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2023年3月18日土曜日

さらなる輸出市場の拡大:トルコがインドネシア向け哨戒艇の輸出に着手した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコが海軍の分野でほぼ自給自足の状態を成し遂げる方向に急速に進んでいることもあり、近頃では同国で設計された艦艇が世界中の海軍で運用されています。

 この野心的な努力の一環として、トルコの造船所では売り出す軍用艦艇のラインナップを常に拡大し続けているようです。2013年にトルコが現在海軍で仕様されている高速攻撃艇(FAC)を置き換える新型のFACの入札を開始した際に、30近くの国産で設計された案から選定できたことからも、同国での軍用艦の設計に関する流行の規模が決して誇張されたものではないことが証明されています。[1] [2]

 今やトルコは独自設計のヘリコプター搭載型強襲揚陸艦(LHD)からフリゲート、さらには小型潜水艦までも国内外の顧客に売り出しています。そのため、近い将来にトルコが世界最大の軍用艦艇の輸出国の1つになる可能性があることも考えられないことではありません。

 この素晴らしい偉業は少なからずとも防衛装備のほぼ全てを国産化することを意図しているトルコ政府のおかげで達成された産物です。そして、このことは、遠くないうちにトルコの造船所が輸出用の艦船を売り出す際に、艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなることも意味します。

 20年ほど前のトルコは依然として自国の海軍のニーズを外国が設計した艦船に大きく依存しており、艦船を輸出すること自体が非現実的な夢物語だったことを考えると、今ではその状況が劇的に変化したことが一目瞭然でしょう。
 
 以前にパキスタン、カタール、UAE、インド、トルクメニスタン、ジョージア、ナイジェリア、エジプト、ウクライナに艦艇を輸出した後、今やトルコは東南アジアの新市場への進出に向けて動き出そうとしているようです。

 トルコの軍事関連メディア「サヴンマTR」のインタビューの中で、駐トルコのインドネシア大使であるラルー・ムハンマド・イクバル氏はトルコから軍用艦を調達することに関する交渉が始まったことを明らかにし、「トルコとの海軍システムに関する協力が相当な規模で増えるでしょう」と述べ、さらに「私たちは防衛産業との関係を向上させるためにより多くのことを行う必要があります...(中略)そのため、インドネシアがトルコから軍用艦を調達する可能性について、いくつかの交渉が始まったのです」とも述べました。[3]

ラルー・ムハンマド・イクバル大使(左)とイスマイル・デミル防衛産業次官(右)

 インドネシアが最初に興味を示したトルコ艦艇は、「TAIS(タイス)」造船所が設計した「KPC 65(65m級大型哨戒艇)」でした(注:「タイス」側では「LPC 65」が制式な名称とされています)。[4]

 強力なパンチ力を秘めた全長65mという大きさの船が「哨戒艇」と分類されていることについて困惑する方もいるでしょうが、本質的な問題ではないので気にしないでください。

 この「パンチ力」は76mm砲1門、2連装35mm機関砲1門、「STAMP」12.7mm リモート・ウェポン・ステーション(RWS)2基、「ロケットサン」製対潜ロケット弾発射機1門、「アトマジャ」対艦ミサイル(AShM)8発で形成されています。

 当然ながら、艦載兵装は顧客の要望に応じて変更可能であるため、インドネシアでは「アトマジャ」から(同海軍が装備している)「エクゾゼ」に変更されるかもしれません。しかし、「ロケットサン」製の対潜ロケット弾発射機は、変更されずにそのまま搭載される兵装システムの1つとなるでしょう。

 インドネシア海軍は、1992年にドイツから購入した16隻の「カピタン・パチムラ(パルヒム)」級コルベットのうち14隻を対潜艦(ASW艦)として運用し続けています。ドイツ海軍は1991年の東西ドイツ統一時に東ドイツの人民海軍から「パルヒム」級を引き継いだものの、冷戦終結後はこれらの艦艇を運用する必要性がほとんどありませんでした。

 このような理由から一気に売却された「パルヒム」級コルベットは当時のインドネシア海軍が持つ哨戒・対潜能力を著しく強化しましたが、今やソナーや兵システムが旧式化したため、更新が必要な状態となっています...それが「KPC 65」を欲した一因なのでしょう。

 インドネシアは、海軍用にまずは2隻の「KPC 65」を購入することに関心を示していると考えられています。[4]

 ラルー・ムハンマド・イクバル大使は、「私たちは防衛産業においてさらに前進し、特に海軍システムに関する協力が著しく増えるでしょう。[中略] そして、両国間での開発や共同設計も行われることになるでしょう。」とも述べました。[3]

 これは、「KPC 65」がインドネシアの要求に基づいて設計が変更されたり、同国の造船所で建造されることを意味するのかどうかはまだ不明ですが、後者は確かに妥当なものと思われます。

 

「KPC 65」の後部には多くの兵装が搭載されていることを示しています。この画像では、左から順に2門の12.7mm RWS、対艦ミサイル、対潜ロケット弾発射機、そして2連装の35mm機関砲塔が見えます。このモデルには対艦ミサイルは2発しか搭載されていません。

 現在のインドネシア海軍(TNI-AL) は、20隻程度の高速攻撃艇(FAC)から成る相当な規模の艦隊を運用しています。これらのFACの大部分はその基準からしても軽武装であり、最も多いFACである「クルリット」級は対艦ミサイルを僅か2発しか搭載していません。

 インドネシアが保有するFACで最も高性能なのは「サンパリ(KCR 60M)」級であり、同クラスは中国の「C-705」対艦ミサイルを4発、主砲として40mmまたは57mm機関砲を1門、中国製「NG-18」30mm近接防御システム(CIWS)を1門、そして対空・水上目標に用いる近接防御用20mm機関砲 1 門を装備しています。

 インドネシアは現時点で数回のバッチに分けて合計18隻の「KCR 60M」を導入することを計画しており、これまでに5隻が進水しています。[5]

 新しいバッチは、初期バッチよりもある程度の能力向上が図られる予定です。

 当初は各艇に主砲として「BAEボフォース」製「Mk.3」57mm機関砲が搭載される計画でしたが、予算上の制約で最初の2隻は代わりに同社製の40mm機関砲が搭載されました。これらは最近になってロシア製の「AU-220M」57mm RWSに交換されましたが、将来的に登場するバッチの分には当初から想定されていた「Mk.3」57mm機関砲が装備される予定となっています。[6]

「KRI トゥンバク」は主砲の位置に依然としてボフォース製40mm機関砲を装備しています
5隻目の「KCM 60M」である「KRI カパク(艦番号625)」はボフォース製「Mk.3」57mm機関砲を搭載しています。さらに、その後ろにはロシア製「AU-220M」57mm RWSを装備したばかりの「KRI サンパリ」と「KRI トゥンバク」も停泊しています。

 「タイス」造船所では、「KPC 65」に加えてトルコ初の国産ヘリコプター搭載型強襲揚陸艦(LHD)や複数のFAC、OPV、コルベット、フリゲート、揚陸艦や補給艦を含む広範囲にわたる種類の艦艇を売り出しています。

 「タイス」共同企業体には、(現在「TCG アナドル」 LHDを艤装中の)の「アナドル」造船所、「イスタンブール」造船所、「セデフ」造船所、「セフィネ」造船所、「セラ」造船所が参加しています。

 「タイス」造船所はトルコ海軍向けに数隻の大型揚陸艦や「バイラクタル」級戦車揚陸艦を建造した後に、インド向けに補給艦5隻、カタール向けに練習艦2隻と揚陸艦3隻を建造して輸出に成功しました。

 同造船所が売り出している艦艇のラインナップはここで見ることができます

「タイス」で最も先進的な見た目の「67m級高速ミサイル艇(GFMPB)」

「140m級多目的船フリゲート」は「タイス」が売り込んでいるものでは最大の水上戦闘艦です

 「タイス」造船所が「KPC 65」哨戒艇でインドネシアの市場に参入することができるとすれば、これがトルコとインドネシアの防衛協力の深化につながる可能性は十分にあり得ます。

 現在、両国は「現代型中戦車(MMWT)」プロジェクトで協力関係にあり、インドネシアはトルコ製UCAVの導入にも関心を示しています。[3]

 2021年、インドネシアは国軍を近代化するために1250億ドル(約14兆3,300億円)を投資する計画の概説をしました。同計画では、国内の防衛産業から装備類を調達することと、海外からの技術移転を確かなものとすることを優先としています。[7]

 「KPC 65」はこの計画に十分に適合しており、(「MMWT」プロジェクトで見られたように)おそらく最初のバッチはトルコで、残りはインドネシアで建造されるでしょう。

 将来的な両国の協力関係は、防衛産業の域を超越する可能性を秘めています。現在の状況はトルコのハイテク産業に、インドネシアが現在推し進めているいくつかのインフラ関連のプロジェクトに関与することを可能にする余地を残しているのです。

「FNSS」社と「PTピンダッド」社で協同開発された現代型中戦車(「カプランMT/ハリマウ)

[1] Turkish FAC-FIC Designs https://defencehub.live/threads/turkish-fac-fic-designs.558/
[2] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[3] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[4] https://twitter.com/kimlikci_954/status/1459622498614616074
[5] Indonesia Launched Its 5th KCR-60M Fast Attack Craft https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/indonesia-launched-its-5th-kcr-60m-fast-attack-craft/
[6] https://twitter.com/Jatosint/status/1467457606637834245
[7] Indonesia reveals USD125 billion military modernisation plan https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-reveals-usd125-billion-military-modernisation-plan

  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。



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2023年1月9日月曜日

地域での成功の鍵:インドネシアが「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」を購入に目を向ける


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 最近のトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)が中央アジアで輸出を成功させた後、今度はアフリカにおけるトルコ製ドローンの拡散が注目を集めています。[1] 

 チュニジアは「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UASを発注した一方、モロッコとリビア、ニジェール、ナイジェリア、エチオピア、ルワンダ、トーゴ、そしてマリは「バイラクタルTB2」を調達しました(注:ニジェールにTB2が納入されたかは未確認)。それらに加えて、アンゴラ、モザンビークといった他のサハラ以南のアフリカ諸国では、TB2の導入を示唆しているか、すでに発注している状態にあります。[2] 

 TB2は間違いなく、信頼性と手頃な価格を兼ね備えながらも戦場で圧倒的な効果を発揮できた最初のUCAVであるため、 (前述した国以外の)サハラ以南のアフリカ諸国がこのUCAVの導入の流れに続くことはほぼ確実でしょう。
 
 アナリストや無人機ファンが次のTB2輸出に関するニュースを待望している間にも、すでにより多くの国がトルコ製無人機を導入するための行列に加わりつつあります。

 トルコの軍事関連メディア「サヴンマTR」のインタビューにて、駐トルコのインドネシア大使であるラルー・ムハンマド・イクバル氏が「インドネシアはトルコからUAVを入手する可能性について検討している」と明かした上で、「トルコがUAVを供給するだけでなく、将来的にさまざまなタイプのUAVび関する技術移転やプログラムにも参加する」こともインドネシアが願っていると語りました。さらに同大使は「私たちはトルコがこの件(注:UCAV)で世界中で話題になっていることを誇りに思います」とも言及しています。[3]
 
 そして、2022年11月に開催された「インドゥ・ディフェンス2022」でジェーンズと話した情報筋は、さらに「バイカル・テクノロジー」社が「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」に関してインドネシア政府と交渉中であることを確認したと語りました。[4]
 
 現時点で、東南アジアでUCAVを保有している国は比較的少数にとどまっています。これまでにUCAVを導入したのはインドネシアとミャンマーだけであり、近年ではタイとベトナムが国産の武装無人機を開発中です。[5] [6] [7]

  マレーシアは近い将来に3機の「TAI」製「アンカ」中高度・長時間滞空型(MALE)UAVを導入する予定です。[8] 同国はまだ武装無人機を追い求めてはいませんが、将来のいずれかの時点で「アンカ」を武装化を図る可能性がゼロとは言えないようです。

 インドネシアは、2019年以降に中国から導入した6機の「CH-4B」UCAVを運用しています。このUCAVは、「TAI」と「PTDI」によって売り込まれたトルコの「アンカ-S」と「翼竜Ⅰ」との競争を勝ち抜いて選定・導入されたものです。同国の「CH-4B」は空対地ミサイル(AGM)で武装可能であり、通信中継あるいは通信情報収集(COMINT)ポッドを装備している姿も目撃されたことがあります。[9] 

 また、インドネシアでは「PT・ディルガンタラ・インドネシア(PTDI)」 によって国産UCAV計画も進められました。「エラン・ヒタム(黒鷲)」という名前で知られているこの計画について、実際に運用可能なシステムが誕生するまでには数年はかかると思われましたがが、技術的な問題に直面して2022年9月に中止となってしまいました。[10]

 トルコの無人機、それもほぼ間違いなく「バイカル・テクノロジー」社が設計した機体に関心を示したということは、インドネシアが「CH-4B」飛行隊を補完するために「バイラクタルTB2」のような追加のUCAVか全く新しい能力を提供する無人機(またはその両方)の導入に目を向けていることを示唆していることは明らかです。

 インドネシアが当初から運用ドクトリンの構築とMALE型UCAVの使用に関する操作員の訓練を目的として「CH-4B」を取得したことを踏まえると、今の時点で同UCAVがさらに調達されることは起こりえないでしょう。

 人口の密集地が海によって隔てられているという独自の地理的特性のために、インドネシアは国の防衛に重大な課題を抱えています。

 インドネシア国軍は東西5,150kmに及ぶ17,000もの群島の哨戒任務を負っており、大量の哨戒艇や哨戒機を運用して不法侵入や領海内で発生するあらゆる活動に目を光らせているのです。

 偶然なことに、かつてオランダの植民地軍(KNIL)も、この広大な島々をいかにしてパトロールするのが適切なのかという同じ問題に直面していました。
 
 1930年代後半になると、オランダは現在のインドネシアに相当する「オランダ領東インド諸島(蘭印)」をめぐる安全保障に関する懸念をますます高めていきました。設計と建造に少なくとも10年はかかる大規模な海軍部隊の構築ではなく、王立オランダ領東インド陸軍航空隊はその代わりとして「空中巡洋艦」構想を打ち出したのです。[11]

 この構想は、大量の爆撃機を導入して、あらゆる群島の隅々に前線滑走路の建設を必要とするものでした。日本軍の侵攻部隊(艦隊)が蘭印領の島に接近してくる場合には、大量の爆撃機を想定される戦闘地域に近い滑走路へ展開させることができるというわけです。
 
 この構想を実現させるために、蘭印はアメリカから(マーティン「B-10」の輸出版である)「139WH型」と「166型」爆撃機を合計で121機を導入しました。「B-10」系統の機体は1930年代後半に就役した時点ですでに旧式化していましたが、これらは蘭印が容易に入手できる唯一の機種でした。

 この「空中艦隊」は後に爆弾を搭載可能な「ドルニエ」製「Do-24」飛行艇と「ダグラス」製「A-20 "ボストン"」爆撃機によって増強され、そのうちの6機は日本に陥落される前の蘭印に到着できました。[11] 

 旧式の「B-10」爆撃機シリーズは日本の戦闘機を高速で振り切ったり戦闘で勝てると思われていましたが、その性能はすぐに「A6M(零戦)」といった日本軍の新型戦闘機に追い抜かれてしまいました。それでも、「マーティン」機は日本機に対していくつかの素晴らしい勝利を収めたことから、彼らの導入は本質的に群島防衛のための脅威に通用する唯一の選択肢だったことは間違いありません。

 「空中巡洋艦」のコンセプトは、インドネシアが求める防衛上の要求に応えるために「バイラクタル・アクンジュ」を導入することによって息を吹き返す可能性があります。なぜならば、「アクンジュ」が誇る 7,500kmの航続距離と24時間以上の滞空性能は、同国中央の航空基地を拠点としながらインドネシア群島の隅々までカバーするのに十分すぎるほどであるからです。

 ほかの島にある空港は、前方武器燃料補給地点(FARP)として機能することでUCAVの作戦を支援することが可能です。これによって、各地に展開した「アクンジュ」各機が長時間にわたって燃料や弾薬を搭載していない状態が続くことがないことを保証します。

 さらに、「アクンジュ」は陸・海・(射程は限られるものの)空の目標に対して攻勢的な作戦を実施することを可能にする、275km以上の射程を持つ(対艦)巡航ミサイルや100km以上の射程を誇る視程外空対空ミサイル(BVRAAM)を含むさまざまな種類のスタンドオフ兵器の搭載ができるという特徴があるのです。
 

インドネシアにはUCAVの運用をサポートできる空港や空軍基地が100カ所以上あります

 インドネシアが有人戦闘機を「空中巡洋艦」として用いることについては、その短い滞空時間、(十分な)空中給油機の不足、そして莫大な導入価格によって実現が妨げられています。

 現在、インドネシア空軍(TNI-AU)は30機以上の「F-16」と12機の「Su-30KI」を含む約100機の作戦機を運用しており、先述の主力戦闘機以外の数については、「Su-27」、「T-50」「ホーク200」「EMB 314(スーパーツカノ)」ターボプロップ式軽攻撃機で占められています。

 2021年2月、インドネシア空軍のファジャール・プラセティオ参謀総長は、同国が「F-15EX」とダッソー製「ラファール」を調達する意向であることを明らかにし、それに伴って以前から計画していたSu-35の導入構想は完全に終止符が打たれたようです。[13] 

 また、インドネシアは韓国が進めている「KF-X」戦闘機計画のパートナー国であるため、インドネシア空軍によって実際に「KF-21 "ポラメ"」が導入されることがほぼ確実となっています。[13]

 このような外国産の作戦機と一緒に使用されるのが、さまざまな種類の誘導兵器です。「Su-30KI」は「Kh-31P」対レーダミサイル、「Kh-59M」「Kh-29TE」 TV誘導式空対地ミサイルを運用可能です。「F-16」は(2019年に最大で100発を導入した「JDAM」GPS誘導弾や「AGM-65」空対地ミサイルを運用可能ですが、「T-50」や「ホーク200」にも搭載することができます。そして、インドネシア軍の「CH-4B」は「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを使用しています。

 「AR-1/2」と「AGM-65」以外の誘導兵器は地上部隊への効果的な火力支援をもたらすには相対的に不向きなため、TNI-AUは火力支援では無誘導ロケット弾や各種の無誘導爆弾の使用に頼らざるを得ません。

 インドネシア陸軍(TNI-AD)は最近、対戦車ミサイル(ATGM)を運用可能な攻撃ヘリコプターを導入したものの、現時点でインドネシア全土で使用できる攻撃ヘリは「AH-64E」が8機、「Mi-24」が7機と僅かなものであり、依然として必要な数からはほど遠い状況であることは一目瞭然です。
 

「M117」無誘導爆弾でフル爆装した「F-16」

 インドネシアの広大な範囲と島の数が非常に多いため、航空兵力と大砲・多連装ロケット砲(MRL)との相乗効果が発揮される可能性は限定されています。群島周辺における大分部の軍事作戦では地上ベースの火力支援アセットに期待することが厳しいことを踏まえると、航空戦力はインドネシアが戦うあらゆる戦闘において、極めて重要なファクターなのです。

 したがって、重量級のペイロードを長距離輸送可能なプラットフォームは、非常に貴重なアセットとなります。 

 「アクンジュ」は主翼と胴体下部に合計で9基のハードポイントを備えています。特に後者はUCAVへの搭載が可能な兵装の中で最重量級のものを搭載することが可能であり、具体的には重量900kgの「HGK-84」誘導爆弾と射程275km以上を誇る「SOM」巡航ミサイルの搭載が挙げられます。
 
 「アクンジュ」が他のUCAVと異なるのは、将来的に本格的な空対空ミサイル(AAM)運用能力が備わるという点にあります。このUCAVは自身のAESAレーダーで遠距離にいる標的の位置を特定し、「スングル」携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、「ボズドアン」赤外線誘導式AAM、100km以上の射程を持つ「ゴクドアン」目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)で攻撃することが可能となるのです。

 「アクンジュ」の実現可能な武装パッケージは、精密誘導ミサイルと爆弾による長距離打撃能力と共に18発以上の「MAM-L」誘導爆弾の搭載を実現するため、同機を地上部隊への航空支援を供するのに最適なアセットにしています。[15] 

 「アクンジュ」はTNIに長距離攻撃能力を提供する一方で、小型の「バイラクタルTB2」には衛星通信アンテナ(SATCOM)を搭載するオプションがあり、それが適用された機体の航続範囲は27時間という長時間の滞空時間だけが制約となります(SATCOM未装備の機体の作戦可能範囲は僅か約300kmです)。[16]
 

 駐トルコインドネシア大使のラルー・ムハンマド・イクバル氏はトルコに対して、「将来的に、さまざまな種類のUAVに関する技術移転やプログラムにも参加してほしい」という自国の希望を明確に表明しました。[3]
 
 将来的な協力としては、インドネシアにおけるトルコ製無人機の組み立て・整備センターの設立が含まれる可能性が考えられます。
 
 両国の軍事・技術協力の可能性はUAVの分野をはるかに超えています。特に「FNSS」と「PTピンダッド」が共同開発した「カプランMT/ハリマウ」中戦車プロジェクトは、両国が力を合わせれば何ができるのかを示す最適の実例であることは言うまでもないでしょう。[17]

 さらに、すでに「PTDI」と「TAI」が「N-219」と「N-245」ターボプロップ旅客機で協力を進めている間の2021年の後半には、トルコからの海軍艦艇の調達について交渉が始まったことが明らかにされました。[18] [19] 


 2012年の時点でも、トルコは依然として自国の需要に合わせるためにアメリカから武装ドローンを積極的に調達しようと試みていました。[20] 

 それから僅か10年でトルコ製のUCAVを発注した国は(当記事執筆時点の2022年11月時点で)27か国となり、そのうち24か国が「バイカル・テクノロジー」社にUAVを発注しています。[21][22]

 トルコは自身が無限の研究開発予算を持つ超大国でなくても、先端技術分野の開発で素晴らしい偉業を成し遂げられることを証明しました。インドネシアが「バイカル」社や「TAI」からUAVを導入するか否かにかかわらず、トルコ製ドローンがインドネシアの軍事力において決定的な役割を果たす可能性があることは間違いないでしょう編訳者注:2023年8月、インドネシアが「アンカ-S」12機を調達する契約を交わし、2025年11月までに納入される旨が報じられました
 
インドネシアが導入するTAIの「アンカ-S」UCAV(画像はトルコ軍機)

[1] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[2] Taking Africa By Storm: Niger Acquires The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/taking-africa-by-storm-niger-acquires.html
[3] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[4] Indo Defence 2022: Baykar in talks with Indonesian government on Bayraktar TB2, Akinci UAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indo-defence-2022-baykar-in-talks-with-indonesian-government-on-bayraktar-tb2-akinci-uavs
[5] Thai UAV Surprises at Singapore Show https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2020-02-12/thai-uav-surprises-singapore-show
[6] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[7] Red Star Rising - Vietnam’s Armed Drone Project https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/red-star-rising-vietnams-armed-drone.html
[8] Malaysia Signs Contract with TAI for 3 ANKA Drones https://www.overtdefense.com/2022/10/11/malaysia-signs-contract-with-tai-for-3-anka-drones/
[9] Auguring The Future: Indonesia’s CH-4B UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/roars-over-riau-indonesias-ch-4b-ucavs.html
[10] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[11] Indonesia suspends Black Eagle MALE UAV programme https://www.shephardmedia.com/news/air-warfare/indonesia-suspends-black-eagle-male-uav-programme/
[12] 40 jaar luchtvaart in Indië by Gerard Casius and Thijs Postma
[13] Indonesia definitively closes the door on Su-35; wants Rafale and F-15EX https://www.aviacionline.com/2021/12/indonesia-definitively-closes-the-door-on-su-35-wants-rafale-and-f-15ex/
[14] South Korea rolls out first KFX jet prototype. Will Indonesia still reap benefits from it? https://www.thejakartapost.com/news/2021/04/16/south-korea-rolls-out-first-kfx-jet-prototype-will-indonesia-still-reap-benefits-from-it.html
[15] Endless Possibilities - The Bayraktar Akıncı’s Multi-Role Weapons Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/endless-possibilities-bayraktar-akncs.html
[16] Bayraktar TB2 https://www.baykartech.com/en/uav/bayraktar-tb2/
[17] Ride The Turkish Tiger: Indonesia’s Kaplan MT Tanks https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/ride-turkish-tiger-indonesias-kaplan-mt.html
[18] Market Expansion: Turkey Set To Export Patrol Vessels To Indonesia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/market-expansion-turkey-set-to-export.html
[19] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[20] Turkey hopeful that US will sell it armed drones https://www.theguardian.com/world/2012/may/22/turkey-us-sell-armed-drones
[21] Akıncı TİHA da katıldı, savunma sanayisi ihracatta yüksekten uçuyor https://www.aa.com.tr/tr/ekonomi/akinci-tiha-da-katildi-savunma-sanayisi-ihracatta-yuksekten-ucuyor/2482865
[22] An International Export Success: Global Demand For Bayraktar Drones Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[23]  Indonesia buys Türkiye's Anka drones worth $300M

※  当記事は、2022年11月27日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。

2022年12月8日木曜日

レッドスター・ライジング:ベトナムの武装ドローン・プロジェクト



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ベトナムは、第二次世界大戦時代のソ連製小銃から1960年代のアメリカ製主力戦車までのあらゆる兵器を装備した大規模な予備軍によって迅速に動員できる、主にソ連時代の兵器を装備した巨大な軍事機構を守備することによって、その安全保証上の要求に対応しようと務めてきました。

 ベトナム人民軍(VPA)における現代的な装備は比較的不足していますが、その代わりにベトナムは既存の兵器をアップグレードして21世紀の戦闘に適切なものにすることを好んでいるようです。その代表的な例が「T-54M3」戦車へのアップグレード計画でしょう。

 この独特な手法は、ベトナムのような大規模な軍隊で一般的に見られる種類の装備類が不足していたり、比較的後れて導入されていることを意味しています。

 過去10年間、南シナ海で強引さを強める中国に対する抑止力を高めるために、ベトナムは自国の資金の大部分を防空、沿岸防衛システム(CDS)、そして海軍力の近代化・拡大に投じてきました。

 この観点から見ると、無人戦闘航空機(UCAV)の導入がベトナムの最優先事項でないことはほぼ間違いないでしょう。しかし、別の視点からアプローチしてみると、ベトナムが手ごろな価格のUCAVを導入する理由は確かに生じ得ます。

 ベトナム人民空軍(VPAF)は専用の対地攻撃機をほとんど保有しておらず、将来に中国と武力衝突が発生した場合は「Su-27」や「Su-30」飛行隊が数において優勢な中国の飛行隊と戦うことになり、それは地上部隊への近接航空支援に用いることが可能なアセットがほぼ皆無になることを意味しています。

 ちなみに、ベトナム軍の「Mi-24A」攻撃ヘリコプターは、2000年代後半に後継機が存在しない状態で最後の1機が退役してしまいました。

 ベトナムが無人攻撃機の導入を前進させる可能性があるという具体的な兆候が最初に表面化したのは、2020年9月のVPA第11回党大会(注:ベトナム共産党第11回大会とは別)の記念展示会で、双胴機型UCAVのモックアップが登場したときのことでした。[1]

 ベトナム製UAVの大半を担当している「ベトテル・グループ」系企業が設計・開発したと考えられているこのUCAVは、主翼の下に2発の空対地ミサイル(AGM)のモックアップを搭載していました。このドローンやこれまでのUAVプロジェクトがどこまで進んだのかについては、このほかには全く知られていません。


 現段階ではまだモックアップですが、展示された機体のデザインはトルコ航空宇宙産業(TAI)の「アンカ」UCAVと類似しています。もちろん、トルコとの軍事協力が行われている情報が皆無であることから、このような類似性は純粋な偶然である可能性が極めて高いでしょう。

 設計面でさらに興味深いものとしては、機首上部にある衛星通信(SATCOM)アンテナ収容用の盛り上がった部分と胴体下の合成開口レーダー(SAR)用と思しき突出部があり、このUCAVが情報・監視・偵察(ISR)任務を負うように設計されていることを示唆しています。



 この新型UCAVはベトナムで誕生した最初の大型UAVではありません。なぜならば、2015年の時点でに(当時では)最大級のUAVを発表したことがあったからです。[2] [3]

 この「HS-6L」と命名された全幅22mの中高度・長時間滞空型(MALE)UAVは、ベラルーシと共同開発されたものと考えられています。2016年には非武装型の飛行試験が実施されることになっていましたが、2015年にこのプロジェクトが公開されて以来、何の音沙汰もありません。「HS-6L」については、南シナ海の広範囲な部分をパトロールするのに理想的な約4,000kmの航続距離と35時間の滞空時間を誇ると主張されていました。[2]

 その後のベトナムの動向を踏まえると、国産MALE型UAVに対する関心については、どうやら外国製UAVの導入を優先することに取って代わられたようです。

 2018年6月に、2つのイスラエル企業:「エアロノーティクス」「イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)」がベトナムが求める大型UAVの必要条件を満たす機種を売り込んでいたことが公表され、続く同年12月には、ベトナムが1億6,000万ドル(約182億円)で3機のIAI「ヘロン」の調達する契約を締結したと報じられました。[4][5]

 しかし、最終的にこの契約は実現しませんでした。このことは、ベトナム側が依然としてMALE型UAVの導入について躊躇していることを示唆しています。

ベトナム科学技術院とベラルーシで共同開発された「HS-6L」UAV

 実現したのは、「ベトテル」社による「エアロノーティクス」製「オービター3」のライセンス生産でした。2017年、同社はすでに「オービター3」に酷似した新型UAV「VT-スイフト」を公開しています。[6]

 ベトナムはすでに「オービター2」を運用しており、2015年に関連する技術移転と共に「オービター3」の導入に関心を表明していたのです。[7] [8]

 「VT-スイフト」は搭載されたGPS装置を用いて複数の通過地点に基づいて予めプログラムされたルートを飛行し、機首のEOセンサーを使用して偵察や砲撃目標の指示を行う能力を有しています。

イスラエルの「オービター3」のライセンス生産モデルの派生型である「VT-スイフト」

 ベトナムは独自の方法で防衛面での需要に対応し続けるでしょうから、もしかすると同国がUCAVを導入する状況を目にする日がいつかは来るかもしれません。

 ベトナムは偵察手段や「Su-30」といったジェット戦闘機を代替する安価な攻撃機としてのUAVのベストな使用法や、これらを自国の防衛戦略にいかにして上手に取り入れるかを見出すことに尽力していることは確かです。

 近年におけるベトナムの防衛産業がUCAVと専用の兵装を開発する能力を有しているかは不明ですが、技術移転や外国機の製造ライセンスを獲得することによって数年以内にそうした能力を勝ち取り、武装ドローン運用国のリストに新たに自国を加える可能性があります。

※ この記事の作成にあたり、 Lee Ann Quann氏と0bserver4氏に感謝を申し上げます。

[1] https://twitter.com/AnnQuann/status/1309425978892939264
[2] https://twitter.com/0bserver4/status/1484551453620715520
[3] Vietnam Reveals New Drone for Patrolling the South China Sea https://thediplomat.com/2015/12/vietnam-reveals-new-drone-for-patrolling-the-south-china-sea/
[4] UAV tầm xa Việt Nam: Giao hội ý tưởng và công nghệ Đông-Tây https://soha.vn/quan-su/uav-tam-xa-viet-nam-giao-hoi-y-tuong-va-cong-nghe-dong-tay-2015121411442494.htm
[5] Drone race underway in Vietnam https://www.intelligenceonline.com/cor- porate-intelligence/2018/06/27/drone-race-underway-in-vietnam,108314927-art
[6] A New Vietnam-Israel Drone Deal? https://thediplomat.com/2018/12/a-new-vietnam-israel-drone-deal/
[7] VT-Swift http://www.vtx.vn/content/vt-swift-1
[8] Vietnam ups interest in unmanned Orbiter 3 https://www.flightglobal.com/military-uavs/vietnam-ups-interest-in-unmanned-orbiter-3/116093.article
[9] A Perspective on Vietnam http://drones.cnas.org/reports/a-perspective-on-vietnam/

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年12月5日月曜日

トルコの虎:インドネシアの「カプランMT」戦車


著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

 インドネシアは現在でも軽戦車を大量に運用し続けている国として知られています。それらの中で最も古いものは陸軍と海兵隊がそれぞれ運用している「AMX-13/75」「PT-76」軽戦車であり、もともとは1960年代に導入されたものです。

 少なくとも何らかの方法で戦闘能力を維持するべく、その運用期間を通じてアップグレードをされてきたにもかかわらず、上記の両戦車は今や火力や装甲防御力、そして射撃統制システムで現代のAFVに大きく後れを取っていることから、更新が予定されています。

 インドネシア海兵隊は全ての「PT-76」を「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)で更新する方向であるのに対し、陸軍は旧式化した「AMX-13」の後継としてトルコ製の「カプランMT」中戦車を選定しました。

 インドネシアでは、「カプラン」は「ハリマウ(虎)」と呼称されています。

 新たに導入される「カプランMT」の重量は約35トンなので、置き換える15トン級の「AMX-13/75」よりも大幅に重い戦車となります(注:したがって、「軽戦車」ではなくなるわけです)。

 それでも、「カプランMT」の重量は、同じくインドネシア軍で運用されている「レオパルド2A4」や「レオパルド2RI」主力戦車(MBT)よりも相当に軽量な戦車であるということは言うまでもありません。なぜならば、前者は55トン、後者は62,5トンという途方もない重量を誇っているからです。

 インドネシアは約100台の「レオパルド2A6」 の購入についてオランダとの取引を進めていた過去がありますが、同国が同戦車を西ニューギニアの民間人に使用する可能性があるというオランダの反対勢力による懸念のおかげで購入は失敗に終わりました。結局、インドネシアは2013年にドイツからほぼ同数の「レオパルド2」を調達することに成功しています。[1]

 熱帯雨林で覆われたパプアで民間人を狙うためにMBTを用いるという疑問の余地がある意見は別として、実際のところ、インドネシアの民間人に対して戦車を投入した国はオランダ自身以外の何者でもありませんでした。

 1945年の日本の敗戦後、インドネシアの再植民地化を目指したオランダ軍は人道に対する数々の犯罪を犯しました。その残虐性を上回ることができるのは、犯された犯罪に関する10年に及ぶオランダ側の政治的否定だけでしょう。

 1947年12月、住民がインドネシア独立闘士の隠れ家を明かすことを拒絶したため、オランダ軍がラワゲデ村(注:現バロンサリ村)の男性431人全員を虐殺しました。その1年後の1949年1月には、オランダのコマンド部隊兵士らが支配に置いたレンガットの住民を1日がかりでレイプと即刻処刑の狂乱状態にさらした後、 近くの川に遺体を投げ捨てたのです。[2][3] 

 インドネシアにおける他のオランダ軍の作戦では、民間人の巻き添え被害をほとんど考慮せずに戦車が頻繁に使用されました。[4]

 オランダとは全く対照的に、オスマン帝国は1565年にマラッカでポルトガル海上帝国と戦うアチェ王国の味方に付き、大砲の製造に関する知識を提供しました。このようにして国産に成功した大砲は、後にポルトガルやオランダの外征軍に対して使用されました。[5]

 2015年には、両国の末裔であるトルコとインドネシアが、再びインドネシア軍の防衛プロジェクトに共同で取り組むことになりました: この「最新型中戦車(MMWT)」プロジェクトは、(トルコ語で虎を意味する)「カプランMT」やインドネシアでは「ハリマウ」と呼称されていることでよく知られています。

 16世紀の大砲と同様に、トルコの「FNSS」社が「MMWT」の設計の大部分を担当し、インドネシアの「PTピンダッド」社がインドネシア国内でこの中戦車の量産を開始する予定です。


 「MMWT」計画の試作車両は、イスタンブールで開催された武器展示会「IDEF2017」で初披露されました。[6]

 この試作段階では、「カプランMT」はベルギーの「コッカリル(旧CMI)」社製「XC-8」105mm砲塔が搭載されていましたが、後にこの砲塔は同社が開発した「コッカリル3105」に交換されました。

 「コッカリル3105」は「CT-CV 105HP」105mmライフル砲用の自動装填装置に加えて、 自動目標追尾システムや次の目標を捜索・補足するためのハンターキラーモード、そして特殊な赤外線装置でしかキャッチできない信号の検知や送信できる敵味方識別装置から構成された高度な射撃管制システムも装備しています。 [7] 

 自動装填装置には最大で16発までの砲弾を装弾可能であり、それ以上の砲弾は砲塔内に格納される構造となっています。[8]

「コッカリル」製「XC-8」105mm砲塔を搭載した「カプランMT」の試作1号車

 最初の生産契約は、インドネシア軍用に18台の「カプランMT」の製造するというものでした。最初の10台はトルコの「FNSS」が、残りの8台はインドネシアの「PTピンダッド」が生産する予定となっています。[9] 

 2018年9月5日、「FNSS」は「カプランMT」の製造数は合計で200から400台の間を見込めると主張しました。[10]

 これまでに「MMWT」プロジェクトの導入を検討した国が2つありました:バングラデシュとフィリピンです。最終的に「カプランMT」は、バングラデシュの入札では中国の「VT-5」に、フィリピンではイスラエルの「ASCOD2 "サブラ"」を中心とした他国の競合相手に敗れてしまいました。[11] [12] 

 「カプランMT」に興味を示す別の国には、「FV101 ”スコーピオン”」の代替を検討しているブルネイやガーナなどが伝えられています。[13] [14] 

 現在のところ、トルコ陸軍が「カプランMT」を必要としているとは考えられていません。


 試作モデルの公開からちょうど4年後の「IDEF2021(注:イスタンブールで開催)」で、ついに「カプランMT」の量産モデルが公開されました。

 この新型中戦車の徹底的なトライアルを行ったインドネシア軍の意見をフィードバックした結果、「カプランMT」は当初の設計にいくつかの改良が加えられました。

 この改良には、視認性を大幅に向上させるといった操縦手に関する人間工学的な問題の改善も含まれています。そのほかには、サスペンションやトランスミッション、冷却システムなどにも改良が施されています。[15] 

 インドネシア軍への「カプランMT」の納入は2021年の末に始まり、2022年まで続く見通しです。[15]

インドネシアにおける「カプランMT」の試作車両のうちの1台

量産型「カプランMT」:車体全面上部(操縦手席周辺)の形状が変化していることに注目

 「MMWT」プロジェクトへの参加という選択に落ち着く前に、インドネシア陸軍は「AMX-13/75」軽戦車用の近代化パッケージを開発することで、少なくとも10年は運用寿命を延長させる可能性を試みたことがあります。[16]

 一般に知られているのは(就役した第2騎兵大隊:Batalyon-Kavaleri 2にちなんで命名された)「Yonkav(ヨンカヴ)2」であり、もともと75mm砲を搭載していた「AMX-13」に「ネクスター」製の105mm砲を搭載して火力の増強を図るプランでした。

 砲塔自体も増加装甲やレーザー測距装置(LRF)、サーマルサイトなどでアップグレードされ、重量の増加に伴う「ヨンカヴ2」の機動性の低下については、400馬力を誇る「デトロイト」社製のディーゼルエンジンと新型トランスミッションの搭載によって対処されました。

 結果的にほとんど新型戦車と呼べるような設計となったものの、残念なことに少数が第2騎兵大隊で運用されるにとどまったようです。[17]

「ヨンカヴ2」:砲塔への増加装甲については、結果的にどの車両にも装備されることはなかったようです

 「カプランMT」の設計者は、同戦車の装甲防御力について、置き換えられる対象である「AMX-13」よりも大幅に改善することも追求しました。

 「MMWT」は14.5mm徹甲弾に対するNATO共通防御規格である「STANAG4569」レベル4基準の防御力を備えているほか、モジュラー式装甲パネルの装着によって(25mm装弾筒付徹甲弾に耐える)レベル5の防御力に引き上げることが可能となっています。[18]

 このほか、この車体底部はV字型となっており、車体下部の中央や履帯の下で爆発する10kg対戦車地雷から戦車と乗員の生存率を向上させています。

  また、「アセルサン」社と「TÜBİTAK SAGE(トルコ科学技術研究会議・防衛産業研究開発機関)」が共同開発した「PULAT」アクティブ防御システム(APS)を搭載することで、「MMWT」の生存能力をさらに強化することが可能です。

 「PULAT」APSモジュール・システムは、脅威を検出する探知レーダーと迎撃飛翔体で構成されています。同モジュールを車体の周囲に配置することで、全方位的な防御を確実なものとします。

「Pulat」APSモジュールを装備した「カプランMT」の試作車両

 「カプランMT」は、過去数十年の間に開発された中でも数少ない、成功した中戦車プロジェクトです。

 その素晴らしい特性とモジュール性、そして低価格によって、この新型中戦車は現在保有している軽戦車の更新を検討している国にとって魅力的な選択肢となるでしょう。これは、インドネシアやエクアドルといった現時点で「AMX-13」を運用している国のみならず、「FV101 "スコーピオン"」を未だ運用しているトーゴ、ブルネイ、ナイジェリアなどの国々も含まれます。

 新たな機甲戦力を求める一方で高価なMBTを調達するのに必要な資金が不足している国も、同様に「カプランMT」に魅力を感じるかもしれません。

 おそらく、そう遠くないうちにより多くの国々で「ハリマウ」の咆吼を耳にすることになるでしょう。



[1] Indonesische leger verkiest Duitse tanks boven Nederlandse https://www.trouw.nl/nieuws/indonesische-leger-verkiest-duitse-tanks-boven-nederlandse~b7f3d32d/?referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com%2F
[2] Dutch Foreign Minister apologizes for 1947 Indonesian massacre https://www.dw.com/en/dutch-foreign-minister-apologizes-for-1947-indonesian-massacre/a-19143315
[3] Rengat, 1949 (Part 1) https://www.insideindonesia.org/rengat-1949-part-1
[4] Extreem Nederlands militair geweld tijdens de Indonesische onafhankelijkheidsoorlog 1945-1949 https://www.militairespectator.nl/thema/geschiedenis-operaties/artikel/extreem-nederlands-militair-geweld-tijdens-de-indonesische
[5] Ottoman expedition to Aceh https://en.wikipedia.org/wiki/Ottoman_expedition_to_Aceh
[6] Turkish-Indonesian made battle tank unveiled in Istanbul https://www.dailysabah.com/defense/2017/05/10/turkish-indonesian-made-battle-tank-unveiled-in-istanbul
[7] John Cockerill Defense to Supply AGUERIS Tank Training Simulators to Indonesian Army https://militaryleak.com/2021/11/19/john-cockerill-defense-to-supply-agueris-tank-training-simulators-to-indonesian-army/
[8] CMI Defence Cockerill CT-CV 105HP Weapon System (105 mm) https://www.armyrecognition.com/belgium_belgian_light_heavy_weapons_uk/ct-cv_weapon_system_105_120_mm_turret_armoured_armored_cockerill_gun_vehicle_design_development_prod.html
[9] FNSS from Turkey to deliver 18 Kaplan MT Medium Tanks to Indonesian army https://www.armyrecognition.com/defense_news_september_2021_global_security_army_industry/fnss_from_turkey_to_deliver_18_kaplan_mt_medium_tanks_to_indonesian_army.html
[10] Turkish, Indonesian tank ready for mass production https://www.aa.com.tr/en/asia-pacific/turkish-indonesian-tank-ready-for-mass-production/1247122
[11] Bangladesh receives VT5 tanks plus other equipment https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/bangladesh-receives-vt5-tanks-plus-other-equipment/
[12] Philippines selects new tracked and wheeled armour https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/premium-philippines-selects-new-tracked-and-wheele/
[13] Harimau medium tanks for Brunei and The Philippines https://www.armyrecognition.com/november_2018_global_defense_security_army_news_industry/harimau_medium_tanks_for_brunei_and_the_philippines.html
[14] Ghanaian military interested in equipment from Indonesia’s PT Pindad https://www.defenceweb.co.za/featured/ghanaian-military-interested-in-equipment-from-indonesias-pt-pindad/
[15] Seri üretimdeki Kaplan tankı IDEF'te boy gösterecek https://www.aa.com.tr/tr/bilim-teknoloji/seri-uretimdeki-kaplan-tanki-idefte-boy-gosterecek/2335202
[16] https://i.postimg.cc/KjQKWYTT/25.jpg
[17] https://www.facebook.com/1821116584843831/posts/batalyon-kavaleri-2turangga-ceta-menggelar-latihan-tingkat-pleton-lattis-ton-di-/2729233974032083/
[18] KAPLAN MT Modern Medium-Weight Tank https://www.army-technology.com/projects/kaplan-mt-modern-medium-weight-tank/

 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
 箇所があります。


2022年9月30日金曜日

島々を飛び回る鷲:インドネシアの「エラン・ヒタム」 UCAV



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 インドネシア国軍は東西5,150kmに及ぶ17,000もの群島の哨戒を担当しています。この目的のために、同国軍は大量の哨戒艇や哨戒機を運用して不法侵入や領海内で発生するあらゆる活動を監視しています。

 とはいえ、島々の陸地の大きさは言うまでもなく、群島が存在する広大な領域が監視活動を困難なものにしています。これを効果的に実現する別の方法としては、MALE(中高度・長時間滞空型)UAVを大量に配備するという手段が挙げられます。

 インドネシアはすでに2019年から6機の中国製「CH-4B」無人戦闘航空機(UCAV)を運用しており、最近ではトルコ製無人機の導入にも関心を示しています。[1] [2]

 この国は00年代以降に数多くの小型UAVを設計・製造してきましたが、それらの中で「PUNA(無人航空機)ウルン」だけがインドネシア空軍で運用が開始されると思われます。それにもかかわらず、これらのドローンの設計・製造で得られた経験は、インドネシアにおけるUAVを設計するための小規模な技術基盤を生み出しました。

 2016年になると、インドネシアの国営航空機製造企業「PTDI(PTディルガンダラ・インドネシア)」は「エラン・ヒタム(黒鷲)」と命名された国産UCAVの設計に着手しました。[3]
このモックアップは2019年12月に初公開され、開発は4つのフェーズ(またはブロック)に分けて進めるようになっています。[3] [4]

 ブロック0はドローンの飛行性能のテスト用で、続くブロックLは国産のミッション・アビオニクスを組み込んだものとなり、そしてブロックDは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)装置が搭載されることになっています。最終フェーズのブロックCには兵装運用能力が組み込まれる予定です。

 最初と2番目のブロックでは降着装置はまだ固定式が装備されていますが、以降のブロックでは格納式となります。

 「エラン・ヒタム」の全長は8.65mで全幅は16mです(ちなみに「CH-4B」は全長8.5mと全幅18m)。[3]

 同機の設計仕様では、ペイロードが300kg、実用上昇限度が7,000m、約30時間の滞空性能、見通し距離(注:電波伝搬上の見通し距離≠視認可能範囲)で250kmの行動半径が要求されています。[3]

「エラン・ヒタム」の最大離陸重量は1,300kgと「CH-4B」に近いですが、 最高速度は235 km/hとはるかに低いものとなっています(「CH-4B」の最大速度は 330km/h)。ただし、滞空性能に関しては30時間と「CH-4B」の14時間を大幅に上回っています。[3]

「エラン・ヒタム」のモックアップ(2019年12月)

 当初、「エラン・ヒタム」は2020年初頭に飛行試験を開始することになっていましたが、その後のCovid-19によるパンデミックの影響で2021年後半に延期されました。

 そして2021年12月2日、「エラン・ヒタム(ブロック0)」はついに最初の地上滑走試験を開始しました。[5]

 今後、FLIR(前方監視型赤外線)装置を搭載したブロックの設計・製造が開始されると、このUAVは新たに発生した火災の発見や消防アセットの調整を手助けするという「バイラクタルTB2」と同様の手法で、国内で問題となっている森林火災の対策にも活用できる可能性があります。[6]



 インドネシアで最も成功したUAVは「エラン・ヒタム」も設計したPTDI社の「ウルン」です。[7]

 (現在はBRIN:国家イノベーション研究庁に統合・改組された)LAPAN:航空宇宙庁によって開発された「LSUシリーズ」といったほかのUAVは、インドネシア軍によって頻繁にテストされていますが、これまでに導入されたことはないようです。

 興味深いことに、「LSU-02」はインドネシア海軍のコルベット「フランス・カイシエイポ(シグマ級)」に搭載されて試験されたことがあります。この試験で同機はヘリ甲板から発艦して地上の滑走路に着陸しました。[8]

「ウルン」

LAPANが開発した「LSUシリーズ」UAV

 運用可能なシステムとなるにはまだ何年もかかりますが、「エラン・ヒタム」は間違いなく見込みのある無人機と言うことができます。仮にこの機体の運用が開始されれば、インドネシアは東南アジア初の中国製「CH-4B」UCAVの運用国となるだけでなく、国産のMALE型U(C)AVを導入した最初の国となるでしょう。

 とはいえ、野心的なインドネシアの航空プロジェクトは資金難で頻繁に停止の危機に直面しており、IPTN 「N-250」旅客機のような有望なプロジェクトもキャンセルに追い込まれました。

 したがって、「エラン・ヒタム」を成功させるためには、まずは国際的に成功しているライバル機たちの中で自らの価値を証明しなければならないのです。

 ※ 日本語版補足:2022年9月下旬に「エラン・ヒタム」計画中止の情報が流れました
  が、BRINによると中止ではなく、計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観
  測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨  
  のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上
  頓挫してしまったようです。[9]



[1] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[2] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[3] PT Dirgantara Indonesia reveals new MALE UAV prototype https://world-defense.com/threads/pt-dirgantara-indonesia-reveals-new-male-uav-prototype.7481/
[4] Indonesia unveils prototype of indigenously developed strike-capable UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-unveils-prototype-of-indigenously-developed-strike-capable-uav
[5] https://twitter.com/defenceview_id/status/1470381630460088324
[6] An Unmanned Firefighter: The Bayraktar TB2 Joins The Call https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-unmanned-firefighter-bayraktar-tb2.html
[7] UAV (Unmanned Aerial Vehicle) WULUNG https://www.indonesian-aerospace.com/techdev/index/set/uav
[8] LSU-02 LAPAN : UAV Pertama yang Take Off dari Kapal Perang TNI AL https://www.indomiliter.com/lsu-02-lapan-uav-pertama-yang-take-off-dari-kapal-perang-tni-al/
[9] BRIN Alihkan Proyek Drone “Elang Hitam” ke Versi Sipil, Kini Dikembangkan untuk Awasi Kebakaran Hutan