「テクノフェスト2021」で展示された「バイカル・テクノロジー」社製「アクンジュ」UCAV |
著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)
2021年にイスタンブールで開催された「テクノフェスト」の期間中に、トルコがこの技術の祭典を他国でも開催する方針であることが公表されました。[1]
その候補について推測してみると、 トルコと強力な友好関係を維持し、無人航空機(UAV)を含むトルコの武器や技術を導入している国がいくつか思い浮かんできます。その1つがアゼルバイジャンです。なぜならば、同国はさまざまな無人兵器システムの導入と生産に著しい投資を行っており、最近では国内の技術基盤の拡充を目指す途上にあるからです。
多くの飛行展示や航空機が(地上展示などでも)参加することで航空ショーと呼ばれることもある「テクノフェスト」ですが、学生や子供たちに興味を持たせ、技術コンペに参加してもらうことを目的としているため、より正確には「技術の祭典」と表現すべきイベントです。
こうしたコンペの範囲は戦闘用無人機の競技会から電気自動車の設計、さらには健康や農業分野に恩恵をもたらす技術を考え出すコンペなど幅広くカバーしているため、まさに「技術の祭典」と強調してもし過ぎることはありません。[2]
トルコが技術や防衛の分野で進歩し続けることに加えて関連する他のハイテク分野の持続的な成長も確保するためには、次世代のエンジニアを奮い立たせることが必要不可欠です。
トルコの名目GDPは現時点で世界第20位であり、世界のトップ10に入ることを目指しています。この目標を達成するためには、さらなる技術的進歩を推し進めることが必須となることは言うまでもないでしょう。[3]
今年(2022年)、トルコはハイテク分野へ投資した成果について、同国初の国産電気列車と「TOGC」社製国産電気自動車の量産が開始されるという形でその恩恵を受けることになっています。[4] [5]
アゼルバイジャンに話を戻すと、この国は2009年に「科学開発基金」を創設し、独自のハイテク分野の開発を促進する環境を立ちあげました。この組織は、科学的なプロジェクト群の調整やハイテク産業に携わる企業へ援助をすることによって、アゼルバイジャン独自の技術基盤を支えることを目的としています。[6] [7]
アゼルバイジャンの経済成長を維持し、石油と天然ガスから脱却した多角的な経済基盤を構築するためには技術革新が欠かせないことは明らかです。近年に得た石油と天然ガスによる収益の一部を技術革新に投資することでアゼルバイジャンのハイテク分野における腕前を押し進め、この分野でのトルコの試みを再現することができるかもしれません。
「テクノフェスト・アゼルバイジャン」は、2022年5月26日から29日まで、首都バクーの「バクー・クリスタル・ホール」の屋内アリーナと隣接する海辺の大通り(悪名高い「軍事戦利品公園」の向かい)で開催される予定です。[8]
このイベントは、「トルコ技術チーム(T3)財団」とトルコ産業技術省がアゼルバイジャンのデジタル開発運輸省との共催であり、「アセルサン」や「バイカル・テクノロジー」といったトルコの主要な防衛メーカーが自社製品の一部を展示するほか、15以上のトルコの大学も参加して、それぞれの教育プログラムを披露することになっています。[9]
「テクノフェスト」は技術コンペで満ちあふれるイベントですが、それは「テクノフェスト・アゼルバイジャン」も同じことです。バクーのイベントでは、バイオテクノロジー、3Dプリント技術、無人機、ロボット工学、農業技術、航空機のモデリングといった分野で競技が行われます。[10]
これらの競技は、(トルコと同様に)賞金や資金援助、場合によっては名門大学への入学できるというチャンスによって、ハイテク技術に関する青少年のスキルや関心を高める機会をもたらしてくれるでしょう。
エンターテインメント部門では、UAVやヘリコプターの地上展示、トルコ空軍のアクロバット・チームである「ターキッシュ・スターズ」と「ソロ・テュルク」、そしてアゼルバイジャン空軍機による曲技飛行の披露が予定されています。
若者に技術分野でキャリアを歩ませ、技術系の新興企業が活躍できるような環境づくりに向けて最初の一歩を踏み出したにもかかわらず、アゼルバイジャンの技術基盤は未だに極めて未成熟な状態にあります。
アゼルバイジャンの新興企業は現在、農業、運輸、医療、そして宇宙や軍事産業などの分野で活躍しています。
国内兵器産業への投資については、今までのところ、数多くの小火器と車両の設計及び生産が行われるという成果を出しています。 しかし、これらの大部分は外国の設計に基づいたものあり、それらをアゼルバイジャンで生産することが必ずしも同国の技術基盤に大きく貢献しているとは限らない可能性は否定できません。
ただし、最近の流れはアゼルバイジャンの軍事産業が発展しつつあることを示唆しています。実例としては、この国は「アセルサン」などのトルコ企業と共同で数種類の誘導爆弾を開発している事業が挙げられます。トルコ自身が開発した誘導爆弾とは逆に、これらは「Su-25」や「MiG-29」といったソ連を起源とする航空機が搭載できるように設計されているのが特徴です。[11]
もう1つの有望な事業には、アゼルバイジャンとイスラエルのUAVメーカーである「エアロノーティクス・システムズ」社が設立した合弁会社「アザド・システムズ」があります。
この協力の成果は現時点でイスラエルが設計した無人機の組み立てと生産に限られており、国産化の比率は最大で30%です。しかし、いつの日かアザドの工場が国内で設計した無人機の生産ラインの現場となる可能性を秘めていることは火を見るより明らかでしょう。[12]
アゼルバイジャンは、すでに2021年にイスタンブールで開催された「テクノフェスト2021」において国内で組み立てた無人機をいくつか展示したほか、同国の専用パビリオンで他分野における数多くの技術プロジェクトも出展しました。[13]
実際、同イベントにはアゼルバイジャンの新興企業11社が参加し、自動駐車システムなどのプロジェクトを展示したのです。[14]
「テクノフェスト2021」で展示されたアゼルバイジャン製「オービター」UAVシリーズ |
UAVの競技会や地上展示及びデモフライトが「テクノフェスト・アゼルバイジャン」の主要な催しとなる見込みです。
まだアゼルバイジャンは国産のUAVを製造していませんが、前述のとおり「アザド・システムズ」社はこれまでに「エアロスター」と「オービター1K」、そして「オービター3」をアゼルバイジャン国内で製造・組み立てをしています。
それらの組み立てとコンポーネントの製造で得られた経験は、いつか真の国産UAVの製造に関する設計者たちに活用されることは確実でしょう。
アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領がイスラエル起源の 「シャヒン(エアロスター)」と「ザルバ-K(オービター-1K) 」U(C)AVの国内製造ラインを視察した際の様子 |
アゼルバイジャンで開催される「テクノフェスト」では、トルコやイスラエルで開発・製造されたUAVが地上展示やデモフライトで観客を喜ばせることになるのは間違いありませんが、UAVコンペにおける「イスティグバル」のような国産ドローンの初飛行も同様に人々の注目を集める可能性があることは想像に難しくないでしょう(注:「イスティグバル」は「アズアストロ・テクノロジーズ」が開発中の小型無人機)。[15]
もう1つのアゼルバイジャン製UAVが「GÖZ(ギョズ)-N1」であり、これはアゼルバイジャン国立科学アカデミー(ANAS)によって企画されたコンペにて設計されたものです(注:GÖZ=眼)。重量が2.5kgというこのUAVは、最大航続距離が10kmで約45分の飛行する能力を有していると報じられています。[16]
これまで国産無人機の量産が実現したことはありませんでしたが、もし「ギョズ-N1」でそれが達成された場合、この小型ドローンは軍事と民間の両分野で活用される可能性があります。
「ギョズ-N1」 |
2021年9月、アゼルバイジャンとトルコが技術革新に関する共同研究センターをバクーに設立すると発表されました。「ビリム・バクー・センター(バクー科学センター)」という名称を与えられたこの共同研究センターは、革新的なハイテク機器を開発するだけではなく、研究や研修も行われる予定です。[17]
トルコが自身が有するハイテク情報の一部を共有する意向であることと、大成功を収めた「テクノフェスト」のやり方は、自国の技術基盤を拡大し、ハイテクが経済成長を促進するような環境を構築しようとする友好国に莫大な利益をもたらす可能性があります。
アゼルバイジャンにとって「テクノフェスト」と「バクー科学センター」は、 いつの日か同国が経済を多角化し、ハイテク分野における重要なプレーヤーとなることを手助けしてくれる可能性が高いプロセスを始動してくれる絶好の機会を提供する存在です。
これは先が見えない長旅のように見えるかもしれませんが、(「バイラクタルTB2」を世に送り出した)「バイカル・テクノロジー」社を見ると、アゼルバイジャンも驚くほど短期間に何らかの偉業を成し遂げる可能性がゼロではないことに留意しておく必要があることでしょう。
スモークを引きながら飛ぶアゼルバイジャン空軍の「Su-25」対地攻撃機 |
[1] TEKNOFEST festival to be organized in friendly, fraternal Azerbaijan - Turkish president https://en.trend.az/azerbaijan/politics/3489500.html
[2] How Turkey Is Laying The Ground For The Future Of Unmanned Aerial Warfare https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/how-turkey-is-laying-ground-for-future.html
[3] Turkey certain to join ranks of world's top 10 economies: President Erdogan https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-certain-to-join-ranks-of-worlds-top-10-economies-president-erdogan/2400783
[4] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[5] Minister Varank: TOGG will start mass production at the end of 2022 https://www.bazaartimes.com/minister-varank-togg-will-start-mass-production-at-the-end-of-2022/
[6] The
decree of the President of the Republic of Azerbaijan on approval of
Charter of Science Development Foundation under the president of the
Republic of Azerbaijan https://www.sdf.gov.az/en/generic/menu/Detail/97/menu//
[7] Spurring innovation will be central to diversifying Azerbaijan’s economy, according to UNECE study https://unece.org/circular-economy/press/spurring-innovation-will-be-central-diversifying-azerbaijans-economy
[8] TEKNOFEST Aerospace and Technology Festival https://teknofest.az/en/corporate/about/
[9] TEKNOFEST AZ Competitions https://teknofest.az/en/competitions/
[10] TEKNOFEST AZ Exhibitors https://teknofest.az/en/corporate/exhibitors/
[11] Bombs From Baku: Cataloguing Azerbaijan’s Indigenous Air-To-Ground Munitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/bombs-from-baku-cataloguing-azerbaijans.html
[12] Death From Above - Azerbaijan’s Killer Drone Arsenal https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/death-from-above-azerbaijans-killer.html
[13] Azərbaycan “Teknofest-2021” festivalında təmsil olunur https://azertag.az/xeber/Azerbaycan_Teknofest_2021_festivalinda_temsil_olunur_VIDEO-1880943
[14] Azerbaijan presents startups at Teknofest in Istanbul [PHOTO] https://www.azernews.az/business/183560.html
[15] Azerbaijan tests locally-made UAVs [PHOTO/VIDEO] https://www.azernews.az/nation/180774.html
[16] Azerbaijan creates UAV which can be used for reconnaissance and kamikaze purposes https://apa.az/en/xeber/social-news/azerbaijan-creates-uav-which-can-be-used-for-reconnaissance-and-kamikaze-purposes-352960
[17] Azerbaijan, Turkey to launch joint innovation center https://www.azernews.az/business/183601.html