2022年5月18日水曜日

未来戦に備えよ:トルコが無人機による空戦技術の礎を築くための手法



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 「息子よ、聞きなさい - 君たちは偉大で立派に教育を受けた子供たちだが、外国のメーカーは君たちが手の届かないレベルにあるという事実を受け入れなさい。」(2000年代半ば、トルコ国防産業局の官僚が、現「バイカル・テクノロジー」社の最高技術責任者であるセルチュク・バイラクタル及びCEOであるハルク・バイラクタル兄弟に向けて発した一言)※「バイカル」社はあの「バイラクタルTB2」のメーカーです。

 無人航空機(UAV)の未来が議論されるたびに、いつの日か従来の戦闘機を時代遅れにする可能性がある技術的進歩として、他の航空機との交戦や撃墜できるUAVの能力が頻繁に言及されています。

 それにもかかわらず、そのような未来の実現に向けた実際の歩みは苦痛なほど遅いものでした。

 広く普及している議論の中では、戦闘用UAVの性能が、現実世界の能力よりはるかに先を行っていると考えられがちです。しかし、ロシアといった世界有数の兵器大国でさえ依然として国産の無人戦闘航空機(UCAV)飛行隊を生み出すことに苦労しており、ましてや近い将来に機敏な無人のドッグファイターを誕生させることが机上の空論なのは言うまでもありません。

 アメリカと中国は共にUCAVに短距離空対空ミサイル(AAM)を搭載する試験を行っており、前者は2017年の演習で、それを用いて別のドローンの撃墜に成功するまでに至っています。しかし、この演習でAAMの発射母体として使用された「MQ-9 "リーパー"」は比較的低速な機体であるため、おそらく誰もが思い描くような俊敏な戦闘機の機動性を欠いていることは火を見るよりも明らかです。[2]

 このような無人戦闘機を開発しようとするプロジェクト群は未だに計画段階で固まったままであり、ほとんどの設計案が生産に移行することは起こりえないでしょう。

 それでも、いつか無人戦闘機が有人戦闘機から空を奪取する日が来るであろうことは否定できません。

 無人戦闘機開発の最前線に立つことが見込まれている世界の超大国とは別に、近い将来における無人戦闘機技術の実用化に向けて、今や大躍進を遂げつつある別の国があります...トルコです。

 同国が進めている 「MİUS(ミウス:戦闘無人航空システム)」無人戦闘機計画では、2023年に実機が初の試験飛行を行う予定となっています(注:これは2022年春に「バイラクタル・クズルエルマ」という名称と完成待ちの機体が公開されました)。

 この超音速戦闘ドローンは、 精密爆撃、ドッグファイト、敵防空網の制圧などを遂行するために設計されたものであり、トルコ軍に斬新な能力をもたらすことになるこの開発は、当記事冒頭の引用文に対する激しい反証であることを示しています。

「ミウス」こと「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘機

 トルコは「アクンジュ」や「クズルエルマ」といった無人戦闘機の開発に加え、いつかそれらの後継機を設計したり、先端技術を特徴とするその他の分野において働くであろう優秀な人材の確保にも入念に注意を払っています。

 この国は、世界でも類を見ない規模で、子どもたちや若者の間でテクノロジー分野のあらゆるものに対する関心を高めることを通じて、その目標を達成することを試みています。

 これを成し遂げようとする方法の1つとしては、毎年開催される「テクノフェスト」などのハイテク関連のイベントが挙げられます。

 「テクノフェスト」を純粋な航空ショーや軍事的な性格だけのイベントと誤解することは許されますが、実際のところ、このイベントはAIを活用した農業プロジェクトから電気自動車の設計までのあらゆるものを含む、30以上の技術コンペが開催されるテクノロジーの祭典なのです。

 前述のような熱狂が伴った非常に多くのコンテストで特に目立つのは、固定翼機と回転翼機による戦闘UAVの競技会と言っても差し支えないでしょう。競技は、異なるタイプのUAVが想定された空戦シナリオの中で、敵UAVに狙われることを阻みながらドッグファイトを行って制空権を争うものです。

イスタンブール上空で繰り広げられる無人機によるドッグファイト(テクノフェストにて)

 当然ながら、この競技でUAVから敵UAVに向けて実弾が発射されることはありませんが、その代わりとして、各UAVは胴体に搭載されたカメラを用いて相手の「ロックオン」を試みます。「ロックオン」するために使用されるカメラは、UAVの前方視界が得られる位置と角度に固定されています。

 敵UAVを最も多く「ロックオン」した一方で、可能な限り敵の「ロックオン」から回避することに成功した人が、この競技の勝者となります。したがって、実際の「撃墜」は物理的ではなく、バーチャルに行われます。

 ルールは至ってシンプルで、試合も実際の空戦の初歩的なシミュレーションにすぎませんが、このようなコンペは、まさに国の優れた若者の間で情熱の炎を燃え立たせるために必要なものなのです。

 その一方で、こうしたイベントは競技の参加者たちに、いつの日か高度なUAVの生産を可能にする関連ハイテク分野に携わるために必要な、知識の最初の基礎的な要素を提供します。[3]

 これらのコンペの参加者には、多くの高校生や大学生が含まれていることにも注目すべきでしょう。



 バラクタル兄弟と2人の父であるオズデミル氏が、仮に国防産業局の官僚のアドバイスを受け入れていたら、「ミウス」プロジェクトが進められているどころか「バイラクタル・アクンジュ」が空を飛ぶこともなかったでしょう(注:もちろん、あの「TB2」も存在しなかった世界になっていたはずです)。

 トルコの防衛産業が敗北主義という遅効性の毒に強く蝕まれていた時代に、自身のプロジェクトの開発に着手した彼らの奮闘は、いつか新しい世代が彼らの仕事を受け継ぐ道を開きました。

 今や賞金や公的な財政支援、大学入学の機会を通じて、新しい世代が自己のスキルや興味を高める機会を与えられているという事実は、将来的に莫大な効果をもたらす可能性があります。



 「国の富は子にあり」というありふれた決まり文句は、まさにそれが真実だからこそ存在しているのではないでしょうか。

 テクノフェストを訪れた人の中には軍用機の展示や見事な航空ショーを長く記憶にとどまっている人もいるでしょうが、真に重要な進歩については、コンペ等でインスピレーションを得た人々の心の中でしっかりと根付いていることがわかるでしょう。

 「バイカル・テクノロジー」社は最先端技術の設計で素晴らしい偉業を成し遂げたことで、国が無制限の研究開発予算を持つ超大国である必要はないことを証明しました。

 同社の創業者であるオズデミル・バイラクタル氏の逝去は、彼からインスピレーションを受けた人々を悲しませるかもしれません。しかし、同社の作業が止まることなく、彼のレガシーと物語は新しい世代の心の中に生き続け、いつの日かトルコ初の真の無人戦闘機という実を結ぶ弾みをもたらすことは間違いないでしょう。

 「私たちの仕事は、我が国がUAV技術の完全に独立したリーダーになるという目標に到達するまで全身全霊で絶え間なく続くでしょう。」(オズデミル・バイラクタル:1949 - ∞)

若き日のオズデミル・バイラクタル氏

[1] SELÇUK BAYRAKTAR - BAYRAKTAR AKINCI TESLİMAT VE MEZUNİYET TÖRENİ KONUŞMASI https://youtu.be/dGETmeQXemc?t=144
[2] Heat-Seeking Missile-Armed MQ-9 Reaper Shot Down Target Drone During Exercise https://www.thedrive.com/the-war-zone/23694/heat-seeking-missile-armed-mq-9-reaper-shot-down-target-drone-during-exercise
[3] Fighter UAV Competition https://teknofest.org/en/yarisma-detaylar-10.html

※  この翻訳元の記事は、2021年10月21日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳した
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
  す。




おすすめの記事

2022年5月15日日曜日

塹壕戦の再考:アルメニアの国産リモート・ウェポン・システム



著:スタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 少ない人口と限られた経済力は、アルメニアが軍事装備の陳腐化に対処し、全く新しい能力を自国の軍隊に導入するための創造的な解決策を考え出す必要に迫られていることを意味しています。

 この状況は長年を通じて非常に活発な研究開発プロジェクトの立ち上げに至りましたが、アルメニアの外ではメディアの注目をほとんど集めていません。

 資金不足のため、そのプロジェクトのほとんどが試作品の域を超えて進行することはありませんでしたが、範囲を限定した(つまり、必要とする財政的な関与が少ない)ものに関しては、通常はより多くの成功を収めました。

 これらの成功したプロジェクトの一つが、照準用スクリーンに接続されたサーマルサイトを用いて隠れながら射撃できるように改修された「PKT」機関銃です。この非常に興味深い装置は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニア軍で使用されたことが初めて目撃され、同軍の陣地を制圧したアゼルバイジャン軍に鹵獲され、詳しく調査されました。[1] [2]

 見た目は粗雑ながらも、意図された役割において有用であるこのシステムは、アルメニアの軍事産業を象徴する適応性を示した明確な一例となっています。

         

 もちろん、第一次世界大戦時のソンムやヴェルダンの塹壕から出てきたものをそのまま現代に適応させたような装置だと言われても、私たちはそれを全く非難することはできません。

 1994年の停戦合意以来、厳しい膠着状態のさなかにあった境界線沿いのアルメニア軍の塹壕は、実際に第一次世界大戦の塹壕を連想させるものでした。アルメニアとアゼルバイジャンの両側が地雷や障害物が散らばった無人地帯の細いラインで隔てられていたのです。

 防御的な砦のネットワークは過去数十年間にわたって全く変化しておらず、大抵の場合、それらは現代的な防御施設というよりは一時的な戦闘用の陣地に似たようなものでした。

 これらの塹壕はあらゆる地上部隊が接近して最終的に制圧する際に立ちはだかる悪夢となる可能性がありますが、上空を旋回しながら自己が搭載する「MAM-L」誘導爆弾や地上の多連装ロケット砲による誘導ロケット弾の標的にする価値がある陣地を慎重に選択することができるアゼルバイジャンの「バイラクタルTB2」ドローンに直面した結果、防衛上の価値が全く無いことが判明しました。

 結果として、大部分の塹壕線や陣地は今まで近くに寄せ付けないはずだった敵が視界に入るずっと前に、この見えない相手に無力化されてしまったのです。

 それでも、小規模な無人戦闘航空機(UCAV)の飛行隊では限られた範囲しかカバーできなかったため、その代わりにいくつかの防衛ラインでは陣地が繰り返しアゼルバイジャン軍の集中砲撃を受け、続いて機械化部隊や歩兵の攻撃に直面しました。

 これらの攻撃は最終的にアルメニア兵を陣地から追い出すことに成功しましたが、ほかの陣地では数日または数週間にわたってアゼルバイジャン軍を抑えることに成功しました。ナゴルノ・カラバフの北部では特にそうであり、山岳地とアルメニア軍の激しい抵抗が、44日間戦争の全期間にわたってアゼルバイジャン軍の前進を阻んだのです。




 このシステムで使用されているのはPKT機関銃であり、これはソ連の戦車やAFVの同軸機銃として搭載するために特別に設計されたPK汎用機関銃の派生型です(そのため、PK-Tankという名前になっています)。

 (電磁式トリガーを用いることによって)最初から遠隔操作で発射できるように設計されていたことから、PKTをリモート・ウェポン・システムという新しい役割のために改造する必要はほとんどありませんでした。

 PKTが持つもう一つの利点は、250発という素晴らしい量の7.62×54mmR弾を収納できる弾倉(弾薬箱)のサイズにあります。追加の弾倉を陣地に持ち込む必要が生じる以前に長時間の連続射撃を可能にするため、予備の弾倉を入れる専用のラックが金属製銃架の右側に溶接されています。

 ちなみに、アルメニアはすでに大量のPKT機関銃を保有していたものの、どうやらすでに使用されていなかったようです。これらのPKTはかつて「BRDM-2」偵察車や「BTR-60」装甲兵員輸送車(APC)に搭載されていたものですが、これらのAFVの大部分が予備役に追いやられて最終的にはアルメニア軍によって退役させらたため、搭載されていた武器は保管状態に置かれました。

 ただし、アルメニア軍はこの潜在的に有用な武器を放置して朽ち果てさせるのではなく、相当な数のPKTをリモート・ウエポン・システム用の銃として採用しました。


 PKTはポールの上に設置された粗末な金属製の構造物に取り付けられており、使用時には機銃を塹壕のすぐ上まで持ち上げ、使用しないときや再装填する必要がある場合には塹壕内に降ろすことができます。

 機関銃手は、システムの左側に備えられたロシアの「インフラテック」社製「IT-615」サーマルサイトとリンクした目の前のモニターを通して狙いを定めます。そして、誰かが照準線上に入ると、機関銃手は武器システムの照準にも使用できる、2本あるハンドルのうち1本のトリガーを押してPKTを射撃します。[3] [4]

 サーマルサイト用のバッテリーと思しき物体が金属製銃架の左側に雑に取り付けられていますが、これは全てのシステムに備えられているわけではないようです。




 アルメニアによって開発された自動式の銃架は、PKT用のシステムだけではありません。 別のプロジェクトでは対地攻撃に転用した高射機関砲の自動化が提唱され、 実際に「ZPU-2」14.5mm高射機関砲をベースにした試作モデルが作られました(PKT機関銃と同様に、ZPU-2もアルメニアでは現役を退いていました)。

 装甲化された目標に対するシステムの攻撃力を高めるために、1門の「SPG-9」73mm 無反動砲(RCL)が副装備として追加されました。この組み合わせは戦車に至るまでのあらゆるAFVに対して致命的な打撃を与える可能性があり、歩兵を乗せたBMP歩兵戦闘車(IFV)がその最適な目標となると思われます。

 完全に遠隔操作され、サーマルサイトで照準を合わせるこのシステムで人の手を必要とするのは、SPG-9を撃つたびに砲弾を装填することと、ZPU-2が2つの大きな弾倉に収納された2400発の機関砲弾を撃ち尽くした後に弾薬を装填することだけでした。

 しかし、この一見して使えそうなシステムもほかの多くのアルメニア独自の軍事プロジェクトと同様に、予算不足がそれ以上の開発と最終的な軍隊への導入を妨げたようです。




 一方、PKT用システムのコンセプトをより発展させたものも開発されており、エレバンで開催された武器展示会「ArmHiTec 2018」で初めて公開されました。[5]

 この箱型システムの機銃手は地下のバンカーの安全な環境の中で座りながら射撃できるため、このタイプのPKTはようやく真の遠隔操作式機関銃と呼べるものとなりました。当然ながら、この時点でも予算不足がこの有望な兵器システムの導入を不可能にしたようです。

 このシステム唯一の真の欠点は、比較的小さな弾倉が空になった後に毎回手動で再装填する必要があることです。箱型システムの場所によっては、その行為が危険な試みになる可能性があります。継続しての使用でシステムへ装填するために、アルメニア兵が必然的に敵の視界に入る高い位置へ上る必要があるからです。

 使用されている弾倉には最大で150発の7.62mm弾が装弾されている可能性が高いですが、毎分750発という発射速度を考慮すると、怒りに任せて射撃するとすぐに弾切れになってしまうおそれがあります。



 アルメニアのPKTシステムは、最終的には(塹壕ではなく)空で決した戦争の流れを変えることはできませんでしたが、限られた手段に直面した中で費用対効果の高い創意工夫を具現化した一流の手本であり続けています。

 壊滅的な敗北後に自軍がボロボロになっているため、この国は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で目の当たりにした新しいタイプの戦争と軍事バランスに適した武器を軍に提供するため、このような創意工夫に優れた装備を求める可能性があります。

 十分な資金が供給された場合、アルメニア独自の軍事産業は敵味方問わずに大きな驚きを与え、自国と軍隊を現在直面している不利な状況からゆっくりと回復し始めることができるでしょう。

[1] https://twitter.com/TvIctimai/status/1312037877174480897
[2] https://i.postimg.cc/VNmjFRSH/6jf.png
[3] https://twitter.com/Mukhtarr_MD/status/1357673286704988167
[4] https://twitter.com/neccamc1/status/1362011034891005953
[5] https://twitter.com/Mukhtarr_MD/status/1360539364506402816

※  当記事は、2021年3月2日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。意
  訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所が存在する可能性
    があります。



おすすめの記事

2022年5月11日水曜日

オリックスのハンドブック:ナイジェリアの軍用ドローン(一覧)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 過去10年間、ナイジェリアは外国の企業や機関と共同で数種類のUAVを設計してきました。これらのプロジェクトの大半、特に「Gulma」と「ツァイグミ」は設計に失敗したか、あるいはナイジェリアでの生産に入るにはあまりにも利便性が限られていたようです。

 それにもかかわらず、彼らの存在は自身の設計者たちに無人航空機システムの設計における貴重な経験を提供するものであり、いつの日か本格的なナイジェリア製UAVの設計・製造に活用することができるでしょう。

 2020年の後半には、ナイジェリアがまもなく中国から「翼竜II」を2機、「CH-4B」を4機、「CH-3A」を2機追加で受け取ることが報じられましたが、おそらく後者は2014年に同型機が就役して以来、運用中に失われた機体を置き換えるものだと思われます。[1]

 おそらく最も驚くべきことに、2021年2月にはナイジェリアで1機のUAE製「Yabhon フラッシュ-20」が目撃されました。このモデルについては2016年にナイジェリアが発注したことが最初に報じられましたが、これまでにナイジェリアで運用されている姿が目撃されていなかったものです。[2]

  1. この一覧目的は、ナイジェリアが現時点で保有している無人航空機(UAV)のストックを包括的に分類することにあります。
  2. 一覧を合理化し、不要な混乱を避けるために、ここにはナイジェリアの防衛産業に関連する軍用クラスのUAVかドローンのみを掲載しています。また、ナイジェリア軍によって試験が行われたものの、最終的には導入されなかったUAV(RQ-11「レイブン」シーベル「カムコプターS-100」など)はこのリストに含まれていません。
  3. 1つの名称を持つドローンの派生型が複数ある場合は、そのように追加されます。
  4. 可能な限り、機体名の後に導入や運用が開始された年を記載しています。
  5. 発音や読み方が不明の機体については、英語表記のままにしています。
  6. UAVの名前をクリックするとナイジェリアで運用中の機体の画像を見ることができます。


無人偵察機


無人戦闘航空機


垂直離着陸型無人航空機

訓練用無人航空機
  • Mugin (ドローン操作要員の訓練に使用)
  • Amebo I [2010] (英国のクランフィールド大学と共同で設計されたが、就役せず)
  • Amebo II [2011] (同上)
  • Amebo III [2012] (同上)

[1] Nigerian Air Force getting Wing Loong, CH-3 and CH-4 UAVs https://www.defenceweb.co.za/aerospace/unmanned-aerial-vehicles/nigerian-air-force-getting-wing-loong-ch-3-and-ch-4-uavs/
[2] Nigeria has received Emirati UAVs https://www.defenceweb.co.za/aerospace/unmanned-aerial-vehicles/nigeria-has-received-emirati-uavs/




おすすめの記事

2022年5月7日土曜日

期待以上の応え:オランダがウクライナに供与する砲兵戦力とAFV


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を開始する以前に、同国への多大な軍事支援を約束した最初のヨーロッパ諸国の1つがオランダです。この支援は、タレス製「スクワイア」地上監視レーダー2基、「AN/TPQ-36」対砲レーダー5基、「シーフォックス」自走式機雷処分用弾薬2セット、(対物)狙撃銃100丁とその弾薬3万発、ヘルメット3000個とボディアーマー2000着で構成されていました。[1]

 さらに、侵攻が始まった後には、「スティンガー」携帯式地対空ミサイルシステム50基とミサイル200発、「パンツァーファウスト3」個人携帯式対戦車砲50基とそのロケット弾400発を含む追加支援がすぐに発表されました。[2]

 ほどなくして、オランダの国防相は「作戦上の機密を保護するため、ウクライナへの武器引き渡しに関する詳細な情報をこれ以上は明かさない」旨を公表しました。[3]

 それでも、オランダ国防省は3月31日までに5000万ユーロ(約63億9500万円)以上の武器をウクライナに引き渡したと報告したことを踏まえると、ウクライナへの軍事支援の流れが妨げられることなく続いていることは確実と思われます。[4]

 カイサ・オロングレン国防相は「オランダが軍事支援を継続するにつれて、その量はさらに増加する」旨を述べ、すでにより多くの武器供与が計画中であることを示唆しました。

 オランダの歓迎すべき変化として、同国防相は「ウクライナにロシア軍を阻止するために必要な武器類を提供することについて、金銭は重要な検討課題ではない」とも明言したことが注目されます。[4]

 4月19日、オランダのマルク・ルッテ首相は、ウクライナに対して装甲戦闘車両(AFV)を含む重火器の供与も開始することを公表しました。[5]

 この件は、ルッテ首相とこれまで何度も自国への重火器の供与をヨーロッパ諸国に働きかけてきたゼレンスキー大統領との電話会談の結果として実現したものです。

 アメリカやいくつかの中欧諸国はこの働きかけに十分に応えたものの、スペイン、イタリア、ドイツといった国々はウクライナの窮状をほぼ無視しています。結果としてドイツはこの問題を外交政策的に大失敗させてしまい、ショルツ政権に対する圧力が高まってしまっていることは言うまでもありません。

 オランダは過去20年間に重装備の大部分を整理しており、「レオパルド2A6」戦車、「M270」MLRS、「ゲパルト」自走対空砲などの兵器は予算削減の影響で全てが売却などの処分を受けましたが、オランダ軍は依然として過去20年間に退役した装甲戦闘車両やその他の重火器類のかなりの数を維持し続けています。

 現時点でこれらの大半は国内に多く存在する軍用倉庫に保管されており、海外からの買い手を待ち続けている状態にあります。こうした兵器には、最大で500台の「YPR-765」装甲兵員輸送車や各種AFV、13門の「FH-70」155mm榴弾砲が含まれています。特に後者は2001年から保管状態にありますが、残念ながら今でも買い手が見つかっていません。[6]

 同様に、将来的に「YPR-765」の売却で得られる収益が(2012年以降現役で使用されていないこれらのAPCの)保管費用を上回る可能性はほとんど無きに等しいと思われます。したがって、こうしたデメリットが保管兵器をウクライナへ無償譲渡される道を開くことになるでしょう。

 しかし、自体は驚くべき方向に展開しました。オランダがウクライナにAFVだけでなく、最新で高性能を誇る「パンツァーハウビッツェ2000NL(PzH2000NL)」155m自走榴弾砲(SPG)も多数供与することを実際に検討していると報じられたのです。[7]

 提案された協定の下では、オランダが(6〜8台と思われる)「PzH2000」を供与し、ドイツが自国かポーランドでこの自走砲を使用できるようにウクライナ兵を訓練すると共に必要な砲弾を提供することになっています。

 「PzH2000」は各国からこれまでにウクライナに供与された地上展開型火力支援アセットの中で最も高性能なものであり、その供与はウクライナへの支援に対する本気度を明確に示すものとなります。

 ウクライナの友好国がこれまで供与した兵器の多くは旧式化した兵器か余剰となったストックであるため、この自走砲の供与は、オランダを高度なレベルの支援を約束する意思がある極めて少数の国に昇格させることになるでしょう。

オランダ陸軍の「PzH2000」自走榴弾砲(砲身基部の砲口速度レーダーに注目)

 「PzH2000」はこの地球上で最も高性能な自走榴弾砲の1つであり、生存性・機動性・長射程・高い発射速度といった性能と目標に最大限の効果をもたらす多様な最新型の砲弾を兼ね備えています。

 この自走砲の高度な性能にはMRSI(同時弾着射撃)を用いた攻撃が可能なことが含まれており、これを行う場合、搭載されている自動装填装置は最大で5発の砲弾が同時に弾着するような軌道を描くように適切な装薬を自動で選択する仕組みとなっています。そのような任務をサポートするため、発射された各砲弾の速度を測定して正確な修正射撃を行うことも可能な砲口速度レーダーを砲身基部に備えていることも特徴です。

 精密な誘導打撃を可能にする(この自走砲が使用できる)誘導砲弾は存在するものの、ウクライナがそのような特殊な砲弾を受け取れるかどうかは不明です。しかし、供与予定であるオランダの対砲レーダーが「PzH2000」の有効性に多大な貢献をしてくれるかもしれません。

 「PzH2000」は頑丈なAFVですが、すでに何度もウクライナの砲兵陣地や隠れ家を狙っているロシア軍の(武装)ドローンから守るために、行動時には地対空ミサイルシステムの支援を得ることが理想的といえます(注:航空戦力が優勢な敵を相手にする場合はエアカバーが必須であることは言うまでもないでしょう)。
 
 オランダは陸軍で運用していた「M109」自走榴弾砲を更新するために2002年に合計で57台の「PzH2000」を調達しましたが、予算削減が公表された2003年になると、オランダ陸軍には「PzH2000」が39台しか配備されないことが取り決められました。 配備されないことになった残りの18台は、高額のキャンセル料を払う代わりに、製造されてからすぐに売りに出されてしまいました。[8] 

 その翌年、オランダ陸軍は予算削減のせいでさらに24門の「M270」MLRSシステムも退役させなければなりませんでした。

 2007年と2011年の2回にわたる予算削減によって、オランダ陸軍はそれぞれ12台と6台の「PzH2000」を退役させられてしまい、最終的には現役の自走榴弾砲はわずか18台まで減少し、さらに数台が訓練用の車両として用いられるにまで至ったのです。[8]

 しかし、2014に発生したロシアのクリミア占領とドンバス戦争によってもたらされたヨーロッパにおける安全保障の激変は、多くのヨーロッパ諸国に防衛政策の見直しを余儀なくさせました。この状況はオランダでも同様であり、政府はオランダ軍の能力を低下させた20年間にわたる予算削減政策を覆そうと試みています。

 その変化をもたらすために必要な資金がまだ確保されていないにもかかわらず、すでにオランダ国防省は売りに出していた「PzH2000」を中古市場から引き上げています(注:もはやこれらの自走砲を売りに出す余裕が無くなったということ)。[9] 

 ドンバス戦争で砲兵戦力が重要な役割を果たしたことから、今やオランダ陸軍が「PzH2000」を再び重要なアセットとみなすと同時に、多連装ロケット砲の復活も検討していることは大して驚くことではありません。

 幸いなことに、製造直後に売りに出された「PzH2000」の買い手が見つかることは一度もありませんでした。
 
 防衛政策見直しの第1段階として、2007年に段階的に退役させた12台の「PzH2000」を保管庫から出して大規模なオーバーホールを実施しました。このうち6台はオランダ陸軍に再就役して合計で24台のSPGが運用されることになり、残りの6台はすでに運用中であった「PzH2000」を置き換えました(注:置き換えられた側の「PzH2000」は保管状態に移行しました)。[10]

 2026年以降、57台ある「PzH2000」のうち25台が寿命中途近代化改修(MLU)を受けることになっていますが、軍への追加資金が投入可能になれば、この数が増える可能性はあり得ない話ではないと思われます。[11]

 この観点から考えると、少なくとも6台の「PzH2000」がオランダ軍のストックからウクライナに供与されることに対して、ドイツはさらに多くの同型自走榴弾砲を保管していることは、明らかに不可思議に思えます。

 ウクライナに供与されることで生じるオランダの「PzH2000」の不足分は、供与された数だけドイツによって補填される可能性があります。 ウクライナに対する重火器の供与に関するドイツの消極性をオランダが実質的に「PzH2000」を供与することでカバーしていると考えれば、その推測は理にかなっているように思えます。


 おそらくそれほど高度なものではないでしょうが、ウクライナに供与される予定のAFVが「PzH2000」より数多くあることは確実かもしれません。

 ウクライナに供給されるAFVの種類は明らかにされていませんが、 2012年に退役した後もいまだに約500台が保管されているはずの「YPR-765」シリーズであることはほぼ間違いないようです。[12] [13]

 その供与されるグレードについては、7.62mm軽機関銃または12.7mm重機関銃を1門装備したAPC(装甲兵員輸送車)型である可能性が高いと思われます。なぜならば、25mm機関砲を装備したIFV(歩兵戦闘車)型の「YPR-765」 は、すでにその大部分がエジプトとヨルダンに売却済みだからです。

 確かにIFV型より性能は劣りますが、APC型は比較的シンプルな構造であるため、訓練やメンテナンス、ロジスティクス面で心配する必要はほとんどありません。実際、トルコは同じような理由で、軍事作戦の際にシリアやリビア側の部隊に自国の「ACV-AAPC(「YPR-765」 APCの亜種)」を多数供与しています。

 イギリスが「FV103 "スパルタン"」、アメリカが200台の「M113」 APCをそれぞれウクライナへ供与するのと同様に、「YPR-765」APC型は本質的に「戦場のタクシー」です。つまり、装甲防御力よりも良好な機動性と小型化に重点を置き、戦場の往来で歩兵を安全に輸送するためのAFVというわけです。

 オランダの「YPR-765」は「FV103」や「M113」に比べて装甲防御力が僅かに強化されていることに加え、車体後部両側面に大きな収納バスケットが設けられていたり、機関銃手を保護する装甲キューポラも装備しています。

 イギリスから供与される「マスティフ」「ウルフハウンド」といったMRAPと「ハスキー」歩兵機動車に対する上述の装軌式APCの主な長所として、荒れ地やぬかるみを走破できる能力が挙げられます。この能力は、(ウクライナでは「ベズドリージャ」と呼ばれる)「ラスプティツァ」という泥沼状態が容赦なく発生することで悪名高いウクライナ東部の大地できっと役立つことでしょう(注:後日、「YPR-765」がウクライナへ供与されたことが確認されました)。

保管状態にあるオランダの「YPR-765」APC

 これまでのところ、供与で話題となっている砲兵戦力は「PzH2000」だけが関係しているように見えますが、「FH-70」155mm牽引式榴弾砲もストックされているその全量が譲渡されることは間違いないでしょう。

 もともと、この榴弾砲は旧式となった「M114」155mm榴弾砲の改修中にオランダの砲兵戦力を維持するため、1990年に15門を一気に導入されたたものです。これらは2001年まで運用された後に保管状態を経て売りに出されましたが、その当時ですでに比較的古い設計の牽引砲であったこともあって買い手が見つかることはありませんでした。

 「FH-70」は欧米諸国が用いる全ての155mm砲弾を発射可能であり、(砲弾の種類によるものの)24km~30kmの射程と(搭載されたエンジンによって時速20kmで自ら移動可能という)機動性は、現在のウクライナで運用されているほとんどの牽引砲よりも格段に優れています。

 訓練と砲弾は(どちらも「FH-70」を運用中である)エストニアかイタリアによって提供することが可能なため、各国でこの榴弾砲の供与に関する詳細な事項を調整することができるでしょう。

 これらの榴弾砲を供与することについて、 オランダ軍の戦力を損なうことない上に実質的にコストがかからないという事実は確かに喜ばしいことであることには違いないでしょう。

オランダが保管中である13門の「FH-70」155mm牽引式榴弾砲はウクライナへ譲渡可能と思われます

 多くのNATO諸国がウクライナからの重火器提供の呼びかけに応えてきましたが、オランダはその呼びかけをはるかに上回る貢献をしたと言えます。

 そうすることで最も高性能なシステムの一部を供与しただけではなく、隣国の優柔不断さもカバーして、少なくともNATOという同盟におけるドイツ政府の面子を立てることを可能にしたのです。

 したがって、上述のとおりにオランダが供与で生じた「PzH2000」の損失分をドイツから見返りに補填されたとしても、あまり驚くような事柄ではありません。

 ウクライナにとって、「PzH2000」は(特にオランダの対砲レーダーと組み合わせた場合)これまで供与を受けた中で最も高性能な地上配備型の火力支援アセットとなります

 アメリカとカナダの「M777」牽引式榴弾砲、ポーランドとチェコのソ連製自走榴弾砲と多連装ロケット砲、フランスの「カエサル」トラック搭載式砲兵システム、オランダの「PzH2000」、そしておそらく近いうちにベルギーの「M109A4BE」が供与されることで、ウクライナは地球上で最もユニークな砲兵戦力を急速に構築しつつあります。これが、ロシアの好戦性に対するウクライナの主権を支持するNATO加盟国の決意を示していることは誰の目から見ても明らかでしょう。
 
偽装を施された「YPR-765」(「M2」重機関銃にも注目)

[1] Ukraine conflict: Netherlands to supply weapon locating radars to Ukraine https://www.janes.com/defence-news/ukraine-conflict-netherlands-to-supply-weapon-locating-radars-to-ukraine/
[2] Dutch to supply anti-tank, air defence rockets to Ukraine https://www.reuters.com/world/europe/dutch-deliver-200-air-defence-rockets-ukraine-govt-letter-2022-02-26/
[3] Ollongren wil niets kwijt over verdere levering wapens Oekraïne https://www.leidschdagblad.nl/cnt/dmf20220303_37634896
[4] The Netherlands has already supplied over 50 million euros worth of weapons to Ukraine https://nltimes.nl/2022/03/31/netherlands-already-supplied-50-million-euros-worth-weapons-ukraine
[5] https://twitter.com/MinPres/status/1516393082148773892
[6] Defensie verkoopt overtollig materieel https://www.rd.nl/artikel/501829-defensie-verkoopt-overtollig-materieel
[7] Ukraine conflict: European countries supply Kyiv with more weapons https://www.janes.com/defence-news/weapons-headlines/latest/ukraine-conflict-european-countries-supply-kyiv-with-more-weapons
[8] Materieelprojecten Nr. 99 BRIEF VAN DE MINISTER VAN DEFENSIE. Aan de Voorzitter van de Tweede Kamer der Staten-Generaal Den Haag, 17 april 2012 https://zoek.officielebekendmakingen.nl/kst-27830-99.html
[9] Vuursteun Commando https://www.defensie.nl/organisatie/landmacht/eenheden/oocl/vuursteun-commando
[10] https://www.facebook.com/matlogco/posts/2240037096053772
[11] Pantserhouwitser 2000NL https://www.defensie.nl/onderwerpen/materieel/voertuigen/pantserhouwitser-2000nl-pzh2000
[12] Materieelprojectenoverzicht - Prinsjesdag 2013 https://zoek.officielebekendmakingen.nl/blg-251575.pdf
[13] YPR-pantserrupsvoertuig https://www.defensie.nl/onderwerpen/materieel/voertuigen/ypr-pantserrupsvoertuigen

※  当記事は、2022年4月25日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


おすすめの記事