2022年2月11日金曜日

「大空の巨神」の復活なるか?:トルコが「An-225 "ムリヤ"」2番機の完成を提起した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 近年にウクライナとトルコの間で協議されている航空宇宙関連の協力の中でも間違いなく最も興味を引くものは、世界最大の貨物機「An-225 "ムリヤ"」の2番機を完成させる可能性が含まれていることでしょう。

 「An-225」に対するトルコの関心については、2020年10月にウクライナのゼレンスキー大統領がアンカラを訪問した際、エルドアン大統領が同機を完成させるというアイデアを提起したことで初めて報じられました。[1]

 それ以降にこのプランに関する続報を全く聞きませんが、トルコの関与が最終的に2機目の「An-225」を完成・就役させるための刺激と資金をもたらす突破口となることを意味する可能性があります。

 外国のパートナーの協力を得て2機目の「An-225」を 完成させるというアイデアが最初に持ち上がったのは、中国が同機を商業衛星を軌道に乗せるために用いるプラットフォーム用に開発することに関心を示した2011年のことでした。[2] [3]

 このプロジェクトの第1段階ではウクライナのキエフ郊外にある「アントノフ」社の施設に保管されている2機目の機体を完成させ、第2段階では中国で「An-225」の生産を再開させることになっていました。しかし、高額なコストがこの野心的なアイデアの運命を決定づけて、最終的には密かに放棄されたようです。[4] [5]

 2021年、「オボロンプロム(アントノフ社の親会社)」社が、2番機の製造プロジェクトの始動を手助けしてくれる外国人投資家を依然として探し求めていることが公表されました。その際に「ウクルオボロンプロム」社のユーリー・フシェウCEOは、「現時点におけるウクライナの航空機開発については、いくつかの国と活発な協議を行っているところです」と述べています。

 多数あるウクライナ機のさらなる開発に関心を持つ国の1つがトルコであることは周知の事実であり、同国はこれまでに2種類の「アントノフ」製航空機:「An-178」「An-188」軍用輸送機に公然と興味を示してきました。[6] [7]

 最初に生産された「An-225(UR-82060)」は、1988年12月に「ブラン」宇宙往還機用の超重量級輸送機として初飛行しました(この際には「ブラン」を背部に搭載して飛行に挑みました)。「An-225」は2機が発注されたものの、ソ連崩壊前に1機しか完成しませんでした。

 今日、「An-225」は250トン近い貨物を輸送することができる、世界で最重量かつ(幅以外では)最大の航空機の座にとどまっています。

 完成した唯一の「ムリヤ」は、「An-124」を含む大型貨物機を運航するアントノフ航空によって運航されています。

「ブラン」を背負い式で搭載した「An-225」

 唯一完成した「An-225」は1991年のソ連崩壊時にウクライナ・ソビエト社会主義共和国内にあったため、新たに共和国として独立したウクライナの管轄下に入りましたが、1993年に(現在のロシアによる)「ブラン計画」が中止されたため、同機が「ブラン」を搭載するいう本来の用途をすぐに失ってしまったことは周知のとおりです。

 1994年、「An-225」1番機はキエフの「アントノフ航空機工場」に長期保管という事実上の放置状態に置かれ、2番機も機体の70%が完成した後に製造作業が突如として中断されてしまいました。[8]

 1990年代後半になると、「An-225」のような大型貨物機の需要が再び生じたことから、保管機は2001年に現役復帰に返り咲きました(注:残念ながら、2022年2月にロシア軍の攻撃で破壊されてしまいました)。[8]

 同時期に2機目を完成させる計画が浮上し始めて2006年に製造の再開が決定されましたが、2009年末になっても機体の製造は依然として再開しておらず、計画は放棄されたように思われました。[9]

 しかし、その後の2011年5月、「アントノフ」社のCEOは、「利害関係者が少なくとも3億ドル(約345億円)を用意したならば、2機目の『An-225』を3年以内に完成させることができる」旨を述べ、構想がいまだに生きていることを示しました。[9]

 2016年の時点で、中国航空工業公司はこれらの費用を負担する用意があったと言われていますが、その後に関心を失ったようです。[5]

 中国は長い間にわたってウクライナの航空産業が生み出した成果を享受してきました。

 1990年代にウクライナは2機の「Su-33」と1機の「Su-25UTG」艦載機を中国に売却し、中国の前者に対する詳細に及ぶ研究は結果的に「J-15」艦載機の誕生に至らせたことはよく知られています。[10]

 より最近の事例ですと、中国が巧妙な手口で世界最大の航空機・ヘリコプター用エンジン製造企業である「モトールシーチ」社の企業支配権の獲得を試みましたが、この買収劇は最終的にアメリカによる圧力を受けたウクライナ政府によって阻止されたことがありました。[11]



 2機目の「An-225」が完成した場合、同機が大型貨物の国際輸送で利益をもたらすことは確実でしょうが、完成させるために要する3億ドルの費用は決して事業面で真の利益を出させないことを意味する可能性があります。

 このリスクはアントノフの現CEOであるオレクサンドル・ドネツ氏によって認められ、2019年に「これは非常に高価なプロジェクトです。設計やエンジニアリング作業、新しい資機材の調達、そして機体の認証にかかる費用は数百億ドルにのぼるでしょう。このようなプロジェクトは航空宇宙プログラムでは有効かもしれませんが、民間航空輸送は別です。
」と述べています。 [12]

 このことは、なぜトルコが2機目の「An-225」の完成に関心を示したのかという疑問をもたらします。

トルコは同機を単に相当な利益を上げることを目的とした商業資産として運用するのではなく、(おそらくアントノフとの共同事業によって)国内外にトルコの力と威信を示すことを意図したステータスのシンボルとしての役目を務めることもあり得まると思われます。

 トルコは国際政治においてますます重要な当事者として浮上しており、積極的な国際的役割の請負とそれに伴う政治的な影響力を強めています。「An-225」は特大型の積載物や人道支援物資などを地球上のどこにでも届けることができるため、将来的には新興する大国としてのトルコの地位を再確認させる飛行機になるかもしれません。




 「An-225」級の大型機に関連する高いコストのおかげで、ウクライナは2機目の「ムリヤ」を完成させることを断念していました。

 「モトールシーチ事件」後に中国からの資本投資がなされる可能性が起こりえないものとなったため、「アントノフ」社は2番機の「ムリヤ」を完成させるために別のパートナーを探す必要があるでしょう。

 ここでトルコが登場するかもしれません。トルコは国際政治における急成長している新興国であり、困難なプロジェクトを実現させた確かな実績があります。

 「An-225」を運用することのメリットが最終的に完成に要するコストを上回るかどうかは、トルコ政府の判断次第です。ひょっとすると、「An-225」がトルコの大統領専用機と同じカラーリングを施され、世界中の各地で権力と影響力を誇示する使節、ステータスシンボルとしてその役割を果たす日がやってくるかもしれません。



[1] Turkey interested in completing An-225 Mriya – Dpty PM https://en.interfax.com.ua/news/general/698799.html
[2] Antonov Sells Dormant An-225 Heavylifter Program to China https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2016-09-06/antonov-sells-dormant-225-heavylifter-program-china
[3] Chinese aero group eyes world’s largest plane https://asiatimes.com/2019/07/chinese-aero-group-eyes-worlds-largest-plane/
[4] Ukraine mulling to complete the second Antonov An-225 Mriya https://www.aerotime.aero/27146-second-an225-potential
[5] UkrOboronProm seeks investments to complete second Mriya aircraft https://www.kyivpost.com/ukraine-politics/ukroboronprom-seeks-investments-to-complete-second-mriya-aircraft.html
[6] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[7] ANTONOV Presents its Advanced Programs in Turkey https://www.defenceturkey.com/en/content/antonov-presents-its-advanced-programs-in-turkey-3002
[8] UR-82060 https://avia-dejavu.net/UR-82060.htm
[9] Why Wasn’t The Second Antonov An-225 Finished? https://simpleflying.com/second-antonov-an-225-finished/
[10] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[11] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[12] Президент ГП "Антонов" Александр Донец: Мы должны вернуться к тому, что умеем делать очень хорошо – к грузовым, военным самолетам. Это у нас всегда получалось https://www.unian.net/economics/transport/10531239-prezident-gp-antonov-aleksandr-donec-my-dolzhny-vernutsya-k-tomu-chto-umeem-delat-ochen-horosho-k-gruzovym-voennym-samoletam-eto-u-nas-vsegda-poluchalos.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年2月8日火曜日

意外な国の東側製AFV:サウジアラビアにおけるウクライナ製「BTR-3」装甲兵員輸送車




著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 サウジアラビアは、アメリカから購入した「M1A2S」主力戦車(MBT)や「F-15SA」戦闘攻撃機を含む、現時点で売りに出されている最新鋭の軍事装備を運用していることでよく知られています。

 しかし、世界中の多くの軍隊と同様に、この国でも老朽化した、時には予想外の兵器が、第2防衛戦や危険がより少ないと見なされた戦線で運用されています。サウジアラビア王国の場合では、「M60 "パットン"」戦車や「M113」装甲兵員輸送車(APC)といった旧式装備の一式だけでなく、ウクライナから緊急救助車として使用するためにに購入した、かなり風変わりな見た目をしたBTR-3 APCも含まれています。

 すでにシャルトルーズ(実際の色名)のカラーリングが施されているとおり、サウジアラビアの「BTR-3」が危険を冒して最前線まで近づくことは絶対にないでしょう。その代わり、このAPCが持つ水陸両用及びオフロード走行能力は、洪水や土砂崩れなどの自然災害時に災害救助活動を行うのに最適であることを意味しています。この役割で、「BTR-3」はロシアのGAZ-59037 – ベトナムでの運用で洪水被害者を救助する際にその価値が証明された「BTR-80」APCの民生版 – と非常に似た働きをします。

 サウジアラビアでは緊急救助車両として装備されていますが、「BTR-3」はAPCや歩兵戦闘車(IFV)型と同じ装甲を維持しているため、7.62mm弾や砲弾の破片(さらに言うと「ひょう」による被害)に対する全方位の脅威からの防護力を備えています。

 (正確な時期は不明ですが)サウジアラビアに納入された後、この車両は平時、災害時、そして紛争時に人命や財産を保護するための機関:民間防衛総局に就役しました。


 サウジアラビアといえば、西から東にかけて広がっている広大な砂漠地帯でよく知られていますが、おそらく一般的なイメージとは異なって、この国では、大雨や洪水、そして(全く驚くことではありませんが)砂嵐などの大規模な自然災害に定期的に対応する必要があります。

 このような災害によりうまく対処するため、最初に消防総局が1960年に設立されました。内務省(MOI)の傘下に置かれた同機関は、後に民間防衛総局(GDCD)に改称され、現在に至っています。自然災害への対応に加えて、GDCDは、毎年行われるメッカへのハッジ(大巡礼)の際に巡礼者の安全を確保するという極めて重要な役割を担っています。[1]



 緊急救助車両としての用途にふさわしいものとするため、「BTR-3」は砲塔の撤去、手すりや車体上部へのハッチの追加を含むいくつかの改修を受けました。

 民間防衛総局のエンブレムは、通常は各車両の側面、ときには正面にも施されています。



 また、装輪式の回収車両、大型トラック、ブルドーザーやショベルカーなどの装備といった、さまざまな種類の支援車両も民間防衛総局で運用されています。

 数年前まで、この組織は日本の「川崎重工」製「KV-107」タンデム式輸送ヘリコプターでさえも独自の航空隊で運用していましたことは注目に値するでしょう。[2]

 「KV-107」が00年代後半に退役した後、この種の航空任務はGDCDに代わってMOIが運用するシコルシキー「S-92」汎用ヘリコプターに引き継がれました。




 鮮やかな黄緑色の塗装にもかかわらず、サウジアラビアの「BTR-3」は、現在におけるこの王国で就役している最も目立たない装備の1つであり続けています。

 彼らの様子については、通常はそれらの展開を必要とする厳しい状況下のおかげで影が薄くなっているのかもしれませんが、詳しくないウォッチャーからすると、この「BTR-3」は驚くべき装備が最も予期しない場所に思いがけなく姿を現す可能性があることを気づかせてくれます。

 今回のケースでは無難な緊急救助車両が関係していますが、サウジアラビアのウクライナとの次の取引は、この王国により強力な能力の獲得をもたらすでしょう:「フリム-2」移動式短距離弾道ミサイル(SRBM)は、サウジアラビアからの資金提供をうけてウクライナで設計されたものであり、この10年間の早い時期にサウジアラビアで就役する予定となっています。



[1] The General Directorate of Saudi Civil Defense https://www.eyeofriyadh.com/directory/details/77_the-general-directorate-of-saudi-civil-defense
[2] kawasaki KV-107/IIA-SM https://www.dstorm.eu/pages/en/saudi/kv-107.html

※  この翻訳元の記事は、2021年5月5日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。




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ヌロル・マキナ「エジデル 6×6」:トルコ初の装輪式装甲兵員輸送車

2022年2月4日金曜日

非常に珍しいAFV:トルクメニスタンの「T-72UMG」戦車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 多くの中央アジア諸国と同様に、トルクメニスタンはソ連から受け継いだり、過去数十年間に外国から導入した装甲戦闘車(AFV)から構成されている魅惑的な機甲部隊を運用しています。

 後者の装備については、ロシアから「T-90S」、「BMP-3」、「BTR-80A」などの近代的なAFVを、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAE、中国といった国から大量の歩兵機動車(IMV)を調達することでその供給元が明示されました。AFVの供給元には米国、オーストリアとベラルーシも含まれているため、その結果として、上記のAFVと共に多様性に富むこの国の軍用車両の兵器庫を形成しています。

 これらの新しく導入したAFVに加えて、トルクメニスタンはソ連時代の(数種類の)AFVに関する多数のアップグレード計画を立ちあげました。

 現在、トルクメニスタンが保有する「BTR-80」装甲兵員輸送車(APC)の多くは、ウクライナやトルコが設計した戦場での有効性を大幅に高める遠隔操作式銃架(RWS)を装備しています。

 これらの発展に先立ち、トルクメニスタンは00年代に多数の「T-72」戦車と「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)をそれぞれ「T-72UMG」と「BMP-1U"シクヴァル"」規格に近代化するために、ウクライナと契約を結びました。

 トルクメニスタンの「T-72」をUMG規格に改修したことは、この時代にウクライナが締結に成功した数少ない戦車改修事業の一つです。成功例が少ないといっても海外に売り込むプロジェクトが不足していたわけではありません。実際、ウクライナの軍需産業は輸出先を見込んで次々と改修プログラムを出していました。

 しかし、大多数の国は「T-55」や「T-72AV」の精巧な改修計画よりも未改修の中古戦車に興味を示しました。この理由はおそらく顧客が(正確に)費用便益比をより有利に見積もった結果ですが、ウクライナが思いつきの改修計画を実際に大量生産することが非現実的だった点もその一因に含まれていたであろうことは言うまでもありません。


 現在、トルクメニスタン陸軍は「T-72 "ウラル"」や「T-72A」の初期・後期型だけでなく限られた数のT-72AVで構成される多種多様なT-72戦車群を運用しています。

 隣国のウズベキスタンやカザフスタンとは異なり、トルクメニスタンはソ連時代に駐留していた旧式戦車の詰め合わせで戦力を間に合わせる必要があったため、結果として「T-72B」や「T-80」などのより高度な戦車が不足しています。

 そうは言っても、トルクメニスタンはソ連崩壊後にこの地域で最新のMBTを購入した唯一の国であり、現時点で中央アジアにおける唯一の「T-90S」運用国でもあります。
 「T-90S」を入手する以前の時点で、すでにトルクメニスタンは大量の「T-72」を大幅に近代化することを通じて戦車部隊の戦力を強化しようとしていました。同時期にウクライナは多数の「T-72」改修計画を売り込んでいましたが、その中でも「T-72UMG」はおそらく最も知られていないものに違いありません。[1]

 それにもかかわらず、UMG規格は新型装甲、新型の昼夜兼用照準装置、発煙弾発射機、遠隔操作式式の「NSV」12.7mm重機関銃、そして新しいV-84エンジンを搭載することで「T-72」のほぼ全ての能力を大幅に向上させることを求めた改修型です。

 「T-72UMG」の最も注目すべき特徴は、ほぼ間違いなく砲塔に「コンタークト5」爆発反応装甲(ERA)が装着されていることでしょう。

 UMG規格への改修は、当初、北アフリカや中東の顧客を対象にしていたと考えられています。しかし、これらの地域の国々との契約は実現せず、最終的にトルクメニスタンがこの改修パッケージを購入した唯一の国となりました。



 トルクメニスタンにおけるUMG規格への改修は「T-72A(ヘッダーの画像)」だけでなく、多数の「T-72」の初期型「ウラル」(下の画像)にも施されたようです(注:よく見ると砲塔上部の前面に「ウラル」特有のステレオ式照準器があります)。

 ウクライナがおそらくトルクメニスタン陸軍が保有する「T-72」のほとんどを含む、はるかに大規模な改修の契約を目にしたと考えられる可能性はありますが、最終的に改修された戦車の数は数十台程度に限定されたようです。なぜならば、トルクメニスタンがロシアから「T-90」を調達し始めた2010年頃には、それ以上の「T-72」を改修する事業が実質的に終了してしまったからです。





 平均的なAFVマニアにとって、おそらくトルクメニスタンは難解な派生型を探す際にすぐに頭に思い浮かぶような国ではないでしょう。「T-72UMG」は多数のAFVと共にこの先入観が間違っているという事実を証明しています。

 UMG規格への改修された「T-72」の数は著しいものではありませんでしたが、トルクメニスタンの「T-72」群を完全に新型戦車へ置き換えるよりも安価な代替案として、将来的に同国の「T-72」を改修する必要が生じた際には、その入札プロセスに再びウクライナ企業が参加する可能性があります。しかし、彼らはトルコ、イスラエル、セルビア、ロシア企業との厳しい競争に直面するでしょう。なぜなえらば、これらの企業の全てが武器市場におけるこの国でのシェアを獲得したがっているからです。

 このような改修計画がどんな結果になろうとも、次の近代化改修が進められるならば、結果として完成したAFVはすでに使用されている魅惑的な – あなた方が全く予期しないこの国ではっきりと発見されたデザインの多様性の証しであるトルクメニスタン群が保有する機甲戦力のリストに加わることになるだけでしょう。



[1] https://en.wikipedia.org/wiki/T-72_operators_and_variants#Ukraine

※  この翻訳元の記事は、2021年8月7日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事   
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



2022年2月2日水曜日

ティグレ戦争:エチオピアでイラン製UCAV用誘導弾の部品が発見された(独占・短編記事)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 UAEがティグライ上空に展開させた「翼竜Ⅰ」無人戦闘航空機(UCAV)が数十人の民間人を死亡させたアラマタへの一連の空爆に関与した可能性について、私たちがそれを暴露してからまだ1週間も経っていませんが、現時点でイラン製UCAVが同じ空爆に関与した可能性が新たに判明しました。[1]

 新たに撮影された画像は、エチオピア・オロミア州のギダミ近郊で発見されたイラン製「ガーエム-5」精密誘導爆弾(PGM)の残骸を映し出しています。ドローンによる攻撃は民間施設の破壊や民間人の殺害をもたらしたと報告されていますが、これらは独立して検証されたものではありません。[2]

 エチオピア空軍(ETAF)は2021年8月に少なくとも2機の「モハジェル-6」UCAVをイランから導入して運用しています。[3]

 当時の追い詰められたエチオピア軍にとって不運なことに、この機種には制御システムに問題があったようで、「モハジェル-6」がようやく通常の戦闘任務を開始できるようになったのは2021年10月下旬になってからのことでした。[4]

 当初、これらはエチオピア北東部のセマラ空港に配備されていましたが、最近になって現在9機の中国製「翼竜Ⅰ」UCAVが配備されているハラールメダ空軍基地で少なくとも1機の「モハジェル-6」が目撃されました。[5]

 「モハジェル-6」は最大で40kgの兵装を搭載することが可能であり、2~4発の「ガーエム-5」PGMもUCAV用の兵装として含まれています。

 「モハジェル-6」の滞空性能は12時間で最大飛行高度は約5,500mとされており、このUCAVのメーカーは戦闘行動範囲(最大航続距離か行動半径なのかは不明)が200キロメートルに及ぶと主張しています。[6]

 この航続距離ではハラールメダ空軍基地やセメラ空港からギダミに到達できないため、「モハジェル-6」はより近い地域にある飛行場に前進配置されている可能性があります。

イランで展示された「ガーエム-5」(下段)。挿入されている2つの画像はティグライで発見された「ガーエム-5」の残骸。

 アビー・アハメド政権と紛争中であるオロミア州の一部で、「モハジェル-6」が明らかに活動的になっているようです。2021年8月に、オロモ解放軍(OLA)はティグレ人民解放戦線(TPLF)と同盟を結び、エチオピア政府に対抗する統一戦線を形成しています。

 現在も続くエチオピアの紛争については、一般的にエチオピア政府とTPLFの間で起きているものと考えられていますが、実際のところは国内各地に存在するさまざまな勢力が互いに争っているのです。

 国内各地での争いは総合的な状況を複雑化し、和平合意が実現する可能性を低くすることに多大な悪影響を与えることは火を見るよりも明らかでしょう。

ギダミ近郊で発見された「ガーエム-5」の部品

 ティグレ防衛軍がアムハラ州とアファール州から全兵力を撤退させた今こそが、まさに和平交渉の絶好の機会であるといえます。

 しかし、空爆の継続はエチオピアにおける和平プロセスの将来にとって良い前兆ではありません。空爆を即座に停止することは、エチオピアの平和に至る長い道のりの第一歩となるかもしれません。

セマラ空港の「モハジェル-6」用地上管制ステーションの前に立つアビー・アハメド首相

この記事の作成にあたり、Saba Tsen'at Mah'derom 氏に感謝を申し上げます。

[1] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[2] https://twitter.com/Habtamu30820631/status/1479083838215274502
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] Unfit For Service: Ethiopia’s Troublesome Iranian Mohajer-6 UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/unfit-for-service-ethiopias-troublesome.html
[5] Iranian Mohajer-6 UCAVs Deploy To Harar Meda Air Base In Ethiopia #Shorts https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/iranian-mohajer-6-ucavs-deploy-to-harar.html
[6] https://twitter.com/brokly990/status/1256994704568258562

※  この翻訳元の記事は、2022年1月7日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。




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ティグレ戦争:UAEが非人道的なドローン攻撃に関与した(独占記事)

2022年1月30日日曜日

ティグレ戦争:いまだにエチオピア軍への物資輸送を続けるイラン機


著:Gerjon 氏が収集したデータを基にステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ が執筆 (編訳:Tarao Goo

 (6機の「翼竜Ⅰ」UCAVを輸送した後で)エチオピアへ武器や装備類を運ぶUAEの貨物便が停止したように見えるにもかかわらず、同種の貨物を運んでいると思しきイランの航空便はこの国に到着し続けています。[1] [2]

 過去1ヶ月で、「ファルス・エア・ケシュム」社の「ボーイング747-200FSCD」貨物機が5回もアディスアベバ・ボレ国際空港に着陸しました。「ボーイング747」の積載物の詳細については現時点では推測することしかできませんが、先述のフライトが2021年8月からセマラ空港に配備された2機のイラン製「モハジェル-6」UCAVに関連していることは考えられなくもないようです。[3] [4]

 ティグ戦争の流れを変えるために武装ドローン戦力を必死に求めたエチオピアは、期待を胸にして2機の「モハジェル-6」を入手することに成功しました。とはいえ、エチオピアでの運用には大きな問題があり、制御システムの問題で実際に用いることが阻害されたため、両機はすぐに駐機(放置)状態にされてしまいました。[3]

 「モハジェル-6」が抱える問題がやっと解決されたと思われるには2021年10月下旬まで時間を要したようです。2021年11月中には両機はセマラ空港の滑走路などで定期的に目撃されており、 ある程度は飛行していることが推測されています。 [5]

 「ファルス・エア・ケシュム」社は、2機の「ボーイング747-200」貨物機を世界中に数多く存在する送り先に飛ばしています。この航空会社はイラン革命防衛隊(IRGC)の傘下にある会社で、シリアに展開したイラン民兵に対する兵器類の輸送で2019年にアメリカから制裁を受けており、レバノンのヒズボラへの武器輸送にも関与していることが知られています。[6] [7]

 「ボーイング747」だけがエチオピアを頻繁に訪れるイランの航空便ではありません。「ポウヤ航空」も同様のフライトで「Il-76TD」を往来させています。この航空会社もIRGCが所有している企業であり、同様にエチオピアへの武器輸送に使用されたと考えられています。[8][9]

 私たち著者はエチオピア国防軍(ENDF)で使用されているイラン製兵器の痕跡を徹底的に調査しましたが、現時点では2機の「モハジェル-6」とその支援資機材及び弾薬だけがエチオピアで存在が確認されている唯一のイラン製兵器となっています。ENDFが空輸されたロケット砲といったほかのイラン製兵器を用いて作戦に活用していると考えるのも妥当な見方ですが、「モハジェル-6」が使用する「ガーエム」誘導爆弾の追加分を、まさにこれらの「ボーイング747」を用いて定期的に引き渡しているのでしょう。

 この数はティグレ戦争が勃発する前のイランからエチオピアへのフライト数と比較すると100%増加していますが、UAEからの119便と比較すると存在感が極めて薄いものとなっています(注:内戦前にはイランからの貨物便が全くなかった事を意味しています)。

 これまでに、UAEはエチオピアに最低でも6機に「翼竜Ⅰ」UCAVや迫撃砲弾で武装した大型のVTOL型UCAVをエチオピアに届けました。また、エチオピアも2021年10月にUAEから50台の救急車仕様のトヨタ・ランドクルーザーを供与されたことを公表しています。[11] [12][13]

エチオピア(ボレ国際空港とハラールメダ空軍基地)への貨物便の飛来回数

 この1ヶ月で現地の状況は劇的に逆転しました。衰えることなく続くドローン戦による圧力でティグレ軍部隊に首都アディスアベバへの侵攻を断念させ、拠点のティグレ州まで退却を余儀なくさせたのです。

 エチオピア側でのUCAVの配備と使用については依然として全くわかっていませんが、ティグレ戦争をUCAVが突破口を開いた紛争のリストに追加できることを示唆する理由は十分にあります。

 この偉業は少なからずエチオピア軍に(UCAVを含む)必要な武器や装備の供給を維持するため、UAEとイランによって行われた大規模な空輸を通じて達成されたものと言っても差し支えないでしょう。

 アフリカのこの地域におけるイランの武器と多岐にわたる支援の急激な拡散は、アメリカを大いに動揺させるかもしれません。イランから武器を調達した代償について、エチオピアは後でアメリカの制裁という形で支払うことになるのでしょうが、まだ目に見えてはいないようです。



[1] https://twitter.com/Gerjon_/status/1475778475663544321
[2] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[3] Unfit For Service: Ethiopia’s Troublesome Iranian Mohajer-6 UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/unfit-for-service-ethiopias-troublesome.html
[4] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[5] Ethiopia now confirmed to fly Chinese armed drones https://paxforpeace.nl/news/blogs/ethiopia-now-confirmed-to-fly-chinese-armed-drones
[6] U.S. lands sanctions on Iranian cargo airline https://www.freightwaves.com/news/u-s-lands-sanctions-on-iranian-cargo-airline
[7] Iran's secret weapons-smuggling air routes to Lebanon revealed by intel sources https://www.foxnews.com/world/irans-secret-weapons-smuggling-air-routes-to-lebanon-revealed-by-intel-sources
[8] https://twitter.com/search?q=%40gerjon_%20pouya&src=typed_query
[9] Pouya Air (Yas Air) https://www.iranwatch.org/iranian-entities/pouya-air-yas-air
[10] https://twitter.com/Gerjon_/status/1475778475663544321
[11] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[12] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[13] The Cargo Cleared For Print: UAE Wartime Deliveries To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/the-cargo-cleared-for-print-uae-wartime.html

※  この翻訳元の記事は、2021年12月28日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



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2022年1月27日木曜日

ジャングルにようこそ!:コンゴ民主共和国におけるウクライナの「T-64B1M」戦車



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナが販売した兵器は世界中の多くの軍隊の保有リストの中で広く行き渡っており、予算内で軍隊を活性化させようとする国家にとって、この国は兵器の供給源として頼りになる存在であり続けています。

 ソ連から引き継いだ膨大な数の余分な装甲戦闘車(AFV)や航空機、艦艇だけでなく、兵器と同様に重要な、これらの装備をオーバーホールやアップグレードでサポートする軍需産業を保有しているため、ウクライナの兵器はアフリカやアジアの国々に特に人気があります。これらの理由から、この国の軍産複合体は特にこの輸出市場に応じるために努力の大半を集中してきました。

 しかし、ウクライナがすぐに気付いたように、外国の関心の大部分は新たに生産された兵器や戦車といった装備の複雑な改修プロジェクトではなく、オーバーホールされた中古装備に向けられていました。どうやらウクライナ側はそれらの製品の市場が依然として十分に存在すると判断していたよらしく、輸出先を見つけるという僅かな希望の中で多数のAFV改修プロジェクトが立ちあげられましたが、そのほとんどが無駄に終わったことはよく知られています。

 極めて稀な成功例としては、2013年にコンゴ民主共和国(旧ザイール:コンゴ共和国との混同を避けるため、以下はDRコンゴと表記)との間で50台の「T-64」戦車を引き渡すという契約を締結したことがあります。納入される前に、これらの戦車は大規模なオーバーホールを受けて「T-64B1M」規格にアップグレードされました。

 「T-64B1M」は、砲塔への「ニージュ」爆発反応装甲(ERA)の装着と追加のERAタイルをサイドスカートと(トップアタック型対戦車ミサイルの脅威から戦車を守るため)砲塔上部へ装着することによって、戦車の防御力の向上に重点を置いた「T-64B1」の改良型です。さらに、砲塔の後部に追加されたバスルは弾薬などの収納スペースを大幅に拡張させます。

 しかし、それ以外の点ではほとんど改善が図られていないことが明らかであり、1970年代の射撃統制システムには変更が加えられていません。

 結果としてもたらされた「T-64B1M」のスペックはウクライナ陸軍で使用されているT-64BM「ブラート」とほぼ同じですが、より初歩的な射撃統制システムのままのおかげで砲発射型対戦車ミサイル(GLATGM)の発射能力を備えていません。



 DRコンゴがすでに自国軍で運用されている「T-72(AV)」の追加よりも機械的に複雑な「T-64」の導入を決定した理由は不明であり、技術力で知られているかは定かではない軍隊を持つ国にとって、これは完全に奇妙な選択です。

 異なる設計のエンジンや互換性のない部品を使用した全く新しいタイプのMBTを導入することは、特に(消耗が激しく、十分なスペアパーツがいつも入手できるとは限らない可能性がある)過酷なジャングルでの状況下では、この国と軍隊が持つ、ただでさえ脆弱な物流システムをさらに複雑なものにしてしまいます。

 しかし、彼らの兵站面での欠点はあまりにも信じがたい購入価格によって相殺される予定でした。実際、DRコンゴが支払った定価はアップグレードされた戦車1台につき、たった20万ドル(約2,200万円)でした:50台のT-64を発注したので、合計で1,000万ドル(約11億円)を支払ったことになります。[1] 

 これを日本の自衛隊が2010年に13台の「10式戦車(新品)」を発注した際と比較してみると、その価格は1台あたり870万ドル(約9.5億円)という桁外れのものでしたので、DRコンゴが支払ったT-64がいかに安価だったのかが一目瞭然です。[2]

 DRコンゴにとって不幸なことに、ウクライナ東部における武力紛争の勃発が軍によるアップグレードされた戦車の第一陣(25台)の接収とウクライナ国家親衛軍への譲渡を引き起こしました。結果として0台の戦車が1,000万ドル(約11億円)という価格になったことは、(DRコンゴ側からすると)ウクライナとの取引が急に全く安い買い物ではなくなったと感じたに違いありません。[1]


 2016年に最初の25台の「T-64B1M」がようやくDRコンゴに出荷する用意ができた時点で、その供給には論争がなかったわけではありません。なぜならば、この出荷を担当したエストニア企業「トランスロジスティック・グループ OÜ」が違法にそれを行っていたことが判明したからです。[3]

 ウクライナ国内での問題もそれに負けず劣らずで、すでに同年の10月には、余剰軍需品としてウクライナ国防省の保管場所から持ち出された「T-64」戦車のコストが過小見積もりされていたことに関して、ウクライナ検察庁が捜査を開始しています。捜査当局によると、DRコンゴへの売却は270万ドル(約3億円)を超える予算の損害をもたらしたとのことです。[3]

 このような複雑な状況のため、最終的に戦車50台の完全な売却が履行されたのか、それともウクライナが残りの25台を出荷していないままなのか、ある程度の不確実性があるのは驚くことではありません(注:結論としてDRコンゴに引き渡された「T-64」の数は依然として不透明です)。

2台のT-64B1Mを背景にDRコンゴ共和国防衛隊の兵士が63式107mm多連装ロケット砲の横でポーズをとっています。 よく見るとT-72AVと旧ユーゴ製のM-56A1 105mm榴弾砲も写り込んでいます。

 一方のDRコンゴでは、発注してから3年後にようやく戦車が届いたため、軍は造作なく安堵したことでしょう。

 到着した後、これらの「T-64B1M」はこの国が入手した大部分の現代的な兵器群と同様に、共和国防衛隊(Garde Républicaine)に配備されました。その現代的な兵器には、「T-72AV」や「EE-9」だけでなく「2S1」自走榴弾砲と「RM-70」多連装ロケット砲(MRL) といった兵器も含まれています。

 (これもウクライナから入手したと思われる)「T-55M」や中国の「62式軽戦車」といった旧式装備は一般の陸軍部隊で使用されています。サハラ以南に存在する大部分の軍隊と同様に、DRコンゴの軍隊にはあらゆる種類の誘導兵器が大いに欠けており、大量のMRLと対空砲がそのギャップを埋めています。

キンシャサで行進する共和国防衛隊のT-72AV。サイドスカートの欠落と非標準装備であるDShK 12.7mm重機関銃の存在に注目してください。

 「T-64B1M」のコンゴ人乗員は2014年にウクライナで訓練を受けたものの、(後になってから判明したことですが)彼らは訓練を受けた戦車を持たずに祖国に戻っていきました。

 2016年にようやく到着した後、これらの「T-64B1M」は本稿執筆時点でも継続中のカムウィナ・ンサプ(伝統的首長の名称で本名はジャンピエール・ムパンディ)の反乱を鎮圧するためにコンゴ中央部のカサイ地方に迅速に配備されました。このケースは、(これまでに確認された沿ドニエストル、アンゴラ内戦とウクライナ東部での使用以降に)T-64が戦闘で使用された4度目の例となりました



 DRコンゴは現時点で世界で11番目に大きな国ですが、広大なジャングルや航空機以外の手段ではアクセスできない地域が多いおかげで、この国における実際に居住可能な地域はかなり狭いものとなります。当然ながら、この事情はAFVの使用にも問題を引き起こしており、この国の大部分の地域は重火器の配備には全く適していません。

 少なくとも戦車戦に適した僅かな場所に機甲戦力を展開できるようにするため、共和国防衛隊はウクライナのKrAZ戦車運搬車の部隊を運用しており、この国の鉄道網はそれに繋がっている数少ない場所にAFVを輸送することが可能です。





 DRコンゴの「T-64B1M」は、ウクライナがアフリカやアジアの顧客へ通例的に提供している装備で興味深い例外的な存在です。

 それにもかかわらず、ウクライナの武器輸出品目は多様ではないにしても、どんなものでも揃っています。オーバーホールされた「T-55」からアップグレードされた「T-64」や「T-72」だけでなく、T-84「オプロート」 のような新設計の車両までの幅広い種類の戦車が売り出されていることから、新しい戦車を購入したいと考えている国にとっては豊富な選択肢があることは間違いありません。

 身近なところでは、ウクライナ軍に仲間入りするオーバーホールされた戦車が増加しており、「ストラーシュ」BMPTといったほかのプロジェクトもおそらくはいつかは就役にたどり着くことになるかもしれません。



[1] Экспорт танков Т-64: Конголезский контракт. https://andrei-bt.livejournal.com/470361.html
[2] https://web.archive.org/web/20140209112406/http://www.mod.go.jp/j/yosan/2010/yosan.pdf
[3] Некоторые финансовые аспекты несостоявшейся продажи украинских Т-64 в ДРК https://diana-mihailova.livejournal.com/24476.html

※  当記事は、2021年6月14日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




2022年1月26日水曜日

ティグレ戦争:UAEがティグライ州での非人道的なドローン攻撃に関与した



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 UAEの「翼竜Ⅰ」無人戦闘航空機(UCAV)6機とそのオペレーターがエチオピアに配備されてから僅か1カ月しか経過していませんが、彼らがすでにティグライ州の町アラマタの民間施設に対する一連の空爆に関与していることが明らかとなりました。

 この空爆では町の病院や市場に着弾し、民間人に42人の死者と少なくとも150人の負傷者をもたらしました。[1] [2]

 死者の大半は、エチオピア空軍(ETAF)の「Su-27」戦闘機が投下した無誘導爆弾によるものと考えられています。「Su-27」は空中戦のために導入された機体ですが、エチオピアでは無誘導爆弾やクラスター爆弾を搭載した即席の爆撃機として活用されているからです。[3]

 しかし、アラマタの被害地域を注意深く分析した結果、UAEの「翼竜Ⅰ」に装備されている標準的な兵装である、中国製「ブルーアロー7」空対地ミサイル(AGM)の残骸も発見されました(注:「ブルーアロー7」は「AKD-10」の輸出型)。ETAFも同様に「翼竜Ⅰ」を運用していますが、これらの搭載兵装としては2021年11月初旬に第1陣が納入された「TL-2」AGMしか知られていません。[4]

 当初、エチオピアは「翼竜Ⅰ」を無誘導爆弾を搭載した「Su-27」の目標を指示するための索敵機としての運用を試みたようですが、後になってこれらを最大で4発の誘導弾を搭載した対地攻撃機として活用することにしたようです。[5]

 (最低でも、より多くの情報が得られるまでは)「ブルーアロー7」の残骸と民間人の犠牲に因果関係があるのかは確実視できませんが、UAEがイエメンやリビアでの無人機作戦の一環として、民間施設を頻繁に空爆してきたことは知られています。

 2020年には、アムネスティ・インターナショナルはUAEが武装ドローンを使用して「民間人の住宅、野戦病院を含む医療施設と救急車を標的にした」ことを理由に、アメリカにUAEへのドローンの販売を停止するように要請しています。[6] [7] [8]

 また、同年にはUAE「翼竜Ⅰ」がリビアのトリポリにある士官学校に対する無残な空爆を実施し、非武装の士官候補生26人を殺害されるという出来事もありました。[9] 

アラマタで発見された「ブルーアロー7」のロケットモータの噴出ノズル部

 アラマタでのドローン攻撃の後、リビアで発見された「ブルーアロー7」の残骸と比較するのに十分な数の同AGMの部品が爆発から生き残りました。リビアで発見されたものは、やはりUAEが国際的に承認されたリビア政府との4年以上にわたる戦争で使用したものです。[10]

 これによって両者が完全に一致していることが確認されました。最も識別しやすい部品は「ブルーアロー7」の尾部に位置するロケットモーターの噴射ノズルであり、通常はほとんどの衝撃を受けても四散することなく残存しているようです。そのため、この部品は比較対象としては最適なものとなっています。

 アラマタで発見されたAGMの残骸に関する映像はここで視聴することができます。 [11]

 「ブルーアロー7」AGMの残骸については、リビアで発見されたものはこちらこちらで、モロッコで発見されたものはこちらで見ることができます。[12] [13] [14]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」のロケットモータの噴出ノズル部(左)とリビアで発見された同ミサイルの残骸(右)。クリックすると画像が拡大表示されます。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」の残骸。挿入されている画像はリビアで発見された同ミサイルの残骸です。クリックすると拡大表示されます。

 UAE軍のエチオピアへの関与がイエメンやリビアへの過去の介入と同じようになるのであれば、ジャーナリストは注意を払うことを余儀なくされるかもしれません。

 リビアやイエメンと同様になる場合、病院や救急車といった非軍事的な民間施設などに対する攻撃が例外ではなくなって常態化し、発生した人権侵害の責任を問われる者が全くいないという可能性すらあります。ただし、イエメンやリビアのように、アラマタで発見された「ブルーアロー7」の残骸がその責任を明らかにするでしょう。

「翼竜Ⅰ」(イメージ画像であり、UAEやエチオピアとは無関係です)

特別協力: Saba Tsen'at Mah'derom(敬称略)

[1] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[2] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[3] Su-27 Fighters Deployed As Bombers In Tigray War https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/su-27-fighters-deployed-as-bombers-in.html
[4] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[5] Deadly Ineffective: Chinese-Made Wing Loong UAVs Designate Targets For Ethiopian Su-27 Bombers https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/deadly-ineffective-chinese-made-wing.html
[6] Libya migrant attack: UN investigators suspect foreign jet bombed centre https://www.bbc.com/news/world-africa-50302602
[7] UAE implicated in lethal drone strike in Libya https://www.bbc.com/news/world-africa-53917791[8] US urged to stop drone sales to UAE over civilian deaths in Yemen and Libya https://www.middleeasteye.net/news/amnesty-demands-us-halt-sale-drones-uae
[9] https://twitter.com/Oded121351/status/1213852209038987268
[10] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[11] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg
[12] https://twitter.com/jumaa_adn_adel8/status/1215352639808069632
[13] https://twitter.com/Oded121351/status/1213893498103123968
[14] Morocco's Missiles https://actualcontrol.substack.com/p/moroccos-missiles

※  この記事は、2022年1月3日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳し
 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇
 所があります。