2022年1月21日金曜日

勝利の記念碑:「バイラクタルTB2」の全戦果(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ in collaboration with ヤクブ・ヤノフスキ, ダン, COIN

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)は、現代の紛争の戦い方に関する概念を変えました。少なくとも3つの紛争で十分に試行された今となっては、この流れを元に戻すことはできません。

 比較的軽量で安価な無人機が最新の地対空ミサイル(SAM)や電子戦(EW)システムを回避するだけでなく積極的に捜索して破壊できた一方で、その見返りとして僅かしか損失を被らなかったという事実は世界中で注目を集めています。

 TB2が実戦に投入された結果は現状を驚くほどに覆し、多くの国が防空へのアプローチの再考を余儀なくされました。

 一部のオブザーバーたちは、おそらく装備が不足していたアルメニア軍をこき下ろすことによってTB2の並外れた有効性を軽視しようと試みました。 しかし、過去のシリアとリビア、そしてナゴルノ・カラバフでの戦闘で、TB2は現代諸国が有する統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力を示しており、「アフトバザ-M」「レペレント-1」、そして「グローザ-S」のようなEWシステムを併用していた状況でも「ブーク-M2」「トール-M2」「S-300PS」「パーンツィリ-S1」といったSAMとの戦闘に勝利しています。

 最も先進的な国の空軍でさえ敵の空域で任務を遂行することを完全に拒否するように設計されたこれらのシステムに直面したTB2の偉業は、現代戦史における分岐点を記録しました。

 「バイラクタルTB2」の役割は単なるハンターキラーではなく、最終的には戦場を完全に支配する存在にすらなっていました。防空密度が最も高い地域の1つを飛行しながら、どんな地上目標がいる位置にも忍び寄ってそのあらゆる動きを追跡する能力があるTB2は、文字どおり地上目標の直上で旋回しながら、友軍のほかのアセットにその目標への攻撃を指示することができたのです。

 ロケトサン社の「TRLG-230」230mm誘導ロケット弾システムは、レーザー誘導キットを装着することでTB2が指示した目標を攻撃することが可能です。この能力は、TB2に自らが搭載する「MAM-L」「MAM-C」誘導爆弾を使い切った後でも、(友軍に標的をレーザー照射することを通じて)ほかの目撃を攻撃させることを可能にします。

 トルコにとって「バイラクタルTB2」の非常に効率的な使用は、新しい外交政策である「バイラクタル外交」を形づくるための、彼らの増大する外交上の発言力を押し上げることに役立っています。

 この新たな政策は、現代の紛争の特徴に比類なく適した新しいタイプの戦いを本質的に構成します。低い経済的・人道的なコストで政治的・軍事的な影響の最大化を追求した、規模が小さい介入を基本とする「バイラクタル外交」は、国家の運命を決めたと言えるほど効果的なものでした。TB2がなければ、国際的に承認されているリビア政府はリビア国民軍(LNA)に一掃されていたかもしれないし、ナゴルノ・カラバフの大半はいまだにアルメニアの支配下にあった可能性があるからです。


 これらの素晴らしい偉業の背後には、現代の戦争に革命を起こすだけでなく、国の考え方を変え、次世代に成功の足跡をたどる機会を提供しようと試みている企業があります。その試行の過程において「バイラクタル・テクノロジー」社は、高度な無人機を設計するためには、自身が無限の研究開発予算を持つ超大国である必要はないことを証明しました。

 現在、バイカル社は「クズルエルマ」無人戦闘機や「TB3」艦載型UCAVの開発を熱心に推し進めていますが、それはTB2が忘れられたことを意味していません。ほぼ毎日(ソフト等が)更新されていることは、TB2が自らに対抗するためのどんなシステムよりも優位にあることを保証しています。[1]

 2021年には、バイカル社の創業者であるオズデミル・バイラクタル氏「アクンジュ」プロジェクトの実行及び分析チームのリーダーであるタリク・ケゼキ氏が死去しました。

 彼らの死は残された人々に悲しみをもたらすでしょう。しかし、彼らのレガシーが新しい世代の人々の心の中で生き続けるだろうという確信に心の支えを見出すかもしれません。彼らの偉業に触発された人々は、いつか登場する無人機の設計を支える将来の技術者になることにとどまらず、別の技術や科学の分野でもトルコの発展に寄与することでしょう。

 この意味で、バイカル社は単に空だけでなく、海や地上でも国の運命を変えていくのです。


  1. 以下の一覧には、シリア、イラク、ナゴルノ・カラバフ、ウクライナなどで「バイラクタルTB2」によって撃破・破壊されたことが確認されている目標を掲載しています。
  2. この一覧には、画像や映像による視覚的な証拠に基づいて確認された、撃破・破壊された車両や装備のみを掲載しています
  3. ただし、地上で撮影された映像等のみで確認されたものも含まれています。これらのケースでは、武装したドローンに攻撃されたことが現地での目撃者によって報告されたことを根拠としています。したがって、実際に撃破された装備の数が、ここに記録されているよりも多いことは間違いないでしょう。
  4. 兵員、弾薬庫や軍事施設に対する戦果については、このリストに含まれていません。
  5. この一覧は、エビデンスとなる追加の映像等が入手可能になり次第に更新されます。
  6. 各装備名に続く数字をクリックすると、当該車両や装備の画像等が表示されます。
  7. 最終更新日:2023年7月13日(本国版の最終更新は2023年7月12日

旗と国・武装勢力の関係(追記:上の一覧に含まれていない はタジキスタン、 はアンサール はティグレ防衛軍を指す) 


戦車 (134)


装甲戦闘車両(54)


牽引砲 (148)


自走砲 (44)

多連装ロケット砲 (81)



対空砲 (10)
  •  1 ZU-23 23mm対空機関砲 : (1) (2)
  • 7 ZU-23 23mm対空機関砲(トラック搭載型): (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
  • 1 61-K "M-1939" 37mm対空機関砲(トラック搭載型): (1)


自走対空砲 (9)
  • 1 ZSU-23-4 "シルカ" 23mm自走対空砲: (1)
  • 4 ZSU-23-4 "シルカ" 23mm自走対空砲: (1) (2) (3) (4)
  •  2 MT-LB 汎用軽装甲牽引車(「ZU-23」対空機関砲搭載型): (1) (2)
  • 2 ZU-23 23mm対空機関砲(トヨタ車搭載型): (1) (2)


地対空ミサイルシステム (49)


レーダー (9)
  • 2 P-18  "スプーン・レストD" : (1) (2)
  • 1 1S32  "パット・ハンド"  (2K11/SA-4  "クルーグ" 用): (1)
  • 1 1S91 "SURN"  (2K12/SA-6 "クーブ" 用): (1)
  • 1 5N63S "フラップ・リッド"  (S-300用): (1)
  • 1 ST86U/36D6  "ティン・シールド" (S-300用): (1)
  • 1 19J6 (S-300用): (1)
  • 1 SNR-125  "ロー・ブロー"  (S-125/SA-3用): (1)


電子妨害・攪乱または通信システム (3)
  • 1 R-330P "ピラミダ-I" : (1)
  • 1 R-330ZH "ジーテル" 電子戦システム: (1)
  • 1 形式不明の通信車両 (1)


航空機(7)


ヘリコプター(1)
  • 1 Mi-8 "ヒップ" 汎用ヘリコプター: (1)


艦艇 (9)
  •  3 「プロジェクト03160 "ラプター"」級高速戦闘艇: (1) (2) (3)
  • 1 「プロジェクト02510 "BK-16E"」級高速襲撃艇: (1)
  • 1 「プロジェクト11770 "セルナ"」級揚陸艇: (1)
  • 2 形式不明の哨戒艇: (1) (2)
  • 2 密輸用のボート: (1) (2)


軍用物資補給列車(2)
  •  2 燃料タンク車牽引編成: (1) (2)


トラックなどAFV以外の車両 (304)

''私たちは状況を見極め、私たち自身でその責務を果たしました。'' (オズデミル・バイラクタル:1949 - ∞)

[1] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw?t=463

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年1月18日火曜日

「ピース・キーパー」となるか?:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナ東部での紛争地域で分離主義勢力である自称「ドネツク人民共和国(DNR)」の榴弾砲をウクライナがドローン攻撃をしたことは、いくつかの国にドンバス戦争における無人戦闘航空機(UCAV)の使用について懸念を表明させるまでに至りました。[1]

 興味深いことに、懸念を表明したのはドイツやフランスであり、これらの国々にロシアは含まれていませんでした。[2] [3]

 2021年10月26日に実施されたこの攻撃以来、ウクライナとロシアの緊張はここ数年で最も高くなっており、ウクライナとの国境付近に大規模なロシア軍部隊の増強が依然として継続中のため、全面戦争が差し迫っている可能性について懸念を引き起こしています。[4]

 ウクライナは「バイラクタルTB2」を用いて分離主義勢力の「D-30」榴弾砲を無力化したことで、彼らを支援するモスクワへ警鐘を鳴らしたようです。

 ウクライナ東部の分離主義勢力は、現時点で高高度を飛行する「バイラクタルTB2」に効果的に対抗できる地対空ミサイル(SAM)システムを保有していません。

 過去にロシアはウクライナ東部に「トール-M1」「パーンツィリ-S1」、そして「ブーク-M1」を配備することでDNRの防空戦力を増強したことがありますが、これが2014年7月のマレーシア航空17便の撃墜という悲劇につながったため、これらの配備を繰り返す決定が軽視されることはないでしょう。[5]

 現代的なSAMを保有していない分離主義勢力の部隊については、その不足分以上のものをロシア軍が電子戦(EW)装備でカバーしており、「クラスハ-2」「レペレント-1」を含む最先端のEWシステムをウクライナ東部に前身配置させています。[6]

 ただし、これらのシステムはナゴルノ・カラバフにおける戦闘でTB2の運用を妨害できないことを実証したため、同様にこれらがウクライナのいかなる地域を飛ぶTB2に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[7] [8]

 このことは、ウクライナによるTB2の使用が、全面戦争へと激化させる材料となるロシアの防空システムや戦闘機の大規模な投入によってしか阻止できないというきっかけとなる可能性を暗示しています。

 また、これはドンバス戦争におけるTB2の投入が、基本的にロシアによる紛争の深刻な激化という脅威の下での報復攻撃に制限されることも意味しています。この点を考慮すると、ウクライナによるTB2の使用が、実はロシア・ウクライナ間の戦争を安定化させる要素となる可能性があると主張することができます。

 榴弾砲への空爆では人命の損失をもたらさず、ウクライナ軍との砲撃戦に発展する事態を防ぎました。さらに、この空爆は分離主義勢力に対して、今後のいかなる挑発も「バイラクタルTB2」を再度使用する可能性があるという警告として機能し、今後の武力挑発の制限に大きく貢献してくれるかもしれません。

 ドローン攻撃による武力挑発に対する警告は、TB2のオペレーターが陣地に配備された3門の榴弾砲のうち1門だけを攻撃したという事実からも証明されています。この判断は、明らかに分離主義勢力に砲撃を中止させるための相応の警告と考えられます(注:警告でなければ、ウクライナは1門ではなく3門全部を破壊したでしょう)。

 ロシアとの全面戦争が始まることで引き起こされる人道面での大惨事は、ウクライナ側にTB2を(現時点では明らかに検討から外されている)分離主義勢力が支配する地域の奪還や保有する大砲を破壊するための試みといった報復攻撃以上での使用を思いとどまらせるには十分でしょう。

「MAM-C」誘導爆弾によって破壊される直前のDNR軍の「D-30」榴弾砲。空爆を受けなかった別の「D-30」が右下に映っていることに注目。

 ロシアは「このような武器(TB2など)がウクライナ軍に引き渡されることで、交戦ラインの状況が不安定になる可能性がある」旨を主張しています。[9]

 その一方で、トルコは、ウクライナの「バイラクタルTB2」がどのように使われようと責任を負わないという立場をとっています。

 ウクライナへのTB2納入に関するロシアの非難に対して、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣は「もし、とある国家が我々から(兵器を)購入すれば、それはもはやトルコの製品ではありません。それはトルコで製造されたかもしれませんが、ウクライナに属しています。トルコはこれ(使用)について非難することはできないのです」と反論しています。[10]

 トルコ南東部のクルド労働者党(PKK)部隊に使用されることを懸念したアメリカや欧州から武器調達を頻繁に阻止されてきたトルコが、他国に自国製兵器を配備できる・できないといった制限を課す可能性は低いと思われます。

 ロシアは歴史的に地域の不安定な状況を防ぐことに少しも配慮を示したことがありません。実際、ロシアはキプロス(注:キプロス共和国)に「S-300PMU-1」地対空ミサイル(SAM)システムを装備させようとした1990年代後半に、このキプロスにおけるS-300危機の中心にありました。

 トルコが「S-300」を引き渡さないよう嘆願したにもかかわらず、ロシアはキプロスへの売却については何ら干渉を受けることなく進めると繰り返し主張し、キプロスとトルコの間の緊張状態を戦争に差し迫った段階にまで高めてしまったのです(注:キプロス島は国際的に承認された「キプロス共和国」とトルコが支援する「北キプロス・トルコ共和国」の南北に分断されており、武力衝突が頻繁に繰り返されています)。[11]

 ロシアは「S-300」の引き渡しが地域のバランスを大幅に激変させるというトルコの懸念には屈服する意思が全く無いことを示し、最終的にキプロスが島へ「S-300」の配備に反対する決定をしてこの危機が回避されたのでした。

 それから約20年後の2018年、ロシアはイスラエルから「このような兵器の引き渡しは脆弱な地域をさらに不安定にする可能性がある」旨の抗議を受けたにもかかわらず、キプロスと同じ状況下でシリアに「S-300」を引き渡しました。[12]

キプロスに引き渡されるはずだった「S-300PMU-1」中隊は現在ギリシャのクレタ島に配備されています。このSAMはキプロス政府が自国への配備に反対したことを受け、最終的にこの島に行き着きました。

 2019年以降、ウクライナは空軍と海軍航空隊に少なくとも12機の「バイラクタルTB2」を配備していますが、2021年9月には、今後数年で24機のTB2を追加購入する計画であることを明らかにしました。[13][14]

 ウクライナは、有人戦闘機にかかるコストのほんの一部しかかからないUAVに自国軍の近代化を大きく委ねています。空軍の老朽化した作戦機を代替して現実的な抑止力を構築するには、武装したドローンの導入が唯一の現実的な方法と思われ、将来的には「バイラクタルTB2」の追加購入や新型の「アクンジュ」を導入することが予想されます。トルコは、まさにこの点でウクライナを支援する意向があるようです。

 今や差し迫った戦争の話題でもちきりですが、ウクライナ東部での紛争は平和的な手段のみによって現実的に対処できると考えます。しかし、より長期的な平和をもたらす紛争が実際に解決されるにはまだ何年も先のことになる可能性が高く、その間も挑発行為が間違いなく続くでしょう。

 ウクライナによるドローン攻撃の脅威は、分離主義勢力に大砲の使用を含む今後のいかなる武力挑発の実行を思いとどまらせる可能性がある一方で、東部の国境沿いに展開するロシア軍の存在は、ウクライナにTB2を用いた独自の挑発行為を行わせないようにする強い抑止力として機能しています。

 ウクライナとロシアは、本質的にウクライナ東部の状況に関して膠着状態にあります。

 ここ最近の緊張の高まりは戦争の脅威の激化に大いに貢献しており、平和的解決に向けた交渉をより興味深いものにしています。

 一部のアナリストや世界中の紛争ウォッチャーはウクライナ東部でナゴルノ・カラバフのシナリオが繰り返されることを想定しているかもしれませんが、ウクライナを飛ぶ「バイラクタルTB2」の存在は予想とは反対に平和の維持に大きく貢献する可能性があるのです。



[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців https://youtu.be/XEY4qPO1ffU
[2] Ukraine Angers Russia by Buying Turkish Drones and Wants To Get Its Hands On More https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-03/ukraine-buys-more-armed-drones-from-turkey-than-disclosed-and-angers-russia
[3] Ukraine - Q&A - (28 Oct. 2021) https://www.diplomatie.gouv.fr/en/country-files/ukraine/news/article/ukraine-q-a-28-oct-2021
[4] Baptism By Fire - Ukraine’s Bayraktar TB2 See First Use https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/baptism-by-fire-ukraines-bayraktar-tb2.html
[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/
[6] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[7] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[8] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl
[9] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[10] Turkey Says Cannot Be Blamed for Ukraine’s Drone Use https://www.thedefensepost.com/2021/11/01/turkey-ukraine-drone-use/
[11] Cyprus bows to pressure and drops missile plan https://www.theguardian.com/world/1998/dec/30/cyprus
[12] Three Russian S-300PM battalion sets delivered to Syria free of charge — source https://tass.com/defense/1025020
[13] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[14] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs

※  当記事は、2022年1月7日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年1月15日土曜日

パフォーマンス・チェック:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナのトルコ製「バイラクタルTB2」の導入とその後の実戦投入は、ウクライナ東部の分離主義勢力と(DNR:ドネツク人民共和国とLPR:ルガンスク人民共和国に広範囲にわたる軍事支援を提供してきた)ロシアにとって重大な懸念事項となっています。

 ウクライナ東部の分離主義勢力部隊は、ロシアから供与されたかなりの数の対空砲や「9K33 "オーサ-AKM (NATOコード:SA-8)"」「9K35 "ストレラ-10 (SA-13)"」 を含む地対空ミサイルをを運用していますが、これらの大部分は高度約5kmの頭上を飛行する「バイラクタルTB2」のようなUCAVを標的とするための有効射程距離と高度に到達する能力を持っていません。

 しかし、分離主義勢力部隊の防空戦力は短距離SAMシステムだけで構成されていると考えるのは誤りであり、彼らが支配するウクライナ東部には防空戦力のギャップを埋め合わせをするための「クラスハ-2」「レペレント-1」といったロシアの電子戦(EW)システムが多数配備されています。

 ただし、アルメニア軍で運用されていたロシアの最新鋭のEWシステムでさえ、ナゴルノ・カラバフ上空の「バイラクタルTB2」との戦闘で成功を収めなかったことを考えると、現時点でこれらがウクライナ全域におけるTB2の運用に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[2] 

 将来的にウクライナ東部の状況がエスカレートした場合、ロシアは「自国軍のSAM」をこの地域に配備する可能性があります。実際、2014年の時点でロシアはすでにウクライナ軍の「Su-24」と「Su-25」に頻繁に狙われていた分離主義勢力部隊へ「防空の傘」を提供するべく「パーンツィリ-S1」「トール-M1」「ブーク-M1」をウクライナ東部に配備したことがあります。[3]

 これらのSAMは先述の敵機をいくらか撃墜することに成功したものの、そのより高度な最新モデルは、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフにおいてTB2にほとんど無力であることが実証されました。

 したがって、ロシアが直面している課題は、現時点でウクライナ東部に配備されている防空・EWシステムではTB2の運用を阻止できないと思われることだけでなく、より最新のシステムでさえTB2などのUCAVに対抗することが同様に困難である可能性があるということです。

ロシアが供与した9K33/SA-8「オーサ-AKM」(2021年5月、ルガンスクでの軍事パレードにて)

ドネツクの9K35/SA-13「ストレラ-10」 (SA-13) :これも9K33と同様にロシアから供与された

 ロシアはこれ以上なく矛盾した2つの公的な立場をとり続けています。

 一方では、ウクライナへの「バイラクタルTB2」の納入がモスクワを憤激に至らせており、彼らに「このような武装(TB2)をウクライナ軍へ引き渡すことは、潜在的に最前線の状況を不安定にするかもしれない」と主張しています。[4]

 もう一方では、モスクワはTB2の成功を頻繁に軽視しようとしており、ウクライナ東部における分離主義者の支配地域に存在する防空システムでTB2に対抗できると主張しています。[5]

 ロシア国営放送のインタビューで、ロシア航空宇宙軍・対空ミサイル部隊の副司令官であるユーリ・ムラフキン大佐は「バイラクタル(TB2)は、平均的なスキルを持つオペレーターでさえも撃墜することが難しくないほどの速度と質量及び寸法上の特性を持っている」と「バイラクタルTB2」は防空システムにとって実際に撃墜するのが容易な標的であると述べ、彼はシリアとリビアに配備された「パーンツィリ-S1」が40機以上のTB2とTAI「アンカ」を撃墜したとも主張しました(リビアとシリアで喪失を裏付ける視覚的証拠があるTB2と「アンカ」は19機だけです)。[6]

 これに続けて、ムラフキン大佐は、TB2について「非常にお手軽な目標であり、パーンツィリにとって非常に魅力的なものだ」とも言い切りました。シリアとリビアで11基の「パーンツィリ-S1」が撃破されたことが目視で確認されたことの弁明で、ムラフキン大佐は単純にパーンツィリが作動状態になかったか、オペレーターなどの乗員が不在であったためだと説明しました。 [7]

 これは明らかに真実ではなく、このような発言は国内の視聴者を喜ばせることを目的としていると考えられます。[8]

 現実には、「パーンツィリ-S1」、「トール-M2」、そして「ブーク-M2」を含む自国製の防空システムの大部分と交戦できるTB2の能力を目の当たりにしたロシアは、TB2のようなUCAVに効果的に対抗するための新たな解決策を考え出す必要に迫られています(ただし、TB2による「ブーク-M2」の撃破は未だに視覚的に確認できていません)。[9]


バイラクタルTB2によって撃破されたロシア製地対空ミサイル(SAM) システム (37)

 ロシアでは、敵対国の兵器システムの出来栄えを軽視し、自国の軍事装備の成果を誇張するのが慣習となっています。

 2018年4月にアメリカ、フランス、イギリスがシリア軍によるドゥーマ市街への化学兵器攻撃の報復として一連の巡航ミサイル攻撃を行った際、ロシアはシリアの防空システムが飛来した103発の巡航ミサイルのうち71発の迎撃に成功したと主張しました。[10]

 それでも、明らかに戦果を誇示する機会があったにもかかわらず、撃墜したとされるミサイルの残骸は1発も公開されることはありませんでした。[10]

 アメリカは発射した全ミサイルが目標に命中したと断言した一方で、シリアの防空部隊が発射した40発のミサイルは全弾が無駄に終わったとの認識を示しました。興味深いことに、大半の地対空ミサイルは最後の巡航ミサイルが標的に着弾した後に発射されたとのことです。[11]

リビア国民合意政府の部隊が制圧したアル・ワティーヤ空軍基地で鹵獲されて移送中の「パーンツィリ-S1」。このシステムは後にトルコに引き渡され、徹底的に検査やテストされたことは確実と思われます。

 ほぼ間違いなくSAMよりも散々たるものだったのは、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争においてアルメニア側で使用されたロシア製電子戦(EW)システムの能力でした。アルメニアのニコル・パシニャン首相はロシアから導入したばかりの(「レペレント-1」と思しき)EWシステムについて、「それは単に機能しなかったのだ。」と厳しい批判の声を上げました 。

 このような事例に関して「使用されたシステムが旧バージョンだった」や「オペレーターの訓練が不十分だった」という(輸出された防空システムの損失を説明するロシア側の主張と同様の)反論があるかもしれませんが、実際のところ、アルメニアが使用したEWシステムは現在ロシアが売り込んでいる最新のシステムなのです。


バイラクタルTB2に対して使用されたが効果を発揮しなかった電子妨害・攪乱システム

ヴォロネジでロシア兵たちがEWによる「バイラクタルTB2」との戦闘を想定した訓練で説明を受けている

 現代戦の現実に順応できていないロシアとアナリストの双方は、最新の防空・EWシステムに直面した「バイラクタルTB2」の成果と潜在力を頻繁に軽視しようと試みています。

 しかし、そのようなUCAVによってもたらされる脅威は非常に現実的なものです:シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフでの作戦は、最新の防空システムが「UCAVに対抗できるのか、またはその任務を大幅に妨害できるのか」という深刻な疑問を世に投げかけています。

 同じシナリオがウクライナ東部で展開される可能性は決してあり得ないことではありません。高性能の防空システムや戦闘機をこの地域に大規模に投入することだけが、現在発生している戦力バランスの著しい転換の逆転に大いに貢献することでしょう。

 忘れがちですが、ウクライナと分離主義勢力の武力衝突は現在も続いています。冷静な判断によって、この紛争が(最近噂されている)ロシアとの大規模な戦争に発展しないことを祈るばかりです。



[1] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[2] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[3] Russian 96K6 Pantsir-S1 air defence system in Ukraine https://armamentresearch.com/russian-96k6-pantsir-s1-air-defence-system-in-ukraine/
[4] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[5] Drones Could Tip Balance In Ukraine War — For Russia https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/12/02/how-drones-could-tip-balance-in-ukraine-russia-conflict/
[6] Russian Pantsir Systems Shot down 40 Turkish Drones over Syrian, Libya https://www.defenseworld.net/news/31022/Russian_Pantsir_Systems_Shot_down_40_Turkish_Drones_over_Syrian__Libya
[7] VIDEO: This is how the Russian anti-aircraft system Pántsir-S works against drones https://marketresearchtelecast.com/video-this-is-how-the-russian-anti-aircraft-system-pantsir-s-works-against-drones/230858/
[8] Here are just two examples of Pantsir-S1s being struck while their radar is active: https://twitter.com/RALee85/status/1263104642315104256 and https://twitter.com/clashreport/status/1234952336319143938
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1234933018978111492
[10] Russia: Syria air defence intercepted 71 missiles https://www.aljazeera.com/news/2018/4/14/russia-syria-air-defence-intercepted-71-missiles
[11] Allies dispute Russian and Syrian claims of shot-down missiles https://www.theguardian.com/world/2018/apr/14/allies-dispute-russian-and-syrian-claims-of-shot-down-missiles
[12] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar

※  当記事は、2021年12月29日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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ティグレ戦争:イラン製「モハジェル-6」UCAVがハラールメダ空軍基地に配備された(短編ニュース記事)

ハラールメダ空軍基地の「モハジェル-6」(PAX For Peace ・Wim Zwijnenburg からの引用)

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年12月上旬の衛星画像から、エチオピア空軍(ETAF)がエチオピアの首都アディスアベバ近郊にあるハラールメダ空軍基地に「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)を配備していることが判明しました。[1]

 ETAFは8月上旬にイランから2機の「モハジェル-6」を調達し、続いてエチオピア北東部のセマラ空港に配備したことが知られていましたが、今回ハラールメダで目撃された「モハジェル-6」が8月に引き渡された2機のうちの1機なのか、それとも現在も続いているイランからの貨物便で(最近に)届けられた新納機なのかは不明です。[2][3]

 後者は、イランの影響力と周辺地域への武器輸出を制限しようと試みているアメリカを大いに怒らせることになるでしょう。ニューヨーク・タイムズの調査によると、すでにアディスアベバのアメリカ政府関係者はエチオピアのアビー・アハメド首相にイランからの支援と同国への貨物便について非公開で抗議し、打ち切るよう促しているとのことです。[4]

 「モハジェル-6」はエチオピア側の大きな期待を胸に受けて導入されたものの、2021年8月に引き渡されてからほぼ同時にこの国における運用キャリアを一度は終えてしまったようです。なぜならば、導入された2機は制御システムの問題で実際にエチオピア上空での飛行することが阻害されたため、すぐに駐機(放置)状態にされてしまったからです。[5]

 この失態は間違いなくETAFを大いに幻滅させたことでしょう。次に彼らのUCAVの導入が確認されたのは、中国から「翼竜Ⅰ」が届けられた2021年9月中旬のことでした。[6]

 「モハジェル-6」が抱える問題がやっと解決されたと思われるには2021年10月下旬までの時間がかかったようです。つまり、エチオピアに到着してから約2ヶ月半も後になってのことだったのです!

 2021年11月初旬にかけて、2機の「モハジェル-6」がセマラ空港の滑走路や駐機場で定期的に確認されており、この状況は、今やこれらがティグレの軍隊に対して定期的な飛行任務を実施するようになったことを示しています。 [7]

イランにおける「モハジェル-6」UCAV(エチオピアとは無関係の画像です)

ヘッダー画像は、PAX For Peace の Wim Zwijnenburg(敬称略)から引用したものです。  

[1] https://twitter.com/wammezz/status/1477399049342967810
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[4] Foreign Drones Tip the Balance in Ethiopia’s Civil War https://www.nytimes.com/2021/12/20/world/africa/drones-ethiopia-war-turkey-emirates.html
[5] Unfit For Service: Ethiopia’s Troublesome Iranian Mohajer-6 UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/unfit-for-service-ethiopias-troublesome.html
[6] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[7] Ethiopia now confirmed to fly Chinese armed drones https://paxforpeace.nl/news/blogs/ethiopia-now-confirmed-to-fly-chinese-armed-drones

※  この翻訳元の記事は、2022年1月2日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。