ラベル 対艦ミサイル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 対艦ミサイル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022年8月5日金曜日

知られざる艦艇の話:バングラデシュの「キャッスル」級哨戒艦



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年8月にベイルートで発生した壊滅的な大爆発の映像は、2.750トンの硝酸アンモニウムの保管に関する驚くべき無能と過失によって207人を死に至らせたことに加え、150億ドルを超える損害を生じさせたとして世界中に衝撃を与えました。

 また、この爆発事故によって、国連レバノン暫定軍の海上任務部隊の一員として地中海に派遣され、ベイルートに駐留(停泊)していたバングラデシュ海軍艦艇「BNS ビジョイ(上の画像)」も被災しました。近くにあった穀物倉庫が爆風の大半を受け止めたおかげで爆発による最も極度な影響から免れることはできましたが、それでも乗組員から21名の負傷者が生じ、「ビジョイ」自身も無事に帰国する前にトルコで修理を受けなければなかったのです。[1]

 「BNS ビジョイ(勝利)」は2011年初頭からバングラデシュ海軍で運用されている2隻の哨戒艦のうちの1隻です。両艦のキャリアは1980年代初頭のイギリスで始まり、「キャッスル」級哨戒艦として就役しました。

 この哨戒艦の主要な任務は、北海におけるパトロールと漁業保護の遂行にありました。また、この艦は緊急時の掃海作戦にも使用可能であり、最初から設けられてる兵員の収容スペースや広いヘリ甲板は、同艦をさらなる多数の補助任務にも完璧に適したものにしています。

 1982年のフォークランド戦争後、「キャッスル」級は3年ごとの交代制でフォークランド諸島の警戒任務に従事していました。

 これらは2000年代半ばまでに「リバー」級外洋哨戒艦「HMS クライド」に置き換えられることになり、「キャッスル」級の2隻は2005年と2007年にイギリス海軍から退役しました。

 当初、この2隻は2007年にパキスタン海上保安庁に売却される予定でしたが、取引が成立しなかったため、結果として2010年4月にバングラデシュ海軍へ売却されました。

 2010年5月以降、両艦は(イギリス北東部の)タインサイドにある「A&Pグループ タイン造船所」で大規模な改装を受けました。これにはエンジンのオーバーホール、新しいディーゼル発電機とデッキクレーンの搭載、乗組員の居住空間の徹底的なアップグレードが含まれており、一連の作業は2010年12月まで続きました。[2]

 2011年初頭にバングラデシュに到着した後、両艦は「BNS ダレシュワリ(同国を流れる川の名前)」と「BNS ビジョイ」として同国海軍に就役しました。[3]

       

 ほぼ間違いなく彼らのキャリアの中で最も興味深いものとして、新しい所有者の下で哨戒艦からミサイルコルベットに格上げされたことが挙げられます。

 バングラデシュで改修を受けた結果、「キャッスル」級は中国製の「C-704」対艦ミサイル4発とソ連の「AK-176」76mm砲の中国製コピー「H/PJ-26」で武装したイギリス起源の哨戒艦という世界でも類を見ない独特な艦となりました。

 40mm機関砲1門(後に30mm機関砲に換装)と小型艇に対する近接防御用の7.62mm汎用機関銃(GPG)数門だけを装備していたイギリスでの就役当時のものを考慮すると、これらの新たな艦載兵装は以前のものから著しく向上したことは一目瞭然でしょう。

 新たに搭載された兵装については、艦橋後部に設置された2門の有人式20mm機関砲と、対空・対水上レーダーと火器管制レーダーで一段と強化されています。

爆発に巻き込まれた「BNS ビジョイ」から下船して歩く負傷兵たち(2020年8月4日)

 1993年にモザンビークに初めて派遣されてi以降、バングラデシュ海軍は国連の平和維持活動に定期的に参加しています。約30年間で、バングラデシュ海軍の5,000人以上の人員が、アフリカ、中東、南米、アジアにおける国連ミッションを完遂しました。[4]

 2010年には、海軍はフリゲート「BNS オスマン」と哨戒艦「BNS マドゥマティ」の2隻を国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の一員として派遣しました。

 「BNS ビジョイ」は2020年8月4日に文字どおりに爆発に巻き込まれるまでの間、地中海のパトロール、海上阻止、対空監視、そしてレバノン海軍要員の訓練を任務としていましたが、被災後はコルベット「BNS ショングラム(056級コルベットの輸出型)」がその任務を引き継ぎました。[5]

爆発直後に撮影された「BNS ビジョイ」内部の状況

 広いヘリ甲板を備えているにもかかわらず格納庫が存在しないためか、「キャッスル」級にはイギリス海軍もバングラデシュ海軍も作戦配備の際に艦載ヘリコプターを配属させたことがありません。その代わり、ヘリ甲板は複合艇(RHIB)の格納場所や訓練・娯楽エリアを兼ねて使用されており、窮屈な船内に欠けながらも大いに必要とされるスペースを提供しています。

 将来的には、広大な甲板スペースをVTOL型UAV用に活用して「コルベット」の実質的な警戒範囲を大幅に拡大することが可能となるでしょう。この種のUAVはヘリコプターよりも運用コストが大幅に低いだけではなく、船内や甲板の空きスペースに置く専用の(コンテナなどの)小さな構造物に格納できるという付加価値も有しています。

消火訓練で放水中の「BNS ビジョイ」と「BNS ダレシュワリ」(2017年)

 バングラデシュ海軍は(改装された)中古艦艇の運用にかなり慣れている海軍として知られています。

 この2隻はかなりの艦齢にもかかわらず、地中海における国連のミッションへの派遣やバングラデシュの領海警備で、将来にわたってこの国の海軍で十分に役立つ見込みがあります。

 特に世界中のほかのコルベットと比較した場合、主に対空ミサイルや近接防御用火器(CIWS)といった現代的な武装面で乏しいかもしれませんが、現在進行中の大規模な軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」の後には上記の武装を導入した新型艦を目にする可能性があるでしょう。

 この事業で中国から「035」級潜水艦を導入したことを踏まえると、バングラデシュ海軍には期待すべき明るい未来が待っていることは間違いありません(注:「035」級はバングラデシュ初の潜水艦です)。



特別協力: Rahbar Al Haq (敬称略)

[1] Beirut blast-damaged BNS Bijoy returns home https://www.dhakatribune.com/bangladesh/2020/10/25/beirut-blast-damaged-bns-bijoy-returns-home
[2] A&P Tyne wins massive refit https://www.thenorthernecho.co.uk/news/8119098.p-tyne-wins-massive-refit/
[3] Bangladesh Secures 2 Used British OPVs https://www.defenseindustrydaily.com/Bangladesh-Secures-2-Used-British-OPVs-06369/
[4] Role of Bangladesh navy in UN peacekeeping mission https://m.theindependentbd.com/printversion/details/201462
[5] Bangladesh Navy corvette BNS Shongram en route to help in Lebanon https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2020/august/8858-bangladesh-navy-corvette-bns-shongram-en-route-to-help-in-lebanon.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




おすすめの記事 

2022年4月21日木曜日

「ネプチューン」怒りの一撃:旗艦「モスクワ」の最期


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 ロシアによるウクライナ侵攻が軍事的にも経済的にも純然たる大失敗であったことは、現時点で全く否定することはできません。

 首都キーウとウクライナ東部を包囲・掌握し、西側諸国をウクライナの将来的な地位に関する交渉のテーブルにつかせることを目的とした迅速な作戦は、今やロシアが自らの国力を維持できる状態ではない、東部における血みどろの消耗戦と化したことは一目瞭然です。

 ロシアによる攻撃は、自国軍の指揮・戦術・装備に関する多くの問題を露わにするという、この先何年にもわたって分析されるであろう大惨事を招いてしまいました。
 
 犠牲が大きく非常に見苦しい最近の事件で、ロシア海軍の黒海艦隊はその旗艦である「スラヴァ」級誘導ロケット巡洋艦「モスクワ」を依然として詳細不明の要因によって失い、世界を震撼させました。

 現在最も有力視されているシナリオは、(ウクライナ国防省が発表したとおり)この巡洋艦に海岸から発射された「RK-360MT "ネプチューン"」対艦ミサイル(AShM)2発が命中して搭載されている弾薬類の誘爆を阻止できなかったことから、次第に艦の破壊が進んで最終的に沈没したというものです(注:「モスクワ」が対艦ミサイル2発の直撃を受けたことはアメリカ国防総省の高官が認めたと報じられています)。

 上記とは別の要因として、詳細不明の原因によって弾薬の爆発が引き起こされたという説がロシア当局によって主張されています。[1]

 「モスクワ」の乗組員のほとんどは艦が被弾後しばらくして安全に避難したようであり、ロシア国営メディアは「モスクワ」は修理のためにセヴァストポリ港に戻りつつあると報じていますが、これは単に事態が進行中であることを隠蔽しているにすぎません(注:後にロシア国防省は「モスクワ」沈没を認めました。乗組員もかなりの数の犠牲になったと推測されています)。

 ウクライナにとっては「モスクワ」の沈没は驚異的な偉業であり、士気を大きく向上させるものです。「モスクワ」は反ロシアのスローガン「Русский военный корабль, иди нахуй (ロシア軍艦、くたばれ)!を生み出すきっかけとなった、(以前にウクライナが撃沈したという誤情報を出した)プロジェクト22160級コルベット「ワシーリー・ブイコフ」と共にスネーク島(ズミイヌイ島)の掌握に重要な役割を果たしたことが知られています。

 それにもかかわらず、一般的に考えられているのとは逆に、「モスクワ」の喪失がウクライナ戦争に及ぼす実際の軍事的な影響はほとんどありません。

 この巡洋艦が装備している射程550kmを誇る「P-500」対艦ミサイル16発と射程90kmの「S-300F(S-300Pの海軍版)」地対空ミサイル64発は確かにスペック上では非常に強力に見えますが、主敵のはずのウクライナ海軍は港に引きこもったままであり、空軍はこの地域で「S-300F」を有効活用できるような高度で運用されていないからです。

在りし日のロケット巡洋艦「モスクワ」の威容

 「モスクワ」の撃沈に貢献したと云われているウクライナのアセットの1つが、「バイラクタルTB2」無人航空戦闘機(UCAV)です。

 すでにロシア国防省は(2022年3月に受け取った追加の16機を含めた)ウクライナの保有数よりも多くのTB2を撃墜したと主張していますが、ロシアの非公式情報は、「モスクワ」の乗組員に向かってくる2発の対艦ミサイルよりも無人機へ注意を集中させるための陽動としてウクライナのTB2が投入されたと指摘しています。[2]

 確かに説得力のある説にはなっていますが、そのシナリオが誤りであることはほぼ間違いありません。

 「モスクワ」のような軍艦に装備されている対空レーダーとそのオペレーターは僅か1つの目標よりも多くのものを検知・追尾する能力があるだけでなく、実際に稼働している限り、事実上自動的にそうすることができます。したがって、仮に対空レーダーが実際に無人機を追尾していたのであれば、彼らの状況認識力は不意に攻撃される状態よりも高いレベルにあったということになります。

 もし、本当に沈没が2発の対艦ミサイルの直撃を受けたことで生じたのであれば、単に「モスクワ」のレーダーがミサイルを検知できなかったり(あるいは検知が遅れてしまった)、装備されている6門の「AK-630」近接防空システム(CIWS)では艦を防御しきれなかったという可能性が極めて高いと思われます。

 この意味で、これまでの報道において、(命中ではなく)発射されたと思われる対艦ミサイルの総数が明確に言及されていないことに留意する必要があるでしょう。つまり、「モスクワ」の防空能力が綿密な計画によって実施されたミサイルの飽和攻撃に対処しきれなかったというシナリオもあり得ないわけではないのです。

沈む少し前の「モスクワ」

 多くの軍事アナリストたちは、一般に先進的と考えられているロシア軍装備の非有効性に依然として困惑していますが、実際のところ、ロシア軍のハードウェアが現代の戦場で有効に機能できないことが実証されるという傾向が以前から続いています。

 ウクライナでの戦争はこの秘密を広く世間に晒していますが、これを初めて真に世に知らしめた最初の紛争は、2020年に勃発したナゴルノ・カラバフをめぐる「44日間戦争」でした。この戦争で、ロシアの最新の電子戦システムと防空システムの大部分がUCAVと小型の徘徊兵器に対してほとんど対処できなかったことが証明されたのです。[3] [4]

 つまり、最新型の対艦ミサイルによる攻撃に直面した場合、ロシア海軍の艦船に搭載されたレーダーや対空ミサイルシステムの有効性がそれらと異なることを示す根拠は何もありません。

 「モスクワ」を撃沈に至らせたと云われる新型地対艦ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」は、ウクライナ国産ですが、基本的にソ連の「Kh-35」をベースにしたものです。

 こうした対艦ミサイルには、攻撃が成功する可能性を高めると共に適時の探知を困難にする、さまざまな技術が取り入られています。その1つは、ミサイルが海面から僅か数メート高度高度を飛行しながら(レーダー波が目標に検知されるのを避けるために)終末段階まで慣性航法を用いることから、 敵艦がレーダーでそれを探知して正確に迎撃することが非常に困難であることです。

 現代の対艦ミサイルには、ほかにも多くの秘策を有していると考えられています。「ネプチューン」がそのような能力を備えているかどうかは不明ですが、現代の対艦ミサイルの大分部は、命中のタイミングを正確に調整できるように飛行経路をプログラミングし、同時に複数の方向から攻撃して防御側を圧倒することが可能です。

 このようなミサイルを撃墜することは非常に困難かもしれませんが、「Kh-35」と「ネプチューン」は亜音速で飛行する比較的軽量級の対艦ミサイルであり、「ネプチューン」の最大射程は280キロメートルであることも同時に強調しなければなりません。

「モスクワ」は「ネプチューン」が想定していた目標よりもはるかに巨大なだけでなく、現代の戦闘群が活発な戦闘地域で警戒状態にあることを考慮すると、対艦ミサイルの攻撃を完全に防ぐことはできないにしても、少なくとも命中で引き起こされるであろう損傷を最小限に抑えることはできたはずです。

 確かに、「モスクワ」はウクライナが依然として支配している沿岸地域から100km未満の海域で作戦に従事していたと考えられるので、それが「ネプチューン」の格好の標的にしたに違いありません。[5] 

 結果として、巨大な巡航ミサイルと豊富な弾薬類を備えた「モスクワ」の重武装は最初のミサイル直撃後に制御不能の火災を引き起こし、それが艦自体の終焉をもたらした可能性があります。

 ところで、著者はTB2の話が全くの誤りとは言っていません。実際、ロシア国防省は「モスクワ」が沈む前日に、黒海上で「バイラクタルTB2」と交戦するロシアのフリゲート「アドミラル・エッセン」を撮影したとされる映像をリリースしました。[6] 

 また、今まで報じられていない別の事例では、ウクライナ海軍がロシア海軍の艦船に対して1機のTB2を投入し、「MAM-L」誘導爆弾を敵艦に命中させたものの、(弾頭重量が軽いため)ほとんど損害を与えることができなかったというものがあります。

 TB2のより適切な使用例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。実際、TB2に装備されたWESCAM製「MX-15D」 FLIRシステムは、天候が良ければ少なくとも100km先にいる「モスクワ」程度の大きさの目標を発見することが可能です。

 攻撃当時の気象条件のおかげでその検知可能な距離が狭まったことで、TB2は「モスクワ」が誇る「S-300F」防空システムの射程圏内を飛行せざるを得なくなった可能性があります。

 高度な艦対空ミサイルシステムの交戦圏内に入ることについて、多くの人は特にTB2のようなアセットが確実に撃墜されることを意味すると思い込むでしょうが、実際には必ずしもそのとおりにはなりません。

 特にウクライナ海軍の場合、保有するTB2はクリミアに配備されているロシアの「S-400」の射程圏内で多くの任務を遂行しているため、それを踏まえるとこの恐るべき防空システムはどうやら戦果を挙げることがあまりできていないようだからです。

ウクライナ海軍に属する「バイラクタルTB2」の1機。胴体下部の「WESCAM」製「MX-15D」FLIR装置に注目。

 CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。

 ウクライナにとって不運なことに、最初の「ネプチューン」CDS複合体の導入はちょうど2022年4月に予定されていましたが、 2月に開始された戦争とロシアによるウクライナの軍事産業に対する激しい無力化措置によって、その導入は当然ながら困難となってしまいました(同時に導入の必要性も生じたことは言うまでもないでしょう)。

 しかし、「ネプチューン」のような極めて重要なアセットを実際に無力化するための取り組みはあまり徹底されていないように見受けられます。 ロシア国防省の傲慢さが真の脅威を特定し、それに対処することを阻んでいるようです。

 例えば、開戦初日に(信じられないことに、ウクライナが隠す試みをしなかった)TB2の地上管制ステーション(GCS)に打撃を与えるのではなく、それを無視したことによってロシアが初日にウクライナのUCAV戦力を麻痺させることができたにもかかわらず、 ウクライナにGCSを安全に移動して秘匿することを許してしまったのです。
 
 「ネプチューン」について、ウクライナは僅かなシステムとミサイルから構成された試作型を有する1個中隊しか運用していませんが、まもなく運用が開始される予定だった最初の量産型「ネプチューン」大隊のために、すでに完成していたもの全てで増強していたのかもしれません。

 この中に対水上捜索レーダー(ウクライナ版「モノリート」)が含まれているかどうかは不明です:単に初回生産分のシステムを新品の車体に急いで組み込み、既存の「ネプチューン」中隊に配属された可能性が考えられます。

 ただし、もしそのようなレーダーがまだ使用可能な状態になかった場合、現場の空域を飛んでいたと報じられているTB2は索敵任務が与えられていた可能性があり、(事実であれば)沿岸部の海上目標を探知するのに非常に有効な手法であったことが実証されたことになります。

「ネプチューン」CDS複合体の発射試験の状況

 早ければ(ウクライナ時間の)4月13日に発生したと思われる事件の直後、「モスクワ」はセヴァストポリ港に向けて曳航されているとの情報がソーシャルメディア上に流れました。

 この情報は後にロシア当局によって追認され、当局は火災がきっかけで搭載されていた弾薬が誘爆し、乗組員が完全に避難していたとされる「モスクワ」が深刻な被害を受けたと公表しました。[7]

 その翌日、ロシア国防省は、この曳航中だった巡洋艦が荒天のためにバランスを失って沈没したことを明らかにしました。

 また、「モスクワ」が沈没する直前に54人のロシアの乗組員をトルコの船が救助したという情報も流れてきました。[8] 

 巡洋艦「モスクワ」の乗組員が510人であったことを考えると、沈没の原因がミサイル攻撃か火災にあったのかにしても、この事件で失われた人命は極めて深刻なものであったことは間違いないでしょう(注:4月17日にロシア国防省はイェブメノフ・ロシア海軍総司令官が「モスクワ」の元乗組員を閲兵する動画を公開しましたが、明らかに人数が少ないため、乗組員に死傷者や行方不明者が多いことを暗示しています)。

 しかし、仮にロシア国防省が公表したシナリオが真実であったとすれば、そのたった1日後にウクライナの対艦ミサイルの製造と修理を手がけるキエフの工場を攻撃したと公表したことについては、明らかに偶然にしては不可解なものがあります。[9]

 ロシアが隣国を征服しようとした破滅的な物語は、攻撃を見守る人々だけでなく、ロシア自身をも驚かせたに違いありません。なぜならば、かつて世界で最も強力な軍隊の1つと信じられていたロシア軍の最大の敵は、NATOではなくロシア政府そのものであることが判明したからです。

 無能や腐敗、そして現実を完全に否定することが深く組み込まれた統治手法は、他国を無益な戦争に引きずり込むことに加担しただけでなく、有用な戦闘部隊としてのロシア軍自体を崩壊させたように見受けられます。

 この意味で、巡洋艦モスクワの沈没は一見したところ1つの出来事にすぎませんが、はるかに大きな問題が噴出する兆候であると言えるでしょう。

 「モスクワ」撃沈でウクライナが直接的に軍事面での恩恵を得ることは少ないかもしれませんが(それでも、ウクライナ軍が享受できる士気の向上をもたらした最も有益な出来事の1つであったことは云うまでもありません)、前述の問題がこの戦争を軍事的に勝利しようとするロシアの試みを邪魔し続けることは間違いないと思われます。

 ロシアの政治的及び軍事的指導者が最終的にこうした深刻な問題にある程度対処することができるかどうかは不明ですが、それを実行する能力の有無がロシアの残虐な戦争の結果を決する唯一にして最大の決定要因となるでしょう。


[1] Cruiser Moskva retains buoyancy, explosions of ammunition stopped — Defense Ministry https://tass.com/politics/1437605
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1514398732611211271
[3] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[4] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[5] Satellite Image Pinpoints Russian Cruiser Moskva As She Burned https://www.navalnews.com/naval-news/2022/04/satellite-image-pinpoints-russian-cruiser-moskva-as-she-burned/
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1514401183900831756
[7] Fire breaks out onboard Moskva missile cruiser, crew evacuated — defense ministry https://tass.com/emergencies/1437443
[8] Ukraine braces for revenge attacks from Russia after Moskva sinking https://www.theguardian.com/world/2022/apr/15/ukraine-braces-revenge-attacks-russia-moskva-sinking
[9] Ukraine says fighting rages in Mariupol, blasts rattle Kyiv https://www.reuters.com/world/europe/powerful-explosions-heard-kyiv-after-russian-warship-sinks-2022-04-15/

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



おすすめの記事

2021年7月22日木曜日

小さくても命取りな存在:トルクメニスタンの高速攻撃艇


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 カスピ海の海軍バランスを考えるとき、トルクメニスタンが最初に思い浮かぶ国ではないことはほぼ確実でしょう。それにもかかわらず、継続的な海軍の増強はこの点についてロシアと並ぶ地域有数の海軍力を持つ国に変えました。これはトルコのディアサン造船所によるところが大きく、同社はトルクメニスタン海軍が保有する現代的な艦艇のほぼ全てを供給しています。

 それらの一つが、過去10年で運用を開始した世界でも極めて数少ない高速攻撃艇(FAC)の一種である「FAC 33(上の画像)」です。(ほぼ確実に)サイズと運用者が小国のおかげで、このFACは設計された国(トルコ)以外ではほとんど知られていません。それでもなお、その滑らかなデザインと比較的軽い武装によって、同クラスの他の艦艇とは際立ったものになっています。

 33メートルという小さなサイズと搭載可能な武装は「FAC 33」をミサイル艇というよりはFACに近いものにしていますが、対艦巡航ミサイル(AShM)の登場以降はどちらの呼称もほぼ同義語になっていますので、特に問題はありません。

 (当然ながら世界最大の称号は北朝鮮が持っているため)トルコは確かに世界最大のFAC保有国ではありませんが、今日でも新型FACの設計を依然として積極的に行っている数少ない国の一つです。それらには、従来の船型から双胴船ベースのデザイン、さらには表面効果船(SES)型までのあらゆるタイプのものが含まれています。

 2013年に大統領府国防産業庁(SSB)は現在トルコ海軍で使用されているFACを置き換える新型FACの入札を開始しましたが、30近くの国内で設計された案から選定することができました。[1]

 これら全ての半分だけがトルコ型FAC計画の一部として入札に提案されましたが、これは(幅広い)設計の流行が(当局に)ほとんど過大評価されていないことを示しています。最終的には、僅かに非従来型のデザインを抑えた(しかし同等に見栄えの良い)STM社「FAC55(下の図)」をベースにした設計案が選定されました。


 トルコのFACを獲得する取り組みが始まった1年後の2014年、トルクメニスタンも新型FACの導入による自国海軍の強化を試みていました。ただし、トルコとは対照的に、すでに就役している既存の同クラスの艦艇を置き換えるのではなく、トルクメン海軍をカスピ海で最も恐るべき艦隊へと劇的に変化させることを目指した野心的な拡大計画の一環として新造艦の調達に関心を向けていたのです。

 トルクメニスタンとトルコとの間で享受されている文化的、経済的、そして軍事的に緊密な関係を考慮すると、アシガバートがその野望を実現するための計画を提示する先としてトルコに目を向けたことは自然なものでした。

 数多くあるトルコの造船会社からパートナーを選んだ結果、トルクメニスタンは最終的にディアサン造船所を選定しました。理由としては、おそらく同社がトルクメニスタンのニーズに完全に適合した幅広い種類の艦艇を売りに出していたからでしょう。

 追加的な利点として、ディアサンによって設計された艦艇のいくつかは、すでに運用面での実績があります。これらの中で最も人気があるのが2011年から16隻がトルコ海軍に配備されている「ツズラ」級哨戒艇であり、これも最終的にはトルクメニスタンで運用されている別の哨戒艇「NTPB」のベースになっています。

 2014年6月にはディアサンとの間で6隻の「FAC 33」に関する契約が結ばれました。[2] 

 最初の船は2014年7月に建造が開始され、翌2015年1月に進水して同年の7月にトルクメニスタンに引き渡されました。残りの艦艇の引き渡しは3ヶ月間隔で続き、2017年には納入が完了しました。[2]

 その後、この6隻は「SG-119 Naýza」、「SG-120 Ezber」、「SG-121 Kämil」、「SG-122 (名称不明)」、「SG-123 Galjaň」、「SG-124 Gaplaň」として、(一般的にSBSと略されるか、トルクメニスタンでは「Serhet Gullugy」と呼ばれている)国境警備隊に就役しました。

 2016年、これらの新型艦はトルクメニスタン初の共同演習「ハザル-2016」に参加しました(注:ハザルはカスピ海のテュルク語名です)。


 「FAC 33」は全長33メートルで2基のウォータージェットに動力を供給する「MTU M90」または「MTU M93L」ディーゼルエンジンを2基備えており、エンジンの選択に応じて37ノット以上または43ノット以上の速度を出すことができます。それよりも僅かに遅い速度を出した場合では、「FAC 33」の航続距離は350海里(650km)です。[3]

 「FAC 33」の艦載兵装は、艦橋前部のアセルサン社「STOP」25mm遠隔操作式銃架(RWS)、艦橋上部に(乗員用の)12.7mm重機関銃を2門、さらには艦尾に2発の「マルテMk2/N」対艦ミサイルを搭載しています。


 ディアサン造船所は(ギュルハン造船所との合弁事業で)国境警備隊とトルクメニスタン海軍の主要な供給業者となっています。

 これまでに、ディアサン造船所は(「ツヅラ」級をベースにした)「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速攻撃艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級上陸用舟艇1隻、「HSV 41」測量船1隻、「FBF 38(別名FPF 38)人員輸送用双胴船1隻、タグボート2基をトルクメニスタンに納入しています(注:「FBF 38」はディアサン社などのウェブサイトでトルクメニスタンに納入された船の画像があります)。

 その後、2隻を除く全ての艦艇が国境警備隊に就役しましたが、これはトルクメニスタン海軍の発展が忘れ去られているというわけではありません。それどころか、海軍はさらに別の艦を全海上戦力の活動拠点であるトルクメンバシで建造中の「C92」コルベットという形でディアサン社から受け取ることになっています(注:この「C92」級は、2021年8月11日に「Deniz Han」として同国海軍に就役しました)。

 海軍と国境警備隊はこの都市にそれぞれ独自の基地と造船所を置いており、そこには「FAC 33」や大型の「NTPB」をメンテナンスしやすくするために、それらを水面から吊り上げて陸上に置く巨大なクレーンも備えています(注:海軍の基地国境警備隊の基地 の衛星画像はこちらです)。


 国境警備隊で就役しているディアサン造船所のもう一つの艦艇は、最大で40ノット以上の速度で航行可能な高速介入艇である「FIB 15」です。

 この高速艇は全長15メートルではるかに小型で軽量ですが、就役した10隻の武装は「FAC 33」と同じ「STOP」 25mmRWSが装備されています。

 その特性から、この船は海上阻止、沿岸警戒、港湾警備任務に非常に適したものになっています。

 「STOP」25mm RWSは近距離の目標と交戦するには最適な装備ですが、遠距離の敵艦を狙うには全く別の種類の武器が必要となります。FAC 33では、それはイタリアの「マルテ Mk2/N」AShM発射機を2基搭載という形でもたらされています。

 この亜音速シースキミング・ミサイルは、中間地点を通過するミッド・コースでの慣性航法と終末段階でのアクティブ・レーダー誘導を使用して、30kmを超える圏内にいる敵艦艇をターゲットにします。これは「Kh-35」「エグゾゼ」などの他の対艦ミサイルよりもはるかに短い射程ですが、このミサイルはヘリコプター発射型AshMの「マルテ Mk2/S」の派生型であることを留意しておく必要があります。[4]

 トルクメニスタンの「FAC 33」には「Mk2/N」用の単装発射機が2基しか搭載されていませんが、この発射機を二段重ね(スタック・ツイン)式に容易にアップグレードすることが可能です。この方式を用いた場合、甲板面積に影響を与えることなく「FAC 33」のミサイル搭載数が2倍となります。

 もし、このようなアップグレードがトルクメニスタンによってまだ想定されていないのであれば、これは僅かなコストで6隻の船の火力を増強するという、将来的な中間期近代化(MLU)の一環としての魅力的な選択肢になり得るでしょう。


 「FAC 33」は、高度な自動化に貢献している多機能ディスプレイを備えたコントロール・ステーションや遠隔操作式の武装を含む最先端技術を取り入れています。自動化は大幅な人員削減も可能としており、FAC33では乗員数が12名を超えないものと推定されています。


 「FAC 33」のユニークな特徴として、船尾に高速艇用の(スターン・ランプとしても知られている)スリップ・ウェイを設けていることがあります。これは船の活動範囲の拡大に大いに貢献し、不審な船の迅速な停止と検査を容易にしています。

 現代のFACの多くは後部甲板に小型ボートを搭載していますが、これらは原則としてクレーンを使って水面に降ろす必要があります:外洋での高速追尾に従事する際は降下作業が不可能となります。

 「FAC 33」は依然として比較的新しい設計ですが、ディアサン社のラインナップではすでに「FIB 33(33m級高速介入艇)」と呼ばれる新型に更新されています。航続距離と速度が向上した以外では、最も明らかな外観上の違いに船体の上部構造が延長されたことや2基の「マルテ Mk2/N」発射機の位置が船尾に変更されたことがあります。

 艦橋上部に携帯式地対空ミサイル(MANPADS)の2連装発射機が新たに追加されていますが、その他の武装はFAC33と同じです(注:MANPADS発射機は後述の「FAC 43」と同様に「ミストラル」用の「SIMBAD-RC」であると思われます)。

 現在、ディアサン社が売り込んでいるFACは「FIB 33」だけではありません。「FAC 43」は基本的に「FIB 33」の大型版であり、結果としてより豊富な種類のレーダーや武装がその設計に取り入れられています。

 それに対して、「FAC 65」は全く異なる種類の設計案となっています。「FAC 65」は全長が65メートルもありますが、その長さだけでなく、8セルの「VL MICA-M」艦対空ミサイル用VLSを搭載しているという重対空兵装の点から、この船については重装備型ミサイル艇かコルベットと呼ぶことがふさわしいかもしれません。






























 少人数の乗員で運用するコンパクトな設計で驚くほど幅広い機能を提供していることから、「FAC 33」とその後継型の「FIB 33」は21世紀の多目的船という称号を大いに獲得しています。現在ではパキスタンやバングラデシュといった国が艦隊を更新している途中のため、これらのようなトルコの設計案は彼らの魅力的な採用候補となるかもしれません。

 もっと身近なところでは、カスピ海を共有するほかの国々によって深刻なほどに(水上戦力が)劣勢となっている、アゼルバイジャンやカザフスタンが有望な顧客に含まれる可能性があるでしょう。

 ひとつだけ確かなことは、この地域では約30種類の設計案が売り込まれているため、どのような条件だろうと顧客の要件を満たす艦船が常にあるということです。


[1] Turkish FAC-FIC Designs https://defencehub.live/threads/turkish-fac-fic-designs.558/
[2] IDEF 2015: Dearsan set to deliver first fast attack craft for Turkmenistan https://web.archive.org/web/20150717004314/www.janes.com/article/51221/idef-2015-dearsan-set-to-deliver-first-fast-attack-craft-for-turkmenistan
[3] 33m Attack Boat https://web.archive.org/web/20160731140456/http://www.dearsan.com/en/products/33-m-attack-boat.html
[4] Marte Mk2/N https://www.mbda-systems.com/product/marte-mk2-n/

特別協力: Hufden氏 from https://forums.airbase.ru

 ※  この記事は、2021年3月22日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。