡すことをコミットしている数少ない国の1つという面でも)ウクライナの最も重要なパートナーと主張してきましたが、「バイラクタル・ミニ」のようなUAV飛行隊には、近いうちにその他の多くの外国製小型無人機が仲間入りすることになるでしょう。

 特筆すべきは、アメリカが軍事支援の一環として、ウクライナに(「バイラクタル・ミニと似たようなデザインである)「RQ-20 "ピューマ"」無人偵察機と多数の「スイッチブレード300」徘徊兵器を供与すること約束したのです。「スイッチブレード300」は、ウクライナ軍に非常に有能で斬新な能力をもたらすことが期待されており、1000発が送られたと報じられています。[8]

 こういった兵器の供与は、ウクライナ軍が数で圧倒的に勝る敵に対して優位に立たせるための極めて重要なファクターとなる可能性があります。

 小火器や装甲戦闘車両(AFV)といった通常兵器のほかに、「バイラクタル・ミニ」のような無人兵器は、同じ地域に配備されているほかの全ての兵器類の効用を高める乗数的戦力増強要素(フォースマルチプライヤー)として機能します。

 必要とされる所に質の高い十分な乗数的戦力増強要素があれば、両陣営の損失比率はすでに驚くほどアンバランスになっている状態がさらに歪められることになり、最終的にロシアの軍事作戦の立案者たちは攻勢を続けることの利点を再考せざるを得なくなるかもしれません。

 この目標を達成するための手段を提供する任務が実行されるかについては海外のウクライナの友好国次第であり、それによって、現代で最も重要な戦争におけるヨーロッパの運命が決するでしょう。


[1] Ukraine's defence imports from Turkey jumped 30-fold in Q1 - Turkish data https://www.reuters.com/world/ukraines-defence-imports-turkey-jumped-30-fold-q1-turkish-data-2022-04-06/
[2] https://twitter.com/NotWoofers/status/1512131462627270676/photo/1
[3] https://twitter.com/BaykarTech/status/1373569420526813186
[4] https://twitter.com/NotWoofers/status/1512131462627270676/photo/1
[5] GELİŞMİŞ ÖZELLİKLERİYLE BAYRAKTAR MİNİ İHA D https://youtu.be/uFyQrg2E800?t=117
[6] Turkey sells mini drones to Qatar https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-sells-mini-drones-to-qatar-15862
[7] Procurement: Turkey Exports UAVs https://www.strategypage.com/htmw/htproc/articles/20120319.aspx
[8] U.S. sending Switchblade drones to Ukraine in $800 million package https://www.politico.com/news/2022/03/16/us-sends-switchblade-drones-to-ukraine-00017836

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年4月2日土曜日

A-10に続け:新たなタンクバスター「バイラクタル・アクンジュ」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 A-10「サンダーボルトII」はCAS(近接航空支援)専用機として開発された機体であり、敵戦車を引きちぎったり強力な30mm機関砲で敵の地上部隊を掃射します。GAU-8「アヴェンジャー」ガトリング式機関砲の搭載を中心に設計されたA-10は、単に戦場に存在するだけでも、地上のどんな敵にも消えることのない恐怖感を与えるのに十分な「攻撃」となります。

 一見したところ、「バイラクタル・アクンジュ」はA-10を恐ろしい戦車ハンターにした要素を少しも備えられておらず、いかなる種類の砲熕兵装ですら装備されていません。

 しかし、戦争は変わりました。もはや航空機が敵の幅広い防空システムにさらされながら、機関砲や無誘導ロケット弾を主兵装に用いた低高度での対地攻撃を行うことはなくなるでしょう。

 現在 航空機の大部分は敵の地上目標を攻撃するために精密誘導弾に頼っており、敵の防空システムの「天井」をはるかに超えて飛行していることがよくあります。A-10のような機体でさえ、JDAMや「ペイブウェイ」シリーズのPGM(精密誘導弾)を搭載して、最終的にはこの戦術の転換に適応しなければならなかったのです。

 機体の生存性の確保については自身が(ステルス性や距離によって)検知されないままでいる方法に道を譲った一方で、現代における兵装の発展は搭載できるその量が機体自身の空力や速度を上回ることを意味するようにさせました。安価ながらも高精度な「MAM-L」誘導爆弾を用いたアゼルバイジャン軍の「バイラクタルTB2」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で少なくとも92台のアルメニア軍のT-72戦車を無力化しました。[1]

 かさばる装甲が「MAM-L」のような爆弾からのトップアタックに対して全く防御力をもたらさないことから、彼らの成功は「戦車の終焉」がついにやって来たのではないかという主張の登場にも至らせました。

 しかし、ナゴルノ・カラバフ戦争は火力支援プラットフォームとしての戦車の終焉を告げるものではなく、実際には高強度紛争における無人機の投入に関する実現可能性を証明するものでした。このような状況下でTB2は非常によく機能し、わずか2機の損失が確認された一方で少なくとも548のアルメニアの標的を破壊したと言うことができます。[1]

       

 2019年と2020年にリビアとシリアで無力化されたものを含めると、破壊された戦車の数はさらに増えます。この国々では、TB2が少なくとも30台以上の戦車を破壊したことが確認されています。

 ここで、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビアで「バイラクタルTB2」によって破壊されたことが視覚的に確認された戦車の一覧を以下に示します。


戦車 (124:破壊)


 2021年8月に最初の「バイラクタル・アクンジュ」が就役したことで、バイカル社のUAVファミリーの対戦車能力が高まっているように見えます。

 実際、TB2と比較すると、「アクンジュ」は最大で18発の「MAM-L」(または任務の必要性に応じて「MAM-C」)を搭載することが可能です(注:TB2の最大搭載量は4発)。この能力は、「アクンジュ」をたった1回の出撃で装甲車列の全体を壊滅させたり、前進する部隊に先駆けて敵を取り除くことで地上の攻勢を支援するための完璧なシステムとして位置づけています。

 ロケトサン社の「MAM-L」は、UAVや軽攻撃機での使用を想定して開発された精密誘導爆弾です。「MAM」シリーズは、静止・移動目標の両方を高い精度で攻撃することが可能であり、これまでもいくつかの紛争で活躍が見られました。

 新たにINS/GPS誘導方式を「MAM-L」に導入したことは、その射程距離を7kmから14km以上へと劇的に延長し、現在世界中で運用されているほとんどの(ロシアの)移動式防空システムをアウトレンジすることを可能にさせました。



 「アクンジュ」は無人機戦の分野に多くの斬新な能力をもたらしています。その目新しさから、これらの能力だけに焦点を当てることは、おそらく理にかなっているでしょう。

 ただし、既存のUCAVよりもペイロードが増加したという単純な事実も同様に重要です。実戦で18発の「MAM-L」を搭載するケースが実際に発生することは起こりそうもありませんが、これは「アクンジュ」が持つ素晴らしいペイロードと現代の最も恐ろしい空飛ぶ駆逐戦車の1つとしての可能性を示しています。

 新しい兵装が「アクンジュ」と共にめざましい勢いで開発されており、このことはドローン技術が常に敵の対抗策より先を行くことを確実なものにしています。無人航空戦の未来がついに到来した暁には、「アクンジュ」がその最前線に立つかもしれません。



[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html

※  当記事は、2021年9月17日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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無人機戦における新たな章:「バイラクラル・アクンジュ」が就役した




 「İstikbal göklerdedir. Göklerini koruyamayan uluslar, yarınlarından asla emin olamazlar - 未来は空にあります。自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)」


 8月29日にトルコ空軍に就役した「バイラクタル・Akıncı(アクンジュ)」は、無人機戦の分野に多くの斬新な機能を導入しています。

 これらには、世界中の既存のいかなるUAVにも備わっていなかったいくつかの機能:特に、250km以上の射程を持つ高精度の巡航ミサイルやBVRAAM(視界外射程空対空ミサイル)を100km先の標的に向けて発射する能力が含まれています。

 これらの能力は「アクンジュ」を世界初の量産型マルチロール無人戦闘航空機に変え、無人のカウンターパートによってレガシーの航空アセット(の役割)をますます効果的に再現するきっかけとなります。

 すでに著しく多種多様な兵装プラットフォームですが、「アクンジュ」の 1,350kgという大きな兵装搭載量、搭載可能なさまざまな種類の兵装、そして24時間以上の滞空性は、現在トルコ空軍の240機のF-16飛行隊に付与されている対地攻撃任務の多くを引き継ぐのにも最適であることを意味しています。[1] 

 「アクンジュ」がF-16の対地攻撃任務を継ぐことは、少なくともこれらの任務から解放された貴重な機体が空対空戦闘に専念できるようになるため、トルコがロシアの「S-400」地対空ミサイルシステム(SAM)の購入を決定した結果としてF-35プロジェクトから除外されたことで生じた戦力ギャップを一応は部分的に減少させることができるでしょう。

 このユニークな一連の能力を世に送り出すことを別として、「アクンジュ」は「バイラクタルTB2」やTAI「アンカ」といったシステムに比べてペイロードも大幅に増やすことによって、トルコの既存の無人戦能力を大幅に拡大させます。

 これらのUAVでは重すぎて搭載できなかった誘導爆弾を「アクンジュ」では搭載できるようになったことに加えて 、この機の増加したペイロード容量は「MAM-L」のような小型爆弾をはるかに多く搭載することも可能にします。

 実際、TB2では4発だけだった「MAM-L」を「アクンジュ」では最大で24発を搭載することができることもあって、この新型機はたった1回の出撃で敵の装甲車列全体を壊滅させたり、前進する地上部隊のために敵を狙い撃ちすることで友軍の攻勢を支援するための完璧なシステムとして位置づけられています。後者の役割では、24時間以上の滞空性能のおかげで敵にとっては「アクンジュ」が忍耐強い潜在的な脅威となるでしょう。

    
 バイカル・ディフェンス社は「アクンジュ」が持つ兵装システムの統合を進めており、現在では数種類の誘導爆弾がこの新しいプラットフォームでの使用を検証するためにテストされています。

 これには、2021年4月に最初の試験が行われたスマート爆弾の「MAM」シリーズの新しい派生型である、40km弱の射程距離を誇る「MAM-T」が含まれています(「MAM-L」と比較すると14km以上も長いのです)。

 「MAM-T」は「アクンジュ」で使用されることになっている「テバー(TEBER)」「LGK(レーザー誘導キット装着爆弾)」「KGK(射程延長用の折りたたみ式主翼・GPS/INS誘導キット装着爆弾)」「(L)HGK(レーザー及びGPS/INS誘導キット装着爆弾)」などの精密誘導爆弾ファミリーと共に役立つものになるでしょう。

 これらの誘導爆弾は、自国で設計された誘導キットと国内生産された「Mark-82」、「Mark-83」と「Mark-84」無誘導爆弾を組み合わせたものから構成されています。

 急速に成長しているこの誘導爆弾ファミリーからも分かるように、トルコの精密誘導弾はそれを搭載することになっている無人機と同様に迅速に導入されています。

 とりわけ約900kgの重量を誇る「Mark-84」は非常に手強い武装であり、無人機に搭載される最重量級の爆弾でもあります。GPS/INS誘導キットを装着した場合、この爆弾は「HGK-84」と呼称されます。

 「HGK-84」は最大28km(低空から投下した場合は22km)の射程距離に到達できる一方で、「LHGK-84」呼ばれる別の派生型には精度を向上させるためにレーザー誘導キットが装着されています。[2]

 また、別の派生型である「NEB-84」は、橋やバンカーなどの硬い目標や地下の目標に使用するために設計された(誘導)貫通爆弾です。

 「アクンジュ」以外で「Mark-84」(米国では「GBU-31 JDAM」)を搭載できる無人機は、ジェットエンジンを搭載したジェネラル・アトミックス社の「アヴェンジャー」だけです。


 一見すると無限な種類があると思える兵装を搭載するために、「アクンジュ」は合計で9基のハードポイントを備えており、その位置は主翼の下部に8基、胴体下に1基となっています。後者には、「HGK-84」や「SOM」巡航ミサイルを含む、この無人機に搭載可能な最重量級の兵装が搭載される予定です。

 典型的な兵装の搭載例としては、下のイメージで示されているように、折りたたみ式の主翼キットを搭載した「KGK-82」滑空誘導爆弾2発、「テバー82」精密誘導爆弾2発、そして「MAM-L」小型誘導爆弾8発で構成されたものがあります。この組み合わせは、遠距離にある高価値な硬化目標を攻撃するために出発した「アクンジュ」に、その道中で敵車両の隊列に遭遇してもそれらを即座に撃破させ、そのまま任務を継続・完了させることを可能にします。



 「アクンジュ」が持つ、ほぼ間違いなく最も革新的な特徴は、国産の「ボズドアン」赤外線誘導式AAMとソリッドステート化されたアクティブレーダーシーカーを用いて自身を目標に向けて誘導する(撃ち放し式の)「ゴクドアン」BVRAAM(目視外射程空対空ミサイル)から構成される、空対空ミサイル(AAM)の運用能力があることです。

 「アクンジュ」が搭載しているAESAレーダーは、遠距離の目標を自律的に見つけ出し、低速飛行している的の固定翼機、無人機やヘリコプターを撃墜するために交戦したり、味方の無人機を護衛するために使用することができるはずです。

 (世界にはBVRAAMを保有していない空軍も多数存在するため)BVRAAMを搭載した「アクンジュ」はほとんどの空軍が直面することのできない大きな課題です。さらに、(オフボアサイト照準能力を持つ)「ボズドアン」のような中距離AAMも高速で機動性が高い上に電子妨害にも強いため、相手の戦闘機にとっても脅威となる可能性があります。

 これらのミサイルはいずれも現時点で依然として開発の途上にあり、「アクンジュ」に完全にインテグレートされるまでには数年を要すると思われます。

 この機体が持つもう一つの特徴は、敵の指揮所やSAMサイト、艦艇や230kgの高性能炸薬弾頭での精密打撃を必要とする他の標的に使用するために設計された「SOM」巡航ミサイル・シリーズを搭載する能力があることです。

 このシリーズの2つの派生型は特に艦艇に対して使用するように設計されたものですが、はるかに小型の「MAM-T」の射程距離は、すでに(トルコの仮想敵国である)ギリシャ海軍の4隻を除く全艦艇の防空システムの有効射程距離を凌駕しています。

 それらがその役割で用いられそうにはありませんが、この事実は、過去数十年でUCAVとそれらが搭載できる精密誘導弾の性能がいかに急速に成長したかを示しています。



 一旦現役に入れば「バイラクタル・アクンジュ」は無人戦の新たな章を告げることになります – 味方の領空内から敵のターゲットに巡航ミサイルを発射したり、「NEB-84」貫通爆弾で地下のバンカーを破壊したり、最大24発の「MAM-L」で装甲車列を停止させたり、敵の防空システムをその射程外から狙ったり、敵の航空機・UAVやヘリコプターを撃墜したり...。

 兵装の種類が豊富なことは、「アクンジュ」にある作戦飛行の途中で別の任務へ容易に転用することが可能であることを意味しており、既存のいかなる無人機よりも運用面で柔軟性が大きなものとなります。

 「アクンジュ」の購入に関心を持っている国にとっては、これらの任務に使用される全ての兵装(及びその誘導キット)をトルコからダイレクトに調達できるという事実が高く評価されることでしょう。さらに、この新型UCAVがNATO規格の兵装に適合しているということは、NATO諸国が他の兵装や各国で製造された兵装を「アクンジュ」にインテグレートできることを意味しています。

 これはNATO諸国だけに及ぶものではなく、アゼルバイジャンやパキスタンのような独自の精密誘導爆弾を開発している国では、比較的簡単に「アクンジュ」とのインテグレート(あるいはそうするためのトルコの支援)が期待できます。

 海外の顧客にとって魅力的であることが「アクンジュ」の成功を確かなものにしており、最終的にごく僅かしか生産されなかった世界中の多くの有望なUCAVの運命から逃れられるかもしれません。

 そのため、この新型機は無人機戦の歴史の中で最も重要な大激変の一つとしての役割をすぐに獲得するか可能性があります。



[1] https://twitter.com/ssysfakb/status/1431632334969790465
[2] Precision Guidance Kit (HGK) - TÜBİTAK https://www.sage.tubitak.gov.tr/en/urunler/precision-guidance-kit-hgk

※  この翻訳元の記事は、2021年8月29日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
  により、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。