2023年7月19日水曜日

新たなる道:サウジアラビアが「バイラクタル」導入へ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

※  当記事は、2022年9月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳
  などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2022年からのロシア・ウクライナ戦争で「バイラクタルTB2」が効果的に使用されて人気を博したことを受け、「バイカル・テクノロジー(バイカル・テック)」社によって推進されたトルコの前例のない無人機の成功がますます高まることが予想されます。[1]

 サウジアラビア王国(KSA)はすでに膨大な数の中国やトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)を運用している一方で、「バイカル・テック」社の製品にも関心を示している国の一つです。[2]

 この国の無人機飛行隊について、現地で生産された数百機もの中国産UCAVで構成されていると報じられることもありますが、実際の構成や規模はほとんど分かっていません。判明しているのは、サウジアラビアのUCAVが2018年から隣国イエメンの反政府勢力であるフーシ派に対して集中的に投入されていることぐらいです。[3]

 アメリカからUCAVを調達できなかったため, サウジアラビア(KSA)はその調達に関して中国にその大半を依存してきました。このことは、KSAが2010年代半ばから後半にかけて「翼竜Ⅰ」「翼竜Ⅱ」「CH-4B」を大量に導入したことに表れています。これらの中国製UCAVは、2015年3月のサウジアラビア主導のイエメン介入開始以来、すでにイエメン上空に投入されている数種類の南アフリカやイタリア、ドイツ製無人偵察機を補完するものでした。[3]

 2019年になると、サウジアラビアはトルコの「レンタテク」社製「カライェル-SU」UCAVを導入し、保有するドローン兵器群をさらに増強しました。この同型機は「ハブーブ」のという名前で近いうちにKSA国内で生産される予定です。[4]

 現在、サウジアラビアは海外の企業や科学者たちと協力して、さらに数種類のUCAVを開発しています。それらの最初の1機である「サクル-1」は、南アフリカの「デネル・ダイナミクス」社によって開発された「バトルゥール」中高度長時間滞空(MALE)型UAVの設計をベースにしたものです。ちなみに、より小型の「スカイガード」が2017年に初めて発表された国産機でした。

 「サムーン」と呼称される7つのハードポイントを持つ大型の双発機のほかに、サウジアラビアは中国と契約を結んで、双発または三発機の「TB001」重UCAVを「アル・イカーブ-1」及び「アル・イカーブ-2」として開発しています。[5] [6]

 これらとは別にウクライナとUAVを共同設計・生産する計画もありましたが、ロシア・ウクライナ戦争のせいでキャンセルされたと思われます。[7]

「アル・イカーブ-1/2(TB001)」

 国産機を開発している間に、サウジアラビアと「中国航空宇宙科学技術公司(CASC)」がKSA国内に生産ラインと地区整備センターを設立して、最終的に今後10年間で約300機もの「CH-4B」を大量生産する可能性についての関する報道が2017年から飛び交っています(現在の統計を前提とした場合、これが実現するとKSAが世界最大のUCAV運用国となるでしょう)。[8]

 なお、このような合意が成立したのか、または計画されたのかすら不明であり、この記事を執筆している2022年9月時点では実現されていないようです。

 すでにKSAにはUCAV飛行隊が存在している上に今後数年間で国産のUCAVが就役する予定であることから、この国が 「バイラクタルTB2」や「アクンジュ」に興味を持つことは驚くべきことだと言う人がいる可能性はあるでしょう。

 もっとも、サウジアラビアがUCAVを複数のサプライヤーから入手する最初の国ではありません。実際、この国が有する3種類のUCAVでさえ3つの異なる中国企業が起源ということに注目するべきでしょう。

 武器の調達先を多様化させる傾向は大半の湾岸諸国の装備品にも反映されていますが、通常は武器禁輸が課された際の供給を確保するためです。そして、無人機の場合は、将来的な導入の検討における性能の比較を行う興味深い機会も提供してくれます。

 サウジアラビアがTB2や「アクンジュ」に関心を持った背景には、前者の素晴らしい実績と後者の斬新な性能が大きく関係していると思われます。中国製UCAVもリビアやイエメンで頻繁に実戦投入されていますが、ヨルダンでは「CH-4B」を導入してから2年も経たないうち全機を売りに出すなど、性能に不十分な点が多くあります。 [9]

 同型機はイラクでも良い結果を残せず、全20機のうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために現在は地上で駐機され続けているようです(注:2022年8月には運用が再開されました)。 [10] [11]  

 サウジアラビアの場合は、過去4年で最低でも12機の「CH-4B」をイエメンで失ったことが視覚的証拠に基づいて確認されています。

サウジアラビアの「CH-4B」UCAV:胴体や翼に国籍を示すラウンデルが表示されていない点に注目

 おそらくは中国製UCAVの稼働率や運用実績が乏しいためか、サウジアラビアはすでに少なくとも2017年からUCAVの調達先としてトルコに目を向けるようになっています。

 当初は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVに関心を寄せていましたが、最終的にKSAは2010年代後半に「ヴェステル(注:軍事部門はその後「レンタテク」に社名を変更)」社と数量不明の「カライェル-SU」について契約を結びました。[13] [4]

 これらはほぼ瞬時にイエメンでの作戦に投入され、現時点で4機が失われたことが視覚的に確認されるまでに至っています。[3]

 「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」社による「カライェル-SU」の国内生産はCOVID-19の影響を受けて1年半遅れたものの、2022年半ばに開始される予定です。その生産は「レンタテク」が重要なコンポーネントを供給し、サウジアラビアで組み立てられる方式となっています。[4]
 
サウジアラビアにおける「カライェル-SU "ハブーブ"」:同機は「MAM-C/L」やほかの小型爆弾を搭載可能なハードポイントを4つ備えています

 「カライェル-SU」の国内生産は、「サクル-1」プロジェクトにとって"とどめの一撃"となるかもしれません。

 少なくとも2012年からアメリカに拠点を置く「UAVOS」社と「キング・アブドルアジーズ科学技術都市(KACST)」で共同開発が進められてきた「サクル-1」は数多くの修正がなされ、2020年に公開された最新型の「サクル-1C」までプロジェクトが進んでいます。しかし、これらはどれも実用化されておらず、より小型の「サクル-2」と「サクル-4」も実機の生産までには至っていません。[14]

 最大で48時間という目を見張るような滞空時間を誇りますが、「サクル-1」は兵装搭載用のハードポイントを2つしか備えていないため、UCAVとしての有用性は著しく制限されたものとなります(注:「CH-4B」や「TB2」のハードポイントは4つ)。

 「イントラ」社が現在開発中である「サムーン」が「サクル-1」の代わりにサウジアラビア初の量産型国産UCAV となるのか、あるいは(既存のサウジアラビアの防衛プロジェクトの大部分と同様に)開発サイクルの長期化や内部からの反対、最終的に中止という事態に直面することになるのかは、まだ分かりません。[15]

南アフリカの「バトルゥール」MALE型UAVをベースに開発された「サクル-1」

今後登場する「サムーン(1/2サイズのモデル」:このモックアップの主翼に中国製の「ブルーアロー7」と「TL-2」対地攻撃ミサイルが搭載されていることに注目

 中国の「腾盾」が開発した巨大な「TB001」は、主翼下部に設けられた4つのハードポイントに、さまざまな誘導爆弾や空対地ミサイル(AGM)、対艦ミサイル、巡航ミサイルで武装することが可能です。

 「アル・イカーブ-1」は三基のエンジンを備えた異例の三発機であることが特徴であり、「アル・イカーブ-2」はその双発機型です。

 「TB001」については2019年に契約が発表されたものの、その開発は長引いており、 サウジアラビアが自国の防衛面での需要を満たすために、このプロジェクトを依然として積極的に推進しているかどうかは今でも不明のままとなっています。[5]

腾盾「TB001」

 「TB001(アル・イカーブ-1/2)」と比較すると、「バイラクタル・アクンジュ」は非常に成熟した概念的に先進的な兵器システムであり、これまでの量産型には未だに統合されていない多くの技術も導入されています。特に顕著なものとしては、射程275km以上の巡航ミサイルや射程150km以上の対艦ミサイル、さらには100km離れた目標に向けた空対空ミサイル(AAM)を発射できるなど、UCAVとしては斬新な能力を有することが挙げられます。

 これらの兵装を搭載するため、「アクンジュ」にはハードポイントが主翼に最大で8個と胴体下部に1個、つまり合計で9個のハードポイントが備えられています。後者については、「HGK-84」及び「NEB-84(T)」誘導爆弾や「SOM」シリーズの巡航ミサイルといった、このUCAVに搭載できる最重量級の兵装を搭載することが可能です。

 こうした兵装を搭載可能なことが「アクンジュ」を世界初の量産型マルチロール無人作戦機に変えたほか、 兵装を誘導キットと共にトルコから調達できることも、アメリカがサウジアラビアに爆弾の販売を停止する恐れがある現在では高く評価されると思われます。
 
「バイラクタル・アクンジュ」と各種兵装:同UCAVは画像のような兵装を搭載するために主翼下に9個と胴体下部に1個のハードポイントを備えている

 「アクンジュ」は現時点で有人戦闘機によって実施されている任務の一部を引き継ぐことができます。その一方で、サウジアラビアが「バイラクタルTB2」を導入することも魅力的な選択肢となるかもしれません。小型かつ(非常に)戦闘で実績のあるプラットフォームとして、TB2はすでにサウジアラビアで運用されているUCAVと同様の役割を果たせますが、それらよりも格段に高い生存率と有効性のレベルを有しているからです。

 中国のUCAVは(特にイエメン上空での作戦で)やや墜落する傾向が見られましたが、TB2はこの点で優れた記録を持っており、紛争の行方を著しく変える能力があることは十分に実証されています。

2018年以降にサウジアラビアがイエメン上空で失ったことが視覚的に確認されたUCAV(21)

命中弾を受けて墜落するサウジアラビアの「翼竜I」 UCAV(イエメンのサアダ県上空にて2019年4月19日)

 イエメン上空を飛行する無人機にとっての最大の脅威は、(イエメンの反政府勢力である)フーシ派が少なくとも2019年から投入している(2022年秋まで「358」として知られていた)「サクル」という一種のイラン製地対空ミサイル(SAM)です。

 「サクル」は単段式の固体推進剤を用いたブースターによって高度8.000~12.000mに到達してからマイクロジェット推進に切り替わります。このエンジンのおかげでミサイルは赤外線シーカーとレーザー近接信管で攻撃する前に(標的となる)無人機やヘリコプターに追いつくのに十分な低速でしばらく徘徊が可能となるのです。[16]

 イエメンへの密輸を容易にするためか、「サクル」は多数の部品に分解可能という特徴を有しています。

押収された「サクル(358)」徘徊型地対空ミサイルシステム

 「サクル」はUCAVによる作戦を脅かすことができるフーシ派唯一のSAMではありません。

 TB2と「アクンジュ」は携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の標的にできないほどの高度を飛行しますが、フーシ派は2015年にイエメン空軍から接収したSAMと空対空ミサイル(AAM)のストックを最大限に活用しようと試みてきました。[17]

 ほとんどのSAMシステムと関連するレーダーシステムはサウジアラビア主導の有志連合軍によって破壊されましたが、その後も一定の「2K12 "クーブ"(NATOコード: SA-6 "ゲイフル")」SAMシステムと関連する「1S91」 ミサイル誘導レーダー車はまだ運用されており、過去数年間で数機のUCAVを撃墜することに関与しています。

 また、フーシ派は(ピックアップ)トラックに発射レールを搭載して、イエメンでストックされたままの「R-73E」及び「R-27ET」赤外線誘導式空対空ミサイルを即席のSAMに転用することも試みました。両ミサイルを用いた作戦については、アメリカ製のフリアーシステムズ「ウルトラ8500」 赤外線前方監視システム(FLIR)を組み合わせることで急速な進歩を遂げました。[18]

 しかしながら、地上から発射した場合の射程距離が短くなってしまうため、その有効性は本質的に限定的なものとなっています。

 フーシ派は地対空用の「R-77」アクティブ・レーダー誘導式AAMも展示したこと過去がありますが、これには少なくとも1組の「MiG-29SM」戦闘機のファザトロン製「N019MP」レーダーと関連火器管制システムを改造する必要があったことから、実際には実現不可能だったようです。これは技術的な問題のためか、それとも有志連合軍の爆撃で全ての「MiG-29SM」が「N019MP」レーダーと一緒に破壊されたためなのかは分かっていません。

トラックベースの発射機から発射される「R-27ET」赤外線誘導式AAM 

今ではトラックに搭載された「2K12 (フーシ派側の名称:ファター1) 」SAMシステム:この構成は機動性と有志連合軍機からの秘匿を容易にしている 

 イランの大規模な支援は、フーシ派が巡航ミサイルや弾道ミサイルに加えて多種多様な徘徊兵器を入手するという結果も招きました。これらの徘徊兵器については、イスラム革命防衛隊またはイラン軍で既に使用されているものやレバノン・イエメン・イラク・パレスチナにおける代理勢力で使用するために特別に設計されたもので構成されています。

 こうした無人機の小型さは世界最新鋭の防空システムを用いても探知・撃墜を困難にしています。そのため、サウジアラビアは定期的に「F-15」戦闘機を配備し、徘徊兵器が王国の奥深くに位置する目標へ到達する前にその脅威に対処しなければならないのです。

 それゆえに、アメリカ製の「AIM-9 "サイドワインダー"」や「AIM-120 "アムラーム"」(AAM)で小型の徘徊兵器と戦うためのコストが法外と言われても当然ではないのでしょうか。2021年末にサウジアラビアが枯渇したストックを補充するために280発の「AIM-120」を発注した際、6億5千万ドル(約837億円)、つまり1発あたり230万ドル(約2.9億円)以上も支払わなければいけませんでした。[19]

 「F-15SA」戦闘機の飛行コストは1時間あたり約2万9千ドル(約373万円)を要することから、1万ドル(約128万円)にも満たない価値の徘徊兵器1発を撃墜するために、サウジアラビアは推定250万ドル(約3.2億円)を負担することになってしまうのです(初弾に発射したミサイルが目標を外れた場合は500万ドル=約6.4億円に増えます)。[20]

 これに対し、「バイラクタルTB2」UCAV1台の輸出価格はおよそ500万ドル(約6.4億円)と推定されています。一般的にTB2は迎撃任務とは無縁ですが、近いうちに射程8km以上を誇る「ロケットサン」「スングル」赤外線画像誘導式MANPADSを搭載可能となりますし、1時間あたり飛行コストは僅か925ドル(約12万円)相当となることも注目すべき点でしょう。[21]

 「パトリオット」のような防空システムを使う場合、迎撃コストはさらに悪化してしまいます。2017年には約1,000ドル(約13万円)の小型クアッドコプターの撃墜に成功したことで、王立サウジ防空軍は約300万ドル(約3.8億円)の損失を被ったことがありました。[20]

 「アクンジュ」自体を非常に強固な防空アセットとして使用可能という事実については、トルコ国産の「ボズドアン」赤外線画像誘導式AAMやアクティブレーダー・シーカーを用いて自身を目標に向けて誘導する「ゴクドアン」目視外射程AAM(BVRAAM)などのAAMを搭載できるという能力を活用することで実現されることになります。

 「アクンジュ」のAESAレーダーは、最大で100km圏内にいる低速飛行中の固定翼機や無人機、ヘリコプターを撃墜するために、目標を自律的に見つけ出して交戦することを可能にさせます。

 特にKSAが直面しがちな脅威(徘徊兵器)への対処では「F-15SA」の能力と重複しているため、「アクンジュ」は各段に安価で便利な代替手段として選択されるかもしれません。

イエメンのフーシ派によって展示された「ワーエド(左上)」, 「シハブ(右上)」,「サマド-3(左下)」,「カセフ-2K(右下)」徘徊兵器 

 サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として2030年までに防衛支出額の少なくとも50%を現地調達に充てることを目指しており、防衛企業が兵器類の現地生産ラインを構築するための刺激材料となっています。

 2010年代初頭から数多くの(部分的な)国産UCAVプロジェクトが登場しているにもかかわらず、これらが最終的にサウジアラビア軍が求める要件と重要を満たすという確証については、まだ少しも得られていません。

 中国製ドローンの高い消耗率と、(おそらく)基本的な整備上の問題にさえ悩まされていることから、サウジアラビア当局が最近公表した高い人気と実績を誇る「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」の導入へ関心を示したことについては、一部の人が予想したほどあり得ない動きではないのです。

 TB2と「アクンジュ」はサウジアラビアで開発されたものではありませんが、ドローン技術に関する「バイカル・テック」との協力や、おそらく現地での同社製品の生産は、この王国における新興の無人機産業を実質的に有効なレベルまで引き上げるのに役立つであろう貴重な知識をもたらすことになるでしょう。

 「バイカル・テック」との契約は、デポレベルの整備を行うための現地における整備工場の設立につながる可能性もあります。

 このような動きは、無から本格的なドローン産業を素早く作り上げようと試みるよりも、自国の防衛上のニーズを自給自足するための現実的な道筋を整えてくれることになるかもしれません。

 

[1] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[2] Saudi GAMI, Baykar and Bayraktar drones https://www.tacticalreport.com/news/article/59638-saudi-gami-baykar-and-bayraktar-drones
[3] List Of Coalition UAV Losses During The Yemeni Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/coalition-uav-losses-during-yemeni.html
[4] Saudi Arabia’s Intra Pushes Ahead with Drone Programs https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2022-03-14/saudi-arabias-intra-pushes-ahead-drone-programs
[5] Sino-Saudi heavy unmanned aerial vehicle https://vpk.name/en/487652_sino-saudi-heavy-unmanned-aerial-vehicle.html
[6] https://twitter.com/inter_marium/status/1099657284911841280
[7] It is possible that this joint venture had already effectively ended before the Russian invasion of Ukraine in February 2022.
[8] Saudi Arabia https://drones.rusi.org/countries/saudi-arabia/
[9] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[10] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[11] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[12] Tracking Worldwide Losses Of Chinese-Made UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/tracking-worldwide-losses-of-chinese.html
[13] Saudis in talks with TAI to buy six Anka turkish drones https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/2017/11/17/saudis-in-talks-with-tai-to-buy-six-anka-turkish-drones/
[14] https://i.postimg.cc/W4My3cMX/18933-2.jpg
[15] Intra’s Samoom: the future Saudi Armed Forces MALE unmanned air system https://www.edrmagazine.eu/intras-samoom-the-future-saudi-armed-forces-male-unmanned-air-system
[16] 358 vs. Scan Eagle – Anti-Drone Action https://militarymatters.online/defense-news/358-vs-scan-eagle-anti-drone-action/
[17] Houthi Drone and Missile Handbook https://www.oryxspioenkop.com/2019/09/houthi-drone-and-missile-handbook.html
[18] https://twitter.com/Mansourtalk/status/950462857052909570
[19] New Saudi Missile Order Reveals The High Cost Of Asymmetric Drone War https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/11/11/new-missile-order-reveals-true-cost-of-assymnetric-drone-war/?sh=6c90f63116f2
[20] How much cheaper is the F-15EX compared to the F-35? https://www.sandboxx.us/blog/how-much-cheaper-is-the-f-15ex-compared-to-the-f-35/
[21] https://twitter.com/TyrannosurusRex/status/1421416463718563846

2023年7月17日月曜日

海に潜む脅威:フーシ派の海軍(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ※  当記事は、2023年1月2日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳
  などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります

  イエメンの反政府勢力であるフーシ派は、多くの大国の戦力を上回る軍備の構築にこぎ着けました。イランが開発した幅広い種類の徘徊兵器や弾道ミサイルを運用していることに加えて、フーシ派は多数の小型艇や水上即席爆発装置(WBIED)、対艦巡行ミサイル(AShM)、機雷、さらには対艦弾道ミサイル(ASBM)さえも保有していることを踏まえると、決して言い過ぎではないでしょう。

 フーシ派の海軍は長年にわたって全く注目されてきませんでしたが、イエメン内戦で強い影響を与えたことは間違いありません。その特筆すべき偉業としては、2016年のAShMによる「HSV-2 "スゥイフト"」の撃破2017年のサウジアラビアのフリゲート「アル・マディーナ」に対するWBIED攻撃の成功、同年のUAEの機雷敷設艦の撃沈、そして2020年と2022年のサウジ上陸船2隻の損傷拿捕が挙げられます。[1]

 そもそもフーシ派がイエメン海軍から継承したものが全く無いことを考えれば、こうした偉業は間違いなくさらに驚異的なものと言えます。

 2015年の港湾都市であるアデンを掌握するための戦いでミサイル搭載艦艇を含めたイエメン海軍が有する戦力のほとんどが破壊され、生き残ったのは、僅かな数の小さな哨戒艇や上陸用舟艇、そして「Mi-14」と「Ka-28」対潜ヘリコプター程度でした。しかし、これらの大半は同年にサウジアラビア主導のイエメン介入時の空爆で破壊されたため、フーシ派の下での活動はごく短期間で終わってしまったのです。

 このようにして、フーシ派には陸上に保管された(発射装置なしの)AShMと小型の哨戒艇の寄せ集めが残される結果となりました。

 これらの残存戦力は、国産の小型艇やその他の艦艇と共にフーシ派の下で新たな「イエメン海軍」の中核を形成することになるのです(注:フーシ派は「イエメン政府」を自称しており、傘下の武装勢力も「イエメン軍」としています。国際的に承認されたイエメン政府・軍との混同を避けるため、この記事では基本的に「フーシ派の海軍」と表記しています)。[2]

 イランはすでに2015年にイエメンがフーシ派に乗っ取られた直後から彼ら(つまりはイラン)が紅海沿岸と沖における有志連合軍の海上輸送を阻止できるように自称「海軍」の戦力をさらに強化しようと試みて、新たなAShMを提供すると共に発射後に容易に秘匿できるトラックをベースとした発射機を製造しました。

 また、イランはエリトリア沖に情報船「サビズ」を停泊させ(通常の貨物船を装う)、そこからフーシ派に連合軍の船の動きに関する情報を提供していたことも報告されています。[3]

 「サビズ」は2021年4月にイスラエルの機雷で損傷するまでこの役割を果たし、その後に「ベーシャド」と呼ばれる別の船に交代しました。「サビズ」と同様に、「ベーシャド」も本来の目的を秘匿するために貨物船をベースにした船です。[4] [5]

 一方のイエメンでは、フーシ派が2010年代初頭にUAEからイエメン沿岸警備隊に寄贈された全長10メートルの哨戒艇を(おそらくイラン人技術者の協力を得て)WBIEDに改造することに成功しました。それらのうちの1つは、2017年にサウジアラビアのフリゲート「アル・マディーナ」を攻撃するために使用されました。その後、「トゥーファン-1」・「トゥーファン-2」・「トゥーファン-3」という3種類のWBIEDが建造されています。

 約15種類もの機雷についても製造が開始されており、これらは紅海での敷設が増加しているものの、まだ(軍用艦艇に対する)戦果を収めていません。[6]

 ほぼ間違いなく最も重要な支援は、イランが射程120kmの「ヌール」及び射程200kmの「カデル」AShM、射程300kmの「ハリージェ・ファールス」 対艦弾道ミサイル(ASBM)、「ファジル-4CL」及び「アル・バフル・アル・アフマル」対艦ロケット弾を供与したことでしょう。これらは2022年にフーシ派のパレードで公開され、彼らの対艦能力が大幅に向上したことが示されました。

 イランが開発した最新型ロケット弾とミサイルを代表するこれらの兵器は、長射程・低コスト・高機動性を兼ね備えているほかに多岐にわたる種類の誘導方式に対応していることから、フーシ派の海軍にとって最適な兵器となっているのです。

イラン製「ハリージェ・ファールス "アーシフ"」ASBM(2022年9月にサヌアで実施された閲兵式にて)

 現時点でフーシ派のASBMの威力が試されたことはありませんが、フーシ派の海軍はすでにAShMを使用して注目すべき戦果を収めています。

 2016年10月1日に、陸上から発射した1発の「C-801/C-802」 AShMでUAE企業が運用中の双胴高速輸送船「HSV-2 "スウィフト"」の攻撃に成功しました。「スウィフト」はミサイルが命中後もなんとか浮いていたものの、損傷があまりにも激しかったために廃船にせざるを得なくなりました。

 この海域における船舶の航行が妨害されないようにするため、アメリカ海軍は後で駆逐艦2隻とドック型輸送揚陸艦を紅海に派遣しました。これらの艦艇は後で2発のAShMに攻撃されましたが、どちらも迎撃や何等かの原因で到達前に着水したために被害は報告されていません。[7]

 一連の攻撃はイエメン周辺の海域における艦艇を脅かすフーシ派の能力がまだ限定的であることを示しましたが、それ以降の脅威は著しく進化しています。現在のフーシ派は撃ち込まれた際の迎撃と広範囲をカバーすることが困難な数種類の対艦弾道ミサイルと対艦ロケット弾を装備していることから、次にあるかもしれないUAE・サウジアラビア・アメリカ海軍との武力衝突では、今までとは全く異なる結果がもたらされる可能性があるのです。

 また、フーシ派はペルシャ湾における近年のイランの戦術を模倣し、紅海の商船に対する徘徊兵器の使用も示唆しています。[8]

 国際社会の話題からほとんど消え去ったためか、イエメン内戦は今や停滞気味にあると考えられがちなようです。しかし、フーシ派の戦力が成長するにつれて、その動態が進化し続けていることを無視することはできません。彼らを過小評価するならば、そう遠くないうちに話題不足どころか内戦の停滞さえも過去の出来事となる時代が再来するでしょう。

フーシ派の「C-801/802」AShMの直撃を受けた後の「HSV-2 "スウィフト"」(2016年)

  1. この一覧の目的は現時点でフーシ派が保有しているや艦艇、WBIED、対艦ミサイル、そして機雷を包括的に網羅することにあります。
  2. 小型艇や民間船はこの一覧から除外されています。 
  3. 外国起源の兵器でアポストロフィーで囲まれた名前は、基本的にフーシ派で用いられている名称です(ただし、イエメン国旗のものは除外します)。
  4. 各兵器の名称に続く角括弧の数字は、イエメンでの存在が判明した年を示しています(ただし、2014/2015年のフーシ派によるイエメン制圧後に納入・製造された兵器が対象です)。
  5. 各兵器名をクリックするとフーシ派で使用されている姿の画像を見ることができます。

高速哨戒艇

水上即席爆発装置 (WBIED)

対艦弾道ミサイル・ロケット弾(ASBM)

対艦巡行ミサイル(AShM)

機雷
特別協力:ジョシュア・クーンツ(敬称略)

[1] The minelayer was later raised and presumably repaired.
[2] Which is known as the Yemeni Navy and Coastal Defence Forces. The maritime element of the the Saudi-backed government is known as the Yemeni Coast Guard (which also existed prior to the 2014/2015 Houthi takeover in Yemen.
[3] Saviz http://www.hisutton.com/Saviz.html
[4] Israel informed US it attacked Iran’s Saviz ship in Red Sea as retaliation: NYT https://english.alarabiya.net/News/middle-east/2021/04/07/Israel-informed-US-it-attacked-Iran-s-Saviz-ship-in-Red-Sea-as-retaliation-NYT
[5] Iran replaces stricken Red Sea spy ship with new focus on oil tankers https://almashareq.com/en_GB/articles/cnmi_am/features/2021/08/19/feature-01
[6] Houthi Rebels Unveil Host of Weaponry, Compounding Drone and Missile Threat https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/houthi-rebels-unveil-host-of-weaponry.html
[7] USS Mason Fired 3 Missiles to Defend From Yemen Cruise Missiles Attack https://news.usni.org/2016/10/11/uss-mason-fired-3-missiles-to-defend-from-yemen-cruise-missiles-attack
[8] https://twitter.com/JoshuaKoontz__/status/1583526237237956608

2023年7月15日土曜日

繰り返される商業的成功:トルクメニスタンが徘徊兵器「スカイストライカー」を導入した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルクメニスタンはイスラエル製武器と装備類を大規模に導入した国であり、現在までにそれらには「TAR-21」アサルトライフルや数種類の歩兵機動車といったものが含まれています。

 おそらくほとんど知られていないのは、トルクメニスタンがイスラエル製UAVも保有していることでしょう。2021年までの同国におけるイスラエル製UAV飛行隊については、エルビット「スカイラーク」エアロノーティクス・ディフェンス「オービター2B」といったよく知られた偵察任務専用の機体で構成されていました。これらは2010年代初頭に入手したものであり、ソ連時代から受け継いだターゲット・ドローンではないトルクメニスタン初のUAVとなりました。

 イスラエルはいかなる種類の無人戦闘航空機(UCAV)の輸出をしていないことから、トルクメニスタンは武装ドローンを得るべく中国から「CH-3A」と「WJ-600A/D」を、後にトルコから「バイラクタルTB2」の調達を開始しました。[1] [2]

 同様に、この国はイスラエルの「エアロスター」、IAI「ヘロン」や「ヘルメス450」を調達するのではなく、3機のセレックスES「ファルコXN」無人偵察機を導入するためにイタリアに目を向けました。[3]

 これらの機体の導入で、一度はより多くの新型イスラエル製UAVがトルクメニスタン軍での運用に就く機会を失ったように考えられました。

 しかし、2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードでは、自国の保有兵器に新しい兵器システム「徘徊兵器」が加わったことが明らかにされたのです。つまり、新カテゴリーの兵器の購入するために、トルクメニスタンは再びイスラエル製UAVの系譜に求めたということになります。

 新規導入した徘徊兵器は実績のある「スカイストライカー」であり、この調達はトルクメニスタンに既存の無人攻撃能力を大幅に拡張させることを可能にします。

 これらを調達する決定が、ナゴルノ・カラバフ上空における非常に効果的な使用を目撃してからなされたという可能性は信じがたい話ではないようです。

 ナゴルノ・カラバフで、アゼルバイジャンはSTM「カルグ」、エアロノーティクス・ディフェンス「オービター1K(とアゼルバイジャン生産型の「Zarba-K)」、IAI「ハロップ」そしてエルビット「スカイストライカー」を投入しました。トルコの「カルグ」以外はイスラエルによって設計・製造されたものです。そえゆえに、世界中に無数の競合相手が出現しているにもかかわらず、イスラエルは徘徊兵器のマーケット・リーダーであり続けています。

 イスラエルは新型の徘徊兵器を導入し続けている一方で、(スカイストライカーなどの)既存のシステムの改良もしていることを考えると、イスラエルが近い将来にその地位を失う可能性は極めて低いと思われます。



 「スカイストライカー」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争やそれ以前にあった小競り合いでアゼルバイジャンがアルメニア側に対して実戦投入され、多大な効果を発揮しました。

 アゼルバイジャンはスカイストライカーの初期型(下の画像)及びトルクメニスタンも採用した最新型を運用しています。

 1機100万ドル(約1.1億円)と云われるIAI「ハロップ」と比較すると、 「スカイストライカー」は価格が大幅に低いものとなっています。「ハロップ」用の移動式発射システムは合計9機を搭載可能で価格は900万ドル(約10億円)ですが、これは「バイラクタルTB2」UCAV2機分の輸出価格とほぼ同じなのです!この価格で「ハロップ」は1,000kmの射程距離と23kgの弾頭を誇るのに対し、「スカイストライカー」は射程距離が約100kmで、ほとんどの目標を一撃で破壊することに十分な5kgまたは10kgの弾頭を搭載しています。[4][5] [6]

 目標地点に到達すると、この徘徊兵器は5kg弾頭を搭載している場合は最大で2時間、10kg弾頭の場合は最大で1時間は標的を捜索するために滞空することが可能であるほか、仮に標的を発見できなかった場合、「スカイストライカー」は基地に戻して回収することが可能というメリットを持っています。[5]

 巡航中と滞空中の「スカイストライカー」は自律航法を用いますが、標的をロックする際にはジンバル式2重赤外線シーカーに切り替わります。この徘徊兵器が目標に向かって最後の急降下をする間の速度は時速555km以上にも達しますが、最大40ノット(74.08km/h)の風にも精度を僅かに低下させるだけのレベルで耐えることができるため大きな問題とはなりません。[5]

牽引式発射機に搭載されたアゼルバイジャンの「スカイストライカー(初期型)」

 「スカイストライカー」の導入は、間違いなくトルクメニスタンの無人攻撃能力を大きく向上させます。

 この国による徘徊兵器「スカイストライカー」と「バイラクタルTB2」UCAVの調達は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニア軍に対して激しい戦闘を経験したアゼルバイジャンが保有する無人兵器の構成を模倣したようです。

 世界中のどこの国でもこの戦争の成功を再現することに熱心であり、モロッコはトルコの「バイラクタルTB2」UCAVとイスラエルの(「スカイストライカー」と思しき)詳細不明の徘徊兵器を入手しました。

  これらの国々は将来における無人機戦のパイオニアであり、より多くの国が確実に彼らの例に倣うことでしょう。


[1] Turkmenistan’s Freak UCAV: The WJ-600A/D https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkmenistans-freak-ucav-wj-600ad.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Nurmagomedov’s Birds Of Prey: The Italian Falco XN UAV In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/nurmagomedovs-birds-of-prey-italian.html
[4] Harop Loitering Munitions UCAV System https://www.airforce-technology.com/projects/haroploiteringmuniti/
[5] SkyStrikerTactical loitering munitions for covert and precise airstrikes https://elbitsystems.com/media/SkyStriker.pdf
[6] Army buys 'Skystrikers' to carry out Balakot-type missions: How these drones act as force multipliers https://www.timesnownews.com/india/article/army-buys-skystrikers-to-carry-out-balakot-type-missions-how-these-drones-act-as-force-multipliers/807739

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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