2022年4月9日土曜日

芽生えたばかりの戦力: ウクライナに投入されるロシアの無人攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 アメリカや中国、トルコの最新鋭無人戦闘航空機(UCAV)がすでに世界中で多数の国や紛争で投入されているの一方で、ロシアはその開発と生産で著しく遅れをとっています。

 それどころか、戦場の上空を飛び回りながら攻撃任務をこなす「Ka-52」「Mi-28(N)」のような(有人)攻撃ヘリコプターを好む彼らは、UCAVによって念入りに実施される偵察・攻撃任務を軽視し、より攻撃的な捜索・急襲任務を行うドクトリンに忠実に守っているのです。

 しかしながら、現代における新たな紛争が起きるたびにUCAVのメリットがより詳細に示されているように思われていることから、ロシアでもUCAVへの投資を選択することが次第に増えてきています。
 
 ロシアが他国に追いつくための試みには、IAI社の「サーチャー」をライセンス生産したイスラエル起源の「フォルポスト」無人偵察機を武装化が含まれています。その結果として誕生した「フォルポスト-R」は当初からUCAVとして設計されたわけではないものの、ほぼ全てがロシア製で、軽攻撃任務の遂行が可能な無人機となりました。

 同様に、ロシアの「クロンシュタット」社によって生産されている国産の偵察・監視用無人機「クロンシュタット・オリオン」も複数の武装型が開発されており、徐々に運用が始められています。

 また、「スホーイ」の野心的な「オホートニク-B」、「クロンシュタット」社の「ヘリオス」こと「オリオン-2」、 ​「シリウス」「グロム」プロジェクトを含む、より高度なUCAVの開発も進行の途上にあります。

 こうしたシステムの将来性については、慢性的な資金不足と特定の重要技術へのアクセス不足のためにすでにいくつかの疑問が生じていますが、ロシアが経済制裁を受け、西側諸国との全面的な経済戦争になりつつある今、その疑問はさらに高まっていくでしょう。

 このまま国産UAVの開発が進むのかはさておき、ロシアが自国に利益を与えてくれる世界的なドローン革命の流れに乗り遅れたことは確かなことであり、見込みのある輸出顧客の大部分は、すでに中国やアメリカ、トルコ、イスラエルの競争相手によって需要が急速に満たされてしまいました。

 一般的には、新世代のUCAVの開発に伴い、その効果を最大限に発揮させるための新世代の兵装が必要とされます。(武器展示会などで)「オリオン」はさまざまな誘導爆弾や対戦車ミサイル(ATGM)の豊富な兵装と一緒に展示されているものの、その多くはまだ開発段階にあることのに加えて、いくつかの国産化できない重要なコンポーネントが制裁対象に該当する可能性があるため、それらが本当に導入されるか不透明な状況にあります。

 2018年に「オリオン」がシリアに送られて運用試験を実施した際には、武装型UAVとしては極めて型破りで、明らかに有効性に欠けたミッションプロファイルである「OFAB-100-120」無誘導爆弾を投下した状況さえ確認されました[1]。

 その後、同機用の暫定的な搭載兵装は、(起こりそうにもないシナリオを想定した演習でヘリコプター型UAVに対して使用されたことで悪名高い)「コルネット」ATGMの空中発射型や「KAB-20」誘導爆弾を含むいくつかの誘導兵器で拡張されています。[2] 

 これらの兵装は、「オリオン」が持つ3つのハードポイントだけでなく、2つのハードポイントを備える「フォルポスト-R」にも搭載することが可能です。

 「KAB-20」は前述の無人機にとってより現実的な兵装の1つではあるものの、今のところトルコの「MAM-L」のような誘導爆弾の精度には程遠いことが映像で示されています。

 具体的な事例を挙げると、対ウクライナ戦争で「フォルポスト-R」が投下した「KAB-20」が静止状態にあったウクライナ軍の「BMP-2」から外れてしまい、結果として同車の「撃破」ではなく「損傷」を与えるだけで終わったということがありました。[3]

「クロンシュタット」製「オリオン」が投下した「KAB-20」誘導爆弾がウクライナ軍の牽引砲に命中した瞬間

 おそらく、利用できる数が限られていることや、ウクライナの防空網による損失や効果的な運用の拒絶(注:4月9日までに少なくとも1機の「オリオン」UCAVの損失が目視で確認されています)、単純にロシアが持つUCAVの使用経験が乏しいことから、これまでの戦争や武力衝突における「フォルポストR」と「オリオン」が与えた影響は無視できる程度にとどまっているようです。[4] 

 しかし、「オルラン-10」のような小型の非武装型の無人機は、UCAVより大きな成功を収めており、ロシア軍で大量に使用されています。

 UCAVの開発が遅れすぎて国際的な無人機市場に大きなインパクトを与えなかったとしても、その運用で得られた有意義な経験は、今後のロシアに高価な有人機の代わりにUCAVを大量に導入させるように促すかもしれません。

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻において双方の軍がUCAVを実戦投入したことは、これらのシステムが単に高強度紛争での運用が可能になっただけでなく、実際には今やどの側でも投入できる最も高性能なアセットの1つであるという事実を改めて強調しています。

 確かに、UCAVは「Mi-28」や「Ka-52」のような攻撃ヘリコプターよりも脆弱ではありません。ヘリの場合は、撃墜されれば2人のパイロットを死に至らせる可能性があることに加え、一般にATGMを発射するためには所定の位置でホバリングしなければならず、簡単に標的にされてしまうからです。[5]


 結局のところ、UCAVは攻撃ヘリコプターと同じ能力を低コストで提供したり、危険に晒されるリスクを低減するだけでなく、その運用上における任務を拡大するという大きな可能性も秘めているのです。

 その具体的な一例として、ウクライナは「バイラクタルTB2」UCAVを敵防空網破壊(DEAD)任務もに投入して多大な成果を上げていることが挙げられます。それによってTB2は地上戦力やほかの航空戦力の存続に貢献しています。[6] 

 DEADのような任務はロシアの新興UCAV部隊の手の届かない高さにとどまっているように見えますが、彼らの運用経験が増えるにつれて、最終的にはロシア空軍のアセットが担当している別の任務もUCAVが引き受けることになるかもしれません。

  1. ウクライナ上空でロシアのUCAVによって攻撃されたことが視覚的に確認された車両や装備類の一覧は、下で見ることができます。
  2. この一覧は、攻撃の追加映像が入手可能になり次第、更新されます。
  3. 人員や建物への攻撃については、この一覧には含まれていません。
  4. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、ロシアのUCAVによって攻撃された当該兵器類の画像を見ることができます。

戦車(1)


装甲戦闘車両 (3)


歩兵戦闘車 (1)


牽引砲 (2)


トラック、ジープ、各種車両 (8)

「KAB-20」誘導爆弾を投下する「フォルポスト-R」(2021年9月に実施された演習「ザーパト2021」にて)

[1] Russia Provides A Glimpse Of Its Orion Drone Executing Combat Trials In Syria https://www.thedrive.com/the-war-zone/39381/russia-provides-a-glimpse-of-its-orion-drone-executing-combat-trials-in-syria
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1472242280199249923
[3] https://twitter.com/Kyruer/status/1505509964189769733
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1512566406050631684
[5] https://twitter.com/kemal_115/status/1511294420171304964
[6] Defending Ukraine - Listing Russian Army Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年4月5日火曜日

国家の命運:ウクライナの窮状と期待されるトルコの支援


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 まだ始まってから日が浅いばかりですが、衝撃的なほど残虐なプーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻は、歴史的に悲劇に苦しめられたこの国を再び暗黒時代へ後戻りさせました(注:この記事は3月8日に公開されたものです)。

 必死に生存権を確保しようとしているウクライナを非常に強大な軍事力が三方向からウクライナを包囲しながら市民生活を少しも配慮することなくあらゆる目標に砲爆撃を加えており、ウラジーミル・プーチン大統領はこの国をロシアに実質的に取り込む意図を繰り返しほのめかしています。

 このような状況や過酷な見通しのもとでは、ウクライナの人々が絶望し、見捨てられたと感じるのは無理もないでしょう。

 しかし、この数週間でウクライナ人たちは全く逆のことを示しました。数的に優勢な侵略軍を前にした彼らの立ち直る力と意志の強さは、(これは推測ですが)モスクワにいる侵略の立役者だけでなく、多くの人々を驚かせたのです。

 同様に驚くべきことは、事前の準備、戦場の選択、さらには必要となる戦闘の種類という観点から見れば理想的に戦うことができたはずの戦争で、ロシア軍の不手際と準備不足が判明したことです。ウクライナの人々の並外れた忍耐力とロシア軍の失態の両方がHD画質で記録やアップロードをされて、過去に発生したどの武力衝突よりも瞬時にリンクされた世界に何百万回も再生されました。

 (特にウクライナの農民が著名になりましたが)急速に脚光を浴びるようになった抵抗を象徴するアイコンの中には、過去10年間にあった多くの紛争で猛威を振るった兵器が存在します:それがトルコの「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)です。[1]

 ほとんどのアナリストは、ウクライナが有する20機程度のTB2が戦争の初期段階ですら生き残ることができないと疑っていました。つまり、リビアシリアナゴルノ・カラバフなどの紛争で得た成功の再現はおろか、TB2のほとんどが地上で撃破され、残存機も離陸直後に撃墜されると予想されていたわけです。[2] [3] [4]

 とりわけ、過去の成功についてはTB2が投入された武力衝突が低強度紛争だったことでけではなく、作戦地域で活動してる統合防空システム(IADS)が不十分であったことの結果と説明されることが通例になっていますが、実際にはこれらの戦争全般でロシアの最新の防空システムの大半が運用され、2020年におけるアルメニアの戦域は世界で最も密集した防空ネットワークの1つであったことに留意する必要があります。[5]

 ウクライナの空を飛ぶTB2が健在で、ロシアの防空兵器と補給線に見事な勝利を収めている映像がリークや公開され始めると、この論法が誤りであることがすぐに明らかとなりました。

 そして、おそらく思いがけないことに、ウクライナ国民と海外のウクライナ支持者たちの両方がこの無人機の下で結集し、TB2は強気に出過ぎたと思われる侵略者への反抗のシンボルとなったのです。

 動物の名前の由来となったり口コミ動画に使われたり、さらには独自のテーマソングを作られて披露されたりと、TB2は「バイラクタル」として誰もが知っている言葉となりました。[6] [7] [8] [9]

 すでにロシア国防省は戦争前にウクライナが保有していた数を上回るTB2を撃墜や撃破をしたと主張していますが、実際には、この記事の執筆時点では1機も撃墜の証拠が公表されていません(注:4月3日時点で3機の墜落が確認されています)。

 TB2の最近の快挙を綿密に追跡し続けている人たちにとって、今次戦争での成功もそれほど不思議なものではありません。なぜならば、電子妨害となりすまし攻撃に対する耐性、(単に小さなサイズが要因でもたらされた)レーダー断面積の小ささ、そして(おそらく最も重要なこととして)遠距離からピンポイント攻撃可能な能力を組み合わせたことは、防空システムにとって探知と迎撃が最も難しい目標の1つとなることを意味しているからです。

 一方、「バイラクタルTB2」を開発した「バイカル・テクノロジー」社は、困窮にあるウクライナへより多くのUCAVを送ることに同意し、すでに第一陣が目的地に到着しています。[10]

 ウクライナの国家存続に対する明らかな脅威と、以前から続くトルコとウクライナの防衛企業の密接な協力関係を考慮すれば、TB2がさらに納入されると聞いて驚く人は少ないはずです(注:例としては「バイカル・テクノロジー」社とウクライナの国営武器輸出企業「ウクルスペツエクスポルト」との間で合弁企業「ブラックシー・シールド」を設立しており、さまざまな分野での軍事技術面での協力関係を構築しています。)。

 もちろん、引き渡す国が活発な戦闘地帯となった今、トルコの支援には明らかに政治的要素があると思われます。

 それにもかかわらず、最も強力なアセットの1つであるUCAVに大いに注目を集めないようにするため、ウクライナ国防省はTB2に関する公表を最小限に抑制し続けています。実際、今次戦争におけるTB2に関する既存のコンテンツは公式に発表される前に全てがオンライン上でリークされていたことから、ウクライナ軍がこのUCAVを実戦投入していながら、その運用を意図的に秘匿していることがさらに確認されたのです。

リークされた数少ない「バイラクタルTB2」による攻撃映像の1つに、ウクライナ戦線に必要な燃料を積んだロシアの補給列車を攻撃するシーンがあります。この攻撃はクリミア半島で行われたものですが、驚くべきことにロシア自慢の「S-400」中長距離SAMシステムの射程圏内でもあったのです。

 NATO加盟国になりたいというウクライナの強い願望とすでに加盟国であるトルコという立場が完全に違うにせよ、現時点で運用可能な最新鋭のUCAVの一部を送ることによって、トルコは過去数年で急速に発展した二国間関係を称賛しているようにみえます。

 したがって、トルコがロシアによる旧ソ連加盟国への一方的な侵略の際に態度を決定したことは、ほかの地政学的な大国からの怒りを買うリスクがあっても自国の権益を守る覚悟ができていること示すものと言う言うことができます。そうすることで自由なヨーロッパへの攻撃を打倒することに役立っているという事実が、偶然ながらもその決断をNATOの同盟国からの評判を良くさせ、その結果として、過去数週間でトルコに関するほとんどの西側諸国のナラティブに劇的な変化をもたらすに至りました。

 魅力的な「バイラクタルTB2」の活躍やその追加納入が国際報道で注目されているにもかかわらず、現時点におけるトルコの取り組みは、そのUCAVの能力のほんの一部に過ぎないのです(注:トルコはウクライナ・ロシア両国の停戦協議を仲介したり、その交渉舞台を提供するなど、外交面で積極的に関与していることは言うまでもありません)。

 極めて重要なことですが、「バイラクタルTB2」はリビアやナゴルノ・カラバフの活躍で紛争当事国の運命を決定づけることに成功したものの、トルコの「バイカル・テクノロジー」社が送り出した最新のハードウェアではありません。[11] 

 ウクライナにおける非情な戦争の第2週目が終わった今、ウクライナの窮状を支援する動機は高まるばかりであり、将来は友邦のトルコからの武器供与が増えるかもしれません(注:4月現在では、トルコからではなく、西側諸国からの多大な武器支援が始まっていることは周知のとおりです)。

 特に、「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲や「バイラクタル・アクンジュ」UCAVといった長距離精密誘導兵器システムは、ウクライナの田舎にある広々とした幹線道路で格好の標的にされた長い装甲車列が特徴になりつつある今次戦争では、確実に破壊的な存在となる可能性があります。

 UCAVが一旦標的を指定してしまえば、彼らは敵の防空システムの射程圏内に入ることなく無制限に大損害を与えることができるため、レーザー誘導砲弾・ロケット弾は実質的にTB2や「アクンジュ」が持つ兵装運用能力を拡張するものです。それゆえに、TB2や「アクンジュ」といったUCAVとレーザー誘導式ロケット弾である「TRLG-230」の相乗効果は抜群であると断言できます。

 ロシアによる侵略が危機的段階にあると思われますが、まさにこの種の兵器が再び国家の運命に影響を与えるかもしれません。

[1] A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/a-monument-of-victory-bayraktar-tb2.html
[2] An Unmanned Interdictor: Bayraktar TB2s Over Libya https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/an-unmanned-interdictor-bayraktar-tb2s.html
[3] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[4] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[5] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.htm
[6] https://twitter.com/MFA_Ukraine/status/1499647643978452994
[7] https://twitter.com/KyivIndependent/status/1499747524684488706
[8] https://9gag.com/gag/adgByjd
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1498692841526251526
[10] Ukraine receives more armed drones from Turkey during Russia crisis https://www.thenationalnews.com/world/2022/03/06/ukraine-receives-more-armed-drones-from-turkey-during-russia-crisis/
[11] Arsenal of the Future: The Akıncı And Its Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/arsenal-of-future-aknc-and-its-loadout.html

 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇 
 所があります。


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2022年4月2日土曜日

A-10に続け:新たなタンクバスター「バイラクタル・アクンジュ」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 A-10「サンダーボルトII」はCAS(近接航空支援)専用機として開発された機体であり、敵戦車を引きちぎったり強力な30mm機関砲で敵の地上部隊を掃射します。GAU-8「アヴェンジャー」ガトリング式機関砲の搭載を中心に設計されたA-10は、単に戦場に存在するだけでも、地上のどんな敵にも消えることのない恐怖感を与えるのに十分な「攻撃」となります。

 一見したところ、「バイラクタル・アクンジュ」はA-10を恐ろしい戦車ハンターにした要素を少しも備えられておらず、いかなる種類の砲熕兵装ですら装備されていません。

 しかし、戦争は変わりました。もはや航空機が敵の幅広い防空システムにさらされながら、機関砲や無誘導ロケット弾を主兵装に用いた低高度での対地攻撃を行うことはなくなるでしょう。

 現在 航空機の大部分は敵の地上目標を攻撃するために精密誘導弾に頼っており、敵の防空システムの「天井」をはるかに超えて飛行していることがよくあります。A-10のような機体でさえ、JDAMや「ペイブウェイ」シリーズのPGM(精密誘導弾)を搭載して、最終的にはこの戦術の転換に適応しなければならなかったのです。

 機体の生存性の確保については自身が(ステルス性や距離によって)検知されないままでいる方法に道を譲った一方で、現代における兵装の発展は搭載できるその量が機体自身の空力や速度を上回ることを意味するようにさせました。安価ながらも高精度な「MAM-L」誘導爆弾を用いたアゼルバイジャン軍の「バイラクタルTB2」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で少なくとも92台のアルメニア軍のT-72戦車を無力化しました。[1]

 かさばる装甲が「MAM-L」のような爆弾からのトップアタックに対して全く防御力をもたらさないことから、彼らの成功は「戦車の終焉」がついにやって来たのではないかという主張の登場にも至らせました。

 しかし、ナゴルノ・カラバフ戦争は火力支援プラットフォームとしての戦車の終焉を告げるものではなく、実際には高強度紛争における無人機の投入に関する実現可能性を証明するものでした。このような状況下でTB2は非常によく機能し、わずか2機の損失が確認された一方で少なくとも548のアルメニアの標的を破壊したと言うことができます。[1]

       

 2019年と2020年にリビアとシリアで無力化されたものを含めると、破壊された戦車の数はさらに増えます。この国々では、TB2が少なくとも30台以上の戦車を破壊したことが確認されています。

 ここで、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビアで「バイラクタルTB2」によって破壊されたことが視覚的に確認された戦車の一覧を以下に示します。


戦車 (124:破壊)


 2021年8月に最初の「バイラクタル・アクンジュ」が就役したことで、バイカル社のUAVファミリーの対戦車能力が高まっているように見えます。

 実際、TB2と比較すると、「アクンジュ」は最大で18発の「MAM-L」(または任務の必要性に応じて「MAM-C」)を搭載することが可能です(注:TB2の最大搭載量は4発)。この能力は、「アクンジュ」をたった1回の出撃で装甲車列の全体を壊滅させたり、前進する部隊に先駆けて敵を取り除くことで地上の攻勢を支援するための完璧なシステムとして位置づけています。

 ロケトサン社の「MAM-L」は、UAVや軽攻撃機での使用を想定して開発された精密誘導爆弾です。「MAM」シリーズは、静止・移動目標の両方を高い精度で攻撃することが可能であり、これまでもいくつかの紛争で活躍が見られました。

 新たにINS/GPS誘導方式を「MAM-L」に導入したことは、その射程距離を7kmから14km以上へと劇的に延長し、現在世界中で運用されているほとんどの(ロシアの)移動式防空システムをアウトレンジすることを可能にさせました。



 「アクンジュ」は無人機戦の分野に多くの斬新な能力をもたらしています。その目新しさから、これらの能力だけに焦点を当てることは、おそらく理にかなっているでしょう。

 ただし、既存のUCAVよりもペイロードが増加したという単純な事実も同様に重要です。実戦で18発の「MAM-L」を搭載するケースが実際に発生することは起こりそうもありませんが、これは「アクンジュ」が持つ素晴らしいペイロードと現代の最も恐ろしい空飛ぶ駆逐戦車の1つとしての可能性を示しています。

 新しい兵装が「アクンジュ」と共にめざましい勢いで開発されており、このことはドローン技術が常に敵の対抗策より先を行くことを確実なものにしています。無人航空戦の未来がついに到来した暁には、「アクンジュ」がその最前線に立つかもしれません。



[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html

※  当記事は、2021年9月17日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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「Nu.D.40」から「バイラクタル・アクンジュ」へ: デミラーグの遺産(英語)

2022年3月30日水曜日

ロシア・ウクライナ戦争で失われた艦艇一覧


著:ヤクブ・ヤノフスキ, アロハ, ダンケマル(翻訳:Tarao Goo)

  1. 当記事は、2022年2月24日に本ブログのオリジナルである「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(翻訳者は一覧の精査には関与していません)。
  2. この戦争で撃破されたり、鹵獲された両軍艦艇の詳細な一覧を以下で見ることができます。
  3. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
  4. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された艦艇だけを掲載しています。したがって、実際に喪失したものは、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  5. この一覧は、各種情報を精査して確実と判断したものだけを掲載しています。したがって、後で誤りや重複が判明したものは適宜修正されます。
  6. 戦争以前からすでに放棄されていた艦艇や民間船はこのリストには掲載されていません。
  7. 「撃沈」や「大破・着底」の艦艇を当記事では「沈没」として扱います。
  8. 各艦艇の名称に続く数字をクリックすると、撃破や鹵獲された当該艦艇の画像を見ることができます。
  9. 本国版「Oryx」ではこの一覧の更新が常時なされていますが、日本語版については翻訳作業だけでも非常に大変なため、特異なものがない限りは3日か2日に1回程度の更新とさせていただきます。
  10. 当一覧の最終更新日:2023年11月19日(英語版は11月17日


ロシア - 19,  このうち沈没・撃破: 12, 損傷: 7 

ロケット巡洋艦(1, このうち沈没:1)

小型ロケット艦(コルベット)

潜水艦(1, このうち撃破:1)

揚陸艦(5, このうち沈没・撃破:3, 損傷:2)

掃海艦(1,このうち損傷:1)


高速艇 (5, このうち沈没・撃破:3, 損傷:2)


救助曳船(1, このうち沈没:1)



ウクライナ - 27, このうち沈没:8, 自沈:1, 損傷:1, 鹵獲:17

フリゲート(1, このうち自沈:1)

高速艇(11, このうち撃破・沈没:4, 損傷:1, 鹵獲:6)

多目的艦艇(15, このうち沈没:3, 鹵獲:12




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2022年3月25日金曜日

武器提供の呼びかけ:ウクライナが必要とする兵器類


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 今や現代で最も猛烈で犠牲の大きな戦争の1つとして定着しつつある武力衝突がヨーロッパの東側で激化するにつれ、双方の驚異的な損失のエビデンスがますます明らかになってきています。[1]

 ウクライナの都市群は、その物理的な強度と市民生活を無視した残酷な砲爆撃によって夜通しで瓦礫と化しつつありますが、ロシア側の損失も驚くべきものとなっています。このような混沌の中で、決定的とはほど遠いにもかかわらずウクライナは一定の兵器や装備の流入を受けているものの、これまで最も豊富な「供与」は(不本意ではありますが)ロシア軍からのものでした。[1]

 新たに導入した兵器類は無数の供給源から無償で得られているものの、これまで実現していない注目すべき一部の兵器の引き渡しは海外からの軍事援助の限界を示しています。おそらく最も辛辣だったのは、ウクライナ空軍を強化するために(ポーランドの)「MiG-29」戦闘機の贈与をめぐるNATO内部の不和が、幾分かの大失態を世間に晒してしまったことでしょう。

 しかし、各国は最も重要な問題に直面している状況下で政治的決心の度合いと何が現実的に供与可能かを熟考していることを踏まえると、戦闘機の供与への異議について理解はできます。では、ウクライナに必要な兵器とは何でしょうか?

 特にロシアのような一流の敵に対する軍事支援の概念について、(一般的には)主力戦車がずらりと並び、高度な防空システムや戦闘機までもが轟音を響かせながら登場するというイメージを思い起こさせますが、実際の支援のほとんどは歩兵用の武器や装備の供与という控え目な方法がとられました。それがなされている実用面的な理由の1つとして、ウクライナは主に旧ソ連由来の装備を運用しているため、同国を支援するほとんどの国が提供可能な兵器に全く馴染みがないことが挙げられます。

 歩兵用の兵器、特に主に供与されている兵器(「ジャベリン」「NLAW」など)の利点は、効果的に使用できるようになるために最低限の訓練しか必要としないことです。この要件は、本質的に軍事援助を「使いやすい装備」、あるいは「ウクライナ側ですでに使用経験のあるもの」に限定しています。

 ウクライナとの国境で装甲戦闘車両の譲渡がいまだに行われていない別の理由は、そのような兵器の供与が戦争をさらにエスカレートさせ、NATOとロシアとの間で潜在的に戦端が開かれるリスクがあるという懸念を外国の多くの政治家が抱いているためです。
 
 しかし、このような推論は、すでにロシアのメディアがロシア軍は本質的にウクライナで(本当の敵に対する)代理戦争を戦っているという一般的なナラティブを流布していることに加え、現在の軍事状況を踏まえると、ウラジーミル・プーチンが単なる通常兵器の供与で戦争をエスカレートさせるリスクを冒す可能性が低いという事実を考慮に入れていません。

 とはいえ、仮に「目立たないこと」をウクライナに供与される兵器類の条件としたとしても、(継続的な)導入によってゲームチェンジャーと見なされるかもしれないタイプの兵器は数多く存在します。

ウクライナはアメリカから100発の「スイッチブレード300」徘徊兵器の供与を受ける予定となっています

 近年の紛争が実証しているものを言明するならば、基本的に精密誘導兵器(PGM)を中心に展開し始めていることが挙げられます。PGMは1発の威力と戦場で素早く強引に突破口を切り開く可能性の観点から見ると、非常に効果的なものであることは言うまでもありません。

 この普及を制限していた要因は、PGMが法外なコストであったことや、時にはそれらが有するハイテク性が広範囲にわたる導入を妨げたという事実です。実はこの事実が、これまでのロシアの乏しい戦果をある程度説明してくれます。ロシアが配備しているPGMの量と質は相当に低いようであり、長距離巡航ミサイルはしばしば標的を外し、攻撃機は低空飛行で無誘導の爆弾やロケット弾をリリースせざるを得なくなっているのです。

 一方のウクライナ側では、既存のPGMと新たに導入されたPGMが非常に効果的であることが証明されていますが、枯渇率が非常に高く、問題のPGMの大部分は短距離でしか有効性を発揮できないに違いありません。したがって、ウクライナはPGMに加え、対地攻撃と防空のために、より長い射程を持つ兵器を必要としているのです
 
 近年にそのような兵器類を揃えつつある供給源の1つであるトルコは、非常に適したほかのアセットを数多く有しています。これまでトルコはすでに極めて重要な役目を果たしている「バイラクタルTB2」などの無人戦闘航空機(UCAV)に加えて、精密誘導ロケット弾によって高い殺傷力を発揮する「TRLG-230」多連装ロケット砲(MRL)といった兵器システムも輸出しています。[2]

 最大で4つの目標しかダイレクトに攻撃できないものの、その滞空性能のおかげでより多くの目標を捜索・識別できるTB2との合同作戦において、「TRLG-230」230mm MRLは、
「バイラクタルTB2」によって指示された70km圏内に存在する敵を素早く続けて高い精度で撃破することができます。[3]

 この能力は、ロシアの地上部隊に壊滅的な打撃を与えるだけではありません。その射程距離と優れた精度を考慮すれば、海軍の上陸作戦やその他の作戦を阻止さえできるかもしれません。

「TRLG-230」230mm レーザー誘導式ロケット弾は「バイラクタルTB2」に照準された標的を打撃可能です

 実際のところ、ウクライナのすでに殺傷能力が高いUCAVアセットを最大限に活用するためにできることはもっとあります。

 ウクライナの無人機は投入されている環境を考慮すると驚くほどよく運用されていますが、過去の別の紛争では、敵防空網からの脅威を弱め、それによって戦場をより完全にコントロールできる効果的な(防御的)電子戦(EW)システムの使用によって、その有効性が倍増した例があるからです(注:2020年のナゴルノ・カラバフ戦争のこと)。このようなEWシステムは、(供与されれば)ウクライナの保有戦力でに最も目立たなくも多大な影響を与える装備となる可能性があるでしょう。
 
 逆に、地上のウクライナの戦力を防護してロシアに航空優勢を与えさせないためには、より強力な防空アセットが緊急に必要となっています。

 (外国製とウクライナ製の)携帯式地対空ミサイルシステム:MANPADSは今次戦争で圧倒的な効果を上げていますが、射程の長い防空システムはウクライナが維持している領土における防衛側の自由度を高め、実質的により効果的な防衛と反撃を可能にします。

 現在、ウクライナが受け取ったこの分野のアセットとして一般に知られているのは、ロシアが放棄したものだけしかありません。詳しく説明すると、ロシア兵はさまざまな戦闘や撤退の裏でこれまでに約20の防空システムを遺棄しており、ウクライナの部隊がそれらを鹵獲したというわけです。[1] 

 (仮に供与するとしても)西側諸国の防空システムのほとんどが抱えている問題としては、それが今すぐに必要な設備であるのに対し、ウクライナのオペレーターが適切な運用スキルを得るまでに長期間の訓練を必要とすることがあります。

 一部ではトルコがロシア製の「S-400」 地対空ミサイル(SAM)システムを提供するべきだという意見を提起する人たちがいます。この意見の是非は別としても、なぜトルコだけが戦略SAMを供与する責任があると考えられているのか、という論点がはぐらかされています。[4] 

 実利的には、ウクライナは、ブルガリアとギリシャとポーランドから提供されるかもしれない「9K33/SA-8 "オーサ"」、フィンランドの「9K37/SA-11  "ブーク-M1」、ギリシャの「9K331/SA-15 "トール-M1"」、ブルガリアとスロバキアとギリシャの「S-300PMU(-1)」といった、すでに精通している移動式の中・長距離防空システムから最大の恩恵を受ける可能性があると思われます。

 これらは、ロシアがウクライナの領空を完全に掌握することを阻止し続ける上で大きな助けとなるかもしれず、供給国にとって政治的・経済的なインパクトが小さいという利点があります。
 
フィンランド軍の「ブークM-1(ItO 96)」は現役から退いていますが、戦時に備えて稼働状態を維持しています

 歩兵用火器の分野では、一般によく知られている対戦車兵器やMANPADS、そして小火器(夜間戦闘でウクライナに一貫した優勢を可能にさせる暗視装置も必要なことは言うまでもないでしょう)以外に、徘徊兵器やほかの見通し外兵器がウクライナをロシアより実質的な優位に立たせてくれるでしょう。

 最近、アメリカは殺傷力の高い小型の徘徊兵器「スイッチブレード300」を大量に供与することを約束しましたが、基本的に自前の徘徊兵器が不足しているロシア軍を撃退するためには、より多くの同種兵器が必要となります。[5]

 残念なことに、徘徊兵器の最大の生産国にして運用国であるイスラエルは、現時点で同盟国と共にウクライナに軍事支援を提供することに消極的です。したがって、この重要な要求をトルコ(STM製「カルグ」)やポーランド(WBエレクトロニクス製「ウォーメイト」)、そしてアメリカといった別の主要生産国が引き受けなければならないのです。
 
 通常、武器の有効性は自身の目標を検知する能力によって左右されます。これを踏まえると、潜在的な影響力と供与の実現性の両方で歩兵用火器の上位に位置するもう一つの兵器が偵察用ドローンという答えが導き出されます。特に歩兵が容易に輸送・発進・操作できるタイプは、ウクライナに供与されるほかの全ての兵器の戦力倍増装置になると同時に、大砲などの通常戦力を支援することもできる可能性を秘めています。
 
 かつての属国であった地で信じられないほど強力な敵に遭遇したロシア軍は動揺している一方で、ウクライナは軍事関連施設や民間インフラにたいする自暴自棄な攻撃をどんどん受けていることから、これまで以上にないレベルの緊張状態にあります。まさに今こそが
、ある種の兵器の新たな提供が歴史の流れを変えるかもしれない重要な時期なのです。

 起こるべきではなかった戦争で「主権を持つ国民国家」の意義がまさに争われている中、ウクライナは必死に友好国に訴えかけ続けていますが、1つの疑問が残り続けます:どの国がその呼びかけに応じるのでしょうか?

 
[1] Attack On Europe: Documenting Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-equipment.html
[2] Defending Ukraine - Listing Russian Army Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html
[3] TRLG-230 Laser Guided Missile https://www.roketsan.com.tr/en/products/trlg-230-laser-guided-missile
[4] Turkey’s Russian Missiles Could Defend Ukraine https://www.wsj.com/articles/turkeys-russian-missiles-could-defend-ukraine-antiaircraft-weapons-putin-fighter-jets-arms-invasion-11647546396
[5] The latest US weapon heading to Ukraine: A 2-foot long, 5-pound drone designed for one-way missions https://breakingdefense.com/2022/03/ukraine-is-getting-switchblade-it-should-be-just-the-first-wave-of-loitering-munitions-for-kyiv/

 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇 
 所があります。


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