2021年8月9日月曜日

無人の消防士:「バイラクタルTB2」が消火作戦に加わる



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 現在、トルコは国の南部で猛威を振るっている一連の致命的な森林火災と戦っています。

 この地域を苦しめている高温と強風のために、山火事を鎮圧することは今までのところ困難であることが判明しており、新たな火事はすぐに他の州にも急速に拡大しつつある状況です。

 また、容赦ない火災は地中海沿岸のいくつかの観光地を危険にさらしており、炎がゆっくりと海岸に近づくにつれて、壊滅的な痕跡が次々と残されていきます。この山火事では、これまでに8人の死亡と(住宅が炎上したり貴重な家畜が煙や高熱で失われるため)数百人が避難を強いられています。 [1]

 1万人以上のトルコの消防士と一緒に82機以上の飛行機やヘリコプターがこの自然災害と戦っているほか、この戦いにはアゼルバイジャン、スペインとカタールから派遣された消防士たちも加わっています。[2][3]

 また、ウクライナ、イラン、スペイン、クロアチア、ロシアといった国々もトルコへの支援を申し出ており、「An-32」(ウクライナ)を2機、「Il-76」(イラン)を1機、「CL-215」(スペイン)を2機、「CL-415」(クロアチア)を1機、さらに消防用航空機5機とヘリコプター3機(ロシア)を火災との戦いに充てています(注:8日現在でカザフスタンが2機の「Mi-8AMT」を派遣したほか、クウェートも消火用の航空機を派遣することを表明しています)。[4] [5]

 これらに加えて、すでにトルコにはロシア製のヘリコプターやBe-200消防機も展開していますが、これらはロシアによる猛火との戦いへの支援というよりもリース契約に基づいて運用されているものです。


 新たに発生した火災を発見の手助けや消火部隊を連携させるためにトルコは多数の無人航空機(UAV)を投入しており、被災地域を24時間体制で監視しています(8月7日現在では9機のUAVが投入されています)。

 UAVはそれ自身で直接に消火活動を行うことはできませんが、熱源を検知することで当局は消防アセットを迅速にその場所へ投入することが可能となるため、新たな山火事の発生を食い止めることに計り知れないほどの有益性があることが証明されています。

 このようにして、新たな火災が急速に鎮圧不可能になる前に消火することが可能となっているのです。

 何ら驚くことではないかもしれませんが、「バイラクタルTB2(通称、TB2)」はこの国での山火事に対する(UAVの)戦いの最前線に立っています。

 数機のTAI 「アンカ」「アクスングル」と共に、警察総局、トルコ海軍やバイカル・ディフェンス社(注:TB2の設計・製造会社、通称バイカル社)に属するTB2が、現時点で消防やOlman Genel Müdürlüğü OGM(森林総局)を支援するために運用されています。

 このようなハイテクな無人アセットの継続的な使用は高額なことのように聞こえるかもしれませんが、実際にはその逆で、1飛行時間あたりのコストは僅か925ドル相当であり、有人機の場合の何分の1かの費用にすぎません。[6]



 米国などの国でも過去に山火事の監視でUAVが使用されていましたが、トルコでは世界でも類を見ない規模でそれが行われています。これは、トルコが過去数年で手に入れた無人機開発におけるパイオニア的な役割を果たしていることや、バイカル社のUAVの機能性や取得価格と運用コストの低さの両方を示しています。

 これらは間違いなく、国内各地での山火事に対する戦いに取り組むためにトルコが2020年から「バイラクタルTB2」を使い始めた理由であり、同年に345件、この2カ月間だけでも86件の火災を検知することに至りました。[7]




 TB2やTAI「アンカ」といったより大型のUAVを使用する強みは、運用する際の高度(5,500~9,000メートル)にあります。そのため、彼らは装備している前方監視型赤外線(FLIR)カメラで広範囲にわたる地域を調査することができるのです。

 火災が住宅地に向かって拡大している場合、(航空機やUAVでそれを把握した場合は)その住人たちへ事前に警告することが可能ですが、火災を監視している地上部隊だけでは正確な火災の範囲や経路を判断することが困難です。

 8月1日、TAI「アクスングル」は山火事が広がっていく経路上に3人の作業員が存在していることを検知しました。見たところ、彼らは迫り来る危険にまだ気づいていなかったようでしたが、炎に完全に包まれる前に警告を受けることができたのは、まさに無人機の鋭い観察眼のおかげでした。[8]



 一旦UAVによって新たな火災が発見されて全ての情報が慎重に判断された後、消火するために適切なアセットをその必要とする地域に投入することが可能となります。トルコでは、このアセットには大量の消防車だけでなく消防専用機の飛行隊も含まれています。

 この飛行隊には、かつては約9機の「CL-215」と11機の「PZL M18 ドロマーダー」という「水爆撃機」が含まれていましたが、これらは全機がここ数年で退役しており、飛行隊に残されているチャーターされたロシアの「Be-200」水陸両用消防機や「Mi-17」、「Ka-32」ヘリコプターがその有益な仕事を引き継いでいます。




 トルコの消防士や国際的な仲間たちが一見すると止められないと思われる熱地獄との絶え間ない戦いに従事している中、「バイラクタルTB2」のようなトルコの無人機は空における彼らの目となるでしょう。

 いわゆる「水爆撃機」よりも目に見えるほど活動的ではありませんが、彼らの仕事は有益であり、それが大型で手頃な価格のUAVの幅広い応用性を証明しています。

 この地域では山火事が確実に迫り来る脅威であり続けることから、トルコ政府は将来の消火活動計画における検討のためにUAVの性能を真剣に評価することになるでしょう。

 これにより、(リースではなく)新しい消防用航空機を購入することだけでなく、関連機関によってTB2などが取得される実例を目にすることもあり得ます。

そのような買収が本当に身近なものであろうとなかろうと、特に他国がこのような能力を持つ機体を獲得しようとする可能性があることから、今回の消防作戦で得られた経験は近い将来により重要になることは確実と思われます。

 現在、バイカル社などのトルコ企業は数多くの新型UAVの設計を進めていることから、いつか近いうちに消防分野におけるより高度な無人機の開発が着想されるかもしれません。



[1] https://twitter.com/TRTWorldNow/status/1421905199355121666
[2] https://twitter.com/TRTWorldNow/status/1421346133457215489
[3] https://twitter.com/SpainNATO/status/1422113728233934850
[4] https://twitter.com/TRTWorldNow/status/1421419114522947586
[5] https://twitter.com/haskologlu/status/1421928051290644482
[6] https://twitter.com/TyrannosurusRex/status/1421416463718563846
[7] https://twitter.com/Selcuk/status/1421068795876085761
[8] https://twitter.com/IsmailDemirSSB/status/1421857980874690560

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※  この翻訳元の記事は、2021年8月2日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
 により、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。      


2021年8月6日金曜日

生え始めたグッピーの牙:カタールの「BP-12A」短距離弾道ミサイル


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 カタールは2017年12月15日に行われた独立記念日の軍事パレードで中国の「BP-12A」短距離弾道ミサイル(SRBM)を披露し、敵味方を分け隔てなく驚かせました。

 パレードで初公開された「BP-12A」はカタールで運用されるこの種の兵器としては初めてのものですが、それにもかかわらず、カタールはこの地域で最後に弾道ミサイルを装備した国です。

 一部のシンクタンクのアナリストはこの「ドーハの非常に攻撃的な動き」を猛烈に非難していますが、カタールによるこのSRBMの導入は、実際にはより特別な意味合いを持った問題です。[1]

 その重要性とは逆に、過去10年間にカタールによって調達された多数の「レオパルド2A7」戦車、「PzH2000」自走榴弾砲やその他の高度な兵器の中で、この輸送起立発射機(TEL)の存在が簡単に見落とされた可能性があります(注:戦車などに注目が集められてTELが気づかれなかった可能性があるということ)。

 もともと、カタールは中東では最低限の軍事力しか持っていないほか、隣国の(カタールの面積の6.56%にすぎない)バーレーンでさえデータ上では強敵ということが示されていたことから、ドーハはそのギャップを埋めるため、2010年代初頭に大規模な武器の調達に乗り出しました。

 すぐに明らかになったように、このようなカタールの防衛観の劇的な変化は決して早すぎるものではありませんでした。

 2017年6月5日、UAE、サウジアラビア、バーレーンとエジプトは、カタールが湾岸協力会議(GCC)の諸国が容認する以上にイランとの緊密な関係を維持していることについて、国際「テロリズム」を支援し「地域を不安定にしている」と糾弾してドーハとの全ての外交・貿易関係を断絶し、カタールに封鎖を課してアラブ世界に衝撃を与えました。

 これらの措置は明らかにカタールを屈服させる意図によるものでしたが、ドーハにとって封鎖は最終的に嫌がらせ程度のものにしかならなかったようです。

       

 外交危機は、紛争の可能性が常に背後に迫っていること、そして政治的対立がすぐに武力紛争にエスカレートするのを防ぐためには、強力な軍事力が間違いなく最善の抑止力であることを思い出させてくれました。

 封鎖された直後、カタールは自国が実際に侵攻される脅威に直面したため、軍事力の増強を倍増しました。軍事力が飛躍的な成長を遂げていることを示しているため、近隣諸国に対する効果的な抑止力を創出するための努力は依然として非常に現実的なものになっています。

 カタールは、「ラファール」、「F-15QA」、「ユーロファイター "タイフーン"」、を含む現在市場に出回っているほぼ全ての西側戦闘機を購入しており、最近では「F-35」に真剣な関心を示している国として知られていますが、戦力強化の試みは単に空軍を強化するだけに留まってません。[2]

 中でも注目すべきは、ドーハがイタリアから多目的揚陸艦、コルベットや哨戒艇の導入を通じて海軍の全面的な刷新を図っていることでしょう。逆にあまり注目されていないのは、陸軍用にトルコのメーカーであるヌロル・マキナ社製の高い機動性と重武装を備えた装甲戦闘車両(注:「NMS」)を数百台導入したことです。

 しかし、カタールの空軍や海軍の能力は近隣諸国に単に遅れを取っているだけですが、陸軍の大部分は完全に時代遅れと言えます。最近の2010年代初頭でも、(起源が1960年代に遡る)フランス製のAMX-30戦車が依然としてカタール陸軍の機甲戦力を構成しており、砲兵部隊の状況は格段に悪いもので、AMX-30と同時代のオープントップ型の「Mk F3」155mm自走砲が依然として使用されていました。

 世界的な(軍事力の)発展を反映して、より強力なパンチ力を備えた現代的な長射程の砲兵システムの導入を追い求めることは明らかに望ましいものだったと言えます。


 カタールのSRBMを運用することへの関心は2017年の外交危機以前から存在しており、その種の兵器の導入を最初に試みたケースは、2012年にM142「HIMARS」多連装ロケット弾発射機7基とMGM-140「ATACMS(ブロックIA T2K)」 戦術弾道ミサイル60基を推定4億600万ドルで購入する許可を米国に要請した時点まで遡ることができます。[3]
 
 理由は不明ですが、この調達は最終的に失敗に終わりました。それでもなおカタールが後に「BP-12A」を調達したのは、単にこの地域の現状を打破しようと試みたのではなく、長年にわたって必要としていたものことを実現したことを物語っています。

 (カタール以外での弾道弾の導入が)実現した事例を説明すると、まず、西の隣国であるバーレーンが2018年に110基のMGM-140「ATACMS」を調達したことであり、それらは2000年代初頭からすでに運用されている30基の同型ミサイルに追加されました(注:数が増強されたということ)。[4] [5] [6]

 南側では、サウジアラビアが中国の「DF-21」中距離弾道ミサイル(MRBM)の調達と(2022年に運用開始が予定されている)ウクライナの「フリム-2(グロム-2)」への融資を通じて、自国の弾道ミサイル戦力の強化で急速な進歩を遂げています。

 東側では、UAEは2013年から少なくとも224基の「MGM-140 "ATACMS"」を調達しましたが、射程が約500kmある北朝鮮の「火星-6」弾道ミサイルも運用し続けています。UAEで運用されている北朝鮮の兵器の詳細については、私たちのこの記事をご覧ください

 カタールの近隣諸国で弾道ミサイルを運用していない数少ない国の一つであるオマーンは、実際には2000年代後半に「ATACMS」の調達を熱心に推し進めていましたが、おそらく予算上の制約のために実際にその調達は行われませんでした。[9]

 カタールの全ての近隣諸国は数百発の弾道ミサイルを保有しており、その大部分が(それぞれの領土から発射された場合に)お互いを実際の標的とすることができる射程距離があるため、BP-12Aの導入がこの地域の軍事バランスを何ら変化を与えることにはなりません。

 ちなみに米国はこの見解に賛同しており、2012年にカタールが提案した 「ATACMS」の調達について以下のように述べています。
打診された売却案は、現在及び将来の脅威に対応するカタールの能力を向上させ、重要インフラのセキュリティの強化をもたらすものです。この装備と関連する支援の売却案が、この地域の基本的な軍事バランスを変えることはないでしょう。」[3]
 「BP-12A」の射程距離は実際にはよりも短く(280km vs 300km)、唯一の大きな違いは弾頭(480kg vs 230kg)であるため、「ATACMS」に当てはまることは「BP-12A」にも実質的に当てはまるはずです(注:両者は実質的に違いが少ないため、「BP-12A」の導入が大きく騒がれる事柄ではないということ)。

 「BP-12A」のカタログ上での射程距離はMTCR(ミサイル技術管理レジーム)によって課されている輸出規制ガイドラインの(上限である)射程距離300kmを多少超えているという噂がありますが、それが本当でも「BP-12A」に新たな能力が与えられるわけでもありませんし、サウジアラビアとUAEが運用している弾道ミサイルの射程距離よりも短いままです(注:射程距離が300km強でもミサイルがカタールからリヤドには届きません)。


 「BP-12A」の導入以前では、カタールの長距離砲兵部隊はエジプトの「サクル(下の画像)」とブラジルの「アストロスⅡ」多連装ロケット砲(MRL)で構成されていました。前者は北朝鮮の「BM-11」MRLをエジプトがコピーしたものであり、カタールが長期間にわたって運用してきた唯一の非西側諸国製の武器でした。

 最近では、カタールはロシアから導入した「AK-12」アサルトライフル、「ZPU-2」14.5mm高射機関銃、9M133「コルネット」対戦車ミサイル(ATGM)や9K338「イグラ-S」携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、中国から入手した56式小銃、「M99」対物ライフルや「FN-6」MANPADS、そしてウクライナから購入した「スキフ」ATGMを含むさまざまな種類の非西側製の武器を運用しています。



 「BP-12A」は(トルコではB611M「ボラ」及び輸出型の「カーン」と共に「J-600T "ユルドゥルム"」としてライセンス生産されている)「B611」SRBMシリーズの発展型であり、2010年の珠海航空ショーで初めて公開されました。

 このシステムの自走式発射機である「WS2400」トラックの車体には、「BP-12A」を2発か「SY-400」地対地ミサイルを8発、あるいは「BP-12A」1発と「SY-400」4発を組み合わせて搭載することができます(注:「BP-12A」のキャニスターには1発、「SY-400」の場合は4発が入っているため)。480kgのHE弾頭を搭載した「BP-12A」は最低でも280km以上の射程距離があるため、敵後方に位置する指揮所や集結した兵員を狙うのに完璧に適しています。[7]

 カタール陸軍で運用されているのが確認されたのは「BP-12A」のみですが、(まだカタールが導入していない場合は)将来的に推定射程距離200kmの「SY-400」地対地ミサイルをこのシステムに円滑に統合することが可能です。

 慣性誘導だけでなく衛星誘導方式も取り入れているため、半数必中界(CEP)がおそらく50m以下である「BP-12A」は前者しか使用していない旧式のシステムよりも有効性の向上を誇っています。また、各発射機がミサイルなしの状態で長時間を過ごすことがないように、TELには2発の再装填用ミサイルを積載した、専用の(同様に「WS2400」がベースである)ミサイル運搬車が伴われています。

 現時点ではカタールが唯一の「BP-12A」の運用国として知られていますが、「M20」SRBM「A200」誘導ロケット弾を使用する(同じ中国の)競合相手はベラルーシ(「ポロネズ」という呼称で、後にアゼルバイジャンに輸出されました)とエチオピアで採用されており、最近では2020年のティグレ紛争でティグレ分離主義勢力とエチオピア軍との戦いでの使用が確認されました。[8]


 カタールが「BP-12A」SRBMを導入したことは(特にあなたがUAEが出資したシンクタンクで働いているのであれば)ドーハの攻撃的な動きと誇大的に評価されやすく、サウジアラビア、UAE、バーレーンの首都に脅威を突きつけて、この地域を軍拡競争へと駆り立てるでしょう(注:UAEは反カタールのため、「BP-12A」の導入をサウジなどを狙うためのものだとしてプロパガンダ的な主張をするということです)。

 もう少し広い視点で見ると、「BP-12A」の導入はこの地域全体で徐々に高まる武器拡散の流れと一致したものであり、地域内の別の国(カタール)が周囲との競争条件の平等化を試みるに至ったものと捉えることができます。

 政治的な忠誠心が急速に変化する可能性があって軍事バランスがこれまで以上に何とかして自力でやっていこうとする捕食者側に傾く地域の鮫が出没する海では、これらの弾道ミサイルが強力な抑止力をもたらすという事実は当然ながら快く歓迎されるでしょう。

 関係が修復された今では問題となっているミサイルが近隣諸国のいずれかに怒りに任せて発射されることはないかもしれませんが、「BP-12A」の保有はかつては無防備だったグッピーが突然牙を生やしたということを今後も簡単に思い出させてくれるものになるはずです。


[1] Why is Qatar showing off its new short-range Chinese ballistic missile? https://english.alarabiya.net/en/News/gulf/2017/12/20/Qatar-showcases-offensive-ballistic-missiles-targeting-neighbors
[2] Exclusive: Qatar makes formal request for F-35 jets - sources https://www.reuters.com/article/us-qatar-israel-jets-exclusive-idUSKBN26S37Q
[3] Qatar--HIMARS, ATACMS, and GMLRS https://www.dsca.mil/press-media/major-arms-sales/qatar-himars-atacms-and-gmlrs
[4] Bahrain – M31 Guided Multiple Launch Rocket System (GMLRS) Unitary and Army Tactical Mission System (ATACMS) T2K Unitary Missile https://www.dsca.mil/press-media/major-arms-sales/bahrain-m31-guided-multiple-launch-rocket-system-gmlrs-unitary-and
[5] Proposed ATACMS Sale to Bahrain Announced https://www.armscontrol.org/act/2000-10/news-briefs/proposed-atacms-sale-bahrain-announced
[6] Bahrain Purchases Lockheed Martin's ATACMS Missiles https://web.archive.org/web/20120112011513/http://www.lockheedmartin.com/news/press_releases/2000/BahrainPurchasesLockheedMartinSATAC.html
[7] Qatar Displays Chinese Missile https://www.armscontrol.org/act/2018-03/news-briefs/qatar-displays-chinese-missile
[8] https://twitter.com/imp_navigator/status/1347413795463946240
[9] SCENESETTER FOR U.S.-OMAN JOINT MILITARY COMMISSION https://wikileaks.org/plusd/cables/09MUSCAT273_a.html
         
※  当記事は、2021年3月6日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。
 

2021年7月30日金曜日

あの世からの帰還:ウクライナの「トール」地対空ミサイルシステム

著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナはロシアによる東部地域への干渉という常に存在する脅威に立ち向かうために軍事力の増強を継続しており、財政支援が大幅に増加したおかげで、疲弊した保管状態の装備を徐々に再起動させることができました。
 
 その結果、トルコからの「バイラクタルTB2」UCAVや「アダ級」コルベットなどの導入だけでなく、多数の国産兵器の導入や以前から運用されている装備の改修も行われました。
 
 これらの導入によって、ウクライナは多くの問題を抱えていた軍の戦闘即応性について、ロシアとの能力差を急速に縮め、実際にいくつかの分野で敵を上回るくらいまでに回復させることができました。

 これらの偉業は少なからずウクライナの軍産複合体のおかげによるものです。彼らは数十年にわたってウクライナの余剰となった装備を改良し、海外に販売することに専念してきましたが、今では2014年のロシア・ウクライナ戦争以前にウクライナ軍が退役させた、さまざまな兵器の修復に焦点を移しています。

 しかしながら、慢性的な資金不足はウクライナ軍にT-80主力戦車(MBT)や 2S7「ピオン」203mm自走カノン砲といった敬われてきた装備の退役を余儀なくさせており、現役の旧式化した装備を代替する新しい装備の導入は遠い夢となっているのです。

 一見すると、ウクライナの防空部隊の状況もほかの部隊とほとんど変わりがありませんでした。わずか10年の間に、ウクライナ陸軍と空軍はS-125S-200S-300V2K12「クーブ」9K330「トール」地対空システム(SAM)の全ての退役を強いられ、S-300PTといったシステムもある程度の数が保管庫行きとなってしまいました。

 (S-300Vの場合は退役したばかりでしたが)これらのSAMの多くは外国への売却を期待して比較的良好な状態で保管されていたことから、ウクライナが自国軍をより強化するため、これらのシステムに目を向けたのは何ら驚くことではありません。

 これらのSAMの年式と2K12や9K330などの運用経験がある現役軍人が少ないことを考えると、それらの改修は確かに簡単なものではありませんでした。さらに、レーダーシステムなどの関連装備やミサイルも十分な数がまだ使用可能な状態であれば、それらもオーバーホールをすることも必要不可欠です。

 全ての事柄を検討してみると、ウクライナは1個の9K330連隊、2個の2K12連隊、2個のS-125連隊、1個のS-300V1旅団を復活させる可能性があります。[1]

 3つのS-200サイトの復活も想定されていましたが、活動停止中の2013年にサイトのインフラに深刻な損傷が生じたことが判明しました。この影響が現在でもS-200の現役復帰を妨げているようです。[1]

       

 「トール」系SAMの中でも最も古いタイプである9K330「トール」(NATO側呼称:SA-15)は、もともと1970年代後半に巡航ミサイルのようなレーダー反射断面積(RCS)の小さい高速で低空を飛行する目標と交戦するために開発されました。

 このSAMの運用が開始されたのは1986年で、9K330システムの9M330ミサイルは最大12kmの範囲を飛行する目標を撃破する能力があり、地上部隊に敵機に対する機動性の高い防空手段を提供します。

 9K330のレーダーに対する電子妨害を受けた際の敵機や巡航ミサイルへの照準を可能にするために、目標追尾・ミサイル誘導用レーダーのすぐ右側に電子光学式追跡装置が装備されています。

 また、「トール」は同世代のSAMのようにミサイル(8発)を発射機の外側ではなく、その内部に垂直に格納した世界で最初のSAMでした。これによって砲弾の破片に対する防御力が強化され、より大きなミサイルを搭載することを可能にしました。

 その後、継続的な改良と技術の進歩は「トールM1」と「トールM2」という派生型をもたらしました。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争では「トール(-M2KM)」が初めて武力紛争で活躍しましたが、アルメニアによって運用されていた数少ないシステムは、頭上を飛び回るUAVの脅威に(全く)効果的に対抗できないことが証明されました。



 2017年に再登場する前に、ウクライナの9K330「トール」は過去に一度しか目撃されていません:それは2001年8月に行われたウクライナ独立10周年記念の軍事パレードでのことでした。[2]

 軍事パレードに参加した9K330は合計6台であり、この数はおそらくウクライナが保有する9K330の全量とみられています。

 ウクライナでの現役時代では、9K330はポーランドとの国境近くのヤーヴォリウに駐留する第257親衛高射砲連隊で運用されました。

 おそらくこのような少数のシステムの運用には多額の費用が伴ったため、6台の全てが2000年代初頭に段階的に退役させられてしまいました。 [3]

2001年のキエフでの軍事パレードに登場した9K330(6台のうち3台)
軍事パレードの訓練に参加中の復活から間もない9K330(上の車両と同一のもの)

 2000年代初頭に退役した後、9K330は長期間にわたる保管状態に置かれ、現役への復帰あるいは海外への売却を待ち続けていました。

 最終的には2010年代半ばのどこかで9K330を再起動させることが決定され、その後、それらはラドスミル地区のホロドク(ゴロドク)という町にある軍の保管庫に移送されました。

 この地では、2018年6月に契約軍人が最低でも一台の9K330のオーバーホールを危機的状況に晒しました。この軍人は貴金属を売却するために電子基板を分解してしまったのです。[4]

 その後、盗難された部品は発見されて、再び9K330に取り付けられました。



 そのわずか1年前の2017年8月には、オーバーホールされた最初の9K330がすでにキエフで開催された展示会で展示されていました。

 その月末の2017年8月24日、OSCE特別監視団はドネツク州のウクライナ支配下にあるKasyanivka村付近で(伝えられるところによれば)2台の9K330を含む5基のSAMを確認しましたが、これはオーバーホール後初の運用配備だった可能性があります。[4]

 これらの存在が確認されたのは、ウクライナ東部で「トール」が最初に目撃されてから約3年半後のことでした(その時点で、親露派分離主義勢力を支援するためにルガンスク地域に配備されたロシアの「トールM1」が目撃されていたのです)[5]。  



 2017年8月にウクライナがドンバスに9K330を配備したという報道があったにもかかわらず、よみがえった9K330の検証がヘルソン州のヤホルリク・ミサイル発射場でようやく実施されたのは2019年2月のことでした。[6]

 この実射訓練では、S-125、2K12、9K330や改良されたZSU-23-4M-A自走対空砲といったオーバーホールされた防空システムがウクライナ軍への正式な就役を前にその性能をテストされました。




 9K330のオーバーホールは、さまざまな種類のSAMやレーダーシステムのオーバーホールを専門とするリビィウ無線機修理工場NPPエアロテクニカ-MLTによって国内で実施されました。[6]

 システムを運用可能な状態に戻すことに加えて、限られた数の改良が行われました。その中で最も注目すべきものとしては、情報の処理と表示をするための新アルゴリズムの実装が挙げられます。[3]

 将来的な改良には、搭載されているアナログ式無線・電子機器を(オペレーターの手元にある機器を効果的に活用する能力を大幅に向上させる)デジタル式に更新することが含まれる可能性があります。



 6台の9K330「トール」SAMの復活については確かにそれ自体がゲームチェンジャーとなる能力を持つことにはなりませんが、多数のSAMを含む大量の復活させられた装備が再運用に入ることは、ウクライナ軍全体の能力向上に貢献します。

 さらに、これらのシステムのオーバーホールで得られた貴重な経験は今後のより高い近代化計画に活用される可能性があり、それは9K37「ブーク」9K22「ツングースカ」といった別のシステムにも適用されるかもしれません。


 しかし、9K330は防空能力をダイレクトに拡大する以上に、OPFOR(仮想的部隊)を用いた訓練で敵防空システムの代表的な装備として使用され得るという点でも重要な価値を持っています。

 敵の防空戦力を知ることは、それに対抗する手段を見つけるためには必要不可欠なものであり、9K330のようなシステムへのアクセスはウクライナのみならず戦場でそれらに遭遇する可能性のある全ての当事者にとっても関心を引くものです。

 例えば、トルコとウクライナの間にある(バイカル・ディフェンス社ウクルスペツエクスポルト社との間で立ちあげられた「ブラックシー・シールド」などの)既存の共同事業を考慮すると、無人機の運用の改善を目的としたOPFOR訓練センターの設立も考えられないことではありません:2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の間に「バイラクタルTB2」最大の敵としてもてはやされたのは、結局のところ同じ(ただし、より進化した派生型ですが)SAMの「トール-M2KM」だったのです。

 トータルで考えた場合、両国は ZSU-23、2K22「ツングースカ」、(リビアで捕獲されてトルコへ引き渡された)96K6「パーンツィリ-S1」9K35「ストレラ-10」9K33「オーサ」、9K330「トール」、2K12「クーブ」、S-125「ペチョーラ」、9K37「ブク」機動防空システム、S-300V1、S-300PTS-300PS、(トルコが導入した)S-400を含む、将来の紛争で交戦する可能性があるほぼ全てのロシア製防空システムを保有しているため、互恵的協力が持つ将来性はまさに無限大です。

 ウクライナがこのような立場にあることを考えると、たった6台のSAMの復活は誰もが想像したよりもはるかに重要な出来事となる可能性があり、この国の駆け出しのUAV戦力を近隣諸国の追随を許さない脅威に変えることを手助けするものになるかもしれません。



[1] На Украине планируются к возвращению в строй шесть типов зенитных ракетных систем https://www.belvpo.com/93234.html/
[2] Техника ПВО Украины 24 августа 2001г. на параде в честь 10-й годовщины независимости Украины, улица Крещатик, г.Киев http://pvo.guns.ru/other/ukraine/index332.htm
[3] “Тор” та “Куб” повертаються до бойового складу ЗСУ https://mil.in.ua/uk/tor-ta-kub-povertayutsya-do-bojovogo-s/
[4] На Житомирщині затримали контрактника, який викрав дорогоцінні елементи із ЗРК “Тор”. ФОТО https://novynarnia.com/2018/06/28/na-zhitomirshhini-zatrimali-kontraktnika-zsu-yakiy-vikrav-dorogotsinni-elementi-iz-zrk-tor-foto/
[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/[6] Завершальний етап випробувань зенітних ракетних комплексів протиповітряної оборони https://youtu.be/pxPb4gLqzGs
     
 ※  この翻訳元の記事は、2021年5月19日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
      正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


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2021年7月22日木曜日

小さくても命取りな存在:トルクメニスタンの高速攻撃艇


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 カスピ海の海軍バランスを考えるとき、トルクメニスタンが最初に思い浮かぶ国ではないことはほぼ確実でしょう。それにもかかわらず、継続的な海軍の増強はこの点についてロシアと並ぶ地域有数の海軍力を持つ国に変えました。これはトルコのディアサン造船所によるところが大きく、同社はトルクメニスタン海軍が保有する現代的な艦艇のほぼ全てを供給しています。

 それらの一つが、過去10年で運用を開始した世界でも極めて数少ない高速攻撃艇(FAC)の一種である「FAC 33(上の画像)」です。(ほぼ確実に)サイズと運用者が小国のおかげで、このFACは設計された国(トルコ)以外ではほとんど知られていません。それでもなお、その滑らかなデザインと比較的軽い武装によって、同クラスの他の艦艇とは際立ったものになっています。

 33メートルという小さなサイズと搭載可能な武装は「FAC 33」をミサイル艇というよりはFACに近いものにしていますが、対艦巡航ミサイル(AShM)の登場以降はどちらの呼称もほぼ同義語になっていますので、特に問題はありません。

 (当然ながら世界最大の称号は北朝鮮が持っているため)トルコは確かに世界最大のFAC保有国ではありませんが、今日でも新型FACの設計を依然として積極的に行っている数少ない国の一つです。それらには、従来の船型から双胴船ベースのデザイン、さらには表面効果船(SES)型までのあらゆるタイプのものが含まれています。

 2013年に大統領府国防産業庁(SSB)は現在トルコ海軍で使用されているFACを置き換える新型FACの入札を開始しましたが、30近くの国内で設計された案から選定することができました。[1]

 これら全ての半分だけがトルコ型FAC計画の一部として入札に提案されましたが、これは(幅広い)設計の流行が(当局に)ほとんど過大評価されていないことを示しています。最終的には、僅かに非従来型のデザインを抑えた(しかし同等に見栄えの良い)STM社「FAC55(下の図)」をベースにした設計案が選定されました。


 トルコのFACを獲得する取り組みが始まった1年後の2014年、トルクメニスタンも新型FACの導入による自国海軍の強化を試みていました。ただし、トルコとは対照的に、すでに就役している既存の同クラスの艦艇を置き換えるのではなく、トルクメン海軍をカスピ海で最も恐るべき艦隊へと劇的に変化させることを目指した野心的な拡大計画の一環として新造艦の調達に関心を向けていたのです。

 トルクメニスタンとトルコとの間で享受されている文化的、経済的、そして軍事的に緊密な関係を考慮すると、アシガバートがその野望を実現するための計画を提示する先としてトルコに目を向けたことは自然なものでした。

 数多くあるトルコの造船会社からパートナーを選んだ結果、トルクメニスタンは最終的にディアサン造船所を選定しました。理由としては、おそらく同社がトルクメニスタンのニーズに完全に適合した幅広い種類の艦艇を売りに出していたからでしょう。

 追加的な利点として、ディアサンによって設計された艦艇のいくつかは、すでに運用面での実績があります。これらの中で最も人気があるのが2011年から16隻がトルコ海軍に配備されている「ツズラ」級哨戒艇であり、これも最終的にはトルクメニスタンで運用されている別の哨戒艇「NTPB」のベースになっています。

 2014年6月にはディアサンとの間で6隻の「FAC 33」に関する契約が結ばれました。[2] 

 最初の船は2014年7月に建造が開始され、翌2015年1月に進水して同年の7月にトルクメニスタンに引き渡されました。残りの艦艇の引き渡しは3ヶ月間隔で続き、2017年には納入が完了しました。[2]

 その後、この6隻は「SG-119 Naýza」、「SG-120 Ezber」、「SG-121 Kämil」、「SG-122 (名称不明)」、「SG-123 Galjaň」、「SG-124 Gaplaň」として、(一般的にSBSと略されるか、トルクメニスタンでは「Serhet Gullugy」と呼ばれている)国境警備隊に就役しました。

 2016年、これらの新型艦はトルクメニスタン初の共同演習「ハザル-2016」に参加しました(注:ハザルはカスピ海のテュルク語名です)。


 「FAC 33」は全長33メートルで2基のウォータージェットに動力を供給する「MTU M90」または「MTU M93L」ディーゼルエンジンを2基備えており、エンジンの選択に応じて37ノット以上または43ノット以上の速度を出すことができます。それよりも僅かに遅い速度を出した場合では、「FAC 33」の航続距離は350海里(650km)です。[3]

 「FAC 33」の艦載兵装は、艦橋前部のアセルサン社「STOP」25mm遠隔操作式銃架(RWS)、艦橋上部に(乗員用の)12.7mm重機関銃を2門、さらには艦尾に2発の「マルテMk2/N」対艦ミサイルを搭載しています。


 ディアサン造船所は(ギュルハン造船所との合弁事業で)国境警備隊とトルクメニスタン海軍の主要な供給業者となっています。

 これまでに、ディアサン造船所は(「ツヅラ」級をベースにした)「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速攻撃艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級上陸用舟艇1隻、「HSV 41」測量船1隻、「FBF 38(別名FPF 38)人員輸送用双胴船1隻、タグボート2基をトルクメニスタンに納入しています(注:「FBF 38」はディアサン社などのウェブサイトでトルクメニスタンに納入された船の画像があります)。

 その後、2隻を除く全ての艦艇が国境警備隊に就役しましたが、これはトルクメニスタン海軍の発展が忘れ去られているというわけではありません。それどころか、海軍はさらに別の艦を全海上戦力の活動拠点であるトルクメンバシで建造中の「C92」コルベットという形でディアサン社から受け取ることになっています(注:この「C92」級は、2021年8月11日に「Deniz Han」として同国海軍に就役しました)。

 海軍と国境警備隊はこの都市にそれぞれ独自の基地と造船所を置いており、そこには「FAC 33」や大型の「NTPB」をメンテナンスしやすくするために、それらを水面から吊り上げて陸上に置く巨大なクレーンも備えています(注:海軍の基地国境警備隊の基地 の衛星画像はこちらです)。


 国境警備隊で就役しているディアサン造船所のもう一つの艦艇は、最大で40ノット以上の速度で航行可能な高速介入艇である「FIB 15」です。

 この高速艇は全長15メートルではるかに小型で軽量ですが、就役した10隻の武装は「FAC 33」と同じ「STOP」 25mmRWSが装備されています。

 その特性から、この船は海上阻止、沿岸警戒、港湾警備任務に非常に適したものになっています。

 「STOP」25mm RWSは近距離の目標と交戦するには最適な装備ですが、遠距離の敵艦を狙うには全く別の種類の武器が必要となります。FAC 33では、それはイタリアの「マルテ Mk2/N」AShM発射機を2基搭載という形でもたらされています。

 この亜音速シースキミング・ミサイルは、中間地点を通過するミッド・コースでの慣性航法と終末段階でのアクティブ・レーダー誘導を使用して、30kmを超える圏内にいる敵艦艇をターゲットにします。これは「Kh-35」「エグゾゼ」などの他の対艦ミサイルよりもはるかに短い射程ですが、このミサイルはヘリコプター発射型AshMの「マルテ Mk2/S」の派生型であることを留意しておく必要があります。[4]

 トルクメニスタンの「FAC 33」には「Mk2/N」用の単装発射機が2基しか搭載されていませんが、この発射機を二段重ね(スタック・ツイン)式に容易にアップグレードすることが可能です。この方式を用いた場合、甲板面積に影響を与えることなく「FAC 33」のミサイル搭載数が2倍となります。

 もし、このようなアップグレードがトルクメニスタンによってまだ想定されていないのであれば、これは僅かなコストで6隻の船の火力を増強するという、将来的な中間期近代化(MLU)の一環としての魅力的な選択肢になり得るでしょう。


 「FAC 33」は、高度な自動化に貢献している多機能ディスプレイを備えたコントロール・ステーションや遠隔操作式の武装を含む最先端技術を取り入れています。自動化は大幅な人員削減も可能としており、FAC33では乗員数が12名を超えないものと推定されています。


 「FAC 33」のユニークな特徴として、船尾に高速艇用の(スターン・ランプとしても知られている)スリップ・ウェイを設けていることがあります。これは船の活動範囲の拡大に大いに貢献し、不審な船の迅速な停止と検査を容易にしています。

 現代のFACの多くは後部甲板に小型ボートを搭載していますが、これらは原則としてクレーンを使って水面に降ろす必要があります:外洋での高速追尾に従事する際は降下作業が不可能となります。

 「FAC 33」は依然として比較的新しい設計ですが、ディアサン社のラインナップではすでに「FIB 33(33m級高速介入艇)」と呼ばれる新型に更新されています。航続距離と速度が向上した以外では、最も明らかな外観上の違いに船体の上部構造が延長されたことや2基の「マルテ Mk2/N」発射機の位置が船尾に変更されたことがあります。

 艦橋上部に携帯式地対空ミサイル(MANPADS)の2連装発射機が新たに追加されていますが、その他の武装はFAC33と同じです(注:MANPADS発射機は後述の「FAC 43」と同様に「ミストラル」用の「SIMBAD-RC」であると思われます)。

 現在、ディアサン社が売り込んでいるFACは「FIB 33」だけではありません。「FAC 43」は基本的に「FIB 33」の大型版であり、結果としてより豊富な種類のレーダーや武装がその設計に取り入れられています。

 それに対して、「FAC 65」は全く異なる種類の設計案となっています。「FAC 65」は全長が65メートルもありますが、その長さだけでなく、8セルの「VL MICA-M」艦対空ミサイル用VLSを搭載しているという重対空兵装の点から、この船については重装備型ミサイル艇かコルベットと呼ぶことがふさわしいかもしれません。






























 少人数の乗員で運用するコンパクトな設計で驚くほど幅広い機能を提供していることから、「FAC 33」とその後継型の「FIB 33」は21世紀の多目的船という称号を大いに獲得しています。現在ではパキスタンやバングラデシュといった国が艦隊を更新している途中のため、これらのようなトルコの設計案は彼らの魅力的な採用候補となるかもしれません。

 もっと身近なところでは、カスピ海を共有するほかの国々によって深刻なほどに(水上戦力が)劣勢となっている、アゼルバイジャンやカザフスタンが有望な顧客に含まれる可能性があるでしょう。

 ひとつだけ確かなことは、この地域では約30種類の設計案が売り込まれているため、どのような条件だろうと顧客の要件を満たす艦船が常にあるということです。


[1] Turkish FAC-FIC Designs https://defencehub.live/threads/turkish-fac-fic-designs.558/
[2] IDEF 2015: Dearsan set to deliver first fast attack craft for Turkmenistan https://web.archive.org/web/20150717004314/www.janes.com/article/51221/idef-2015-dearsan-set-to-deliver-first-fast-attack-craft-for-turkmenistan
[3] 33m Attack Boat https://web.archive.org/web/20160731140456/http://www.dearsan.com/en/products/33-m-attack-boat.html
[4] Marte Mk2/N https://www.mbda-systems.com/product/marte-mk2-n/

特別協力: Hufden氏 from https://forums.airbase.ru

 ※  この記事は、2021年3月22日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。
 

2021年7月16日金曜日

斬新な戦闘能力:ウクライナの「ヴィリハ」多連装ロケット砲


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ロシアによるクリミアの奪取とドンバス地域における武力紛争の勃発以来、ウクライナは数十年にわたって(満足な装備の更新なしに)放置されてきた自国の軍隊を補うために、野心的な再装備計画を立ち上げました。

 現在、ウクライナは旧式の装備を保管庫から出してオーバーホールやアップグレードすることに加えて、完全に斬新な戦闘能力も軍隊に導入し始めています。それらの中で注目すべき装備としては、国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」や短距離弾道ミサイル「フリム(グロム)-2」、トルコの無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」があります。

 その増大する戦闘能力をさらに引き上げるために、ウクライナはBM-30「スメルチ」300mm多連装ロケット砲(MRL)の改良に着手し、従来の無誘導型ロケット弾よりも精度だけでなく射程距離も大幅に向上した新型の誘導弾を使用できるようにしました。

 この新型は2018年に「ヴィリハ」MRLとして初めて公開され、その能力向上型の「ヴィリハ-M」は長年にわたってテストされた後の2021年に量産に入る予定です。[1] 

 この「ヴィリハ」は実績のあるBM-30と共通性があることを前提に開発されたため、ウクライナがこの新型弾を自国の軍隊に採用することには少しも問題ないと思われますし、ウクライナにとって、誘導ロケット弾の大量調達は比較的少ないコストでロシアに対する効果的な抑止力を構築することを可能にします。

 「ヴィリハ-M」は間違いなく短距離弾道弾(SRBM)とは異なるクラスの兵器ですが、ウクライナ唯一の地上発射型長距離ミサイルであるSRBM「トーチカU」に委ねられている任務の一部を引き継ぐ可能性があります。同じような射程距離でありながら弾頭数が12倍になり、弾頭の小型化(注:トーチカ-Uの半分の大きさ)という代償を払って命中精度を大幅に向上させた「ヴィリハ-M」は、ウクライナに火力と一般的な戦闘能力の面で大幅な能力向上をもたらしました。


 1990年代のユーゴスラビア紛争以降のヨーロッパにおける初の大規模な従来型の紛争として、東ウクライナでの戦争は戦闘状況下での多数の兵器システムや電子戦能力の巨大な潜在力を思い起こさせています。もちろん、MRLの破壊力もその例外ではありません。

 あえて言うならば、この紛争で導き出された結論はウクライナ軍を通じて世に広まっただけでなく、軍事予算を減少させた結果として(MRLを含む)いくつかの兵器システムを退役させた西側の軍隊にも警鐘を鳴らすものとなりました。

       

 ウクライナ以外では、中国、トルコ、イラン、北朝鮮などの国で長距離精密誘導ロケット弾の設計・製造にかなりの投資を行っており、そのうちのいくつかは「ヴィリハ」のようにソ連の300mm口径の無誘導ロケット弾をベースにしています。

 (射程距離70km、250kgの弾頭を持つ)既存の9M55ロケット弾をベースにした、(「R624」として知られている)改良型ロケット弾は新型の固体推進剤やGNSS支援慣性誘導装置、90個の小型誘導用スラスターを追加して、半数必中界(CEP)を約10mにまで大幅に縮小させました。[2]

 新開発した「R624M」シリーズを使用する「ヴィリハ-M」に限っては、改良によって射程距離の大幅な延長がもたらされました。

 射程距離を延長するために弾頭のサイズを犠牲にした結果として、「ヴィリハ-M」は170kgの弾頭で130kmまで射程を延長することができましたが、さらに改良された派生型の「ヴィリハ-M1」では、170kgの弾頭を装着した状態で154km、236kgの場合では121kmの最大射程距離を実現しています。そして、最新型の「ヴィリハ-M2」では200km程度の射程距離を持つと伝えられています。[2] しかし、射程距離の延長は全体的に終末段階の命中精度を低下させる一因となり、R624MではCEPが約30mに匹敵する可能性があります。

 旧式の推進剤を使用した場合と比較して、推力を約18%向上させた新しい推進剤を使用することによって、さらに航続距離を延長することが可能となります。新型の推進剤を使用すれば「R624」でも100km以上の飛行が可能となり、M・M1・M2の各型では射程距離が200kmに迫るか、場合によってはそれを超えるかもしれません。[3]
 
 ルーチ設計局による別のプロジェクトでは、「ヴィリハ」MRLを通常のロケット弾と最大射程距離100kmの新型地対空ミサイルの共用発射システムに変える必要があることから、このMRLシステムに関する技術革新はとてもここで止まりそうにありません。[4]


 発射直後は初速が遅いことから空力を用いた軌道修正が不可能なため、誘導が複雑になるなどの理由で、この新型ロケット弾の運用方法は明らかに型破りなものとなります。これらの影響を軽減するため、発射の初期段階にロケット弾の誘導装置の外周に配置された90個の小型ロケットスラスターのそれぞれが数秒間の指向性を持った推力をもたらします。

 これだけでもロケット弾に標的の付近へ向かわせるコースを設定するには十分でしょう:誘導の終末段階には胴体前部から空力ベーンが展開し、着弾する直前のコース修正を容易にします。

 多くの最新型のMRLと同様に、「ヴィリハ」MRLの誘導方式は慣性誘導とGNSS誘導の両方を利用することができます。後者は慣性誘導よりもはるかに小さいCEPを達成できる可能性がありますが、妨害に脆弱性が生じるかもしれません。そのためか、最近のモデルでは命中精度を向上させるためにTV誘導方式を使用しているものもあるようです。
 

 「R624(M)」誘導ロケット弾の大きな利点は、発射機に大規模な変更なしで既存のBM-30に容易に統合できることです。この特徴が「ヴィリハ(-M)」をアゼルバイジャン、アルジェリア、クウェート、トルクメニスタンといった「BM-30」を運用している国々にとって魅力的な選択肢とさせています。

 このロケット弾の供給に関して、2021年4月にルーチ設計局は外国との初の契約を結んだことを公表しました。ただし、取引先の国やその他の詳細については少しも報じられることはありませんでした。[5]


 別の可能性がある将来的な開発として関心を抱かせるものとしては、「R624(M)」ロケット弾を「バイラクタルTB2」UCAVがレーザーを照射した目標に命中させることができる精密誘導弾にするためのレーザー誘導キットの導入があります。この優れた打撃能力はすでにトルコとアゼルバイジャンで「TRLG-230」 MRLを通して実現されており、TB2とMRL双方の運用能力を大幅に向上させています。

 レーザー誘導キットをロケット弾に装着することでほかの誘導システムが不要になり、「ヴィリハ」をより電子戦への耐性を高くすると同時に命中率を非常に高精度なものにさせます。

 ウクライナでこのような(攻撃能力を実現させる)装備の開発がすでに進められているかどうかは不明ですが、現代の戦場におけるゲームチェンジャーになっているのは、まさにこの種の偵察・攻撃プラットフォームと精密誘導弾との相乗効果です。


 話題を防御面変えると、より優れた特徴を持つトラックの導入や既存の車両の防御力の向上が「ヴィリハ-M」の生存率を高めるためのシンプルな改良を示しています。
 
 TELに使用されるトラックについて、「ヴィリハ-M」はオリジナルの「MAZ-543」に代わって(「ネプチューン」沿岸防衛システム/対艦巡航ミサイルのTELとしても使用されている)「KrAZ-7634」を採用する可能性があります。この組み合わせは2019年2月にアブダビで開催されたIDEXで初めて公表され、同年の12月には(非装甲キャビン装甲に代わって)装甲キャビンを備えた新コンセプトが披露されました。

 新型トラックの継続的な導入は「ヴィリハ」自体の機動性も向上させ、射撃後の迅速な再配置が可能となって生存率が再び強化されるだけでなく、運用や配備の選択肢に関する柔軟性も高めています。



 「ヴィリハ-M」の射程距離が延長されたことは、近い将来にウクライナのMRL部隊の極めて重要なアセットが(ほぼ全ての)ロシアのMRLを壊滅的な精度を伴いながらアウトレンジする能力を持つ可能性があることを意味します。

 これはすでに前回の紛争で直面したロシアとの(砲兵戦力面での)均衡をかなり破っていますが、レーザー誘導方式を取り入れたヴィルカ・シリーズの開発の継続や最大70kmの範囲にある標的をピンポイント攻撃可能なトルコの「TRLG-230」を調達することを通じて、ウクライナはこのコンセプトをさらに改良することができます。

 トルコとウクライナの間では、特にこのような共同開発プログラムに取り組むことを目的としたいくつかの共同事業がすでに存在しています(最も注目するべきものとしては、ウクルスペツエクスポルト社とバイラクタルTB2の設計を手がけたバイカル・テクノロジー社によるブラックシー・シールドがあります)。

 この傾向はトルコのUAVや「TRLG-230」のようなシステムに関する設計・運用経験とウクライナの既存の軍産複合体を組み合わせることで、完全に斬新な戦闘能力の開発ができる可能性を示唆しています。

 稿されました。
※ 2023年3月12日、ウクライナ国家防衛産業複合体連合のイヴァン・ヴィンニク氏は、「ヴィリハ-M」の改良と今後の製造について公表しました。[6]

「TRLG-230」(2022年にウクライナへ供与されたことが判明)

[1] Ukraine to Start Serial Production of Vilkha-M MRL Systems https://dfnc.ru/en/world-news/ukraine-starts-serial-production-of-vilkha-m-mrl-systems-in-2021/
[2] Про забезпечення ЗСУ боєприпасами та створення їх запасів https://www.ukrmilitary.com/2020/07/boeprypasy.html
[3] Вільха (ракетний комплекс) https://uk.m.wikipedia.org/wiki/Вільха_(ракетний_комплекс)
[4] КБ «Луч» розробило новий ЗРК на основі ракети «Вільха» https://www.ukrmilitary.com/2020/03/air-defence.html
[5] «Вільха» йде на експорт: укладено перші контракти https://mil.in.ua/uk/news/vilha-jde-na-eksport-ukladeno-pershi-kontrakty/
[6] ウクライナのロケット弾「ヴィリハM」、反攻時に実戦試験へhttps://www.ukrinform.jp/rubric-defense/3681270-ukurainanoroketto-dan-vuiriha-fan-gong-shini-shi-zhan-shi-yanhe.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている
 箇所があります。