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2024年10月27日日曜日

思わぬ伏兵:PKKのDIY式対空砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマン(編訳:Tarao Goo)

 当記事は2021年に本国版「Oryx」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れです)。

 トルコから公式に撤退してから約8年経過した今でも、クルド労働者党またはクルディスタン労働者党(PKK)はゲリラ戦を展開しており、イラク北部の山岳地帯からトルコに潜入しています。脅威を絶つことを決心したトルコ軍は、隠れ家や武器庫を無力化するためにPKKの勢力圏への攻勢を頻繁に実施してきました。

 トルコ軍ヘリコプターによる襲撃や攻撃ヘリの脅威を食い止めるべく、PKKは独自に改造した各種の重機関銃(砲)を使って、ヘリコプターのみならず機体から降り立つ兵員も狙った攻撃をしています。

 広い視野を得られ、迫りくる空中の脅威を遠くから発見することが可能な山間部の高い位置に備えられてきた場合が一般的だったこともあり、PKKの対空砲とその操作要員は過去数年間でトルコ軍のヘリコプターに対して小さな成果を上げてきました。

 これらの成功の大半はヘリコプターの撃墜ではなく損傷を与える程度のものでしたが、PKKの支配地域への不時着に至るケースもありました。トルコのヘリボーンへの対抗や抑止には少しも成功していないものの、PKKの対空砲は依然として強力な脅威であり、真剣に対処する必要があります。

 一般的にシリア軍やイラク軍から鹵獲した旧ソ連または中国製の兵器を原則としたPKKの対空砲に求められる主要な条件は、荒れた地面や山岳地帯を輸送するためにいくつかに分解できることです。その理由で、ありふれた(中国製コピーを含む)「DShK」12.7mm重機関銃と「KPV」及び「ZPU-1」14.5mm機関砲は特に人気が高く、その他にも数種類の対空砲が混在していることが判明しています。

 ごく最近では、PKKは隣接する地下洞窟内の安全な場所から操作可能なリモート・ウェポン・ステーションを導入し始めています。このシステムを運用する部隊については、ほとんど知られていません。

 PKK内には「殉教者デラル・アメド防空部隊」と呼ばれる部隊が存在しますが、これまでのところ、その任務は潜入用パラモーターと自家製の爆弾で武装した攻撃用ドローンの運用に限定されているようです。したがって、対空砲は各作戦区域のPKK部隊によって運用されている可能性が高いと思われます。おそらく、トルコ軍のヘリコプターの飛来を別の区域に警告するための全域的な警報システムも備えているのでしょう。

 対空砲が所定の場所に運び込まれて組み立てられた後は、使用する必要が生じるまで秘匿され続けるのが一般的な流れです。対空砲は頻繁に点検され、現地の状況下で確実に継続的な運用ができるように整備されていると思われます。

 下の画像の「KPV」14.5mm機関砲は、秘匿された対空砲の典型的な様子を見せています。被発見率を下げるために木の下に配置され、布と木の枝で覆われているため、上空どころか地上の遠距離からでさえ視認することが不可能に近くなっています。[1]


 この「KPV」は、ほとんどの重機関銃に施された改造の一部も披露しています- 特に注目すべきはマズルブレーキ、三脚、銃床、肩当てです。異彩を放つマズルブレーキは「KPV」に特有の強烈な反動を幾分和らげてくれるものの、命中精度をある程度維持するためには短いバースト射撃しかできません。さらに照準を合わせやすくするため、銃身のキャリングハンドルの後方に照星が追加されました(注:機関砲の後部には照門も追加されています)。


 もう一つの簡易対空システムは、「ZSU-23-4 "シルカ"」自走対空砲(SPAAG)から取り外された「2A7/2A7M」機関砲をベースにしたものです。[1]

 前述の「KPV」と同様に、この機関砲も新たにマズルブレーキ、照星、三脚が装着されました。その大口径ゆえに、「2A7」は反動が大きいおかげで単発かごく短い連射しかできません。このため、実質的には対空砲というよりは対物ライフルに近い性格となっています。

 それでも、23mm砲弾はヘリコプターに対して非常に強力な損傷を与えます。つまり、砲手が「KPV」で同様の(あるいはそれ以上の)効果を得るよりも、目標に命中させるのに必要な弾数は大幅に少なくなるというわけです。

 改造型「KPV」と同様に、この対空砲は2020年6月から9月にかけて実施されたトルコのクローイーグル・タイガー作戦の際に鹵獲されました。[1]


 「KPV」がPKKによって対空砲として使えるように改造されたのに対し、「ZPU-1」は最初から軽量の対空砲として設計されたものです。

 「ZPU-1」は通常であれば二輪式の砲架で移動しますが、ラバや人力で輸送できるように数個のコンポーネント(重量80kg)に分解することが可能となっています。「KPV」と同様の砲弾を約2km先まで発射可能な最大射程、容易な操作性と専用の対空照準器、そして大容量の弾倉はPKKに重宝されているに違いありません。

 下の画像の個体は2021年4月と5月に実施されたクローライトニング・クローサンダーボルト作戦でトルコ軍に鹵獲されたものですが、砲と砲架の大部分が錆で覆われています。これは、おそらく全ての対空砲が適切な手入れをされていたわけではないことを示しています。


 より近年における発明品は、「DShK」12.7mm機関銃(またはその中国の派生型である「54式」や「W85」)をベースにした一連のリモート・ウェポン・ステーション(RWS)です。こうしたRWSの主な利点は、砲手が敵に晒されるリスクを冒さずに安全な洞窟から操作できることにあります。

 欠点としては、状況認識の大幅な低下と弾倉が空になるごとに人力で再装填する必要があることが挙げられます – どのヘリコプターも交戦圏内の飛行時間が短いことを考慮すると、後者は想像以上に問題とはならないかもしれません(注:交戦時間自体が短いため)。

 前述の対空砲と同様に、「DShK」RWSも山の谷間を進む歩兵を標的にする副次的な役目を担っています。

 クローライトニング・クローサンダーボルト作戦の際に、少なくとも3基のRWSがトルコ軍に鹵獲されました。どれもが地下洞窟の付近に配置されていたようです。[2]

 これらは近くにいる敵兵への強力な抑止効果をもたらす一方で、その存在はトルコ軍にPKKが潜む洞窟が本当に近くにあることを即座に警告するデメリットも生じてしまいます。
作戦機やUCAVから投下される精密誘導弾や火砲によってさらに強化されたトルコ軍の数的・戦術的優位を考慮すれば、後に彼らの洞窟が全滅するのはほぼ確実と言ってもいいでしょう。[3]



 前述の多用途兵器システムの開発に多大な努力を注いでいる一方で、PKKが保有している中で最も恐れられている兵器は、いまだに携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)であり続けています。明らかに、システムの複雑性と精密な電子機器が搭載されているおかげで、MANPADSが積極的に使用されたケースはほとんどなく、過去には使用前にトルコ軍に鹵獲されたものもありました。

 PKKにとって最も注目すべき成功例は、2016年5月に「9K38 "イグラ"(NATOコード:SA-18 "グロウス")」MANPADSでトルコ軍の「AH-1W "スーパーコブラ"」攻撃ヘリコプターを撃墜したことです。[4]

 この撃墜はMANPADSがもたらす深刻な脅威を際立たせましたが、これ以降に撃墜に成功したことはありません。


 トルコ軍のヘリコプターがイラク北部で自在に飛び回るのを阻止するため、自由に使用可能な(ATGMを含む)手段を何でも活用しようとしているPKKの試みが紛れもなく機知に富んでいるものの、同時に、トルコ軍のヘリボーン作戦に直面した彼らが対処しなければならない全体的な欠点を象徴しています。

 相応の武器なしに、利用可能なアセットと革新的な能力の双方で優勢な敵に対抗できる希望はほとんど残されていません。それでも、PPKのDIY式対空砲の脅威は強力と言えます。なぜならば、ローテクゆえに対抗することが困難だからです。

 トルコ側には、対空銃座に対して何らかの対抗策を実行に移せるかどうかが注目されます。例えば、無人機に作戦予定区域内の稜線をスキャンして不審な形状や動きの有無を確認させることが挙げられます。

 武器や通貨の流入不足だけでなく、近年におけるPKKの対空砲の消耗率は、彼らが対抗するトルコの装備に損耗をはるかに上回っている可能性があります。新たな重機関銃を入手するよりも早く重機関銃を失った場合、トルコが実行可能な対抗策を考え出す前に、重機関銃の配備と運用上の有効性が低下することも否定できません。


[1] Northern Iraq PKK-Weapon Caches of Operation ‘Claw Tiger’ https://silahreport.com/2020/08/27/northern-iraq-pkk-weapon-caches-of-operation-claw-tiger-miles-check-this/
[2] Claw-Lightning and Claw-Thunderbolt: Turkey Engages PKK In Iraq https://www.oryxspioenkop.com/2021/04/claw-lightning-and-claw-thunderbolt.html
[3] https://twitter.com/COIN_V2/status/1389131420614991874
[4] Video appears to show Kurdish militants shooting down Turkish military helicopter https://www.washingtonpost.com/video/world/video-appears-to-show-kurdish-militants-shooting-down-turkish-military-helicopter/2016/05/14/d64e96e2-19f6-11e6-971a-dadf9ab18869_video.html

ヘッダー画像:Abdullah Ağar、特別協力:COIN_V2(敬称略)


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2024年6月15日土曜日

ファイティング ザ・タイド: 有志連合軍の空爆に対するイスラム国の取り組み


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2021年4月8日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2014年6月に始まった有志連合軍の空爆はイスラム国の拠点や車両、そして高官に対して実施した結果、このテロ組織に大きな打撃をもたらしました。一連の空爆はロシア空軍(RuAF)による爆撃の増加と結びつき、結果としてイスラム国による攻勢や彼らに対する攻撃の結果の多くを左右する決定的なものとなったことは今ではよく知られています。「コバニの戦い」では有志連合軍の航空兵力がコバニ市の防衛に決定的な役割を果たし、なんと言っても精密誘導爆弾で武装した飛行機に対するイスラム国部隊の脆弱性が痛いほど明らかになったのでした。

 イスラム国には鹵獲した地対空ミサイル(SAM)やそれを撃つのに必要な発射機も不足していたわけではありませんでしたが、こういった(シリア軍が)遺棄したSAMを空中のあらゆる敵を攻撃できる運用可能なシステムに変えるための専門知識には欠けていました。実際、イスラム国が保有したもので敵の航空機やヘリコプターに損害を与えたり、撃墜したりできたのは、ピックアップ搭載の対空砲と限られた量の(ある程度の北朝鮮製を含む)携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)だけであり、その戦果の大半はイラクで実証されています。

 イスラム国は2014年9月にハマとアレッポの間で、そして2016年12月にT4空軍基地の付近で完全に稼働状態にある2基の「S-125(NATOコード:SA-3)」陣地を占領した偉業は、彼らにとっては何の助けにもなりませんでした。 というのも、彼らはこれらの高度なシステムを運用できないだけでなく、そもそもシリア全土の拠点に輸送することもできなかったからです。

 2014年に何とか鹵獲に成功した1発の「S-75(SA-2)」ミサイルの活用については、発射機が一緒に鹵獲されなかったことで不発に終わっています。仮に発射機が一緒だったとしても、旧式化したシステムの運用に関する専門知識の不足がSAMの再利用を妨げていたことは間違いないでしょう。



 2014年にデリゾール近郊で鹵獲された「2K12"クーブ"(SA-6)」SAMシステムの一部である「2P25」自走発射機数台の再利用は、ミサイルの未入手と発射機自体が受けた著しい損傷によって失敗に終わりました。

 それよりもさらに有望だったのは、2016年1月にデリゾールで「2K12 "クーブ"」SAM中隊が鹵獲されたことでした。これによってイスラム国に運用可能な「SURN 1S19」レーダーシステムと無傷の自走発射機をもたらしたからです。しかし、これらのシステムの状態は非常に悪いもので、稼働状態に戻すことは不可能に近いものでした。使用するミサイルの状態も悪かったことは言うまでもありません。[1]

 このSAM陣地は制圧後すぐにRuAFによって爆撃され破壊されたと言われていたものの、後に無傷の自走発射機の1台がVBIED(爆薬を満載した自爆車両)として投入されたことが確認されたため、破壊についてはロシアによる偽情報であることが判明しました。[2]




 2014年8月24日にタブカ空軍基地を占領したことは、もともと「MiG-21」戦闘機を擁する常駐の2個飛行隊で使用される予定だった数量不明の「R-3S」と「R-13M」、「R-60」空対空ミサイル(AAM)をイスラム国にもたらしました。この後、彼らはこれらのミサイルをラッカに移して地対空ミサイルに転用しようと試みましたことが知られています。

 この模様はプロジェクト・リーダーの一人によって記録されましたが、彼は後で反政府軍の検問所で拘束されてしまいました。記録された映像は英スカイニュースに提供されたことで、2016年1月6日に「R-13M」の地対空用途への改修が同社によって初めて報じられたのでした。[3]


 ラッカでの計画はプロジェクト・リーダーが反政府軍に拘束されたことで失敗に終わったようですが、こうした挫折は、イスラム国がAAMを地上から発射可能なミサイルに転用する取り組みの継続を妨げるものではありませんでした。

 取り組みを成功させる可能性を最大限に高めるためか、イスラム国は「領土」全体にミサイルを拡散し始めました。 おそらくは、支給先の部隊が役に立たないミサイルを1発でも有用な兵器への転用に成功することを期待していたのでしょう。支給先にはシリア全土にある幾つかのウィラヤット(州)だけでなく、イラクのウィラヤットも含まれていました。イラク側でもシリアで鹵獲されたミサイルの数バッチを受け取ることになったのです。

 当然のことながら、これらの取り組みも全て失敗に終わり、ほとんどのミサイルはシリア民主軍(SDF)やシリア軍、イラク軍に発見されるまでISILの武器庫で未使用のまま放置されたのでした(ラッカ、タブカ、デリゾール、ハマ、モスルで大量の隠し場所が発見されました)。

 あるイスラム国の部隊はAAMを最大限活用しようと試みてDIYの(無誘導)兵器として投入したものの、結果的に小型の弾頭を搭載した極めて精度の低いロケット弾となったことは言うまでもありません。

 仮にイスラム国がこれらのAAMを新たな用途に応用させることに成功していたとしても、古さや射程距離の短さ、そしてすぐにストックが尽きてしまうという事実を考慮すると、有志連合軍の航空戦力に対する効果はやはり限定的なものに過ぎなかったのではないでしょうか。



 2015年5月20日に制圧されたタドムルはイスラム国の手に落ちた3番目となるシリアの空軍基地であり、大量のAAMや(航空機が地上のレーダーを攻撃するために開発された)対レーダーミサイルを彼らに与えました。[4]

 以前のタドムルは「MiG-25PD(S)」迎撃戦闘機を擁する飛行隊の本拠地だったものの、これらの機体が徐々に退役していったことに伴い、2013年後半には(稼働機として残っていた)4機の「MiG-25」がT4空軍基地へ移転しました(注:つまり制圧された時点のタドムルには稼働機が残されていませんでした)。ただし、この戦闘機用のミサイルはタドムル基地に16基ある強化シェルター(HAS)の2基の中に残されていたのです。

 「イスラム国」の戦闘員が空軍基地を制圧した際、彼らは数十発の「R-40」空対空ミサイルだけでなく、大量の「Kh-28」対レーダーミサイルにも出くわしました。これは近くのT4空軍基地に配備されている「Su-22」や「Su-24」に使用するためのものだったと思われますが、そこへ輸送されることなく残されていたようです。



 イスラム国が「Kh-28」とその140kgの弾頭をIEDやDIY式の地対地ロケット弾以外の有用なものに転用できる可能性は極めて低かったものの、彼らは(数十発の「R-40」AAMとともに)これらのミサイルもシリアとイラクの「領土」全体に分散させ、最終的にはラッカとモスルの両方に行き着きました。[5] [6] [7]

 モスルのミサイルについては、その一部がマスタードガスを搭載するために改造されているのではないかという懸念もあったようですが、それが実際に行われたことを示す兆候はありません。その代わりとして、ISILは巨大なミサイルを無誘導ロケット弾として使用することを想定していたようですが、使い勝手が悪い上に少しでも正確に標的に命中することが期待できなかったことから、このアイデアはすぐに放棄されたものと思われます。




 最終的に、イスラム国はシリアに残された「R-40」ミサイルの一部に、より相応しい役割を見出しました。鹵獲された「R-40」は2種類ありました:セミアクティブ・レーダー誘導式の「R-40RD」と赤外線誘導式の「R-40TD」です。

 「R-40RD」は標的にする飛行機をロックオンするために機体に搭載されたレーダーが必要だったことから、イスラム国にとって本来の用途では役に立つことはありませんでした。一方で、「R-40TD」は赤外線シーカーによって誘導されるため、レーダーによる誘導を必要としていません。

 シリア軍が2017年3月にタドムルで最近制圧された強化シェルターの1基に入った際、彼らは1発の「R-40TD」を移動して発射させるために細部にわたって改造されたダンプトラックに遭遇しました。この専用に設計された発射台に搭載されたミサイルは、ダンプトラックの荷台を傾斜させる機構を用いて照準を合わせることが可能となっています。

 高速で飛行する大型の標的を攻撃するために開発され「R-40」は70kgの重い弾頭を搭載しており、標的となる航空機の付近で爆発するだけで、ほとんどの標的を破壊することができる特徴があります。

 画像の「R-40TD」は逆さまに搭載されているように見えるかもしれませんが、「MiG-25」のパイロンと接続する取付部がミサイルの上部にあるため、必然的にこのような搭載方法となってしまいます。結果として、ミサイルが逆さまに搭載されているという誤った印象を与えますが、搭載方法としては理にかなったものなのです。

 タドムル上空で撃墜された飛行機やヘリコプターは報告されていないため、このシステムが実際に使用されたかどうかが明らかになる日が来ることはないでしょう。

 ちなみに、ユーゴスラビアではNATO軍の航空戦力への対抗を試みて「R-3S」「R-13M」「R-60」、そして「R-73」AAMをSAMに転用した事例が多く見られました。イスラム国の場合と同じくトラックに搭載されましたが、どれもが敵機に命中したという情報はありません(注:セルビアでは2024年現在でも同種のAAM転用型防空システムを海外にも売り込んでいます。また、イエメンのフーシ派はAAM転用の防空システムで一定の戦果を挙げています)。

 SyAAFはイスラム国よりさらに一歩進んでいて、2014年に「R-40TD」を地上の標的に向けて発射する実験を行いましたが、当然のことながら結果は非常に悪かったようです。[8]



 イラクにおける連合軍の航空戦力の脅威に対処するため、イスラム国はますます必死の努力を払うようになり、 通常の大砲を間に合わせの対空砲として使用するという手段に訴え出ました。上空を高く飛ぶ敵機に直撃弾を与えて撃墜するというゼロに等しい可能性に賭けたのです。[9]

 最初に存在が公開されたのは2016年3月で、その際には(ウィラヤット・ニーナワー防空大隊に属する)アル・ファールク小隊のトラックに搭載された 「D-30」122mm榴弾砲が、モスル上空でシギント任務を遂行中のアメリカ海軍の「(E)P-3」電子偵察機に発砲している姿が見られました。

 本来は地上目標にのみ使用されるこの種の火砲の使用は極めて型破りなものであることを考えると、榴弾砲の転用は、有志連合軍の圧倒的な航空戦力に対抗する手段がイスラム国に著しく不足している実情を浮き彫りにしたと言えます。


 頻繁に円を描くように低速で飛行していた「(E)P-3」の存在は、イスラム国からすると悩みの種だったことは間違いありません。同機はこの地域で使用されている高速飛行のジェット機とは対照的に極端に遅く飛ぶことから、彼らは榴弾砲でも撃墜できる可能性があると考えたのでしょう。

 強力な火砲はこういった飛行機が活動する高度まで砲弾を到達させる能力があるにもかかわらず、その榴弾には近接信管や対空信管が存在しないという事実は、彼らに敵機を無力化するには直撃弾を与える必要を生じさせました。もちろん、これは達成するのがほぼ不可能な偉業です。

 この手法は時間と貴重な弾薬の無駄に見えるかもしれませんが、このような戦術を採用したのはイスラム国が最初ではありません。実際、ムジャヒディンがソ連のアフガニスタン侵攻で迫撃砲やRPGでソ連軍のヘリコプターを攻撃したことや、イラン・イラク戦争でもイラン側の大砲が低空飛行するイラクのヘリコプターを狙っていたことはよく知られています。

 もちろん、こうした事例で航空機の損失どころか小さな損害さえ与えたことすら報告されたことはありません。 結局のところ、このような絶望的な戦術は目標を完全に撃破するか、完全に失敗するかのどちらかの結果にしかならないのです。


 イスラム国は有志連合軍機によるISILのAFVへの攻撃を軽減させる解決策を生み出すことも試みました。

 頭上を旋回する高速ジェット機や無人航空機(UAV)に対して無防備なままだったイスラム国の唯一の実行可能な選択肢は、敵に発見される機会を減少させることであり、それが戦場における彼らの興味深い適応に至らせたのです。その例としては、兵士の熱源を拾う赤外線(FLIRターゲティング・ポッドでの捜索を妨害するために、裏地にアルミを備えた数種類の迷彩服の製造が挙げられます。

 これらの方法は比較的単純で実装も容易ですが、戦車と同じ大きさの物体をカモフラージュするにはこ下の「T-55」戦車で明らかにされているように、完全に異なる方法が必要とされました。このカモフラージュを構成する吊り下げられたロープ状の物体は革の帯であると考えられており、前述の迷彩服と同様の働きをします。


 当然のことながら、このマルチスペクトル迷彩を施された戦車のほぼ全てが、ISがシリア軍だけでなくYPGに対しても攻勢を仕掛けていたウィラヤット・アル・バラク(ハサカ県)に配備されました。[10]

 YPGがこの地域におけるイスラム国の進撃を阻止する上で重要な役割を果たす有志連合軍の大規模な航空支援を当てにすることができたことは、こうした戦車のカモフラージュがますます重要になったことを物語っています。

 他のISILによるAFVの改修と同様に、有志連合軍の航空戦力を欺くというマルチスペクトル迷彩の有効性は依然として判明していません。しかし、こうしたカモフラージュを装備した戦車が今までに有志連合軍による空爆の映像で目標となったことはなく、シリアの地上において空爆と推定される攻撃で破壊された姿も見られないことから、有志連合軍機を欺いて発見を回避することに効果があった可能性はあるでしょう。


 上空からの攻撃を避けるもう一つの方法は、精密誘導弾を受ける側に目立つデコイを置くことです。この目的のために、イスラム国は偽者の戦車を含むあらゆるデコイを製造しました。そうは言っても、これらの多くは品質に疑問がある代物だったので、仮に迷彩色を施してもイラクやシリアの平原では逆に目立ってしまったと思われます。もちろん、(2番目の画像にある)乗員を模した髭面のマネキンが、その不自然さを変えることもできなかったでしょう。



 疑わしい品質はデコイの戦車の成功を妨げる唯一の問題とは決して言えませんでした。なぜならば、デコイの設計者の大半は現代の戦車が実際にどのような姿をしているのかを少しも理解していなかったようだからです。その結果、イスラム国が使用しているソ連のTシリーズ戦車ではなく第二次世界大戦時の「マウス」超重戦車に似たデコイが2017年にモスル周辺にいくつか配備されました。

 しかしながら、この継続的な取り組みは、イスラム国がこの段階になっても自身の戦闘員や拠点への攻撃を阻止できるあらゆる戦略を活用することにいかに尽力しているかを示しています。



 デコイの製造と配備は戦車だけにとどまらず、「M1114 "ハンヴィー"」や榴弾砲、多連装ロケット砲、そして重機関銃までもが多種類に及ぶデコイの対象となりました。これらはロシア軍機が搭載する旧世代の光学装置を欺いたかもしれませんが、高度な前方監視赤外線(FLIR)センサを装備した有志連合軍機が、デコイと実際に危険な本物を区別するのに大きな問題があったとは考えられません。



 内戦が進むにつれて、デコイの製造は急速に標準化された工程となりました。特にモスルでは顕著であり、「M1114 "ハンヴィー"」のデコイを組み立てる工場が丸ごと設立されていたほどです。

 ちなみに、このモデルが模倣の対象となったという事実の原因としてはアメリカの外交政策が挙げられます。イラクにこのような車両を氾濫させた一方で、イスラム国などによる鹵獲を阻止できるような治安組織を残さなかったからです。




 有志連合軍の航空戦力に対抗するためのイスラム国の広範囲にわたる取り組みは最終的には大した結果をもたらすことはありませんでしたが、それでも、自身の欠点を補うための独創的な方策を見出そうとする彼らの現実的な姿勢を体現していました。

 どんな課題であれ、それを成し遂げるためにISILが驚くような解決策を考え出すことは間違いありません。もちろん、猛威を振るった帝国が崩壊して規模を誇ったアセットもほとんど失った今では、昔のようにひっそりと活動し続けることを余儀なくされるでしょう。

 その一方で、有志連合軍のパイロットたちがイスラム国の対空戦術に対してあまり眠れなくなるほど心配することはなさそうです。

[1] Islamic State captures Ayyash weapons depots in largest arms haul of Syrian Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2016/03/islamic-state-captures-ayyash-weapons.html
[2] Armour in the Islamic State, the DIY works of Wilayat al-Khayr https://www.oryxspioenkop.com/2017/03/armour-in-islamic-state-diy-works-of.html
[3] Exclusive: Inside IS Terror Weapons Lab https://web.archive.org/web/20160105223639/https://news.sky.com/story/1617197/exclusive-inside-is-terror-weapons-lab
[4] Islamic State captures large numbers of radars and missiles at Tadmur (Palmyra) airbase https://www.oryxspioenkop.com/2015/06/islamic-state-captures-large-numbers-of.html
[5] Chemical weapons found in Mosul in Isis lab, say Iraqi forces https://www.theguardian.com/world/2017/jan/29/chemical-weapons-found-in-mosul-in-isis-lab-say-iraqi-forces
[6] Iraqi forces discover terrifying arsenal of weapons including mustard gas and dozens of ageing rockets in ISIS arms warehouse https://www.dailymail.co.uk/news/article-4163946/Iraqi-forces-discover-mustard-gas-ISIS-warehouse.html
[7] YPG-led SDF captures Soviet-made missiles from ISIS in Raqqa https://youtu.be/HIEIFh0CaEc
[8] The Syrian Arab Air Force - Beware of its Wings https://www.oryxspioenkop.com/2015/01/the-syrian-arab-air-force-beware-of-its.html
[9] That Time Soviet Howitzers Were Used as Anti-Aircraft Guns by the Islamic State https://www.oryxspioenkop.com/2019/07/that-time-soviet-howitzers-were-used-as.html
[10] Armour in the Islamic State - The Story of ’The Workshop’ https://www.oryxspioenkop.com/2017/08/armour-in-islamic-state-story-of.html


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2024年2月28日水曜日

欧州の北朝鮮:アルバニア軍の人民軍の軍用車両・重火器(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2023年3月21日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 アルバニア社会主義人民共和国は、1946年から1991年まで存在した一党独裁のマルクス・レーニン主義国家です。存在した期間の大部分を通じて、この国はホッジャ主義として知られるスターリン主義的な政治スタイルを確立してアルバニアを統治したエンヴェル・ホッジャによって率いられました。

 北朝鮮と極めて酷似しているにもかかわらず、この国の独裁的な支配者は間違いなく冷戦時代の忘れ去られた一章を築いています。

 アルバニアは1961年の断交まではソ連と、続く1978年の断交までは中国と緊密な関係にありましたが、最終的に1978年以降はほぼ完全に国際的に孤立した事態は、アルバニア人民軍(UPSh)の装備と作戦即応性に大きな悪影響を与えました。今日に至るまで、アルバニア軍は中国製の兵器、航空機、船舶、その他の装備の大半を保有している欧州で唯一の軍隊であり続けています。

 アルバニアは、現在でも山岳地帯の至るところに多くのバンカーが点在していることでよく知られています。隣国ユーゴスラビアからの侵略を妨げるという被害妄想に陥ったエンヴェル・ホッジャは、全国各地に(300万人に満たない人口用として)約75万個ものバンカーの建設を命じました。これらには第二次世界大戦時代の「モシン・ナガン」小銃や「PPS(h)」短機関銃で武装した市民が籠城することになっていたものの、携帯式の対戦車火器は著しく不足していました。より実用的な発展は、アルバニアの山々に掘られた大規模なトンネル群という形でもたらされました。 これらは陸海空軍の重装備の多くを格納することが可能だったほどです。

 もしユーゴスラビアがアルバニアへの侵攻を本気で検討していたのであれば、膨大な数のバンカーが...機械化部隊の攻撃を阻止するという本来意図した用途では役不足だったかもしれませんが...ユーゴスラビアがそれらを破壊したり迂回したりする労力を認識させるだけで、全土をアルバニア全土の占領を阻止することに成功した可能性はあったかもしれません。

 北朝鮮が経済的・軍事的に最大の利益を得るために慎重にソ連と中国と駆け引きを繰り広げた一方、ホッジャは1961年にソ連と断交し、中国の外交政策を公然と批判したことによって1978年に同国とも国交断絶しました。その時点からアルバニアは事実上の鎖国状態となり、兵器類のスペアパーツを調達したり、旧式化した装備を更新することも不可能となってしまったのです。

 1980年代初頭に中国との貿易が再開されたことで、アルバニアは再びスペアパーツを入手できるようになったものの、この国が再び(「HJ-8」対戦車ミサイル:ATGMと「HN-5」携帯式地対空ミサイルシステム:MANPADSで構成される)新兵器群を調達するのは1990年代になってからでした。[1]

 1990年代以前にATGMやMANPADSのような装備が皆無だったUPShは、その代わりとして約700台の戦車群や1,600門の火砲、大量の対空機関砲を配備することで近代兵器の不足をカバーしていました。

 1970年代後半から1980年代の間に経験した新規調達の失敗を少なくとも部分的に補うため、アルバニアはすでに生産されていたボルトアクション式の「モシン・ナガン」小銃と「SKS」半自動小銃に加えて、中国の「54式」重機関銃、「56式」及び「69式」RPG、そして「56式」自動小銃を含む小火器の大量生産も開始しました。これらの中国製小火器は、1990年代まで製造された数多くの独自型の基礎となったことはよく知られています。[2]

 皮肉なことに、アルバニアはソ連の「モシン・ナガン」を生産した最後の国でした。最終ロットを1961年後半まで生産していたのです![3]

 1997年に発生したアルバニア暴動は国内各地の兵器庫から多くの武器が略奪されるという結果をもたらし、その相当な量が後日にコソボへ渡りました。その他の中国製やソ連製の兵器の大部分は、その後にスクラップにされたか、今でも博物館で生きながらえています。

 それでも、一部の武器は2022年にウクライナに送られるまでの十分な年月を現役のストック品として持ちこたえることができました。その中国製のマークは今まで報じられていなかった中国からウクライナの武器供給に関する憶測を引き起こしましたが、その実際の出自はもっと古いものだったです。

  1. 以下の一覧は、1991年までアルバニア人民軍で運用された全ての装甲戦闘車両(AFV)などを網羅することを試みたものです。
  2. この一覧は、(画像などから視覚的に)確認できた車両や装備のみを掲載しています。
  3. 各兵器の名前をクリックするとアルバニア人民軍で運用されている当該兵器の画像を見るころができます。

戦車

自走砲

装甲戦闘車両

装甲兵員輸送車

牽引砲

多連装ロケット砲

対空砲

固定式地対空ミサイルシステム

レーダー

汎用車両