著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ
シリア・アラブ陸軍の機甲師団は、追加装甲でアップグレードされた数種類の戦車やほかの装甲戦闘車両(AFV)を運用していることでよく知られています。
さまざまなAFVや支援車両に施した後、第1機甲師団(第1AD)は2016年に新型の多連装ロケット砲(MRL)を導入することで、その保有兵器のストックをもう一度拡充しました。このMRLは、アラビア語で太陽を意味する「シャムス」として広く知られています。そのニックネームは、ロシア軍がシリアに展開していた際に配備されたTOS-1A 「Solntsepyok」が「太陽」と呼ばれていたことに由来すると考えられています。
この車両は、ダマスカスの戦域全体でAFVに施された高度で専門的なアップグレードの傾向を引き継いでいます。
このようなアップグレードされた車両の最初のものは2014年末に登場し、この時には少なくとも2台の装甲が強化された(イタリアのTURMS-T火器管制システムを装備した)T-72M1が、ジョバルに配備された直後に破壊された姿が公開されました。しかし、この事態が第4ADに計画の推進を阻むことはなく、その後の数年間で数種類の装甲強化型AFVが戦場で目撃されるようになったのです。
「シャムス」は、2発か5発の大口径ロケット弾を発射する機構とGAZ製SadkoトラックまたはBMP-1歩兵戦闘車(IFV)の車体を組み合わせた自走式MRLシステムです。
このMRLに使用するロケット弾は標準的なロケット弾により大きな弾頭を組み合わせた評判の高い「ボルケーノ」型であり、2013年のアル・クサイルでの戦いの際に、直撃すれば住宅区画を完全に破壊できる威力があることで広く知られるようになりました。
シリアの軍需産業は同時期にこの「ボルケーノ」を大量生産し始め、即座にシリアにおけるほぼ全ての戦線で使用され始めました。
BMP-1をベースにした「シャムス」はかなりの数の画像が撮影されていますが、実際に改修されたBMPはたった1台だけしかありません。よりすぐに使用できるプラットフォームとしてGAZ製「Sadko」トラックがあり、数台が自走発射機として改修されました。
このGAZ製「Sodko」をベースにしたものには2種類のモデルが存在します。1つは発射機を搭載するために特別に改修されたもので、もう1つは無改造のトラックの後部に発射機を搭載したものです。
それ以外の車両は改修されなかったと考えられており、「シャムス」はその後すぐに、より多用途性がある「ゴラン」MRLに取って代わられました。
BMPとGAZ製「Sadko」をベースにした「シャムス」はその両方が、スラットアーマーを装備した「T-72 TURMS-T」やロシアから供与されたBTR-70M装甲兵員輸送車(APC)を含む、いくつかの注目すべきAFVを運用している第1師団に所属しています。
シリアでは現在3種類の「ボルケーノ」が生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれています。
最も広く使用されている「ボルケーノ」用ロケット弾は107mmと122mm弾をベースにしたものですが、220mm弾ベースのものも存在します。シリアでは107mmと122mm(グラート)ロケット弾が非常に一般的なものであることに加えて、220mmロケット弾もシリア国内で製造されていることが知られているため、これらのロケット弾を「ボルケーノ」に改造することは比較的容易です。
「シャムス」は2種類の122mmロケット弾をベースにした「ボルケーノ」を使用しており、どちらも大重量の300mm弾頭を備えています。「シャムス」MRLから「ボルケーノ」が発射される様子はここで観ることができます。
興味深いことに、「シャムス」で使用されている2種類の「ボルケーノ」の1つには、通常の弾頭より強力な爆発力をもたらすために空気中の酸素を利用し、閉じ込められた空間での使用に最適なサーモバリック弾頭(350kgというとてつもない重量だと伝えられています)を搭載していると評されています 。[1]
もう1種類は250kgの通常弾頭(元の122mmロケット弾では約65kg)を使用したもので、装備されている短いロケットブースターによってサーモバリック弾頭型と識別することが可能です。「ボルケーノ」の射程距離はサーモバリック型では3.4キロメートル、従来型では1.5キロメートルとのことです。
シリア軍がこういった効果的な戦力増強をさらに行うかどうかはその意欲とリソース次第ですが、そのような試みにおける柔軟性が軍事プランに反映されるのであれば、その決定は最終的にシリア軍の再建に大きな影響を与える可能性があるでしょう。
[1] @WithinSyria氏との個人的な会話
特別協力: Morant Mathieu(敬称略)
※ 当記事は、2021年10月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも のです。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。
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