2022年1月18日火曜日

「ピース・キーパー」となるか?:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナ東部での紛争地域で分離主義勢力である自称「ドネツク人民共和国(DNR)」の榴弾砲をウクライナがドローン攻撃をしたことは、いくつかの国にドンバス戦争における無人戦闘航空機(UCAV)の使用について懸念を表明させるまでに至りました。[1]

 興味深いことに、懸念を表明したのはドイツやフランスであり、これらの国々にロシアは含まれていませんでした。[2] [3]

 2021年10月26日に実施されたこの攻撃以来、ウクライナとロシアの緊張はここ数年で最も高くなっており、ウクライナとの国境付近に大規模なロシア軍部隊の増強が依然として継続中のため、全面戦争が差し迫っている可能性について懸念を引き起こしています。[4]

 ウクライナは「バイラクタルTB2」を用いて分離主義勢力の「D-30」榴弾砲を無力化したことで、彼らを支援するモスクワへ警鐘を鳴らしたようです。

 ウクライナ東部の分離主義勢力は、現時点で高高度を飛行する「バイラクタルTB2」に効果的に対抗できる地対空ミサイル(SAM)システムを保有していません。

 過去にロシアはウクライナ東部に「トール-M1」「パーンツィリ-S1」、そして「ブーク-M1」を配備することでDNRの防空戦力を増強したことがありますが、これが2014年7月のマレーシア航空17便の撃墜という悲劇につながったため、これらの配備を繰り返す決定が軽視されることはないでしょう。[5]

 現代的なSAMを保有していない分離主義勢力の部隊については、その不足分以上のものをロシア軍が電子戦(EW)装備でカバーしており、「クラスハ-2」「レペレント-1」を含む最先端のEWシステムをウクライナ東部に前身配置させています。[6]

 ただし、これらのシステムはナゴルノ・カラバフにおける戦闘でTB2の運用を妨害できないことを実証したため、同様にこれらがウクライナのいかなる地域を飛ぶTB2に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[7] [8]

 このことは、ウクライナによるTB2の使用が、全面戦争へと激化させる材料となるロシアの防空システムや戦闘機の大規模な投入によってしか阻止できないというきっかけとなる可能性を暗示しています。

 また、これはドンバス戦争におけるTB2の投入が、基本的にロシアによる紛争の深刻な激化という脅威の下での報復攻撃に制限されることも意味しています。この点を考慮すると、ウクライナによるTB2の使用が、実はロシア・ウクライナ間の戦争を安定化させる要素となる可能性があると主張することができます。

 榴弾砲への空爆では人命の損失をもたらさず、ウクライナ軍との砲撃戦に発展する事態を防ぎました。さらに、この空爆は分離主義勢力に対して、今後のいかなる挑発も「バイラクタルTB2」を再度使用する可能性があるという警告として機能し、今後の武力挑発の制限に大きく貢献してくれるかもしれません。

 ドローン攻撃による武力挑発に対する警告は、TB2のオペレーターが陣地に配備された3門の榴弾砲のうち1門だけを攻撃したという事実からも証明されています。この判断は、明らかに分離主義勢力に砲撃を中止させるための相応の警告と考えられます(注:警告でなければ、ウクライナは1門ではなく3門全部を破壊したでしょう)。

 ロシアとの全面戦争が始まることで引き起こされる人道面での大惨事は、ウクライナ側にTB2を(現時点では明らかに検討から外されている)分離主義勢力が支配する地域の奪還や保有する大砲を破壊するための試みといった報復攻撃以上での使用を思いとどまらせるには十分でしょう。

「MAM-C」誘導爆弾によって破壊される直前のDNR軍の「D-30」榴弾砲。空爆を受けなかった別の「D-30」が右下に映っていることに注目。

 ロシアは「このような武器(TB2など)がウクライナ軍に引き渡されることで、交戦ラインの状況が不安定になる可能性がある」旨を主張しています。[9]

 その一方で、トルコは、ウクライナの「バイラクタルTB2」がどのように使われようと責任を負わないという立場をとっています。

 ウクライナへのTB2納入に関するロシアの非難に対して、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣は「もし、とある国家が我々から(兵器を)購入すれば、それはもはやトルコの製品ではありません。それはトルコで製造されたかもしれませんが、ウクライナに属しています。トルコはこれ(使用)について非難することはできないのです」と反論しています。[10]

 トルコ南東部のクルド労働者党(PKK)部隊に使用されることを懸念したアメリカや欧州から武器調達を頻繁に阻止されてきたトルコが、他国に自国製兵器を配備できる・できないといった制限を課す可能性は低いと思われます。

 ロシアは歴史的に地域の不安定な状況を防ぐことに少しも配慮を示したことがありません。実際、ロシアはキプロス(注:キプロス共和国)に「S-300PMU-1」地対空ミサイル(SAM)システムを装備させようとした1990年代後半に、このキプロスにおけるS-300危機の中心にありました。

 トルコが「S-300」を引き渡さないよう嘆願したにもかかわらず、ロシアはキプロスへの売却については何ら干渉を受けることなく進めると繰り返し主張し、キプロスとトルコの間の緊張状態を戦争に差し迫った段階にまで高めてしまったのです(注:キプロス島は国際的に承認された「キプロス共和国」とトルコが支援する「北キプロス・トルコ共和国」の南北に分断されており、武力衝突が頻繁に繰り返されています)。[11]

 ロシアは「S-300」の引き渡しが地域のバランスを大幅に激変させるというトルコの懸念には屈服する意思が全く無いことを示し、最終的にキプロスが島へ「S-300」の配備に反対する決定をしてこの危機が回避されたのでした。

 それから約20年後の2018年、ロシアはイスラエルから「このような兵器の引き渡しは脆弱な地域をさらに不安定にする可能性がある」旨の抗議を受けたにもかかわらず、キプロスと同じ状況下でシリアに「S-300」を引き渡しました。[12]

キプロスに引き渡されるはずだった「S-300PMU-1」中隊は現在ギリシャのクレタ島に配備されています。このSAMはキプロス政府が自国への配備に反対したことを受け、最終的にこの島に行き着きました。

 2019年以降、ウクライナは空軍と海軍航空隊に少なくとも12機の「バイラクタルTB2」を配備していますが、2021年9月には、今後数年で24機のTB2を追加購入する計画であることを明らかにしました。[13][14]

 ウクライナは、有人戦闘機にかかるコストのほんの一部しかかからないUAVに自国軍の近代化を大きく委ねています。空軍の老朽化した作戦機を代替して現実的な抑止力を構築するには、武装したドローンの導入が唯一の現実的な方法と思われ、将来的には「バイラクタルTB2」の追加購入や新型の「アクンジュ」を導入することが予想されます。トルコは、まさにこの点でウクライナを支援する意向があるようです。

 今や差し迫った戦争の話題でもちきりですが、ウクライナ東部での紛争は平和的な手段のみによって現実的に対処できると考えます。しかし、より長期的な平和をもたらす紛争が実際に解決されるにはまだ何年も先のことになる可能性が高く、その間も挑発行為が間違いなく続くでしょう。

 ウクライナによるドローン攻撃の脅威は、分離主義勢力に大砲の使用を含む今後のいかなる武力挑発の実行を思いとどまらせる可能性がある一方で、東部の国境沿いに展開するロシア軍の存在は、ウクライナにTB2を用いた独自の挑発行為を行わせないようにする強い抑止力として機能しています。

 ウクライナとロシアは、本質的にウクライナ東部の状況に関して膠着状態にあります。

 ここ最近の緊張の高まりは戦争の脅威の激化に大いに貢献しており、平和的解決に向けた交渉をより興味深いものにしています。

 一部のアナリストや世界中の紛争ウォッチャーはウクライナ東部でナゴルノ・カラバフのシナリオが繰り返されることを想定しているかもしれませんが、ウクライナを飛ぶ「バイラクタルTB2」の存在は予想とは反対に平和の維持に大きく貢献する可能性があるのです。



[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців https://youtu.be/XEY4qPO1ffU
[2] Ukraine Angers Russia by Buying Turkish Drones and Wants To Get Its Hands On More https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-03/ukraine-buys-more-armed-drones-from-turkey-than-disclosed-and-angers-russia
[3] Ukraine - Q&A - (28 Oct. 2021) https://www.diplomatie.gouv.fr/en/country-files/ukraine/news/article/ukraine-q-a-28-oct-2021
[4] Baptism By Fire - Ukraine’s Bayraktar TB2 See First Use https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/baptism-by-fire-ukraines-bayraktar-tb2.html
[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/
[6] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[7] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[8] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl
[9] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[10] Turkey Says Cannot Be Blamed for Ukraine’s Drone Use https://www.thedefensepost.com/2021/11/01/turkey-ukraine-drone-use/
[11] Cyprus bows to pressure and drops missile plan https://www.theguardian.com/world/1998/dec/30/cyprus
[12] Three Russian S-300PM battalion sets delivered to Syria free of charge — source https://tass.com/defense/1025020
[13] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[14] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs

※  当記事は、2022年1月7日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年1月15日土曜日

パフォーマンス・チェック:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナのトルコ製「バイラクタルTB2」の導入とその後の実戦投入は、ウクライナ東部の分離主義勢力と(DNR:ドネツク人民共和国とLPR:ルガンスク人民共和国に広範囲にわたる軍事支援を提供してきた)ロシアにとって重大な懸念事項となっています。

 ウクライナ東部の分離主義勢力部隊は、ロシアから供与されたかなりの数の対空砲や「9K33 "オーサ-AKM (NATOコード:SA-8)"」「9K35 "ストレラ-10 (SA-13)"」 を含む地対空ミサイルをを運用していますが、これらの大部分は高度約5kmの頭上を飛行する「バイラクタルTB2」のようなUCAVを標的とするための有効射程距離と高度に到達する能力を持っていません。

 しかし、分離主義勢力部隊の防空戦力は短距離SAMシステムだけで構成されていると考えるのは誤りであり、彼らが支配するウクライナ東部には防空戦力のギャップを埋め合わせをするための「クラスハ-2」「レペレント-1」といったロシアの電子戦(EW)システムが多数配備されています。

 ただし、アルメニア軍で運用されていたロシアの最新鋭のEWシステムでさえ、ナゴルノ・カラバフ上空の「バイラクタルTB2」との戦闘で成功を収めなかったことを考えると、現時点でこれらがウクライナ全域におけるTB2の運用に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[2] 

 将来的にウクライナ東部の状況がエスカレートした場合、ロシアは「自国軍のSAM」をこの地域に配備する可能性があります。実際、2014年の時点でロシアはすでにウクライナ軍の「Su-24」と「Su-25」に頻繁に狙われていた分離主義勢力部隊へ「防空の傘」を提供するべく「パーンツィリ-S1」「トール-M1」「ブーク-M1」をウクライナ東部に配備したことがあります。[3]

 これらのSAMは先述の敵機をいくらか撃墜することに成功したものの、そのより高度な最新モデルは、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフにおいてTB2にほとんど無力であることが実証されました。

 したがって、ロシアが直面している課題は、現時点でウクライナ東部に配備されている防空・EWシステムではTB2の運用を阻止できないと思われることだけでなく、より最新のシステムでさえTB2などのUCAVに対抗することが同様に困難である可能性があるということです。

ロシアが供与した9K33/SA-8「オーサ-AKM」(2021年5月、ルガンスクでの軍事パレードにて)

ドネツクの9K35/SA-13「ストレラ-10」 (SA-13) :これも9K33と同様にロシアから供与された

 ロシアはこれ以上なく矛盾した2つの公的な立場をとり続けています。

 一方では、ウクライナへの「バイラクタルTB2」の納入がモスクワを憤激に至らせており、彼らに「このような武装(TB2)をウクライナ軍へ引き渡すことは、潜在的に最前線の状況を不安定にするかもしれない」と主張しています。[4]

 もう一方では、モスクワはTB2の成功を頻繁に軽視しようとしており、ウクライナ東部における分離主義者の支配地域に存在する防空システムでTB2に対抗できると主張しています。[5]

 ロシア国営放送のインタビューで、ロシア航空宇宙軍・対空ミサイル部隊の副司令官であるユーリ・ムラフキン大佐は「バイラクタル(TB2)は、平均的なスキルを持つオペレーターでさえも撃墜することが難しくないほどの速度と質量及び寸法上の特性を持っている」と「バイラクタルTB2」は防空システムにとって実際に撃墜するのが容易な標的であると述べ、彼はシリアとリビアに配備された「パーンツィリ-S1」が40機以上のTB2とTAI「アンカ」を撃墜したとも主張しました(リビアとシリアで喪失を裏付ける視覚的証拠があるTB2と「アンカ」は19機だけです)。[6]

 これに続けて、ムラフキン大佐は、TB2について「非常にお手軽な目標であり、パーンツィリにとって非常に魅力的なものだ」とも言い切りました。シリアとリビアで11基の「パーンツィリ-S1」が撃破されたことが目視で確認されたことの弁明で、ムラフキン大佐は単純にパーンツィリが作動状態になかったか、オペレーターなどの乗員が不在であったためだと説明しました。 [7]

 これは明らかに真実ではなく、このような発言は国内の視聴者を喜ばせることを目的としていると考えられます。[8]

 現実には、「パーンツィリ-S1」、「トール-M2」、そして「ブーク-M2」を含む自国製の防空システムの大部分と交戦できるTB2の能力を目の当たりにしたロシアは、TB2のようなUCAVに効果的に対抗するための新たな解決策を考え出す必要に迫られています(ただし、TB2による「ブーク-M2」の撃破は未だに視覚的に確認できていません)。[9]


バイラクタルTB2によって撃破されたロシア製地対空ミサイル(SAM) システム (37)

 ロシアでは、敵対国の兵器システムの出来栄えを軽視し、自国の軍事装備の成果を誇張するのが慣習となっています。

 2018年4月にアメリカ、フランス、イギリスがシリア軍によるドゥーマ市街への化学兵器攻撃の報復として一連の巡航ミサイル攻撃を行った際、ロシアはシリアの防空システムが飛来した103発の巡航ミサイルのうち71発の迎撃に成功したと主張しました。[10]

 それでも、明らかに戦果を誇示する機会があったにもかかわらず、撃墜したとされるミサイルの残骸は1発も公開されることはありませんでした。[10]

 アメリカは発射した全ミサイルが目標に命中したと断言した一方で、シリアの防空部隊が発射した40発のミサイルは全弾が無駄に終わったとの認識を示しました。興味深いことに、大半の地対空ミサイルは最後の巡航ミサイルが標的に着弾した後に発射されたとのことです。[11]

リビア国民合意政府の部隊が制圧したアル・ワティーヤ空軍基地で鹵獲されて移送中の「パーンツィリ-S1」。このシステムは後にトルコに引き渡され、徹底的に検査やテストされたことは確実と思われます。

 ほぼ間違いなくSAMよりも散々たるものだったのは、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争においてアルメニア側で使用されたロシア製電子戦(EW)システムの能力でした。アルメニアのニコル・パシニャン首相はロシアから導入したばかりの(「レペレント-1」と思しき)EWシステムについて、「それは単に機能しなかったのだ。」と厳しい批判の声を上げました 。

 このような事例に関して「使用されたシステムが旧バージョンだった」や「オペレーターの訓練が不十分だった」という(輸出された防空システムの損失を説明するロシア側の主張と同様の)反論があるかもしれませんが、実際のところ、アルメニアが使用したEWシステムは現在ロシアが売り込んでいる最新のシステムなのです。


バイラクタルTB2に対して使用されたが効果を発揮しなかった電子妨害・攪乱システム

ヴォロネジでロシア兵たちがEWによる「バイラクタルTB2」との戦闘を想定した訓練で説明を受けている

 現代戦の現実に順応できていないロシアとアナリストの双方は、最新の防空・EWシステムに直面した「バイラクタルTB2」の成果と潜在力を頻繁に軽視しようと試みています。

 しかし、そのようなUCAVによってもたらされる脅威は非常に現実的なものです:シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフでの作戦は、最新の防空システムが「UCAVに対抗できるのか、またはその任務を大幅に妨害できるのか」という深刻な疑問を世に投げかけています。

 同じシナリオがウクライナ東部で展開される可能性は決してあり得ないことではありません。高性能の防空システムや戦闘機をこの地域に大規模に投入することだけが、現在発生している戦力バランスの著しい転換の逆転に大いに貢献することでしょう。

 忘れがちですが、ウクライナと分離主義勢力の武力衝突は現在も続いています。冷静な判断によって、この紛争が(最近噂されている)ロシアとの大規模な戦争に発展しないことを祈るばかりです。



[1] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[2] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[3] Russian 96K6 Pantsir-S1 air defence system in Ukraine https://armamentresearch.com/russian-96k6-pantsir-s1-air-defence-system-in-ukraine/
[4] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[5] Drones Could Tip Balance In Ukraine War — For Russia https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/12/02/how-drones-could-tip-balance-in-ukraine-russia-conflict/
[6] Russian Pantsir Systems Shot down 40 Turkish Drones over Syrian, Libya https://www.defenseworld.net/news/31022/Russian_Pantsir_Systems_Shot_down_40_Turkish_Drones_over_Syrian__Libya
[7] VIDEO: This is how the Russian anti-aircraft system Pántsir-S works against drones https://marketresearchtelecast.com/video-this-is-how-the-russian-anti-aircraft-system-pantsir-s-works-against-drones/230858/
[8] Here are just two examples of Pantsir-S1s being struck while their radar is active: https://twitter.com/RALee85/status/1263104642315104256 and https://twitter.com/clashreport/status/1234952336319143938
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1234933018978111492
[10] Russia: Syria air defence intercepted 71 missiles https://www.aljazeera.com/news/2018/4/14/russia-syria-air-defence-intercepted-71-missiles
[11] Allies dispute Russian and Syrian claims of shot-down missiles https://www.theguardian.com/world/2018/apr/14/allies-dispute-russian-and-syrian-claims-of-shot-down-missiles
[12] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar

※  当記事は、2021年12月29日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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ティグレ戦争:イラン製「モハジェル-6」UCAVがハラールメダ空軍基地に配備された(短編ニュース記事)

ハラールメダ空軍基地の「モハジェル-6」(PAX For Peace ・Wim Zwijnenburg からの引用)

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年12月上旬の衛星画像から、エチオピア空軍(ETAF)がエチオピアの首都アディスアベバ近郊にあるハラールメダ空軍基地に「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)を配備していることが判明しました。[1]

 ETAFは8月上旬にイランから2機の「モハジェル-6」を調達し、続いてエチオピア北東部のセマラ空港に配備したことが知られていましたが、今回ハラールメダで目撃された「モハジェル-6」が8月に引き渡された2機のうちの1機なのか、それとも現在も続いているイランからの貨物便で(最近に)届けられた新納機なのかは不明です。[2][3]

 後者は、イランの影響力と周辺地域への武器輸出を制限しようと試みているアメリカを大いに怒らせることになるでしょう。ニューヨーク・タイムズの調査によると、すでにアディスアベバのアメリカ政府関係者はエチオピアのアビー・アハメド首相にイランからの支援と同国への貨物便について非公開で抗議し、打ち切るよう促しているとのことです。[4]

 「モハジェル-6」はエチオピア側の大きな期待を胸に受けて導入されたものの、2021年8月に引き渡されてからほぼ同時にこの国における運用キャリアを一度は終えてしまったようです。なぜならば、導入された2機は制御システムの問題で実際にエチオピア上空での飛行することが阻害されたため、すぐに駐機(放置)状態にされてしまったからです。[5]

 この失態は間違いなくETAFを大いに幻滅させたことでしょう。次に彼らのUCAVの導入が確認されたのは、中国から「翼竜Ⅰ」が届けられた2021年9月中旬のことでした。[6]

 「モハジェル-6」が抱える問題がやっと解決されたと思われるには2021年10月下旬までの時間がかかったようです。つまり、エチオピアに到着してから約2ヶ月半も後になってのことだったのです!

 2021年11月初旬にかけて、2機の「モハジェル-6」がセマラ空港の滑走路や駐機場で定期的に確認されており、この状況は、今やこれらがティグレの軍隊に対して定期的な飛行任務を実施するようになったことを示しています。 [7]

イランにおける「モハジェル-6」UCAV(エチオピアとは無関係の画像です)

ヘッダー画像は、PAX For Peace の Wim Zwijnenburg(敬称略)から引用したものです。  

[1] https://twitter.com/wammezz/status/1477399049342967810
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[4] Foreign Drones Tip the Balance in Ethiopia’s Civil War https://www.nytimes.com/2021/12/20/world/africa/drones-ethiopia-war-turkey-emirates.html
[5] Unfit For Service: Ethiopia’s Troublesome Iranian Mohajer-6 UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/unfit-for-service-ethiopias-troublesome.html
[6] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[7] Ethiopia now confirmed to fly Chinese armed drones https://paxforpeace.nl/news/blogs/ethiopia-now-confirmed-to-fly-chinese-armed-drones

※  この翻訳元の記事は、2022年1月2日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



2022年1月11日火曜日

草原の守護者:カザフスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 2021年11月、カザフスタンはトルコ航空宇宙産業(TAI)との間で3機の「アンカ」無人戦闘航空機(UCAV)を導入する契約を結んだことが公表されました。[1]

 これらの新規調達は、カザフスタン空軍が中国から4機の「翼竜Ⅰ」を導入した初の無人機戦力を獲得して以来、 約6年後の出来事となります。[2]

 カザフスタンは自国の武装ドローン計画を押し進めるために中国製UCAVをさらに購入するのではなく、2021年にトルコに目を向けたという結果になりました。カザフスタンにUAVを供給しているもう1つのサプライヤーはイスラエルですが、同国は(徘徊兵器以外の)UCAVを海外に輸出していないため、必然的にその候補から外れたようです。

 トルコ製TAI「アンカ」の導入は、カザフスタンがこのUCAVの調達を検討しているという長年続く憶測にようやく終止符を打ちました。すでに2018年には、カザフスタン航空産業(KAI)がTAIとカザフタンで「アンカ」UAVとTAI「ヒュルクシュ」高等練習機を生産する契約を結んだと報じられていました。[2]

 ところが、この合意は実現しなかったようであり、しばらくの間、最終的にはイスラエルがカザフスタンへ「翼竜Ⅰ」以外の中高度・長時間滞空(MALE)UAVを納入する契約を得るだろうと考えられていました[3] [4]。

 たった4機の「翼竜Ⅰ」の発注は、カザフスタンが無人機戦のドクトリン構築と訓練や、後でさらに多数導入する機種を決定するために調達されたことを示す可能性があります。
           
 カザフスタンはミャンマーに続いて、中国の隣国としては2番目に中国製UCAVを導入した国となりました。[5]
          
 中国が自国との国境付近でUCAVの運用に何らかの制限を課しているかどうかは不明ですが、納入された「翼竜Ⅰ」は中国との国境から約800km離れた、最近「バイラクタルTB2」の運用国になったキルギスに近いタラズに配備されています。[6]

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」は2017年の「祖国防衛の日」の軍事パレードで初公開され、この時には2機がアスタナ(現ヌルスルタン)の通りを行進しましたが、アゼルバイジャンやトルクメニスタン、そしてウクライナといった国で見られるようなパレード会場上空でのフライパスやトレーラーに搭載されて登場するのではなく、皮肉にもアメリカ製HMMWVに牽引される形で初披露されてしまいました。

 後に1機の「翼竜Ⅰ」が軍事・技術展示会「KADEX-2018」にも登場し、ここでは会場で展示されました。[7]

2017年にヌルスルタンで実施された軍事パレードに登場した2機の「翼竜Ⅰ」

 「翼竜Ⅰ」と共に、少なくとも2種類のイスラエル製偵察用UAVと少数のロシア製「オルラン-10E」ドローンが運用されています。

 エルビット・システムズ社製「スカイラークⅠ-LEX」は、2014年にカザフスタン軍が初めて運用を開始した無人偵察機です。この機種は、カザフスタンとエルビット・システムズ社の合弁事業を通じてカザフスタン国内でも生産されています。[8]

 しかし、この国の無人兵器に対する熱意は単に外国製の機体を組み立てるだけに終わらず、今やそれを超えて拡大しつつあります。すでにカザフスタンには新興のUAV研究開発機関が存在しており、これまでにいくつかのドローンが生み出されてきました。

 それらの中で最も見込みがある国産UAVが「シャガラ」であり、同機は2021年初頭に国家試験に合格しました。[9] [10]


無人偵察機 - 現役


無人戦闘航空機 - 現役

無人航空機 - 試作


 「翼竜Ⅰ」と一緒に「ブルーアロー7」空対地ミサイル(AGM)と「YZ-100」誘導爆弾もカザフスタンに導入されました。「翼竜Ⅰ」用の高度な兵装は調達されていないと考えられており、同機は機体の下にある前方監視型赤外線装置(FLIR)のみで各種任務を遂行します。

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」が「ブルーアロー7」を用いて模擬標的を攻撃した映像はここで視聴することができます。 [11]

 また、同国で運用される「翼竜Ⅰ」と「スカイラークⅠ-LEX」に関するドキュメンタリー番組ここで視聴することができます。[12]

 2017年にカザフスタンに納入された後の「翼竜Ⅰ」は、先述のとおりキルギスとの国境に近いタラズ空港を拠点にしています。

 かつてタラズ空港は約40機の「Mi-17」と18機の「Mi-26」を有する第157ヘリコプター連隊の本拠地でしたが、1990年代には同連隊の動きが縮小され始め、「翼竜Ⅰ」が配備される以前の時点でこの基地は民間用の空港にされてしまいました。

 現在、かつて「Mi-26」が使用していた場所には4つの格納庫が設けられています。このうちの1棟だけが「翼竜Ⅰ」の格納庫であり、残りの3棟は地上管制ステーション(GCS)や運用に必要な装備資機材や車両用として使われているようです。

2機の「翼竜Ⅰ」がタラズ空港にある格納庫の前で駐機している(2019年6月20日)

 もうすぐカザフスタンは、中国、イスラエル、そしてトルコから入手した数多くのUAVを運用する国となる予定です。

 これらの外国製を導入することに加えて、この国はイスラエル製UAVの国内での組み立てや国産無人UAVの設計・製造を通じて、自国の防衛産業を(UAV関連の事業に)関わらせる意図も持っています。

 2020年11月には、カザフスタンもトルコの「バイラクタルTB2」の導入に関心を寄せていると報じられています。[13]

 TB2の導入が本当に実現するかは不明ですが、カザフスタンが既存のUAV戦力をさらに拡大するための新たな方法を模索することは間違いないでしょう。

カザフスタン空軍向けのTAI「アンカ」初号機

[1] Kazakhstan buys 3 Turkish Aerospace-made Anka UCAVs: Report https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-buys-3-turkish-aerospace-made-anka-ucavs-report
[2] Turkey to Develop UAVs with Kazakhstan https://www.uasvision.com/2018/05/29/turkey-to-develop-uavs-with-kazakhstan/
[3] Israeli UAVs Will Soon Be Manufactured In Kazakhstan https://caspiannews.com/news-detail/israeli-uavs-will-soon-be-manufactured-in-kazakhstan-2019-8-8-40/
[4] Israeli IAI Sold Two Heron MKII UAV To Kazakhstan https://www.globaldefensecorp.com/2021/01/29/israeli-iai-sold-two-heron-mkii-uav-to-kazakhstan/
[5] Chinese drones a killer eye in the sky in Myanmar https://asiatimes.com/2021/05/chinese-drones-a-killer-eye-in-the-sky-in-myanmar/
[6] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[7] KADEX 2018: Kazakh Air and Air Defence Forces draw Wing Loong I MALE UAV https://www.armyrecognition.com/kadex_2018_news_official_show_daily/kadex_2018_kazakh_air_and_air_defence_forces_draw_wing_loong_i_male_uav.html
[8] Factory for production of SkyLark-1LEX UAVs opens in Kazakhstan https://www.israeldefense.co.il/en/node/49945
[9] Ұшу аппараттары І Ғылым https://youtu.be/bVN4SHRUgak
[10] Kazakhstan’s ‘Shagala’ Drone Completes Test Flights https://www.uasvision.com/2021/02/12/kazakhstans-shagala-drone-completes-test-flights/
[11] Қазақстандық армия ҰҰА қарқынды дамытуда / БПЛА: казахстанская армия развивает оружие будущего https://youtu.be/-Ji7SKRjwnM
[12] «AQSAÝYT». Қарулы Күштеріміздің қолданысындағы ұшқышсыз ұшу аппараттарының мүмкіндігі қандай? https://youtu.be/W9fEC7cjSOY
[13] Kazakhstan may ditch Chinese UAVs for Turkish Bayraktar TB2s, Russian media claims https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-may-ditch-chinese-uavs-for-turkish-bayraktar-tb2s-russian-media-claims

  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した      箇所があります。 


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2022年1月8日土曜日

黒海のハンター:ウクライナ海軍の「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 3度の戦闘でその実力を証明した「バイラクタルTB2」UCAV(無人戦闘航空機)は、急速に国際的な輸出の成功を収めています。

 このUCAVは単に世界中の多くの国で採用されているというだけではなく、これらの国のいくつかの異なる軍種でも導入されています。トルコでは、陸軍、海軍、ジャンダルマ総司令部(国家憲兵隊)、警察総局、国家情報機構で採用されています。この配分は、軍やその他の国家機関の各部門が、それぞれに必要な任務にTB2を使用することを保証します。任務の例としては、エーゲ海での監視やトルコ南部での山火事の監視などがあります。

 アセットの配分について慎重にバランスを取っているのはトルコだけではありません。複数の軍種でTB2を導入したもう1つの運用国はウクライナです。同国は、2019年に空軍用に「バイラクタルTB2」を(全54機を発注したうちの)最初の6機を調達した後、2021年には海軍用に6機のTB2を導入しました。

 2021年7月に海軍最初のTB2が到着したことで、1992年の海軍航空隊の創設以来、初めて斬新な戦力の導入が記録されたのです。実際、約30年間で得た唯一の「新しい」アセットは、2018年に就役した中古の「Ka-226」多用途ヘリコプターでした。[1]

 したがって、海軍用TB2の導入に関する重要性をいくら強調しても誇張しすぎることにはなりません。同機の導入自体が2014年のロシア・ウクライナ戦争勃発後にウクライナが始動した再軍備計画のハイライトの一つとなっています。

 「バイラクタルTB2」のようなUCAVのコストは、有人戦闘機のたった数分の一であることから、資金不足で苦しんでいるウクライナが近代化への取り組みを押し進めるためにTB2に大きく依存していることは驚くに当たりません。

 一部の人々は、ロシアを抑止するためにウクライナはF-15戦闘機、E-2「ホークアイ」早期警戒(AEW)機、KC-135空中給油機やそれらに関連する兵装や照準装置に投資することが賢明だと提唱していますが、TB2のようなプラットホーム、徘徊兵器そして「バイラクタル・アクンジュ」への継続的な投資は、実際の戦時能力とともに、より経済的で現実的な抑止力をウクライナにもたらすことはほぼ確実と言うことができます(注:「アクンジュ」にはウクライナ産のエンジンが使用されています)。[2]

       

 海軍で運用されるTB2が戦力増強装備としてに役立つことができる具体的な例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。

 CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイルRK-360MT「ネプチューン」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。

 小型のミサイル艇を建造する代わりに、このような陸上配備型の対艦ミサイルシステムを大量に生産することでウクライナのCDSアセットの生存性を高め、戦争が勃発した際にはこの新たに作り上げた抑止力をより長く維持することが可能となります。

 この目標の達成に向けた動きは順調に進んでいるようであり、ウクライナは2025年までに「ネプチューン」CDSを装備した3個師団の運用をしたいと望んでいるようです。[3]



 「バイラクタルTB2」は自身が搭載する4発の「MAM-L」誘導爆弾を用いて、敵艦などの精密打撃を必要とする標的を攻撃することもできます。

 この誘導爆弾が誇る7kmの最大射程は、ロシア海軍の黒海艦隊の(「モスクワ」などの4隻を除く)全艦艇に搭載されている防空システムの有効射程をすでに上回っています(注:ここでの防空システムは4K-33M/SA-N-4「オーサ」を指すと思われるますが、通常の場合であれば有効射程が10km程度であるため、TB2には十分に対抗できることに留意する必要があります)。

 「MAM-L」にINS/GPS誘導能力が導入されたことで射程距離はさらに14km以上に伸びたものの、優良な防空システムを装備している4隻の艦艇をアウトレンジするには不十分なままです。



 海軍のTB2には、WESCAM「MX-15D」FLIRシステムや「MAM」シリーズ誘導爆弾といった多数の実績のあるシステムが装備されているほか、2019年にウクライナ空軍が導入したものよりも多くの改良が加えられています。

 最も注目すべき点は、改良型の通信距離が従来型の150kmから最大で300kmに延長されたことでしょう。また、専用の地上管制ステーションにも若干の改良が施されたようであり、この新しいコンテナベースのシステムは(移動面で)より高い機動性をもたらします。

 海軍のTB2は、空軍と共同で運用しているムィコラーイウ-クルバキノ空軍基地に駐留する第10海軍航空旅団で使用される予定となっています。同基地は、2014年初頭のロシアによる占領後に、クリミア半島からの待避を余儀なくされたウクライナ海軍航空隊が運用可能な唯一の飛行場です。[4]


 
 ソ連崩壊後、ウクライナは空母1隻、誘導ロケット巡洋艦1隻、フリゲート5隻、「ズーブル」級揚陸ホバークラフト数隻、潜水艦1隻という膨大な海軍を受け継ぎましたが、同国は1990年代と2000年代における財政上の混乱によって大きな打撃を受けました。

 ウクライナ海軍は、空母や巡洋艦などの大型艦の運用について現実的に期待することはできませんでしたが(そもそもそのような巨艦を必要としていませんでした)、フリゲートやコルベット、そしてミサイル艇の運用でさえも財政的に不可能となってしまったのです。

 結果として、海軍はほんの数年のうちにほぼ全ての大型船を退役させ、現在まで同海軍の中核を形成し続けている、旧式化した艦艇から成る小さな「艦隊」だけを残しました。

 海軍航空隊も同様の苦難に直面しました。彼らもソ連からSu-17、Su-27やMiG-29を含む見応えのある兵器を受け継いでおり、ソ連海軍航空隊のTu-22やTu-22Mといった爆撃機は空軍の長距離航空集団に引き継がれましたが、海軍と同様にこれらも僅か数年のうちに失う結果となってしまいました。

 その代わり、かつてのウクライナ海軍が保有していた兵器が中国の空母機動部隊の設立に極めて重要なものとなりました。(2012年に改装されて「遼寧」号として就役した)「アドミラル・クズネツォフ」級空母を中国に売却したことを別として、ウクライナは空母艦載機であるSu-33を2機とSu-25UTGを1機も中国に売却しました。それらを広範囲に研究した結果として、最終的にJ-15の誕生に至ったのです。

 中国が無関心でなければ、ウクライナが引き継いだTu-142対潜哨戒機やYak-38M VTOL戦闘機といったほかの海軍機も間違いなく中国にたどり着いていたことでしょう。

新たな所有者(中国)の人々と旧ウクライナ機であるSu-33試作機

 TB2の(トルコとウクライナ)2つの海軍航空隊への商業的な成功は、海洋プラットフォームとして設計されていないシステムとしては注目に値します。

 ほかの「バイラクタルTB2」運用国も同様の用途としての運用に関心を向けるかもしれません。例えば、TB2の購入を契約済みであるポーランドは、バルト海で洋上監視活動を行うためのプラットフォームを使用する潜在性があります。

 他方で、カタールは有事にイランによって運用されている高速攻撃艇の群れに直面する可能性がありますが、機動性の高い「MAM」誘導爆弾が非常に適したその対抗手段となるでしょう。

 ウクライナ海軍航空隊にとって、現時点で専用のTB2を運用するという事実は、同隊の創設以来で初の攻撃能力を手に入れたことを意味します。

 これらを用いた攻勢的な運用は、地対空ミサイルシステムだらけで激しい電子戦が予想される地域における敵対的な環境下で行わなければならないでしょうが、この無人プラットフォームがリビアやシリア、そしてナゴルノ・カラバフ上空で得た過去の経験は、TBがこのような環境下でも非常によく機能することを証明しています。

 黒海におけるウクライナの戦力は、今後も急速に成長し続けることになっています。この途上でさらに多くのTB2が導入されることになり、トルコの「アダ」級コルベットも2隻発注されているため、ウクライナ海軍の最高の年が訪れるのはまだ将来のことになりそうです。



[1] Ukrainian Naval Aviation returns Ka-226 helicopter to service https://defence-blog.com/ukrainian-naval-aviation-returns-ka-226-helicopter-to-service/
[2] Upgrading Ukraine’s Air Force could deter Russia https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/upgrading-ukraines-air-force-could-deter-russia/
[3] Ukraine will form three divisions of Neptune missiles by 2025 https://en.ukrmilitary.com/2020/09/neptun-2025.html
[4] Ukrainian Navy has Received First Unit of Turkish-Produced Bayraktar TB2 UCAV system https://en.defence-ua.com/news/ukrainian_navy_has_received_first_unit_of_turkish_produced_bayraktar_tb2_ucav_system-1942.html

※  この記事は、2021年8月24日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳し
 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇
 所があります。 




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