2022年4月12日火曜日

呼びかけへの応え:ウクライナへ供与される重装備(一覧)


著: ヤクブ・ヤノフスキ, naalsio26, アロハ, ダン と ケマル(編訳:Tarao Goo)

  1. この記事の一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後にウクライナに供与されたか、または供与が約束された重装備の追跡調査を試みるものです。
  2. この一覧における兵器はカテゴリーごとに(供与国の国旗を付けて)分類されていますが、一部の武器供与が機密性を帯びているため、この一覧に記載されている兵器と数はウクライナへ供与される(された)武器の総量の最低限のものを示しています。
  3. 携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)、対戦車ミサイル(ATGM)、商用ドローンはこの一覧には含まれません。
  4. この一覧は、追加の軍事支援が表明されたり、判明したりした場合に更新される予定です(数の増減や名称の変更なども含みます)。
  5. 重装備類の名前をクリックすると、ウクライナか海外で撮影された当該装備類の写真が表示されます。ウクライナ向けの個体の画像が存在しない場合か供与が約束された重装備の正確な種類がまだ判明していない場合は、"供与する"という情報源が表示されます。
  6. 各国による詳細な支援内容を解説した記事は、下の「おすすめの記事」で紹介しています。
  7. この一覧の最終更新日:2024年4月27本国版は4月12日

航空機(95+,このうち約45機が供与済み、50機+は供与が表明されたもの
  •  14 Su-25 [2022年4月] (NATO加盟国がブルガリアから調達後にウクライナへ供与)
  •  4 Su-25 [2022年8月]
  •  14 MiG-29(9.12規格) [2023年4月以降に供与開始、5月10日までに完了]
  •  10 MiG-29AS' と UBS' [2023年3月と4月]
  •  3 MiG-29(9.12規格)と UB [同上] (スペアパーツ用として使用される機体)
  •  24+ F-16A/B [予定] (ウクライナ人パイロットの訓練用として一部をオランダ国内に配備)
  • 19 F-16A/B [同上]
  •  22  F-16A/B [同上]

ヘリコプター(85 ,このうち68機が供与済み、残る17+機は供与が表明されたもの)

無人戦闘航空機 :UCAV(35+,35+供与済み)
  •  35+ バイラクタルTB2 [2022年3月から供与](このうち5機はリトアニア・ウクライナ・ポーランドの人々がクラウドファンディングで調達資金を確保。 その後、5機はメーカーのバイカル・テクノロジー社から無償で提供された) 

戦車(900+, このうち 約600+台が供与済み,残る約300+台は供与が表明されたもの

装甲戦闘車両(160+,このうち63+が供与済み

歩兵戦闘車(900+, このうち560が供与済み,残る約340+台は供与が表明されたもの
  •  50 BVP-1 [2022年4月]
  •  56 Pbv 501A [同上]
  •  142 BWP-1 [2022年4月以降に供与]
  • 35 BVP「M-80A」 [2022年6月]
  • 40 BMP-1A [2022年10月以降に供与] (ドイツの「循環的交換政策」を通じて40台の「マルダー」歩兵戦闘車の提供と引き換えにギリシャのストック品から供与)
  • 30 BVP-1 [2022年11月] (ドイツの「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト1A4」戦車と引き換えにスロバキアのストック品から供与)
  • 140 マルダー1A3 [90台は2023年11月までに供与済み、50台がさらに供与予定]
  • 186 M2A2 ODS SA「ブラッドレー」及び 4 M7 BFIST [2023年4月以降に供与]
  • 50+ CV9040 [2023年6月から供与]
  • 35 CV9035NL [2024年2月に供与が表明]
  • 200 KTO「ロソマク」 [2023年7月から供与] (EUとアメリカの資金援助でウクライナが調達)
  • AIFV-B-C25 [2023年8月]
  • BMP-1A1 [予定]
  •  80 BMP-2(このうち35+をチェコから調達) [同上]

装甲兵員輸送車(2,000+,このうち 1,450台が供与済み,残る約550+台は供与が表明されたもの


MRAP:耐地雷・伏撃防護車両(1,150+,このうち 925台が供与済み

歩兵機動車(3,500+,このうち3,000+台が供与済み

牽引砲(461+,このうち430+が供与済み

自走砲(575
+,このうち425+台が供与済み

多連装ロケット砲(110+,このうち105門が供与済み)

対空砲(375+,数量判明のものは全て供与済み)

自走対空砲 (SPAAG)(170+)

地対空ミサイルシステム
対艦ミサイル:少数

空対空ミサイル:AAM(500+)

空対地兵装

徘徊兵器(2,200+)※2024年初頭で集計を終了

無人偵察機(大量)

輸送用ドローン(少数)

レーダー(180+、SAM用の火器管制レーダーを含まず)

工兵・戦闘支援装備(460+)

艦艇(280+)

※ この記事は2022年4月11日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した 
 ものです。


おすすめの記事

2022年4月11日月曜日

【独占】ウクライナで別の「バイラクタル」の投入が確認された


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 現代において最も激しく、そして急速に展開しつつある戦争の1つで、無人機はますます重要な役割を果たすようになり、最終的な戦局を左右する重要な要因の1つとなる可能性があります。

 したがって、戦前のウクライナが保有していた18機に加え、開戦後に少なくとも16機の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)が追加で納入されたことは、ウクライナの窮状に対する支援として最も重要な事例の1つと言えるでしょう。[1] 

 最近、私たちはトルコによるドローンの貢献がTB2だけにとどまらないという証拠が出たことを把握しました。「バイカル・テクノロジー」社の「バイラクタル・ミニ」UAVがウクライナで撮影した映像が公開されたことで、この機種が同国へ納入されたことが初めて確認されたのです。[2]

 「バイラクタル・ミニ」は、見た目は大型のUCAVと比較するとかなり華やかさに欠けてはいますが、捜索や偵察任務に最適化された手投げ式の小型機であり、 まさにこのタイプの無人機が 一般的な歩兵部隊の戦闘効率を高める点において極めて重要であることが実証されています。

 さらに、このUAVは誕生から絶えず改良が続けられており、最新のD型は30kmの通信距離、約120分以上の滞空時間、約1200mの最大高度を備えるまでに能力が向上しました。[3]

 この能力向上は、「バイラクタルTB2」の成功にも貢献し、「バイカル・テクノロジー」社をおそらく全世界で最も成功した唯一のUAV輸出企業であることを決定づけた、同社による継続的な改良という方針にこのUAVにも適用されていることがわかります。

 「バイラクタル・ミニ」のようなUAVが持つ最大のメリットは、 戦場で普通の兵士が簡単に持ち運ぶことが可能で、発進や回収のために滑走路(などの専用の設備)を必要としないことです。

 そして、このような無人機は、対戦車ミサイル(ATGM)や(迫撃砲を含む)その他の軽装備、またはより典型的な砲兵部隊が攻撃すべき目標を発見するために活用することができるのは言うまでもありません。

 こうした運用で、(より初歩的な民生品のクアッドコプター型を含む)小型UAVはすでにキーウ周辺のロシア軍に驚くほどの損害を与えることに寄与しています。正確に発見さえしてしまえば、彼らは実質的にウクライナ軍の砲兵戦力の格好の餌食となってしまったのです。

 最近にSNS上に投稿されたウクライナからの映像では、1人のロシア兵が自分の部隊に戻るまで追跡され、その後に彼の部隊がウクライナの砲兵部隊から攻撃される様子が映し出されていましたが、その画面から「バイラクタル・ミニ」の特徴的なインターフェイスが明確に識別することができました。(注:兵士を追跡したUAVは映像の特徴から、別の機体である可能性があります)。[4] 

 結果として、この砲撃を受けたロシア軍の「BMP-2」の損傷状況を評定することはできませんが、どうやら放棄されたようです。

 この戦闘は、「バイラクタル・ミニ」の想定していた使用例と、高画質なジンバル装置付きカメラの有用性を見事に実証しました。

 簡易パラシュートと胴体着陸・回収システムは現地の地上部隊による簡易かつ迅速な運用も可能にさせるため、このUAVが持つ強固な耐妨害性と優れた耐久性は、ウクライナの広大な野原や森林でも重宝されるでしょう。[5] 

左:「バイラクタル・ミニ」がロシア軍の陣地が砲撃を受ける様子を撮影した画面
右:トルコで「バイラクタル・ミニ」がFLIRカメラを使用した際の画面(比較用)

 これまで「バイラクタル・ミニ」の運用が確認されている国はカタールとリビアだけでした。前者は早くも2011年にこのUAVに導入する価値があることを見出し、「バイカル・テクノロジー」社初の輸出先となったのです。[6] 

 この機体はまだカタールで公開されていませんが、2011年にイスタンブールで開催された国際防衛産業フェア(IDEF)で締結された契約に基づいて、10機が納入されことが知られています。[7]

 今までのところ、トルコは戦争中のウクライナに無人偵察機を提供する最初の供給国であり、それによって自身が(重装備を引き渡すことをコミットしている数少ない国の1つという面でも)ウクライナの最も重要なパートナーと主張してきましたが、「バイラクタル・ミニ」のようなUAV飛行隊には、近いうちにその他の多くの外国製小型無人機が仲間入りすることになるでしょう。

 特筆すべきは、アメリカが軍事支援の一環として、ウクライナに(「バイラクタル・ミニと似たようなデザインである)「RQ-20 "ピューマ"」無人偵察機と多数の「スイッチブレード300」徘徊兵器を供与すること約束したのです。「スイッチブレード300」は、ウクライナ軍に非常に有能で斬新な能力をもたらすことが期待されており、1000発が送られたと報じられています。[8]

 こういった兵器の供与は、ウクライナ軍が数で圧倒的に勝る敵に対して優位に立たせるための極めて重要なファクターとなる可能性があります。

 小火器や装甲戦闘車両(AFV)といった通常兵器のほかに、「バイラクタル・ミニ」のような無人兵器は、同じ地域に配備されているほかの全ての兵器類の効用を高める乗数的戦力増強要素(フォースマルチプライヤー)として機能します。

 必要とされる所に質の高い十分な乗数的戦力増強要素があれば、両陣営の損失比率はすでに驚くほどアンバランスになっている状態がさらに歪められることになり、最終的にロシアの軍事作戦の立案者たちは攻勢を続けることの利点を再考せざるを得なくなるかもしれません。

 この目標を達成するための手段を提供する任務が実行されるかについては海外のウクライナの友好国次第であり、それによって、現代で最も重要な戦争におけるヨーロッパの運命が決するでしょう。


[1] Ukraine's defence imports from Turkey jumped 30-fold in Q1 - Turkish data https://www.reuters.com/world/ukraines-defence-imports-turkey-jumped-30-fold-q1-turkish-data-2022-04-06/
[2] https://twitter.com/NotWoofers/status/1512131462627270676/photo/1
[3] https://twitter.com/BaykarTech/status/1373569420526813186
[4] https://twitter.com/NotWoofers/status/1512131462627270676/photo/1
[5] GELİŞMİŞ ÖZELLİKLERİYLE BAYRAKTAR MİNİ İHA D https://youtu.be/uFyQrg2E800?t=117
[6] Turkey sells mini drones to Qatar https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-sells-mini-drones-to-qatar-15862
[7] Procurement: Turkey Exports UAVs https://www.strategypage.com/htmw/htproc/articles/20120319.aspx
[8] U.S. sending Switchblade drones to Ukraine in $800 million package https://www.politico.com/news/2022/03/16/us-sends-switchblade-drones-to-ukraine-00017836

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年4月9日土曜日

芽生えたばかりの戦力: ウクライナに投入されるロシアの無人攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 アメリカや中国、トルコの最新鋭無人戦闘航空機(UCAV)がすでに世界中で多数の国や紛争で投入されているの一方で、ロシアはその開発と生産で著しく遅れをとっています。

 それどころか、戦場の上空を飛び回りながら攻撃任務をこなす「Ka-52」「Mi-28(N)」のような(有人)攻撃ヘリコプターを好む彼らは、UCAVによって念入りに実施される偵察・攻撃任務を軽視し、より攻撃的な捜索・急襲任務を行うドクトリンに忠実に守っているのです。

 しかしながら、現代における新たな紛争が起きるたびにUCAVのメリットがより詳細に示されているように思われていることから、ロシアでもUCAVへの投資を選択することが次第に増えてきています。
 
 ロシアが他国に追いつくための試みには、IAI社の「サーチャー」をライセンス生産したイスラエル起源の「フォルポスト」無人偵察機を武装化が含まれています。その結果として誕生した「フォルポスト-R」は当初からUCAVとして設計されたわけではないものの、ほぼ全てがロシア製で、軽攻撃任務の遂行が可能な無人機となりました。

 同様に、ロシアの「クロンシュタット」社によって生産されている国産の偵察・監視用無人機「クロンシュタット・オリオン」も複数の武装型が開発されており、徐々に運用が始められています。

 また、「スホーイ」の野心的な「オホートニク-B」、「クロンシュタット」社の「ヘリオス」こと「オリオン-2」、 ​「シリウス」「グロム」プロジェクトを含む、より高度なUCAVの開発も進行の途上にあります。

 こうしたシステムの将来性については、慢性的な資金不足と特定の重要技術へのアクセス不足のためにすでにいくつかの疑問が生じていますが、ロシアが経済制裁を受け、西側諸国との全面的な経済戦争になりつつある今、その疑問はさらに高まっていくでしょう。

 このまま国産UAVの開発が進むのかはさておき、ロシアが自国に利益を与えてくれる世界的なドローン革命の流れに乗り遅れたことは確かなことであり、見込みのある輸出顧客の大部分は、すでに中国やアメリカ、トルコ、イスラエルの競争相手によって需要が急速に満たされてしまいました。

 一般的には、新世代のUCAVの開発に伴い、その効果を最大限に発揮させるための新世代の兵装が必要とされます。(武器展示会などで)「オリオン」はさまざまな誘導爆弾や対戦車ミサイル(ATGM)の豊富な兵装と一緒に展示されているものの、その多くはまだ開発段階にあることのに加えて、いくつかの国産化できない重要なコンポーネントが制裁対象に該当する可能性があるため、それらが本当に導入されるか不透明な状況にあります。

 2018年に「オリオン」がシリアに送られて運用試験を実施した際には、武装型UAVとしては極めて型破りで、明らかに有効性に欠けたミッションプロファイルである「OFAB-100-120」無誘導爆弾を投下した状況さえ確認されました[1]。

 その後、同機用の暫定的な搭載兵装は、(起こりそうにもないシナリオを想定した演習でヘリコプター型UAVに対して使用されたことで悪名高い)「コルネット」ATGMの空中発射型や「KAB-20」誘導爆弾を含むいくつかの誘導兵器で拡張されています。[2] 

 これらの兵装は、「オリオン」が持つ3つのハードポイントだけでなく、2つのハードポイントを備える「フォルポスト-R」にも搭載することが可能です。

 「KAB-20」は前述の無人機にとってより現実的な兵装の1つではあるものの、今のところトルコの「MAM-L」のような誘導爆弾の精度には程遠いことが映像で示されています。

 具体的な事例を挙げると、対ウクライナ戦争で「フォルポスト-R」が投下した「KAB-20」が静止状態にあったウクライナ軍の「BMP-2」から外れてしまい、結果として同車の「撃破」ではなく「損傷」を与えるだけで終わったということがありました。[3]

「クロンシュタット」製「オリオン」が投下した「KAB-20」誘導爆弾がウクライナ軍の牽引砲に命中した瞬間

 おそらく、利用できる数が限られていることや、ウクライナの防空網による損失や効果的な運用の拒絶(注:4月9日までに少なくとも1機の「オリオン」UCAVの損失が目視で確認されています)、単純にロシアが持つUCAVの使用経験が乏しいことから、これまでの戦争や武力衝突における「フォルポストR」と「オリオン」が与えた影響は無視できる程度にとどまっているようです。[4] 

 しかし、「オルラン-10」のような小型の非武装型の無人機は、UCAVより大きな成功を収めており、ロシア軍で大量に使用されています。

 UCAVの開発が遅れすぎて国際的な無人機市場に大きなインパクトを与えなかったとしても、その運用で得られた有意義な経験は、今後のロシアに高価な有人機の代わりにUCAVを大量に導入させるように促すかもしれません。

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻において双方の軍がUCAVを実戦投入したことは、これらのシステムが単に高強度紛争での運用が可能になっただけでなく、実際には今やどの側でも投入できる最も高性能なアセットの1つであるという事実を改めて強調しています。

 確かに、UCAVは「Mi-28」や「Ka-52」のような攻撃ヘリコプターよりも脆弱ではありません。ヘリの場合は、撃墜されれば2人のパイロットを死に至らせる可能性があることに加え、一般にATGMを発射するためには所定の位置でホバリングしなければならず、簡単に標的にされてしまうからです。[5]


 結局のところ、UCAVは攻撃ヘリコプターと同じ能力を低コストで提供したり、危険に晒されるリスクを低減するだけでなく、その運用上における任務を拡大するという大きな可能性も秘めているのです。

 その具体的な一例として、ウクライナは「バイラクタルTB2」UCAVを敵防空網破壊(DEAD)任務もに投入して多大な成果を上げていることが挙げられます。それによってTB2は地上戦力やほかの航空戦力の存続に貢献しています。[6] 

 DEADのような任務はロシアの新興UCAV部隊の手の届かない高さにとどまっているように見えますが、彼らの運用経験が増えるにつれて、最終的にはロシア空軍のアセットが担当している別の任務もUCAVが引き受けることになるかもしれません。

  1. ウクライナ上空でロシアのUCAVによって攻撃されたことが視覚的に確認された車両や装備類の一覧は、下で見ることができます。
  2. この一覧は、攻撃の追加映像が入手可能になり次第、更新されます。
  3. 人員や建物への攻撃については、この一覧には含まれていません。
  4. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、ロシアのUCAVによって攻撃された当該兵器類の画像を見ることができます。

戦車(1)


装甲戦闘車両 (3)


歩兵戦闘車 (1)


牽引砲 (2)


トラック、ジープ、各種車両 (8)

「KAB-20」誘導爆弾を投下する「フォルポスト-R」(2021年9月に実施された演習「ザーパト2021」にて)

[1] Russia Provides A Glimpse Of Its Orion Drone Executing Combat Trials In Syria https://www.thedrive.com/the-war-zone/39381/russia-provides-a-glimpse-of-its-orion-drone-executing-combat-trials-in-syria
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1472242280199249923
[3] https://twitter.com/Kyruer/status/1505509964189769733
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1512566406050631684
[5] https://twitter.com/kemal_115/status/1511294420171304964
[6] Defending Ukraine - Listing Russian Army Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



おすすめの記事

2022年4月5日火曜日

国家の命運:ウクライナの窮状と期待されるトルコの支援


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 まだ始まってから日が浅いばかりですが、衝撃的なほど残虐なプーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻は、歴史的に悲劇に苦しめられたこの国を再び暗黒時代へ後戻りさせました(注:この記事は3月8日に公開されたものです)。

 必死に生存権を確保しようとしているウクライナを非常に強大な軍事力が三方向からウクライナを包囲しながら市民生活を少しも配慮することなくあらゆる目標に砲爆撃を加えており、ウラジーミル・プーチン大統領はこの国をロシアに実質的に取り込む意図を繰り返しほのめかしています。

 このような状況や過酷な見通しのもとでは、ウクライナの人々が絶望し、見捨てられたと感じるのは無理もないでしょう。

 しかし、この数週間でウクライナ人たちは全く逆のことを示しました。数的に優勢な侵略軍を前にした彼らの立ち直る力と意志の強さは、(これは推測ですが)モスクワにいる侵略の立役者だけでなく、多くの人々を驚かせたのです。

 同様に驚くべきことは、事前の準備、戦場の選択、さらには必要となる戦闘の種類という観点から見れば理想的に戦うことができたはずの戦争で、ロシア軍の不手際と準備不足が判明したことです。ウクライナの人々の並外れた忍耐力とロシア軍の失態の両方がHD画質で記録やアップロードをされて、過去に発生したどの武力衝突よりも瞬時にリンクされた世界に何百万回も再生されました。

 (特にウクライナの農民が著名になりましたが)急速に脚光を浴びるようになった抵抗を象徴するアイコンの中には、過去10年間にあった多くの紛争で猛威を振るった兵器が存在します:それがトルコの「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)です。[1]

 ほとんどのアナリストは、ウクライナが有する20機程度のTB2が戦争の初期段階ですら生き残ることができないと疑っていました。つまり、リビアシリアナゴルノ・カラバフなどの紛争で得た成功の再現はおろか、TB2のほとんどが地上で撃破され、残存機も離陸直後に撃墜されると予想されていたわけです。[2] [3] [4]

 とりわけ、過去の成功についてはTB2が投入された武力衝突が低強度紛争だったことでけではなく、作戦地域で活動してる統合防空システム(IADS)が不十分であったことの結果と説明されることが通例になっていますが、実際にはこれらの戦争全般でロシアの最新の防空システムの大半が運用され、2020年におけるアルメニアの戦域は世界で最も密集した防空ネットワークの1つであったことに留意する必要があります。[5]

 ウクライナの空を飛ぶTB2が健在で、ロシアの防空兵器と補給線に見事な勝利を収めている映像がリークや公開され始めると、この論法が誤りであることがすぐに明らかとなりました。

 そして、おそらく思いがけないことに、ウクライナ国民と海外のウクライナ支持者たちの両方がこの無人機の下で結集し、TB2は強気に出過ぎたと思われる侵略者への反抗のシンボルとなったのです。

 動物の名前の由来となったり口コミ動画に使われたり、さらには独自のテーマソングを作られて披露されたりと、TB2は「バイラクタル」として誰もが知っている言葉となりました。[6] [7] [8] [9]

 すでにロシア国防省は戦争前にウクライナが保有していた数を上回るTB2を撃墜や撃破をしたと主張していますが、実際には、この記事の執筆時点では1機も撃墜の証拠が公表されていません(注:4月3日時点で3機の墜落が確認されています)。

 TB2の最近の快挙を綿密に追跡し続けている人たちにとって、今次戦争での成功もそれほど不思議なものではありません。なぜならば、電子妨害となりすまし攻撃に対する耐性、(単に小さなサイズが要因でもたらされた)レーダー断面積の小ささ、そして(おそらく最も重要なこととして)遠距離からピンポイント攻撃可能な能力を組み合わせたことは、防空システムにとって探知と迎撃が最も難しい目標の1つとなることを意味しているからです。

 一方、「バイラクタルTB2」を開発した「バイカル・テクノロジー」社は、困窮にあるウクライナへより多くのUCAVを送ることに同意し、すでに第一陣が目的地に到着しています。[10]

 ウクライナの国家存続に対する明らかな脅威と、以前から続くトルコとウクライナの防衛企業の密接な協力関係を考慮すれば、TB2がさらに納入されると聞いて驚く人は少ないはずです(注:例としては「バイカル・テクノロジー」社とウクライナの国営武器輸出企業「ウクルスペツエクスポルト」との間で合弁企業「ブラックシー・シールド」を設立しており、さまざまな分野での軍事技術面での協力関係を構築しています。)。

 もちろん、引き渡す国が活発な戦闘地帯となった今、トルコの支援には明らかに政治的要素があると思われます。

 それにもかかわらず、最も強力なアセットの1つであるUCAVに大いに注目を集めないようにするため、ウクライナ国防省はTB2に関する公表を最小限に抑制し続けています。実際、今次戦争におけるTB2に関する既存のコンテンツは公式に発表される前に全てがオンライン上でリークされていたことから、ウクライナ軍がこのUCAVを実戦投入していながら、その運用を意図的に秘匿していることがさらに確認されたのです。

リークされた数少ない「バイラクタルTB2」による攻撃映像の1つに、ウクライナ戦線に必要な燃料を積んだロシアの補給列車を攻撃するシーンがあります。この攻撃はクリミア半島で行われたものですが、驚くべきことにロシア自慢の「S-400」中長距離SAMシステムの射程圏内でもあったのです。

 NATO加盟国になりたいというウクライナの強い願望とすでに加盟国であるトルコという立場が完全に違うにせよ、現時点で運用可能な最新鋭のUCAVの一部を送ることによって、トルコは過去数年で急速に発展した二国間関係を称賛しているようにみえます。

 したがって、トルコがロシアによる旧ソ連加盟国への一方的な侵略の際に態度を決定したことは、ほかの地政学的な大国からの怒りを買うリスクがあっても自国の権益を守る覚悟ができていること示すものと言う言うことができます。そうすることで自由なヨーロッパへの攻撃を打倒することに役立っているという事実が、偶然ながらもその決断をNATOの同盟国からの評判を良くさせ、その結果として、過去数週間でトルコに関するほとんどの西側諸国のナラティブに劇的な変化をもたらすに至りました。

 魅力的な「バイラクタルTB2」の活躍やその追加納入が国際報道で注目されているにもかかわらず、現時点におけるトルコの取り組みは、そのUCAVの能力のほんの一部に過ぎないのです(注:トルコはウクライナ・ロシア両国の停戦協議を仲介したり、その交渉舞台を提供するなど、外交面で積極的に関与していることは言うまでもありません)。

 極めて重要なことですが、「バイラクタルTB2」はリビアやナゴルノ・カラバフの活躍で紛争当事国の運命を決定づけることに成功したものの、トルコの「バイカル・テクノロジー」社が送り出した最新のハードウェアではありません。[11] 

 ウクライナにおける非情な戦争の第2週目が終わった今、ウクライナの窮状を支援する動機は高まるばかりであり、将来は友邦のトルコからの武器供与が増えるかもしれません(注:4月現在では、トルコからではなく、西側諸国からの多大な武器支援が始まっていることは周知のとおりです)。

 特に、「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲や「バイラクタル・アクンジュ」UCAVといった長距離精密誘導兵器システムは、ウクライナの田舎にある広々とした幹線道路で格好の標的にされた長い装甲車列が特徴になりつつある今次戦争では、確実に破壊的な存在となる可能性があります。

 UCAVが一旦標的を指定してしまえば、彼らは敵の防空システムの射程圏内に入ることなく無制限に大損害を与えることができるため、レーザー誘導砲弾・ロケット弾は実質的にTB2や「アクンジュ」が持つ兵装運用能力を拡張するものです。それゆえに、TB2や「アクンジュ」といったUCAVとレーザー誘導式ロケット弾である「TRLG-230」の相乗効果は抜群であると断言できます。

 ロシアによる侵略が危機的段階にあると思われますが、まさにこの種の兵器が再び国家の運命に影響を与えるかもしれません。

[1] A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/a-monument-of-victory-bayraktar-tb2.html
[2] An Unmanned Interdictor: Bayraktar TB2s Over Libya https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/an-unmanned-interdictor-bayraktar-tb2s.html
[3] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[4] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[5] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.htm
[6] https://twitter.com/MFA_Ukraine/status/1499647643978452994
[7] https://twitter.com/KyivIndependent/status/1499747524684488706
[8] https://9gag.com/gag/adgByjd
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1498692841526251526
[10] Ukraine receives more armed drones from Turkey during Russia crisis https://www.thenationalnews.com/world/2022/03/06/ukraine-receives-more-armed-drones-from-turkey-during-russia-crisis/
[11] Arsenal of the Future: The Akıncı And Its Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/arsenal-of-future-aknc-and-its-loadout.html

 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇 
 所があります。


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2022年4月2日土曜日

A-10に続け:新たなタンクバスター「バイラクタル・アクンジュ」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 A-10「サンダーボルトII」はCAS(近接航空支援)専用機として開発された機体であり、敵戦車を引きちぎったり強力な30mm機関砲で敵の地上部隊を掃射します。GAU-8「アヴェンジャー」ガトリング式機関砲の搭載を中心に設計されたA-10は、単に戦場に存在するだけでも、地上のどんな敵にも消えることのない恐怖感を与えるのに十分な「攻撃」となります。

 一見したところ、「バイラクタル・アクンジュ」はA-10を恐ろしい戦車ハンターにした要素を少しも備えられておらず、いかなる種類の砲熕兵装ですら装備されていません。

 しかし、戦争は変わりました。もはや航空機が敵の幅広い防空システムにさらされながら、機関砲や無誘導ロケット弾を主兵装に用いた低高度での対地攻撃を行うことはなくなるでしょう。

 現在 航空機の大部分は敵の地上目標を攻撃するために精密誘導弾に頼っており、敵の防空システムの「天井」をはるかに超えて飛行していることがよくあります。A-10のような機体でさえ、JDAMや「ペイブウェイ」シリーズのPGM(精密誘導弾)を搭載して、最終的にはこの戦術の転換に適応しなければならなかったのです。

 機体の生存性の確保については自身が(ステルス性や距離によって)検知されないままでいる方法に道を譲った一方で、現代における兵装の発展は搭載できるその量が機体自身の空力や速度を上回ることを意味するようにさせました。安価ながらも高精度な「MAM-L」誘導爆弾を用いたアゼルバイジャン軍の「バイラクタルTB2」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で少なくとも92台のアルメニア軍のT-72戦車を無力化しました。[1]

 かさばる装甲が「MAM-L」のような爆弾からのトップアタックに対して全く防御力をもたらさないことから、彼らの成功は「戦車の終焉」がついにやって来たのではないかという主張の登場にも至らせました。

 しかし、ナゴルノ・カラバフ戦争は火力支援プラットフォームとしての戦車の終焉を告げるものではなく、実際には高強度紛争における無人機の投入に関する実現可能性を証明するものでした。このような状況下でTB2は非常によく機能し、わずか2機の損失が確認された一方で少なくとも548のアルメニアの標的を破壊したと言うことができます。[1]

       

 2019年と2020年にリビアとシリアで無力化されたものを含めると、破壊された戦車の数はさらに増えます。この国々では、TB2が少なくとも30台以上の戦車を破壊したことが確認されています。

 ここで、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビアで「バイラクタルTB2」によって破壊されたことが視覚的に確認された戦車の一覧を以下に示します。


戦車 (124:破壊)


 2021年8月に最初の「バイラクタル・アクンジュ」が就役したことで、バイカル社のUAVファミリーの対戦車能力が高まっているように見えます。

 実際、TB2と比較すると、「アクンジュ」は最大で18発の「MAM-L」(または任務の必要性に応じて「MAM-C」)を搭載することが可能です(注:TB2の最大搭載量は4発)。この能力は、「アクンジュ」をたった1回の出撃で装甲車列の全体を壊滅させたり、前進する部隊に先駆けて敵を取り除くことで地上の攻勢を支援するための完璧なシステムとして位置づけています。

 ロケトサン社の「MAM-L」は、UAVや軽攻撃機での使用を想定して開発された精密誘導爆弾です。「MAM」シリーズは、静止・移動目標の両方を高い精度で攻撃することが可能であり、これまでもいくつかの紛争で活躍が見られました。

 新たにINS/GPS誘導方式を「MAM-L」に導入したことは、その射程距離を7kmから14km以上へと劇的に延長し、現在世界中で運用されているほとんどの(ロシアの)移動式防空システムをアウトレンジすることを可能にさせました。



 「アクンジュ」は無人機戦の分野に多くの斬新な能力をもたらしています。その目新しさから、これらの能力だけに焦点を当てることは、おそらく理にかなっているでしょう。

 ただし、既存のUCAVよりもペイロードが増加したという単純な事実も同様に重要です。実戦で18発の「MAM-L」を搭載するケースが実際に発生することは起こりそうもありませんが、これは「アクンジュ」が持つ素晴らしいペイロードと現代の最も恐ろしい空飛ぶ駆逐戦車の1つとしての可能性を示しています。

 新しい兵装が「アクンジュ」と共にめざましい勢いで開発されており、このことはドローン技術が常に敵の対抗策より先を行くことを確実なものにしています。無人航空戦の未来がついに到来した暁には、「アクンジュ」がその最前線に立つかもしれません。



[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html

※  当記事は、2021年9月17日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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