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2024年4月27日土曜日

独創力の勝利:YPGのDIY式装甲兵員輸送車


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2019年9月16日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。 当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 クルド人民防衛隊(YPG)は、シリア北部における紛争地域の至る所で、大規模な数のDIY式装甲戦闘車両(AFV)と装甲を強化したバトル・モンスターを運用していることでよく知られています。

 過去数年間、幅広い種類のAFVや支援車両にこうした改修を施してきたYPGは、今ではこの記事で紹介する「BMB」と呼称される新型の装甲兵員輸送車(APC)を導入することで、自力で正真正銘の装甲車両を製造し始めています。

 この「BMB」が初めて一般の目に晒されたのは、2台がシリア北部でのイスラム国に対する戦勝記念閲兵式の準備中によろよろとカーミシュリーを通って会場へと向かった2019年3月のことでした。

 皮肉なことですが、2台という数はこれまでに製造された車両の傾向からそれほど離れていない可能性があることから、YPGのAFVプロジェクトがDIY的であることを示しています(注:既存の独自型AFVもワンオフ品的な要素が強かったため)。この理由と、公然と通常戦を展開できるテロ国家としてのイスラム国が敗北したため、「BMB」が実戦で活躍する機会は少しもありませんでした。

 カーミシュリーにおける午後の走行で性能があまり見栄えしないものだったことはさておき、このAFVがYPGの機甲戦力不足に対する効果的な解決策なのか、それとも設計図のままにしておくのが最適な答えだったのか、詳細に検証する必要があります。もちろん、YPGの限られた資源と技術力を考慮するのは当然のことではあるものの、YPGの敵が戦場でこうした問題に一種の共感を抱くとは到底考えられません。


 「BMB」自体の歴史と仕様について詳しく触れる前に、YPG(Yekîneyên Parastina Gel=人民防衛隊)の機甲戦力について熟考してみることは有意義なことです。

 シリア内戦に関与する主要な他の勢力と比較すると、(それ自体がシリア民主軍を構成する主要派閥である)YPGは歴史的に見て最も機甲戦力に乏しい勢力です。この戦力ギャップを補うため、YPGはトラクターやトラックをベースにしたDIY式装甲車両の製造に非常に積極的に取り組んだのでした。

 「本物の機甲戦力」について、YPGはシリア・アラブ陸軍(SyAA)が遺棄した装備やイスラム国から鹵獲したものに完全に依存しているのが現状です。「イスラム国」のような勢力がシリア軍の陣地から鹵獲した何百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を収集することに成功した一方、YPGはシリア軍との直接的戦闘を避けることが常だったため、たいていはスクラップのようなAFVでカバーせざるを得ませんでした。

 こんな具合で、YPGは基地のあちこちに遺棄された「BTR-60」や「BRDM-2」といったAFVを複数台も手に入れたのです。しかし、現実的な代替案がないのであれば、これらの遺棄車両でさえ、YPGの下で新たな命を得るために修復されることになるのでした。

 その反対側に位置したのがイスラム国です。彼らはシリア国内だけで200台以上の戦車と約70台のBMPを鹵獲・運用していただけでなく、シリア軍に次いで2番目に多くのAFVを運用しており、その装備の量と質、そして採り入れた戦術において、多くの国家の軍隊ですら凌駕していたのです。

 イスラム国の台頭がシリアとイラクに与えた突如とした戦況の変化はこれに巻き込まれた人々には衝撃的なものであり、兵員や武器、そして(おそらくは)何よりも航空戦力の大量投入によってのみ抑え込むことができる代物でした。YPGがイスラム国に戦いを仕掛けることを可能にさせたのは後者であり、さらにシリア国内でアメリカ軍が運用する火砲や多連装ロケット砲(MRL)からの火力支援も受けました。

 機甲戦力や対戦車ミサイル(ATGM)に関しては全く運用されなかったこともあり、YPGはイスラム国の車両や陣地を破壊するために有志連合軍の航空戦力を頼りにすることが常でした。このことは、イスラム国が運用するAFVがYPG軍に深刻な損害を与える前に撃破されることが頻繁にあったことを意味する一方、有志連合軍機が投下した爆弾などによって大半のAFVが完全に消滅して、その鹵獲やYPG軍での再使用を妨げることも意味しました。


 さて、話題を今回のテーマの車両に戻しましょう。最も特徴なポイントは、「BMP-1」のトーションバー式サスペンションが再利用されている点であることは間違いありません。また、観察力の鋭い読者であれば、「BMB」に取り付けられているお馴染みの「BMP」シリーズの転輪とスプロケットにすでにお気づきのことでしょう。

 「BMP-1」の「UTD-20」エンジンや履帯、ステアリングヨーク(ハンドルとステアリングギヤボックスをつなぐ継手部品)、油圧ショックアブソーバーも「BMB」に搭載されたものの、サスペンションが短くなったため、「BMP-1」とは異なる取り付け方法が必要となりました。

 しかし、「BMP-1」との共通点はここまでです。後部のマッドガードや(燃料タンクを搭載している可能性がある)後部ドアは明らかに「BMP-1」からインスピレーションを得たものですが、上述の流用品以外の部分は独自製作した部品かヘッドライトのような既製品で構成されています。

 結果として出来上がった車両は、「BMP」と「BTR/BRDM」の融合体と言い表すのが一番合っているものでした。最も最終的な形態の「BMB」はユーゴスラビアの「M-60」APCやジョージアの「ラジカ」IFV(そして、いくつかの謎めいたイランのAPC)と明確な類似性を示していますが、YPGが「BMB」のどの部分もこれらの設計をダイレクトにベースにしていないことはほぼ確実であるものの、確かにその最終形態に影響を与えたようです。


 「BMB」の武装については、車内からライフルや軽機関銃を発射可能な銃眼5基に加え、1基の砲塔で構成されています。砲塔は「BTR-60」や「BRDM-2」に搭載されていたものを流用しているようですが、通常はこの砲塔に装備されている14.5mm機関砲を固定する銃架がありません。その代わり、「DShK」(または中国の派生型である「W85」)12.7mm重機関銃か「PK」7.62mm機関銃が、「BMB」の武装で最も可能性の高い候補にさせます(注:砲塔に火器を固定する架台が設けられていないため、上記の重火器を状況に応じて乗せ換えることが可能となるわけです)。

 しかし、下の画像で示唆されているように、「BMB」の一部は「SPG-9」73mm無反動砲(RCL)1門で武装されていた可能性があります。このRCL自体は「BMP-1」の主武装である「2A28 "グロム"」低圧砲と同一に近い派生型です。

 「BMB」が備える装甲の防御力については、小火器の銃弾や 小規模な砲弾・爆弾の破片から乗員を保護するには十分なものでしょう。重機関銃や対物ライフルが数多く登場する紛争では完全に不十分なように見えますが、より優れた「BMP-1」の装甲でさえ12.7mm弾や7.62mm徹甲弾に脆弱なことは過去の紛争で証明されています。

 したがって、乗員の保護力の向上に寄与する可能性が低いため、「BMB」の装甲を追加して得られるような利点は僅かしかありません(注:つまり増加装甲を施しても意味がないというわけです)。

 その代わり、「BMB」は敵からの砲撃を回避するために自身の速度とコンパクトさに依存しています。ただし、道路沿いに仕掛けられた即製爆発装置(IED)を避けるためのオフロード能力はこの車両の弱点です。


 いくつかの画像にはYPGのAFV工房で組み立て中の「BMB」が写っており、このプロジェクトが実際に独自性を有したものであることを明確に示しています。AFVの製造としては若干型破りな方法ですが、シリア内戦に関与しているYPG以外のどの勢力も独自の装軌式AFV製造に成功していないことに注目しなければいけません。

 シリア軍へのロシア製AFVの引渡しと敵対勢力によって鹵獲された数が膨大になったことで、彼らが独自にAFVを製造する必要性が低下したと主張する人もいるかもしれませんが、YPGには製造するための専門知識が実際にあることは明らかでしょう。



 BMP-1のサスペンションの使用はYPG用の装軌式 APCを組み立てるためにおそらく唯一実行しうる方法ですが、オリジナルのエンジンを残しつつサスペンションが大幅に短縮したことで車両の安定性が大きく損なわれています。2008年ロシア・ジョージア戦争をチェックした人ならば、BMPの上に乗ったロシア兵が加速中や減速中に飛び跳ねる映像を覚えていることでしょう。

 実際、閲兵式の映像でも目に付いたように「BMB」の安定性は非常に悪く、ブレーキや加速は乗員にとって不快なものとなるだけではありません。砲手や乗員の戦闘能力にも多大な悪影響を与える可能性があるのです。

 突き詰めると、これは「BMB」の役割を平凡な速力の優れた「戦場のタクシー」か軽装甲の移動式トーチカに格下げするものです。ちなみに、YPGが保有するアメリカから供与されたMRAPの大部分は「BMB」よりはるかに優れた性能を発揮できます。

前面装甲板上の牽引装置に注目

 「BMB」の派生型(下の画像)は先に紹介した個体と酷似していますが、いくつかの大きな違いがあります。最も注目すべき点は、転輪を僅か4個しか備えていることです。これは、共食い用の部品から作られたDIY式APCのコンセプトをさらに一歩進めたものと言えます。さらに、「BTR/BRDM」にインスパイアされた密閉式砲塔は、より大型の火砲を搭載可能なキューポラ付きの無蓋式に変更されました。
 
 この個体が存在する唯一の要因は「十分な数の転輪がなかった」可能性が高かったことが挙げられます。おそらく、製造に用いられた"ドナー"の「BMP-1」があまりにもひどく損傷していたために再利用できなかったのでしょう。

 当然ながら、オリジナルの個体を悩ませていた問題は小型版にも引き継がれ、結果としてさらに悪化する可能性は高くなると思われます。


 YPGのAFVの多くがシリア北部の乾燥した低木地帯に最適化された精巧な迷彩パターンを採用しているのに対し、「BMB」はシンプルな砂漠パターンを採用しています。

 イスラム国が通常戦を遂行可能な勢力として再浮上する可能性は極めて低いことを踏まえると、このプロジェクトは、イスラム国ではなくシリア軍との武力衝突に備えてYPGが保有するAFVのストックを拡大するために意図されたものと考えるのが妥当でしょう。

 下の画像の撮影時期は不明ですが、「BMB」の前面に設けられた2個のフックの一つはすでに破損しており、もう一つはひどく損傷しているように見えます。この結果の原因が何であれ、その "強度 "は牽引中の「BMB」の重量に耐えられず、実際に車体へ装備させるには無駄なものとなった可能性が高いと思われます。

 これは車両全体の品質が低レベルと言っているのではありませんが、 (YPGにとって特に痛手となるだろう)AFVの喪失と回収の成功との差で最終的に功を奏する可能性がある重要な部分に、細心の注意が払われていることがよく分かります(注:回収が考慮されていなかった場合、フックは装着されなかったでしょう)。

 注目すべき点は、「BMB」の運転手は車両を安定して走行させるのが非常に難しいということです。窓が小さく、運転席上のハッチを閉めた際に用いる視界確保用のペリスコープが設けられていないため、運転席の右側に大きな死角があることは言うまでもありません。

 また、別の個体に装備された前面装甲板上の牽引装置にも注目してください。これは他のどの車両にも取り付けられていないようです。

 「BMB」と車体と履帯の間に十分なスペースが設けられていませんが、これは小さな岩などが間に挟まってサスペンションを損傷したり履帯が転輪から外れる危険性があります。


 内部を撮影した画像はコンポーネントが粗雑に溶接された状況をはっきり示しており、この車両のDIY性を強調しています。運転手はエンジンの真左に座り、(部品取り用の「BMP-1」から引き継いだ)ステアリングヨークを使って「BMB」の不安定なパフォーマンス特性をコントロールする構造です。

 また、窓も銃眼も一直線上に位置していないように見えることにも注目です。これは非常にDIY的なものに見えるものの、特に問題はなさそうように見えます。

 内部の全体的な様相はベーシックと表現するにふさわしく、各種の装置や部品がただでさえ窮屈な車内のスペースをさらに狭くしています。

 確認された3台の「BMB」のうち少なくとも2台に砲塔が追加されたことより、歩兵輸送能力がさらに低下してしまいました。というのも、通常ならば乗員の1人が使うスペースを砲手(機銃手)が占領してしまうためです。結果として、兵員区画の大きさは4、5人の兵士が座るには十分だと思われますが、乗員の快適性を犠牲にすれば、この数を増やすことも可能でしょう。

 予想されていたとおり、「BMB」には「BMP-1」には存在する歩兵区画を縦に二分する主燃料タンクが設けられていません。つまり、モデルとなった車両と比較すると行動半径が著しく狭まっている可能性が高いと思われます。

 砲塔の軽または重機関銃に加えて、「BMB」の火力は5つの銃眼(基本型では左側面に3基、右側面に2基)によってさらに強化されています。この原始的な銃眼はハンドルで開閉可能であり、どうやら独自設計のようです。(左側面に3つ:うち1つは運転席用、右側面に2つ設け得られた)5つの防弾窓も車両に完備されています。



 「BMB」に設けられたもう一つの興味深い特徴は、車内全体に発泡体が入った内張が施されたことです。不安定な車両に乗車中のクルーに対する快適性を向上させることは確かであるものの、敵の射撃を受けた際に火災の危険が生じるリスクもあります。

 これらの画像が撮影された時点では(まだ)存在していませんが、兵員区画に取っ手やシートベルトを追加すれば、兵士が車内で跳ね回る事態を十分に防止できるでしょう。DIY式AFVにシートベルトを装備するのは珍しい選択のように思えるでしょうが、AFVにこうした安全装置を備えるするのはYPGが初めてではありません。実際、(イスラム国戦闘員である)アブ・ハジャールとその仲間たちが乗った装甲強化型「M1114 "ハンヴィー"」には、乗員の安全性を高めるために、このような安全装置がいくつか装備されていました


 「BMB」は確かに独自でAPCを製造するという興味深い試みではあるものの、その設計に内在する欠点は戦場に投入された際に大きな制限要因となる可能性が高いでしょう。

 しかしながら、乏しいAFVのストックを増やす機会が極めて少ないため、こうしたDIY式APCの製造はYPG自身のためにやらなければならないことです。したがって、「BMB」が将来のプロジェクトを立案するための貴重な経験を開発者たちに提供することは間違いありません。

 事実、このAPCの重要性はその性能にあるのではなく、むしろYPGによって(しかも)限られた資源で独自に製作された点にあります。YPGの独創性のおかげで、近い将来、シリア北部からさらに多くのDIY式兵器のプロジェクトが生まれることは確実でしょう。

この記事の終わりに、画像と追加情報を提供してくれたWoofers氏に感謝を申し上げます。


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2024年2月12日月曜日

忘れ去られた原点:トルコの 「ジェマル・トゥラル」装甲兵員輸送車

撮影:アルペル・アカクラタ氏

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ  in collaboration with アルペル・アカクラタ(編訳:Tarao Goo)

 近年のトルコの兵器産業は、さまざまな種類の装輪式や装軌式のAPC(装甲兵員輸送車)を国内外の顧客に売り込んでおり、その多くに遠隔操作式銃架(RWS)や電気式・ハイブリッド式を取り入れた駆動系などが備えられています。

 トルコ産のAPCがジョージア、バーレーン、フィリピン、オマーン、UAE、マレーシアで商業的成功を収めているのは、その高度な機能と実証済みの品質のおかげであることに疑う余地はありません。

 以前、私たちはこのブログでトルコ初(文字どおり国産)のAPCであり、ジョージアに採用された「ヌロル・マキナ」社「エジデル 6x6」を紹介しました。この「エジデル 6x6」自体は立派なAPCですが、厳密に言うと実際にはトルコで誕生した最初のAPCではありません。

 1960年代、トルコは少数の「M24 "チャーフィー"」軽戦車をAPCに改造することに着手しました。

 結果として完成した車両はその設計を命じたジェマル・トゥラル少将(後に大将に昇進)にちなんで命名され、「ジェネラル・ジェマル・トゥラル」APCと呼ばれました。数年以上にわたって運用されたとは考えにくい短命な運用歴の結果として、このAPCはトルコ国外ではほとんど知られていません。

 その捉えどころのなさはさておき、このAPCは何もせずにいれば単に旧式化していたであろう戦車を有益な新しい別種のAFVに転換するという興味深い試みそのものでしょう。

 トルコ軍は1950年代前半にアメリカから約250台の「M24 "チャーフィー"」軽戦車を購入したと伝えられています。[1]

 いくつかの国はさらに数十年にわたって現役の戦車として運用し続けましたが、トルコへのアメリカ製AFVの安定供給は「M24」を徐々に減らして長期保管状態にさせ、「M48 "パットン"」といった(少なくとも当時としては)最新の主力戦車に置き換えていくことを可能にさせました。

 その後、余剰となった一部の「M24」をAPCに転用することが決定されました。

 1960年代のトルコは大量のアメリカ製「M59」APCを運用しており、さらに多くの後継車両である「M113」APCの引き渡しさえも受けている過程にありました。[2]

 「第3のAPC」を導入するという決定は不思議に感じますが、より多くのAPCの確保という実際の運用上からの必要性があったというよりは、むしろ国産AFVの設計に関する経験を積む機会という動機づけられたのかもしれません。

 ちなみに、ノルウェーとチリによってアップグレードされた「M24」は1990年代まで現役を続け、ウルグアイはなんと2019年に最後の「M24」を退役させたばかりなのです! [3]

 APCに改造するために、「M24」から砲塔とその内部にある75mm砲が撤去され、車体後部に装甲キャビンが追加されました。結果として設けられた兵員用区画は、10人の兵員と2人の乗員の合計で12人が乗車するには十分な大きさだったと云われています。

 追加された箱型の装甲キャビンには、前方に「M2HB」12.7mm重機関銃をピントルマウントに装備した機関銃手用の席、そして後部に2つのハッチが設けられており、歩兵はそこから(1つか2つのハッチを通じて)降車する仕組みとなっていました。

 これらの改造によって本来の性能がどの程度変化したのかは不明ですが、M24本来の航続距離160km、速度56km/hについては、軽量化のおかげで向上したか、そうでなくとも維持されたと思われます。

 副武装として「M24」戦車時代から車体前方に装備されていた「M1919」7.62mm機関銃1丁はそのまま残されていたことから、「M2HB」重機関銃1門しかを装備していなかった「M113」よりも「ジェマル・トゥラル」の方が実は武装面で優れていたことになります。

 新たにサイドスカートや泥よけが装備されたことは、このAPCが本格的なAFVを製造するための真剣な取り組みでなかったとしても、それに劣らない設計がなされていたことを示しています。

 残念ながら、「ジェラル・トゥマル」APCの運用歴は極めて短いものであり、すでに70年代初頭には退役しています。もちろん、たくさんの使える「M113」があるので、この判断はむしろ当然なものでした。なぜならば、複数の同カテゴリーのAFVを同時に運用した場合、兵站、保守、運用が複雑になってしまうからです。

 幸いなことに、スクラップ処分から逃れた1台の「ジェラル・トゥマル」APCは今でもアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館に保存されています。


 このAPCの名前の由来となったジェマル・トゥラル少将は、1966年から1969年までトルコ軍の司令官を務めました。トルコ軍における機械化用兵の偉大な提唱者とも云われるジェラル・トゥマル少将は、トルコでのAFVの生産や改修に個人的な関心を寄せていたに違いありません。[4]

 トゥラル氏は政治でのキャリアを試みる前の1969年に退官しました。その後、1976年に駐韓国大使、1981年に駐パキスタン大使を務め、同年にイスタンブールでこの世を去りました。

複数の「M113」の前で行進している「ジェラル・トゥマル」APC。さらに後方の「M48 "パットン"」戦車と集合住宅に掲げられたムスタファ・ケマル・アタテュルクの肖像画にも注目。

 前述のとおり、1台の「ジェラル・トゥマル」APCがアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館で生き残っています。ここでは、訪問者にこれまでに大いに見落とされてきた過去に試みられたトルコの防衛プロジェクトを思い出させてくれますが、それらは今や非常に成功を収めているトルコの防衛産業が誕生する先駆けとなる存在でもあることを見落としてはならないでしょう。

 トルコのAPCやほかのAFVの設計がようやく軌道に乗るまでに、そこから数十年を要したことは周知のとおりです。これらのAFVは今やトルコのみならず多数の外国で運用されており、ジェマル・トゥラル氏が残念ながら夢にも思わなかったであろうキャリアを歩み始めています。

バーレーン陸軍で運用されているトルコの「オトカ」社製「アルマ 6x6」APC

[1] Based on data obtained by Alper Akkurt.
[2] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[3] M24 Chaffee in Uruguayan service https://tanks-encyclopedia.com/m24ur/
[4] Turkish APC based on the M24 tank https://www.secretprojects.co.uk/threads/turkish-apc-based-on-the-m24-tank.4591/

この記事の作成にあたり、 Arda Mevlutoglu氏と Secret Projects氏に感謝を申し上げます。

2024年1月31日水曜日

ビジョン2030:国産UCAVの開発を推進するサウジアラビア(一覧など)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 無人戦闘航空機(UCAV)の調達に関して、サウジアラビア(KSA)は中国にその大半を依存してきました。このことは、KSAが2010年代半ばから後半にかけて「翼竜Ⅰ」や「翼竜Ⅱ」、「CH-4B」を大量に導入したことに表れています。

 これらの中国製UCAVは、2015年3月のサウジアラビア主導のイエメン介入開始以来、すでにイエメン上空に投入されている数種類の南アフリカやイタリア、ドイツ製無人偵察機を補完するものでした。[1] 

 2019年になると、サウジアラビアはトルコの「レンタテク」社製「カライェル-SU」UCAVを導入し、保有するドローン兵器群をさらに増強しました。この同型機は「ハブーブ」のという名前で近いうちにKSA国内で生産される予定です。[2] 

 サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として2030年までに防衛支出額の少なくとも50%を現地調達に充てることを目指しており、防衛企業が兵器類の現地生産ラインを構築するための刺激材料となっています。
 
 現在、サウジアラビアは海外の企業や科学者たちと協力して、さらに数種類のUCAVを開発しています。それらの最初の1機である「サクル-1」は、南アフリカの「デネル・ダイナミクス」社によって開発された「バトルゥール」中高度長時間滞空(MALE)型UAVの設計をベースにしています。より小型の「スカイガード」は、2017年に初めて発表された国産機です。

 「サムーン」と呼称される7つのハードポイントを持つ大型の双発機のほかに、サウジアラビアは中国と契約を結んで、双発または三発機の「TB001」重UCAVを「アル・イカーブ-1」及び「アル・イカーブ-2」として開発しています。[3] [4]

 ちなみにウクライナとUAVを共同設計・生産する計画もありましたが、ウクライナ戦争のせいでキャンセルされたようです。[5]
 
 中国の「腾盾」が開発した巨大な「TB001」は、主翼下部に設けられた4つのハードポイントに、さまざまな誘導爆弾や空対地ミサイル(AGM)、対艦ミサイル、巡航ミサイルで武装することが可能となっています。

 「アル・イカーブ-1」は三基のエンジンを備えた異例の三発機であることが特徴であり、「アル・イカーブ-2」はその双発機型です。

 「TB001」については2019年に契約が発表されたものの、その開発は長引いており、 サウジアラビアが自国の防衛面での需要を満たすために、このプロジェクトを依然として積極的に推進しているかどうかは今でも不明のままとなっています。

提案されている双胴機「アル・イカーブ-1/2(TB001)」:2019年に契約が締結されたものの、同機をめぐるプログラムの現状は不明のままです

 国産機を開発している間に、サウジアラビアと「中国航空宇宙科学技術公司(CASC)」がKSA国内に生産ラインと地区整備センターを設立して、最終的に今後10年間で約300機もの「CH-4B」を大量生産する可能性についての関する報道が2017年から飛び交っています(現在の統計を前提とした場合、これが実現するとKSAが世界最大のUCAV運用国となるでしょう)。[6]

 なお、このような合意が成立したのか、または計画されたのかすら不明であり、この記事を執筆している2022年9月時点では実現されていないようです。

 おそらくは中国製UCAVの稼働率や運用実績が乏しいためか、サウジアラビアはすでに少なくとも2017年からUCAVの調達先としてトルコに目を向けるようになっています。

 当初は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVに関心を寄せていましたが、最終的にKSAは2010年代後半に「ヴェステル(注:軍事部門はその後「レンタテク」に社名を変更)」社と数量不明の「カライェル-SU」について契約を結びました。[7] [2] 

 これらはほぼ即座にイエメンでの作戦に投入され、現時点で4機が失われたことが視覚的に確認されました。[1]

 「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」社による「カライェル-SU」の国内生産はCOVID-19の影響を受けて1年半遅れたものの、2022年半ばに開始される予定です。[4] 
国内生産は「レンタテク」が重要なコンポーネントを供給し、サウジアラビアで組み立てられる方式となっています。[2]

サウジアラビアにおける「カライェル-SU "ハブーブ"」:同機は「MAM-C/L」やほかの小型爆弾を搭載可能なハードポイントを4つ備えています

 「カライェル-SU」の国内生産は、「サクル-1」プロジェクトにとって"とどめの一撃"となるかもしれません。

 少なくとも2012年からアメリカに拠点を置く「UAVOS」社と「キング・アブドルアジーズ科学技術都市(KACST)」で共同開発が進められてきた「サクル-1」は数多くの修正がなされ、2020年に公開された最新型の「サクル-1C」までプロジェクトが進んでいます。

 しかし、これらはどれも実用化されておらず、より小型の「サクル-2」と「サクル-4」も実機の生産までには至っていません。[8] 

 最大で48時間という目を見張るような滞空時間を誇りますが、「サクル-1」は兵装搭載用のハードポイントを2つしか備えていないため、UCAVとしての有用性は著しく制限されたものとなります(注:「CH-4B」や「TB2」のハードポイントは4つ)。

 「イントラ」社が現在開発中である「サムーン」が「サクル-1」の代わりにサウジアラビア初の量産型国産UCAV となるのか、あるいは(既存のサウジアラビアの防衛プロジェクトの大部分と同様に)開発サイクルの長期化や内部からの反対、最終的に中止という事態に直面することになるのかは、まだ分かりません。[9] 

 中国製ドローンの高い消耗率と、(おそらく)基本的な整備上の問題にさえ悩まされていることから、サウジアラビア当局が最近公表した高い人気と実績を誇る「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の導入へ関心を示したことについては、一部の人が予想したほどあり得ない動きではないのです。[10]

 これらはサウジアラビアで開発されたものではありませんが、無人機技術への協力、そしておそらくKSAでの「バイカル・テクノロジー」社製品の生産は、同国の新興UAV産業を実質的に有効なレベルまで引き上げるのに役立つ可能性がある貴重な知見をもたらすことになるでしょう(注:2023年8月、サウジアラビア軍事産業:SAMIは「バイカル・テクノロジー」と「アクンジュ」の70パーセントを現地生産する契約を結びました)。

南アフリカの「バトルゥール」MALE型UAVをベースに開発された「サクル-1」

今後登場する「サムーン(1/2サイズのモデル」:このモックアップの主翼に中国製の「ブルーアロー7」と「TL-2」対地攻撃ミサイルが搭載されていることに注目


※ 各UCAVの名称をクリックすると当該機体の画像が表示されます(括弧内の年はプロ
 ジェクトの公表または始動日を指します)。


無人戦闘航空機 - 生産中
  • ハブーブ [2018年 または 2019年] (「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」)

無人戦闘航空機 - 生産予定
  •  アクンジュ [時期未定] (「バイカル・テクノロジー」)

無人戦闘航空機 - 開発中

[1] List Of Coalition UAV Losses During The Yemeni Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/coalition-uav-losses-during-yemeni.html
[2] Saudi Arabia’s Intra Pushes Ahead with Drone Programs https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2022-03-14/saudi-arabias-intra-pushes-ahead-drone-programs
[3] Sino-Saudi heavy unmanned aerial vehicle https://vpk.name/en/487652_sino-saudi-heavy-unmanned-aerial-vehicle.html
[4] https://twitter.com/inter_marium/status/1099657284911841280
[5] It is possible that this joint venture had already effectively ended before the Russian invasion of Ukraine in February 2022.
[6] Saudi Arabia https://drones.rusi.org/countries/saudi-arabia/
[7] Saudis in talks with TAI to buy six Anka turkish drones https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/2017/11/17/saudis-in-talks-with-tai-to-buy-six-anka-turkish-drones/
[8] https://i.postimg.cc/W4My3cMX/18933-2.jpg
[9] Intra’s Samoom: the future Saudi Armed Forces MALE unmanned air system https://www.edrmagazine.eu/intras-samoom-the-future-saudi-armed-forces-male-unmanned-air-system
[10] Saudi GAMI, Baykar and Bayraktar drones https://www.tacticalreport.com/news/article/59638-saudi-gami-baykar-and-bayraktar-drones

 当記事は、2022年9月13日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

2024年1月13日土曜日

南アジアの稲妻:パキスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタンは1990年代後半から豊富なUAVの運用国であり続けています。

 2004年、パキスタン空軍(PAF)は「SATUMA( 偵察及び標的用無人航空機)」社「ジャスース(スパイ)Ⅱ"ブラボー+"」 を導入したことで、空軍がパキスタン軍内で最初にUAVの運用をした軍種となりました。

 PAFに続いて、パキスタン陸軍(PA)はすぐに「グローバル・インダストリアル&ディフェンス・ソリューションズ(GIDS)」社によって設計・開発された「ウカブ(鷲)P1」UAVを導入し、2007年には運用試験を始め、翌2008年に正式な運用に入りました。

 「GIDS」社は「ウカブP2」として知られている「ウカブP1」のさらなる能力向上型を開発し、同機は2010年にパキスタン海軍(PN)に採用されました。

 情報が極めて少ないパキスタンにおけるドイツ製「ルナ」UAVの物語は、2000年代にPAが主要戦術UAVとして「EMT(現ラインメタル)」社製「ルナX-2000」を調達した時点から始まりました。

 PNもこの機種に好印象を持ったようで、2010年ごろから独自の「ルナX-2000」採用計画に着手しましたが、この計画は(おそらく資金不足が原因で)先送りされたようで、その代わりに臨時の措置として国産の「ウカブP2」が採用されました。

 「ウカブP2」が現役から退いた2017年に、PNはついに「X-2000」より長い航続距離と能力が向上した高性能型である「ルナNG」を導入しました。

 まだ「ウカブP2」がPNで現役にあった2016年、長い滑走路なしで離陸可能な戦術UAVの需要は結果としてPNにアメリカから「スキャンイーグル」を導入するに至らせました。

 なぜならば、PNは2008年にオーストリアの「シーベル」社製「カムコプター S-100」のトライアルを実施したことがあったものの制式採用せず、海上での運用に適した無人機システムを長く探し求めていたからです。

 「ボーイング・インシツ」社製「スキャンイーグル」はカタパルトで射出され、スカイフック・システムで回収される仕組みとなっています。これらのシステムのコンパクトなサイズは、「スキャンイーグル」を海軍艦艇のヘリ甲板から運用させることを容易なものにさせていることを意味しています。


 パキスタンは国内に配備されたアメリカ軍の「MQ-1 "プレデター"」無人戦闘航空機(UCAV)によって、武装ドローンの破壊的な能力をダイレクトに目の当たりにしました。

 このUCAVの配備とその後の実戦投入は、PAに強烈な印象を与えたに違いなく、すぐにアメリカから武装ドローンの購入を試みました。特に意外なことでもないでしょうが、この努力が無駄に終わったことは今では周知のとおりです。

 アメリカからUCAVの導入を断られたPAは東の隣国に目を向け、中国製「CH-3A」UCAVの生産ライセンスを取得し、国内で生産された同機種は「ブラク(稲妻)」と呼称されるようになりました。より高性能な無人プラットフォームが登場しているにもかかわらず、「ブラク」は現在でもPAとPAFで現役の座に残り続けています。

 「ブラク」の設計からインスピレーションを受けて、「GIDS」社が設計した改良型が「シャパル-1」です。この無人機システムは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用として、2021年にPAFに採用されました。

 ただし、「シャパル-1」は2021年の共和制記念日における軍事パレードで初めて一般公開された、「シャパル-2」ISR用UAVに取って代わられることになるでしょう。

 この新型機については、その後の2021年半ばに実施されたPAFの演習に参加する姿が目撃されため、すでに運用段階に入ったことが確認されています。「シャパル-2」は主にISRの用途で使用されるものの、最近に発表された武装型はPAFで運用されている「ブラク」を補完したり、その後継機となる可能性が高いと思われます。

武装型「シャパル-2」は2発の誘導爆弾などが搭載可能

中国からの買い物

 2021年、PAは「ブラク」飛行隊を中国製の「CH-4B」UCAVで補完しました。

 その一方、PAFは2016年に「翼竜Ⅰ」UCAVの運用試験を行っていたことが知られていますが、その1機が墜落したことでメディアの注目を集めました。[2]

 しかし、PAFはさらなる「翼竜Ⅰ」を発注することはせずに代わりとして、より優れた打撃能力をもたらす、より重い「翼竜Ⅱ」UCAVを選択しました。その後、2021年にPAFの基地で最初の同型機が目撃されました。[1]

 PNは陸軍の先例に倣って「CH-4B」の採用に落ち着いたようで、大量の同型機が2021年後半にPNに引き渡されました。[1]

 PAFは、自軍で装備するための高高度長時間滞空(HALE)型UAV計画を推めていることが判明しています。

 PAFの傘下にある「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、「CH-4」や「翼竜Ⅰ」級の国産軽量中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを開発していることが知られており、2021年に政府やPAFの関係者がPACを訪問した際にその1機が目撃されています。[3]

 国立工学科学委員会(NESCOM)は、2021年にトルコ航空宇宙産業(TAI)と国内で「アンカ-S」UCAVの部品を製造する契約に調印しました。[4]

 また、国境警備で運用している既存の僅かなUAV飛行隊を補完するために、パキスタン内務省(MOI)も新しいUAVを購入することを望んでいますが、現時点ではどうなるか不透明です。

パキスタン陸軍 (PA)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機
  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも5機を導入しているが、追加発注がある模様)


パキスタン空軍(PAF)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機


パキスタン海軍(PN)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機

  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも4機が導入されたが、未確認)


[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] https://twitter.com/KhalilDewan/status/1465475715567169538
[3] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。



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