著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
21世紀の変わり目はウクライナ軍の衰退期の始まりを際立たせました。大量の装備が早期退役に直面し、生き残った旧式装備の後継を導入する見通しが立たなかったのです。
2014年のロシアによるクリミア併合とドンバスでの戦争はこの流れを劇的に逆転させ、それ以前に余剰の戦車で埋め尽くされていた工場のヤードは、疲弊したウクライナ軍を強化するために空になり始めました。その結果として、これまでに数百台のT-64、T-72、T-80主力戦車(MBT)やBMPシリーズの歩兵戦闘車(IFV)が復活させられました。
少し前までは、これらの同じヤードは設計者らの創造力の範囲内で独創性があった装甲戦闘車両(AFV)のコンセプトの舞台でした。「BMT-72」歩兵戦闘戦車、「BMPT-K-64」として知られるT-64をベースにした装輪式APCやさらには英国のセンチュリオン戦車をIFV化した「AB-13」といったコンセプトを含む、これらのプロジェクトのいくつかの風変わりさはとても誇張できるものではありません。
当然のことながらこれらの設計案はどれもが輸出用の発注に成功したことはなく、その代わりとして大部分の顧客は単にオーバーホールされた戦車やBMPに興味を持っていましたようです。機甲戦でより従来型のアプローチを図った設計案でさえT-72AVやT-72Bといった安価な代替品に太刀打ちできず、結果としてそのうちの500台以上がアフリカとアジアのさまざまな国に渡りました。
この事実はAFV市場での厳しい競争と同じくらいに、これらのプロジェクトの多くがT-64をベースにしていたことが大いに関係していると思われます。この戦車はソ連以外に輸出されたことがなかったことから、多くの国が望んで手に入れたくない運用と維持面でのリスクを抱えていたためでしょう(結局はアンゴラとコンゴ民主共和国だけがT-64を購入した唯一の非ソビエト系国家となるはずです)。
洗練されたデザインでしたが、BMPV-64(左)やT-64E(右)のようなコンセプトは本質的に最初から成功の見込みがありませんでした。 |
優先順位の調整
2014年に勃発したウクライナ東部での戦闘が通常の戦争レベルにまでエスカレートしたことから、ウクライナの軍需産業は自国軍からの需要に対応するため、輸出用プロジェクトの開発への関心を別に向けるようになりました。
もはや貴重な資源をどこの国も購入する可能性がないT-64の改修プロジェクトに投入することはなくなり、その代わりとして、熱画像装置や新型無線機などの追加で戦車の元の能力に改良を加えたT-64BV(2017年型)のような、よりシンプルなプロジェクトに重点的に取り組んでいます。手頃な価格で効果的なものであるため、おそらくウクライナが保有する全てのT-64BVがいずれはこの規格に近代化改修されるでしょう。[1]
比較的控え目な改修範囲に収まっている別のプロジェクトが、今回紹介する「ストラーシュ」BMPTです。T-64BVの車体に本来IFV用に設計された既存の砲塔を組み合わせることによって、「ストラーシュ」は全く新しいコンポーネントを開発することなく新しい戦闘能力を導入するシンプルかつ効果的な方法を実現しています。重装甲で2門の機関砲砲、4発の対戦車ミサイル(ATGM)、自動擲弾銃を装備した「ストラーシュ(センチネル)」は、戦場で交戦する全ての人にとっては手強く見えるに違いありません。
ウクライナはロシアと中国に次いで世界で3番目にBMPT(戦車支援戦闘車)を開発した国ですが、現時点でこのような車両を運用しているのは、ロシア、アルジェリア、カザフスタンだけです。
ロシアや中国の設計と同様に、「ストラーシュ」BMPTは既存の戦車(T-64)の車体をベースにしています。
ソ連時代のアフガニスタン戦争や第一次チェチェン戦争で得た経験から誕生したBMPTは、機械化部隊に追従して市街戦で部隊に防御力をもたらすだけでなく、開けた地形にて速射性のある連装式機関砲や長距離ATGMを用いて歩兵やAFVと交戦することを目的に開発されました。
「2A46」125mm戦車砲を搭載した砲塔の代わりに、「ストラーシュ」BMPTはジトーミル装甲工場によって開発された「デュプレット」戦闘モジュール(砲塔)を装備しています。
「デュプレット」最大の特徴は、おそらく砲塔から突き出た2門の 「ZTM-2」30mm機関砲(BMP-2に搭載されている「2A42」のウクライナ版)でしょう。これらの機関砲は互いに独立して射撃することができるため、「ストラーシュ」は1門のみを装備した砲塔よりも射撃時間を持続させることや、各砲から異なる種類の砲弾を発射することが可能となっています(注:装備された二門の機関砲を同時射撃以外にも独立した射撃が可能であることから、BMP-2よりも多くの射撃時間を稼げるということ)。
「ストラーシュ」が持つ真の重武装にして必殺パンチとなる可能性を秘めているのが、砲塔の両側に搭載された4発(左右に各2発)のATGMです。この砲塔が披露された時点では9M113/AT-5「コンクールス」系ATGMが搭載されていましたが、これらを最大射程5kmのR-2「BARYER」ATGMに置き換えることができます。このATGMは、30mm機関砲の基部上に設置されている、(赤外線)画像装置とレーザー測遠機を内蔵した射撃統制システム(FCS)によって誘導されます。[2]
小火器による攻撃でも無力化することができる可能性があるため、大型で繊細な光学機器を内蔵したこのFCSが「ストラーシュ」の最大の弱点かもしれません。
砲塔上部には対人用に「KBA-117」30mm自動擲弾銃が、30mm機関砲の間には(同軸機銃として)2丁の7.62mm軽機関銃が装備されており、砲塔の武装はこれらと合計で6基の発煙弾発射機で構成されています。
前述のFCSの脆弱性に加えて、小火器からの射撃や砲弾の破片しか防げない可能性がある砲塔の軽装甲とむき出しのまま装備されているATGMは、戦闘に入る前の段階でも「ストラーシュ」の重要な機能を停止させるおそれのある深刻な弱点であると考えられます。ロシアのBMPTも同様の弱点がいくつかありましたが、後のバージョンでは改善されています。
「ストラーシュ」の場合では、FCSやATGM、30mm機関砲の基部を保護シールドで覆うことが小火器や砲弾の破片に対する脆弱性の軽減に貢献するでしょう。
「ストラーシュ」が持つ真の重武装にして必殺パンチとなる可能性を秘めているのが、砲塔の両側に搭載された4発(左右に各2発)のATGMです。この砲塔が披露された時点では9M113/AT-5「コンクールス」系ATGMが搭載されていましたが、これらを最大射程5kmのR-2「BARYER」ATGMに置き換えることができます。このATGMは、30mm機関砲の基部上に設置されている、(赤外線)画像装置とレーザー測遠機を内蔵した射撃統制システム(FCS)によって誘導されます。[2]
小火器による攻撃でも無力化することができる可能性があるため、大型で繊細な光学機器を内蔵したこのFCSが「ストラーシュ」の最大の弱点かもしれません。
砲塔上部には対人用に「KBA-117」30mm自動擲弾銃が、30mm機関砲の間には(同軸機銃として)2丁の7.62mm軽機関銃が装備されており、砲塔の武装はこれらと合計で6基の発煙弾発射機で構成されています。
前述のFCSの脆弱性に加えて、小火器からの射撃や砲弾の破片しか防げない可能性がある砲塔の軽装甲とむき出しのまま装備されているATGMは、戦闘に入る前の段階でも「ストラーシュ」の重要な機能を停止させるおそれのある深刻な弱点であると考えられます。ロシアのBMPTも同様の弱点がいくつかありましたが、後のバージョンでは改善されています。
「ストラーシュ」の場合では、FCSやATGM、30mm機関砲の基部を保護シールドで覆うことが小火器や砲弾の破片に対する脆弱性の軽減に貢献するでしょう。
「デュプレット」戦闘モジュールは、もともとIFVであるBMPシリーズ用に設計されたウクライナ産のモジュール式砲塔システムの最新モデルです。(BMP-1と2の砲塔がたった1名用だったことに比べると)この新型砲塔は、ZTM-2機関砲の真下にある2つの大きなハッチから出入りする2名の乗員によって操作されます。砲塔の後部には、ZTM-2用30mm機関砲弾を再装填するための小さな二つのハッチが設けられています。
この重武装のおかげで「デュプレット」を装備したあらゆるIFVはほとんどの(装甲化された)脅威に対処できるようになりますが、IFVの任務と複雑さを増大させるものであり、多くの軍隊はこのような武装が彼らのニーズ以上の過度なものと簡単に判断するかもしれません。
「ストラーシュ」の試作型はまだT-64BVの車体をベースにしていますが、量産型では試作とは異なって「コンタークト1」爆発反応装甲(ERA)が標準装備となっておらず、T-64BVよりも高度な能力を持たない、より簡単に入手しやすいT-64B(1)をその代わりに使用する可能性があります。
とは言うものの、何百台ものT-64BVが依然として保管状態にあるため、その供給はこれから先の10年間でウクライナ軍が必要とする量よりもほぼ確実に長持ちします(注:「ストラーシュ」用に使用されるT-64BVが枯渇する可能性が皆無ということ)。
この重武装のおかげで「デュプレット」を装備したあらゆるIFVはほとんどの(装甲化された)脅威に対処できるようになりますが、IFVの任務と複雑さを増大させるものであり、多くの軍隊はこのような武装が彼らのニーズ以上の過度なものと簡単に判断するかもしれません。
「ストラーシュ」の試作型はまだT-64BVの車体をベースにしていますが、量産型では試作とは異なって「コンタークト1」爆発反応装甲(ERA)が標準装備となっておらず、T-64BVよりも高度な能力を持たない、より簡単に入手しやすいT-64B(1)をその代わりに使用する可能性があります。
とは言うものの、何百台ものT-64BVが依然として保管状態にあるため、その供給はこれから先の10年間でウクライナ軍が必要とする量よりもほぼ確実に長持ちします(注:「ストラーシュ」用に使用されるT-64BVが枯渇する可能性が皆無ということ)。
その機能と実用的な設計の両方に関して有望に見えますが、このAFVが実際に軍に就役したり輸出注文を受けることになるかどうかは、現時点ではよく分かっていません。
「ストラーシュ」BMPTは現代の軍隊のニーズを満たすための(おそらく)より現実的なアプローチの1つであるという事実にもかかわらず、2017年に発表されたことを考えると、そのどちらも実現する可能性が徐々に低くなってきています。
西側諸国の大部分が少数の戦車でさえ運用するのに苦労している中で、BMPTのコンセプトは今のところ非常に限られた国のグループに独占されたままであり、まだ実戦における正確な検証を受けていません。
ウクライナがこのグループに加わることになるかどうかは、BMPTのコンセプトに対する評価と当面の運用上の要求次第です – しかしながら、財源が最終的な制限要素であることは言うまでもないでしょう(注:2021年の軍事パレードで「ストラーシュ」が登場することはありませんでした)。
[1] ЛБТЗ налагодив серійну модернізацію Т-64 до зразка 2017р. https://www.ukrmilitary.com/2019/08/t64-mod2017.html
[2] COMBAT MODULE "DUPLET": PUBLIC PREMIERE AT “ARMS AND SECURITY” https://ukroboronprom.com.ua/en/media/bojovyj-modul-duplet-publichna-prem-yera-na-vystavtsi-zbroya-ta-bezpeka.html※リンク切れ
「ストラーシュ」BMPTは現代の軍隊のニーズを満たすための(おそらく)より現実的なアプローチの1つであるという事実にもかかわらず、2017年に発表されたことを考えると、そのどちらも実現する可能性が徐々に低くなってきています。
西側諸国の大部分が少数の戦車でさえ運用するのに苦労している中で、BMPTのコンセプトは今のところ非常に限られた国のグループに独占されたままであり、まだ実戦における正確な検証を受けていません。
ウクライナがこのグループに加わることになるかどうかは、BMPTのコンセプトに対する評価と当面の運用上の要求次第です – しかしながら、財源が最終的な制限要素であることは言うまでもないでしょう(注:2021年の軍事パレードで「ストラーシュ」が登場することはありませんでした)。
[1] ЛБТЗ налагодив серійну модернізацію Т-64 до зразка 2017р. https://www.ukrmilitary.com/2019/08/t64-mod2017.html
[2] COMBAT MODULE "DUPLET": PUBLIC PREMIERE AT “ARMS AND SECURITY” https://ukroboronprom.com.ua/en/media/bojovyj-modul-duplet-publichna-prem-yera-na-vystavtsi-zbroya-ta-bezpeka.html※リンク切れ