2023年1月13日金曜日

ベルディムハメドフの荒鷲:トルクメニスタンのイタリア製「ファルコXN」UAV

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンはイタリア製品:軍備や(そして特に)大理石の主要な買い手です。首都であるアシガバートは白い大理石で作られた建造物の密度が世界で最も高い都市としてギネスブックに認定されており、「ホワイト・シティ」というニックネームが付けられています。[1]

 この国のイタリア製品に対する愛着は軍隊の保有装備にも持ち込まれており、近年では戦闘機、装甲車両、そして対艦ミサイルといったあらゆる装備がイタリアから調達されています。[2] [3] 

 イタリアの「ARX-160」はトルクメニスタン軍の主力小銃でもあり、2021年に実施された独立記念日の軍事パレードでは、イタリアからの武器の調達が依然として盛んに行われていることが示されました。[4]

 約10年前、「セレックスES」社によって設計されたイタリアの「ファルコXN」無人航空機(UAV)は、トルクメニスタンが初めて導入したイタリア製兵器類の1つでした(注:「セレックスES」社は後に「レオナルド」社に統合されました)。[5] [6]

 また、「ファルコ」は同国初の大型UAVでもあり、同国軍ですでに運用されていたイスラエルの「オービター2B」「スカイラーク」といった多数の小型軽量型UAVの能力をもカバーしました。

 「ファルコ」は同クラスの無人機としては初めて中央アジア地域で運用が開始された最初の機体となりましたが、数年後に中国からの「翼竜Ⅰ」「CH-3A」、そして「WJ-600A/D」無人戦闘航空機(UCAV)の納入によって非常に目立たない存在にさせられてしまいました。

 トルクメニスタンが導入したイタリア製UAVの数は3機と少数であり、軍事演習で撮影された映像も極めて少ないことから、同国における「ファルコXN」の運用状況はほとんど知られていません。毎年恒例の軍事パレードに登場していることを除けば、このUAVはたった一度しか目撃されていません。

 それでも、「ファルコ」が僅かに登場した数秒の映像は、同機がアシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることを把握するには十分なものでした。この映像では、2013年にアシガバート郊外に建立された馬の地上絵の上を「ファルコ」が飛行している様子を観ることができました(下の画像)。

「タマム」FLIR装置を搭載したトルクメニスタンの「ファルコ」UAVがアク・テペ・ベズメイン空軍基地近くにある巨大な馬の地上絵の上空を飛行している様子。左上に滑走路の端が見えることに注目。

 「ファルコ」UAVは、パキスタン、バングラデシュ、サウジアラビア、ヨルダン、そしてトルクメニスタンで使用されており、リビアへも複数のシステムを販売する予定でしたが、2011年にリビアのカダフィ体制崩壊によって契約自体も瓦解してしまいました。

 このUAVシステムは最大上昇限度が5,000mで、最大で14時間の滞空性能を誇ります。

 製造元である「セレックスES」社は「ファルコ」にインテグレートするための多数のセンサー類も売り込んでおり、それらには3種類のFLIR(前方監視型赤外線)装置、マルチモード監視レーダー、「PicoSAR」または「オスプレイ」マルチモードAESAレーダー(後者はポーランドが「バイラクタルTB2」用に導入)が含まれています。[7]

 また、「ファルコ」は「SAGE」電波探知装置を搭載することも可能ですが、似たような見た目の中国製「CH-3A」とは異なって武装を搭載することはできません。[7]

 トルクメニスタンの場合、胴体の下にFLIR装置だけを搭載した純粋な偵察仕様の「ファルコ」を導入したと考えられています。



 「ファルコ」UAVを導入して10年後、トルクメニスタンは自国の空軍を強化するために再びイタリアへ目を向けました。

 2020年5月、イタリア上院は、トルクメニスタンが2019年に4機のM-346FA(戦闘攻撃機型)と2機のM-346FT(訓練機型)を2億931万ユーロ(約388億円)で発注したことを明らかにしました。[8]

 また、トルクメニスタンは2機の「C-27J NG」輸送機もイタリアから調達しました。 [9]

 ブラジルから5機の「A-29B "スーパーツカノ"」軽攻撃機を調達したことに加えてこれらのイタリア機を導入したことは、トルクメニスタンによる軍を近代化するという試みが決して形だけの努力ではないことを示しています。実際、今やトルクメニスタン空軍はこの地域で最も高度な戦闘機とU(C)AVを運用している空軍となっています。[10]

6機編隊でフライパスを披露するトルクメニスタンの「M-346」

「An-74TK-200」に先導されてフライパスを披露する2機の「 C-27J NG」(2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードにて)

 「ファルコ」の武装搭載型や「P.1HH "ハンマーヘッド"」 MALE型UASを含むほかのイタリア製無人機の設計・開発が事実上停止しているため(「ファルコ・エクスプローラー」ISR機の場合、目新しい機能は全くありません)、ほかのイタリア製UAVがトルクメニスタン軍に就役するチャンスはほとんど無いでしょう。

 その代わり、近年のトルクメニスタンは無人機を中国、イスラエル、トルコから調達していることから、今後はより多くの無人機戦力を得るために後者の2カ国に依存する可能性があります。

 いつの日か、そのような新型無人機が「ファルコ」を置き換えることになることについては疑う余地がありません。その日が来るまで、「ファルコ」UAVは(おそらく)導入されることが想定外だった運用国で、忠実に任務を果たし続けるでしょう。



[1] Turkmenistan's Capital Named World's 'White-Marble' City https://www.rferl.org/a/turkmenistan-marble-record-architecture/24998685.html
[2] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[3] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[4] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html
[5] Italia: ecco le armi esportate da Berlusconi a dittatori e regimi autoritari https://www.unimondo.org/Notizie/Italia-ecco-le-armi-esportate-da-Berlusconi-a-dittatori-e-regimi-autoritari-135097
[6] L’export armato italiano ai regimi dell’ex URSS Intervista a Giorgio Beretta https://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/L-export-armato-italiano-ai-regimi-dell-ex-URSS-Intervista-a-Giorgio-Beretta-b0a850b2-32fd-457e-b715-9f43da2b047e.html?refresh_ce
[7] Diminutive Falco UAV is first to carry both video and radar https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2009-11-12/diminutive-falco-uav-first-carry-both-video-and-radar
[8] Turkmenistan's air force operating new M-346FA, C-27J, and A-29 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/turkmenistans-air-force-operating-new-m-346fa-c-27j-and-a-29-aircraft
[9] Italian Allure - Turkmenistan’s M-346 Combat Jets https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/italian-allure-turkmenistans-m-346.html
[10] Turkmen Tucanos: Turkmenistan Unveils A-29B Attack Aircraft https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/turkmen-tucanos-turkmenistan-unveils.html

※  当記事は、2021年12月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2023年1月9日月曜日

地域での成功の鍵:インドネシアが「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」を購入に目を向ける


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 最近のトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)が中央アジアで輸出を成功させた後、今度はアフリカにおけるトルコ製ドローンの拡散が注目を集めています。[1] 

 チュニジアは「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UASを発注した一方、モロッコとリビア、ニジェール、ナイジェリア、エチオピア、ルワンダ、トーゴ、そしてマリは「バイラクタルTB2」を調達しました(注:ニジェールにTB2が納入されたかは未確認)。それらに加えて、アンゴラ、モザンビークといった他のサハラ以南のアフリカ諸国では、TB2の導入を示唆しているか、すでに発注している状態にあります。[2] 

 TB2は間違いなく、信頼性と手頃な価格を兼ね備えながらも戦場で圧倒的な効果を発揮できた最初のUCAVであるため、 (前述した国以外の)サハラ以南のアフリカ諸国がこのUCAVの導入の流れに続くことはほぼ確実でしょう。
 
 アナリストや無人機ファンが次のTB2輸出に関するニュースを待望している間にも、すでにより多くの国がトルコ製無人機を導入するための行列に加わりつつあります。

 トルコの軍事関連メディア「サヴンマTR」のインタビューにて、駐トルコのインドネシア大使であるラルー・ムハンマド・イクバル氏が「インドネシアはトルコからUAVを入手する可能性について検討している」と明かした上で、「トルコがUAVを供給するだけでなく、将来的にさまざまなタイプのUAVび関する技術移転やプログラムにも参加する」こともインドネシアが願っていると語りました。さらに同大使は「私たちはトルコがこの件(注:UCAV)で世界中で話題になっていることを誇りに思います」とも言及しています。[3]
 
 そして、2022年11月に開催された「インドゥ・ディフェンス2022」でジェーンズと話した情報筋は、さらに「バイカル・テクノロジー」社が「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」に関してインドネシア政府と交渉中であることを確認したと語りました。[4]
 
 現時点で、東南アジアでUCAVを保有している国は比較的少数にとどまっています。これまでにUCAVを導入したのはインドネシアとミャンマーだけであり、近年ではタイとベトナムが国産の武装無人機を開発中です。[5] [6] [7]

  マレーシアは近い将来に3機の「TAI」製「アンカ」中高度・長時間滞空型(MALE)UAVを導入する予定です。[8] 同国はまだ武装無人機を追い求めてはいませんが、将来のいずれかの時点で「アンカ」を武装化を図る可能性がゼロとは言えないようです。

 インドネシアは、2019年以降に中国から導入した6機の「CH-4B」UCAVを運用しています。このUCAVは、「TAI」と「PTDI」によって売り込まれたトルコの「アンカ-S」と「翼竜Ⅰ」との競争を勝ち抜いて選定・導入されたものです。同国の「CH-4B」は空対地ミサイル(AGM)で武装可能であり、通信中継あるいは通信情報収集(COMINT)ポッドを装備している姿も目撃されたことがあります。[9] 

 また、インドネシアでは「PT・ディルガンタラ・インドネシア(PTDI)」 によって国産UCAV計画も進められました。「エラン・ヒタム(黒鷲)」という名前で知られているこの計画について、実際に運用可能なシステムが誕生するまでには数年はかかると思われましたがが、技術的な問題に直面して2022年9月に中止となってしまいました。[10]

 トルコの無人機、それもほぼ間違いなく「バイカル・テクノロジー」社が設計した機体に関心を示したということは、インドネシアが「CH-4B」飛行隊を補完するために「バイラクタルTB2」のような追加のUCAVか全く新しい能力を提供する無人機(またはその両方)の導入に目を向けていることを示唆していることは明らかです。

 インドネシアが当初から運用ドクトリンの構築とMALE型UCAVの使用に関する操作員の訓練を目的として「CH-4B」を取得したことを踏まえると、今の時点で同UCAVがさらに調達されることは起こりえないでしょう。

 人口の密集地が海によって隔てられているという独自の地理的特性のために、インドネシアは国の防衛に重大な課題を抱えています。

 インドネシア国軍は東西5,150kmに及ぶ17,000もの群島の哨戒任務を負っており、大量の哨戒艇や哨戒機を運用して不法侵入や領海内で発生するあらゆる活動に目を光らせているのです。

 偶然なことに、かつてオランダの植民地軍(KNIL)も、この広大な島々をいかにしてパトロールするのが適切なのかという同じ問題に直面していました。
 
 1930年代後半になると、オランダは現在のインドネシアに相当する「オランダ領東インド諸島(蘭印)」をめぐる安全保障に関する懸念をますます高めていきました。設計と建造に少なくとも10年はかかる大規模な海軍部隊の構築ではなく、王立オランダ領東インド陸軍航空隊はその代わりとして「空中巡洋艦」構想を打ち出したのです。[11]

 この構想は、大量の爆撃機を導入して、あらゆる群島の隅々に前線滑走路の建設を必要とするものでした。日本軍の侵攻部隊(艦隊)が蘭印領の島に接近してくる場合には、大量の爆撃機を想定される戦闘地域に近い滑走路へ展開させることができるというわけです。
 
 この構想を実現させるために、蘭印はアメリカから(マーティン「B-10」の輸出版である)「139WH型」と「166型」爆撃機を合計で121機を導入しました。「B-10」系統の機体は1930年代後半に就役した時点ですでに旧式化していましたが、これらは蘭印が容易に入手できる唯一の機種でした。

 この「空中艦隊」は後に爆弾を搭載可能な「ドルニエ」製「Do-24」飛行艇と「ダグラス」製「A-20 "ボストン"」爆撃機によって増強され、そのうちの6機は日本に陥落される前の蘭印に到着できました。[11] 

 旧式の「B-10」爆撃機シリーズは日本の戦闘機を高速で振り切ったり戦闘で勝てると思われていましたが、その性能はすぐに「A6M(零戦)」といった日本軍の新型戦闘機に追い抜かれてしまいました。それでも、「マーティン」機は日本機に対していくつかの素晴らしい勝利を収めたことから、彼らの導入は本質的に群島防衛のための脅威に通用する唯一の選択肢だったことは間違いありません。

 「空中巡洋艦」のコンセプトは、インドネシアが求める防衛上の要求に応えるために「バイラクタル・アクンジュ」を導入することによって息を吹き返す可能性があります。なぜならば、「アクンジュ」が誇る 7,500kmの航続距離と24時間以上の滞空性能は、同国中央の航空基地を拠点としながらインドネシア群島の隅々までカバーするのに十分すぎるほどであるからです。

 ほかの島にある空港は、前方武器燃料補給地点(FARP)として機能することでUCAVの作戦を支援することが可能です。これによって、各地に展開した「アクンジュ」各機が長時間にわたって燃料や弾薬を搭載していない状態が続くことがないことを保証します。

 さらに、「アクンジュ」は陸・海・(射程は限られるものの)空の目標に対して攻勢的な作戦を実施することを可能にする、275km以上の射程を持つ(対艦)巡航ミサイルや100km以上の射程を誇る視程外空対空ミサイル(BVRAAM)を含むさまざまな種類のスタンドオフ兵器の搭載ができるという特徴があるのです。
 

インドネシアにはUCAVの運用をサポートできる空港や空軍基地が100カ所以上あります

 インドネシアが有人戦闘機を「空中巡洋艦」として用いることについては、その短い滞空時間、(十分な)空中給油機の不足、そして莫大な導入価格によって実現が妨げられています。

 現在、インドネシア空軍(TNI-AU)は30機以上の「F-16」と12機の「Su-30KI」を含む約100機の作戦機を運用しており、先述の主力戦闘機以外の数については、「Su-27」、「T-50」「ホーク200」「EMB 314(スーパーツカノ)」ターボプロップ式軽攻撃機で占められています。

 2021年2月、インドネシア空軍のファジャール・プラセティオ参謀総長は、同国が「F-15EX」とダッソー製「ラファール」を調達する意向であることを明らかにし、それに伴って以前から計画していたSu-35の導入構想は完全に終止符が打たれたようです。[13] 

 また、インドネシアは韓国が進めている「KF-X」戦闘機計画のパートナー国であるため、インドネシア空軍によって実際に「KF-21 "ポラメ"」が導入されることがほぼ確実となっています。[13]

 このような外国産の作戦機と一緒に使用されるのが、さまざまな種類の誘導兵器です。「Su-30KI」は「Kh-31P」対レーダミサイル、「Kh-59M」「Kh-29TE」 TV誘導式空対地ミサイルを運用可能です。「F-16」は(2019年に最大で100発を導入した「JDAM」GPS誘導弾や「AGM-65」空対地ミサイルを運用可能ですが、「T-50」や「ホーク200」にも搭載することができます。そして、インドネシア軍の「CH-4B」は「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを使用しています。

 「AR-1/2」と「AGM-65」以外の誘導兵器は地上部隊への効果的な火力支援をもたらすには相対的に不向きなため、TNI-AUは火力支援では無誘導ロケット弾や各種の無誘導爆弾の使用に頼らざるを得ません。

 インドネシア陸軍(TNI-AD)は最近、対戦車ミサイル(ATGM)を運用可能な攻撃ヘリコプターを導入したものの、現時点でインドネシア全土で使用できる攻撃ヘリは「AH-64E」が8機、「Mi-24」が7機と僅かなものであり、依然として必要な数からはほど遠い状況であることは一目瞭然です。
 

「M117」無誘導爆弾でフル爆装した「F-16」

 インドネシアの広大な範囲と島の数が非常に多いため、航空兵力と大砲・多連装ロケット砲(MRL)との相乗効果が発揮される可能性は限定されています。群島周辺における大分部の軍事作戦では地上ベースの火力支援アセットに期待することが厳しいことを踏まえると、航空戦力はインドネシアが戦うあらゆる戦闘において、極めて重要なファクターなのです。

 したがって、重量級のペイロードを長距離輸送可能なプラットフォームは、非常に貴重なアセットとなります。 

 「アクンジュ」は主翼と胴体下部に合計で9基のハードポイントを備えています。特に後者はUCAVへの搭載が可能な兵装の中で最重量級のものを搭載することが可能であり、具体的には重量900kgの「HGK-84」誘導爆弾と射程275km以上を誇る「SOM」巡航ミサイルの搭載が挙げられます。
 
 「アクンジュ」が他のUCAVと異なるのは、将来的に本格的な空対空ミサイル(AAM)運用能力が備わるという点にあります。このUCAVは自身のAESAレーダーで遠距離にいる標的の位置を特定し、「スングル」携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、「ボズドアン」赤外線誘導式AAM、100km以上の射程を持つ「ゴクドアン」目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)で攻撃することが可能となるのです。

 「アクンジュ」の実現可能な武装パッケージは、精密誘導ミサイルと爆弾による長距離打撃能力と共に18発以上の「MAM-L」誘導爆弾の搭載を実現するため、同機を地上部隊への航空支援を供するのに最適なアセットにしています。[15] 

 「アクンジュ」はTNIに長距離攻撃能力を提供する一方で、小型の「バイラクタルTB2」には衛星通信アンテナ(SATCOM)を搭載するオプションがあり、それが適用された機体の航続範囲は27時間という長時間の滞空時間だけが制約となります(SATCOM未装備の機体の作戦可能範囲は僅か約300kmです)。[16]
 

 駐トルコインドネシア大使のラルー・ムハンマド・イクバル氏はトルコに対して、「将来的に、さまざまな種類のUAVに関する技術移転やプログラムにも参加してほしい」という自国の希望を明確に表明しました。[3]
 
 将来的な協力としては、インドネシアにおけるトルコ製無人機の組み立て・整備センターの設立が含まれる可能性が考えられます。
 
 両国の軍事・技術協力の可能性はUAVの分野をはるかに超えています。特に「FNSS」と「PTピンダッド」が共同開発した「カプランMT/ハリマウ」中戦車プロジェクトは、両国が力を合わせれば何ができるのかを示す最適の実例であることは言うまでもないでしょう。[17]

 さらに、すでに「PTDI」と「TAI」が「N-219」と「N-245」ターボプロップ旅客機で協力を進めている間の2021年の後半には、トルコからの海軍艦艇の調達について交渉が始まったことが明らかにされました。[18] [19] 


 2012年の時点でも、トルコは依然として自国の需要に合わせるためにアメリカから武装ドローンを積極的に調達しようと試みていました。[20] 

 それから僅か10年でトルコ製のUCAVを発注した国は(当記事執筆時点の2022年11月時点で)27か国となり、そのうち24か国が「バイカル・テクノロジー」社にUAVを発注しています。[21][22]

 トルコは自身が無限の研究開発予算を持つ超大国でなくても、先端技術分野の開発で素晴らしい偉業を成し遂げられることを証明しました。インドネシアが「バイカル」社や「TAI」からUAVを導入するか否かにかかわらず、トルコ製ドローンがインドネシアの軍事力において決定的な役割を果たす可能性があることは間違いないでしょう編訳者注:2023年8月、インドネシアが「アンカ-S」12機を調達する契約を交わし、2025年11月までに納入される旨が報じられました
 
インドネシアが導入するTAIの「アンカ-S」UCAV(画像はトルコ軍機)

[1] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[2] Taking Africa By Storm: Niger Acquires The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/taking-africa-by-storm-niger-acquires.html
[3] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[4] Indo Defence 2022: Baykar in talks with Indonesian government on Bayraktar TB2, Akinci UAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indo-defence-2022-baykar-in-talks-with-indonesian-government-on-bayraktar-tb2-akinci-uavs
[5] Thai UAV Surprises at Singapore Show https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2020-02-12/thai-uav-surprises-singapore-show
[6] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[7] Red Star Rising - Vietnam’s Armed Drone Project https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/red-star-rising-vietnams-armed-drone.html
[8] Malaysia Signs Contract with TAI for 3 ANKA Drones https://www.overtdefense.com/2022/10/11/malaysia-signs-contract-with-tai-for-3-anka-drones/
[9] Auguring The Future: Indonesia’s CH-4B UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/roars-over-riau-indonesias-ch-4b-ucavs.html
[10] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[11] Indonesia suspends Black Eagle MALE UAV programme https://www.shephardmedia.com/news/air-warfare/indonesia-suspends-black-eagle-male-uav-programme/
[12] 40 jaar luchtvaart in Indië by Gerard Casius and Thijs Postma
[13] Indonesia definitively closes the door on Su-35; wants Rafale and F-15EX https://www.aviacionline.com/2021/12/indonesia-definitively-closes-the-door-on-su-35-wants-rafale-and-f-15ex/
[14] South Korea rolls out first KFX jet prototype. Will Indonesia still reap benefits from it? https://www.thejakartapost.com/news/2021/04/16/south-korea-rolls-out-first-kfx-jet-prototype-will-indonesia-still-reap-benefits-from-it.html
[15] Endless Possibilities - The Bayraktar Akıncı’s Multi-Role Weapons Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/endless-possibilities-bayraktar-akncs.html
[16] Bayraktar TB2 https://www.baykartech.com/en/uav/bayraktar-tb2/
[17] Ride The Turkish Tiger: Indonesia’s Kaplan MT Tanks https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/ride-turkish-tiger-indonesias-kaplan-mt.html
[18] Market Expansion: Turkey Set To Export Patrol Vessels To Indonesia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/market-expansion-turkey-set-to-export.html
[19] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[20] Turkey hopeful that US will sell it armed drones https://www.theguardian.com/world/2012/may/22/turkey-us-sell-armed-drones
[21] Akıncı TİHA da katıldı, savunma sanayisi ihracatta yüksekten uçuyor https://www.aa.com.tr/tr/ekonomi/akinci-tiha-da-katildi-savunma-sanayisi-ihracatta-yuksekten-ucuyor/2482865
[22] An International Export Success: Global Demand For Bayraktar Drones Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[23]  Indonesia buys Türkiye's Anka drones worth $300M

※  当記事は、2022年11月27日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。

2023年1月6日金曜日

内なる軍隊:チェチェンの治安部隊と軍用車両(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 チェチェンの軍隊はロシア軍にとって不可欠な存在です。この組織は2022年のロシア・ウクライナ戦争で一般的に「前線の火消し部隊(Fuerwehr Der Front)」と称されて攻撃を主導し、ロシアの防衛線の穴を塞ぐ役割を果たしています。しかし、戦闘での手柄を撮影してTikTokにアップロードするという一部のチェチェン兵の傾向は、この軍隊に「TikTok旅団」というあまり好ましくない称号をもたらしてしまいました。

 実際のところ、チェチェンの部隊はロシア軍が持つ似たような部隊の大部分よりもうまくやっているように見えます。

 チェチェン共和国が保有する部隊は(ロシア)国家親衛軍の一部です。つまり、同部隊は国内の脅威と戦うための装備をして訓練されていますが、その大半はウクライナでの従来型の戦争を行うために投入されています。

  今日のチェチェン治安部隊(CSF)は、親ロシア派の分離主義指導者で後に大統領となったアフマド・カディロフに忠実な民兵組織を継承したものですが、彼は2004年に暗殺されたため、息子のラムザン・カディロフがその後を継ぎました。ちなみに、CSFはカディロフの権力闘争で殺害されたヤマダエフ兄弟が率いた(現在は解散した)「ヴォストーク大隊」「ザーパド大隊」とは何の関係もありません。

 2006年、カディロフに忠実なチェチェン民兵のほとんどが第141特殊自動車化連隊として内務省に編入され、後にロシア国家親衛軍に移管されました。

 俗に言う「カディロフツィ」は、ラムザン・カディロフ首長率いるチェチェン人部隊を指す言葉です – 名目上はロシア国家親衛軍の指揮下にありますが。

 チェチェン共和国はラムザン・カディロフによって統治されています。彼は頻繁に軍備の視察や写真撮影を行っており、グロズヌイにおける戦勝記念閲兵式でその様子を携帯電話で撮影している姿も見られました。[1]

 ロシアにある別の共和国と比較すると、カディロフの支配下にあるチェチェンは高度な自治権を確立しており、事実上の独自の軍隊を持つ唯一の共和国となっています。

 ロシア国内の敵と戦うという本来の目的に従って、CSFは戦車・大砲・防空システム・航空戦力などの重装備を運用していません(ただし、少なくとも3機のオートジャイロが使用されています)。
 
 CSFは2016年12月以降にシリア各地へ投入されているほか、大規模な集会やグロズヌイでの戦勝記念閲兵式で頻繁に自らの装備を披露しています。[2] [3] [4]

 現在のチェチェンの治安部隊は、アフマド・ハジ・カディロフ名称第141特殊自動車化連隊「北(セーヴェル)」、第249独立特殊自動車化大隊「南(ユーク)」、「アフマト」緊急対応特殊課(SOBR)、「アフマト・グロズヌイ」特別任務機動隊(OMON)、アフマト・アブドゥルハミドヴィッチ・カディロフ名称特別任務民警連隊(PPSN)、制服警官隊で構成されています。

 ウクライナにおけるロシアの戦いを支えるため、2022年6月にはラムザン・カディロフによって「セーヴェル・アフマト(北)」、「ユーグ・アフマト(南)」、「ザーパド・アフマト(西)」、「ヴォストーク・アフマト(東)」の4大隊を追加編成することが発表されました 。[5]

 チェチェン共和国における大部分の部隊の名前の由来となっているカディロフ前大統領は、「アフマト・シラ(意味:アフマトの力)」という鬨の声でもその名を覚えられています。

チェチェン共和国で開発・製造された「チャボルツ-M6」軽攻撃車両(LSV)

 CSFは一般的に国家親衛軍が利用できる最新の装備を運用しており、これには大量のMRAPや歩兵機動車(IMV)、装甲兵員輸送車(APC)だけではなく、歩兵戦闘車も含まれています。

 また、彼らはロシアの他の部隊では運用されていない幅広い種類の車両も入手しています。それらには、少数のカザフスタン製「アルラン」 MRAP(注:南アフリカで設計された「マローダー」の現地生産型)、ヨルダンの「スタリオン II」IMV、イスラエルの「ジバール Mk.2」軽攻撃車両(LSV)などが該当します。

 さらに、CSFはウクライナで鹵獲したいくつかの装甲戦闘車両(AFV)さえも運用しています。これらには、少なくとも3台の「BTR-3」IFV、数台の「ヴァルタ」MRAP、そして数十台の KrAZ「コブラ」や「ノヴァター」、「M1151 “ハンヴィー”」が含まれています。
 
 また、チェチェンの自動車メーカーである「チェチェンアフト」は、CSF向けに「チャボルツ-M3」及び「チャボルツ-M6」LSVを製造しています。このLSVは主にチェチェンの部隊に配備されていますが、一部は別の国家親衛軍部隊にも配備されているようです。[6]

 また、カディロフはCSFがチェチェンで「ブラート"6x6"」 APCを組み立てることに関心を寄せていると公表したものの、ロシア製の試作型がチェチェン側の要求に沿うように多少変更された程度であり、実際の組み立てや 生産は開始されなかったと考えられています。[7]

 CSFは、ボンネットの先端に狼の頭の装飾を付けた「ボルツ」と呼ばれる特別仕様のイヴェコ「LMV」 をいくらか受領しています。

 2022年7月、チェチェンはロシアのレムディーゼル「Z-STS 6x6」APC初の運用者となり、アフマト・カディロフに敬意を表したメーカーによって「アフマト」と命名されました。この月に「アフマト」の第一陣である20台がチェチェンに供給された後にウクライナに送られ、そこでチェチェン部隊で活躍している「アルラン」や「タイフーン」、「パトロール」MRAPの仲間に加わりました。[8]

 「Z-STS "アフマト"」はウクライナでの運用を念頭に置いて特別に開発されたAPCであり、「カマズ-5350 6x6」トラックの車体をベースにしたものです。最初の開発構想からCSFへの最初の納入まで僅か4か月という「アフマト」の開発速度には目を見張るものがあります。[9]

 これらのAPCは、ほかの最新型の(ロシア製)AFVと一緒に、当面の間はチェチェン治安部隊のAFV部隊の主力として活躍し続けることになるでしょう。

チェチェンSOBRで使用されている「BMP-1P」はCSFで運用されている唯一の装軌車両である:「アフマト・カディロフ」の肖像付きの旗に注目

  1. この一覧は現在のチェチェン治安部隊で運用されている全AFVを網羅することを試みたものです。
  2. この一覧は利用できる画像などの視覚的証拠に基づいて確認された車両だけを掲載しています。
  3. AFVの運用者が判明している場合は、名称の後に括弧書きで表示しています(СОБР = SOBR, ОМОН = OMON, ППСН = PPSN, ЮГ =「北」連隊, СЕВЕР =「南」大隊)。
  4. 車両の名前をクリックすると、チェチェンで運用されている当該車両の画像を見ることができます。

歩兵戦闘車 (IFV)
  • BMP-1P [СОБР]
  • BTR-82A [СОБР]
  • BTR-3 [СОБР] (ウクライナで鹵獲され、チェチェンに持ち帰られる)

装甲戦闘車両(AFV)

装甲兵員輸送車 (APC)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

歩兵機動車 (IMV)

軽攻撃車両 (LSV)

装甲強化型車両

(武装) ピックアップ・トラック

トラック


[1] Grozny Chechnya Victory Day Parade 2017 https://youtu.be/rSk2otJK1Z8?t=1827
[2] A War Within a War: Chechnya’s Expanding Role in Syria https://deeply.thenewhumanitarian.org/syria/articles/2017/11/30/a-war-within-a-war-chechnyas-expanding-role-in-syria
[3] Grozny Chechnya Victory Day Parade 2017 https://youtu.be/rSk2otJK1Z8
[4] В Грозном состоялся грандиозный военный парад, посвященный 77-й годовщине Победы в Великой https://youtu.be/g6Gn3L_vU04
[5] https://t.me/RKadyrov_95/2438
[6] Кадыров испытал чеченский броневик "Болат" https://quto.ru/journal/autorambler/kadyrov-ispytal-chechenskiy-bronevik-bolat-06-11-2019.htm
[7] https://twitter.com/RALee85/status/1108154327074590720
[8] Armoured vehicles captured from the Ukrainian army by Chechen fighters. https://youtu.be/ivkJ7wfWcqY
[9] Russia has developed an armored car "Akhmat" inspired by the special operation https://vpk.name/en/613450_russia-has-developed-an-armored-car-akhmat-inspired-by-the-special-operation.html



※  当記事は、2022年11月23日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。