2021年11月16日火曜日

ティグレ戦争:エチオピアが「翼竜Ⅰ」UCAV用に「TL-2」ミサイルを導入した



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当ブログは以前に、エチオピアが中国製「翼竜Ⅰ」無人戦闘航空機(UCAV)を導入し、同機がティグレ州の州都であるメケレ市上空で目撃されたことを報じました。[1] [2]

 ティグレ戦争がエチオピア政府にとって徐々に手に負えない状況に陥っているように思える中で、エチオピア空軍(ETAF)は2021年9月中旬に3機調達した「翼竜Ⅰ」用の兵装を新たに入手したことが判明しました。50発の[TL-2」空対地ミサイルの第1陣が11月3日にエチオピアに到着したのです。[3] [4]

 「TL-2」に関する貨物の積荷目録と梱包明細書が実際にオンライン上で公開されているため、この情報がどのような方法で流出したのかについては、おそらくエチオピアで現在展開している状況を示していると思われます。その数日前に、(詳細不明の)エチオピア政府筋は同国が中国から「翼竜Ⅰ」用のミサイル50発を購入したことを明らかにしました。[4]

 ミサイルを搭載したエチオピア航空の「ボーイング777」は、航空機トラッカー:Gerjon氏によってすぐに特定されました。Gerjon氏の作業は、戦争で荒廃したエチオピアへ飛来する不審な航空機の動きを記録する上で極めて重要なものとなっています。[5]

 エチオピアは以前に「翼竜Ⅰ」UCAVを偵察用UAVとしてティグレ戦争に投入し、メケレ市上空から目標を確認するために使用されました。同機は西側諸国のUAVよりもはるかに低い高度を飛行するため、それが2021年10月28日にメケレ市民に飛行している1機の撮影を可能にさせました。[2]

 (1機のSu-25TKを除いて)現代的な精密誘導爆弾を運用できる作戦機を保有していないため、ETAFは後に無誘導爆弾で武装したSu-27戦闘機を使用して敵を空爆しました。しかし、そのことは実際には想定した戦果を全くもたらさずに多くの民間人の死傷者を出す原因となってしまいました。[6]

メケレ市上空を飛行する「翼竜Ⅰ」

 「TL-2」はUCAVやヘリコプターのみならず地上設置型のシステムからも発射可能な軽量の空対地ミサイル(AGM)です。[7]

 このミサイルは既存の携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の胴体を用いて開発された安価なAGMと言われており、射程距離は約6キロメートルで、セミアクティブレーザー誘導方式によって標的に命中する仕組みとなっています。

 ただし、目標への命中精度は比較的低く、(用いられる誘導方式にも左右されますが)命中誤差は2~10メートル以内であると伝えられています。

 また、TL-2の弾頭の軽さ(約16キログラム)は狙った目標から1メートル離れた場所に着弾しても、その目標が損傷を受けずに生き残る可能性があることを意味します。



 「翼竜Ⅰ」は同サイズのUCAVの大半と異なって、ハードポイントは両翼の下に1つずつ、つまり合計で2つのハードポイントしか備えていません。このため、ペイロードが著しく制限されることから、1回の出撃でこのUCAVが攻撃できる目標の数も必然的に極めて少ないものとなります。

 「翼竜Ⅰ」のハードポイントの少なさについては、搭載できる幅広い種類の兵装でカバー可能であり、これには「TL-2」用の2連装または4連装発射機も含まれています。

 「翼竜Ⅰ」で4連装発射機が使用されていることはまだ確認されていませんが(装備可能なはずですが)、2連装発射機の装備でもエチオピアの「翼竜Ⅰ」が搭載可能な兵装の量をすでに2倍に増やすことができます。

 連装発射機の装備はドローンの有効性を大幅に向上させる一方、エチオピアが最初に入手した「TL-2」AGMの数がたった50発ということは、ミサイルが完全に枯渇する前にETAFの「翼竜Ⅰ」各機が(攻撃任務で)出撃できる数は僅か数回程度しかないことを意味します。




 ティグレ戦争が2年目に突入した中で一見して阻止できない(地上での)ティグレ軍の進撃は、敵に一撃を与えるため、エチオピアにますます空軍に頼ることを余儀なくさせています。

 完全武装した3機の「翼竜Ⅰ」の運用はこの点できっと役立つに違いないでしょう。首都アディスアベバに向けて進撃を続けるティグレ軍は、彼らにとって今や最優先の攻撃目標としか考えられません。

 しかし、入手した「TL-2」AGMの数が限られており、その射程距離の短さと(同世代のAGMよりも)比較的低い命中精度を考慮すると、「翼竜Ⅰ」と「TL-2」の組み合わせはエチオピア政府が必死に探し求めているゲームチェンジャーにはならないかもしれません。
[8] https://page.om.qq.com/page/OwrFgkWkmwLefiiUIlYQhWZA0

※  当記事は、2021年11月10日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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ティグレ戦争:中国製武装ドローンがメケレ市上空で目撃された
エチオピア上空の「翼竜Ⅰ」:中国製UCAVがティグレとの戦いに加わる

2021年11月13日土曜日

ティグレ戦争:中国製UCAVがメケレ市上空で目撃された



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当サイト(英語版)がエチオピアによって中国製「翼竜Ⅰ」無人戦闘航空機(UCAV)が導入されたことを最初に報じてから約2週間後、ついにエチオピアの空にこの無人機が存在していることを裏付ける映像の証拠が現れました。[1]

 2021年10月下旬に撮影された映像には、ティグレ州の州都メケレの上空を飛行する1機の「翼竜Ⅰ」を映し出しています。

 「翼竜Ⅰ」は、イランの「モハジェル-6」UAEのVTOL型ドローンを調達に続いてエチオピアが導入したことが確認された3種類目のUCAVです。筆者が受け取った情報と「翼竜Ⅰ」が製造されている中国の成都からエチオピアのハラールメダ空軍基地への疑わしい貨物便を重ね合わせると、2021年9月に少なくとも3機の同UCAVがエチオピアに届けられたことを暗示しています。 [1]

 エチオピアがこのシステムに寄せる主な関心については、これまで空軍に著しく不足していた精密誘導爆弾(PGM)の配備に向けられるでしょう。

 2021年8月にイランからPGMを搭載した2機の「モハジェル-6」UCAVが納入されたものの、エチオピアでの働きは今のところ全く成功していないようであり、両機は運用パフォーマンスが乏しいせいか現在は駐機状態にあります。[3]

 「翼竜Ⅰ」は現時点で中国で最も商業的に成功しているUCAVであり、これまでに少なくとも世界中で7つの海外の顧客によって導入されたことが確認されています。 [4]

 ただし、このUCAVはその間に、兵装の搭載量を2倍にするため左右の主翼にハードポイントを2つずつ設けたことを含む多数の能力向上を図った、より高性能な「翼竜Ⅱ」に取って代わられました。しかし、前モデルの「翼竜Ⅰ」と比較すると「翼竜Ⅱ」は高価なことに加え(約1500万ドル=17億円に達すると考えられています)、前者の現代的なデザインは今日でも輸出市場でその人気を確かなものにしています。

「翼竜Ⅰ」(これはイメージ画像であり、エチオピアの機体とは無関係です)

 「翼竜Ⅰ」をエチオピアに輸送した貨物機は、航空機トラッカー:Gerjon氏によって2021年9月17日に撮影されたハラールメダ空軍基地の衛星画像上で確認された、ウクライナ・アントノフ航空のAn-124「UR-82029」だったと考えられています。 [5]

 このフライトで、「UR-82029」は(「翼竜Ⅰ」の製造拠点がある)成都から旅程をスタートし、イスラマバードに短時間立ち寄った後、結果的に最終目的地であるハラールメダ空軍基地に着陸しました。
[6]



 すでに2021年9月初旬には、エチオピア空軍司令官へのインタビュー映像でUCAVの模型が目立つように展示されていたことによって、「翼竜Ⅰ」の入手が初めてほのめかされました。

 ティグレ戦争への中国製UCAVの参戦については、すでに2020年11月の紛争が勃発してからずっと推測されてきました。エリトリアのアッサブ空軍基地からUAEが運用する「翼竜」が出撃していると頻繁に言われていますが、今までのところ、これらの主張を裏付ける証拠が提示されたことはありません。



 エチオピアが最近になって多くのUCAVを調達したことを踏まえると、ティグレ軍が彼らによって加えられる圧力の増加を戦場で感じるのは時間の問題かもしれません。

 同世代の別機種と比較すると、「翼竜Ⅰ」は国外での運用で多数の技術的欠陥が見つかったり、非常に多くの墜落事故に遭っていますが、到着してから3ヶ月を過ぎても依然として接地状態にある「モハジェル-6」よりもエチオピアに恩恵をもたらすことは確実です。

 エチオピアによるドローン戦争は、イスラエル、中国、イラン、そしてUAE製のUAVの信頼性に関する情報をエチオピアと世界の国々にもたらすことは間違いないでしょう。その理由1つだけを取っても、エチオピアで現在展開している出来事を記録することは重要です。



[1] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[2] ን6ይ ግዘ ደብዳብ ነፋሪት ኣብ ከተማ መቐለ https://youtu.be/wpZis6n9uqI
[3] 著者がデジェン航空工学産業 (DAVI)で働く整備員から得た情報
[4] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[4] https://twitter.com/Gerjon_/status/1439611723992997888
[5] https://twitter.com/Gerjon_/status/1438797867536338946

※  当記事は、2021年10月28日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




2021年11月12日金曜日

エチオピア上空の「翼竜Ⅰ」:中国製UCAVがティグレとの戦いに加わる

このページにある「翼竜Ⅰ」の画像はイメージであり、エチオピアとは無関係です

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 エチオピアによってイランUAEの無人戦闘航空機(UCAV)が導入された後、今や第3のUCAV:中国製の「翼竜Ⅰ」がティグレ戦争に参戦したことを示唆する強い理由が浮かび上がりました。

 筆者が受け取った情報と「翼竜Ⅰ」が製造されている中国の成都からエチオピアのハラールメダ空軍基地への疑わしい貨物便を重ね合わせると、2021年9月に少なくとも3機の同UCAVがエチオピアに届けられたことを暗示しています。このニュースは、エチオピア軍がティグレ州でUAEが供給したUCAVを使用したことが確認された1週間後にもたらされました。[1]

 すでに2021年9月初旬には、エチオピア空軍司令官へのインタビュー映像でUCAVの模型が目立つように展示されていたことによって、「翼竜Ⅰ」の入手が初めてほのめかされました。

 ティグレ戦争への中国製UCAVの参戦については、すでに2020年11月の紛争が勃発してからずっと推測されてきました。エリトリアのアッサブ空軍基地からUAEが運用する「翼竜」が出撃していると頻繁に言われていますが、今までのところ、これらの主張を裏付ける証拠が提示されたことはありません。

 しかし、著者がハラールメダ空軍基地のDAVI(デジェン航空工学産業)で働く整備員から得た新たな情報は、ついにエチオピアにおける中国製UCAVの存在を明らかにしました。彼は、この機体について「最近に中国から到着した、胴体の前部に膨らみがあって両主翼の下にハードポイントを1つずつ装備しているUCAV」と言い表しているので、その外観的特徴は「翼竜Ⅰ」と正確に一致しています[2]。

 ドローンが空軍基地に到着した後、これらは詮索好きな目に発見されることを避けるために急いで近くの格納庫に移動されたにもかかわらず、その試みは明らかに失敗に終わりました。

「翼竜Ⅰ」(この画像はイメージであり、エチオピアとは無関係です)

 「翼竜Ⅰ」をエチオピアに輸送した貨物機は、2021年9月17日に撮影されたハラールメダ空軍基地の衛星画像で目撃された、ウクライナ・アントノフ航空のAn-124「UR-82029」だったと考えられています。

 このフライトで、「UR-82029」は(「翼竜Ⅰ」の製造拠点がある)成都から旅程をスタートし、イスラマバードに短時間立ち寄った後、結果的に最終目的地であるハラールメダ空軍基地に着陸しました。[3]

 今回のフライトは、ティグレ防衛軍の進撃を阻止するために必要なあらゆる武器・弾薬のストックをエチオピアに維持させるための複数の国による大規模な取り組みの一環です。その詳細については、以前に公開した記事を参照してください。[4]



 2021年9月初旬に行われたエチオピア空軍司令官イルマ・メルダッサ少将へのインタビューでは、少将とジャーナリストの間に「翼竜Ⅰ」の模型が目立つように飾られていました。

 (ほとんどが無人機戦に焦点を当てた)インタビューの間、ジャーナリストは、現時点におけるエチオピア空軍によるドローンの運用状況について何度も質問し、ある時点でUCAV導入のために他国との取引があったかどうかを直接尋ねました。

 これに対し、メルダッサ少将は、エチオピア空軍はドローンに関して卓越した立場にあり、空軍は今だけでなく次の10年を見据えた計画を立てていると説明しました。UCAV導入について他国との取引はあったのかという質問については、少将は「そのような質問は政府の責任ある部門にするべきです」という(少しがっかりしますが)政治的に正しい回答をしました。




 「翼竜Ⅰ」は現時点で中国で最も商業的に成功しているUCAVであり、これまでに少なくとも世界中で7つの海外の顧客によって導入されたことが確認されています。[6]

 ただし、このUCAVはその間に、兵装の搭載量を2倍にするため左右の主翼にハードポイントを2つずつ設けたことを含む多数の能力向上を図った、より高性能な「翼竜Ⅱ」に取って代わられました。しかし、前モデルの「翼竜Ⅰ」と比較すると「翼竜Ⅱ」は高価なことに加え(約1500万ドル=17億円に達すると考えられています)、前者の現代的なデザインは今日でも輸出市場でその人気を確かなものにしています。

 「翼竜Ⅰ」のハードポイントの少なさについては、搭載できる幅広い種類の兵装でカバーできます。とはいえ、海外の顧客は一般的に「翼竜Ⅰ」用の長距離滑空爆弾や対艦ミサイルといった武器システムの導入を控えており、その代わりに少数の空対地ミサイル(AGM)や精密誘導爆弾(PGM)にこだわっているようです。

 この傾向はエチオピア空軍にとっても変わらないものと思われます。同空軍がこのシステムに寄せる主な関心は、その対人・対戦車能力に向けられるでしょう。



 月を追うごとに拡大しているように見えるUCAVの戦力に直面して、ティグレ軍は今や彼らによって加えられる圧力の増加を戦場で感じ始めるでしょう。

 その敵対する側のエチオピア軍は、必死になって兵器を買い漁った結果として最低でも3つの異なる国からのUCAVが手元に残り、それが整備を複雑にしてコストを増加させていることにすぐに気づくかもしれません。

 その意味では、エチオピア空軍がこの先の10年間を見据えて計算された導入戦略を実行しているという主張は、ほとんど現実に基づいていないように見えます。その代わり、この空軍は長年にわたって世界中の現代の軍事的な発展を無視してきたことを埋め合わせしようと試みています。

 UCAV がティグレ戦争で極めて重要な役割を果たす可能性があり、エチオピアがそれらを気ままに購入していることを考慮すると、「翼竜Ⅰ」でさえ彼らが導入する最後の U(C)AV ではないのかもしれません。



特別協力: Saba Tsen'at Mah'derom.

[1] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[2] 安全上の理由から、彼の身元は秘匿とします。
[3] https://twitter.com/Gerjon_/status/1439611723992997888
[4] UAE Air Bridge Supports Ethiopian Military in Tigray War https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-air-bridge-supports-ethiopian.html
[5] የመሻገሪያ ዘመን -ሜ/ጀነራል ይልማ መርዳሳ የኢፌዲሪ አየር ኃይል ዋና አዛዥ|etv https://youtu.be/dOc1kBbEkvo
[6] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html

※  当記事は、2021年10月11日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




おすすめの記事

2021年11月9日火曜日

民兵のUCAV:イラクにおける「モハジェル-6」無人攻撃機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 今世紀に入ってから無人戦闘航空機(UCAV)の拡散が加速しており、多くの国がすでに武装したドローンを保有しているか、あるいは現時点で導入しようとしています。

 しかし、まして一般的ではないのは、非国家主体によるUCAVの導入です。興味深いことに、これはまさにイラクで起こりました。同国の人民動員隊(PMU)がイランからいくつかの「モハジェル-6」UCAVを入手することに成功したのです。イラクでの「モハジェル-6」の公開は、(8月上旬に私たちOryxが最初に報じた)エチオピアへ同機種が引き渡される数ヶ月前のことでした。

 現在、イラク政府が自身で運用できるUCAVを持っていないことを考えると、PMUによる「モハジェル-6」の導入は極めて異例のことです。

 イラクは2015年に中国から約20機の「CH-4B」を購入しましたが、そのうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツと中国航空工業集団 (AVIC)によるアフターサポートが明らかに不足しているおかげで、現在は格納庫で放置されています。[1] [2]

 明らかに、イラクの軍隊は非国家主体が武装無人機の戦力で自身を追い越すためのハードルを低く設定しました。 世界で最も強力な民兵組織のホスト国であることから、PMUへのUCAVの供給はイラク政府の不満ながらの承諾を得て行われた可能性があります(注:PMUは隣国イランの大きな影響を受けているシーア派の武装組織であり、イラク国内でも主要な存在となっているため、PMU関連の要求についてイラク政府が横に首を振りにくいという背景があります)。

 そうしている間に、PMUは、戦車、大砲、無人機や携帯式地対空ミサイル(MANPADS)を装備した通常型の軍隊に成長しました。これらの兵器システムの大部分はイランから供給されたものであり、これはPMUがいくつかの分野の戦力でイラク軍を追い越すことを可能にしました。

 PMUに就役した「モハジェル-6」の存在は、2021年6月26日のPMU設立7周年を記念して行われた閲兵式で初めて明らかにされました。当初は歩兵部隊として設立されたものの、PMUは今や数種類のUAVを引き渡されている組織となりました。

 興味深いことに、おそらく望まぬ国際的な注目を避けるためか、PMUは公開された閲兵式の映像にそれらを映していません(注:現地で撮影された画像によって、この閲兵式に「モハジェル-6」が登場したことが発覚しました)。[3]

 この閲兵式で登場した「モハジェル-6」には通常は最大で4発まで搭載できる「ガーエム」シリーズに似た小型爆弾が2発搭載されていました。


 イラクのPMUは、イエメンのフーシ派だけでなくレバノンのヒズボラにも供給されている「サマド」(下の画像)を含む、さらに数種類のUAVを運用しており、同機はイラン国内での使用に加えて、イランの部隊によってシリア上空で使用されている姿が目撃されています。

 あえて言うならば、中東におけるイラン製UAVの拡散は、これらの国の政府のコントロールを明らかに回避して行われていると思われます。現在、イエメンではこれと言った政府による統制はほとんど行われていませんが、レバノンとイラクの政府は、イランが支援する民兵がドローンの戦力で彼らを即座に追い抜いてしまった様子を悲痛な面持ちで眺めているのかもしれません。



 間違いなく「モハジェル-6」と同様に興味深いのは、PMUの仲間入りをしたと思しき小型の徘徊兵器の存在です。イラクでは、現在も依然として駐留している米軍や、最近ではイラク・クルド人自治区のエルビル市にある米領事館への攻撃で徘徊兵器が使用されています。[4]

 このタイプ(下の画像)は初めて目撃されたものであり、イランで知られているものと関連付けさせることはできませんが、公正な立場で言うならば、これがイランに起源があることについては疑う余地が全くありません。



 「アラブの春」後の世界ではかつてないほどに民兵が強力な役割を果たしており、今や一部の民兵組織が徘徊兵器やU(C)AV飛行隊をどうにかして運用さえしていることは驚くべき事実です。

 しかし、これまでのところ、PMUの「モハジェル-6」は全く使用されていないようであり、同機が2021年末までにイラクから米軍が撤退するまでに国内に残っている同軍に対して投入されることは起こりそうにありません。[5]

 これらの民兵が保有する戦闘用ドローンの明らかな存在理由の1つとしては、将来的に「イスラム国」が復活した場合や、PMUに脅威をもたらす可能性がある別の勢力に対して使用することが考えられます:問題の民兵組織がUCAVを保有しているにもかかわらず、彼らが拠点にしている国がそれらを保有していないことは特に注目に値します。

 しかし、イラク軍は確実に自分たちでこの戦力の再建しようと試みるでしょう。「CH-4B」での嫌な経験のおかげで、イラクはこのような戦力を共に獲得するために、(購入先について)全く異なる国を視野に入れることになるかもしれません。

 その明らかな候補者はトルコであり、同国の「バイラクタルTB2」は、すでにイラク北部に拠点を持つクルド労働者党(PKK)部隊に対して重要な役割を果たしている姿が見られています – 素晴らしい稼働率を備えたTB2は、イラク空軍にとって歓迎すべき変化となるに違いないでしょう。

 実際、8月下旬に「トルコとの間で非公開の数のTB2を購入することで合意に達した」という、イラクのジュマ・イナド国防相による発言の一部が引用・報道されました(注:2021年11月9日現在の時点で、この続報はありません)。[6]



[1] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[2] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[3] Iraqi militias parade Iranian UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/iraqi-militias-parade-iranian-uav
[4] Iraq: explosive drones target area near US consulate in Erbil https://www.thenationalnews.com/mena/iraq/iraq-explosive-drones-target-area-near-us-consulate-in-erbil-1.1249277
[5] Biden announces end of combat mission in Iraq as he shifts US foreign policy focus https://edition.cnn.com/2021/07/26/politics/joe-biden-iraq/index.html
[6] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1432250165474181121

※ この記事は2021年8月30日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。



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2021年11月6日土曜日

Tankovy Busters:エチオピアにおけるSu-25TK攻撃機

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 Su-25は、MANPADS(携帯型地対空ミサイル)や対空砲からの凄まじい攻撃に耐えながら幅広い種類の兵装を搭載する能力がある、頑丈な近接航空支援機としての名声を得ています。この機種は当初から限られた誘導兵器の運用を念頭に置いて設計されていましたが、ソ連の設計者が対戦車攻撃専用のSu-25Tを開発することで、やがてこの能力は拡大されていきました。

 当時としては多数の非常に高度な機能を備えていたものの、ソ連末期の登場は最終的にこの派生型の就役を妨げてしまいました。後にロシアは試作型のSu-25Tをチェチェン紛争に投入して一定の成果を上げましたが、最も興味深い実戦投入は北コーカサスの空ではなく、サハラ以南のアフリカの太陽の下で行われました。

 僅か2機のSu-25Tがエチオピアに輸出されたことは、今日でも多くの熟練した軍事アナリストに全く知られていないままです。この記事は事実関係を明らかにし、Su-25を無名の墓からサルベージすることを試みました。今回は、エチオピアのとらえどころのないSu-25TK「Tankovy Busters」の物語を紹介します。

 Su-25TKの歴史や仕様について詳しく説明する前に、エチオピアがSu-25TKの導入を決定した背景を考察することは読者に慧眼な見識をもたらしてくれます。

 エチオピアは1990年代を通じてエリトリアとの間で数々の武力衝突や国境での小競り合いをしていましたが、未解決の国境紛争は1998年5月から2000年6月にかけて続いたエチオピア・エリトリア国境紛争を引き起こしました。

 エチオピア空軍(ETAF)はエリトリア軍のMiG-29をSu-27で迎撃したり、MiG-21bisやMiG-23BN戦闘爆撃機でエリトリア軍の陣地を空爆するなどして、この紛争に著しく関わりました。後者はKh-23M空対地ミサイルの使用が可能でしたが、ETAFは必要としている戦局の打開を可能とするため、より高度な兵器を探し求めていました。
 

 興味深いことに、エチオピアはウクライナやロシアから比較的低コストで入手可能で、かつ幅広い種類の誘導兵器を搭載できるMiG-27やSu-24を選ぶのではなく、ロシア空軍でストックされていた2機のSu-25T(シリアルナンバー:「2252」と不明)と2機のSu-25UB練習機(製シリアルナンバー:「2201」と「2202」)を調達しました。

 1999年の後半に発注されたこの中古機は、クビンカの第121航空機修理工場で整備された後、2000年1月にエチオピアに到着しました。これに伴って、これらの2機には新たに「Su-25TK(Tankovy Kommercheskiy)」という輸出用の名称が付与されました。

 実験的な機体であるSu-25Tは、エチオピアが指揮所や補給拠点といった高価値目標に対する夜間での精密打撃を実施できる能力を得るために導入されました。 そして、これらの機体は元MiG-23BNのパイロットたちが配属されている第4飛行中隊(または第4飛行小隊)に就役し、真っ先に先述の高価値目標に対する精密爆撃に従事しました。[1] [2]

 戦争における短い運用に続いて1機のSu-25Tが事故に巻き込まれて用廃となった後、残存する3機は僅か1年の運用から退いて、保管状態にされました。[1] [2] これは、Su-25Tの特殊なシステム維持に関連する多額のコストが生じたことと、1機がすぐに失われたことが同じくらい関係していた可能性があります。



 Su-25Tは完全に新造の機体を設計するのではなく、ベースとして復座型であるSu-25UBの機体を用いています。

 以前に後部座席が占めていたスペースは追加のアヴィオニクスを備え付けるために活用され、機首は「プリチャル」レーザー測距/目標指示装置を装備した「シクヴァル」電子光学照準システムを搭載するために拡大されました (「シクヴァル」はKa-50攻撃ヘリコプターにも搭載されています)。

 また、この機体には夜間作戦用として、「マーキュリー」航法ポッドを胴体の下に取り付けることが可能です。その夜間作戦能力がSu-25TKで当てにされていることは、ヘッダー画像で見られる独特なマーキング:「獲物を求めて戦場を観察する2つの全てを見通す眼」で目にすることができます。

 Su-25Tの最も素晴らしい特徴は、間違いなくその兵装にあります。

 胴体の下部に搭載された2連装の30mm機関砲に加えて、Su-25Tは対戦車任務用に16発の9K121/AT-16「ヴィクール」レーザー誘導式対戦車ミサイルを発射する能力を備えています。残念ながら「ヴィクール」がエチオピアに納入されたかどうかは不明ですが、入手可能な証拠は、「KAB-500Kr」テレビ誘導式爆弾、「Kh-29T」同誘導式対地ミサイル、「Kh-25ML」レーザー誘導式対地ミサイルに加えて、重量級の「S-25」無誘導ロケット弾、「KMGU」クラスター爆弾、各種の無誘導爆弾、そして「B-8」ロケット弾ポッドといった無誘導兵器が、エチオピアで運用されたSu-25TKの主要な兵装だったことを示唆しています。

   

 約10年間もビショフツでの保管状態が長引いた後、そのどこかの時点で彼らの再稼働が決定されました。

 これらの機体が現役にあったのは約1年のみだったため、それに続くオーバホール作業はDAVI(デジェン航空産業)の経験豊富な技術者でも困難だったことが判明したに違いありません。また、この時点でSu-25を整備していた数人の技術者はすでに引退して、再稼働に必要な(使える)専門知識がさらに少なくなっていた可能性があります。メンテナンスや修理に使用できるスペアパーツや専門知識が限られているため、Su-25TKに搭載されたシクヴァル照準システムといった特殊なシステムが特に悩みの種だったはずです。                                          

 それでも、2013年には復活したSu-25が初めて目撃され、3機全てががビショフツのエプロンに姿を見せました。

 その後、通常は1機だけがエプロンにいる様子が見えていましたが、2020年以降は衛星画像上で3機が一緒にいる姿が定期的に目撃されるようになりました。



 現在、エチオピアは着実に成長を遂げつつあるTPLF:ティグレ人民解放戦線(TDF:ティグレ防衛軍)との戦争に直面しており、これまでに政府軍はその進撃を阻止できていないため、この国は今や自らの運命を変えるための何かを必死に探しています

 現在、エチオピアで運用されている作戦機の中で精密誘導弾を使用可能な唯一の機種として知られているSu-25T(及びSu-25UB)は、すでに戦争に投入されていることが予想できます。その用途としては、例えば、TDFがエチオピア軍から鹵獲し、エチオピア空軍のMiG-23BN飛行隊の本拠地であるバハルダール空軍基地を攻撃した誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムを無力化することが挙げられます。

 不思議なことに、現在までの時点で、彼らの姿は前線に近い空軍基地を撮影した衛星画像では見えません。それでも、空軍のSu-27でさえ無誘導爆弾を搭載している様子が見られたので、Su-25がティグレ戦争で戦闘デビューは(分離した地域でまだ投入されていないのであれば)遅かれ早かれ実現するかもしれません。

3機のSu-25TKがビショフツ基地で多数のSu-27と一緒に駐機しています。

 事故に遭った1機の運命は、長きにわたって保管状態にあった仲間よりも華やかなものではありませんでした。

 2000年5月の事故から間もなくして、損傷した機体はビショフツ空軍基地の静かな片隅に引き下がり、その後はスペアパーツの供給源として使用されて今日でもその役割を続けているものと思われます。

 隣接するエプロンは空軍のグローブ「G120TP」練習機が使用しているため、機体が投棄された場所はこの上なく象徴的な場所でした。部品と尊厳を奪われたこの機体は、新たな役割として、将来のキャリアで直面するであろう危険をパイロット志望者たちに気付かせるという目的を見つけました。

  
 

 おそらくアフリカの空を優美に飾った最も興味深い航空機の1つだったものの、エチオピアのSu-25Tは購入に要したのとほぼ同じくらいの素早さでで退役してしまいました。引き渡されてすぐに1機が修復不可能なほどに損傷してSu-25TK飛行隊を実質的に半減させた事実が、おそらくはその不名誉なキャリアを短くするのに貢献したかもしれません。

 その後の退役でエチオピア空軍による誘導兵器を用いた作戦が終了したことを示しましたが、それはSu-25TKの再生だけでなく、現在も続いているティグレ戦争中にイランから「モハジェル-6」を入手した後で復活したことでしょう。

 ただし、この限定的な精密誘導能力の再導入が戦争の流れを変えるのに十分かどうかは不明ですが、その可能性はありそうにないようです。 

 したがって、「モハジェル-6」の調達後すぐにUCAVのさらなる入手が続く可能性があります。ただし、これらは20年前に導入したSu-25Tとは異なって安価で実用的であり、実験的な性質はより少ないものになりそうです。

 UCAVの普及は今日における戦争の単純な性質ですが、エチオピアの「Tankovy Busters」の武勇伝がすぐに忘れ去られないことを願っています。

[1] African MiGs Volume 1: Angola to Ivory Coast https://www.harpia-publishing.com/galleries/AfrM1/index.html
[2] Ethiopian-Eritrean Wars: Volume 2 Eritrean War of Independence 1988-1991 & Badme War 1998-2001 https://www.helion.co.uk/military-history-books/ethiopian-eritrean-wars-volume-2-eritrean-war-of-independence-1988-1991-and-badme-war-1998-2001.php?sid=7291642fc0c8fa0eb0c12b7d97c4502b

※  当記事は、2021年8月26日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所    があります。




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2021年11月2日火曜日

弾道を描け:忘れ去られたティグレの対エチオピア・エリトリア 「ミサイル戦争」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ティグレ戦争の序盤である2020年11月、中国製の「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)がエチオピア北西部にあるバハルダール空軍基地のエプロンに着弾した際に、エチオピア国防軍(ENDF)が受けた衝撃は計り知れないものだったに違いありません。

 ティグレ防衛軍(TDF)がいくつかの弾道ミサイルシステムを鹵獲した後にバハルダールを標的にしたことは遅かれ早かれ発生する流れでしたが、ミサイルが着弾した際に示したとてつもない命中精度は基地の人々を驚かせたはずです。

 ほぼ同じ頃に、約450km離れたエリトリアの首都アスマラを何度かの大きな爆音と衝撃が揺り動かしました。この都市もバハルダールと同様にティグレ軍によるミサイル攻撃を受けたのです。

 エチオピアとエリトリアがどのようにして弾道ミサイル攻撃を受けたのかが、この記事のテーマとなります。

 軍事力を大幅に増強して長年の宿敵であるエリトリアに対して決定的な優位性を得ることを目指し、おそらくはスーダンやエジプトに対する抑止力も確立しようと試みていそうなエチオピアは、この地域の軍事バランスを最終的に自国に好都合なものに変えることを追い求めて、2010年代に野心的な軍の再装備プログラムに着手しました。

 その爆買いの中心となったのは、これまでエチオピアではまだ導入されていなかった分野の戦力: 短距離弾道ミサイルと長距離誘導ロケット弾でした。エチオピアと中国の温かい軍事的な関係を考慮すれば、エチオピアがそのような戦力の入手先として中国に目を向けたことは少しも驚くことではありません。

 中国はこのような兵器をエチオピアに提供する意思がある数少ない国の1つであることに加えて、短距離弾道ミサイル(SRBM)と誘導ロケット弾発射システムを1つのモジュールにまとめた2種類のシステムを製造しています。

 それらの1種(SRBMの「BP-12A」と誘導ロケット弾発射システムの「SY-400」を使用したもの)はすでにカタールによって導入されており、同国ではこれまでにこのシステムに関連する「BP-12A」だけが公開されています。

 それに直に競合するシステムは、「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システムを使用しており、(「ポロネーズ」の名で)ベラルーシとアゼルバイジャンに、そしてエチオピアに採用されています。ベラルーシはロケット弾の生産ラインを設立しており、「A300」の改良型が「ポロネーズM」として公開されています。

 これまでのところ、エチオピアだけが「M20」SRBMの運用者であることが確認されており、アゼルバイジャンは誘導ロケット弾発射システムを入手したのみで、ベラルーシはミサイルを公開したものの、まだ現役として採用されていない点が注目されます(注:「ポロネーズM」は2019年に受領が開始されたと報じられています)。

        

 「M20」SRBMは、現在のアフリカ大陸で運用されている弾道ミサイルの中では最も現代的ものです。このSRBMは400kgのHE弾頭を搭載して少なくとも280km以上の距離まで飛ばすことができるため、敵の基地や兵力の集結地点を狙うのに完璧に適しています。また、慣性誘導だけでなく「北斗」を用いた衛星誘導方式も組み込んでいる「M20」は、約30mの半数必中界(CEP)も誇ります。[1]

 「A200」誘導ロケット弾発射システムも同様にGPS誘導と慣性誘導方式を併用しているため、CEPは約30~50メートルであり、150kgの弾頭を200km先まで飛ばすことが可能です。[2]


 2020年11月にティグレ軍がENDFの北部コマンドへの強襲を開始すると、彼らは即座にエチオピア軍が持つ弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の全体を掌握しました。その運用要員の多くがティグレ側に離反したようで、それがティグレ軍にこのシステムを元の所有者に対して使用を開始する機会を与えたようです。そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射して、さらに3発をティグレ戦争に介入した報復としてエリトリアの首都に撃ち込みました。[3]

 これらの弾道ミサイル・ロケット弾攻撃のほとんどは発射映像や攻撃を受けた標的の画像が見当たらないために独自に検証することはできませんが、相当にきちんと記録されていた攻撃として2020年11月のバハルダール空軍基地への攻撃があります。[4]

 この攻撃が物的損害をもたらしたのかは不明ですが、エチオピア空軍は弾道ミサイル攻撃を予期して、すでに航空機を近くの対爆シェルター(HAS)に移動させていた可能性があります。確かなことは、「M20」の400kgの弾頭が、通常はエプロンに位置しているMiG-23BN戦闘爆撃機のかなりの部分を破壊した可能性があるということです。

2020年12月2日に撮影された、バハルダール空軍基地で「M20」弾道ミサイルが着弾した状況。

攻撃を受ける数か月前に撮影された、攻撃されたエプロンに展開している8機のMiG-23 (少なくとも別に2機がハンガー内にいます)。

 エチオピアにとって不幸なことに、国軍はティグレ軍によって鹵獲された後の発射機を発見・無力化に使える兵器システムを全く保有していませんでした。

 とはいえ、ティグレに配備された8x8の大型移動式発射機(TEL)と再装填車にとって最大の脅威は、上空で待ち伏せしている飛行機や武装ドローンではなく狭い道路や通路であり、すぐに少なくとも1台のTELを使い物にならなくさせました。

 どうやらティグレ防衛軍は重量級トラックを回収できる資機材を保有していなかったらしく、この車両は8発の「A200」誘導ロケット弾と一緒にその場に放置されてしまいました。



 その少し前の2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の空となった「A200」のキャニスターが発見されました。[5]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったため、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。

 基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。



 また、TELと同じ車体をベースにした再装填車も、少なくとも1台が奪還されました。

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。

 この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせます。



 2台目の再装填車は、ティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。

 もちろん、この努力は後に無駄であることがわかりました。ティグレ軍が弾薬と一緒に車両も放棄してしまったからです。

 エチオピアの新たな内戦における過酷な状況下では、高度な装備を維持することが困難なことから、残りの発射機や再装填車も、この時点で同様の運命にさらされた可能性が高いとみられています。

 ティグレ戦争の結果、エチオピアはサハラ以南のアフリカで最強の誘導ロケット弾と弾道ミサイル部隊を持つ国からボロボロで機能しない抑止力の残骸を持つ国となってしまいました。かつてはエチオピア軍の誇りだったこれらのアセットについて、おそらく紛争が猛威を振るっている間か武力衝突が終結した直後に、この国は再導入を追い求める可能性があるでしょう。

 トルコから「バイラクタルTB2」を購入する可能性があるという噂を考慮すると、エチオピアはTB2との相乗効果によって威力が増加する別のトルコ製システムにも目を向けたくなるかもしれません。そのようなシステムには「TRLG-230」「T-300」 MRL、「ボラ」戦術弾道ミサイルが含まれており、特に前者はTB2との協力で得られたメリットが十分に証明されています。

[1] 国产A200远程制导火箭武器射程200公里火力猛 http://mil.news.sina.com.cn/2010-11-19/1424619881.html
[2] Multiple launch rocket systems “Polonez”/missile system “Polonez-M” https://ztem.by/en/catalog/mlrs/
[3] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[4] https://twitter.com/wammezz/status/1339370865096572930
[5] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1343979723207049217

※  当記事は、2021年9月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2021年11月1日月曜日

イタリアの魅力:トルクメニスタンの「M-346」戦闘攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ソ連崩壊から約30年が経過した今でも、多くの旧ソ連諸国の空軍の保有機は、彼らが引き継いだソ連時代の航空機で構成されていることが大きな特徴となっています。これは特に戦闘機に当てはまることであり、高額であることが、多くの国に現在運用中である旧世代機を代替するための新型戦闘機の導入を躊躇させています。

 その代わり、「MiG-29」や「Su-25」といった実績のある機種は単に飛行能力を維持させるためだけでなく、21世紀の戦争の時代に適切な機体であり続けるために何度もオーバーホールを受けています。ベラルーシやカザフスタンなどの国は、近年に「Yak-130」や「Su-30SM」の導入を通じてこの知見に異議を唱えようとしていますが、中央アジアの大部分ではジェット機の運用が徐々に減少しつつあります。

 トルクメニスタンはこの状況の注目すべき例外であり、新型ジェット機の導入や従来から運用している「MiG-29」や「Su-25」のアップグレードによって空軍を強化しています。その導入した新型機の1つが、これまでに世界中の9つの空軍から発注を受けているイタリアの「M-346」です。2020年5月、イタリア上院は、トルクメニスタンが2019年に4機の「M-346FA(戦闘攻撃機型)」と2機の「M-346FT(訓練機型)」を2億931万ユーロ(約388億円)で発注したことを明らかにしました。[1]

 トルクメニスタン向けの最初の「M-346」は、同国への納入直前の2021年7月にイタリアのレオナルド社の施設で目撃されています。[2]

 この機体は空対空ミサイル(AAM)のイナート弾(または模擬弾)を4発と外部燃料タンク(増槽)を2個搭載しており、トルクメニスタンでのデモフライトでもこの搭載スタイルが維持されていました。


 トルクメニスタンが「M-346」用に購入した実際の兵装は不明のままですが、同国の「A-29B」のために調達されたことが知られている兵装の種類を踏まえると、「M-346」用の精密誘導兵器は(まだ)購入されていない可能性があります。

 その代わり、無誘導爆弾、AAM、そして増槽がトルクメニスタンにおける「M-346」の(初期の)標準装備となるかもしれませんが、彼らの高度な兵装運用能力のために、将来のある時点で誘導式の空対地兵器が導入される見込みがあることはもっともらしいように思われます。その空対地兵器には「マルテ Mk2」対艦ミサイルや、トルコやイスラエルのさまざまな種類の精密誘導爆弾が含まれるかもしれません。
 
 GBU-12「ペイブウェイⅡ」のような西側諸国の兵装の供給を受けることも可能でしょうが、それは供給する国の意向に左右される可能性が高いと考えられます。


 「M-346」がトルクメニスタンに到着して間もなく、グルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)がその1機に搭乗してカスピ海上空でテスト飛行を実施しました(下の画像)。

 機体の迷彩パターンは洋上での運用を念頭に置いて特別にデザインされたものと思われますが、トルクメニスタン空軍の機体の大半は、その運用地域を少しも考慮していないように思われるカラフルな塗装を施されています。

 もちろん、レーダーが航空機を検知するための主要な手段となった現代では、迷彩パターンが持つ重要性はやや薄れています。



 この国の「M-346」はまだ衛星画像で撮影されていませんが、これらの機体は首都アシガバート直近にあるアク・テペ・ベズメイン基地か、マル市に隣接するマル空軍基地/国際空港またはマル-2空軍基地に駐留するものと予想されています。後者の基地には、すでにトルクメニスタンが最近導入した5機の「A-29B "スーパーツカノ"」が配備されています。

 「C-27J "スパルタンNG" 」は、すでに2機の「An-74TK-200」と1機の「An-26」が拠点にしているアク・テペ・ベズメイン基地に配備されることになりそうです。(トルクメニスタン航空は3機の「IL-76」を運航していますが)これらの機体は空軍で唯一の現役にある輸送機ですが、「C-27J」はターボプロップ輸送機としての役割で「An-26」を完全に置き換えることになるかもしれません。


 ソ連崩壊が今や過去のものとなって新たに必要とされるものが明白な新しい世界で、西側の現代的なテクノロジーが「M-346」、「C-27J」、「A-29B」の導入を通じてようやくトルクメニスタン空軍に届きました。

 トルクメニスタンは老朽化したソ連時代の「Mi-24P」攻撃ヘリコプターを代替するための新型無人戦闘航空機(UCAV)と新型攻撃ヘリコプターの導入に傾いているとみられていることから、さらなる新型機の導入とサプライズが待っていることは間違いないでしょう。

 これらを導入するためにこの国がもう一度西側のサプライヤーに目を向け、トルクメニスタン空軍をこの地域で最も近代的な空軍としての地位を確固たるものにすることを疑う余地はありません。

[1] Turkmenistan's air force operating new M-346FA, C-27J, and A-29 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/turkmenistans-air-force-operating-new-m-346fa-c-27j-and-a-29-aircraft
[2] https://vk.com/milinfolive?w=wall-123538639_1936960

 のです。



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