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2023年10月24日火曜日

極彩色の鉄騎兵:トルクメニスタンのオトカ「ウラル」と「コブラ」歩兵機動車



著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 「オトカ」社製「コブラ」は、世界で最も成功した歩兵機動車(IMV)の1つであり、1997年に誕生して以来、約20カ国以上に輸出されています。

 さらにオリジナルの車体のフォローアップを図った改良型の「コブラII」も開発され、4カ国で採用されました。

 また、「オトカ」社はさまざまな大型AFVも設計しており、その中でも「アルマ」装甲兵員輸送車(APC)と「タルパー」歩兵戦闘車(IFV)は間違いなく最も知られた存在となっています。

 2010年代半ばのどこかの時点で、「コブラ」が同じく「オトカ製」の「ウラル」と一緒にトルクメニスタンへ輸出されたことは全く知られていません。どちらもトルクメニスタン軍で運用に入ることはなく、「ウラル」は内務省に引き渡され、国境警備隊は「コブラⅠ」の全部ではないにしてもその大部分を配備することに至りました。

 「ウラル」IMVの奇抜な迷彩パターンは明らかにどんな地形においても自身の被発見率の低下に少しも寄与しませんが、この国の治安部隊の車両として運用されていることを考慮すると、この塗装は実際に意図して施されたものと言えるでしょう。それでもなお、キューポラに搭載された「NSV」12.7mm重機関銃(HMG)は、内務省が予備的な戦闘任務も負っていることを明確に示しています。

 トルクメニスタンに納入された100台以上の「コブラ」は、その運用キャリアを通して(頻繁に変更されることで知られている)数種類の迷彩パターンが目撃されています。[1]

 最も新しい迷彩パターンは、2021年9月に実施された独立30周年記念の軍事パレードで見られたものです。はるかに大きなピクセルやドットが用いられていますが、トルクメニスタン陸軍の兵士が着用する迷彩服のパターンとほぼ同じものとなっています。

 確かに「ウラル」に施されたものよりは華々しくはありませんが、実用的な迷彩パターンとしてはより効果的であることは間違いありません。

国境警備隊の「コブラⅠ」IMV(2021年9月にアシガバートで実施された軍事パレードにて)

 トルクメニスタンのIMVの大部分は遠隔操作式銃架(RWS)を装備しており、「コブラⅠ」も同様に装備されています。

 実際、通常の重機関銃付きキューポラを装備した「コブラⅠ」はトルクメニスタンでたった一度しか目撃されていません。このキューポラは防楯が追加された「M2」12.7mm HMGもので構成されていましたが、一見すると前方からの銃撃に対する防御力は僅かしかなかったようです(注:防楯が薄すぎて装甲としての機能を期待できない)。


 トルクメニスタンが保有する「コブラ」のほとんどは「NSV」12.7mm HMGを装着したイスラエルのIMI製「ウェーブ300」RWSで武装されていますが、前述の貧弱なキューポラの存在を踏まえると、これらが国内で改修されたと考えるのが理にかなっているように思われます。

「ウェーブ300」RWSを装備した「コブラⅠ」

 「オトカ」製「ウラル」が内務省で運用される上での最も妥当な用途は群衆整理ですが、最大7人の治安部隊員の高速移動手段としても機能します。

 「コブラ」も同様に、運転手と指揮官に加えて最大で7人の国境警備員を乗車させることが可能です。

 どちちらのIMVにも、必要な時に素早く乗降できるようにするための後部ドアが設けられています。さらに、「コブラ」には兵員用の側面ドアと天井ハッチも備えられているため、被弾時や炎上時に脱出する機会を大幅に向上させています。

 トルクメニスタンで運用されている大部分のIMVとは異なり、「ウラル」と「コブラ」の双方には、フロントガラスを破損させて運転手の視界を悪化させる可能性のある投石やその他の破片から窓ガラスを保護する金網を備えています。

 通常兵器で武装した敵に対処する場合における両車の装甲防御力については、小火器と砲弾の破片から乗員を防護するには十分であり、限定的ながらも対人・対戦車地雷やIEDから保護する能力も備わっています。[2] [3]



 「オトカ」社は、トルクメニスタンを含む世界各国でIMVの著しい商業的な成功を収めています。

 最近のトルクメニスタンは新しい武器や装備の導入によって軍の能力をさらに向上させる用意が整っているようですので、もしかすると、将来的にさらに多くの「オトカ」製品が導入される状況を目にする日が訪れるかもしれません。

 現在のトルクメニスタンはソ連から引き継いだ大量の「BTR-80」APCと「BMP-2」IFVを運用していますが、それらの後継として、「オトカ」社が将来的に自社製の「アルマ」や「タルパー」をこの国に売り込むことは間違いないでしょう(注:2023年10月にエストニア防衛投資センターが「オトカ(6x6型)」とヌロル社製「NMS」を発注したことを明らかにしました)。

「コブラⅡ」IMV(左)と「アルマ 8x8」IFV(右)

[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] Cobra 4x4 Armored https://defense.otokar.com.tr/wheeled-armored/4x4-armored/cobra-4x4-armored
[3] Ural 4x4 Armored https://defense.otokar.com.tr/wheeled-armored/4x4-armored/ural-4x4-armored

この記事の作成にあたり、Sonny Butterworth氏に感謝を申し上げます。

※  この記事は、2022年1月15日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した  
  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇
  所があります。 



2023年6月14日水曜日

久しぶりのロシア製:トルクメニスタンの「タイフーン」MRAP


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2000年代後半、ロシアの兵器メーカーにとって今後のトルクメニスタンとのビジネスの見通しが有望視されていたに違いありません。なぜならば、当時はトルクメニスタンから装甲戦闘車両(AFV)やヘリコプター、艦船などの受注が絶え間なく舞い込んできたからです。

 ところが、トルクメニスタンは軍の近代化をロシアにかなり依存していましたものの、ほどなくして同国からロシア製兵器の発注がすぐに途絶え始めました。その代わり、トルクメニスタンはロシアやウクライナの武器メーカーを犠牲にして、他国の数多くある兵器メーカーを含むように兵器類のサプライヤーの多角化を図りました。

 この突然の調達方針の転換によって、機械化部隊にあるソ連時代の装備類をロシアの「T-90S」戦車と「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)で部分的に置き換えて近代化を図るというトルクメニスタンの計画はほぼ終止符を打たれてしまったようです。

 一見して装輪式AFVを好むこの国の新たな防衛ドクトリンのおかげで、前述のロシア製AFVは最終的にごく少数の導入で終わりました。前者は歩兵機動車が中核となっており、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAE、韓国、オーストリア、イタリア、そしてベラルーシなどの国々から調達されました。

 それにもかかわらず、2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードで、トルクメニスタンが兵器類の供給に関して再度ロシアに目を向けたことが明らかとなりました。驚くべきことに、「カマズ-63968 "タイフーン" 」耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)が初めて軍事パレードに登場・初披露されたのです。[1]

 残念ながら、実際にこのMRAPが調達された数の情報が皆無に近いため、現時点では運用テストのための少数の導入にとどまっている可能性があります(注:たった1台という情報がある)。

 「カマズ-63968」は2016年にシリアで同国に展開したロシア軍によって戦闘デビューを果たしており、今回のパレードでトルクメニスタンがその初の輸出先として判明したということです。

 世界中の他のMRAPとは異なって、「タイフーン」は固有の武装を備えていませんが、顧客の要求に応じて12.7mm銃機関銃を備えた遠隔操作式銃架(RWS)を装備することが可能となっています。[2]

 それでもなお、ロシア軍もトルクメニスタン軍も今のところ「タイフーン」用にRWSを調達したことはないようです。

00年代後半に引き渡された数少ない「BMP-3」IFVの1台(00年代後半か10年代前半の軍事パレードにて)

 「タイフーン」はカマズ社とウラル社が設計したMRAPシリーズであり、兵員の輸送だけでなく、より特殊な任務のためのベース車両として用いられることを意図して開発されました。

 このMRAPは底部のV字型モノコック構造は車体や乗員を爆風から遠ざけることによって、地雷に対する高い防護性能を確保しているほか、車内には2名の乗員と最大16名人の兵員用に耐衝撃・衝撃吸収座席が設けられています。

 全周囲に14.5mm徹甲弾に耐える装甲を施されていることから、「カマズ-63968」はこのクラスで最も優れた防護性能を持つ車両の1つとなっています。



 以前のロシア製AFVと比較すると、「カマズ-63968」の人間工学は著しく改善されています。例えば、このMRAPの前面、背面、両側面にはビデオカメラが搭載されているため、車内にいながら周囲を視察したり、フロントガラスに銃弾が撃ち込まれて視界不良になった場合でも車両を操縦することを可能にしています。

 16人の兵員は車両後部のランプ・ドアで乗降するほか、天井に設置されている合計で7つのハッチからも緊急時に脱出することができます。

1台のイスラエル製「コンバットガード 4x4」 IMVに続き、3台の中国製「EQ2050」と1台の「カマズ-63968 」MRAPが行進しています。

 トルクメニスタンによる兵器類の爆買いは長期間続く可能性が高く、すでに毎年の多数の新型車両や航空機、そして艦艇の披露で国際的なアナリストを驚かせています。

 これがロシアからの新たな兵器類の調達に含まれることになるのかはまだ不明ですが、最近になってトルクメニスタンが国内全域で救急搬送任務を行うために救急搬送仕様の「Mi-17」と「アンサット」ヘリコプターを発注したことは、ロシアが手頃な価格の軍事・航空技術の供給源として忘れられていないことを裏付けています。[3]

トルクメニスタン陸軍の「BTR-80A」IFV

[1] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[2] https://i.postimg.cc/j2Sr8FLB/438.png
[3] Russian Company Delivers Ansat, Mi-17-1W Ambulance Helicopters to Turkmenistan https://business.com.tm/post/6900/russian-company-delivers-ansat-mi171w-ambulance-helicopters-to-turkmenistan

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2023年2月3日金曜日

最後の中国製無人機:トルクメニスタンの「CH-3A」UCAV



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 中国製無人戦闘機(UCAV)の商業的成功については、中東、中央アジア、北アフリカの国々がこれまでになく大量の「翼竜」や「CH」シリーズUCAVを導入したことから、かつてはその快進撃を止めることができないだろうと思われていました。

 しかし、この素晴らしい販売実績の理由は、明らかに中国製UCAVが好まれていたということではなかったようです。それどころか、ここ10年の前半はUCAV市場にはほとんど競争がありませんでした。特にUCAVの導入を検討している国がアメリカから武器を調達できる余裕を持っていなかった場合は選択肢自体が事実上中国に限られていたのです。

 ただし、米国と密接な関係にある国でさえ、大抵は武装型「MQ-1 "プレデター "」や「MQ-9 "リーパー"」の購入が禁じられていたり、(トルコの場合のように)特定の地域には展開させないという約束の下でしか入手できませんでした。

 ロシアといったほかの主要な武器生産国はいまだにUCAVの量産や実用化に至っておらず、イスラエルは武装ドローンの輸出販売をしていません。

 競争市場では、生産者が互いに競争することによって販売価格が押し下げられる効果が生じます。

 UCAVの主要生産国としてトルコが出現したことは、ほぼ間違いなく中国を犠牲にする形で武装ドローン市場を一変させました。ただし、UCAV生産国としてのトルコの台頭は、2010年代初頭のトルクメニスタンが必要としていたUCAVのニーズに対応するにはあまりにも遅すぎましたのは周知のとおりでしょう。

 当時は中国からUCAVを調達する以外に選択する余地がほとんど無い状況に迫られていたため、トルクメニスタン空軍はまさにその現状に従って「CASC」「CASIC」「CH-3A」「WJ-600A/D」UCAVを大量に発注しました。[1]

 これらは2016年に実施された独立25周年記念日の軍事パレードで盛大なファンファーレと共に披露されたものの、調達数やその後のトルクメニスタンでの運用に関する情報はほとんど知られていません。

 トルクメニスタンの「CH-3A」で判明していることは、2011年にイタリアから購入した3機の「セレックスES(現レオナルドS.p.A.)」社「ファルコXN」無人偵察機と共に、アク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることです。[2]

 「CH-3A」は左右の主翼にハードポイントを各1基ずつ備えているため、最大で8kmの射程を持つ「AR-1」空対地ミサイル(ASM)を2発搭載するのが標準的な武装となっています。

 また、このUCAVの巡航速度は 200km/hであり、12時間程度の滞空性能を誇ります。現代の基準からすると物足りませんが、それでもジェットエンジンを搭載した「WJ-600A/D」の3〜5時間という滞空時間を上回っています。[4]

アク・テペ・ベズメイン空軍基地で、中国製「FD-2000」及び「KS-1」地対空ミサイルシステムの前を自転車に乗って通過するグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領。「CH-3A」が「KS-1A」の右に置かれている様子は注目すべきことであり、これが2016年の軍事パレードに登場して以降に公開された同UCAV唯一の資料です。

 トルクメニスタンが追加の「CH-3A」、「CH-4B」、あるいは「翼竜」UCAVを導入する代わりに「バイラクタルTB2」を調達するという決定は、「バイカル・テクノロジー」社にとってさらなる注目すべき成功の1つです。[5]

 トルクメニスタンはTB2を導入した5番目の国であり、同機はこれまでに28カ国以上に販売されました。[6]

 武装ドローンの調達における世界的変化は、中国とアメリカという伝統的なサプライヤーを犠牲にしながら表面化しはじめています。このことは一度は停滞した市場を競合する他社から奪取できることを証明しており、この偉業はトルクメニスタンの「CH-3A」と「バイラクタルTB2」によって象徴されているのです。

主翼に「AR-1」空対地ミサイルを搭載した状態で軍事パレードに登場した「CH-3A」

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



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2023年1月13日金曜日

ベルディムハメドフの荒鷲:トルクメニスタンのイタリア製「ファルコXN」UAV

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンはイタリア製品:軍備や(そして特に)大理石の主要な買い手です。首都であるアシガバートは白い大理石で作られた建造物の密度が世界で最も高い都市としてギネスブックに認定されており、「ホワイト・シティ」というニックネームが付けられています。[1]

 この国のイタリア製品に対する愛着は軍隊の保有装備にも持ち込まれており、近年では戦闘機、装甲車両、そして対艦ミサイルといったあらゆる装備がイタリアから調達されています。[2] [3] 

 イタリアの「ARX-160」はトルクメニスタン軍の主力小銃でもあり、2021年に実施された独立記念日の軍事パレードでは、イタリアからの武器の調達が依然として盛んに行われていることが示されました。[4]

 約10年前、「セレックスES」社によって設計されたイタリアの「ファルコXN」無人航空機(UAV)は、トルクメニスタンが初めて導入したイタリア製兵器類の1つでした(注:「セレックスES」社は後に「レオナルド」社に統合されました)。[5] [6]

 また、「ファルコ」は同国初の大型UAVでもあり、同国軍ですでに運用されていたイスラエルの「オービター2B」「スカイラーク」といった多数の小型軽量型UAVの能力をもカバーしました。

 「ファルコ」は同クラスの無人機としては初めて中央アジア地域で運用が開始された最初の機体となりましたが、数年後に中国からの「翼竜Ⅰ」「CH-3A」、そして「WJ-600A/D」無人戦闘航空機(UCAV)の納入によって非常に目立たない存在にさせられてしまいました。

 トルクメニスタンが導入したイタリア製UAVの数は3機と少数であり、軍事演習で撮影された映像も極めて少ないことから、同国における「ファルコXN」の運用状況はほとんど知られていません。毎年恒例の軍事パレードに登場していることを除けば、このUAVはたった一度しか目撃されていません。

 それでも、「ファルコ」が僅かに登場した数秒の映像は、同機がアシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることを把握するには十分なものでした。この映像では、2013年にアシガバート郊外に建立された馬の地上絵の上を「ファルコ」が飛行している様子を観ることができました(下の画像)。

「タマム」FLIR装置を搭載したトルクメニスタンの「ファルコ」UAVがアク・テペ・ベズメイン空軍基地近くにある巨大な馬の地上絵の上空を飛行している様子。左上に滑走路の端が見えることに注目。

 「ファルコ」UAVは、パキスタン、バングラデシュ、サウジアラビア、ヨルダン、そしてトルクメニスタンで使用されており、リビアへも複数のシステムを販売する予定でしたが、2011年にリビアのカダフィ体制崩壊によって契約自体も瓦解してしまいました。

 このUAVシステムは最大上昇限度が5,000mで、最大で14時間の滞空性能を誇ります。

 製造元である「セレックスES」社は「ファルコ」にインテグレートするための多数のセンサー類も売り込んでおり、それらには3種類のFLIR(前方監視型赤外線)装置、マルチモード監視レーダー、「PicoSAR」または「オスプレイ」マルチモードAESAレーダー(後者はポーランドが「バイラクタルTB2」用に導入)が含まれています。[7]

 また、「ファルコ」は「SAGE」電波探知装置を搭載することも可能ですが、似たような見た目の中国製「CH-3A」とは異なって武装を搭載することはできません。[7]

 トルクメニスタンの場合、胴体の下にFLIR装置だけを搭載した純粋な偵察仕様の「ファルコ」を導入したと考えられています。



 「ファルコ」UAVを導入して10年後、トルクメニスタンは自国の空軍を強化するために再びイタリアへ目を向けました。

 2020年5月、イタリア上院は、トルクメニスタンが2019年に4機のM-346FA(戦闘攻撃機型)と2機のM-346FT(訓練機型)を2億931万ユーロ(約388億円)で発注したことを明らかにしました。[8]

 また、トルクメニスタンは2機の「C-27J NG」輸送機もイタリアから調達しました。 [9]

 ブラジルから5機の「A-29B "スーパーツカノ"」軽攻撃機を調達したことに加えてこれらのイタリア機を導入したことは、トルクメニスタンによる軍を近代化するという試みが決して形だけの努力ではないことを示しています。実際、今やトルクメニスタン空軍はこの地域で最も高度な戦闘機とU(C)AVを運用している空軍となっています。[10]

6機編隊でフライパスを披露するトルクメニスタンの「M-346」

「An-74TK-200」に先導されてフライパスを披露する2機の「 C-27J NG」(2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードにて)

 「ファルコ」の武装搭載型や「P.1HH "ハンマーヘッド"」 MALE型UASを含むほかのイタリア製無人機の設計・開発が事実上停止しているため(「ファルコ・エクスプローラー」ISR機の場合、目新しい機能は全くありません)、ほかのイタリア製UAVがトルクメニスタン軍に就役するチャンスはほとんど無いでしょう。

 その代わり、近年のトルクメニスタンは無人機を中国、イスラエル、トルコから調達していることから、今後はより多くの無人機戦力を得るために後者の2カ国に依存する可能性があります。

 いつの日か、そのような新型無人機が「ファルコ」を置き換えることになることについては疑う余地がありません。その日が来るまで、「ファルコ」UAVは(おそらく)導入されることが想定外だった運用国で、忠実に任務を果たし続けるでしょう。



[1] Turkmenistan's Capital Named World's 'White-Marble' City https://www.rferl.org/a/turkmenistan-marble-record-architecture/24998685.html
[2] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[3] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[4] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[5] Italia: ecco le armi esportate da Berlusconi a dittatori e regimi autoritari https://www.unimondo.org/Notizie/Italia-ecco-le-armi-esportate-da-Berlusconi-a-dittatori-e-regimi-autoritari-135097
[6] L’export armato italiano ai regimi dell’ex URSS Intervista a Giorgio Beretta https://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/L-export-armato-italiano-ai-regimi-dell-ex-URSS-Intervista-a-Giorgio-Beretta-b0a850b2-32fd-457e-b715-9f43da2b047e.html?refresh_ce
[7] Diminutive Falco UAV is first to carry both video and radar https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2009-11-12/diminutive-falco-uav-first-carry-both-video-and-radar
[8] Turkmenistan's air force operating new M-346FA, C-27J, and A-29 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/turkmenistans-air-force-operating-new-m-346fa-c-27j-and-a-29-aircraft
[9] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[10] Turkmen Tucanos: Turkmenistan Unveils A-29B Attack Aircraft https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/turkmen-tucanos-turkmenistan-unveils.html

※  当記事は、2021年12月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年11月18日金曜日

2022年9月のキルギス・タジキスタン国境紛争で両軍が喪失した装備(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 古くからあるキルギスとタジキスタン間の水紛争を原因とする一連の国境における小競り合いが、2021年4月に続いて2022年9月14日にも勃発しました。

 今回はタジキスタン軍は戦車と大砲を用いてキルギスのとある村に侵攻し、バトケンの町を砲撃したのです。

 砲兵戦力に関してはタジキスタンが優勢ですが、キルギスはタジキスタンの戦車や多連装ロケット砲(MRL)に反撃するために新たに導入した「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を投入しました。この地域にTB2を撃墜可能な地対空ミサイル(SAM)を展開しさせていなかったため、タジキスタン軍の機械化部隊は上空の見えない敵に対して非常に脆弱であることが証明されました。

 国境での武力衝突は2日間続き、その後の2022年9月16日夜には双方が停戦に合意することができたものの、平和は僅か1日しか続きませんでした。ただし、双方が状況をこれ以上エスカレートさせることを望んでいなかったことから、結果として今回の衝突はより永続的な和平協定が調印される9月20日まで続いたようです。

 キルギスとタジキスタンの両国は共に国境問題を平和的手段によって解決するための努力を継続することを表明し、信頼の証として国境から追加の軍用装備と部隊を撤退させることに同意し、今回の武力衝突は終結に至りました。

  1. 下に記されている兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。
  2. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。 

キルギス (損失数:4, このうち撃破:2, 損傷:1, 鹵獲:1)

歩兵機動車 (1, このうち鹵獲:1)

トラック・車両類 (3, このうち撃破:2, 損傷:1)


タジキスタン (損失数:4, このうち撃破:4)

戦車 (2,このうち撃破:2)

多連装ロケット砲(1, このうち撃破:1)

トラック・車両類 (1, このうち撃破:1)

※ この記事は2022年10月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した 
 ものです。

2022年10月18日火曜日

トルクメニスタンの風変わりなUCAV:中国製「WJ-600A/D」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは中国から購入した多数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しています。ナイジェリア、アルジェリア、ミャンマー、そしてパキスタンにも輸出された「CH-3A」を別とすれば、トルクメニスタン空軍はまだ世界中のどこの国でも導入されていない独特なドローンも調達しました。それが今回のテーマである「WJ-600A/D」です。

 この型破りなUCAVは、ロケット補助推進離陸(RATO)で発進し、任務を終えた後にパラシュートで着地・回収されるという世界でも数少ない武装ドローンの1つです。

 ほぼ間違いなく「WJ-600A/D」は見た目からするとUCAVというよりも巡航ミサイルにしか見えませんが、同機は世界中に存在するUCAVの大半が用いているターボプロップエンジンの代わりにターボファンエンジンを搭載することによって、従来型のUCAVよりも著しい高速性能を持つことに成功しています。

 「CH-3A」の速度がたった200km/h程度であることと比較すると、「WJ-600A/D」はこのエンジンのおかげで最大で700km/hという素晴らしい速度を誇ります。とはいえ、約3〜5時間の滞空性能は、約12時間の滞空性能を誇る「CH-3A」をはるかに下回っています。[1]

 その結果としてもたらされる航続距離は従来型機とそれほど違わないものとなりましたが、UCAVは頻繁に戦場の上空をパトロールや攻撃可能な標的を索敵するために飛び回り続けるため、確かに「WJ-600A/D」はやや独特でニッチなニーズを満たした機体と言うことができます。

 「WJ-600A/D」はCASIC (中国航天科工集团有限公司)「HW-600 "スカイホーク"(WJ-600)」の発展型であり、偵察任務と対地攻撃任務の双方を実施できる能力を有しています。

 トルクメニスタンがパレードで公開した機体では見られませんでしたが、このUCAVには胴体下部にFLIR(前方監視型赤外線装置)が搭載されています。

 このUCAVに採用されたデザインを考慮すると、探知されることを避けるために速度と小型巡航ミサイルのような低RCS(レーダー反射断面積)を活用し、敵地の奥深くで攻撃任務を行うことに重点を置いたものに見えます。

 UCAVの「CH」シリーズと「翼竜」シリーズをそれぞれ開発しているCASCとCAIGの成功のおかげで、CASICはほとんど影に隠れた存在のままとなっています。トルクメニスタンへの「WJ-600A/D」の販売がCASIが成功した唯一知られている輸出実績ですが、最終的に何機を販売できたのかは知られていません。

 2018年、CASICはジェットエンジンを搭載した「WJ-700」UCAVを発表しました。同機は「WJ-600A/D」の高速性能と低RCSをより従来型機的なデザインに組み合わせたものであり、素晴らしいペイロードを誇っています。



 「WJ-600A/D」は最大で2発の「CM-502KG」空対地ミサイル(AGM)で武装させることができます。このミサイルは「AR-1B/AR-2」の長射程及び高威力化を図った発展型であり、11kgの弾頭と最大有効射程が25kmの性能を有しています。

 「WJ-600A/D」には別の兵装もインテグレートできる可能性はありますが、トルクメニスタンが「CM-502KG」以外の兵装を導入したか否かは現時点では不明です。より小型の「AR-1」はトルクメニスタンで運用されている「CH-3A」のみならず「WJ-600A/D」にも搭載できることは言うまでもないでしょう。




 トルクメニスタンで運用されている、補助推進ロケットを用いたもう1つの中国製UAVは「S300」シリーズ無人標的機です(注:似た名前の「S-300」地対空ミサイルシステムと混同しないでください)。

 「S300」は2010年代半ばに同じサプライヤー(中国)から調達した「FM-90」「KS-1A」「FD-2000」地対空ミサイルシステムの標的用として、「ASN-9」と共に大量に導入されました。

 トルクメニスタンにおける運用では、「S300」と「ASN-9」はいまだに僅かに運用が続けられているソ連時代の「La-17」無人標的機の後継機種として活用されているようです。ちなみに、「La-17」もRATOブースターで発射される方式の無人機でした(ブースターは前述の無人機と異なり、両主翼の付け根に装備されていました)。

トルクメニスタンの防空演習で発射される直前の「S300」

「WJ-600A/D」が射出された瞬間

 当初、トルクメニスタンは中国製の「WJ-600A/D」と「CH-3A」やベラルーシの「ブセル-MB2」を当てにして武装UAVの戦力を構築していましたが、最近ではイスラエルやトルコにも目を向けてUCAVを追加購入し始めています。[2] [3]

 トルコとの取引については、UAVの運用を念頭に置いて特別に設計された、この地域では初となる空軍基地の建設も含まれていました。[2]

 これらの調達のおかげで同国が中国製のUCAVをさらに導入することについて、当分の間は起こりそうにないことは間違いないと思われます。

 それでも、「WJ-600A/D」は現在の世の中に存在している最も独特な戦闘ドローンの1つとして今後も運用され続け、トルクメニスタンに多くの国々には真似できない特殊な戦力をもたらすことでしょう。



[1] CASIC WJ-600 Reconnaissance Strike UAV https://www.militarydrones.org.cn/casic-wj-600-uav-price-china-manufacturer-procurement-portal-p00172p1.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2022年10月8日土曜日

輸出成功への第一歩:トルクメニスタンに採用されたセルビアの「ラザー3」歩兵戦闘車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは、世界各国から導入した多種多様な装甲戦闘車(AFV)から構成される戦力を保有しています。興味深いことに、これらの導入の多くは実際に正真正銘の軍事的に必要とされる装備を充実させるというよりも、特定の国との関係を強化する意図から行われているようです。

 この「武器の買収を通じた友好」政策は、ますます複雑化する兵站システムに負担をもたらしており、今やトルクメニスタンの歩兵機動車(IMV)だけのために10数カ国からスペアパーツを調達しなければならなくなったのです!

 最近のAFVのサプライヤーの1つはセルビアであり、2021年にトルクメニスタンへ詳細不明の数の8x8「ラザー3」歩兵戦闘車(IFV)を供給しました。

 トルクメニスタンが膨大な数のIMV群を保有しているのと同様に、「ラザー3」の導入もセルビアとの政治的な結びつきを強化するための試みである可能性があります。なぜならば、トルクメニスタンはすでに同種の装甲兵員輸送車(APC)やIFVを複数保有しているからです。この中には「BTR-80A」 IFVや大量の「BTR-70」と「BTR-80」 APCが含まれており、その多くは最近にウクライナとトルコによってアップグレードされました。[1] [2]

 トルクメニスタンの「ラザー3」には、12.7mm重機関銃を備えた遠隔操作式銃架(RWS)やセルビア国産の砲塔ではなく、通常は「BTR-80A」に搭載されているロシアの「MB2」外装式砲塔(30mm機関砲)が装備されています。この砲塔を装備したことによって、「ラザー3」は実質的にはAPCではなくIFVとなりました(注:本来、「ラザー3」はAPCに分類されています)。

 車体のエンブレムやデジタル迷彩パターンに用いられている色が示しているとおり、このIFVは予想に反してトルクメニスタン陸軍ではなく国家保安省で運用が開始されました。



 トルクメニスタンによる「ラザー3」の導入が最初に報じられたのは2021年初頭のことでした。[3]

 しかし、「ラザー3」を本当に調達したという証拠が最初に公開されたのは、2021年9月に行われたトルクメニスタン独立30周年記念パレードに2台が登場した際のことでした。つまり、調達情報がリリースされてから数ヶ月以上の時間がかかってようやく事実が確認されたということです。[4]

 トルクメニスタンが導入した正確な数は現在時点では不明のままです。「MB2」砲塔を装備している以外でトルクメニスタンの「ラザー3」で判明していることは、国家保安省に納入された最初のIFVということだけです(ちなみに、同IFVは8人の兵員とその装備を収容することが可能です)。

 また、国家保安省が新たに導入した別の車両には、イスラエルのプラサン「ストームライダ」IMVがあります。[3]

 さらに、2021年にはイヴェコ「LMV(Light Multirole Vehicle)」IMVもこの機関に導入されたことが確認されました。[5]

 そして同省ではユーロコプタ「EC145」とロビンソン「R44」ヘリコプターも多数運用しており、大規模な装備調達の流れが近いうち減速する兆候は見られません。

 トルクメニスタンの国境警備隊や内務省も同様に、膨大な量の重火器や航空機、さらには艦艇も運用しています。

1台のイヴェコ「LMV」と複数のプラサン「ストームライダー」の後に2台の「ラザー3」が続く(トルクメニスタン独立30周年記念パレードにて)

 「ラザー3」はセルビアの「ユーゴインポート SDPR」によって設計・開発されたAFVファミリーの最新型です。この車両は幅広いミッションに対応可能なAPCやIFV、そして装甲救急車両として設計されたものであり、「RALAS」長距離多目的ミサイルを8発搭載したバージョンさえ存在します。

 (トルクメニスタン以外で)「ラザー3」を導入しているのはセルビアだけであり、陸軍の歩兵大隊と国家憲兵隊用に数十台程度の車両が調達されました。これらには「MB2-03」30mm機関砲塔か12.7mm重機関銃装備型RWSが搭載されています。

 また、セルビアは独自に設計した「ケルベル」20mm機関砲装備型RWSとロシアの「32V01」30mm機関砲装備型 RWSも新たに調達した「ラザー3」へ搭載しました。[6]

 最近になって潜在的な顧客に売り込み始めた別の兵装システムは、「M53/59 "プラガ" 」30mm機関砲2門と「ノヴァ」対戦車ミサイル4発を搭載しています(下の画像)

 通常、「ラザー3」には車体側面の片側に5個の銃眼が設けられていますが、搭載する砲塔の種類によって4個しか銃眼が存在しないタイプもあります(後者はトルクメニスタンの車両に当てはまります)。



 現在、セルビアの武器産業は多数の高度な各種装備を売り込んでいます。それにもかかわらず、実際の輸出は今まで主に小火器と「B-52 "ノーラ" 」自走榴弾砲に限られていましたが、トルクメニスタンへの「ラザー3」の販売は注目すべき例外となります。

 これらが導入された理由がセルビアとの関係強化のためなのか、それとも国家保安省が実際に必要としていたからなのかは不明ですが、最終的にはたいした問題ではありません。「ラザー3」と新型の「ラザンスキー8x8」IFVの継続的な発展と開発を進めれば、今回の取引に支えられてすぐに全く新しい顧客を引き寄せる可能性があります(注:トルクメニスタンの導入に注目して他国が追随して導入する可能性があるということ)。

 そして、場合によっては – 再びトルクメニスタンがそれらを最初に導入するかもしれません。



[1] https://i.postimg.cc/hjSY43j5/u1.jpg
[2] https://i.postimg.cc/C1LvpBry/688.jpg
[3] Набавка нових "Лазара 3" за Војску Србије, вредност уговора 3,7 милијарди динара https://www.rts.rs/page/stories/ci/story/124/drustvo/4301968/lazar-vojska-nabavka.html
[4] Snaps From Ashgabat: Turkmenistan’s 2021 Military Parade https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/snaps-from-ashgabat-turkmenistans-2021.html
[5] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[6] Partner 2021: Serbia integrates Russian unmanned weapon stations on Lazar III A1 ACVs https://www.janes.com/defence-news/land-forces/latest/partner-2021-serbia-integrates-russian-unmanned-weapon-stations-on-lazar-iii-a1-acvs

※  当記事は、2021年12月1日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。

2022年10月4日火曜日

ニューフェイス:トルクメニスタンが新たに導入した「バイラクタルTB2」を公開した


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo 

 トルクメニスタンが持つ軍事力の最新の公開は独立30周年を記念した軍事パレードという形で行われ、豪華な行進、乗馬隊や装甲戦闘車両の列など、中央アジアの隔絶された国として海外のウォッチャーに期待されるようになった特色が再び披露されました。

 また、2021年のパレードでは、新たに導入したトルコの無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」も初公開されました。トルクメニスタンによるTB2の調達は、今や悪名高くなった相次ぐ兵器の導入の中でも最も新しいものです。

 実際、直近でTB2を導入したモロッコを含めると、「バイラクタルTB2」は現在までに運用国の数を踏まえると最も商業的に成功しているUCAVです。

 直接的な(中国の)競合機種である「翼竜Ⅰ/Ⅱ」と「CH」シリーズUCAVはその低いコストとアメリカや欧州諸国が一般的に課す利用制限がないため、すぐに国際的な人気を博し、結果的にトルクメニスタンも2016年と2017年に複数の中国製ドローンを導入しました。

 しかし、中国製UCAVの性能には不十分な点が多く、ヨルダンは「CH-4B」を購入してから2年足らずで全機を売りに出してしまいました。[1]

 イラクでの同型機も同じようなもので、導入した20機のうちの8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために現在も格納庫で放置され続けています(注:2022年8月に最初の「CH-4B」が運用に復帰したと報じられました)。 [2]

 トルクメニスタンが中国製の「CH-3A」「WJ-600A/D」 UCAVを運用している際に同じ問題に遭遇し、最終的にはよりコストパフォーマンスに優れた代替機としてトルコから「バイラクタルTB2」を導入するに至ったとは考えられないことではありません。


  トルクメニスタンのTB2には、カナダの「MX-15D」やトルコのアセルサン社の「CATS」FLIRシステムではなく、ドイツ・ヘンゾルト社の「アルゴス-II HDT」 電子光学/赤外線・FLIRシステムが装備されています。TB2が採用しているモジュラー方式はいくつかの異なる種類のFLIRシステムを搭載することを可能にしており、この特徴がTB2の商業的成功に大きく貢献した可能性があります。

 トルクメニスタンのTB2には以前のバージョンよりも多くの改良が加えられています。例えば、機体上部の対妨害装置と思われる物体や夜間運用のための2基目の尾翼搭載カメラの追加などがあります。

パレードに登場した3機のTB2のうちの1機。主翼に搭載されている「MAM-C」と「MAM-L」誘導爆弾に注目。

 トルクメニスタンは歴史的に中国やイタリアU(C)AVを首都アシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地で運用してきましたが、「バイラクタルTB2」はUAVの運用を念頭に置いて新たに建設された空軍基地を拠点にするようです。 

 アシガバートの北に位置するこの小さな空軍基地は、2021年2月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領がこの地を訪れた際にはまだ建設中でした。当時、この国を注意深く観察していたウォッチャー(どうやら私たちだけだったかもしれませんが)は、すでにこの空軍基地でまもなく運用されることになるドローンの種類を初めて垣間見ることができていたのです。

右下にある格納庫の内部図にある6機の「バイラクタルTB2」に注目。

 公式には「無人航空機センター」と呼ばれているこの基地は(この類のものでは)この地域では初めてのものであり、トルクメニスタンがUAVとその効果的な運用に高い価値を置いていることを明確に示しています。

 2015年8月にオープンしたこのセンターでは今までに数種類の小型ドローンの製造と組み立てに携わっており、最近の拡張事業ではUAV専用の滑走路を1本備えた小さな飛行場と共にに格納庫などUAVの運用に必要な全てのインフラが整備されました。

 名目上は「無人航空機センター」の工場部分は内務省の管理下にあるものの、「バイラクタルTB2」は内務省航空隊ではなく空軍の仲間入りをすることが予想されます。

 トルクメニスタン政府の多くの省庁は独自の航空アセットを保有しており、現在の内務省はロシア製「Mi-17」、ユーロコプター「AS365」と「EC145」ヘリコプターと数機のキャバロン・オートジャイロを運用しています。


 

 「バイラクタルTB2」の低コスト、高い稼働率、安全性に関する記録、そして優れたアフターサービスの確立は、国際的な成功に不可欠な手法であることがすぐに証明されています。そのような要素に実績のある戦闘ステータスと迅速に生産を増強できる能力を組み合わせたものが、実質的にTB2を同クラスのUCAVの世界市場を席捲する態勢を整えさせ、その過程でドローン戦がより広範囲にわたって展開される時代の到来を告げる大いなる嵐にしているのです。 

 トルクメニスタンの次にTB2を導入するのはどの国でしょうか?

[1] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[2] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[3] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads

※  当記事は2021年9月27日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの         です。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

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