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2024年2月8日木曜日

限られた予算内での近代化:ブルガリアによる兵器調達計画の概要


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 気がつくと、ブルガリアは自身が欧州連合加盟国内の最貧国として、厳しい経済状況に置かれていることに気づきました。

 この経済的苦境は、ブルガリアの軍を近代化する取り組みに多大な影響を及ぼしています。不足した予算がこの国の軍事力を現代(NATO)の水準に引き上げようとする試みを妨げており、その結果として、保有する兵器が1980年代のブルガリア軍と酷似したものとなっているのです。

 ディミタール・ストヤノフ元国防相によると、軍の近代化が遅れた結果、軍隊を現代的な水準に引き上げるために必要な予算の規模は、現時点で国内総生産(GDP)の約3~4%にまで達しています。[1]

 今のところ、そのような予算やリソースを国防分野に割り当てることが非現実的に思えますが、今後数年間でブルガリア軍はついに多くの新兵器システムを迎え入れる予定です。最も注目すべきものとしては、空軍は老朽化した「MiG-29」戦闘機と「Su-25」対地攻撃機の後継として16機の「F-16V ブロック70戦」闘機を受領し、海軍はドイツから2隻の「MMPV 90」級コルベットが引き渡されることが挙げられます。

 2023年、陸軍は4,000万ユーロ(約62億円)を上回る額の契約で国営企業のTEREMとイスラエルのエルビット社によって改修された44台の「T-72M/M1」戦車を受けとりました。[2]

 ブルガリア軍は、新たに導入するF-16の能力をさらに向上させるための対空捜索レーダーを含む、数多くの装備の調達事業を最優先事項としています。さらに、国防省は180台以上の「ストライカー」装甲兵員輸送車及び歩兵戦闘車、155mm自走砲、新型地対空ミサイルシステムの導入しようとしています。これらの購入資金については、最長で15年にわたる分割払いによって調達される予定です。[3]

 また、ブルガリアはトルコの「バイラクタルTB2」及び「アクンジュ」無人戦闘航空機の導入に関心を示していますが、これは現在の無人機戦力の不足を是正することを目的としています。

  1. 以下に列挙した一覧は、ブルガリア陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. 「将来的な数量」は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものを示しています。
  4. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。


陸軍 - Sukhopŭtni Voĭski Na Bŭlgariya

歩兵戦闘車

特殊車両
  • 155mm自走砲の導入計画


空軍 - Voennovazdushni Sili

戦闘機

無人戦闘航空機

防空システム
  • 中・長距離地対空ミサイルシステムの導入計画


海軍 - Voennomorski Sili Na Republika Balgariya

フリゲート (将来的な数量: 2 または 3)
  • 2 または 3 「ウィーリンゲン」級フリゲートの近代化改修(新型兵装及び戦闘システムの搭載を含む)[2020年代半ばから後半の間に着手]

コルベット (将来的な数量: 2)

潜水艦 (将来的な数量: 2)
  • 2 中古潜水艦の導入計画 (2011年に最後の「プロジェクト633 "ロメオ"」級潜水艦が退役した後、空白となったブルガリアの潜水艦戦力を復活させるため))

沿岸防衛ミサイルシステム
  • 新型沿岸防衛ミサイルシステムの導入計画 (「4K51 "ルベージュ"」を更新するもの)


[1] The modernization of the Bulgarian army requires 3-4% of country's GDP https://bnr.bg/en/post/101783524/the-modernization-of-the-bulgarian-army-requires-3-4-of-country-s-gdp
[2] Bulgarian T-72 upgrade expected to be completed in 2023 https://www.janes.com/defence-news/news-detail/bulgarian-t-72-upgrade-expected-to-be-completed-in-2023
[3] Modernization program of the Bulgarian army is not financially secure: Defence Minister https://bnr.bg/en/post/101775374/modernization-program-of-the-bulgarian-army-is-not-financially-secure-defence-minister
[4]https://www.navalnews.com/naval-news/2023/08/bulgarias-first-modern-corvette-launched-by-local-shipyard/

※  当記事は、2023年8月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。


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2024年1月1日月曜日

女王陛下とNATOのために:近年におけるデンマークの軍備調達計画(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)


 EU加盟国内で最大規模の軍隊をもたらすことになるポーランドの防衛費増額には、(少なくとも私たちの記事を通じて)多くの注目が寄せられています。[1]

 ほかのNATO加盟国もこの動きに追随しようと試みており、ルーマニアでは小規模ながらポーランドの事例と同様の野心的な再軍備計画に着手しています。これらの国々による計画上の数値を合算した場合、結果的に数千台の戦車と歩兵戦闘車(IFV)、1000門以上の自走砲(SPG)と多連装ロケット砲(MRL)が調達されることになるでしょう。.

 このような目覚ましい数字を目にすると、デンマーク、バルト三国、オランダのような小国が自国軍の大幅な近代化と能力の拡張に取り組んでいることを非常に見落とされがちとなるかもしれません。

 この中で、特にデンマークは軍備の導入プロセスを迅速化を追求しており、ヨーロッパの防衛事業として以前では考えられなかったようなペースに加速しています。(特にポーランドのような国と比較した場合)導入した兵器システムの数は決して劇的なものではありませんが、それらはそれ自体でNATOの安全保障にとって不可欠なものであり続けることに疑いを向ける余地はありません。 

 近年におけるデンマークの兵器調達事業については、完全に新しい能力を導入する一方で、冷戦終結以降に失われた能力を取り戻すことも含まれています。後者に該当するのは潜水艦(2004年)、MRL(2004年)、地対空ミサイルシステム(2005年)、戦術無人航空機(2006年)などです。

 新規に買収する兵器類の費用を捻出するためにデンマークは防衛予算を大幅に引き上げました。その規模は防衛支出を増額すべく祝日を廃止したほどにもなります。[2] [3]

 人口600万人弱のデンマーク軍は比較的小規模な軍隊です。ただし、(いずれもデンマーク王国の自治領である)フェロー諸島とグリーンランドの防衛も担う海洋国家として、同国は5隻のフリゲートと8隻の哨戒艦(OPV)からなる大規模な海軍を保有しています。

 海軍とは対照的に、デンマーク空軍における将来の戦闘機部隊は僅か27機の「F-35」戦闘機で構成される予定となっています。

 陸軍は4,000人以上の兵力を誇る1個機械化旅団を有しており、NATOの枠組みの下で緊急展開が可能です。なお、この部隊については最大4,000人の予備兵力で増強を図ることが可能となっています。さらに、必要性が生じた場合には、徴兵と志願兵という形で最大2万人の兵力を動員することができます。[4]
 
 1個機械化旅団の献身は(少なくとも武力紛争の初期段階では)それほど大したものではないと思えるかもしれません。しかし、デンマーク陸軍第1旅団は、ヨーロッパ各地の旅団よりも著しく完成されたものとなっています。

 最近、デンマークは軍の規模を拡大するのではなく、イスラエル製の「PULS」MRLや地上配備型防空システム、電子戦システムを導入して第1旅団の戦力を増強することを選択しました。

 これらのシステムは、44台の「レオパルド2A7DK」戦車、44台の「CV9035DK」IFV、300台以上の「ピラーニャV」装甲兵員輸送車、(ウクライナに寄贈された19門の「カエサル 8x8」の後継品として2023年に購入された)19門の「ATMOS 2000」自走榴弾砲で構成される部隊をカバーすることになるでしょう。

 同旅団が完全に作戦へ投入されていない場合、他のNATO軍部隊の火力を増強するために残存部隊を個別に展開させることもできます。

  デンマークによる将来的な調達には、追加の「F-35」とともに、「AGM-158B JASSM-ER」空中発射巡航ミサイル(ALCM)や「AGM-88G AARGM-ER」対レーダーミサイル(ARM)といったスタンドオフ兵器が含まれる可能性があります。

 海軍については、「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲートの兵装が「BGM-109トマホーク」巡航ミサイルの装備によって強化されるかもしれません。これは、新たな兵装を装備させることで既存の兵器システムの能力を大幅に向上させようとしているオランダの取り組みを反映たものと言えます。

 陸軍では、「ATMOS」SPGと「PULS」MRL用の精密誘導弾を(追加的に)調達することも考えられます。特にMRLは、互換性のある全ての長距離精密誘導ロケット弾という形で恩恵を与えられることになるでしょう。[5] 

 今後、デンマークの防衛力をさらに強化するためにどのような手段が講じられるにせよ、この王国がNATO加盟国としての責任から逃れるつもりはないと決心していることは確実です。

  1.   以下に列挙した一覧は、デンマーク陸海空軍によって(将来的に)調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、(海軍以外の)弾薬は掲載されていません。
  3. 適切と判断された場合には、各装備の分野ごとに「将来的な保有数」を示しています。この数字は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものです。
  4. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です


陸軍 - Hæren

歩兵戦闘車 (将来的な数量: 44)
  •  44 「CV90」の改修(新照準装置及び兵器システムの装備) [2020年代半ばに改修予定]

装甲兵員輸送車 (将来的な数量: 330+)

自走砲・多連装ロケット砲 (将来的な数量: 19 SPG, 8 MRL, 15 SPM)

防空システム

装甲工兵車両


無人航空機
  • 小型無人偵察機の導入計画 [2020年代半ば以降に就役予定]


空軍 - Flyvevåbnet

戦闘機 (Future Quantity: 27+)
  • 27 ロッキード・マーチン「F-35A」 [納入中]
  • 追加の「F-35A」 [調達を検討]

無人航空機
  • 長距離無人偵察機の導入計画 [2020年代半ばから後半に就役予定]

初等練習機



海軍 - Søværnet

水上艦
  • 4 フリゲートまたはコルベットの導入計画 [2020年代後半 または 2030年代前半に就役予定] (「テティス」級哨戒艦の後継)

その他の艦艇
  • 1 新型観測船・潜水作業支援船(海軍の潜水任務用) [2029年 または 2030年 に就役予定]
  •  小型無人艇(USV)の導入計画(水上艦搭載用) [2020年代半ばから後半に就役予定]

艦載兵装
  • 50 レイセオン「SM-2 ブロックIIIA」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [2021年以降に納入]
  •  レイセオン「SM-6」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [導入を検討]
 当記事は、2023年6月7日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


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2023年7月30日日曜日

老兵は今日も海をゆく:アゼルバイジャン海軍の「AB-25」級哨戒艇


著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

※  この記事は、2022年1月27日に「Oryx」本国版(英語版)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳など
  により、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 アゼルバイジャンが1991年に独立した以降、この国の海軍は主にソ連から引き継いだ寄せ集めの艦艇を運用しています。

 アゼルバイジャンの国境警備隊(SBS)が近年にイスラエル製の哨戒用艦艇を大量に導入している一方で、海軍はSBSから移管された多数のソ連時代の哨戒艇とタグボートを「新たに」導入しただけであり、結局は旧式艦艇の寄せ集めとしか関わりがありません。

 おそらく一見して保有する艦艇が乏しい結果として、アゼルバイジャン海軍に関連するものには全く注意が向けられていませんでした。

 とはいえ、この海軍を注意深く分析してみると、現在保有している老朽化した艦艇や装備を最大限に活用して、他国の海軍ではだいぶ前に退役した艦艇や艦載兵装を運用し続けることを意図しているような現状が明らかとなりました。

 いくつかのケースでは、レーダーシステムのアップグレードや新たに遠隔操作式銃架(RWS)の搭載がなされることがあり、その一例として、以前に当ブログで取り上げた、少なくとも1隻の「ステンカ」級哨戒艇に「アセルサン」社製の「SMASH」30mm RWSが搭載されていることが挙げられます。[1]

 アゼルバイジャン海軍で現役を続けているもう1つの注目すべき老朽艦は、2000年に供与された1隻のトルコ製「AB-25」級哨戒艇です。[2]

 アゼルバイジャン海軍自体の画像や情報が不足しているため、この哨戒艇の20年以上にわたる同国での運用歴については、その大部分が見落とされてきました。

 それでもなお、アゼルバイジャン国防省がソーシャルメディアの活用を始め、今ではYouTubeに海軍に関する動画を定期的にアップロードするようになったことから、綿密な調査をしたところ、ここ10年間の至る所でこの哨戒艇に関する多くの映像が撮影されていたことが判明しました。


 「AB-25」級哨戒艇は1960年代から70年代にかけて、イスタンブールのCamialtı造船所で12隻建造されました。

 トルコ海軍がより現代的で重武装の艦艇を導入した後、トルコは数隻の旧式艦艇を周辺地域の友邦に供与することが決定され、隣国のジョージアは1隻の「AB-25」級を1998年にもらい受け、別の2隻は1999年と2001年にカザフスタンへ譲渡されたと報じられています。[2]

   アゼルバイジャンは2000年に「AB-25(艦番号:P 134)」を供与されたと推測されています。これによって、「P 134」艇はアゼルバイジャン海軍に就役した初の非ソ連製艦艇という栄誉を得ました。


 2000年と2002年にトルコがさらに2隻の「AB-25」級を退役させましたが、その後の現在でも6隻がトルコ海軍で現役であると考えられています。

 トルコで就役している「AB-25」級には、前甲板に「エリコン(現ラインメタル)」社製20mm機関砲1門、中央部に「M2」12.7mm重機関銃(HMG)2門、後甲板に「ボフォース(現BAEボフォース)」社製「L/70」40mm機関砲1門が装備されています。

 現代の基準からすると迫力に欠ける武装かもしれませんが、「AB-25」級が1960年代に沿岸哨戒艇(IPV)として設計されたものであることを忘れてはいけません。

 興味深いことに、ジョージアとアゼルバイジャンに供与された「AB-25」級は、武装が撤去された状態で引き渡されたようです。

イスタンブールの第1ボスポラス海峡大橋(7月15日殉教者の橋)手前を航行するトルコ海軍の「AB-25」級哨戒艇(艦番号: P 129)

 したがって「P 134」艇が2000年にアゼルバイジャンに到着した後、海軍は即座に武装化に着手しました(現在では同哨戒艇に「P 223」の艦番号が付与されていることが判明しています)。アゼルバイジャンはソ連海軍からかなりの量の艦載兵装を受け継いだので、ソ連製の艦載砲を搭載していても何ら不思議はありません。

 「エリコン」社製20mm機関砲は「2M-3」25mm連装機関砲塔に、「ボフォース」社製40mm機関砲は「70K」37mm単装機関砲に置き換えられました。これによって、「P 223」艇はソ連製の艦載兵装を搭載して運用される、初のトルコ製軍用艦艇となりました。

 中央に装備される2門の重機関銃については、他のアゼルバイジャン艦艇でもよく見られる 「DShK」12.7mm重機関銃と思われます。


首都バクーの南に位置する海軍基地で係留作業中の「P 223」艇

 すぐに後継となる艦艇が導入される目処が立っていないため、たった1隻しかない孤独な「AB-25」級は、しばらくの間、仲間のソ連製哨戒艇と一緒に航海を続けることになるでしょう。

 しかし、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争がアゼルバイジャンに有利な形でしっかり決着したことから、同国はカスピ海の軍事化の流れに対応するために海軍の戦力増強に向けた投資を遂に開始するかもしれません。

 アゼルバイジャンが現在運用している老朽化した艦艇の後継のメーカーとして、トルコの造船所が最有力候補となるだろうことには全く疑いの余地がありません。それを考慮すると、「AB-25」級はトルコで設計された別の艦艇に置き換えられる可能性は十分にあるはずです。


[1] New Meets Old: Aselsan’s 30mm SMASH RWS On Azerbaijani Stenka Patrol Boats https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-meets-old-aselsans-30mm-smash-rws.html
[2] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php



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2023年4月30日日曜日

トルコの建艦100年史:「アタック」級から「TF-2000」級まで


著:ステイン・ミッツアー  と ケマル

-主権は与えられるものではなく、自ら手に入れるものである(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)-

 トルコ海軍は少なくとも4隻の「TF-2000」級防空駆逐艦を建造する予定です。2030年代を通じて就役したならば、この駆逐艦は地中海で最も高性能かつ重武装の艦艇となるでしょう。

 「TF-2000」には、国産の艦対空ミサイル(SAM)と「ゲズギン」対地巡航ミサイル(LACM)を装填する自前の垂直発射システム(VLS)や高エネルギーレーザー(HEL)を含む指向性エネルギー兵器といった、過去10年間にトルコが海軍システムの分野で成し遂げたほぼ全ての技術的成果を取り入れられることになっています。

 これらの能力によって、「TF-2000」は対地巡航ミサイルで1000km以上離れた高価値目標を攻撃したり、最大で64発もの150km以上の射程を誇るSAMと16発の220km以上の射程を有する対艦ミサイル(AShM)で接近阻止・領域拒否(A2/AD)ゾーンを設定し、搭載された高エネルギーレーザー兵器を用いることによって敵AShMから友軍艦艇の防御することが可能となるのです。

 また、「TF-2000」は最大で4隻のミサイル搭載型武装無人水上艇(AUSV)や「バイラクタルDİHA(VTOL)」無人航空機(UAV)、水中無人機(UUV)を含む無人システムの母艦としての機能も備えることが予定されています。[1]

 さらに、「TF-2000」が国産のレールガン「シャヒ-209」を運用する最初のトルコ海軍の艦となる可能性もあるようです。[2]

 就役後、この新型艦は「TCG アナドル」強襲揚陸艦や将来建造されるかもしれない空母を中心としたトルコの遠征打撃群に不可欠な地位を占めるでしょう。「TCG アナドル」の後には姉妹艦である「TCG トラキア」の建造が続きますが、エルドアン大統領はスペインと共同で設計される大型空母の建造もほのめかしています。 [3]

 これらの主力艦は、敵の航空機・艦船・潜水艦から守るために護衛艦を必要とします。つまり、2038年にこれらの全てが運用可能な状態になっていれば、「TF-2000」にとって自身に最適な役割が与えられることになるのです。

 2038年は、トルコ共和国が初の国産設計の軍艦を進水させてから100年という節目の年です。1938年3月23日、コジャエリ県ギョルジュクにある「ギョルジュク海軍造船所」が(1922年のオスマン帝国崩壊後の1923年10月に創設が宣言された)現在のトルコ共和国が建造した最初の軍艦として、歴史に名を残すことになる機雷敷設艦「アタック」を進水させました。

 「アタック」の進水は、1935年に新生の共和国が設計・建造した最初の民間船である油槽船「ギョルク」の進水から2年後の出来事でした。[4] [5]

進水直前の機雷敷設艦「アタック」

 大型航洋曳船の船体をベースにした機雷敷設艦「アタック」は、全長44メートル、幅8メートル、総排水量約500トンの艦艇でした。[6]

 この艦は13ノット(時速約20km/h)の最高速度を可能にする1025馬力のディーゼルエンジン1基を搭載しており、主武装は甲板後部に格納された40発の機雷ですが、就役以降のある時点で前部甲板に主砲が追加されたようです。[6]

 「アタック」は、その生涯の大半を通じて(おそらく第二次世界大戦中に塗装されたと思われる)見た者を混乱を生じさせる迷彩パターンが施されていました。

 トルコは第二次世界大戦のほぼ全体を通して中立を維持し、目立った動きは1945年2月にドイツと日本に対して宣戦布告を行った程度です(注:つまり、「アタック」が大々的に活躍することはなかったということ)。

現存する数少ない「アタック」の写真の1枚は、敵を攪乱するために迷彩パターンが施された船体を示している

 「アタック」の設計自体は特別なものではありませんでしたが、防衛上の需要の一部を国産化で賄おうとするトルコの野心を示したものであったことは間違いないでしょう。この国産艦が進水したのとほぼ同時期にトルコの航空機メーカーである「ヌリ・デミラーグ」は革新的な戦闘機「Nu.D.40」の設計を開始しましたが、残念なことに日の目を見ることはありませんでした。[7]

 実際、意欲的なトルコの実業家はすぐに防衛産業の成長と存続に必要な精度を提供することに気が進まない政府と直面することになったのです。

 1942年にイギリスの「ソーニクロフト」社が設計した「ボラ」級魚雷艇 (MTB)5隻が建造されたことを除けば、1940年代から1950年代にかけてトルコで艦艇の建造が行われることはありませんでした。[8]

 この間にトルコ海軍はアメリカから大量の艦艇を供与されたため、今後数十年にわたる自国での艦艇を建造するという将来的な見込みは実質的に絶望的なものと化したのです。

ちなみに、「アタック」級機雷敷設艦はこの時代でも運用が続けられ、後継となるイギリス製「シウリヒサル」級掃海艇2隻よりも長生きして1961年に廃船となりました。[9] [6]

これは「アタック」の進水を報じた1938年3月24日付の新聞のスクラップ記事の画像で、" 機雷敷設艦「アタック」が昨日の(軍事関係の)式典で海に浮かんだ "と書かれている

 トルコが再び海軍艦艇の建造を開始したのは1960年代後半になってからであり、その際に12隻の「AB-25」級哨戒艇が建造され、より野心的なプロジェクトは1967年に開始された2隻の「ベルク」級フリゲートの建造という形で実行に移されました。[10]

 「ベルク」級はアメリカ海軍の「クロード・ジョーンズ」級護衛駆逐艦をベースにトルコの要求に合うように若干の改良を加えたものであり、驚くべきことに1910年代以降のトルコで建造された最初の大型艦でした!これらの艦艇の建造は国産艦が実現する可能性を提示したものの、それ以上の「ベルク」級の発注がなされることはありませんでした。

 2000年代半ばから後半の間に、トルコの海軍関連の産業界は「MILGEM(国家艦艇)」プロジェクトという形で大規模な次世代艦の設計事業を次々と立ちあげ、これまでにいくつかのコルベットやフリゲートの設計案の誕生と建造がなされています。

フリゲート「ベルク(艦番号D358)

 「MILGEM」プロジェクトの最新バージョンとして登場した「TF-2000」級駆逐艦は、アメリカの「アーレイ・バーク」級駆逐艦と同等の能力を持つ艦となります。

 「TF-2000」級には、国産兵装が装備される予定です(以下のとおり)。
  1. 127mm砲 1門
  2. 「アトマジャ」対艦巡航ミサイル(射程220km) 16発
  3. 「シペル」艦対空ミサイル(射程150km以上)及びその他のSAM、「ゲズギン」対地巡航ミサイル(射程1000km以上)用のVLS 64セル
  4. 「オルカ」324mm短魚雷用発射管
  5. 「ギョクデニズ」35mm近接防御火器システム(アセルサン製)  2門
  6. 「ナザール」高エネルギーレーザー照射機(メテクサン製)   2門
  7. チャフ・デコイ散布システム
  8. 「UMTAS(ウムタス)」対戦車ミサイル(ATGM)用発射システム  2門
  9. リモート・ウエポン・システム 4門


 敵の探知とミサイルの誘導を可能にするため、この駆逐艦にはトルコで設計された広域をカバーできるレーダーとセンサー類も備えられます。

 このほかの「アーレイ・バーク級」駆逐艦との類似点としては、「S-70B "シーホーク"」対潜ヘリコプターを2機搭載できる充実した設備が存在することが挙げられます。[1]


 「千里の道も一歩から」という言葉があります。トルコは1930年代後半に早くもその第一歩を踏み出しましたが、その後の数十年間は国内の防衛産業が軽視された時期が続きました。過去20年間でトルコ政府はこの流れを驚くべきスピードで逆転させ、こんにち起きているこの種の現象としては間違いなく最速の自給自足を目指す旅に乗り出しているのです。

 トルコの防衛産業が、ほぼ全種類の艦船とそれに関連するレーダーやセンサー類を含む装備や兵装を生産できるようになる日はそう遠くないと思われます。

 「TF-2000」が就役するならば、それはトルコが歩んだ自給自足への道のりを示す証となり、「アタック」級機雷敷設艦の進水から100年を迎えるこの国の建艦史の復活にふさわしいものとなるに違いありません。

[1] IDEF 2021: Turkey Full Steam Ahead with TF-2000 Air Defense Destroyer Project https://www.navalnews.com/naval-news/2021/08/idef-2021-turkey-full-steam-ahead-with-tf-2000-air-defense-destroyer-project/
[2] Turkish indigenous rail gun “Şahi-209” to be integrated to naval assets https://www.navaltoday.com/2019/10/31/turkish-indigenous-rail-gun-sahi-209-to-be-integrated-to-naval-assets/
[3] Turkey’s defense industry rolls up sleeves for aircraft carrier https://www.dailysabah.com/business/defense/turkeys-defense-industry-rolls-up-sleeves-for-aircraft-carrier
[4] Cumhuriyetin İlk Yerli Gemisi: Gölcük Yağ Tankeri https://negatifsephiye.blogspot.com/2019/05/cumhuriyetin-ilk-yerli-gemisi-golcuk.html
[5] Cumhuriyet Tarihinde İnşa Edilen ilk Gemi https://www.denizbulten.com/yazar-cumhuriyet-tarihinde-insa-edilen-ilk-gemi-111.html
[6] ATAK http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_ms_atak.htm
[7] From Nu.D.40 to Bayraktar Akıncı: Demirağ’s Legacy https://www.oryxspioenkop.com/2021/05/from-nud40-to-bayraktar-akinci-demirags.html
[8] BORA http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_cf_bora.htm
[9] Sivrihisar http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_ms_sivrihisar.htm
[10] BERK frigates http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_es_berk.htm

※  当記事は、2022年1月16日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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