2023年6月2日金曜日

勝利を手にした後で:タリバン空軍の現況


著:ルーカス・ミュラー in collaboration with ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 この記事は、(西側諸国では一般的に「タリバン空軍」として知られている)アフガニスタン・イスラム首長国空軍(IEAF)の発展を要約し、「タリバン空軍のパイロットは誰なのか?」「タリバンはどのような航空機を運用しているのか?」「どのようにしてこれらの航空機を維持することができているのか?」といった頻繁に聞かれる質問に回答することを試みたものです。IEAFの保有戦力に関する評価については、こちらの記事をご覧ください。
 
 2021年は、アフガニスタンの歴史に大激変をもたらしました。

 タリバンと(当時の)アフガニスタン政府との間での和平と対話がなされることを条件にアメリカが駐留している軍部隊を撤退させることを約束したドーハ合意が結ばれた後、タリバンはアフガン軍(ANA)対して大規模な攻勢を開始したのです。

 数か月の間にかけて繰り広げられた戦闘の後に多くのANA部隊が降伏や逃亡し、残存する部隊が激しくも無駄な抵抗を続けましたが、 勝利を得たタリバンが首都カブールに突入した2021年8月15日にアフガニスタン・イスラム共和国の存在が突如として終焉を迎える結果となったことは皆さんの記憶に新しいことでしょう。

 多くの人が驚いたことに、これらの出来事の僅か数日後にはタリバンがアメリカ製の「UH-60 "ブラックホーク"」ヘリコプターを含む元アフガン空軍(AAF)機を飛ばしている姿が目撃されました。

 当初は実現する可能性が極めて低いと考えられていたことが、やがて現実となりました:タリバンは2021年夏に無傷で鹵獲した飛行機やヘリコプターの運用を開始しただけでなく、損傷したり保管状態にあった機体を修理することさえできたのです。

 2022年を通じて、タリバンが創設したイスラム首長国空軍(正式名称:IEAF)の運用機数は徐々に増加傾向にあるようにさえ見受けられます。

ヘラート市上空を飛行する「Mi-17V5 "733番機"」:側面のスライドドアから小さなタリバンの旗が突き出されている様子が見える(2021年8月)

 おそらく多くの人が抱いていた最も注目すべき質問は、「これまで主にシンプルな武器しか用いてこなかったタリバンという過激派運動(組織)が、どのようにして新たに鹵獲した航空戦力の操縦方法を学習したのか」ということではないでしょうか?

 意外にも、その答えは簡単なものでした: 過去のアフガニスタンで何度かあったように、(内乱や権力闘争で)政権交代が発生した時にアフガン空軍の一部が勝利した側に付くという単純なものだったわけです。今回はその勝者がタリバンだったということに過ぎません。

バグラム空軍基地でソ連で訓練を受けたアフガン空軍パイロットがアフマド・シャー・マスードのムジャヒディンと一緒に「Mi-25 "ハインド"」ヘリコプターを試験している際の一コマ(1992年):政権の崩壊後にバグラムの全駐留部隊がマスードに味方し、ムジャヒディンに数十機もの航空機を提供した。その29年後にAAF隊員の一部がタリバンに味方することで、この歴史は繰り返されたのである

ボロボロの空軍?

 アメリカがアフガニスタンからの撤退を開始してから数か月のうちに、アフガニスタン空軍は急速に衰退し始めました。空軍を維持するために本当に必要な防衛請負業者の多くもこの国から去り始め、今やアフガニスタンの軍人に頼らざるを得なくなった部隊が以前のような運用のペースを保てないことが早くも露呈してしまったのです。

 どうも2021年の最初の数か月ですでに稼働機数が減少し始めたらしく、2021年6月には空軍飛行隊の作戦即応性は以前の戦力のたった30%までに低下したと報じられています。[1]

 ただし、この時点でまだ創設されていなかった「タリバン空軍」にとって、AAF機の作戦即応性の低下は最も影響の低い問題にとどまるものであったことは間違いありません。

 IEAFの規模と作戦能力について、その設立初期から大幅な低下を余儀なくされた2つの出来事がありました。まずは、タリバン軍がカブール市内に突入してANA最後の残存部隊が瓦解していく中、有志連合軍の管理下にあったカブール国際空港に拠点を置くAAFのパイロットたちが「大脱走」を敢行し、国内に存在する航空機の数を大幅に減少させてしまったことが挙げられます。

 報道によれば、最低でも46機がウズベキスタンのテルメズ空港への脱出に成功し、さらに18機がタジキスタン領内に着陸したとのことです。これらの機体には500人以上のパイロットや空軍兵士らが搭乗していた一方で、その他の多くのパイロットや整備士たちは国内に潜伏し、陸路を通じてアフガニスタンから逃げ出しました。

 このようにして、アフガニスタンに残された航空機の数は60以上も低下した上にパイロットや整備士も数百人規模で減ってしまいました。

 二つ目の打撃は、撤退する直前のアメリカ軍による破壊工作です。約100人の兵士から構成されたチームが、カブール国際空港に残存している全てのAAF機を見つけ出して使用不能にする任務を負っていたのです。このチームは爆薬の使用が許可されなかったため、大槌やそれに準じた道具を使って任務を完遂することが求められました。

 その後の取材で、部隊長のフランク・ケスラー少佐は自身の部隊が73機のAAF機を見つけ出したと証言したものの、どの程度の機体を実際に使用不能にできたのかは詳細に語っていません。それでも、入手できた画像や映像といった資料の検証結果を踏まえると、こうした破壊工作で相当な数の作戦機を飛行不能に追い込んだことは確実と言えます。[2]

 それにもかかわらず、タリバンの高官たちは(勝利からそれ程時間が経たないうちに)この国の空軍を再建する予定であると表明しました。[3] 

 実際、有志連合軍が撤退した直後のカブール空港では国内に残った整備員たちが損傷を受けた機器を修理する姿が見られたほか、タリバン側に忠誠を誓ったパイロットたちが稼働状態にあった数少ない機体を操縦し続けていたのです。また、タリバンは元AAFの兵員に対する恩赦を宣言し、基地へ帰還するように働きかけました。

 2021年8月15日でアフガニスタンにおける軍用航空史が終わりを告げたわけではなく、ある種の空軍がこの国で活動を継続することは(すでに)明らかとなっていましたが、その規模がどの程度で、航空機をどれくらいの期間運用し続けることが可能なのかという疑問は残り続けています。

カブール空港でインドから供与された3機のHAL「チーター」ヘリコプターのうちの1機を修理する整備員たち(2021年11月):その努力の成果は、それから5か月後に運用へ復帰させることに成功するという結果で表れた

過去を振り返る

 2021年8月に発足した新生タリバン空軍は、この過激派運動が前体制から継承して維持することを決めた最初の軍事航空部門というわけではありません。

 タリバンは1994年のカンダハールでの活動開始から程なくして「Mi-8/17」輸送ヘリコプターを使用し始め、その1年後には「MiG-21」戦闘機の運用さえ開始するまでに至っています。

 内戦が激化し、タリバンが敵対勢力からより多くの飛行場を制圧するにつれて(実際、1990年代のアフガニスタンには8~10もの "空軍" や小規模な "航空隊" が乱立していた)、彼らは「Su-22」戦闘爆撃機、「L-39 "アルバトロス"」訓練機、「An-26」輸送機、「Mi-24 "ハインド"」攻撃ヘリコプターといった多岐にわたる種類の航空戦力を掌握し、最終的にアフガン内戦の全当事者内で最大の航空戦力を誇る運用者となりました。

 ここで重要なのは、入手可能なあらゆる情報源によると、1990年代から2000年代初頭にかけて存在した旧タリバン空軍が、前体制などから転向してこの過激派運動に参加した「アフガニスタン人」の兵員だけに依存していたという点でしょう。

 外国人の傭兵や義勇兵がタリバンのために飛行機を飛ばしているという憶測については、現時点でその全てが根拠のない噂であることが証明されています。それでも、少数の外国人パイロットや整備員の存在を完全に否定することはできません。

 しかしながら、そもそもタリバンがなぜ外国人の助けを必要とするのかが不明です。というのも、1970年代におけるアフガニスタン空軍の規模は1979年のソ連による侵攻開始後はさらに拡大し、共産主義政府(アフガニスタン人民民主党政権)がムジャヒディンと十分に戦える強力で実用的な対反乱軍を創設するべく、ソ連から届けられた数百機の航空機に何千人もの新人パイロットや整備員が配属されていたからです。

 したがって、1992年の共産主義政権の崩壊後にはパイロットや整備員、さらにレーダー操作員を含むあらゆる種類の軍事的なスペシャリストたちが比較的大規模に溢れていたことから、彼らが紛争当事者に簡単に活用されたことは特に驚くようなことではありません。

 現在のアフガニスタンも似たような状況です:つまり、多くの元軍人が海外へ逃れたり、身を隠したりしている一方で、首都にどのような政府が居座ろうと自身の任務を継続する者もいます。

2021年以降におけるタリバン空軍の戦闘序列
 
 アメリカの訓練指導支援コマンド-エア(TAAC-Air)は、2020年12月の時点でAAFが167機を保有し、そのうち136機が稼働状態にあると報告しています。

 AAFのパイロットとその愛機が「大脱走」した上にハンマーで叩き回るアメリカ軍によって生じた被害で、アフガニスタンの新たな支配者が使用できる航空機の数が著しく減少してしまったことは先述のとおりです。

 体制崩壊に伴う状況が落ち着いてから数か月後、タリバン政権は全国各地の空港に散らばっている航空機のリスト化するを任務とする委員会を創設しました。2022年1月にタリバンがリリースした報告によれば、IEAFは合計で81機の各種機体を保有しており、そのうち41機が稼働状態にあるとのことです。[4]

この塗装されたばかりのアントノフ「An-32 "350番機」"はまさに正真正銘の「生き残り」である:80年代後半から90年代前半にソ連からアフガニスタンの共産主義政権へ引き渡されたこの機体は、1992年にマスードの軍に鹵獲され、1996年にはタリバンの鹵獲から逃れるべく彼らのパイロットがウズベキスタンまで飛ばした...そしてウズベキスタン当局は同機を没収して(反タリバン勢力である)ドスタム将軍に寄贈し、それ以降の5年間は彼の空軍によって使用された。2001年の有志連合軍の侵攻とタリバンの敗北後、ドスタム将軍は本機を新設されたAAFに譲渡したが、最終的には2021年8月にタリバンに鹵獲されるに至った。つまり、この「An-32」は今までに5つの異なる空軍で運用されていることになるわけだ。

 外の世界から見てはっきりしなかったのは、「IEAFが残存する航空戦力をどの程度維持できるのか」ということでした。

 TAAC-Airのレポートによれば、航空機の整備に関するAAF部隊員の能力については、機体によって相当のばらつきがあったとのことです: これによると、アフガン人が「UH-60」と「C-130」を自力で整備する能力はゼロ(海外の防衛請負業者が100%整備)、「A-29」と「C-208」については中レベルの整備能力(自身で一定の整備が可能)であり、段階的に退役して完全に「UH-60」に置き換えられる予定だった「Mi-17」と「Mi-171」に関しては完全に自力で整備可能とのことでした。

 残念ながら、このレポートは「Mi-24」やその他の旧ソ連製の機体について言及していません。

 この評価を踏まえると、IEAFの部隊員が実際に航空機を修理や整備する能力は相当意外なものでした。なぜならば、(主に画像や映像によるエビデンスと複数のメディアによる報道といった)さまざまな情報源に基づくと、2021年8月から2022年8月の間にかけて実際に飛行している姿を目撃された個々のIEAF機の数が間違いなく減少していなかったからです。

 それどころか、IEAFの整備員たちはカブールでアメリカ軍によって損傷を被った機体の修理に成功しただけでなく、長い間保管状態にあって何年も飛行していなかった古いソ連製の機体を復活させることにも成功しています。

 2022年6月には、アフガニスタン国防省の報道官はIEAFが50機以上の運用可能な機体を保有していると延べました。[5] 

 ただし、アメリカ情報当局のレポートによると、アフガニスタンの整備員は稼働機の状態を維持させるために、非稼働の機体を共食い整備用として使用する必要があるとのことです。 

タリバンの部隊が「Mi-17」ヘリコプターに乗り込む様子: 「Mi-8MTV/Mi-17/Mi-17V5」はIEAFの主力機であり、全国の基地から作戦飛行を実施している

 依然として今でも不明なのは、IEAFの兵員数です。特にパイロットの数がはっきりとしていません。彼らの中にはタリバンがアフガニスタンを再征服した直後も決して退役せずに飛行を続けた者もいた一方、大半は潜伏や国外に逃亡するなどしたため、結局は僅かしか戻ってきていないようです。

 恩赦の布告を受けて33人のパイロットを含む少なくとも4,300人の元AAF部隊員がIEAFに加わったとタリバンの司令官が主張していますが、国外に脱出せずに残った者を含めた総兵力は不明のままとなっています。

この旧AAFパイロットは今ではタリバン空軍の一員として空を飛んでいる

 IEAFが発足してから1年間で確認された墜落事故は3件です(詳細は以下のとおり)。
  1. 2022年1月に「MD-530」のパイロットがカンダハール市付近で墜落・水没
  2. 同年6月に輸送ヘリコプター(おそらく「Mi-8MTV-1」または「Mi-17V5」)がジョウズジャーン州で墜落、
  3. 同年9月に「UH-60」1機がカブール近くで訓練飛行中に墜落[6] [7] 
 「MD-530F」が墜落した原因としてはパイロットのヒューマンエラーが最も可能性の高いと思われますが、国防省は残る2つの墜落の原因は技術的な問題であると声明を出しました (注:2023年5月にはマザーリシャリーフ近郊で電線に接触した1機の「MD-530F」が墜落して乗員が殉職した旨をアフガニスタン国防省が発表しています)。   

 これらの事故に加えて、1機の「Mi-8MTV-1」がパンジシール州で反タリバン組織の「民族抵抗戦線(NRF)」から銃撃を受けて緊急着陸を余儀なくされたケースもありました。[8]

タリバンは「C-130H "ハーキュリーズ" 」1機の修理に成功したと誇らしげに主張しているものの、同機が実際に飛行可能であることを実証する画像や映像を含めた証拠は一つも存在しない:この画像が示すように、少なくとも地上では訓練や式典用の道具としての役割を担っている

 いずれにせよ、タリバン当局が主張する運用機数は割引いて考える必要があるでしょう。
というのも、実際に飛行していない機体の一定数についても彼らがほぼ間違いなく「運用可能」または「飛行可能」としてカウントしているからです。

 特に、マザーリシャリーフを拠点とする「A-29 "スーパーツカノ"」のケースは私たちに疑問を投げかけています。

 知られている限りでは、2021年8月にそこから脱出を企てたAAFのパイロットたちはタリバンが基地のゲートに到着する前の文字通り「最後の瞬間」にそれをやってのけたおかげで残存機に対する破壊工作が不発に終わったことで、この基地の「A-29」は劇的な出来事から無傷で生き残ったようです。

 ただし、この基地に残された「A-29」については一度も飛行する様子が目撃されていません(注:2023年5月にアフガン国防省が同機のエンジンを始動させる映像を公開しましたが、飛行段階には進んでいないように見受けられます。)

 テレビカメラの前で自身の航空戦力を披露することに熱心で知られており、可能ならば間違いなく "ホット"な「A-29」を躊躇せずに取り上げるはずのIEAFがそうしない理由については、単にこの飛行機を操縦する資格があるパイロットが存在しないためなのかもしれません。 

マザーリシャーリフを拠点とする2機の「A-29」攻撃機(2021年11月):両機は無傷の状態であると思われるが、タリバンが所有して以降は飛行していないようだ

 タリバンが勝利を手にして以来、ある程度の当局者がウズベキスタンやタジキスタンに対して双方に逃れた機体の返還を要求しています。当然ながら、これらの要求は無駄であることが証明されました:この2か国がタリバンの要求を受け入れる代わりに、将来のある時点で自国に逃れてきた機体を自身の空軍に追加する可能性が高いでしょう。[9] [10]

 同様に、タリバンがカブールに入城した時点でまだアメリカ国内にあった「Mi-17V5」もアフガニスタンに戻されることはありませんでした。これについては、交渉の後にアメリカが戦火の最中にあるウクライナへ提供する膨大な軍事援助パッケージの一部として、これらのヘリコプターをウクライナ空軍に寄贈したことで広く知られています。[11]

IEAFの最高司令官であるマウラヴィ・アマヌディーン・マンスール:彼は1995年から2001年の時代に存在した「最初の」タリバン空軍の司令官を務めたアフタル・ムハンマド・マンスールの息子である

 2021年の戦勝以前に、すでにタリバンの特殊部隊は効果的な対人兵器であることを実証した軍事用途に改修された商用ドローンを数多く運用していたことは注目に値します。[12] 

 アフガニスタン・イスラム共和国の崩壊の結果として、タリバンは(数量不明ながらも)ANAが使用していたアメリカ製のボーイング・インシツ「スキャンイーグル2」無人偵察機を入手しました。

 2022年5月にオンライン上で公開された映像によると、クンドゥズの陸軍第217オマリ軍団は、実際に少なくとも1機の「スキャンイーグル2」を飛行状態へ戻すことに成功しています。[13] 

 ただし、鹵獲したこの無人機をタリバンが効果的かつ集中的に運用しているかは、依然として分かっていません。

クンドゥズで撮影された旧アフガン陸軍の「スキャンイーグル2」無人偵察機(2022年5月)

 IEAFが数多くの航空機とヘリコプターを運用しているものの、この国には有用な防空戦力が完全に欠け落ちたままです。

 過去20年間も航空機の脅威がもたらされる可能性が低いままだったおかげでアフガニスタン・イスラム共和国における防空戦力の復活は最も優先度が低いものとなり、この国の軍の再建に携わった有志連合諸国が対反乱作戦能力の構築を第一にリソースを集中させたことが原因にあることは言うまでもないでしょう。

 近年におけるアフガニスタンの対空兵装は、どこにでも見られるような「DShK」12.7mm重機関銃や「ZU-23-2」23mm対空機関砲や「ZPU-1/2」14.5mm対空機関砲、そして少数の「M-1939 (61-K)」37mm対空機関砲と「AZP S-60」57mm対空機関砲だけしかありません(注:2001年以降でもタリバンが携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)を入手した画像が見られましたが、その殆どがソ連侵攻の際に海外から供与されたものと思われるために実際には使用不可であると考えられています)。

「M1152 "ハンヴィー"」に搭載された「ZU-23」23mm対空機関砲: アフガニスタンでは基本的に対地射撃用として使用されている

旧式の「M-1939 (61-K)」37mm対空機関砲:今でもガルデーズ駐屯地で維持されているようだ

絶え間なく動きがあった一年間
 
 IEAFの全体的な動きがAAFの能力よりも格段と低いものだったことは一目瞭然ですが、彼らが決して怠慢だったわけではありません:タリバンの固定翼機とヘリコプターが兵員や物資の輸送で日常的に使用されているほか、数多くの演習や軍事パレードに参加したり、少なくとも北部における反タリバン勢力の制圧作戦で限定的に投入されていることが入手可能なエビデンスによって示唆されています。

 特に勝利してからの最初の数週間、タリバンはより良い状態で生き残っている機体向けの予備部品の供給源として活用する目的のため、損傷した機体をかき集めることで多忙を極めていたのでした。

 例えば、2021年9月には少なくとも「UH-60」1機と損傷した「MD-530」1機がガズニからカンダハールへ陸送されたほか、タリバンが鹵獲した際に大きな損傷を受けた(NRFの)ヘリコプター数機がパンジシール渓谷からカブールまで輸送されています(この反タリバン勢力からの鹵獲は数少ない事例であり、タリバンの戦闘員は基本的に鹵獲した機体へ手を出さないように統制が取れていた模様です)。 

このカブールに拠点を置く「ブラックホーク」は警察特殊部隊総司令部の隊員たちの訓練に用いられている

バグラム空軍基地での軍事パレードでフライパスをする4機のIEAF 「Mi-24」のうちの1機 (2022年8月): 同機は2016年にアフガニスタンへ寄贈された旧インド空軍機である

 2022 年を通して、IEAF は何度も災害救援活動に投入されました。

 アフガニスタンの広範囲にわたる地域が洪水や地震で被災し、「Mi-8MTV-1」や「Mi-17V5」、そして「UH-60」が取り残された人々を救助したり、救援物資を空輸しました。[14]

  IEAFがこのような任務に「UH-60」すら用いているという事実は、人々にある疑問を提起させます。つまり、この機種の整備が見かけ上は問題とされていないのか – あるいは(運用に責任を持つ者たちが)単にいつの日か事故が発生することから逃れられないことを見込んで運用されているのか、ということです。

 入手可能なエビデンスは、IEAFによる最も活発なフライトがカブールとマザーリシャリーフ、それにカンダハール空港で実施されていることを示しています。なお、シーンダンド及びバグラム空軍基地、ヘラート空港の状況については、現在もはっきりとしていません。

カブール国際空港でのIEAFのパイロットたちとタリバンの指導者たち(2022年8月):背後にセスナ「C-208B/AC-208」 が見える

機体の塗装とマーキング
 
 IAEFの機体は数機の除いた全てが2021年以前の旧アフガン空軍の迷彩塗装を維持していますが、唯一の例外は輸送機の「An-32」3機と「An-26」1機であり、これらは2022年夏にカブール空港でオーバーホールされた際に再塗装されました。

 また、各機体はAAF時代のシリアルナンバーが残された状態で運用され続けています。

「An-26」の前部胴体:最近にこの機体は完全に再塗装されて運用に復帰した

 体制転換後、タリバンはアフガニスタンの国章を若干変更しました: これに伴ってIEAF機はタリバンのエンブレムや白いタリバンの旗(現在はアフガニスタン・イスラム首長国の国旗)が施されました。一部の機体は早くも1960年代に導入された(AAFの)伝統的な三角形のラウンデルを施されたままですが。


カブールを拠点としている「UH-60A+ "ブラックホーク"」の1機:タリバンの旗と今や古くなったAAF時代のラウンデルの双方が施されている

この「UH-60」はラウンデルとしてタリバンのエンブレムが施されている

まとめ

 2021年8月、タリバンは(著しく劣化したとはいえ)十分に機能している航空戦力をパイロット・整備員・後方支援システム・施設と共に引き継ぎました。

 アメリカから装備や財政支援を受けたアフガン空軍の要員たちはタリバンの支配下にあっても自国に奉仕し続ける意思があり、ほとんど平和的な環境の中でそれを実現できたと言っても過言ではありません。

 一般的な予想に反してIEAFの稼働機数は増加しているだけにように見えますが、その安全性や摩耗損失に対する長期的な復元力についての不確実性が残されたままです。

 IEAFが近隣諸国の航空戦力には及ばないことは確実ですが、国内各地へ物資を輸送したり兵員や高官を移動させる利便性の高いツールや、現在も続く(数少ない)反タリバン勢力との戦いにおける貴重なアセットとして重宝され続けることになるでしょう。


[1] 25% of Afghan Air Force Fled, Remainder in Disarray, Sources Say https://www.airforcemag.com/afghan-air-force-fled-remainder-in-disarray-sources-say/
[2] Special Report: Pilots detail chaotic collapse of the Afghan Air Force https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/pilots-detail-chaotic-collapse-afghan-air-force-2021-12-29/
[3] Taliban express their intention to build their own Air Force in Afghanistan https://www.hindustantimes.com/world-news/taliban-express-their-intention-to-build-their-own-air-force-in-afghanistan-101636276230161.html
[4] Officials: 81 Military Aircraft of Ex-Govt Remain, 41 Operational https://tolonews.com/afghanistan-176177
[5] MoD Repairs Two Military Aircraft https://tolonews.com/afghanistan-178417
[6] Taliban helicopter crashed in Kandahar province Afghanistan سقوط یک هلیکوپتر طالبان در ولایت کندهار https://youtu.be/z8XMd3UDFB4
[7] Black Hawk Helicopter Crashes During Taliban Training Exercise, Killing 3 https://www.voanews.com/a/black-hawk-helicopter-crashes-during-taliban-training-exercise-killing-3/6739460.html
[8] https://twitter.com/TajudenSoroush/status/1537852178349555712
[9] Taliban Demand Uzbekistan, Tajikistan Return Dozens of Afghan Aircraft https://www.voanews.com/a/taliban-demand-uzbekistan-tajikistan-return-dozens-of-afghan-aircraft/6392629.html
[10] U.S. may let Tajikistan hold on to fleeing Afghan aircraft https://www.reuters.com/world/us-may-let-tajikistan-hold-fleeing-afghan-aircraft-2022-06-20/
[11] Transfer of US-Procured Afghan Helicopters to Ukraine Underway https://www.voanews.com/a/transfer-of-us-procured-afghan-helicopters-to-ukraine-underway-/6556878.html
[12] The Drone Unit that Helped the Taliban Win the War https://newlinesmag.com/reportage/the-drone-unit-that-helped-the-taliban-win-the-war/
[13] Scan Eagle servilance dron tested by Afghan Taliban (IEA) in kundoz province https://youtu.be/HsvEQMCYndo
[14] https://twitter.com/samimjan199/status/1563526795713949698

※  当記事は、2022年11月4日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。



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2023年5月27日土曜日

新時代の幕開け:チェコが導入を計画したイスラエル製UAV


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

※ 2023年5月、チェコ軍はイスラエルから「ヘロンⅠ」3機の購入をキャンセルして小型無人機200機を調達する方針を公表しましたしたがってこの記事の情報が現状とそぐわなくなりますことをご承知ください(ただし、チェコ軍は同時に将来的には大型機導入の方針も示しているため、今後の参考となるかもしれません)。

 チェコ軍は、冷戦時代から生き残っている装備の大部分を最終的に現代的な西側製装備に置き換えるという大規模な変革を実施する予定となっています。

 この構想には「レオパルト2A7」戦車 や「CV90 MkIV」歩兵戦闘車、「カエサル 8x8」自走砲 、「スパイダーMR」地対空ミサイルシステム、「AH-1Z」攻撃ヘリコプター、そして最大24機の「F-35」ステルス戦闘機などの兵器の導入が含まれており、その結果として、チェコ共和国は極めて有能で十分に装備が調えられた軍隊を保有することになるでしょう。

 最近報じられたイスラエルからチェコ空軍用に3機の「ヘロンI」 U(C)AVを導入する件は、前述のすでに高度な能力をさらに発展させることになるでしょう。もちろん、これら全てに相当なコストが伴うことは言うまでもありません。

 チェコがイスラエルの「ヘロン」を選んだことは、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアといった近隣諸国とは大きく異なっています。

 ポーランドは2021年5月に合計で24機の「バイラクタルTB2」を発注し、最初の引き渡しは今年の末になると予想されています。同様に、ルーマニアも近いうちに18機のTB2を発注する予定であり、スロバキアもTB2導入の意向を示しています。[1][2] 

 ハンガリーは2021年11月にトルコのレンタテク製「カライェル-SU」トライアルを実施しましたが、その後にTB2の導入にも関心を示すようになりました。[3] 

 その一方で、ドイツは長年にわたって武装ドローンの使用を拒み続けてきた後、2022年に保有する「ヘロン」UAVの能力を強化して対地攻撃能力を付与することを決定しました。[4]

 チェコ空軍はドイツと同じように「ヘロン」の武装化に専念しているようですが、計画されている3機のUAVの導入だけでは持続的な軍事作戦には不十分です。また、提示された1億1000万ドル(約160億円)という調達価格についても、たった3機のUAVが実現できる機能でその高価さを正当化することは厳しいでしょう。[5] 

 これに対し、ポーランドは2021年5月にTB2を24機を、地上管制ステーション、武装、予備部品込みで2億7000万ドル(約390億円)で購入しました。[1] 

 TB2の輸出価格は1機あたり500万ドル(約7.2億円)と推定されています。パッケージ価格が1000万ドル(約14.4億円)だと仮定した場合、「バイラクタルTB2」 1機はチェコ国防省が(売買契約が成立した際に)「ヘロン」に支払うことになる金額より3.5倍以上も安いことになるのです。 

 チェコ国防省は、「イスラエル航空宇宙産業(IAI)」の「ヘロンI」に決定する以前に、多くの国のいくつかのメーカーに打診したことを明らかにしています。[5]

 「ヘロン」導入の決定には、同機のCOMINT(通信情報収集)及びELINT(電子情報収集)のペイロード能力が極めて重要な役割を果たした可能性がありますが、チェコ国防省はイスラエルとの契約について、「IAIが最低でも契約した事業の30%をチェコの防衛産業に関与させる案を提示した場合にのみ締結される」と付け加えたのです。[5] 

 IAIがどのようにしてこれを実現しようとするのかは不明ですが、チェコの防衛産業がたった3機のUAVの生産に30%も関与することは、結論から言えば、少々馬鹿げた提案としか言いようがありません。


 現在、チェコはアメリカから導入した小型のエアロバイロメント製「RQ-11B "レイブン"」及び「RQ-12 "ワスプAE"」、そしてボーイング・インシツ製「スキャンイーグル」無人偵察機を運用しています。

 チェコ軍は、アフガニスタンにおけるNATO主導の多国籍軍の任務に対する貢献の一環として、「RQ-11B」と「スキャンイーグル」の両方をアフガニスタンに配備したことがあります。

 チェコが「ヘロン」を自国の防衛を強化するのではなく、将来的に同様の国際的な任務に用いることを思い描いていると考えられなくもないでしょう。

 実際にチェコ陸軍は、「選定されたシステム(ヘロン)は陸軍内で想定される用途に最も密接に調和しており、訓練の一環としてのチェコ領土内で、または海外での作戦における支援部隊の一部として投入される可能性があるものの、その双方の本格的な使用で将来的に必要とされる要件を満たしています。」と明言しているのです。[6]



 イスラエルから3機の「ヘロン」システムを導入することはチェコにおける無人機運用史に新たな章の始まりを告げることになるもしれませんが、総額で1億1,000万ドルの価格を考慮すると、この章は書かれるその各1文字が非常に高価なものになるのは間違いないでしょう。

 近隣諸国が小型ではあるものの運用面で類似したUCAVの大量調達をする動きを強めていることから、チェコの防衛産業を関与させるという同様の買収目標を通じて(同国のUCAV運用が)より現実的に達成することが可能である一方で、望ましいレベルのNATO統合化を達成が可能と主張することができます(注:近隣諸国と同様にTB2などの安価かつ自由度の高いUCAVを導入することは格段に安いコストで国内産業を関与しつつNATO諸国のUCAVをある程度共通化することに寄与するということ)。

 イスラエルとの契約が無事に完了するかどうかにかかわらず、チェコの軍隊がこの先の10年で、これまでとは全く異なる存在になることを疑う余地はありません。



[1] Looking behind Poland's purchase of Turkish drones https://learngerman.dw.com/en/poland-continues-to-draw-eu-nato-ire-over-turkish-drone-purchases/a-57775109
[2] Slovakia considers Bayraktar buy from Turkey https://www.janes.com/defence-news/news-detail/slovakia-considers-bayraktar-buy-from-turkey
[3] Brutálisan ütőképes Bayraktar harci drónok beszerzését fontolgatja a kormány https://index.hu/belfold/2022/08/19/palkovics-laszlo-torokorszag-dron-bayraktar-magyar-kormany-technologiai-es-ipari-miniszterium
[4] German Coalition Agrees on $166 Million Budget to Arm Drones https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-04-06/german-coalition-agrees-166-million-budget-for-arming-drones
[5] Cena dronů z Izraele nebude 1,5, ale 2,7 miliardy korun https://www.novinky.cz/clanek/domaci-cena-dronu-z-izraele-nebude-15-ale-27-miliardy-korun-40407332
[6] Czech Republic to Purchase Three Heron Drones From Israel https://www.thedefensepost.com/2022/08/09/czech-heron-drones-israel/

※  当記事は、2022年9月15日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。

2023年5月23日火曜日

バトル・オブ・ベルゴロド:2023年の在宇ロシア人部隊によるロシア侵攻で両陣営が喪失した兵器類(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 2023年5月22日、ウクライナ軍と連携するロシアの反乱部隊である「自由ロシア軍団」が、国境を越えてロシアのベルゴロド州に侵入したことが注目を集めています。

 ロシア人義勇兵のみで構成される部隊であるロシア自由軍団は、その後に(3月にブリャンスク州に侵入したとされる別の部隊である)ロシア義勇軍団とともにベルゴロド州のコジンカ村を確保し、その前衛部隊がグレイヴォロンの町に入ったと発表しました。

 ウクライナ政府の高官は、自由ロシア軍団がこの地域で国境を越えて侵入を図ったことを認めたものの、彼らが(ウクライナから)独立して行動していたことを強調しています。[1]

 ロシアのベルゴロド州知事である ヴャチェスラフ・グラトコフは、月曜日に「ウクライナ軍の破壊工作・偵察グループ」が同州のグライヴォロンスキー地区に侵入したと発表しました。そして、彼はテレグラム上で「ロシア軍はもとより、国境警備隊、国家親衛軍、連邦保安庁(FSB)は、敵を排除するために必要な措置を講じています」とも明言しています。[2]

  1. この一連の戦闘で撃破されたり、鹵獲された両陣営の兵器類の詳細な一覧を以下で見ることができます。
  2. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。
  3. 民生車両はこの一覧には含まれていません。 
  4. 新たな損失が確認され次第、この一覧は更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。
  6. 最終更新日:2023年5月24日(本国版は同日午後7時15分ころ)

ロシア (4, このうち撃破:3, 鹵獲: 1)

歩兵戦闘車 (1, このうち鹵獲: 1)

牽引砲 (1, このうち撃破: 1)

各種車両 (2, このうち撃破: 2)


自由ロシア軍団 (8, このうち撃破:2, 鹵獲: 6)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両 (2, このうち鹵獲: 2)


歩兵機動車 (5, このうち撃破: 1, 鹵獲: 4)

各種車両 (1, このうち撃破: 1)
  • 1 いすゞ「TF」ピックアップトラック: (1, 撃破)

[1] Russia accuses Ukraine of mounting ‘sabotage’ attack across border https://edition.cnn.com/2023/05/22/europe/belgorod-ukrainian-forces-russian-territory-intl/index.html
[2] https://twitter.com/Liveuamap/status/1660664784830734338

※  当記事は、2023年5月22日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。


2023年5月17日水曜日

中国海軍の新たな宿敵:台湾が「MQ-9B "シーガーディアン"」導入へ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 一般的に「台湾」と呼称される中華民国は、研究開発と生産能力を保護するために国内の兵器産業へ数十億ドル規模の投資を続けています。

 台湾はすでに大概の兵器システムの設計と生産を自前で行っているか、あるいはそのような能力を確立する方向に順調に進んでいるものの、この国は最大の武器・兵器供給国であるアメリカから依然として定期的に調達をしていることは言うまでもないでしょう。

 最近にアメリカから調達した兵器には、108台の「M1A2T」戦車、29台の「M142 "HIMARS"」高機動ロケット砲システム 、84台の「ATACMS」 戦術地対地ミサイルシステムと864発のミサイル、そして「ハープーン」沿岸防衛システムなどが含まれています(後者の2つは、台湾で設計された同等のシステムと一緒に運用される予定です)。[1] [2]

 2022年8月下旬に、台湾は4機の「MQ-9B "シーガーディアン"」を5億5500万ドル(約834億円)という驚異的な費用で調達する別の契約をアメリカと結びました。[3]

 導入に要する総コストは最終的に約7億ドル(約1052億円)となる見込みであり、機体分を除いたコストは台湾で必要なインフラの整備や「MQ-9B」用の地上管制ステーションを収容する施設の新設、支援機材や訓練に費やされます。[3]

 台湾による「MQ-9B "シーガーディアン"」の購入は、ギリシャが同様に4億ドル(約600億円)という巨額の費用をかけて3機を購入した僅か2か月後のことでした。[4]
 
 台湾は現時点で独自の中高度長時間滞空(MALE)型 UAV計画も進めており、その最新版である「騰雲二型(クラウドライダー2)」は2019年に公開され、当記事が執筆されている2022年10月現在は運用デビュー前の試験が実施されています。

 「クラウドライダー2」と「MQ-9B "シーガーディアン"」のレイアウトは似ていますが、完全に別のクラスの機体です。前者は「MQ-9B "リーパー"」無人戦闘航空機(UCAV)に相当するものですが、後者は「リーパー」をヨーロッパのNATO諸国の要求に合うように設計された「MQ-9B "スカイガーディアン"」の洋上監視/対潜水艦戦(ASW)型なのです。

 もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画ために売り込んだコンセプトから誕生した「シーガーディアン」最大のセールスポイントは、艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることにあります。

 「シーガーディアン」の将来的な改良としては対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良のみならず、今では空母や強襲揚陸艦から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されています。

国家中山科学研究院(NCSIST)の「騰雲二型(クラウドライダー2)」無人(戦闘)航空機

 現在、中華民国海軍は最近に納入された12機の「P-3C」哨戒機(MPA)と24機程度の「S-70C(M)-1/2 "サンダーホーク"」及びヒューズ「500MD/ASW "ディフェンダー"」対潜ヘリコプターを運用しており、これらの航空アセットは、「康定」級「濟陽」級(旧「ノックス」級)と(「オリバー・ハザード・ペリー」級がベースの)「成功」級から成るフリゲート艦隊と共に、急速に近代化と拡大しつつある中国海軍潜水艦部隊に対抗する任務を負っています。

 中国の潜水艦による脅威は年々増大しており、(最新型の)攻撃型及び弾道ミサイル潜水艦が台湾周辺における海域への展開が次第に増えていいます。
 
 確かに多くの人は台湾への直接的な侵攻を最大の脅威とみなしていますが、空軍と海軍による封鎖は台湾を外界から遮断し、中国兵が本島に上陸せずとも台湾政府に将来の国家地位に関する北京の要求を受け入れるよう圧力をかける可能性は高いでしょう。

 その結果として、中華民国は長期にわたる海軍への投資を行っています:8隻の国産潜水艦の建造に加え、今後の10年で老朽化した(1971年に1番艦がアメリカ海軍に就役した)「成功」級フリゲートを置き換える新型の対潜・防空フリゲートを建造する予定です。

 興味深いことに、予算不足と台湾の実際の防衛上の需要に合致しているか否かをめぐる(台湾に非対称戦能力への投資を迫っている)アメリカとの意見の不一致が原因で、11.5億ドル(約1,730億円)で12機の「MH-60R」対潜ヘリコプターを購入する計画は2022年5月にキャンセルされました。[5] [6]

 したがって、最終的に約7.1億ドルの費用をかけて4機の「シーガーディアン」無人偵察機を調達することが台湾の防衛上の需要に沿ったものであるかどうかについて言及されることなくアメリカに承認されたことには、確かに好奇心をそそらされます。

 いずれにせよ、「シーガーディアン」の高度なセンサーシステムと40時間以上を誇る滞空時間が台湾の洋上監視とASW能力を強化することは間違いありません。



 中国海軍潜水艦部隊の脅威は、台湾に本島から遠く離れた海域で行動できる適切なASW戦力の獲得に大きなリソースを向けることを余儀なくさせています。

 先述のとおり、2022年5月に「MH-60R」12機の調達がキャンセルされたものの、「シーガーディアン」4機に関する取引は前進する見通しです。

 当然ながら、この新しい戦力には法外と呼べるほどのコストを要することになりますが、私たちが実際にその価値があるのか否かを決して知ることがないことを願うばかりです(注:中国の侵攻で価値が試されることがないように祈るということ)。

[1] Taiwan to buy 18 more HIMARS from US amid Ukrainian wins https://www.taiwannews.com.tw/en/news/4643514
[2] Taiwan Unveils Two-Phase Anti-Ship Missile Deployment Plan https://www.thedefensepost.com/2022/04/22/taiwan-anti-ship-missile-deployment-plan/
[3] Taiwan Signs $555M Deal With US to Buy Four Sea Guardian Drones https://www.thedefensepost.com/2022/09/08/taiwan-deal-sea-guardian-drones/
[4] ASW At A Premium: Greece Purchases MQ-9B SeaGuardian UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/asw-at-premium-greece-purchases-mq-9b.html
[5] MH-60R chopper purchase likely to be canceled due to price https://focustaiwan.tw/politics/202205050009
[6] MH-60R反潛直升機太貴採購喊停!海軍尋找替代方案 https://www.nownews.com/news/5846978

※  当記事は、2022年10月11日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2023年5月12日金曜日

終わりなき可能性:「バイラクタル・アクンジュ」の豊富な搭載兵装(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 「バイラクタル・アクンジュ」は世界初の量産型多目的無人戦闘航空機(UCAV)です。

 この「アクンジュ」が持つ中で間違いなく最も革新的な特徴は、国産の「ボズドアン」IIR(赤外線画像誘導)式AAMと(撃ち放し式の)「ゴクドアン」BVRAAMといった空対空ミサイル(AAM)の運用能力があることです。

 もう1つの斬新な特徴としては、 敵の指揮所やSAMサイト、そして強化されたブンカーに入った船や精密打撃を要する標的に使用するために開発された、射程が275km以上もある「SOM」巡航ミサイルも運用できることが挙げられます。

 この「SOM」シリーズは、「MAM」、「クズガン」、「テベル」、「LGK(レーザー誘導キット装着爆弾」、「KGK(射程延長用の折りたたみ式主翼・GPS/INS誘導キット装着爆弾)」、「(L)HGK(レーザー及びGPS/INS誘導キット装着爆弾)」なといった精密誘導弾と共に役立つものとなるでしょう。

 これらの誘導爆弾の多くは、自国で設計された誘導キットと国内生産された「Mark-82」、「Mark-83」、そして「Mark-84」無誘導爆弾を組み合わせたものです。

 前述の兵装を搭載するために「アクンジュ」は合計9基のハードポイント:主翼の下に8基と胴体下部に1基が設けられており、後者には「HGK-84」、「NEB-84」、「SOM」巡航ミサイルなど、このUCAVに搭載可能な最重力級の兵装の搭載が想定されています。

注意点

  1. このリストに掲載している兵装のいくつかについては、本稿執筆時点でも開発と(機体との)インテグレートの試験が継続しています。したがって、このリストは各種検証を終えた後の「アクンジュ」が搭載できる兵装の概観と見るべきでしょう。
  2. 列挙している兵装については、①開発企業、②名前、③最大射程距離、④誘導方式、⑤その他参考事項の順に表記しています(省略しているものもあります)。
  3. リストに表示されている兵装名をクリックすると、当該兵装備の画像を見ることができます。
  4. 開発企業・メーカーは略称などがされていますが、制式名称は以下のとおりです。
      ・TÜBİTAK SAGE(トルコ科学技術研究会議・防衛産業研究開発機関)
      ・TAI(トルコ航空宇宙産業)
      ・STM(防衛技術エンジニアリング


空対空ミサイル


巡航ミサイル


徘徊兵器


精密誘導爆型地中貫通爆弾


空対地ミサイル

 「バイラクタル・アクンジュ」の購入に関心を持っている国にとって、これらの全兵装をトルコからダイレクトに調達できるという事実は間違いなく高く評価されることでしょう。

 さらに、このUCAVがNATO規格の兵装に適合しているという事実は、ウクライナ、アゼルバイジャン、パキスタンといった国々が独自に開発・製造された航空機用の兵装を「アクンジュ」とインテグレートすることも可能ということを意味しています。



 特別協力」SR_71TurkishWarNews(敬称略)

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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