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2024年1月13日土曜日

南アジアの稲妻:パキスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタンは1990年代後半から豊富なUAVの運用国であり続けています。

 2004年、パキスタン空軍(PAF)は「SATUMA( 偵察及び標的用無人航空機)」社「ジャスース(スパイ)Ⅱ"ブラボー+"」 を導入したことで、空軍がパキスタン軍内で最初にUAVの運用をした軍種となりました。

 PAFに続いて、パキスタン陸軍(PA)はすぐに「グローバル・インダストリアル&ディフェンス・ソリューションズ(GIDS)」社によって設計・開発された「ウカブ(鷲)P1」UAVを導入し、2007年には運用試験を始め、翌2008年に正式な運用に入りました。

 「GIDS」社は「ウカブP2」として知られている「ウカブP1」のさらなる能力向上型を開発し、同機は2010年にパキスタン海軍(PN)に採用されました。

 情報が極めて少ないパキスタンにおけるドイツ製「ルナ」UAVの物語は、2000年代にPAが主要戦術UAVとして「EMT(現ラインメタル)」社製「ルナX-2000」を調達した時点から始まりました。

 PNもこの機種に好印象を持ったようで、2010年ごろから独自の「ルナX-2000」採用計画に着手しましたが、この計画は(おそらく資金不足が原因で)先送りされたようで、その代わりに臨時の措置として国産の「ウカブP2」が採用されました。

 「ウカブP2」が現役から退いた2017年に、PNはついに「X-2000」より長い航続距離と能力が向上した高性能型である「ルナNG」を導入しました。

 まだ「ウカブP2」がPNで現役にあった2016年、長い滑走路なしで離陸可能な戦術UAVの需要は結果としてPNにアメリカから「スキャンイーグル」を導入するに至らせました。

 なぜならば、PNは2008年にオーストリアの「シーベル」社製「カムコプター S-100」のトライアルを実施したことがあったものの制式採用せず、海上での運用に適した無人機システムを長く探し求めていたからです。

 「ボーイング・インシツ」社製「スキャンイーグル」はカタパルトで射出され、スカイフック・システムで回収される仕組みとなっています。これらのシステムのコンパクトなサイズは、「スキャンイーグル」を海軍艦艇のヘリ甲板から運用させることを容易なものにさせていることを意味しています。


 パキスタンは国内に配備されたアメリカ軍の「MQ-1 "プレデター"」無人戦闘航空機(UCAV)によって、武装ドローンの破壊的な能力をダイレクトに目の当たりにしました。

 このUCAVの配備とその後の実戦投入は、PAに強烈な印象を与えたに違いなく、すぐにアメリカから武装ドローンの購入を試みました。特に意外なことでもないでしょうが、この努力が無駄に終わったことは今では周知のとおりです。

 アメリカからUCAVの導入を断られたPAは東の隣国に目を向け、中国製「CH-3A」UCAVの生産ライセンスを取得し、国内で生産された同機種は「ブラク(稲妻)」と呼称されるようになりました。より高性能な無人プラットフォームが登場しているにもかかわらず、「ブラク」は現在でもPAとPAFで現役の座に残り続けています。

 「ブラク」の設計からインスピレーションを受けて、「GIDS」社が設計した改良型が「シャパル-1」です。この無人機システムは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用として、2021年にPAFに採用されました。

 ただし、「シャパル-1」は2021年の共和制記念日における軍事パレードで初めて一般公開された、「シャパル-2」ISR用UAVに取って代わられることになるでしょう。

 この新型機については、その後の2021年半ばに実施されたPAFの演習に参加する姿が目撃されため、すでに運用段階に入ったことが確認されています。「シャパル-2」は主にISRの用途で使用されるものの、最近に発表された武装型はPAFで運用されている「ブラク」を補完したり、その後継機となる可能性が高いと思われます。

武装型「シャパル-2」は2発の誘導爆弾などが搭載可能

中国からの買い物

 2021年、PAは「ブラク」飛行隊を中国製の「CH-4B」UCAVで補完しました。

 その一方、PAFは2016年に「翼竜Ⅰ」UCAVの運用試験を行っていたことが知られていますが、その1機が墜落したことでメディアの注目を集めました。[2]

 しかし、PAFはさらなる「翼竜Ⅰ」を発注することはせずに代わりとして、より優れた打撃能力をもたらす、より重い「翼竜Ⅱ」UCAVを選択しました。その後、2021年にPAFの基地で最初の同型機が目撃されました。[1]

 PNは陸軍の先例に倣って「CH-4B」の採用に落ち着いたようで、大量の同型機が2021年後半にPNに引き渡されました。[1]

 PAFは、自軍で装備するための高高度長時間滞空(HALE)型UAV計画を推めていることが判明しています。

 PAFの傘下にある「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、「CH-4」や「翼竜Ⅰ」級の国産軽量中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを開発していることが知られており、2021年に政府やPAFの関係者がPACを訪問した際にその1機が目撃されています。[3]

 国立工学科学委員会(NESCOM)は、2021年にトルコ航空宇宙産業(TAI)と国内で「アンカ-S」UCAVの部品を製造する契約に調印しました。[4]

 また、国境警備で運用している既存の僅かなUAV飛行隊を補完するために、パキスタン内務省(MOI)も新しいUAVを購入することを望んでいますが、現時点ではどうなるか不透明です。

パキスタン陸軍 (PA)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機
  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも5機を導入しているが、追加発注がある模様)


パキスタン空軍(PAF)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機


パキスタン海軍(PN)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機

  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも4機が導入されたが、未確認)


[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] https://twitter.com/KhalilDewan/status/1465475715567169538
[3] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。



おすすめの記事

2023年10月7日土曜日

アハトゥンク・パンツァー!:トルコで運用された「Ⅲ号戦車」と「Ⅳ号戦車」


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルコ陸軍による「レオパルト1A3」「レオパルト2A4」戦車の運用は非常によく知られており、後者は2016年末の「イスラム国」との戦闘に投入されたこともあります。

 しかし、トルコにおけるドイツ製戦車の歴史は1980年代から始まった最初の「レオパルド1」の受領から始まったわけではありません。実際には1943年にナチス・ドイツから「III号戦車M型」「IV号戦車G型」が引き渡された時点がその歴史の始まりなのです。これらの戦車は、すでにトルコ陸軍で運用中の戦車やその他の装甲戦闘車両の魅惑的なコレクションに加わりました。

 トルコは(ソ連・イギリス・ドイツ・アメリカ・フランスを含む)第二次世界大戦の主要国が開発したほぼ全ての戦車を運用した世界で唯一の国です。

 1932年、トルコはソ連から「T-26 "1931年型"(機関銃塔2基搭載型) 」軽戦車2台と「T-27」タンケッテ(豆戦車)4台の寄贈を受け、これらの戦車で得た有益な経験は、最終的にトルコが1934年にソ連から「T-26 "1933年型"Mod. (45mm砲搭載)」64台と「T-37A」水陸両用軽戦車1台、そして「BA-3」装甲車34台を発注することに至る結果をもたらしました。

 これらのソ連戦車が、トルコ軍で就役した初の本格的な戦車でした(ただし、歩兵を戦車に慣れさせる目的で1928年にフランスから「FT-17」が1台調達されています)。1940年には、イギリスから少なくとも12台のヴィッカース「Mk VI」軽戦車を導入したほか、フランスが侵攻される僅か数か月前に100台のルノー「R35」軽戦車もトルコに納入されました。

 残念なことに、1930年代から1940年代にかけて導入された戦車を撮影した画像はほとんど残っていません。確かに言えることは、第二次世界大戦中もトルコによる戦車獲得の勢いが衰えなかったということでしょう。

 この国は1945年2月にナチス・ドイツと日本に宣戦布告するまで中立を保っていたものの、トルコ陸軍は国境付近で激しく展開する戦争の中で戦力拡充を図ることを決定しました。

 枢軸国と連合国は互いに自陣営でのトルコの参戦(または忠誠)を望んでいたため、フランス・イギリス・アメリカ・ドイツはトルコ軍に膨大な数の兵器を供与しました。このような取り組みの結果、トルコはイギリスの「ハリケーン」や「スピットファイア」からフランスの「MS.406」、さらにはドイツの「Fw.190」に至るまでのあらゆる戦闘機を入手して運用するまでになったのです。

 また、イギリスは1941年から1944年にかけて「バレンタイン」戦車と「M3"スチュアート"」軽戦車を各200台程度を供給することによって、トルコの機甲戦力の大幅な増強しようと努めました。どちらも当時の時点で既に旧式化していましたが、それでも「R35」と「T-26」に比べて飛躍的な性能向上をもたらし、1943年に残存する「T-26」の退役を可能にさせました。

 トドイツもイギリスに負けじとばかりにトルコへ戦車の売り込みをかけた結果、(砲弾と予備部品と一緒に)1943年に「III号戦車」35台と「IV号戦車」35台を調達するに成功しました。[1]この数はイギリスが納入した500台近い戦車と比べると見劣りますが、もしかするとドイツ側の戦況が反映されているのかもしれません。

パレード中の(少なくとも7台の)「IV号戦車」:戦後に約30台の「M4A2 "シャーマン"」が納入されるまで、トルコ軍が保有する中で最も高性能な戦車であり続けた

 最終的にトルコが受領した戦車の総数については、いまだに謎のままとなっています。ニーダーザクセン・ハノーヴァー機械工場(MNH)が1943年1月から2月にかけて合計56台の「III号戦車」を組み立て、そのうち35台がトルコに引き渡される予定でしたが、56台のうちの相当数がドイツ国防軍に配備されてしまいました(第505重戦車大隊:Schwere Panzer-Abteilung 505にも割り当てられました)。[2]

 納入された「III号戦車」及び「IV号戦車」はトルコ軍ではそれぞれ「T-3」と「T-4」と呼称され、数年前に入手したドイツの「統制型乗用車(アインハイツ-PKW)」と一緒に運用されました。ただし、予備部品の不足と保有数の少なさが原因で、これらの戦車は1940年代末に退役したようです。

 ちなみにトルコだけがドイツの工業生産力に失望した国ではなったことを疑う余地はありません。というのも、一部の枢軸国でさえ長い間待たされた挙句、結局は発注した戦車が僅かしか納入されなかったからです。

 第一次世界大戦や第二次世界大戦の勃発でイギリスやドイツから何度も徴発されたことがあったため、トルコ軍からすれば発注した兵器が接収されることは全く目新しいことではありません。実際、イギリス政府が国内で建造中の「ドレッドノート」級戦艦2隻を接収したことでオスマン帝国に多大な反感を与え、同帝国政府が中央同盟に加わる決定を下す一因となった過去がありました。

 隣国のブルガリアが(訓練用の3台は納入されなかったものの)91台の「IV号戦車」を完全に受け取ることに成功したのは、同国が枢軸国側として積極的に戦争に関与してきたことが関係していることは明らかでしょう。ブルガリア陸軍は1943年に合計で88台の「IV号戦車のH型とG型を受領しましたが、1944年に43台が、もう11台も1945年に失われました。 [2][3]

 ブルガリアが連合国側に寝返った後の1945年3月以降、ソ連から合計で51台の「IV号戦車」が供与されました。[4]

 これらの戦車は1958年まで現役であり、それ以後はNATO加盟国であるトルコとの国境沿いに固定式のトーチカとして車体が埋められましたが、これらが掘り起こされたのは2010年代に入ってからのことだったのです! [5]

「IV号戦車」の前でポーズをとる兵役中の俳優ケマル・スナル(1944-2000)(アンカラのエティメスグットにて)

 主都アンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館には、トルコ軍の「III号戦車M型」と「IV号戦車G型」が各1台ずつ展示されています(ただし、博物館は軍事基地の敷地内にあるため、一般人は立ち入り禁止です)。

 都市開発事業の余波や、国家情報機構(Millî İstihbarat Teşkilatı)の新本部庁舎と建設中のトルコ版ペンタゴンが演習場のスペースの大半を占めることになるため、基地と博物館の移転が予定されています。

 こうした現代の気晴らし的な事業が、 展示されている装甲戦闘車両の整備に少しも労力が費やされていないという残念な結果を招いているのかもしれません。この一例としては、(奇妙なことに)砲身が小さすぎると判断された戦車に偽の砲身が搭載されたということが挙げられます。幸いにも、「T-3」と「T-4」はすでに十分に大きな砲身を最初から装備していたことから、このような骨抜きにされる運命から免れることができました。


アンカラのエティメスグット戦車博物館における「III号戦車M型」と「IV号戦車G型」:前者はシュルツェンが外された状態で展示されているが、トルコに納入されたものには最初から装備されていなかったものと思われる

 ドイツ製戦車の納入数が少なかったことは、その長年にわたる運用が決してトルコ軍の運用に本当の影響を与えることがなかったことを意味しました。

 他国から何百台もの戦車やAFVを受領したこともあり、ドイツによる戦車の供給は同国が戦争に負けていることに加えて、自身が同盟国や潜在的な同盟国をしっかりと自国の味方にさせ続けるための十分な兵器を供給できなかったことを示すのに役立った程度でしかなかったことは間違いないありません。

 とはいえ、第二次世界大戦中に急速に変化した戦車の設計思想を十分に観察する機会を得たというだけの理由で、トルコは手に入れられるものなら何でも喜んで受け入れたと思われます。

 皮肉なことに、トルコ軍は1990年代初頭までブルガリア軍の埋められた「パンツァー」に直面していた事実は注目に値します。つまり、第二次大戦時代のドイツ戦車は戦力としてよりも、脅威としてはるかに長く生き残ったのです。

しかし、今やその両方の役割を明確に放棄した旧式のドイツ製戦車は、興味をかき立てる物語を今日のトルコ(と関心を持つ当ブログの読者に)に思い起こさせてくれる存在であり続けるに違いありません。


[1] Unearthing WWII aircraft buried in Kayseri https://www.dailysabah.com/op-ed/2019/03/06/unearthing-wwii-aircraft-buried-in-kayseri
[2] Surviving Panzer III Tanks http://the.shadock.free.fr/Surviving_Panzer_III.pdf
[3] Matev, Kaloyan, The Armoured Forces of the Bulgarian Army 1936-45, Helion, 2015, pp. 120-122
[4] The Krali Marko Line https://wwiiafterwwii.wordpress.com/2021/12/25/the-krali-marko-line/

特別協力: Mark Bevis(敬称略)

※  この翻訳元の記事は、2022年12月23日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事   
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



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2023年4月30日日曜日

深海から浮上した物語:インドネシアの実験的な小型"Uボート"


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 ミリタリーファンは、常に見聞きしたことのない魅惑的な戦記を追い求めています。

 すでにマーク・フェルトンが世界中の人々の関心を引くために相当な数の戦記を世に出すという偉業を成し遂げているのもの、依然としてさらに多くの情報が埃にまみれた資料や写真の中に隠されたままとなっており、いつの日にか公表されることを待ち続けています。

 そうした話の一つが、1948年にジャワ島でドイツの元潜水艦乗組員がインドネシアの独立勢力のためにミゼットUボート(以下、特殊潜航艇と記載)を設計・建造した話です。[1]

 この潜航艇は最初の海上公試で沈没してしまいましたが、それでも専門的な機械や機器を備えていない鉄工所で(本物の設計士ではない)ドイツの潜水艦乗組員によって設計と建造がなされたことは目を見張るべき偉業と言えるでしょう。

 今回取り上げた話に登場するドイツ軍の潜水艦乗組員は、第二次世界大戦中の太平洋とインド洋で任務に就いていたドイツ(とイタリア)のUボート部隊「グルッペ・モンズーン(モンスーン戦隊」に所属していた人たちです。

 日本が支配下に置いたマレーシア・シンガポール・インドネシア(当時はまだ蘭印:オランダ領東インド)を拠点に行動していたこの戦隊の作戦地域は、ドイツ軍と日本軍(そしてイタリア軍)が実際に同じ戦域で戦った唯一の場所でした。

 1945年5月8日のドイツ降伏した後に残存していたドイツの潜水艦4隻とイタリアの潜水艦2隻は日本側に接収され、乗組員はインドネシアで抑留されたり、今や日本艦となったこれらの潜水艦を運用するために使役されたりしました。

 興味深いことに、イタリアの潜水艦「ルイージ・トレッリ」「コマンダンテ・カッペリーニ」 の2隻は、すでに一度は日本に拿捕された経歴がありました。最初の拿捕は1943年9月のイタリア降伏後のことであり、インドネシアのサバンでドイツ海軍に引き渡され、ドイツ人とイタリア人の混成クルーによって引き続き運用されました。そしてドイツ降伏後、この2隻は(4隻のドイツ艦と一緒に)再び日本に接収されて今度はドイツ・イタリア・日本の混成クルーによって運用されることになったのです!

 結果として、「ルイージ・トレッリ」と「コマンダンテ・カッペリーニ」は第二次世界大戦中に枢軸国の主要3か国全てで運用された唯一の艦艇となりました。

 2隻の元イタリア艦は主に蘭印と日本を結ぶ輸送潜水艦として活用されて最終的には1945年に神戸でアメリカ軍に接収され、ドイツのUボートである「U-181」、「U-195」、「U-219」、「U-862」はシンガポールと蘭印でイギリスに接収されてその経歴に終止符が打たれました。

 これらの運命を詳しく説明すると、「U-181(伊-501)」「U-862(伊-502)」はシンガポールでイギリスに接収され、その翌年にマラッカ海峡で海没処分されました。

 「U-195 (伊-506)」 と「U-219 (伊-505)」 については、前者は1945年8月にオランダ領東インドのジャカルタで、後者はスラバヤでイギリス軍に接収されました。この2隻を入手するはずだったオランダは、1946年の三者海軍委員会による決定に基づいて入手の断念と処分を余儀なくされたのでした(注:実際の海没処分はイギリス軍によって実施)。 [2]

「XB」級Uボート「U-219/伊-505」:三者海軍委員会の規則によってオランダ海軍は同艦と「IXD1」級Uボート「U-195/伊-506」の保有を許されなかったため、これらの2隻は1946年にジャワ島沖で海没処分された。

 シンガポールで接収された「U-181」と「U-862」のドイツ人乗組員は終戦後にドイツへ帰国するか、(イギリスの)ウェールズで抑留後にそのまま現地に永住するという運命を辿りました。

 一方で、1945年当時の蘭印に残っていた「U-195」と「U-219」の乗組員や別のドイツ海軍の軍人たちの中には全く別の人生を選択した人もいました。降伏してイギリスに協力する者もいれば、正反対にインドネシア独立戦争でイギリス・オランダ軍と戦い続けるべくインドネシアに忠誠を申し出た者もいたのです。

 その中には、ジャワ島ジョグジャカルタの鉄工所で特殊潜航艇を設計・建造した者も含まれています。[2]

 この異形な鋼鉄製の潜航艇は、インドネシア共和国の首都と指導者を捕らえることを目的とした2度の軍事攻撃の2回目として成功した「カラス作戦(Operatie Kraai)」で、オランダ軍がインドネシアの臨時首都であるジョグジャカルタを占領した後に発見されました。

 興味深いことに、オランダは2度の軍事攻撃の成果としてスカルノ大統領とモハマッド・ハッタ副大統領を捕虜にしただけでなく、1947年8月に実施された最初の攻勢である「プロダクト作戦」で、東ジャワにて5名のドイツ人も捕虜にしたのです。このうちの4名は「U-195(伊-506)」の乗組員だった者たちであり、残りの1名(インドネシア生まれのドイツ人)はインドネシア軍の犬のトレーナーとしての役割を担っていました。[3] [4] [5] [6] [7]

オランダ軍の兵士たちが鹵獲した鋼鉄製物体を訝しげに調べている様子:船体の左右に取り付けられた安定用のフィンに注目

 粗雑で正常に機能しなかった設計ではあったとはいえ、この特殊潜航艇はインドネシアによって初めて組み立てられて運用された潜水艦です。

 残念なことに、この潜航艇の内部構造については、設計時に設定されたもので初航海での沈没を防げなかったことを除くと、何も分かっていません。[8]

 その後、沈んだ"鋼鉄製の海獣"は引き上げられて修理や設計の改良のために鉄工所に戻されましたが、そうした作業はオランダ軍の占領によって力づくで中断させられてしまいました。もし、この潜航艇の修理が間に合っていれば、ジャワ島のインドネシア領を海上封鎖に従事していた不用心なオランダ海軍の駆逐艦に攻撃する姿が見れたかもしれません。

 この目的のために、この特殊潜航艇は船体下部のマウントに魚雷1本を搭載することが可能でした。[9]

 搭載する魚雷の種類はおそらく日本の「九十三式魚雷」や「九十五式魚雷」、あるいは450mmの「九一式航空魚雷改2」で占められていたと思われます。実際、インドネシア軍は大日本帝国海軍の基地を占領したり引き渡しを受けた際にこれらの魚雷を大量に入手していたからです。[10]

 魚雷の照準については、セイルに格納された大きな潜望鏡を通して合わせることになっていたのでしょう。艦橋構造物の巨大な舷窓や潜望鏡の大きさから判断すると、作戦中の特殊潜航艇は少なくとも一部が水面から突き出ていることになるため、Uボートとはいうものの技術的には半潜水艇と呼ぶべき代物ものでした。

船体下部のアタッチメントには1発の魚雷を装備できる

 最終設計案に基づいて建造された姿は、この時代の特殊潜航艇とは似ても似つかぬ、極めて粗雑なものであったとしか言いようがありません。

 実際の設計に先立って作られた潜水艦の模型は、ドイツの「ビーバー」級特殊潜航艇から大まかな着想を得たように見えます。これが全くの偶然なのか、それとも建造に関わったドイツの乗組員が蘭印に出発する前に「ビーバー」級を見る機会があって、その後に自らの設計のベースとしたのかは不明です。

 「ビーバー」級の量産は、「U-195」と「U-216」が蘭印へ向けて出発する数か月前の1944年夏に開始されました。両艦とも分解された「V-2」ロケットや最新兵器の設計図を積載していたましたが、この航海で「ビーバー」級の設計図も日本側に移転された可能性もありますが、その真相は歴史の闇に葬り去られてしまいました。

 結局のところ、「ビーバー」級との類似性については「単なる偶然の一致」が最も有力な説となっています。

ドイツの「ビーバー」級特殊潜航艇

本物を建造する前にドイツの潜水艦乗組員によって作られた縮小模型

 ナチスドイツと日本の降伏後にインドネシアの独立闘士と共に戦うことを選択した現地のドイツ人潜水艦乗組員によって、日本の魚雷で武装したドイツの特殊潜航艇が設計されていた - これは、まさに魅惑的なもので満ち溢れた物語以外の何ものでもありません。

 その粗雑な設計と製造品質のおかげで、この特殊潜航艇は最初から成功の見込みがなかったかもしれませんが、インドネシア人がオランダ軍に戦いを挑むためにあらゆる手段を模索しようという決意を(他国の人々の協力を得て)ますます強めていったという重要な証拠と言えるでしょう。

 インドネシアが再びオランダの主力艦を沈めるという試みを再び仕掛けるには、オランダ領ニューギニアへの侵攻を企図した「トリコラ作戦」の一環で実行を試みた1962年まで待たねばなりませんでした。当時はソ連から最新の兵器を入手していたため、その結果として立案された計画では「KS-1 "コメット"」対艦ミサイルを搭載した「Tu-16KS-1」爆撃機によるオランダ空母「HNLMS カレル・ドゥールマン」撃沈が求められていました(結局、攻撃は中止に終わりました)。

 明らかにインドネシアの軍事史が西側諸国で全く取り上げられていないという事実は、そこに含まれている多くの興味深い物語が十分に伝えられていないことを意味しています:つまり、それは私たちが好んで取り上げる物語のことです。

[1] In een staalfabriek in Djocja werkte een ex-Duitse matroos aan een eenmanstorpedo. Zijn uitvinding mislukte. Bij de eerste proefneming zonk het ijzeren gevaarte. https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/af009e5e-d0b4-102d-bcf8-003048976d84
[2] IJN Submarine I-505: Tabular Record of Movement http://www.combinedfleet.com/I-505.htm
[3] Malang: Een van de vijf op 1 augustus 1947 gearresteerde Duitsers: Erich Döring, geboren 29-03-1921 Muehlhausen. In dienst van de Kriegsmarine als Maschinenunteroff. op U-boot 195. https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/3fa45cf9-01a6-7884-0237-db4c606ccfa5
[4] Malang: Een van de vijf op 1 augustus 1947 gearresteerde Duitsers: Herbert Weber, geb. 3-6-'14 te Leutersdorf. In dienst van de Kriegsmarine als Leitender Ingenieur op U-boot 195 https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/f1cca949-fd26-d1c8-3f3a-10a985539386
[5] Malang: Een van de vijf op 1 augustus 1947 gearresteerde Duitsers: Heinz Ulrich, geboren 14-08-1924 te Berlijn. In dienst van de Kriegsmarine als Maschinenobergefreiter op U-boot 195. https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/432b83ec-97d7-308b-08cd-f2470cf2bea8
[6] Malang: Een van de vijf op 1 augustus 1947 gearresteerde Duitsers: Res. Oberleutnant zur See Fritz Arp, geb. 16-1-'15 te Burg auf Friehmar (Ostsee) In dienst van de Kriegsmarine als 1ste Off. op U-boot 195. https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/c8569997-e185-7055-81c5-f70cad6da942
[7] Malang. Een van de vijf op 1 augustus 1947 te Malang gearresteerde Duitsers: Alfred Pschunder, geboren op 24 december 1918 te Malang, Rijksduitser. Hij richtte o.a. honden af voor de Polisi Negara https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/c8569997-e185-7055-81c5-f70cad6da942
[8] In een staalfabriek in Djocja werkte een ex-Duitse matroos aan een eenmanstorpedo. Zijn uitvinding mislukte. Bij de eerste proefneming zonk het ijzeren gevaarte. Op deze plaats werd de torpedo aan het moeder-scheepje bevestigd. https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/af009fe4-d0b4-102d-bcf8-003048976d84
[9] In een staalfabriek in Djocja werkte een ex-Duitse matroos aan een eenmanstorpedo. Zijn uitvinding mislukte. Bij de eerste proefneming zonk het ijzeren gevaarte. Op deze plaats werd de torpedo aan het moederscheepje bevestigd https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/397950e1-fab7-1892-0a70-7d82a6ca43c8
[10] Hangar met Japanse? voertuigen. In de achtergrond liggen zeetorpedo's opgestapeld https://www.nationaalarchief.nl/onderzoeken/fotocollectie/01ff58e2-1eea-1815-f92d-68bfb852bb8e(リンク切れ)

※  当記事は、2023年1月10日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。

2022年10月12日水曜日

失敗と見なされるも称賛に値すべき:ドイツの「交換」政策


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ドイツはウクライナに大量の兵器を供与することに加え、「Ringtausch(循環的交換)」と呼ばれるプログラムで他国がウクライナに重火器を送るように仕向けようとも試みています。この政策は、各国が自国でストックしている戦車や歩兵戦闘車(IFV)をウクライナに供与する代わりに、ドイツ軍の同種兵器を無償で受け取ることができるという仕組みです。

 当初は見込みのある政策でしたが、ほとんどの国がソ連時代の兵器をベルリンが現時点で提供可能(あるいは提供したい)ものより多くの最新兵器で置き換えることを望んでいるため、「Ringtausch」はほとんど期待に応えることができませんでした。
 
 この「擬似的な交換システム」が正確に何を伴うものなのかが、「Ringtausch」政策が比較的成功していない最大の理由でした。

  ドイツはチェコとスロバキアとポーランドに対して、「T-72」戦車をウクライナへ送る代わりに「レオパルト2A4」戦車を供与することを申し入れました。しかし、確かに「交換」でウクライナへ送った主力戦車(MBT)よりは優れているものの、ポーランドは戦車大隊用の装備として期待していた44台のMBTの代わりに、わずか20台の「レオパルド2A4」(そして不思議なことに100台の「レオパルド1A5」)を供与されるだけで終わってしまいました。

 ドイツは2023年4月に最初の「レオパルド2A4」を月にたった1台のペースで供与を始め、同年10月からは月3台に増加することになっています。ポーランドとの交渉はこの記事を執筆している時点(2022年9月)ではまだ継続中ですが、すでに250台以上のMBTをウクライナへ供与しているワルシャワの不満が大きいことを疑う余地はありません。[1][3]
 
 チェコに14台の「レオパルド2A4」と1台の「ビュッフェル」装甲回収車(ARV)を供給する合意については、同国がウクライナに数量不明の「T-72M1」を供与してから約4ヶ月後の2022年8月29日に成立したばかりです。[4] [5]

 これらの「T-72」は予備のストックから供与されたものであったことを踏まえると、「Ringtausch」政策は(供与で)失われた戦力を前もってダイレクトに補うことを目的とした計画というよりも、むしろ供与を報奨するプログラムとして正確に表現されるべきものなのかもしれません。

 同様に、スロバキアは予備のストックである30台の「BVP-1」IFVをウクライナに供与することと引き換えに15台の「レオパルト2A4」と砲弾・訓練・兵站パッケージを受け取ることになっているため、同国にとってはこれが実に素晴らしい取引としか表現できないでしょう。
[6]

「レオパルト2A4」戦車(左)と「T-72M1」戦車(右)

 「Ringtausch」政策には相当な批判が浴びせられていますが、 ドイツは(現時点で)代替となる(西側製の)兵器を提供することで、ソ連時代の兵器をウクライナへ供与するよう積極的に他国に働きかけている唯一のヨーロッパの国であることに言及しておく必要があるでしょう。

 イギリスとフランスも戦車・IFV・自走砲の膨大なストックを保有していますが、今までのところ、ウクライナ軍での使用に適した重火器と引き換えに、これらを東欧諸国(あるいは世界各国)に供与することを控えています。

 ちなみに、ギリシャも「Ringtausch」計画に思い切って参加しています。ただし、ウクライナを助けるという名目で老朽化したIFV群を無償での交換を試みとようという思惑があると見られています。ギリシャは1992年にドイツから「BMP-1A1」を1台あたり5万ドイツマルク(2021年では約4万ユーロ:約575万円)で導入しました。

 東ドイツ軍で30年間使用された後にギリシャ軍でさらに30年間も酷使された「BMP-1A」について、ギリシャ政府は(ウクライナへ渡すものと)同数のドイツ製「マルダー」IFVとの代替を求めたのです。[7]

 しかし、今後の「Ringtausch」に基づいた取引は現時点で実現する可能性は極めて低いでしょう。

 スロベニアとの「マルダー」IFVと「フクス」装甲兵員輸送車(APC)の「Ringtausch」については、同国が2021年に発注した45台の「ボクサー」IFVの納入を早めるために見送られてしまったことからも明かです(その後の2022年9月にスロベニアは「ボクサー」導入をキャンセルしました)。[8][9]

 今になって思えば、「Ringtausch」という概念は、それ自体が内在する矛盾ゆえに最初から破滅的なものだったのかもしれません。

 ウクライナの窮状を支援するために装甲戦闘車両を手放す意思と能力のある国は、ひと握りの高価な代替品を約束されなくても通常はそう動いたでしょう。その一方で、実際に兵器を手放す前に代替となる戦力が必要な国々は法外に高価な代替品が必要とするため、もはやこの政策全体が割に合わなくなるのです。

 それでも、この政策に対するドイツの取り組みは全く何もしないよりは確かに好ましいものであり、ウクライナへの重火器を供与することへの拒否が焦点となっているものの、その問題に対する実行可能な解決策を見出そうと一所懸命考えて答えを出したことを示しています。

  1. 以下に列挙した一覧は「Ringtausch」政策で交換に成功した武器類を追跡調査することを試みたものです。
  2. この一覧は成立した取引のみを含みものであり、今後にさらなる取引が判明した際に更新される予定です。

チェコ
  • 14 レオパルト2A4 戦車(数量不明のT-72M1戦車と"交換")
  • 1 ビュッフェル 装甲回収車(同上)


ギリシャ
  • 40 マルダー 歩兵戦闘車(同数のBMP-1A1歩兵戦闘車と"交換")


スロバキア
  • 15 レオパルト2A4 戦車(30台のBMP-1歩兵戦闘車と"交換")



スロベニア
  • 45 MAN製「KAT1」高機動戦術トラック[通常型40台と給水または給油型5台] (28台のM-55S戦車と"交換")


[1] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1550957034794655744
[2] Ringtausch Fuer Ukraine: Polen Will Mehr Deutsche Panzer https://www.faz.net/agenturmeldungen/dpa/ringtausch-fuer-ukraine-polen-will-mehr-deutsche-panzer-18194752.html
[3] A European Powerhouse: Polish Military Aid To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/a-european-powerhouse-polish-military.html
[4] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1564254848308355073
[5] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[6] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1562054032474226688
[7] BMP-1A1 Ost in Greek Service https://tanks-encyclopedia.com/bmp-1-greece/
[8] Slovenia and Germany Expedite Delivery of BVP M-80 to Ukraine https://en.defence-ua.com/news/slovenia_and_germany_expedite_delivery_of_bvp_m_80_to_ukraine-3558.html
[9] Slovenia will leave the Boxer programme https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/slovenia-leaves-the-boxer-programme/

※  当記事は、2022年9月6日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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  • ファクトシート:ドイツによるウクライナへの軍事支援(一覧)

2022年9月25日日曜日

ファクトシート:ドイツによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:スタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 世間の認識とは逆に、ドイツはロシア軍との戦いを支援するためにウクライナへ膨大な量の武器と装備を提供してきた国です。実際、ベルリンからの武器供給量は(アメリカとイギリスを除けば)どの国よりも多いのです。

 それにもかかわらず、ドイツはウクライナへの支援不足を批判されたり、モスクワとの関係を維持しようとする不運な試みに対して嘲笑さえされています。

 最終的に自らをウクライナの信頼できるパートナーと位置付けた一方で、対ウクライナ政策や他の外交政策における目標を説明するためのベルリンによる情報発信の手法は、対外的にみると大失敗以外の何物でもなかったと言えるでしょう。

 すでにウクライナに引き渡されたドイツによる物的支援には、「ゲパルト」対空自走砲30台、「M270」多連装ロケット砲システム(MLRS)3台、「PzH 2000」自走榴弾砲10門と誘導砲弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)3200発、「パンツァーファウスト3」及び「RWG90 "マタドール"」携帯式対戦車無反動砲約1万発、車両数百台、弾薬約2200万発、さらにヘルメット2.8万個と「MiG-29」戦闘機のスペアパーツなど多数の装備品が含まれています。

 これらの供与の後には、さらに1ユニット分の「IRIS-T SLM」 地対空ミサイルシステム、20門のレーザー誘導式ロケット弾発射システム、43機の偵察用UAV、そして最大で20隻の無人艇がまもなく引き渡される予定です。

 また、ベルリンはウクライナの安全保障強化基金に少なくとも20億ユーロ(約2,800億円)を拠出し、この基金でウクライナ政府がドイツの武器製造・販売企業である「クラウス=マッファイ・ヴェクマン」社から新たに100台の「PzH 2000」を含む他国からの兵器を調達できるようにもしました。[1] [2]
 
 さらに、ドイツは「Ringtausch(循環的交換)」と呼ばれるプログラムで他国がウクライナに重火器を送るように仕向けようとも試みています。この政策は、各国が自国でストックしている戦車や歩兵戦闘車(IFV)をウクライナに供与する代わりに、ドイツ軍の同種兵器を無償で受け取ることができるという仕組みです。[3]

 当初は見込みのある構想でしたが、ほとんどの国がソ連時代の兵器をベルリンが現時点で提供可能(あるいは提供したい)ものより多くの最新兵器で置き換えることを望んでいるため、「Ringtausch」計画はほとんど期待に応えることができませんでした。

 チェコは数多くの「T-72」戦車やIFVをウクライナに供与した代わりに14台の「レオパルド2A4」と1台の「ビュッフェル」装甲回収車(ARV)を、スロバキアは30台の「BVP-1」IFVを供与する代わりに15台の「レオパルド2A4」と砲弾・訓練・兵站パッケージを受け取ることになっています。[4] [5]
 ギリシャは40台の「BMP-1A1」をウクライナへ供与する代わりに同数の「マルダー」IFVを受領しており、スロベニアは45台のMAN社製の8x8型軍用トラックを得る代わりに28台の「M-55S」戦車をウクライナへ送ることにもなっています。 

 厳しい批判は、ドイツが約束した一部の兵器の引き渡し時期、特に「M270」MLRS 3台の準備とそれらをウクライナへの移送に要する時間にも向けられています。実際、メディアや紛争を観察する人たちから嘲笑されることになったのは、まさしくベルリンが「MARS」を「MARS2」にするという高価な改修案を選んだからです。

 一方でフランスは「M270」を40台以上も保有していますが、ウクライナへの供与を決定しなかったため、結果としてドイツが受けたような世論の反発から免れることができました。[6]

 もう一つの過小評価されているドイツの支援は、医薬品や支援物資の提供です。これらはあまり注目されていないものの、戦いの最中にあるウクライナと兵士を維持するために非常に重要であることは言うまでもありません。

 今後の援助がどのようなもので構成されるかについては推測することしかできませんが、ドイツは国防省及び防衛企業「ラインメタル」社並びに「フレンスブルガー・ファールツォイクバウ・ゲゼルシャフト(FFG)」社が現在保管している(これまでにベルリンが供与を控えてきた)数百台の「レオパルト1A5」戦車、「マルダー1A3」IFVや「M113 "パンツァーメーザー"」自走迫撃砲を通じて、幅広い支援を更に大規模なものにできる可能性を秘めています。[7]

ウクライナで作戦に従事中のドイツが供与した「M270 "Mittleres Artillerieraketensystem (MARS) MLRS"」
  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にドイツがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. この一覧は、主にドイツ連邦政府の発表した情報に基づいています。[7] 
  3. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  4. 供与された月が不明な場合は2022年とのみ記載しています。
  5. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  6. ウクライナ軍向けの医療物資は本リストには含まれていませんが、ここでリストアップされています
  7. * はドイツ政府によって防衛関連企業からの購入されたものを表しています。
  8. ** はウクライナが購入したものを表しています。
  9. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。


供与済み

地対空ミサイルシステム(2個中隊分+発射機2, 1個中隊分+発射機2)

対空自走砲(46)
  •  46 ゲパルト* [2022年6月にウクライナ兵の訓練が開始、 7月以降(30台)と2023年2月(2台)と3月(2台)と7月(12台)に供与] 

多連装ロケット砲 (5)

レーザー誘導式ロケット弾発射機(20)
  •  20 70mmレーザー誘導式ロケット弾発射機(ピックアップトラック搭載型) [2022年12月]

自走砲(16)


戦車(65+)
  • T-72M1 [2022年] (「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト2A4」戦車と1台の「ビュッフエル」戦闘工兵車との引き換えでチェコのストックから供与)
  • 28 M-55S' [供与済み] (「循環的交換政策」を通じて45台のMAN社製「8x8」型トラックとの引き換えでスロベニアのストックから供与)
  •  18 レオパルト2A6 [2023年3月]
  •  20 レオパルト1A5 [2023年7月と8月] (オランダ・デンマークと協力して供与)


歩兵戦闘車 (130)
  • 40 BMP-1A1 [2022年10月以降に供与] (「循環的交換政策」を通じて40台の「マルダー」歩兵戦闘車との引き換えでギリシャのストックから供与)
  • 30 BVP-1 [2022年11月] (「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト2A4」戦車との引き換えでスロバキアのストックから供与)
  •  60 マルダー1A3 [2023年3月と9月]

装甲戦闘車両 (82)
  • 54 M113G3DK/G4DK [2022年7月と8月] (デンマークから引き取った「M113」装甲兵員輸送車をドイツの資金でオーバーホールしたもの)
  •  28 バンドヴァグン "BV 206S" * [2023年6月~8月]

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両(50)

携帯式地対空ミサイルシステム (3,200)

対戦車兵器 (約23,800)

対ドローン兵器・妨害システム (205)
  • 10 対ドローン銃* [2022年]
  •  57 対ドローンセンサー及び妨害装置*(40個の周波数帯域拡張装置を含む) [2022年/2023年]
  • 12 電子的対ドローン装置* [2022年]
  • 2 大型の対ドローン妨害システム* (「ハンヴィー」歩兵機動車搭載型) [2022年8月]
  • 1 通信走査/妨害システム*[2023年5月]
  • 10 通信妨害装置* [2022年8月と2023年7月]
  •  113 ドローン探知システム* [2022年12月,2023年2・3・6・8・9月]

レーダー (33)

機動式監視システム(6)

無人偵察機(216)

(無人) 艦艇 (10)
  •  10 無人水上艇* [2022年10月と11月]

無人車両(14)

工兵車両及び装備 (84)


車両(~1,187)


小火器 (820)

弾薬

  • 「IRIS-T SLM」SAMシステム用ミサイル* [2022年11月と12月,2023年1月と4月]
  • 164 「パトリオット」SAMシステム用ミサイル [2023年4月と8月]
  •  「M270 ''MARS'' 」用227mmロケット弾  [2022年7月と10月,2023年3月]
  • 86,122 「ゲパルト」対空自走砲用35mm機関砲弾 [2022年6月以降に供与]
  •  4,000 「ゲパルト」対空自走砲用35mm機関砲弾(訓練弾) [2022年8月]
  • 18,510 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm砲弾 [2022年6月以降に供与]
  • 17,000 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm発煙弾 [同上]
  •  1,000 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm照明弾[同上]
  • 「SMArt 155」 誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  255+ 「ボルケーノ」誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [2023年3月と6月]
  •  134,592 40mm擲弾(自動擲弾銃用) [2022年9月と12月,2023年4月]
  • 105mm戦車砲弾(「レオパルト1A5」用) [2023年5月]
  • 120mm戦車砲弾(「レオパルト2A6」用) [2023年3月]
  • 20mm機関砲弾(「マルダー1A3」用) [同上]
  • 4,570万 小火器用弾薬(最低でも300万の5.56×45mm弾と500万の7.62×51mm弾を含む) [2022年と2023年]
  • 100,000 DM51/DM51A2 手榴弾 [2022年]
  • 3,000 DM72A1 (PzF 3-IT) 弾頭(「パンツァーファウスト3」用) [2022年]
  • 50 DM32「ブンカーファウスト」弾頭(「パンツァーファウスト3」用) [2022年]
  •  各種砲弾 [2022年3月と4月]
  •  5,300 装薬 [2022年]
  •  100km分 導爆線 [2022年] (450,000個の信管と共に供与)

被服・個人携行品
  • 28,000 ヘルメット[2022年]
  • 15パレット相当の軍服 (1,300着の防弾チョッキを含む ) [同上] ※パレットの規格は不明
  • 11,600 防寒服 [同上]
  • 80,000 防寒ズボン [同上]
  • 240,000 防寒帽 [同上]
  •  20,600 保護眼鏡 [2022年と2023年]
  • 1,453 双眼鏡 [同上]
  • 951 暗視装置 [2022年]

その他の物資や装備品
  •  MiG-29戦闘機用の予備部品 [2022年]
  • Mi-24攻撃ヘリ用の予備部品* [2022年11月]
  • 11 T-72戦車用マインプラウ [2023年7月]
  • レオパルト2A6戦車用の予備部品 [2023年3月]
  • マルダー1歩兵戦闘車用の予備部品 [同上]
  •  ヴェクターUAV用の予備部品 [2023年7月]
  • M2重機関銃用の予備部品 [2022年11月]
  • ヴィーゼント1装甲工兵戦車の予備部品 [2023年9月]
  • 10 レーザー指示器(「ボルケーノ」誘導砲弾用) [2023年7月]
  • 10 火器管制ユニット (「ボルケーノ」誘導砲弾用) [同上]
  • 38 レーザー測距儀 [同上]
  • 40 レーザー目標指示装置 [2022年11月,2023年1月]
  •  49 機動式アンテナマストシステム* [2023年1月~4月,7月,9月]
  • 1 アンテナ制御局 [2023年9月]
  • 17 衛星通信端末* [同上]
  •  5 橋梁(「ビーバー」架橋戦車用)[2023年6月~7月]
  • 10 コンテナ [2023年2月] ※コンテナの規格は不明
  •  16パレット相当の爆発物処理用資機材[2022年] ※パレットの規格は不明 
  •  1 高周波機器(電源装置?) [2022年8月]
  •  1 RFシステム(RF送受信機 または 電力・周波数変換機器?) [2022年]
  •  3,000 野戦電話 [同上] (5,000個のケーブルリールと共に供与)
  • 2 テント倉庫* [2023年3月]
  •  200 テント [同上]
  •  14,000 寝袋 [同上]
  • 1 機動式野戦病院* [2023年8月]
  • 2,735 発電機 [2022年と2023年]
  •  36,400 ウール製ブランケット [2022年12月]
  • 10 カモフラージュ・ネット(冬季仕様)[2023年2月]
  • 148 移動式暖房システム[2022年11月と12月]
  •  416,000 レーション (MRE) [2022年]
  •  軽油及びガソリン [2022年,継続中]
  •  10トン アドブルー [2022年]


供与予定

地対空ミサイルシステム(6個中隊分と発射機22基)

自走対空砲 (21台と2システム)

自走砲 (32)

戦車(115)

歩兵戦闘車 (40)

装甲兵員輸送車(26+)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両(66+)

対ドローンシステム (80)
  •  80 ドローン探知システム* [予定] (40個の周波数帯域拡張装置を含む)


レーダー及び妨害装置(58)
無人偵察機 (482+)
  • 10 形式不明の無人艇* [予定]

工兵車両及び装備 (74
)

車両(720)

対戦車兵器 (18,000)
  •  18,000 携帯式対戦車兵器 [予定]

小火器(100)

弾薬
  • 「IRIS-T SLM」SAMシステム用ミサイル* [同上]
  •  「IRIS-T SLS」SAMシステム用ミサイル* [同上]
  •  25,500 155mm砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  「ボルケーノ」誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  81,408 40mm擲弾(自動擲弾銃用) [同上]
  •  289,920 35mm機関砲弾(「ゲパルト」用) [同上]
  • 105mm戦車砲弾(「レオパルト1A5」用) [同上]
  • 20mm機関砲弾(「マルダー」用) [同上]
  •  970万 小火器用弾薬 [同上]
  • DM31 と/あるいは DM22 PARM 2 対戦車地雷 [同上]

その他の物資や装備品
  • 1 車両用除染システム [予定]
  •  1 機動式アンテナマストシステム* [同上]
  • 機動式野戦病院* [同上]
  • 26 可換荷積みシステム (トラック用) [同上]
  • 130 暖房システム [同上]
  • 50 屋外ヒーター [同上]
  • オイルヒーター [同上]
  • 防寒着 [同上]
  • 80,000 保護眼鏡 [同上]
  •  450+ 発電機 [同上]
  • 2,000 携帯式照明システム* [予定]
  •  レーション (MRE) [同上]

ウクライナ軍で運用中の「IRIS-T SLM」地対空ミサイルシステム(全8発中4発を搭載)


[1] Military support for Ukraine https://www.bundesregierung.de/breg-en/news/military-support-ukraine-2054992
[2] Germany approves sale of 100 howitzers to Ukraine - Spiegel https://www.reuters.com/world/europe/germany-approves-sale-100-howitzers-ukraine-spiegel-2022-07-27/
[3] Flawed But Commendable: Germany’s Ringtausch Programme https://www.oryxspioenkop.com/2022/09/flawed-but-commendable-germanys.html
[4] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1564254848308355073
[5] https://twitter.com/JaroNad/status/1562056296869797889
[6] Arms For Ukraine: French Weapons Deliveries To Kyiv https://www.oryxspioenkop.com/2022/07/arms-for-ukraine-french-weapon.html
[7] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1514942347775471618
[8] Militärische Unterstützungsleistungen für die Ukraine https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/krieg-in-der-ukraine/lieferungen-ukraine-2054514
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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