2022年7月5日火曜日

エチオピアにおけるイスラエル産兵器:「サンダー」歩兵機動車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア国防軍(ENDF)が老朽化したソビエト製の兵器とより現代的なロシア製の武器のいくらかを混ぜ合わせたものだけに依存していた時代は、とっくの昔に過ぎ去りました。過去10年間でエチオピアは武器の輸入元を多様化してきており、現在では、中国、ドイツ、ウクライナ、ベラルーシといった国々を含む多数の別の供給源も存在しています。

 間違いなく驚くべきこととしては、このリストにイスラエルやUAEといった国も含まれていることです。実際、これらの国はエチオピアに多くの高度な兵器システムを提供してます。多くのアフリカ諸国にとって、イスラエルは小火器からドローン、さらには艦艇に至るまで何でも供給する人気の高い兵器のサプライヤーであることが証明されています。

 エチオピアは、ハイレ・セラシエⅠ世時代の1950年代にイスラエルと最初に軍事的な関係を構築しました。興味深いことに、エチオピアとイスラエルの軍事協力は、1974年から1991年までエチオピアに存在した共産・社会主義政権の下でも継続されていました。この時代、メンギスツ政権はアラブ諸国とイスラエルの両方と緊密な関係を保っていましたが、後者についてはアラブの同盟国を動揺させさないように、ほぼ秘密にされていました。

 近年におけるエチオピアとイスラエルの強い結びつきは、「メイド・イン・イスラエル」の軍事装備の引き渡しにも現れました。これらの1つが「サンダー」歩兵機動車(IMV)であり、同車はこれまでにエチオピアとカメルーンで運用されています。エチオピアの場合は、自国の武器産業の知識と能力を築き上げるために、国内で車両を組み立てました。

 同様のノックダウン生産はウクライナや中国の間でも行われており、このような動きは、決してこの分野におけるエチオピアの能力を強化するための形だけの努力ではないことを示しています。

       

 2011年から2013年の間に、イスラエルの「ガイア・オートモティブ」社は、エチオピアに80台のサンダーIMVを納入する契約を獲得しました。[1]

 最初の5台はイスラエルで製造され、残りの75台を組み立てるための資材だけでなく、それに必要な全ての工場設備もエチオピアへ出荷されました。ガイア社はエチオピアでさらに5台の「サンダー」IMVを組み立て、その後でエチオピアの人々が自力で残りの70台を完成させました。

 このようなプロジェクトでエチオピア側が得た貴重な経験は、将来にこの国が国産の装甲車両を作り上げようと試みる際に役立つはずです。



 「サンダー」IMVは、民生品であるフォード社製のピックアップトラックのシャーシをベースにした軍用車両です。

 ピックアップトラックから「サンダー」にするためには、まず、このトラックの上部構造(つまり運転室)が完全に剥ぎ取られ、シャーシとエンジンだけを残した状態にします。その後、装甲ボデーを何も載せられていないシャーシの所定の位置に載せて溶接してから、この新たに組み立てられた車両に追加の装備が取り付けられるというわけです。

 最後の仕上げとして、「サンダー」が起伏の多い地形を走破できるようにするためにオリジナルのタイヤを軍用グレードのものに交換することににも注目です。




 ENDFは、ドーザーブレードを装着した派生型を含めて最低でも4種類の「サンダー」IMVを運用しているようです。この派生型は従来型の軍事作戦にはほとんど役に立たないように見えますが、装備されたドーザーブレードは、抗議活動でデモ隊が設置したバリケードを撤去するのに最適です。

 抗議デモはエチオピアの現代社会で頻繁に発生しており、2014年から2016年にかけての反政府デモはその中でも間違いなく最も重要な出来事であり、2018年の政権交代につながりました。

 憲兵隊と連邦警察も独自の派生型を運用していますが、そちらには小型のサーチライトが装備されているように見えます。それらに加えて、エチオピア陸軍では、救急車型と「DShK」12.7mm 重機関銃(HMG)を装備した派生型も運用しています(後者は固定武装を装備した唯一の派生型です)。

 「サンダー」の各型には合計で7基の銃眼(両側面に3基、背面のドアに1基)が装備されているので、(敵襲を払いのけるために)乗員はそこから自分が持つ武器を撃つことができます。




 「サンダー」IMVは、現在のENDFで使用されている唯一のイスラエル産の装備ではありません。(少なくとも名前は)エリートである共和国防衛隊に装備させるため、エチオピアはイスラエルから少数のIWI製TAR-21「タボール」アサルトライフルも導入しました。

 おそらくさらに重要なのは、エチオピア空軍が少なくとも2種類のイスラエル製無人航空機(UAV)を運用していることでしょう。これには「エアロスター」UAVと「ワンダーB ミニ」 UASが含まれており、後者はエチオピア初のUAV連隊を編成するために2011年に調達されました。[2]




 ほとんどがソ連、ロシアや中国製で占められているエチオピアの兵器庫の背後では、新たな外来の装備がそのギャップを埋めています。イスラエル、北朝鮮やドイツから供給されたものであろうと、そのような装備は例によって目立たないように引き渡されていたため、アナリストや一般の人々から全く注目されていません。

 イランによる「モハジェル-6」UCAVの販売もあって、このアフリカの一角における武器市場は成長を続けているようですが、その需要の増加に応じるためのサプライヤーも増えています。

 ティグレ州での紛争が猛威を降り続けているため、(もし未だに投入されていない場合は)この外来の装備も間違いなくそこで使用されることになるでしょう。



[1] The Establishment of an APC Production Line in Ethiopia http://gaia-auto.com/en/the-establishment-of-an-apc-production-line-in-ethiopia/
[2] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html

 のです。



おすすめの記事

2022年7月1日金曜日

再び前線へ:エチオピアにおける「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 エチオピア軍は、(この国で輸出されていなければ)輸出市場では全く成功していない多数のロシア製兵器を運用しており、これらの1つであるSu-25TK「Tankovy Buster」については、すでに当ブログの記事で紹介しています

 そして、もう1つの兵器は「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲(SPG)であり、約12台がエチオピア国防軍(ENDF)で運用されています。エチオピア北部のティグレ州における武力衝突の勃発を受けて、今やこの自走榴弾砲もティグレ防衛軍(TDF)に対抗するために展開した多くの兵器の間にいます。

 エチオピアが「2S19 "ムスタ-S"」最初の輸出先となったのは1999年のことであり、彼らは少なくとも12台を入手しました。「Su-25TK」と同様に、エチオピアの「ムスタ-S」は、1998年5月から2000年6月まで猛威を振るったエリトリア・エチオピア戦争の際に戦時緊急調達として導入されたものです。エチオピアへの納入を早めるために、「2S19」はロシア軍のストックから直接調達されました(注:新規製造品ではないということ)。

 このほぼ同時期に、エリトリアも最初の自走砲を導入しました。エチオピアに続くことを追い求める中で、エリトリアは当時で入手可能な最も高度な自走砲を購入するのではなく、ブルガリアから中古の「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲の購入で落ち着かせる必要がありました。[1]

 これらは最大射程距離である15kmまでの目標だけを攻撃することが可能ですが、「2S19」の25kmと比較した場合は不十分な距離でした。そうは言っても、「2S19」も「Su-25TK」も最終的にはエチオピアが期待していた軍事的な突破口をもたらすことがなかったことが今では明らかとなっています。

 エチオピアに納入された当時、「2S19」はアフリカ大陸で使用されている最も現代的な自走砲であり、就役後は以前にENDFで使用されていた北朝鮮製の自走砲よりも大幅な戦力向上をもたらしました。これらは「D-30」122mm榴弾砲を(APCをベースとした)装軌式の車体に搭載したものですが、機動性と弾薬の収納量が増加したことを除くと、牽引式の「D-30」榴弾砲から能力が少しも改善されていませんでした。

エリトリア・エチオピア戦争でエチオピア軍で使用されている北朝鮮製「M-1977」122mm自走榴弾砲。これらの自走砲は後に退役してスクラップとなりました。

「ATS-59」砲兵トラクターの車体に「M-46」130mmを搭載したもの。運用している北朝鮮の自走砲を補完するためにこのようなDIY兵器がいくつか生産され、エリトリア軍に対して急いで使用されました。

 北朝鮮の自走砲や「BM-21 "グラート"」122mm MRLと共にエリトリア兵の集結地点を叩くなどして激しい戦闘を展開したエリトリア・エチオピア戦争後、「2S19」については、2020年11月にティグレ人がアディスアベバの中央政府に対して反旗を翻した際に再び戦闘に加わった様子が見られました。

 ティグレ州の各地にある基地を占領したティグレ防衛軍は、大口径のMRL誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムさえも含む重火器で自らを素早く武装させました。

 これを受けて、中央政府はこの反乱を鎮圧するためにENDFを投入しました。これには「2S19」も含まれており、輸送トラックに搭載されて前線を移動する姿が何度か目撃されています。



 航空機の整備やオーバーホールだけでなく、パイロットの訓練もほぼ完全に自給自足しているエチオピア空軍とは異なり、陸軍は(「2S19」について)未だにある程度はロシア人のインストラクターに依存しているようです。エチオピアにおける彼らの存在が、エチオピア人乗員の訓練または装備のメンテナンス、あるいはその両方に関係しているのかは不明です(おそらく後者の可能性があると思われます)。

 ロシアの軍事インストラクターはアフリカの至る場所で活動しており、彼らがカメラに向かってポーズをとるのが好きなことが、アフリカの軍隊で使用されているロシア製装備の画像がネット上に流出する原因であることは珍しくありません。



 1990年代後半にロシアから少なくとも12台の「2S19 "ムスタ-S"」を調達したことが、エチオピア軍による最後の自走砲の導入として知られています。

 エチオピアの砲兵装備は、より多くの「2S19」に投資するのではなく中国から多数の兵器システムを導入することを通じて、これまでで最大となる戦力の押し上げを経験しました。現在までのところ、これらには「AH-1」155mm牽引式榴弾砲、「AR2」300mm多連装ロケット砲(MRL)「A200」300mm誘導ロケット弾発射システム、さらには「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)も含まれています。

         

 砲兵戦力をさらに向上させるため、エチオピアは国内の兵器産業に対してすでに運用しているいくつかのシステムの機能改善を求め、「D-30」122mm榴弾砲をトラックに搭載した、安価ながらも機動性の高い自走榴弾砲を開発しました(下の画像)。

 また、老朽化した「グラード」122mm MRLも、発射機を新しいトラックに搭載することによって新たな命が吹き込まれました(下の画像の左側)。


 さらに別のプロジェクトでは、「ビショフツ・オートモティブ・インダストリー」が一部の「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)を迫撃砲牽引車(注:自走迫撃砲である可能性もあります)に改修するというものもありました(下の画像)。

 これらのプロジェクトのどれもが試作の域を超えて進行したのかどうかは不明であり、それぞれが僅かなサンプルの生産だけでストップしている可能性は十分にあります。



 2S19は世界のこの地域では異色の軍用装備の一部であり、これからもそうであり続けます。

 エチオピアが宿敵のエリトリアよりも優位に立つことを可能にさせる現代的な装備を必死に探していた時期に導入された「ムスタ-S」は、別の敵との別の戦いに参加するために十分な期間の現役を務めてきました。

 20年後のティグレ戦争で、エチオピアは自身が当時と驚くほど似たような状況に直面していることに気づきました。ただし、今回は紛争で必要とする装備を求める相手がロシアではなくイランとなり、そこから「モハジェル-6」UCAVを入手しました

 しかし、この調達が戦争の新しい装備に対する渇望を満たすかどうかはまだ不明であり、「ムスタ-S」も、自身がすぐに(新しく導入された)さまざまな外国産の兵器と一緒に並ぶことに気付くかもしれません(注:この戦争で新装備がどんどん追加調達される可能性があるということ)。



[1] Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は2021年9月20日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので
 す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
 ます。

2022年6月25日土曜日

バルト諸国のバイラクタル:リトアニアが「バイラクタルTB2」の購入検討へ


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 リトアニア共和国は、ウクライナ軍向けのトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」の調達資金を集めるクラウドファンディングを成功させて世間の注目を浴びました。たった3日半の間に、人口僅か280万人のリトアニアを中心に国内外から約600万ユーロ(約8.5億円)の寄付が集まったのです。
 
 リトアニアのビリウス・セメシュカ副国防副相は、6月に(最終的に「バイカル・テクノロジー」社が無償供与を決めた)このTB2の納入に関連して同社を訪問した際に、リトアニア空軍向けのTB2 6機の購入についても協議したことを明らかにしました。[1]
 
 リトアニア空軍は最新の輸送機やヘリコプターを多数保有しているものの、武装可能な航空機については現時点で保有していません。その代わりとして、NATO諸国によるバルト三国の領空警備は、リトアニア・ラトビア・エストニアの各国上空とその近辺における即応警戒態勢(QRA)能力を提供します。しかし、これらの機体は純粋に防衛的な用途で運用されているため、バルト諸国が戦時下における航空支援を実施するためには新たな作戦機の配備を当てにしなければなりません。

 TB2のような比較的安価な武装ドローンを導入することは、リトアニア自身の打撃力を著しく向上させ、大砲の射程をはるかに超えた目標に直撃させることが可能となります。
 
 ラトビアの国防大臣が2021年5月に「バイカル」社からTB2を調達する意向を表明して以降、リトアニアが「バイラクタルTB2」に関心を示した2番目のバルト諸国です。[2]
 しかし、トルコ製UCAVのラトビアへの導入については、外国企業と締結した主要な防衛プロジェクトに地元の下請け業者を参加させよという同国からの要求によって遅れているようです。ラトビアよりもこれと言った防衛産業が少ないリトアニアでは、仮に同様の要求があったとしても同国空軍による導入に悪影響を及ぼしたり、遅れたりすることはないでしょう。 
 
 バルト諸国は互いに緊密に協力しながら軍事力を拡大することを切望しており、コストを削減しながら、情報共有と統合運用の強化によって能力を拡大できる可能性があるため、各国によるTB2システムの共同調達は決して考えられない選択肢ではありません。
 
 また、十分な数のTB2を導入することでバルト諸国は最小限の人員でNATOのミッションに参加し、索敵や空爆を行うことも可能になります。十分な数のTB2を調達することは、もしかするとラトビアに現地の整備施設を設立させることも可能と思われるため、価値ある投機と言えるでしょう。

現時点でリトアニアは小型のアメリカ製「スキャンイーグル(画像)」と「RQ-11 "レイヴン"」UAVシリーズを運用しています

 射程15km以上の「MAM-L/C」誘導爆弾や射程9kmの「ボゾク」空対地ミサイルを最大で4発搭載して敵の目標を攻撃できることに加えて、TB2を(車両などの目標に対して75km以上を誇る)EO/IRセンサーの検知距離能力や信号情報によって敵陣地や部隊の集結地点を検出することに用いさせることができます。

 これらの目標の打撃には、TB2自身ではなく大砲や重迫撃砲を用いることが可能です。現在、リトアニア軍は2015年からドイツから調達した中古の「PzH2000」自走榴弾砲(SPG)18台を保有しています。スペアパーツの供給源として(注:共食い整備の部品取り用として)さらに3台の同SPGが購入されました。
 
 「PzH2000」は機動性と長射程(35km、ロケットアシスト弾では67km)、そして目標に効果的な打撃を与えるための速い発射速度を兼ね備えています。同SPGにはMRSI(同時弾着射撃)を用いて敵と交戦する能力も有しています。これは最大で5発の砲弾を同時に着弾させる軌道を描かせるために自動装填装置が自動的に装薬を選択するものであり、その後に「PzH2000」が敵からの対砲兵射撃を避けるための迅速な移動を可能にさせます。

 

 これ以外にリトアニアで運用されている砲兵装備には、6km以上先の場所に砲弾を投射可能な「M113」装甲兵員輸送やベースのドイツ製「パンツァーメーザー」120mm自走迫撃砲(SPM)43台と(ほとんど予備兵器として保管していますが)射程が11kmと不足気味な第二次世界大戦時代の「M101」105mm榴弾砲54門があります。
 
 さらに2022年6月、リトアニアのアルビーダス・アヌシャウスカス国防大臣は、フランスから「カエサル」6x6型155mmSPG18台の購入を発表しました。[3] [4]
 
 偵察用ドローンとこうした砲兵システムの統合は、目標に対する効果を最大化させます。したがって、UCAVはすでにリトアニア軍が運用していたり、将来的に導入予定の兵器システムの戦力倍増装置としての機能も有しています。
 
リトアニア軍の「パンツァーメーザー」120mm自走迫撃砲。これらの射撃統制及び指揮通信システムは2015年にイスラエルの「エルビット」社によってアップグレードを受けました。[8]

リトアニアの 「M101」105mm榴弾砲は射程距離不足ですが、その弱点は予備役部隊が使用できる数(54門)で部分的に補完しています。

 2021年5月になると、バルト諸国が多連装ロケット砲(MRL)システムの共同調達によって、火力支援能力をさらに拡充させる計画を協議していることが明らかとなりました。しかし、この後にロシアがウクライナ周辺に兵力を増強、最終的に同国へ侵攻したことを受けて、リトアニアは計画していたMRLの調達を前倒しさせました。[6][7]
 
 現在、中古のアメリカ製「M270」MLRSがその最も有力な候補として考えられているようですが、おそらくより費用対効果が高く、TB2とうまく協調して任務を遂行できる適切な選択肢:最大で70kmの射程を有する「TRLG-230」もあります。
 
 このMRLは(通常のロケット弾に誘導キットを装着した)レーザー誘導式ロケット弾の発射も可能であり、TB2が指示した目標に命中させることができる利点があります。「TRLG-230」誘導ロケット弾の発射機はモジュール式なので、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで122mmや300mmロケット弾の発射も可能です。
 
最大射程70kmを誇る「TRLG-230」誘導ロケット弾発射システム

 エストニアやラトビアとは異なり、リトアニアはノルウェー製の「NASAMS-3」という形で中距離地対空ミサイル(SAM)戦力を保有しています。エストニアは自国軍用に同システムを導入する構えであり、ラトビアも地上型防空システムについて同様の要求を掲げています。[8] 

 2020年に計2セットがリトアニアに納入されました。発射される「AIM-120C」ミサイルの射程は25km以上であるため、高空を飛ぶ目標との交戦が可能です。将来的に、これらのミサイルはより射程が短い赤外線誘導式の「AIM-9X」や、射程距離が約50kmまで延長されたレーダー誘導式の「AMRAAM-ER」で補完されるかもしれません。

 ロシア・ウクライナ戦争は、ロシア空軍が防空能力が充実化された空域での作戦を避ける傾向があることを示しました。そのため、戦域上空を飛ぶロシア機への抑止力として「NASAMS-3」を用いることで戦時におけるTB2の生存率を高めることができると思われます。

リトアニア軍の「NASAMS-3」自走発射機

 バルト諸国における軍事支出は西ヨーロッパの動向に注目が集中するおかげで頻繁に見過ごされがちですが、これらの国々は最近のロシアとNATO間の高まる緊張の中の最前線に位置し、見込まれるロシアからの侵略軍と最初に対峙することになることを忘れてはいけません。
 
 それに応じ、各国は平時における抑止力としても機能できる現実的な戦闘能力の構築に向けて、大きく前進し続けてきました。リトアニアの場合、それを実現するものとして膨大な数の戦闘装甲車両や最新の砲兵システム、そして高度な防空システムの導入が含まれています。
 
 そして、このリストに「バイラクタルTB2」が遠くないうちに追加されるかもしれません。これはリトアニアに全く新しい能力をもたらす兵器システムであることから、同国(そして残りのバルト諸国)の抑止力をよりいっそう確固たるものにするでしょう。


[1] Lithuania and Turkey sign agreement on Bayraktar drones purchase https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1708436/lithuania-and-turkey-sign-agreement-on-bayraktar-drones-purchase
[2] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.html
[8] Baltic Air Defence: Addressing a Critical Military Capability Gap https://icds.ee/en/baltic-air-defence-addressing-a-critical-military-capability-gap/

2022年6月22日水曜日

リーダー・オブ・ザ・パックス:リトアニアの「ヴィルカス」歩兵戦闘車


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 西ヨーロッパ諸国の大部分が安全を保障するための具体的な軍事力の必要性にやっと気づいたように見える中、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト諸国は2014年初頭のロシアによるクリミア併合以来、バルト地域へのロシアの侵略に対処する準備をする必要性をすでに悟っています。

 その情勢に応じて、バルト各国は自国軍の規模や態勢を飛躍的に拡大させてきました。当初は軍と予備役に装備させる小火器、対戦車ミサイル(ATGM)と携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の調達が大部分を占めていたものの、後にさらなる投資のおかげで防空・対艦ミサイルシステム、長距離砲や数百台の装甲戦闘車両(AFV)導入の道が開かれました。

 ラトビアがイギリスとオーストリアから中古の「CVR(T)」AFV約200台と「M109」155mm自走砲(SPG)53台を調達し、エストニアはオランダから「CV9035NL」歩兵戦闘車(IFV)44台、ノルウェー「CV9030N」IFV37台、韓国の「K9 "サンダー"」155mm SPG18台を機械化部隊に装備させています。

 その一方で、リトアニアは2015年以降、91台の「ボクサー」IFVと18台の「PzH2000」SPGを導入するためにドイツを頼りにしました。それどころか、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、リトアニア国防省はさらに120台のIFV型とAPC型などを合わせて合計211台の「ボクサー」を導入する意向を明らかにしたのです。[1]

 フランスから「カエサル」6x6型155mmSPGとアメリカから「M270」MLRSシステム、そしてトルコから「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の調達計画は、アメリカからの200台の統合軽戦闘車(「JLTV」)や大量のMANPADSと(「ジャベリン」)ATGM、ノルウェーから高度な「NASAMS-3」SAMを2セットの調達と共に、リトアニアが現実的な戦闘能力とこの地域におけるロシアに干渉に対する強い抑止力を構築する道を着実に歩み続けていることを示しています。[2] [3] [4] 

 リトアニアは人口が約275万人であるにもかかわらず、地上部隊へのタイムリーな投資をした結果、NATOのいくつかの大国を質的にも量的にも凌駕する戦力を持つことになるでしょう。
 
 リトアニア陸軍の中核は同国で「ヴィルカス(狼)」と呼ばれている「ボクサー」IFVです。リトアニアが導入した「ボクサー」IFVは、完全に安定化された「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲と「スパイク-LR」ATGMを2発、そして7.62mm同軸機銃を装備したイスラエル製の「サムソンMkII」無人砲塔が搭載されています。

 「サムソンMkII」は高度な照準システムを備えているため、昼夜を問わず正確な照準が可能です。砲塔の左右に各4発の発煙弾発射機も備えられていますが、これがIFVの位置を一時的に隠すために用いられることは言うまでもないでしょう。 

「スパイク-LR」を放つ「ヴィルカス」

 「ヴィルカス」の最も強力な武装にして、必殺パンチとなり得るのが「スパイク-LR」ATGMです。射程4km(「スパイク-LR2」は5.5km)を誇る「スパイク-LR」の優れた対装甲貫通力は、「ヴィルカス」に敵戦車の有効射程圏外でも敵機甲戦力と交戦して撃破することを可能にさせます。

 「ヴィルカス」が近距離で敵AFVと遭遇した場合、主砲たる「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲 は徹甲弾(AP弾)を装備していれば強力な切り札となり得ます。

 エストニアの「CV9035NL」に搭載された35mm機関砲の威力には劣るものの、30mmAP弾は何度もMBTに有効であることを実証しています。実際、ウクライナ軍の「BTR-3」あるいは「BTR-4」IFVが30mm機関砲の連射でロシア軍の「T-72」戦車の側面装甲を貫通したり、照準装置を破壊して無力化に成功した実例をご存じの方も多いのではないでしょうか。[5] [6] [7] 


 「サムソンMkⅡ」が採用されるまで、さまざまな種類の砲塔が検討されました。その中には、ドイツが「ボクサー」IFV型に選定した「プーマ」IFV用の「RCT30 "ランス"」無人砲塔も含まれています。

 その一方で、オランダはAPC型「ボクサー」の火力向上用として、30mm砲機関砲1門と7.62mm同軸機銃、さらに「スパイク」ATGM2発を搭載した「EOS R400S-Mk2」デュアル式RWSをトライアル中です

 「R400S」と同様に「MkⅡ」は(少なくともドイツのIFV型「ボクサー」の「ランス」と比べると)低いシルエットであることに加えて車体内部に埋め込まれていないため、車内に占める専用のスペースが大幅にカットされています。


 最初の契約で調達された「ボクサー」91台(約3億8560万ユーロ=約546億円)には運転訓練仕様の2台も含まれており、最初の「ヴィルカス」IFVは、2019年7月初旬に「アイアンウルフ」機械化歩兵旅団に属する「アルギルダス大公」機械化歩兵大隊に正式に引き渡されました。[9] [10]

 そして、2022年2月にはリトアニアがドイツから120台の「ボクサー」を追加調達し、翌2023年から2024年にかけて納入される予定であることが発表されました。この第2陣には、「ヴィルカス」IFV30台と1基の12.7mm RWSを装備したAPC型「ボクサー」90台で構成される予定です。[11] 

 これらのAFVは、リトアニアの200台以上にもなる「M113」APCを少なくとも部分的に置き換える可能性があるかもしれません。更新されずに残る「M113」もいつか「ボクサー」あるいは(もしかすると)装軌式APCで置き換えられるのかは、現時点では判然としません。

 しかし、2022年6月に初めて発表された装軌型「ボクサー」は、(コンポーネントなどで)装輪型との高い共通性があることから、リトアニアにとって魅力的な次の選択肢となる可能性があるでしょう。[12]

リトアニア軍で運用中の運転訓練型「ボクサー」

 リトアニアの「ボクサー」APCと「ヴィルカス」IFVに対する相当規模の投資は、同国が国防に極めて真剣であることを示すほんの1例にすぎません。これらのプラットフォームにより、リトアニア陸軍は近い将来に想定される安全保障上の脅威に対処する準備ができているようです。

 「ボクサー」のプラットフォームの高い汎用性は、リトアニアがこのAFVへより依存させるかもしれません。例えば戦闘被害修理モジュールなどの調達は賢明な投資であり、同時に陸軍全体の統一性を高めることになるでしょう。

 仮に本当に「ボクサー」に専念するのであれば、120mm迫撃砲モジュールや、同じプラットフォームをベースにした未来的な外観の「スカイレンジャー30」SPAAGといった全く新しいシステムも揃えることすら可能であることは火を見るより明らかです。

 自身の安全保障態勢の構築に多大な投資を行い、装備の導入計画に真剣に取り組む国であれば、それを制約する上限は事実上存在しないのです。


[1] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[2] La Lituanie va acheter 18 canons Caesar à Nexter https://www.lesechos.fr/industrie-services/air-defense/la-lituanie-va-acheter-18-canons-caesar-a-nexter-1412947
[3] https://www.defensenews.com/global/europe/2022/01/12/lithuania-accelerates-rocket-artillery-buy-amid-russian-military-buildup/
[4] Lithuania plans to buy multiple launch systems from US https://www.delfi.lt/en/politics/lithuania-plans-to-buy-multiple-launch-systems-from-us.d?id=89403651
[5] https://twitter.com/RALee85/status/1505464350164848643
[6] https://twitter.com/Osinttechnical/status/1512061253019185152
[7] https://twitter.com/RALee85/status/1503443368650682369
[8] https://i.postimg.cc/YqHjQ7xL/159267048-4175123882505935-9223333389964861122-n.jpg
[9] First Vilkas Infantry Fighting Vehicles officially handed over to Lithuania Vilkas Infantry Fighting vehicles delivered for training https://kariuomene.lt/en/newsevents/vilkas-infantry-fighting-vehicles-delivered-for-training/17971
[10] https://www.armyrecognition.com/july_2019_global_defense_security_army_news_industry/first_vilkas_infantry_fighting_vehicles_officially_handed_over_to_lithuania.html
[11] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[12] https://twitter.com/JonHawkes275/status/1536646438616178688

 ※  この記事は、2022年6月14日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



おすすめの記事

2022年6月18日土曜日

拒否権の勝利:イスラエルがウクライナへの(武器)援助を阻止


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

   「象が鼠の尻尾を踏んでいるときに中立だと言っても、鼠はあなたを決して中立と思 
  わないでしょう(デズモンド・ムピロ・ツツ、南アフリカ)」

 ウクライナ全土に及ぶロシアの激しい攻勢の阻止を手助けするため、西側諸国はウクライナ軍に膨大な軍事装備や弾薬を供与するべく奔走しています。

 供与される兵器システムの多くは比較的使いやすい上に西側諸国のストック品から容易に入手可能ですが、一方でより複雑な兵器もあり、ウクライナの軍人がそれを使いこなすために数週間の訓練が必要なケースもあります。これにはオランダとドイツから供与された「PzH 2000」自走榴弾砲(SPG)だけでなく、イギリスとドイツ、そしてアメリカから供与された「M270」や「HIMARS」多連装ロケット砲システム(MRL)といったものも含まれまれていることは周知のとおりです。[1] [2]

 多くの国がウクライナの窮状を支援するための呼びかけ以上のことをした一方で、 ロシアとの関係を壊さないために軍事支援という手段をほとんどせずに人道支援にとどめることを好む国もあります。

 そのような国のリストにドイツが含まれていると思われがちですが、オーラフ・ショルツ首相はすでに送られた大量の対戦車兵器などに加えて最新型の地対空ミサイル(SAM)と長距離MRLを供与することを発表しました。したがって、ドイツは今や他国による支援の大部分を凌駕する側となったのです。[2] 

 これらのシステムの供与については期待外れなほどに時間をかけて行われることが判明したものの、ドイツはオランダが5台以上の高度なドイツ製「PzH 2000」を供与するといった他国の支援も認めるだけではなく、自身も7台を供与しています。[1] 

 ドイツとは際立って対照的に、イスラエルとスイスはウクライナへの軍事装備の供与を差し控えるのみならず、他国が軍事援助として自国製兵器をウクライナへ送ることも積極的に阻止しています。イスラエルやスイスのような武器生産国は、彼らから武器を調達する国に対してエンドユーザーに関する厳しい制限を課すことが常であり、購入した武器や装備を第三者へ売却や寄贈する前に許可を得ることを義務付けているのです。

 ただし、この政策は前述の国々独特のものではありません。最近の例として、ドイツによる榴弾砲をめぐる失敗が挙げられます。

 エストニアが2000年代後半にフィンランドから入手した「D-30」榴弾砲9門をウクライナに供与しようとした際には、ドイツ政府の許可を得るなければなりませんでした。そもそもこの「D-30」自体が旧東ドイツからドイツが受け継ぎ、フィンランドに供給していたものだったためです。

 ウクライナに危険が迫っているにもかかわらず、ドイツはロシアを刺激してはいけないという無駄なことに尽力していたため、2月下旬まで供与の許可を出すことを拒否する自体が続きました。[3]

ドイツ軍の「スパイク-LR」ATGM。ドイツ政府は少なくとも2022年3月初頭からこうした高度なATGMをウクライナへ供与する許可を求めていますが、今のところ実現していません。

 その一方でイスラエルは、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の前後や戦争中におけるアゼルバイジャンのような紛争当事国に「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)から徘徊兵器、さらには弾道ミサイルまで何でも供給することについて、ほとんど躊躇していなかったように見えます。

 実際、アゼルバイジャンの勝利はトルコ製の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の活躍だけに起因があるとされることが多いですが、この戦争では(徘徊兵器を含む)イスラエル製の武器もTB2とほぼ同等の重要な役割を果たしました。

 現時点でアゼルバイジャンが運用している21種類のUAVのうち19種類以上がイスラエル製(90%)であり、トルコ製はたった2種類(14%)にすぎません。[4] [5] [6]
 
 2014年にウクライナが同様にイスラエル製UAVを導入しようと試みた際、イスラエル政府はロシアの圧力を受け、結果的に同国の「エアロノーティクス」社はウクライナとの取引の中止を余儀なくされてしまいました。[7]

 その僅か数年前の2009年には、イスラエルの「IAI」社がロシアに多数の「サーチャーII」無人偵察機を供給し、「フォルポスト」という名称でそれらの組み立てと最終的な製造ライセンスをロシア側に与えました。そして、ロシア空軍は後日にこれらの大部分を武装ドローンに改造し、ウクライナ侵攻作戦で投入したことが知られています。[8] 

 ウクライナからしてみれば、イスラエルの無人機を調達できない一方でイスラエルが設計した無人機が投下した爆弾を受ける側となっているわけですから、ひどく腹立たしい状態にあることには間違いないでしょう。

今やウクライナ軍への攻撃に使用されるイスラエル起源の「フォルポスト-R」UCAV

 2014年にウクライナへの無人偵察機の販売を拒絶をしたことは、同年からイスラエルがウクライナに事実上の武器禁輸を課したことの始まりを示しました。

 その年以来、イスラエルは自国製兵器の納入に関する全てのウクライナからの要請を断ってきました。これにはウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのウクライナ侵攻の前後で繰り返し求めていた、「スパイク」ATGMと「アイアンドーム」防空システムが含まれています。[7] [9]

 ロシアがウクライナに侵攻した後の今でさえ、ポーランド・イタリア・ドイツ・アメリカがウクライナ軍にイスラエル製の「スパイク」ATGMを供与することに関する許可を求めた場合も、イスラエル政府から否定的な反応が返ってくることが十分に予想されます。

 伝えられているところによれば、イスラエルが供与の承諾をしたがらない理由は、そのような動きがロシアとの関係に悪影響を及ぼすことに対する懸念にあるとのことです。具体的には、イスラエルは自国製兵器によってロシア兵が殺害されることがシリアにおける同国の安全保障上の利益をロシアが害することに至る可能性を懸念しているのです。[10]

 また、イスラエルは仲介役として行動できるようにするべく今次戦争では中立を保つことを望んでいるようです。[11]

 ただし、ロシアはイスラエルによる挑発を避けるための慎重な取り組みを手本にすることにはほとんど関心がないようであり、外相のセルゲイ・ラブロフが「ヒトラーはユダヤ系である」旨を主張してイスラエルで激しい反発を引き起こしてたことは記憶に新しいでしょう。[12] 

 自国の戦略について、イスラエルの政策立案者は間違いなく入念に計画されたものを考え出したとみなしていますが、武器供与禁止策もある程度はロシアに対する恐怖に基づいた政策でもあると理解するにはそれほど困難なことではありません。

 皮肉なことに、複数回の和平交渉を主催し、仲介役として主導的な役割を担ってきたのはトルコです。イスラエルと同様にトルコもロシアとの強固な関係の維持に向けて多大な努力を払っている一方で、同国はすでにロシアの支援を受けている組織や支援の拡大が予想される組織からの内外の脅威に直面しています。

 それにもかかわらず、トルコはウクライナへの関与に熱心であり、ロシアからの侵略の脅威が国全体に強く迫ってきたマイダン革命後の年月を通じてウクライナとの友好を強固なものにしてきたのです。

 トルコによるウクライナへの軍事援助はどの国よりも最も価値のあるものと言えます。トルコが納入したUCAVはロシア国内の目標に対する攻撃に使われ、ロシア海軍の艦艇を沈め、黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」の撃沈を支援したことまであるのです 。[13] [14]

ウクライナ上空で撃墜されたロシアの「フォルポスト」無人偵察機から見つかったイスラエル製部品(3月11日)

 イスラエルによるウクライナへの軍事援助の拒絶や他国による自国製兵器を用いた軍事援助も許可しないことは、イスラエルが自国への侵略に直面した際に西側諸国の多くが味方に付き、補給を維持するために大規模な航空輸送を実施し、イスラエル兵のために献血運動を行ったという歴史的な援助とは明らかに著しく相反したものであると言えます。 

 もちろん、イスラエルが西側諸国の人々からこれほど強い支持と共感を期待できる時代はとっくに過ぎ去っています。そして、世界はイスラエルの怠惰とウクライナへの支援に対する意図的な妨害行為を忘れることはあり得ないでしょう。
 
 ラトビアのアルティス・パブリクス副首相兼国防大臣は、ウクライナにおける情勢があるにもかかわらずイスラエルが自国製兵器のエンドユーザーに関する制限を厳守していることについて、将来的に同国の兵器システムの調達に悪影響が及ぶであろうことをすでに認めています。

 このようなラトビアの反応は、ウクライナの窮状には同情していても、生存をかけた重大な闘いにおいてウクライナを少しも助けることにはならないことは言うまでもないでしょう。[15]



2022年2月以前にイスラエルによって阻止されたウクライナへの武器供与または販売


2022年2月以降にイスラエルによって阻止されたウクライナへの武器供与

[1] Beyond The Call - Dutch Arms Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/beyond-call-dutch-arms-deliveries-to.html
[2] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[3] Germany to send Ukraine weapons in historic shift on military aid https://www.politico.eu/article/ukraine-war-russia-germany-still-blocking-arms-supplies/
[4] Convenient Ignorance: The U.S. Senate’s Approach To Israeli Arms Sales To Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/convenient-ignorance-us-senates.html
[5] American Duplicity: Who In Washington Is Targeting Turkey’s Drone Programme? And Why? https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/american-duplicity-who-in-washington-is.html
[6] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[7] Israel treads a narrow tightrope, says no to Spike for Ukraine https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/israel-treads-a-narrow-tightrope-says-no-to-spike/
[8] Nascent Capabilities: Russian Armed Drones Over Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/nascent-capabilities-russian-armed.html
[9] The Problems with a Ukrainian ‘Iron Dome’ https://www.nationalreview.com/the-morning-jolt/the-problems-with-a-ukrainian-iron-dome/
[10] Israel refused US request to transfer anti-tank missiles to Ukraine — report https://www.timesofisrael.com/israel-refused-us-request-to-transfer-anti-tank-missiles-to-ukraine-report/
[11] Why Israel Refused to Help Ukraine Defend Itself From Russian Missiles https://theintercept.com/2022/03/23/ukraine-russia-peace-negotiations-israel/
[12] Israel outrage at Sergei Lavrov's claim that Hitler was part Jewish https://www.bbc.com/news/world-middle-east-61296682
[13] Defending Ukraine - Listing Russian Military Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html
[14] Neptune’s Wrath: The Flagship Moskva’s Demise https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/neptunes-wrath-flagship-moskvas-demise.html
[15] https://twitter.com/Pabriks/status/1532034118061522945

 ※  この記事は、2022年6月10日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



おすすめの記事