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2022年9月17日土曜日

新たなる力:「バイラクタルTB2」UCAVがキルギスに納入された


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年10月下旬、キルギスがトルコの「バイカル・テクノロジー」社から「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を3機発注したことが発表されました。[1] 

 キルギスにはUCAVを保有する必要性がないと考えられていただけではなく、そもそも同国が有する空軍自体が無きに等しい存在であったことから、この発注に関するニュースは世に驚きをもたらしたのです。

 実際、キルギス空軍が固定翼機を運用し始めたのは2018年からであり、しかもその「An-26」輸送機2機はロシアから寄贈されたものだったということを考慮すると、その驚きは当然と言えるでしょう。[2]

 そして発表から間もない2021年12月18日に、待望のTB2がキルギスの国境警備隊で運用が開始されました。ちなみに、同機は国境警備隊で就役したことで知られる最初の航空アセットです。 [3] 

 2022年10月には、キルギスが数機の「バイラクタル・アクンジュ」を導入することに関心を持っていることを明らかにしました。 [4]

 2022年9月、キルギスはタジキスタン間の古くから続く水紛争を原因とする一連の国境での小競り合いで、新たに入手したTB2を実戦に投入しました。今回のタジキスタン軍は戦車と大砲を用いてキルギスのとある村に侵攻しバトケンの町を砲撃しましたが、TB2を撃墜可能な地対空ミサイル(SAM)をこの地域に展開していなかったため、この上空を飛ぶ見えない天敵のおかげでタジキスタンは少なくとも「T-72戦車」2台、「グラート」多連装ロケット砲(MRL)1台、弾薬輸送トラック1台を失ってしまいました。[5]

2022年9月の国境紛争でキルギスのTB2によって撃破されたタジキスタンの「9P138 "グラート-1"」MRL

 キルギス空軍は、かつて同国に駐留していたソ連空軍のアセットを引き継いで1992年7月に創設されました。キルギスは、主に「L-39」練習機と「MiG-21」戦闘機の外国人パイロットを養成するフルンゼ軍事大学の拠点だったことで知られています。[6]

 1992年の時点で、同国のカント空軍基地には大量の「MiG-21」が多数の「An-2」「An-12」、   「An-26」輸送機や「Mi-8」「Mi-24」ヘリコプターと共に残されていました。建国されたばかりのキルギス共和国には、このような大規模な飛行隊を運用するための資金、パイロット、そして何よりも必要性自体がなかったため、「An-2」輸送機と「Mi-8/24」ヘリコプター以外の運用についてはすぐに放棄されてしまいました。

 その後、 キルギス空軍は数十年にわたって、首都ビシュケク郊外にあるプリゴロドニ・ヘリポートを拠点にした数機の「Mi-8」と「Mi-24」、そして首都近郊に配備された1個の「S-75」と2個の「S-125」SAMサイトを運用し続けることになりました。

 カント空軍基地は約50機の「MiG-21」といくらかの輸送機の保管拠点として使用され続けていましたが、2015年までにその大部分がスクラップ処分されています。       

 2014年6月まで、マナス国際空港(IAP)はアフガニスタンにおける戦争を支援するためにアメリカによって使用されていました。その一方で、ロシアはマナスから僅か35km離れたカントに少なくとも2027年のリース期限まで使用できるようにした独自の空軍基地を設けています。[7]

 「Su-25」対地攻撃機と「Mi-8」を装備したロシア空軍の部隊がカントに到着したことに伴ってキルギスに4機の「L-39」が寄贈されました。それにもかかわらず、キルギス空軍はこの練習機を実際に運用しようとしなかったようです。おそらく、すでに運用されている武装した「Mi-8」や「Mi-24」と比較しても、空軍に目新しい戦力をもたらすことがほとんどなかったためと思われます。

 したがって、キルギスが「バイラクタルTB2」を調達したことは、 キルギス軍が望ましい性能を実際に入手可能な価格で提供してくれるアセットをTB2という形でついに見つけ出したと思われるため、いっそう注目されます。

2018年にロシアから供与された2機の「An-26」の1機。これらはキルギス空軍で唯一の固定翼機で、現在も運用されています(ただし、飛行する機会は極めて少ない)。

キルギス空軍が2000年代初頭にロシアから受け取った4機の「L-39」練習機。一見すると再び空を飛ぶことはないでしょう。各機は左右の主翼に1基ずつハードポイントを備えており、最大で2発の爆弾か2基のロケット弾ポッドで武装可能です。

 興味深いことに、キルギス空軍の航空機やヘリコプターにはソ連空軍のラウンデルが使われ続けている一方で、国境警備隊の機体には国旗にもある黄色い太陽を組み込んだラウンデルが施されています。

 キルギス空軍のラウンデルは同国に駐留するロシア空軍の航空機やヘリコプターのものと混同されることがありますが、後者は確かに赤い星のラウンデルを使用しているものの、赤い星の外周には細い青い縁があるという違いがあります。

 キルギス陸軍は2021年(注:2022年9月17日現在)というごく最近にキルギス・タジキスタン国境紛争で戦闘を経験したにもかかわらず、キルギス空軍が一度も実戦には投入されたことがありません。

 もし、キルギスやタジキスタンが航空機やヘリコプターを投入して衝突していたとしたら、皮肉なことにタジキスタンもソ連時代からの赤い星のラウンデルを使っているので、対空部隊は味方機を誤って撃墜しないよう十分に注意しなければならなかったに違いないでしょう。


 新しい装備の導入について、キルギス軍は創設された1992年からその大部分をロシアからの好意に依存しており、2018年と2019年には、キルギスは「Mi-8」ヘリコプター4機と「P-18」対空捜索レーダー2基を無償で供与されました。[8] [9] 

 また、過去10年間には、4機の「L-39」ジェット練習機、2機の「An-26」輸送機、数十台の「BTR-70M」装甲兵員輸送車と「BRDM-2M」偵察車、小火器と弾薬もロシアから供給されています。2020年には、キルギスが「ブーク-M1」地対空ミサイルシステムの譲渡についてロシアと協議中であることが発表されました。[10]

  その他の武器や装備類の供給国には、2010年代後半に幅広い種類の小火器と装甲車両を引き渡した中国と45台にピックアップトラックや44台の「ポラリス」ATV、そして数量不明の「ナビスター・インターナショナル7000」トラックを供与したアメリカも含まれています。[11]
      
 これまでのトルコによる軍事支援として、 軍事機関(旧フルンゼ軍事大学)用の新たな施設の建築やさまざまな装備の供与、トルコの軍事施設におけるキルギス軍人への訓練などがなされてきました。[12] [13] [14]


キルギス空軍

 長年にわたって「Mi-8」はキルギス空軍の有用な装備となっています。このヘリコプターは2018年に日本の登山家を救助する任務中に1機が墜落した後でも、依然として5機がこの空軍で運用が続けられています。[15]

 ほとんど飛行しないと思われる2機の「Mi-24V」攻撃ヘリコプターも、名目上ではキルギス空軍で強力な存在であり続けています。この代わりとして、同空軍はガンシップ型の
「Mi-8MT(V)」を配備しています。これらの機体は主翼下に最大で6基のロケット弾ポッドか機関銃ポッドで武装可能ですが、一部の機体は機首に「PK」7.62mm軽機関銃も装備しています。

 キルギスは、これらの「Mi-8」を最大で8発の爆弾を搭載した即席の爆撃機としても運用しています。

通常、「Mi-8」は「UB-16」または「UB-32」57mmロケット弾ポッドか「B-8」80mmロケット弾ポッドを搭載していますが、画像の機体はロケット弾ポッドに加えて機首に7.62mm軽機関銃も装備しています。

キルギスの「Mi-8」が「P-50T」訓練用爆弾を投下する様子が公開されていますが、この事実はキルギス空軍が近いうちに「MAM」シリーズ誘導爆弾を使用できるようになって高く評価される可能性を示唆しています。

 「バイラクタルTB2」の偵察能力は国境警備隊に高く評価されると思われますが、「MAM-L」及び「MAM-C」精密誘導爆弾の導入によって対地攻撃という完全に新しい能力を発揮することが可能となるでしょう。

 TB2は、ヘリコプターから投下される爆弾とは正反対に極めて正確に目標を直撃可能な「MAM」シリーズ誘導爆弾を最大で4発搭載可能です。

 さらに、「MAM」シリーズがINS/GPSに導入されたことで、最新型の射程距離が7kmから14km以上まで伸びました。このことは、標的の位置を特定し、自らの武装か別の火力支援アセットに指示して標的を攻撃可能というメリットと相まって、TB2をキルギスで最も崇敬されるアセットに位置付けるでしょう。


バイラクタルTB2と砲兵戦力の連携による相乗効果

 TB2が各種の信号情報や(車両などの目標に対して75km以上とされる)直距離の監視能力を誇る前方監視型赤外線(FLIR)装置で敵を探知した後、それらはキルギス陸軍の「BM-21」及び「BM-21V」122mm 多連装ロケット砲(MRL)や2S1「グヴォズジーカ」122mm自走榴弾砲(SPG)、さらに2S9「ノーナ」120mm自走迫撃砲(SPM)に加えて牽引砲によって打撃を加えることができるのです。

 これらの砲兵戦力の全てが敵の陣地や部隊の集結地点を狙うため、標的の位置を獲得するために砲兵部隊の観測班や航空偵察に依存していることは言うまでもありません。

 ただし、この国の軍隊は規模が小さいため、別の軍種との連携で生じる相乗効果の可能性は限られています(注:逆に言えば、それらの上手く活用して連携の成果を増長させる余地が残っているということを意味します)。

キルギス陸軍の「BM-21」122mm多連装ロケット砲(手前)、2S9「ノーナ」120mm自走迫撃砲(左と中央)、そして2S1「グヴォズジーカ」122mm自走榴弾砲(中央の奥)。

 キルギスのTB2はFLIR装置に加ウェスカム製「MX-15D」や独ヘンゾルト製「アルゴス-II HDT」ではなく、アセルサン製の「CATS」を装備しています。TB2はモジュール方式を採用しているため、さまざまな種類のFLIRシステムを搭載することができます。この特徴がTB2の商業的成功にさらに貢献したのかもしれません。

 トルクメニスタンに納入されたTB2と同様に、キルギスのTB2も夜間での運用に用いる2台目の尾部カメラや機体上部の対電子妨害装置の搭載など、既存のバージョンから多くの改良が施された最新モデルとなっています。


 キルギスの「バイラクタルTB2」は、同国西部にあるジャララバード空港に新設された施設で運用されることになっているようです。同施設はTB2が納入される直前の2021年11月に建設されたことが確認されています。[16]

 キルギスを占める山岳地帯と大規模な人口集中地が存在しないため、この国の空港は全国でも僅かに数カ所しかありません。それでもTB2は、(ジャララバードから運用する場合でも)ほぼ国内全土をカバーできる十分な航続距離を持っています。

3機のTB2の拠点である、ジャララバード空港。

キルギスで運用中の別の無人機

 ところで、キルギスが導入した最初のUAVは「バイラクタルTB2」ではありません。2021年8月下旬、キルギスが中国から「WJ-100」無人偵察機を調達していたことが明らかにされました。[17] [18]

 「WJ-100」はFLIR装置を備えてしていますが、TB2と異なって武装できず、滞空時間も(TB2の約27時間に対して)3時間しかありません。[19] 

 キルギス軍はさらに、カント空軍基地に駐留するロシア軍でも運用されている「オルラン-10」無人偵察機を6機輸入することによって増強される予定です(注:2022年5月現在で納入は未確認)。[20] [21]

 また、キルギスは「サーラ-02」と呼称されるより小型のUCAVも独自開発しており、現在は試験段階にあります。[21]

2021年8月に実施されたキルギス独立30周年記念の閲兵式に登場した「WJ-100」。

 一見すると、キルギスが3機の「バイラクタルTB2」を導入したことは、ウクライナやモロッコといった国々によるTB2の調達よりも華々しさが欠けているように見えるかもしれません。それでもキルギスからすれば、TB2以外にその利点を最大限に発揮してくれる輸出兵器はおそらく存在しないでしょう。
      
 キルギスが資金と専門知識の不足のために何十年もの間にわたって武装した固定翼機を運用してこなかった国であることを踏まえると、TB2が有効なパフォーマンスと信頼性、そして低い導入価格と運用コストを併せ持つ最初のアセットとなることは間違いありません。

 この記事を執筆している2021年12月の時点で、中央アジア5カ国のうち3カ国がトルコ製ドローンを運用しています。それらがUCAV市場を急速に席巻しているため、ウズベキスタンとタジキスタンの出方に注目が集まっています(注:2022年5月上旬には、カザフスタンがTAI製「アンカ」を導入することが決定されたと報じられました)。

[1] Kyrgyzstan set to receive Turkish armed drones https://www.aa.com.tr/en/world/kyrgyzstan-set-to-receive-turkish-armed-drones/2399480
[2] Two two military aircraft handed over to Kyrgyzstan by Russia https://akipress.com/view:704:Two_two_military_aircraft_handed_over_to_Kyrgyzstan_by_Russia/
[3] Беспилотники «Байрактар» поступили на вооружение Пограничной службы ГКНБ https://kg.akipress.org/news:1751371
[4] https://twitter.com/BaykarTech/status/1580173619233071105
[5] Documenting Losses During The September 2022 Kyrgyzstan–Tajikistan Border Clash https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/documenting-losses-during-september.html

[6] Soviet 5th Training Center in Frunze Between 1956 and 1992 http://www.easternorbat.com/html/5th_training_center_eng.html
[7] In controversial move, Russia set to own runway at military base in Kyrgyzstan https://central.asia-news.com/en_GB/articles/cnmi_ca/features/2020/06/18/feature-01
[8] Russia donates two helicopters to Armed Forces of Kyrgyzstan https://24.kg/english/136240_Russia_donates_two_helicopters_to_Armed_Forces_of_Kyrgyzstan/
[9] Sergei Shoigu: Kyrgyzstan can always count on support of Russia https://24.kg/english/116337_Sergei_Shoigu_Kyrgyzstan_can_always_count_on_support_of_Russia/
[10] Russia and Kyrgyzstan discuss delivery of air defense systems, helicopters https://24.kg/english/153139_Russia_and_Kyrgyzstan_discuss_delivery_of_air_defense_systems_helicopters/
[11] A Vehicles Handover Ceremony with U.S. Ambassador T.Gfoeller to Kyrgyzstan http://bishkek.usembassy.gov/2010_0825_vehicle_handover.html
[12] Turkey to build military institute in Kyrgyzstan https://www.for.kg/news-582254-en.html
[13] Turkey donates military equipment to Kyrgyzstan https://24.kg/english/172035_Turkey_donates_military_equipment_to_Kyrgyzstan/
[14] From Turkey With Love: Tracking Turkish Military Donations https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/from-turkey-with-love-tracking-turkish.html
[15] ASN Wikibase Occurrence # 213092 https://aviation-safety.net/wikibase/213092
[16] https://twitter.com/Gerjon_/status/1472311300822814721
[17] Kyrgyzstan Independence Day Parade & Celebration August 31, 2021 https://youtu.be/XHUxnq3XVXw?t=2905
[18] China-made WJ-100 Blade UAV makes debut in Kyrgyzstan https://www.china-arms.com/2021/09/china-wj-100-blade-uav-debut-kyrgyzstan/
[19] Kyrgyzstan Orders Byratkar Drones from Turkey, Orlan-10E UAVs from Russia https://www.defenseworld.net/news/30647/Kyrgyzstan_Orders_Byratkar_Drones_from_Turkey__Orlan_10E_UAVs_from_Russia
[20] Russia’s military base in Kyrgyzstan to procure Orlan-10 UAVs https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2020/june/6358-russia-s-military-base-in-kyrgyzstan-to-procure-orlan-10-uavs.html
[21] В Кыргызстане впервые выпустили беспилотник https://youtu.be/92QgvrwEcaw

  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
    箇所があります。


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2022年7月29日金曜日

旧式艦+新型兵装:トルコ製RWSがアゼルバイジャンの旧式艦に装備された



著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 アゼルバイジャン海軍は、同国のほかの軍種やカスピ海に存在する他国の海軍と比較した場合、現代化の点で後れを取っています。

 その代わり、アゼルバイジャンは沿岸警備部隊の近代化に多額の資金を投じ、国境警備隊用の「スパイクNLOS」(射程25km)や「スパイクER」(射程8km)対戦車ミサイル(ATGM)を装備したイスラエルの「サール62」級哨戒艦(OPV)6隻と「シャルダグMk V」級高速哨戒艇6隻を導入しました。[1]

 興味深いことに、アゼルバイジャン海軍はどの艦艇にも対艦ミサイル(AShM)を搭載しておらず、純粋に同国が有する排他的経済水域(EEZ)の哨戒部隊として運用されています。

 この国の海軍はコルベットや高速攻撃艇を運用するのではなく、数多く存在するソ連時代の哨戒艇、揚陸艦、掃海艇を活用しているほか、1960年代に建造された「ペチャ」級フリゲートの運用も続けていますが、艦載兵装については銃砲、魚雷、対潜装備しか搭載されていません。

 ごく最近になって、海軍は国境警備隊(SBS)から多数の艦の譲渡されることで戦力が増強されました。とはいえ、これらはソ連時代の「ステンカ」級哨戒艇や対空砲から機関銃まで装備していた大型のタグボートで構成されていたことから、譲渡された艦艇は海軍が保有する艦艇数を少なくとも2倍に増やしたものの、海軍に新たな戦力をもたらすようなことは少しもありませんでした。

 現時点でAShMを搭載できる艦艇を一切保有していないアゼルバイジャン海軍は、旧式化した艦艇の一部に重火器を搭載することによって戦闘能力の向上を図ろうと試みています。

 これまでのところ、この火力向上策には、「AK-230」2連装30mm機関砲塔を第二次世界大戦時代の「70K(61-Kの艦載型)」37mm機関砲といったほかの火砲に換装したことも含まれていますが、このような策が各艦艇の火力増強に全く寄与しなかったことは一目瞭然でしょう(注:後述のとおり、「MR-104」FCSレーダーで管制可能な「AK-230」近接防御システム(CIWS)をわざわざ手動操作式の旧式機関砲に置き換えることに意味を見出すことを理解すること自体が無理に近いでしょう)。

 これとは逆に、少なくとも1隻の「ステンカ」級にトルコの「アセルサン」社「SMASH」30mm遠隔操作式銃架(RWS)を搭載するという最近の近代化事業で、旧式艦艇により合理的なアップグレードが施されるようになり始めたようです。

艦首に「SMASH」RWSを装備した「ステンカ」級(G124)

 現在のアゼルバイジャン海軍は、イスラエル製OPVと哨戒艇が就役した後のSBSから得た「G122」から「G125」までの艦番号を付与された4隻の「ステンカ」級を運用していると考えられています。

 当初、「ステンカ」級には「MR-104」火器管制レーダーによって管制された「AK-230」2連装30mm機関砲が艦首と艦尾にそれぞれ1門ずつ搭載されていましたが、少なくとも数隻はどちらかの「AK-230」を「70K」30mm対空機関砲に換装されました。現代の水準における「70K」は本来の対空用途で少しも役立つことはできませんが、迎撃された相手国の艦艇の前方に向けて警告射撃を行うには理想的な火器です。

 現在までのところ、「G124」のみが「SMASH」RWSを装備されていることが知られています。興味深いことに、艦首の「AK-230」だけでなく後部の同機関砲塔も「SMASH」RWSに置き換えられています(上の画像では前部の「AK-230」のみが「SMASH」に換装されているため、段階的に「G124」の近代化を進めているか、または別の同型艇の後部に「SMASH」を装備した可能性があるからです)。

 当然ながら、使用されていないときの「SMASH」RWSは、波や風雨から保護するために防水カバーで覆われています。[2]

艦橋上部から見た艦首部の「SMASH」RWS
艦尾に搭載された「SMASH」RWS

 「SMASH」RWSは近年では世界で最も人気がある艦載用RWSであり、クロアチア、マレーシア、カタール、バングラデシュ、フィリピン、そしてアゼルバイジャンといった国々で導入されています。

 カタールは自国の(トルコ製)巡視船の大部分に装備させるためにこのRWSを調達してきた、世界最大の「SMASH」運用国です。

 同等の「アセルサン」製RWSの大口顧客はトルクメニスタンであり、28隻の艦艇に合計で38の「STOP」25mm RWSを装備しています。また、同国は世界初の「アセルサン」製「ギョクデニズ」35mm CIWS運用国でもあります。

 トルクメニスタンによって導入された海軍艦艇といった新型兵器に装備されたことに加え、「アセルサン」社はEO/IRセンサーやRWSを含む各種兵器システムを陸・海・空のさまざまな旧式プラットフォームにインテグレートすることによって、めざましい商業的な成功も収めています。

 最近の例では、ウクライナの「モトールシーチ」社と共同で同国と潜在的な輸出顧客向けに「Mi-8/17」と「Mi-24」攻撃ヘリコプターを近代化する契約を締結しており、これは「アセルサン」社がEO/IRセンサーを供給し、東側のヘリコプターに最新のトルコ製精密誘導兵器の運用能力をインテグレートするというものです(注:ロシアのウクライナ侵攻で実現はするかは不透明な状況)。[3]

 また、トルクメニスタンが保有する「BTR-80」装甲兵員輸送車の一部に同社製の「SARP(サープ)-DUAL」RWSを搭載してアップグレードを図ったも実例もあります。[4] [5]

現時点のカスピ海で最も強力な海軍艦艇であり、「STOP」25mm RWSや「ギョクデニズ」35mm CIWSを含む多数の「アセルサン」社製艦載兵装を搭載しているトルクメニスタンのコルベット「デニズ・ハン」

 「SMASH」RWSはデュアルフィード機能のおかげで毎分200発の射撃速度を誇る「Mk44 "ブッシュマスターⅡ"」30mm機関砲を備えています。機関砲の両側面には各1つの大型弾倉があり、合計で175発の砲弾を入れることができます。

 このRWSは完全にスタビライザーで安定化されているため、荒波の中でも移動する標的に対して正確な照準が可能となっていることが特徴です。

 「STAMP」12.7mm RWSや「STOP」25mm RWSで用いられている固定式の照準システムとは対照的に、「SMASH」は安定化された独立型EO/IRセンサーを搭載しているため、システム全体を旋回させることなく標的を追尾することができる利点が特徴的と言えるでしょう。

少なくとも5か国で運用されている「SMASH」RWSの旧バージョン

 現時点で、アゼルバイジャン海軍によってさらなる「SMASH」RWSが導入される計画が存在するのかは不明です。

 SBSから多数の艦艇が移管されたことは、この国の海軍がしばらくの間は現時点で運用している艦艇で間に合わせる必要があることを示している可能性があります。したがって、対艦ミサイルを搭載した艦船でますますあふれていくカスピ海で戦力を何らかの形で維持するために、アゼルバイジャン海軍は何度も艦艇の改修を余儀なくされるかもしれません。

 少なくとも4隻の「ステンカ級」哨戒艇が就役していることから、「SMASH」RWSがその価値を誇示する機会は十分にあることは確かでしょう。

艦首に「70K」37mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G122)

 「アセルサン」社は自ら開発した製品で世界中で広幅広い成功を収めてきました。これはカスピ海も例外ではなく、今や2か国の海軍が同社の製品を装備した海軍艦艇でこの海を航海しています。

 アゼルバイジャンがいつの日か自国の海軍の近代化のためにトルコ製軍用艦艇の調達を選定したり、カザフスタンもトルコ製艦艇に投資する可能性があることを考えると、どうやらトルコ製の海軍用防衛装備品の見通しは明るいようです。

 もちろん、これらにも「アセルサン」社の製品が装備されることについて、疑う余地はないでしょう。

 「SMASH」RWSのような艦載兵装は実際に搭載された船よりも確かに目立つものではありませんが、中央アジアの国々で進められている軍の近代化を示す重要な指標であることには間違いありません。

標準装備である「AK-230」30mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G124)

[1] INFOGRAPHICS OF COAST GUARD VESSELS #4: Azerbaijan and Colombia https://www.navalanalyses.com/2017/03/infographics-of-coast-guard-vessels-4.html
[2] https://i.postimg.cc/nrqg7HvB/69.jpg
[3] Aselsan to Supply EO Targeting Pods, AAMs for Modernization of Ukraine’s Mi-8 Helicopter Fleet https://en.defence-ua.com/news/aselsan_to_supply_eo_targeting_pods_aams_for_modernization_of_ukraines_mi_8_helicopter_fleet-2004.html
[4] https://postimg.cc/HJR0QxC3
[5] SARP-DUAL Remote Controlled Stabilized Weapon System https://www.aselsan.com.tr/en/capabilities/land-and-weapon-systems/remote-controlled-weapon-systems-land/sarpdual-remote-controlled-stabilized-weapon-system

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。




おすすめの記事

2022年7月5日火曜日

エチオピアにおけるイスラエル産兵器:「サンダー」歩兵機動車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア国防軍(ENDF)が老朽化したソビエト製の兵器とより現代的なロシア製の武器のいくらかを混ぜ合わせたものだけに依存していた時代は、とっくの昔に過ぎ去りました。過去10年間でエチオピアは武器の輸入元を多様化してきており、現在では、中国、ドイツ、ウクライナ、ベラルーシといった国々を含む多数の別の供給源も存在しています。

 間違いなく驚くべきこととしては、このリストにイスラエルやUAEといった国も含まれていることです。実際、これらの国はエチオピアに多くの高度な兵器システムを提供してます。多くのアフリカ諸国にとって、イスラエルは小火器からドローン、さらには艦艇に至るまで何でも供給する人気の高い兵器のサプライヤーであることが証明されています。

 エチオピアは、ハイレ・セラシエⅠ世時代の1950年代にイスラエルと最初に軍事的な関係を構築しました。興味深いことに、エチオピアとイスラエルの軍事協力は、1974年から1991年までエチオピアに存在した共産・社会主義政権の下でも継続されていました。この時代、メンギスツ政権はアラブ諸国とイスラエルの両方と緊密な関係を保っていましたが、後者についてはアラブの同盟国を動揺させさないように、ほぼ秘密にされていました。

 近年におけるエチオピアとイスラエルの強い結びつきは、「メイド・イン・イスラエル」の軍事装備の引き渡しにも現れました。これらの1つが「サンダー」歩兵機動車(IMV)であり、同車はこれまでにエチオピアとカメルーンで運用されています。エチオピアの場合は、自国の武器産業の知識と能力を築き上げるために、国内で車両を組み立てました。

 同様のノックダウン生産はウクライナや中国の間でも行われており、このような動きは、決してこの分野におけるエチオピアの能力を強化するための形だけの努力ではないことを示しています。

       

 2011年から2013年の間に、イスラエルの「ガイア・オートモティブ」社は、エチオピアに80台のサンダーIMVを納入する契約を獲得しました。[1]

 最初の5台はイスラエルで製造され、残りの75台を組み立てるための資材だけでなく、それに必要な全ての工場設備もエチオピアへ出荷されました。ガイア社はエチオピアでさらに5台の「サンダー」IMVを組み立て、その後でエチオピアの人々が自力で残りの70台を完成させました。

 このようなプロジェクトでエチオピア側が得た貴重な経験は、将来にこの国が国産の装甲車両を作り上げようと試みる際に役立つはずです。



 「サンダー」IMVは、民生品であるフォード社製のピックアップトラックのシャーシをベースにした軍用車両です。

 ピックアップトラックから「サンダー」にするためには、まず、このトラックの上部構造(つまり運転室)が完全に剥ぎ取られ、シャーシとエンジンだけを残した状態にします。その後、装甲ボデーを何も載せられていないシャーシの所定の位置に載せて溶接してから、この新たに組み立てられた車両に追加の装備が取り付けられるというわけです。

 最後の仕上げとして、「サンダー」が起伏の多い地形を走破できるようにするためにオリジナルのタイヤを軍用グレードのものに交換することににも注目です。




 ENDFは、ドーザーブレードを装着した派生型を含めて最低でも4種類の「サンダー」IMVを運用しているようです。この派生型は従来型の軍事作戦にはほとんど役に立たないように見えますが、装備されたドーザーブレードは、抗議活動でデモ隊が設置したバリケードを撤去するのに最適です。

 抗議デモはエチオピアの現代社会で頻繁に発生しており、2014年から2016年にかけての反政府デモはその中でも間違いなく最も重要な出来事であり、2018年の政権交代につながりました。

 憲兵隊と連邦警察も独自の派生型を運用していますが、そちらには小型のサーチライトが装備されているように見えます。それらに加えて、エチオピア陸軍では、救急車型と「DShK」12.7mm 重機関銃(HMG)を装備した派生型も運用しています(後者は固定武装を装備した唯一の派生型です)。

 「サンダー」の各型には合計で7基の銃眼(両側面に3基、背面のドアに1基)が装備されているので、(敵襲を払いのけるために)乗員はそこから自分が持つ武器を撃つことができます。




 「サンダー」IMVは、現在のENDFで使用されている唯一のイスラエル産の装備ではありません。(少なくとも名前は)エリートである共和国防衛隊に装備させるため、エチオピアはイスラエルから少数のIWI製TAR-21「タボール」アサルトライフルも導入しました。

 おそらくさらに重要なのは、エチオピア空軍が少なくとも2種類のイスラエル製無人航空機(UAV)を運用していることでしょう。これには「エアロスター」UAVと「ワンダーB ミニ」 UASが含まれており、後者はエチオピア初のUAV連隊を編成するために2011年に調達されました。[2]




 ほとんどがソ連、ロシアや中国製で占められているエチオピアの兵器庫の背後では、新たな外来の装備がそのギャップを埋めています。イスラエル、北朝鮮やドイツから供給されたものであろうと、そのような装備は例によって目立たないように引き渡されていたため、アナリストや一般の人々から全く注目されていません。

 イランによる「モハジェル-6」UCAVの販売もあって、このアフリカの一角における武器市場は成長を続けているようですが、その需要の増加に応じるためのサプライヤーも増えています。

 ティグレ州での紛争が猛威を降り続けているため、(もし未だに投入されていない場合は)この外来の装備も間違いなくそこで使用されることになるでしょう。



[1] The Establishment of an APC Production Line in Ethiopia http://gaia-auto.com/en/the-establishment-of-an-apc-production-line-in-ethiopia/
[2] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html

 のです。



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2022年2月8日火曜日

意外な国の東側製AFV:サウジアラビアにおけるウクライナ製「BTR-3」装甲兵員輸送車




著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 サウジアラビアは、アメリカから購入した「M1A2S」主力戦車(MBT)や「F-15SA」戦闘攻撃機を含む、現時点で売りに出されている最新鋭の軍事装備を運用していることでよく知られています。

 しかし、世界中の多くの軍隊と同様に、この国でも老朽化した、時には予想外の兵器が、第2防衛戦や危険がより少ないと見なされた戦線で運用されています。サウジアラビア王国の場合では、「M60 "パットン"」戦車や「M113」装甲兵員輸送車(APC)といった旧式装備の一式だけでなく、ウクライナから緊急救助車として使用するためにに購入した、かなり風変わりな見た目をしたBTR-3 APCも含まれています。

 すでにシャルトルーズ(実際の色名)のカラーリングが施されているとおり、サウジアラビアの「BTR-3」が危険を冒して最前線まで近づくことは絶対にないでしょう。その代わり、このAPCが持つ水陸両用及びオフロード走行能力は、洪水や土砂崩れなどの自然災害時に災害救助活動を行うのに最適であることを意味しています。この役割で、「BTR-3」はロシアのGAZ-59037 – ベトナムでの運用で洪水被害者を救助する際にその価値が証明された「BTR-80」APCの民生版 – と非常に似た働きをします。

 サウジアラビアでは緊急救助車両として装備されていますが、「BTR-3」はAPCや歩兵戦闘車(IFV)型と同じ装甲を維持しているため、7.62mm弾や砲弾の破片(さらに言うと「ひょう」による被害)に対する全方位の脅威からの防護力を備えています。

 (正確な時期は不明ですが)サウジアラビアに納入された後、この車両は平時、災害時、そして紛争時に人命や財産を保護するための機関:民間防衛総局に就役しました。


 サウジアラビアといえば、西から東にかけて広がっている広大な砂漠地帯でよく知られていますが、おそらく一般的なイメージとは異なって、この国では、大雨や洪水、そして(全く驚くことではありませんが)砂嵐などの大規模な自然災害に定期的に対応する必要があります。

 このような災害によりうまく対処するため、最初に消防総局が1960年に設立されました。内務省(MOI)の傘下に置かれた同機関は、後に民間防衛総局(GDCD)に改称され、現在に至っています。自然災害への対応に加えて、GDCDは、毎年行われるメッカへのハッジ(大巡礼)の際に巡礼者の安全を確保するという極めて重要な役割を担っています。[1]



 緊急救助車両としての用途にふさわしいものとするため、「BTR-3」は砲塔の撤去、手すりや車体上部へのハッチの追加を含むいくつかの改修を受けました。

 民間防衛総局のエンブレムは、通常は各車両の側面、ときには正面にも施されています。



 また、装輪式の回収車両、大型トラック、ブルドーザーやショベルカーなどの装備といった、さまざまな種類の支援車両も民間防衛総局で運用されています。

 数年前まで、この組織は日本の「川崎重工」製「KV-107」タンデム式輸送ヘリコプターでさえも独自の航空隊で運用していましたことは注目に値するでしょう。[2]

 「KV-107」が00年代後半に退役した後、この種の航空任務はGDCDに代わってMOIが運用するシコルシキー「S-92」汎用ヘリコプターに引き継がれました。




 鮮やかな黄緑色の塗装にもかかわらず、サウジアラビアの「BTR-3」は、現在におけるこの王国で就役している最も目立たない装備の1つであり続けています。

 彼らの様子については、通常はそれらの展開を必要とする厳しい状況下のおかげで影が薄くなっているのかもしれませんが、詳しくないウォッチャーからすると、この「BTR-3」は驚くべき装備が最も予期しない場所に思いがけなく姿を現す可能性があることを気づかせてくれます。

 今回のケースでは無難な緊急救助車両が関係していますが、サウジアラビアのウクライナとの次の取引は、この王国により強力な能力の獲得をもたらすでしょう:「フリム-2」移動式短距離弾道ミサイル(SRBM)は、サウジアラビアからの資金提供をうけてウクライナで設計されたものであり、この10年間の早い時期にサウジアラビアで就役する予定となっています。



[1] The General Directorate of Saudi Civil Defense https://www.eyeofriyadh.com/directory/details/77_the-general-directorate-of-saudi-civil-defense
[2] kawasaki KV-107/IIA-SM https://www.dstorm.eu/pages/en/saudi/kv-107.html

※  この翻訳元の記事は、2021年5月5日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。




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2022年1月5日水曜日

定評のある機体: カザフスタンが導入した「Y-8」輸送機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 中国の「Y-8」輸送機は、その設計の独創性で決していかなる賞を受けることはないでしょう。なぜならば、同機は1970年代にソ連の「An-12」をリバースエンジニアリングして中国の要求に合うように僅かな変更を加えた事実上の派生型だからです。

 1970年代以降、陝西飛機工業公司は「Y-8」の量産で得た経験のみならず「ロッキード マーチン」社「An-12」の開発メーカーである「アントノフ」社など海外の助言を活用することによって、実績ある機体の改良に着手しました。

 結果として完成した「Y-8F-600」と「Y-9」について、その外見は依然として既存の「Y-8」シリーズに似ていますが、引き伸ばされて再設計された胴体、グラスコックピットやプラット&ホイットニーのターボプロップ式エンジンを備えていることが特徴です(注:Y-9は国産エンジンを搭載)。

 2006年に初めて導入されて以降、「Y-8F-600」は中国人民解放軍空軍と海軍航空隊で現在も使用されている特殊作戦機のベース機となり、その1つであるAWACS型(ZDK-03)もパキスタンに輸出されています。

 このことを踏まえると、海外諸国が「Y-8」の新しい派生型や「Y-9」を購入する代わりに、わざわざ新造された旧バージョンの「Y-8」を調達し続けていることは、いっそう驚くべきことだと言えます。

 冷戦初期を彷彿とさせる外観が特徴であるこれらの旧世代機は、未舗装の滑走路での運用を可能にしている頑丈さと整備のしやすさなどで高く評価されています。

 また、「Y-8」は「C-130」や「Il-76」のような類似機と比べた場合、比較的シンプルな構造であることと、中国の資金拠出の柔軟性と融資のおかげで価格もかなり低いものとなっています。ベネズエラ空軍が長年にわたってロシアから「IL-76」と「IL-78」の導入を検討した後の2012年に8機の「Y-8」を調達した背景には、このような納得のいく理由があったと思われます。

 その数年後、カザフスタンはベネズエラに続いて8機の「Y-8F-200W」を発注しましたが、これらは空軍用ではなく国家警備隊用の機体でした。2018年9月に最初の「Y-8」が到着し、国家警備隊初の航空兵力が就役となりました。
                              
        

 国家警備隊(及びその前身である国内軍)は2014年の創設以来、「Y-8」の導入までは空軍の輸送能力に全面的に依存していました。

 世界第9位の国土を持つ国として、「Y-8」の長い航続距離と多くの兵員を運ぶことができる能力は、きっと高く評価されるに違いありません。カザフスタン国境警備隊も同様の理由で「An-74」と新たに導入したCASA「C295W」の飛行隊を運用しています。

 国家警備隊が中国機を選んだ別の理由としては、「Y-8」の納入に要する時間に関係している可能性があります。なぜならば、2018年4月21日に契約を結んだ後、すでに同年の9月には最初の機体がカザフスタンに到着し、2019年の第1四半期には発注した全8機の納入が完了したからです。[1]



 確かにカザフスタンは「Y-8」の設計とレイアウトを全く知らないわけではありません。なぜならば、同国は過去10年の終わり頃に最後の機体が退役するまでに多くの「An-12」を運用していたからです。

 この頑丈な輸送機はその積載量や耐久性、そして航続距離の長さのおかげでカザフスタンのニーズに非常に最適なものとなっていました。このことを踏まえると、カザフスタンを「An-12」に酷似した「Y-8」の導入に導いたのは、(すでに慣れ親しんだ機体と共通性が多いという利点を除けば)まさにこれらのメリットが決定打となった可能性があります。

 「An-12」がカザフスタンで運用されていた際は、アルマトイ国際空港(IAP)、ヌルスルタンIAP、ジェティゲン空軍基地を拠点としていたほか、国内各地にある別の空軍基地にも頻繁に配置されました。これを考慮すると、「Y-8」もこれらの基地や空港を拠点とする可能性が高いと思われます。

離陸滑走中の「An-12」(空軍機)
カザフスタンの「Y-8」:垂直尾翼にある国家警備隊のマークに注目。

 カザフスタンが導入した8機の「Y-8」は、国内各地にいる国家警備隊の輸送能力を著しく向上させています。導入した「翼竜Ⅰ」UCAVの運用があまりうまくいかなかったと思われている一方で、「Y-8」はこの国で確固たる地位を築いた数少ない中国製兵器の1つと言えます。

 「Y-8」の導入が中国の関与をさらに強める前兆であるかどうかはまだわかりません。しかし、カザフスタンが自国産業の発展とそれに伴う軍の近代化を目指す傾向を継続していることから、トルコ、南アフリカ、イスラエルといった中国以外の国々も潜在力を秘めた興味深いサプライヤーとなるでしょう。

 その一方で、信頼できる「Y-8」はカザフスタンにとって安全面で良好な実績を持つ頑丈な航空機となり、運用者への貢献を実証してくれるに違いありません。



[1] Kazakhstan’s first Y-8 transport aircraft makes maiden flight in China https://defence-blog.com/kazakhstans-first-y-8-transport-aircraft-makes-maiden-flight-china/
[2] China hands over Y-8F200W transport aircraft to Kazakhstan https://archive.ph/20181006143401/https://www.janes.com/article/83301/china-hands-over-y-8f200w-transport-aircraft-to-kazakhstan#selection-900.0-900.1

ヘッダー画像:Maxim Morozov(敬称略)

※  当記事は、2021年8月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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