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2023年10月4日水曜日

現代の戦時急造兵器:シリアの「シャムス」多連装ロケット砲

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 シリア・アラブ陸軍の機甲師団は、追加装甲でアップグレードされた数種類の戦車やほかの装甲戦闘車両(AFV)を運用していることでよく知られています。

 さまざまなAFVや支援車両に施した後、第1機甲師団(第1AD)は2016年に新型の多連装ロケット砲(MRL)を導入することで、その保有兵器のストックをもう一度拡充しました。このMRLは、アラビア語で太陽を意味する「シャムス」として広く知られています。そのニックネームは、ロシア軍がシリアに展開していた際に配備されたTOS-1A 「Solntsepyok」が「太陽」と呼ばれていたことに由来すると考えられています。

 この車両は、ダマスカスの戦域全体でAFVに施された高度で専門的なアップグレードの傾向を引き継いでいます。

 このようなアップグレードされた車両の最初のものは2014年末に登場し、この時には少なくとも2台の装甲が強化された(イタリアのTURMS-T火器管制システムを装備した)T-72M1が、ジョバルに配備された直後に破壊された姿が公開されました。しかし、この事態が第4ADに計画の推進を阻むことはなく、その後の数年間で数種類の装甲強化型AFVが戦場で目撃されるようになったのです。

 「シャムス」は、2発か5発の大口径ロケット弾を発射する機構とGAZ製SadkoトラックまたはBMP-1歩兵戦闘車(IFV)の車体を組み合わせた自走式MRLシステムです。

 このMRLに使用するロケット弾は標準的なロケット弾により大きな弾頭を組み合わせた評判の高い「ボルケーノ」型であり、2013年のアル・クサイルでの戦いの際に、直撃すれば住宅区画を完全に破壊できる威力があることで広く知られるようになりました。 

 シリアの軍需産業は同時期にこの「ボルケーノ」を大量生産し始め、即座にシリアにおけるほぼ全ての戦線で使用され始めました。

 BMP-1をベースにした「シャムス」はかなりの数の画像が撮影されていますが、実際に改修されたBMPはたった1台だけしかありません。よりすぐに使用できるプラットフォームとしてGAZ製「Sadko」トラックがあり、数台が自走発射機として改修されました。 

 このGAZ製「Sodko」をベースにしたものには2種類のモデルが存在します。1つは発射機を搭載するために特別に改修されたもので、もう1つは無改造のトラックの後部に発射機を搭載したものです。

それ以外の車両は改修されなかったと考えられており、「シャムス」はその後すぐに、より多用途性がある「ゴラン」MRLに取って代わられました。

 BMPとGAZ製「Sadko」をベースにした「シャムス」はその両方が、スラットアーマーを装備した「T-72 TURMS-T」ロシアから供与されたBTR-70M装甲兵員輸送車(APC)を含む、いくつかの注目すべきAFVを運用している第1師団に所属しています。



 シリアでは現在3種類の「ボルケーノ」が生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれています。

 最も広く使用されている「ボルケーノ」用ロケット弾は107mmと122mm弾をベースにしたものですが、220mm弾ベースのものも存在します。シリアでは107mmと122mm(グラート)ロケット弾が非常に一般的なものであることに加えて、220mmロケット弾もシリア国内で製造されていることが知られているため、これらのロケット弾を「ボルケーノ」に改造することは比較的容易です。

 「シャムス」は2種類の122mmロケット弾をベースにした「ボルケーノ」を使用しており、どちらも大重量の300mm弾頭を備えています。「シャムス」MRLから「ボルケーノ」が発射される様子はここで観ることができます

 興味深いことに、「シャムス」で使用されている2種類の「ボルケーノ」の1つには、通常の弾頭より強力な爆発力をもたらすために空気中の酸素を利用し、閉じ込められた空間での使用に最適なサーモバリック弾頭(350kgというとてつもない重量だと伝えられています)を搭載していると評されています 。[1]

 もう1種類は250kgの通常弾頭(元の122mmロケット弾では約65kg)を使用したもので、装備されている短いロケットブースターによってサーモバリック弾頭型と識別することが可能です。「ボルケーノ」の射程距離はサーモバリック型では3.4キロメートル、従来型では1.5キロメートルとのことです。


 「シャムス」は戦時下に適応した完璧なケースであり、(改修されなければ)平凡だったAFVを現在の戦場で遭遇するタイプの戦闘に完全に適応した、強力なプラットフォームに変えました。

 シリア軍がこういった効果的な戦力増強をさらに行うかどうかはその意欲とリソース次第ですが、そのような試みにおける柔軟性が軍事プランに反映されるのであれば、その決定は最終的にシリア軍の再建に大きな影響を与える可能性があるでしょう。

  [1] @WithinSyria氏との個人的な会話

特別協力: Morant Mathieu(敬称略)

※  当記事は、2021年10月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも      のです。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。

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2023年9月24日日曜日

資金不足と工夫の果てに:アルメニアの「S-125(SA-3)」地対空ミサイル改修計画

トレーラーに搭載されたアルメニアの「S-125」用発射機

著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 2010年代、拡大するアゼルバイジャンの無人機戦力に遅れをとることなく、既存の地対空ミサイル(SAM)とレーダーシステムの老朽化に対処するため、アルメニアは防空戦力の広範囲にわたる近代化計画に着手しました。

 「トール-M2KM」「ブーク-M1-2」、ロシア製の電子妨害装置である「レペレント-1」「アフトバザ-M」といった新型装備の導入が最も注目を集めるでしょうが、旧式システムのオーバーホールやアップグレードも実施されました。その中には、「2K11/SA-4"クルーグ"」「2K12/SA-6 "クーブ"」「S-125/SA-3 "ペチョーラ "」といった1960年代に開発されたSAMシステムも含まれていたのです。

 アゼルバイジャンへの抑止力としてロシアから最大12機の「Su-30SM」戦闘機を購入することにより多くのメリットを見出した政府と慢性的な資金不足に直面した結果、旧式SAMのアップグレードについては、結局は使い古された部品の交換や一部のアナログ部品のデジタル化、そのほかの段階的な変更に限られてしまいました。[1]

 これらのアップグレードは確かに戦闘力をいくらかは向上させたものの、最終的に2020年のナゴルノ・カラバフ戦争において、「2K11」や「2K12」、そして「S-125」などの旧式化したシステムに戦闘で勝利する見込みをもたらすには完全に不十分なものでした。

 2010年代初頭の時点では、アルメニアは依然として現役の「S-125」陣地を5つも維持していました。当時、「S-125」はまだアルメニアが保有するものでは高性能なSAMの1つであり、「ブーク-M1-2」や「トール-M2KM」の導入はまだ数年先のことだったのです。

 2015年以前に、アルメニアの公共株式会社(OJSC)であるチャレンツァヴァン工作機械工場は、トレーラーに「S-125」の4連装発射機を搭載するという、控えめなアップグレード計画を立ち上げました。[2]

 この改修で搭載できるミサイルの数は4発から2発に減少したものの、発射機をトレーラーに搭載することで、SAMシステムの機動性は大幅に向上しました(注:トレーラーの車幅上、発射機の装填部分を2発分に減らさざるをえなかったものと思われます)。つまり、この改修は部隊の展開時間を大幅に短縮させ、「S-125」をSAMサイトに配備する固定式のシステムから半移動式として使用することを可能にしたわけです。

 発射機と同様に、「S-125」システムを構成する「SNR-125 "ロー・ブロー"」火器管制レーダーも牽引式トレーラーに搭載された可能性があります。

 通常、この2つのコンポーネントは改修された対空砲の車体に載せられていますが、展開するのに長い時間を要するというデメリットがありました。また、アルメニアはミサイル輸送車両の機動性の向上も求め、老朽化した「ZiL-131」トラックをより近代的なカマズ製トラックに更新しようと試みました。

 アルメニア軍が「S-125」システムをより柔軟に展開できるようにするための非常に経済的なアップグレード計画であったことにはほぼ間違いありませんでしたが、結果的により多くの発射機が改修されることはなかったようです。

エレバンでの軍事パレードに登場した、2発の「5V27D」ミサイルを搭載したカマズ製トラック(2016年9月)

 2020年には、4つの「S-125」サイトが稼働していました。れらのサイトは、アルメニアのエレバン、マルトゥニ、ヴァルデニス、そしてナゴルノ・カラバフのステパナケルトの周辺に設けられていました。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で、理論上は戦闘に参加するには十分な場所に位置していたアルメニアの「S-125」サイトが1つだけありました。そのサイトはステパナケルト空港に隣接しており、2019年末に設けられたばかりのものでした。

 「SNR-125 "ロー・ブロー"」火器管制レーダー1基とミサイル発射機2基で構成されていたこのサイトの運用については、2020年10月17日、IAI「ハロップ」が「SNR-125」に直撃してミサイルを誘導するレーダーを喪失したことでサイトが無用の長物となったため、突如として終わりを迎えました。[3] [4]

 どうやらレーダーがステパナケルト上空の徘徊兵器を追跡できなかったため、直撃を受ける前に同サイトからミサイルは発射されなかったようです。[5]

 一方で、アゼルバイジャンはこのサイトの破壊については全く優先していなかったようで、ナゴルノ・カラバフ戦争が始まってから約3週間が経過してようやく破壊を完了させました。

 ちなみに、アゼルバイジャン自身は依然として10基の「S-125」を運用していると推定されていますが、その大部分はベラルーシによって「S-125TM "ペチョーラ-2TM" 」規格にアップグレードされたと考えられています。[6]

 このうち8つのサイトはナゴルノ・カラバフの周囲に環状に設けられていますが、戦争が終わった今、その全てがカラバフかアゼルバイジャンの別の地域に移転させられる可能性が高いと思われます。

徘徊兵器「ハロップ」が直撃する寸前のステパナケルト空港付近に配備された「SNR-125」

 試作段階で暗礁に乗り上げた「S-125」を動員しようと試みた一方で、ベラルーシの「Alevkurp」社が同様のシステムの設計を成功裏に完了させています。「S-125–2BM(別名:PF50 " アレバルダ ")」と命名されたこのアップグレード型も、「S-125」の限界を大幅に改善し、低空飛行する航空機やUAVをより効果的に照準できるようにしたものです。[7]

 また、「S-125」の機動性を向上させた別の改良型としては、ベネズエラ、モンゴル、タジキスタン、トルクメニスタン、シリア、ミャンマー軍で商業的成功を収めたロシアの「ペチョーラ-2M」があります。

 これらとは別に、北朝鮮、キューバやポーランドを含むほかの国々も自国が保有する「S-125」の機動性を向上させようとしてきました。後者の2国の場合、「S-125」の発射機は「T-55」戦車の車体に搭載されました(注:北朝鮮の場合はアルメニアと同様に2連装発射機をトラックに搭載したもの。また、詳細不明ながらも戦車に発射機を搭載する試みはエチオピアでも行われています)。[8] [9]

トルクメニスタン軍の「S-125–2BM」はアルメニアの改修型とは異なって、4発のミサイルが搭載可能

 現在のアルメニアは(将来再発するかもしれない)アゼルバイジャンとの紛争で旧式化した装備が役に立ちそうもないと知りながら、それらの大半を運用し続けるか、それとも退役させるかというジレンマに直面しています。

 「S-125」のようなシステムの退役は、書面上では戦闘能力の大幅な低下をもたらしますが、結果的にアルメニアの戦時能力にはほとんど問題を及ぼすことはないと言うこともできます(旧式で役に立たなかったため、あっても無くても変わりないということ)。

 この見通しが最終的に「S-125」の発射機をトレーラーに搭載して機動性を高めるというアルメニアの計画を葬り去ったかどうかは不明ですが、(仮に実用化に成功したとしても)役に立たなかったことは間違いないでしょう。


[1] Вклад ВПК Армении в развитие ПВО и военной авиации https://vpk-armenii.livejournal.com/71391.html
[2] ОАО «Чаренцаванский станкостроительный завод» https://vpk-armenii.livejournal.com/3852.html
[3] Azerbaijan`s Defense Ministry: Armenia`s S-125 anti-aircraft missile system disabled https://azertag.az/en/xeber/Azerbaijans_Defense_Ministry_Armenias_S_125_anti_aircraft_missile_system_disabled-1617041
[4] https://twitter.com/azyakancokkacan/status/1319186262968991744
[5] The current state of the air defense system of Azerbaijan https://en.topwar.ru/137819-sovremennoe-sostoyanie-sistemy-pvo-azerbaydzhana.html
[6] https://defence-blog.com/turkmenistan-parades-s-125-2bm-air-defense-missile-system/
[7] https://i.postimg.cc/6p94x0pY/s-125-t55-image02.jpg
[8] Polish S-125 M Surface-to-Air Missile Shoots Down Drone During Exercise https://youtu.be/fQ2tyO0NtYw

※  当記事は、2021年12月19日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも 
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。



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2023年9月22日金曜日

地獄を呼ぶMRL:アルメニアのランド・マットレス


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 アルメニアの兵器産業は1990年代半ばに創設されましたが、その詳細と開発した兵器については全く知られていません。その後の数十年でいくつかの見込みのあるプロジェクトが発表されたにもかかわらず、アルメニア軍からの資金援助や関心を引き出すことができなかったため、設計案の大半は青写真のままで終わるか(実際に製造されても)試作品の域を超えて開発が進むことはありませんでした。

 それでも、最終的に日の目を見ることになった多くのプロジェクトは、このような兵器産業がある程度存続していることを思い出させてくれる役割を果たしています。

 そのようなプロジェクトの1つが、その異様な見た目のおかげで映画「マッドマックス」の世界からそのまま飛び出してきたような装軌式のランド・マットレス(多連装ロケット砲:MRL)です。この人目を引くシステムは、味方の地上部隊の前進を妨げる可能性があるものを文字通りそのエリアから一掃するために設計されたと考えられています。そのため、同システムには27本のロケット弾用の発射管が装備されており、火力支援で効果的に使用することが可能です。

 ただし、このシステムは高度な誘導方式や高い命中精度を用いるのではなく、大量のロケット弾と重量級の弾頭によって敵がいるエリア全体を包括的に火力を浴びせるという典型的な無誘導型MRLとなっています。

 残念なことに、このシステムの運用履歴や使用されているロケット弾、そしてアルメニアの防衛産業によって最終的に生産された数については全く知られていません。

 しかし、発射システムと使用するロケット弾の種類の双方の設計は比較的スタンダードなものである可能性があります。ロケット弾自体の直径は約200mmであり、通常の弾頭を搭載して数キロメートルの射程距離で効果的に使用できる能力があると思われます。もちろん、射程距離を伸ばすことは可能なはずですが、おそらくロケット弾の命中精度をさらに低下させてしまうでしょう。

 外見的な類似性から、このMRLとロシアの「TOS-1(A)」重火炎放射システムをすぐに比較する人がいるかもしれませんが、MRLは完全に異なるカテゴリーに属しています。

 最も注目すべき点として、「TOS-1」がサーモバリック弾頭のロケット弾を発射するのに対し、アルメニアのシステムのロケット弾は通常弾頭を搭載している可能性が高く、発射機の構造も比較的DIY的ということがあります。

 アルメニアとアゼルバイジャンの双方が2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で「TOS-1(A)」を投入して活躍しましたが、アルメニアは1台を失ったことが確認されており、(視覚的に確認されていないものの)アゼルバイジャンはさらに数台を失ったと伝えられています。[1]

        

 しかし、この「ランド・マットレス」プロジェクトを成功させるには、ロケット弾の設計・製造以上のものが必要とされました。課題の1つは、27本ものロケット弾用の発射管を(安全に)搭載できる十分な大きさの車両を見つけることでした。

 アルメニアのエンジニアはその解決策を「GM-123」シャーシに見出したようです。なぜならば、同国の2K11「クルーグ(NATO呼称:SA-4 'ガネフ')」地対空ミサイル(SAM)システムの大半が退役した後、このシステムに用いられていた多数の同シャーシを転用することができたからです。

 2K11の巨大な「9M8」ミサイルを撤去することで、シャーシ上にロケット弾発射機の搭載に使用できる十分なスペースができました。どうやら、 MRLへの転用後も「クルーグ」のエレクター機構はそのまま維持されたようです。もちろん、もともとはミサイルをほぼ垂直に発射するように設計されたものだったため、その仰角範囲は確かにMRLシステムとして使用するにも十分なものでした。

退役した2K11「クルーグ」(ステパナケルト郊外にて)

 いくつかの2K11「クルーグ」SAMは辛抱強く現役に残り続けて2020年のナゴルノ・カラバフ戦争に参加しましたが、同じく依然として公式に現役にあった2K12「クーブ」と同様に、2K11も戦争中は基本的にアゼルバイジャン軍による「射撃の練習台」として使われてしまいました。

 アルメニアは少なくとも2つの老朽化したこれらのSAMサイトを維持していましたが、戦争中に使おうとしませんでした。それでもアゼルバイジャンからの攻撃を避けることはできず、結果として2K11の発射機1台と1S32「パット・ハンド」レーダー1基が破壊されました。[1]


 ナゴルノ・カルバフ戦争中に保有する重火器の約半分を失ってしまったため、アルメニア軍は少なくとも以前の戦力の一部を再建するために自国の軍需産業に協力を求めるだけでなく、徘徊兵器のような緊急に必要とされる新しい戦力を導入することになるでしょう。

 とはいえ、ナゴルノ・カラバフの大半を喪失したため、大規模な常備軍を運用する理由も一緒に失われてしまいました。

 それでも、2021年6月に新しいタイプの軽量型MRLが目撃されたことは、新しいプロジェクトが確実に進行していることを示しています。[2]

 軽量型MRLプロジェクトとそれに続く別のプロジェクトは、ここで取り上げた彼らの大先輩よりも大きな影響を与えることになる可能性があります。そして、これらのシステムのレガシーは独自のMRLを設計するための最初の本格的な試みの1つとして受け継がれていくでしょう。


特別協力: Magomedov Mukhtar

【日本語版編訳者による追記】
 画像を確認するとMRLが複数台存在することが確認でき、各車両がヘッダー画像とは異なるカラフルな迷彩が施されていることが分かりました(車両ごとにナンバーが割り振られており、最も数が大きいものは「7」であったことから、少なくとも7台は存在していたことを意味する)。
 驚くべきことに一部の車両はロケット弾が発射管から飛び出た状態で放棄されていました。これは燃焼剤の不具合によるものか戦闘で撃破されたものかは不明ですが、少なくともこれらが戦闘に投入されていたことを示す証拠と言えるでしょう。
 ちなみに、ロケット弾には161.5mmとの文字が記載されていますが、これが口径だった場合はアルメニア自身でロケット弾を製造していたことが推し量れます。

ナンバー「05」は無傷に見える:右奥の個体は損傷か発射による噴煙で発射機が黒ずんでいる

ナンバー「05」を後ろ見た様子:弾薬が装填されているが一部が空であることは、2023年の戦闘で使用された可能性を示唆している

ナンバー「06」と「07」:ロケット弾が装填されておらず、車体後方に噴煙の後が見えないので実戦には投入されていないかもしれない(ただし塗装が綺麗なので、囮ではなく実戦用の装備として屋内で保管されていたことは確実だろう)

発射中にロケット弾が停止している:撃破か燃焼不良によるものかは不明だが、このMRLの口径と弾頭重量を明らかにする貴重なショットである

このMRL専用のロケット弾保管庫:使用期限や状態が怪しいものはあるが、このMRLを戦力として数に入れていたことだけは確実のようだ(入り口のカモフラージュネットがそれを示している)

[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] https://twitter.com/Caucasuswar/status/1408446699358543874
[4] https://x.com/wwwmodgovaz/status/1718949463060848648?s=20

※  当記事は、2021年11月13日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年11月8日火曜日

創意工夫とDIYでの戦い:アルメニアの「N-2」多連装ロケット砲



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 アルメニアでは自国の現代史を通して、比較的少ないコストで新たな戦闘能力を軍隊に提供するべく独自兵器の設計が頻繁に考案されてきました。そのプロジェクトの1つである、塹壕内で使用するために設計されたリモート・ウエポン・システムについては、すでに当ブログで取り上げられています。

 もう1つの比較的あまり知られていないプロジェクトとして、12門の「RPG-7」対戦車擲弾発射器を牽引車やトラックに搭載した短射程のサーモバリック弾発射型多連装ロケット砲(MRL)があります。リモート・ウエポン・システムと同様に、このMRLもナゴルノ・カラバフ周辺のアゼルバイジャン軍との塹壕戦を念頭に置いて設計された可能性があります。

 「N-2」として知られるこのMRLは、おそらく1990年代から2000年代のどこかの時点で「Garni-ler・アームズ・カンパニー」によって設計・製造されました。[1]

 この発射機には12発の「TBG-7V」サーモバリック弾(またはアルメニアのコピー品である「TB-1」)を使用しますが、理論上は通常の「RPG-7」から発射できる弾頭であれば、どれでも使用可能です。12発の弾頭は、一度に単発か数発が遠隔操作で発射されます。ただし、「TB-1/BG-7V」の有効射程距離が短いため(数百メートルから1キロメートルと推定)、このシステムを有効に活用できる状況は比較的少ないと思われます。

 敵の陣地を狙うためには「N-2」を危険なほど近くに配置させる必要があるため、このシステムを防衛目的以外で適切に使用することは困難です。特に思い浮かぶシナリオの1つとしては、味方の陣地を敵の歩兵から防御する際での使用があります。敵兵に「N-2」の12発のサーモバリック弾頭を使えば、相当な効果を発揮するに違いありません。



 時々「N-2」MRLがアルメニア陸軍の装備リストに入ったと推測されることがありますが、これは2011年のアルメニアの独立記念日の軍事パレードに登場したことに由来しているようです。[2]

 (実際の運用を含めて)再び姿を見ることがなかったため、「N-2」がパレードに登場したのは一度限りの宣伝目的での使用にあったと思われます。実際、パレードに登場した4門のシステムは「N-2」の全生産量に相当する可能性すらあります。

 このシステムは安価で軽量なMRLとしてある程度の見込みがあるものの、問題はより正確に使用できる12門の「RPG-7」発射機と同量の弾頭を犠牲にすることが、「N-2」の控えめな接近阻止・領域拒否能力に値するかどうかです。



 「N-2」の性能は、どうやらアルメニア軍に大量生産を開始するには不十分なものと見なされたようです。

 とは言うものの、「N-2」はアルメニアの防衛部門に創造力が欠けているわけではないということを思い出させてくれます。らにある程度の財源が与えられるならば、「N-2」をベースにしたシステムが低レベルでの火力を増強する費用対効果の高い手段をもたらすかもしれません。



[1] Light multiple grenade launcher developed in Armenia http://articles.janes.com/articles/Janes-Missiles-And-Rockets-2010/Light-multiple-grenade-launcher-developed-in-Armenia.html
[2] Independence Day. Armenia. Parade on September 21 https://youtu.be/ggGo-BzNBEw

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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2022年6月15日水曜日

孤立した中での創意工夫:沿ドニエストルの自家製「ハンヴィー」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トランスニストリア、正式には沿ドニエストルモルドバ共和国(PMR)は、この過去10年間で非常に面白いデザインの装甲戦闘車両(AFV)を次々と生み出してきました。

 1990年代初頭に独立を一方的に宣言して以来、この未承認国家は旧式化したソ連製兵器のストックを新型に置き換えることができないため、その代わりとして自国で開発した多数の車両で戦力のギャップを補おうと試みています。

 独自兵器の大部分は、全く新しい用途に適合させるために既存のAFVをベースに改造したものであり、この最も良い例を挙げるならば、ほぼ間違いなく自走対空砲型「MT-LB」「BTRG-127 "バンブルビー"」装甲兵員輸送車(APC)でしょう。後者はもともとソ連で「GMZ-3」地雷敷設車として開発されたものです 。[1]

 沿ドニエストルで登場した最新の独自兵器は、古いトラックの車体をベースにした四輪式の軽多用途車です。この車両は明らかにアメリカの「ハンヴィー」からインスピレーションを得ているように思われるため、(制式名称やより良い仮称が思いつかないことから)今後は「トランスヴィー」と呼称することにします

 「トランスヴィー」は、2022年2月に行われた特殊部隊のデモンストレーションで初めて目撃され、同車は自身のベースとなった四輪駆動の「GAZ-66」オフロード軍用トラックと一緒に登場しました。[2]

 この新型車両の性能は、メンテナンスのしやすさと戦場での頑丈さが評価されている1960年代の「GAZ-66」と同等であると思われます。

 生産性を容易にしたり、コストを最小限に抑えるため、沿ドニエストルの技術者たちは「GAZ-66」のコンポーネントを可能な限り多く取り入れることに努めたようです。面白いことに、そのコンポーネントには「GAZ-66」の車体だけでなくキャビン前部も含まれています(注:キャビンの天井や窓などがそのまま流用されているのです)。

 「GAZ-66」のキャビンは1台の「トランスヴィー」につき2つ使用されており、2つ目のキャビンは前部と反対方向にして溶接され、車両のフレームを形成しています(注:よく見ると前後のドア自体も「GAZ-66」そのままで観音開き式となっています)。

 「GAZ-66」は大量に現地部隊で用いられていますが、それらの少なくとも一部を、過去10年で商用トラックとしてロシアから輸入した「ウラル-4320」や「カマズ 6x6」トラックで更新することに成功しました。

 「トランスヴィー」について、見た目から判明した設計の特徴以外やこれまでの生産台数は一切わかっていません。しかし、「GAZ-66」トラックの数は沿ドニエストル軍の運用で必要とされる数を超過しているため、生産台数が初期ロットにとどまらず、いつか相当な数に達する可能性は決してあり得ないものではないでしょう。

 仮にさらなる生産がされる場合には、予備的な導入時に浮上した問題点を解決するために設計の修正が行われる可能性があるため、「トランスヴィー」の外観や特徴はまだ流動的である可能性を示しています(つまり現デザインが変更される可能性があること)。


「GAZ-66」4x4軽汎用トラック

 「トランスヴィー」は主に前線後方への人員や軽貨物の輸送任務用に設計されたものであり、車体後部に幌付きの貨物室を備えています。実際、2月の演習で「トランスヴィー」は特殊部隊の展開に使用されました。

 初期型の「ハンヴィー」同様に「トランスヴィー」も装甲防御力が無いことから、危険を回避するにはスピードと未舗装路における機動性に頼らざるを得ません。つまり、この車両は実質的な装甲なしで任務にうまく対処する必要があるわけですが、機銃手席の天井には 「PK(M)」7.62mm軽機関銃(LMG)が装備されています。


 すでに沿ドニエストル軍は、ありふれた「UAZ-469」やオフロード車である「ラーダ・ニーヴァ」さえもベースにした数多くの襲撃車の設計と改造の経験を有しています。

 これらの車両はこの未承認国家全域で簡単に入手可能であり、民間の車両として輸入することすら可能です。したがって、現地の部隊が攻撃的なものを含めた想像できる限りのあらゆる用途において、未だにこうした車両に依存していることは少しも驚くには値しません。

 商用車改造型襲撃車の大部分は1門の軽機関銃か重機関銃を装備していますが、驚くべきことに「9M111 "ファゴット"」対戦車ミサイルを装備した派生型さえも存在します。



 沿ドニエストルの自家製ハンビーは孤立している中で創意工夫を凝らした完璧な例、つまり、使えるものが本当に僅かしかないときに利用できるもので何とか間に合わせた例です。

 未承認国家という沿ドニエストルの立場は当面にわたって解決されそうにないため、この地域はより型破りな改造兵器の舞台となり続けることは間違いないでしょう。


[1] DIY On The Dniester: Russia’s Transnistrian SPAAG(s) https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/a-poor-mans-anti-aircraft-vehicle.html
[2] A Forgotten Army: Transnistria’s BTRG-127 ’Bumblebee’ APCs https://www.oryxspioenkop.com/2017/02/a-forgotten-army-transnistrias-btrg-127.html
[3] Праздник защитников Отечества https://youtu.be/c7UM1XS-_JQ

 ※  この記事は、2022年6月11日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。


おすすめの記事

2022年6月10日金曜日

沿ドニエストルのDIY式兵器: 沿ドニエストル駐留ロシア軍の自走対空砲


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 おそらく、ロシアの対空砲兵部隊は見るからに強そうな「2K22 "ツングースカ"」及び「96K6 2パーンツィリ-S1"」自走対空砲システム(SPAAG)を大量に運用していることで広く知られています。ただ、少数の「ZSU-23 "シルカ"」も運用が続けられており、今回のロシアのウクライナ侵攻作戦で少なくとも4台が失われました。[1]

 このカテゴリーにおける新型戦闘車両とそれらの近代化パッケージについては、「パーンツィリ」と「ツングースカ」の新バージョンを含めて今も開発され続けています。

 したがって、ロシアの対空兵器に最も新しく加わったものが、実のところ未承認国家である沿ドニエストル(トランスニストリア)の「ロシア軍作戦集団(OGRF)」に配備されているDIY式自走対空砲ということは、なおさら滑稽に思えるかもしれません。
 
 このDIY戦闘車両について、より正確には火力支援車と表現することができます。しかし、ロシアのテレビ局が駐沿ドニエストルOGRFの将校に行ったインタビューで、対空戦闘車両という明確に意図された役割の存在が確認されました。[2]

 この新型自走対空砲は2門の「NSV」12.7mm重機関銃(HMG)を装備した改修型「BTR-70」の砲塔を標準的な「MT-LB」汎用軽装甲牽引車に搭載したものであり、OGRFと沿ドニエストル軍向けとして2020年初頭に少数が生産されたようです。[2]

 同車両が装備する双連の12.7mm重機関銃は低空を飛行するヘリコプターに対してはある程度有効ですが、専用の対空照準器や暗視照準装置は備えられていないように見えます。

 公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれるトランスニストリアは、1990年にソビエト社会主義共和国として独立を自称し、続く1992年にモルドバから武力的に離脱して以来ずっと陰に隠れた存在であり続けています。

 同年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの状況は依然として複雑なままです。この未承認国家はロシア連邦への加盟を望む一方で、経済生産の面ではモルドバへの僅かな商品の輸出に大きく依存し続けていることがそれを浮き彫りにしています。

 本物の国家としての地位には疑問があるものの、沿ドニエストルは独自の陸軍や航空戦力、さらには自前の軍需産業まで有する事実上の国家として機能していることは注目に値します。
 
 ロシアは今でも沿ドニエストルに限定的な兵力を駐留させ続けており、駐留部隊は公式には平和維持活動に従事しているとされています。1995年4月、沿ドニエストルの支配地域に駐留していた旧ソ連地上軍第14軍はOGRFとなり、その間にたった2個大隊にして僅か1500人以下の兵力に縮小されてしまいました。

 一方はモルドバに、もう一方はウクライナに囲まれたOGRFは老朽化した車両群を更新できないままでいます。なぜならば、2014年にウクライナがロシアの軍用輸送機の自国領通過を禁止し、その1年後には以前にロシアに許可されていたそれらの条約を正式に破棄したからです。これは、OGRFが「BTR-60」装甲兵員輸送車(APC)、「BRDM-2」偵察車、「MT-LB」汎用軽装甲牽引車といった、ロシア本国ではほとんど退役したAFVに今後も依存し続けることを意味します。


 沿ドニエストル軍も同様に少数の「MT-LB」を運用し続けており、ごく最近の例であれば2020年9月に「首都」ティラスポリの街中をパレードした様子が確認されています。[3]

 しかし、大規模な数の「MT-LB」砲兵牽引車は運用上の必要性がほとんどなく、現在ではその大部分が保管庫で放置されているか、OGRFへ譲渡されているようです。また、DIY式自走対空砲に改修された「MT-LB」群はすでにOGRFが所有していたものであり、最近になって新用途に活用されたという可能性も考えられます。

 沿ドニエストル軍とOGRFが実際に使用できるMT-LBの数は不明のままですが、より多くの車両を改修するには十分な数が存在する可能性は高いと思われます。


 1992年のトランスニストリア戦争では砲兵用牽引車という本来の役割は余剰気味で、いくらかの「MT-LB」すでに両軍で即席の装甲戦闘車両として使用されており、大抵は兵員/貨物区画の直上に「ZPU-2」14.5mm対空機関砲や「ZU-23」23mm対空機関砲が搭載されていました。

 非常に薄い装甲しか備わってなかったことから、これらの簡易AFVは1992年の戦争で多用されたRPG(対戦車擲弾発射機)や対戦車砲の恰好の餌食となってしまったものの、ベンデルなどでの市街戦では有効活用されました。



 おそらく1992年の戦争で得た有用な経験の結果として、沿ドニエストルの軍隊はAFVの数を強化するため、その約20年後に再び各種AFVのプラットフォームとして「MT-LB」に目を向けたのかもしれません。

 「MT-LB」は今や外付けの対空砲が備え付けられているのではなく、2門の「NSV」12.7mm機関銃を装備した専用の銃塔が搭載されています。

 双連の重機関銃塔に加え、この改修型「MT-LB」は通常型と同様に、車体側面と後部に合計4基の銃眼、車体前部に1門の「PKT」7.62mm軽機関銃を装備した小型銃塔が備えられていることも特徴です。このAFVは小火器による射撃や爆発の破片に耐えうる防御力も有しています(注:ただし、必要最低限のレベルの装甲であることは先述のとおりです)。

 DIY式自走対空砲の銃塔は有効射界を広げるために文字どおり塔に搭載され、その結果として「MT-LB」の投影面積が大幅に増加したことは一目瞭然でしょう。

 銃塔は現地で設計されたものと思われますが、その見た目はロシアの「Muromteplovoz」社が「BTR」や「MT-LB」系統のAFVに搭載するために開発した「BTR-80」ベースの「MA9」銃塔に酷似しています。

「MA9」も12.7mm重機関銃を2門装備していますが、重機関銃自体は「NSV」よりも新しい「コルド」です。ロシアやウクライナの軍隊では「BRDM-2」や「BTR」の銃塔を搭載した同様の火力向上型「MT-LB」を運用しており、ウクライナの戦場でも活躍する姿が目撃されています。[5] [6]

沿ドニエストルDIY式銃塔は「KPV」14.5mm重機関銃と7.62mm軽機関銃を装備した「BTR-70」の銃塔をベースに改修を加えたものです。

ロシアの「Muromteplovoz」社が「BTR-80」の銃塔をベースに開発した「MA9」はまだ販売実績がありません。

 銃塔と(一部車両に)泥よけを追加したことを除けば、基本的には設計自体に全く変更が加えられていないように見えます。車体後部の油圧式ドーザーブレード用のアクチュエーターはそのまま残されているため、改修前と同様に「MT-LB」本来の目的である多目的用途で使用可能です。


 当分の間、沿ドニエストル軍もOGRFも旧式AFVのストックを置き換える新しい装備を手に入れることができないため、この未承認国家は今後もDIY兵器の温床となり続けるかもしれません。

 少なくとも8台の「GMZ-3」地雷敷設車の「BTRG-127 "バンブルビー"」APCへの設計と改造、そして「プリボール-2」多連装ロケット砲の生産は、沿ドニエストルの技術者が(おそらくロシアの援助を受けて)国産の代替品をある程度提供するのに確実に手際が良いことを示しています。

[1] Attack On Europe: Documenting Russian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-equipment.html
[2] https://youtu.be/_asTzuOXVks
[3] The Victory Day Parade That Everyone Forgot https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/transnistria-shows-off-military.html
[4] Башенная установка МА9 https://muromteplovoz.ru/product/mil_cs_ma9.php
[5] https://twitter.com/LostWeapons/status/1272104995383472128
[6] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1500263763064336384

この記事の作成にあたり、Ilya.A.氏に感謝を申し上げます。

 ※  この記事は、2022年6月7日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。

2022年6月2日木曜日

大空へ飛び上がった夢:自家製UAV「アルプクシュ」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年の「テクノフェスト(注:トルコ最大の航空宇宙分野のイベント)」では多数の著名なUAVが展示されていましたが、それらと一緒に型破りで好奇心をそそる見た目のUAVも展示されていました。

 この2つの離れ業を組み合わせたのが、トルコ人エンジニアのアルペル・サリサン氏によって設計された小型UAV「アルプクシュ」です。

 もともと「アルプクシュ」は、世界最小の双発有人機という興味深い栄誉を持つ娯楽用の自家製機「コロンバン・クリクリ」シンプルなコピー機としてキャリアをスタートさせました。ところが、アルペル氏はこの数年のどこかの時点で自分の「クリクリ」を無人型に改造し、この国で増大しつつあるUAVのリストに加えました。

 住宅のテラスで組み立てられた世界初のUAVとして「アルプクシュ」は2021年に開催された「テクノフェスト」でデビューしましたが、すでにそれ自体が成果となっていることを疑う余地はありません。[1]

 このUAVは翼の下に爆弾やミサイルを搭載するのではなく、作物の生長のモニタリングといった農作業や山火事への対応などの広範囲に及ぶ民生用途での使用を目的としたものです。

 この機体は近い将来に最初のテスト飛行を実施する予定であり、ついに自家製UAVに改造された飛行機の将来が試されることになります(注:2022年4月14日に初飛行を成功裏に終えました)。[1]

 「アルプクシュ」は軍用ではなく民間市場を対象としていますが、すでにトルコの危機管理部門で使用されているUAVや、同じ目的で大手企業によって開発されているUAVが多数存在しています。したがって、「アルプクシュ」の開発の継続については、サリサン氏のビジョンを分かち合う投資家の存在に左右される可能性が高いと思われます。

 すでに飽和状態のマーケットに新たなコンセプトのドローンが入る余地があるかどうかは定かではないものの、低い導入コストが主要なセールスポイントになるかもしれません。反対に、双発機であることや機体の大きさが、同クラスの単発機よりも運用コストを高いものにする可能性があることは否定できません。


性能諸元
  1. 速度: 150km/h/ 92mph / 80 ノット[2]
  2. 運用高度: 4500m / 15.000 フィート
  3. 滞空時間: 最大11時間(各フライトの概要に左右される)
  4. 全幅: 5 メートル
  5. 全長: 4 メートル
  6. 最大離陸重量t: 160kg
  7. ペイロード: 最大50kg (主に機首下部に搭載されたEO/IRセンサーで占められている)


 アルペル・サリサン氏は、2016年のトルコで発生したクーデター未遂で負った傷を自宅で療養している間に、「コロンバン・クリクリ」のデザインに興味を持ったと伝えられています。[3]

 ほかの人たちは単に夢を見続けるだけで終わりますが、彼の夢は空へ飛び上がりました。というのも、サルサン氏はこの後に自宅のテラスでクリクリのコピーを作り始めたからです。

 彼は全費用を自分で負担したと延べており、UAVに改造されるまでに機体の約70パーセントの組み立てが完了していました。[3]

 自家製飛行機とUAV化という2つのプロジェクトのDIY性は、機体の外装構造を形成するアルミパネル上に残った(工場で施された製造番号などの)印字にはっきりと表れています。

飛行中の「コロンバン・クリクリ」(イメージ画像であり、「アプルクシュ」とは無関係です)

 「アルプクシュ」UAVの起源が「MC-15 "クリクリ" 」の自家製コピー機であることは、2つを並べて比較すると容易にわかります(下の画像)。

 小型双発機をUAVに改修するには、いくつかの設計上の課題があったはずです。 最も注目すべきポイントは、「アルプクシュ」の主な質量がエンジンとEO/IRセンサーが搭載されている機首に集中していることでしょう。このことは、飛行中や離着陸時に安定した飛行特性を維持させるために、その重量を胴体の後部で相殺する必要が生じることを意味しています。

「アルプクシュ」(UAV改造前)

「アルプクシュ」(UAVに改修後)

 「アルプクシュ」が今の形状で実用化される可能性は低いですが、サリサン氏のプロジェクトは個人の創意工夫と夢を実現する可能性を証明しています。

 もちろん、個人的な野心や(特に)資金面ではできることに限界があります。しかし、テクノフェストでの展示は、おそらく「アルプクシュ」の短いキャリアの中で最も重要な晴れ舞台であり、開発を継続するための資金を確保する最も現実的な機会でもあります。

 このUAVはまだ最初のテスト飛行が実施されていないことから、同機に興味を持つ投資家はまずは最初の成功を待つことになるでしょう。

 それでもなお、トルコは近年でこのようなプロジェクトを積極的に支援している世界でも数少ない国の1つであり、それが自国の技術基盤と軍需産業を今日の快進撃が続く巨人に成長させることを可能にしていることを忘れてはなりません。このような投資にはリスクが伴いますが、過去にそれをしっかりと受け入れたことで、この分野でトルコは報われたのです。

追記
 2022年4月14日、この「アルプクシュ」は遂に初飛行に成功しました。これを機会に当記事の編訳者はサリサン氏にコンタクトをとり、当記事をより理解しやすくするための簡単なインタビューを行いました。

 Q:あなたは有人機を作成していたはずですが、途中でUAV化に方向転換しました。その理由は何ですか?
 A:初飛行に伴う事故などでの人命の損失をゼロにしたかったので、変更しました。

 Q:このUAVの操作方法はどのようなものですか、遠隔操作かプログラム飛行ですか?
 A:今回の初飛行ではRCの手動飛行でしたが、プログラム飛行も可能です。

 Q:機首に装備されたEOターレットは実際に動作可能なのでしょうか?
 A:初飛行では実現していませんが、後に使用可能となります。

 Q:初飛行の成果をどう思いますか?また、今後も飛行試験は続けられますか?
 A:強風の中の初飛行にしては大成功だったと思います。神がお許しになれば、今後に再飛行が実施されるでしょう。

 Q:今後のプロジェクトの成功には資金が必要と思われますが、あなたはクラウドファンディングや支援サイトの立ち上げは考えていますか?
 A:現時点では考えていません。



[1] July 15 Veteran exhibits the plane he built on the terrace of his house at TEKNOFEST https://www.sabah.com.tr/yasam/2021/09/25/15-temmuz-gazisi-evinin-terasinda-yaptigi-ucagi-teknofest-te-sergiliyor
[2] https://twitter.com/SavunmaTR/status/1440940749823021064
[3] 15 Temmuz gazisi evinin balkonunda kendi uçağını yapıyor https://www.bursadabugun.com/haber/15-temmuz-gazisi-evinin-balkonunda-kendi-ucagini-yapiyor-1175458.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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