2025年10月17日金曜日

救世主となるか:ティグレ戦争に投入されたUAE空軍の武装ドローン

「翼竜-Ⅰ」UCAV(イメージ画像でティグレ戦争とは無関係)

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年11月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(本国版ではリンク切れ)。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数か月でエチオピア政府をめぐる情勢は驚くべき逆転劇を見せました。

 2021年10月初旬、エチオピア軍がティグライ人勢力に対して行った大規模な攻勢が壮大な失敗に終わった後、ティグレ防衛軍(TDF)は反攻を開始し、一時は首都アディスアベバの安全さえ脅かす事態に陥りました。ところが、高高度を飛行する(武装)無人機に対抗できる防空システムを全く保有していなかったTDFは、結果として衰えることなく続くドローン攻撃の圧力に屈し、2021年12月中旬にティグレ州の境界線まで撤退したのです。[1][2]

 エチオピアが保有する無人攻撃機(UCAV)については、少なくとも中国製「翼竜II」が9機、イラン製「モハジェル-6」が2機、そして多数製のUAE製VTOL型UCAVが確認されています。これらのUCAVを支援するため、2種類のイスラエル製の無人偵察機も運用されています。[3][4]

 エチオピアは2021年9月に中国から最初の3機の「翼竜-I」を受領し、その2か月後の11月にはUAEがさらに6機を配備しました。エチオピア側によるトルコ製UCAVの取得も報じられているが、未確認のままです(注:後日に「バイラクタルTB2」と「バイラクタル・アクンジュ」を導入した)。[5] [6]

 UAEによるエチオピア政府側へのUCAV配備については、2020年11月のティグレ戦争勃発当初から推測されてきました。[8]

 それにもかからず、2020年11月にティグレ州上空での作戦を遂行するため、複数のUAE軍の「翼竜」がエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃したという繰り返し主張されている説は、いまだに証拠によって裏付けられたことがありません。ただし、そのような動きがなかったとは断言できません。ティグレの重装備に対する精密爆撃(弾道ミサイル発射機や大口径多連装ロケット砲など)が何度も行われましたが、その使用自体が彼らの動きを説明できるかもしれません。
 
 UAEが武装ドローンをエチオピアに送った最初の事例は、2021年夏に確認されました。当時、UAE製のVTOL型UCAVが、エチオピア・ティグレ州のマイチュー地区で運用されているのが確認されたのです。これらのUCAVは市販ドローンを改造したもので、120mm迫撃砲弾2発を搭載可能という特徴があります。ちなみに、以前にUAEがイエメンに投入したものと同型です。[9]

 しかし、無誘導の迫撃砲弾は「翼竜-I」や「モハジェル-6」が搭載する誘導弾に比べて精度が著しく低く、機動性を有する敵どころか静止目標に対しても限定的な効果しか及ぼさないことは言うまでもないでしょう。

 UAEによるアビー・アハメド政権への支援の質が大幅に向上したのが2021年11月のことで、この時点でUAEが少なくとも6機の「翼竜-Ⅰ」を自国の操縦要員と共にハラール・メダ空軍基地に配備しました。[6]

 エチオピア政府がティグレ人勢力の脅威に屈服する可能性があるとの情報が、UAE空軍のストックから「翼竜-Ⅰ」をエチオピアへ即時展開させた真の理由だった可能性があります。

2021年11月に撮影されたハラールメダ基地の「翼竜-Ⅰ」。画像はWim Zwijnenburgによるもの。

 急速に拡大するUCAV部隊の受け入れ体制を強化するため、エチオピア空軍は現在9機の「翼竜-Ⅰ」が配備されているハラールメダ空軍基地において、新たなインフラ整備を既に開始しています。[10]

 この整備では複数の格納庫が整備される予定であり、最終的にはハラールメダに配備されている武装ドローンの全機を収容する見込みです(注:2025年現在で新しい格納庫は滑走路東側に1棟建てられたのみである)。

 現時点の「翼竜-Ⅰ」は、基地内の格納庫や複数の強化シェルター(HAS)から運用されていると見られています。

最近の衛星画像が示すとおり、ハラールメダでは新たなインフラ建設が進んでいる。右下隅にある青い格納庫には一部の「翼竜-Ⅰ」が格納されているほか、右端には専用の地上管制局(GCS)が展開している。

 当初、エチオピア空軍は「翼竜-Ⅰ」を純粋な偵察任務に投入し、後に「TL-2」空対地ミサイル(AGM)を調達して武装ドローンとしての運用を可能にした一方で、UAE機は当初から相当量の空対地兵装を投下していました。[11]

 これらの誘導弾については、特に各「翼竜-Ⅰ」が「ブルーアロー7」を2発しか搭載できないことを考慮すると、戦場に分散したティグレ人戦闘員の集団に対しては効果が低いものの、TDFの急速に減少する火力支援アセットは、同軍の通常戦による戦闘遂行能力及び進行中の攻勢支援能力に重大な影響を与えたに違いありません。

 ドローン攻撃が与える心理的効果と、戦闘員が頭上を飛ぶ武装ドローンを目視しながらも攻撃目標にできなかった事実は、TDFが攻勢を放棄してティグレ州へ撤退する決断にも影響を与えたと思われます。


ドローン攻撃で撃破されたTDFの「T-72B1」。戦車に命中したミサイルが内部で大規模な爆発を引き起こし、砲塔を吹き飛ばしたようだ。

 UAE空軍の「翼竜-Ⅰ」6機がエチオピアに配備されて僅か1か月後、UAEはティグレ州アラマタ地区における民間インフラへの空爆を実施しました。この空爆では町の病院と市場が攻撃され、42名の民間人が死亡し、少なくとも150名が負傷したことが確認されています。[12][13][14]

 アラマタにおける被害地域を詳細に分析した結果、中国製「ブルーアロー7」AGMの残骸が発見されました。これはUAEの「翼竜-Ⅰ」に標準装備されているものです。この残骸は着弾後も充分に残存していたため、リビアで発見された同ミサイルの残骸と比較対照・特定することができました。最も識別しやすい部品は尾部にあるロケットモーター用の排気ノズルで、あらゆる衝撃に耐えて残存するケースが多いようです。アラマタにおけるこのAGMの残骸は、こちらで確認できます。[15]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの排気ノズル(左)とリビアで発見された同AGMの残骸(右)。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの残骸。挿入されている画像はリビアで回収された同ミサイルの残骸を示している。

[1] Ethiopia's Tigray crisis: Citizens urged to defend Addis Ababa against rebels https://www.bbc.com/news/world-africa-59134431
[2] Tigrayan Forces Retreat in Ethiopia https://www.crisisgroup.org/africa/horn-africa/ethiopia/horn-s3-episode-5
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[4] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[5] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[7] Ethiopia-Turkey pact fuels speculation about drone use in Tigray war https://www.theguardian.com/world/2021/nov/04/ethiopia-turkey-pact-fuels-speculation-about-drone-use-in-tigray-war
[8] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[9] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[10] New Drone Infrastructure Emerges At Harar Meda Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-drone-infrastructure-emerges-at.html
[11] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[12] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[13] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[14] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[15] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg?t=204


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年9月30日火曜日

【復刻記事】シリア介入の準備が進む: 「Su-34 "フルバック"」が到着した


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月29日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 最初のロシア機がシリアに配備された時点で「Su-34 「フルバック」戦闘爆撃機のシリア展開は近いと見られていましたが、ここ数日でようやく現実となったことが確認されました。これで、ラタキア県のフメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港(IAP)にすでに配備されている「Su-30SM」4機と「Su-24M/M2」12機、そして「Su-25」12機に、最大で6機の「Su-34」が加わったと見られます。

 最大34機の作戦機に加えて、現時点で最大20機の「Mi-17」と「Mi-24/35」ヘリコプター、2機の「Il-20M」情報収集機、そして少なくとも3種類の無人航空機(UAV)がシリアに配備されています。特にUAVはイドリブ県上空での偵察飛行に力を入れており、まだ電子情報収集(ELINT)に特化した「Il-20M」がこれに加わっていなかったとしても、その姿を近いうちに目にすることは確実でしょう。

 すでに「Su-24M/M2」はイドリブ上空で目撃されているものの、今までのところ反政府勢力との戦闘は控えているようです。12機の「Su-25」については、ちょうど1週間前に「An-124」戦略輸送機で到着した後、組立て作業と試験飛行に追われています。その一方で、「Su-34」は長い航続距離のおかげでフメイミム/バッシャール・アル・アサドIAPに自力で到着することができました。

 下の画像の2機は、いずれも胴体下部に増槽を搭載して航続距離を伸ばしています。おそらくはシリア派遣部隊の機体であったと考えられています。この画像については、カスピ海からイラン・イラク領空を経由してシリアに向かう途中のモズドクを飛行中に撮影されたものです。


 下の画像はシリアで撮影されたもので、イドリブかハマー県の上空で旅客機と編隊を組むように飛ぶ6機の戦闘爆撃機らしきものが映っています。この旅客機はロシア空軍所属の「Tu-154」と思われ、フメイミムに向かう「Su-34」の随伴用として使われたようです。


 誘導・非誘導を問わず幅広い種類の兵装を搭載できるように設計された「Su-34」の展開は、シリアのあらゆる場所を攻撃できる後続距離と能力を備えた強力な戦闘爆撃機をシリア派遣部隊に提供するものと言えます。

 フメイミムの拡張工事が続き、UAVと「Il-20M」がイドリブ県の反政府勢力の戦力と位置に関するデータ収集に追われる中、ロシア空軍の作戦機部隊が初出撃の準備中であることを考えると、シリアは派遣部隊の初陣は時間の問題のようです。



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2025年9月28日日曜日

【復刻記事】西側製小火器の流入:シリアの特殊部隊でイギリス製狙撃銃の使用が確認された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月28日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリア政府に対するロシアに軍事支援はこの1か月で全く新しいレベルに達し、国際的なメディアはシリアへの航空機や装甲車の流入に注目している一方で、アサド政権への新たな小火器の引渡しについては未だに少しも明らかとなっていません。しかし、ロシアの国営ニュースチャンネルであるヴェスティ(現在のRIAノーボスチ)は9月27日、イギリスのアキュラシー・インターナショナル社製「アークティア・ウォーフェア・マグナム(AWM)」狙撃銃を装備したシリア兵の映像を公開したことで、これまで考えられていたよりもシリアの装備調達方針が幅広いことが明らかになったのです(編訳者注:動画はアカウントの停止で視聴不可、また実際はシリア兵ではなくロシア兵であり、ロシア連邦保安庁保安庁特殊任務センター所属である可能性が高い)。

 ヴェスティの記者は、9月上旬にイスラーム軍が攻勢を開始して以来の激しい戦闘が続いているダマスカス郊外にあるハラスタで、反政府勢力の支配地域に攻勢をかける特殊部隊を追いました。この映像では、戦車や装甲戦闘車両(AFV)が反政府勢力の陣地と思われる場所に射撃したり、特殊部隊がさまざまな新装備を使用している様子が映し出されています。


 映像に映っている狙撃銃に2012年にアキュラシー・インターナショナル社が発売した独立式ピストルグリップが装備されていることは、この銃の導入が本当に最近のことだという事実を一層強調しています。 .338ラプアマグナム弾を使用とする「AWM(L115A3)」ボルトアクション式狙撃銃は1996年に設計され、現在までにロシアやアメリカを含むさまざまな国で使用されています。この銃の良質な性能の証として、2009年にアフガニスタンでイギリスの狙撃兵が2.475メートル先にいる2人のタリバン戦闘員を射殺したことで狙撃の最長記録を更新したことが有名です(編訳者注:この記録は後年に更新され、2023年にウクライナSBUの狙撃兵が「ホライゾンズ・ロード」で3,800メートル先のロシア兵を射殺した事例が現在の最長記録)。

 シリアで目撃された個体に装備された新型のピストルグリップは、(グリップと一体化した)ストレートストックをより現代的なピストルグリップに交換することでより新しい「AX」系狙撃銃に人間工学を取り入れることをねらいとしたものであり、その過程で軽量化が図られています。映像の銃の有効射程はマズルブレーキにサプレッサーが装着されているために若干短くなっていると思われますが、狙撃兵だらけとも言えるシリアの戦場では、(サプレッサーの使用で)この銃を使用する兵士がより長く敵に発見されずにいられることに役立つのは間違いないでしょう。



 映像の他の部分には、特殊部隊員が「PKP "ペチェネグ"」汎用機関銃を使用する姿が映っていました。特殊部隊用に最低でも100丁の「PKP」が2013年にシリアへ引渡されたと考えられていますが、「ペチェネグ」が人前に姿を現した事例は極めて少なく、今回の映像が公開される前に1度目撃されただけです。

右奥にあるのが「PKP "ペチェネグ"」汎用機関銃である

 しかしながら、アサド政権が最近入手したのは小火器に限ったことではありません。兵士の個人装備の大半は、アメリカ、特にアメリカのスポーツ用品メーカーであるアンダーアーマー以外から調達されていないようです。

 アメリカ製装備を選択することは一見すると不自然に思えるかもしれませんが、アメリカ製を筆頭とする西側製小火器や装備は現在でも日常的にシリアに入ってきており、その大半はレバノンの闇市場経由と云われています。これらの西側製小火器の大部分が沿岸地域のアラウィー派によって入手されたものです。彼らは長年にわたって反政府勢力が侵攻してくる可能性から自衛するための準備をしてきました。

 シリアには世界各地から小火器が流入しており、今ではロシア製の新型狙撃銃や軽機関銃、イギリス製の狙撃銃、アメリカ製のアサルトライフル、そして第2次世界大戦時代の骨董品などが混在している状況です。近年では最も武器の多様性に富んだ戦場と言えます。これほど多種多様な兵器にアクセスできる状況を考慮すると、近いうちに内戦の当事者が敵と戦う手段を使い果たすことは起こりそうもありません。


改訂・分冊版が2025年に発売予定です


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2025年9月22日月曜日

【復刻記事】さらなる増援: 「Su-25 "フロッグフット"」がシリアに到着した


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月21日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 数日前にシリア領空で「Su-30SM」と「Su-24M2」が目撃された後、StratforとAllSource Analysisが9月20日に入手した最新の衛星画像によって、フメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港(IAP)で組み立てられている12機の「Su-25 "フロッグフット」の存在が明らかになりました。これで、シリアへの展開が確認されたロシア軍作戦機の数は合計で(少なくとも)20機となりました。ほぼ同じ頃、アメリカ政府の当局者は、ロシア軍のシリアへの大規模な軍事介入の一環として戦闘機28機とヘリコプター20機がシリアに駐留していると述べています。

 現時点におけるシリア派遣部隊の航空戦力は、「Su-24M2」戦闘爆撃機12機と「Su-30SM」多用途戦闘4機、「Su-25」対地攻撃機12機に加え、主に「Mi-24/35」攻撃ヘリと数機の「Mi-17」輸送ヘリで構成されるヘリコプターが最大で20機、若干数の無人機(UAV)です。ただし、「Su-24M2」の姿はまだフメイミム/バッシャール・アル・アサドIAPの衛星画像で確認できていません。後日に撮影された画像に写っているか、別の場所に移動した可能性があります。すでにシリア軍の「Su-24」飛行隊がT4飛行場に駐留している点を踏まえると、「Su-24M2」の配備先も同じと考えるのが理にかなっているでしょう(編訳者注:実際はフメイミムに配備された)。

 フメイミムからUAVが飛んでいるという情報は、シリアに配備されているロシア軍部隊の規模を考えれば驚くことではありません。すでにロシアの小型UAVの存在は2015年7月21日に確認されており、今では彼らの作戦飛行がより大型のUAVで強化された可能性があります。

 ロシア軍の人員、装備、車両そして作戦機の大量配備の背後にある正確な狙いは依然として不明のままですが、ロシアが主導する奇襲攻撃は、アサド政権によって行われている攻撃とは全く異なる結果をもたらすかもしれません。もう一つ考えられる可能性は、ロシアが前線への大規模な兵力投入を控え、その代わりにまず航空戦力で内戦に介入することです。シリアに展開する作戦機とヘリコプターの規模は今後数日間で最大50機に達する可能性があります。


 (ヘッダー画像に見える)整然と並べられた「Su-25」は優れた近接航空攻支援(CAS)機です。その大きなペイロードを活用して、あらゆる攻撃時に地上部隊へ継続的な支援を提供することができます。特にロシアの最新誘導兵装を装備した場合、これらの攻撃機はロシア空軍自身の対地攻撃能力も大幅に向上させるでしょう。そして、ほぼ全ての反政府勢力が保有する対空兵器の大部分に耐えることができるほど頑丈です。

 ロシア軍のシリア派遣はアサド政権が権力の座を維持し続けることを意味しており、彼抜きでの新(統一)政権への移行はほぼあり得ないと言っても過言ではありません。単なる軍事作戦のように見えますが、この派兵は反政府勢力をはるかに不利な条件で交渉のテーブルに復帰させるものです。この事実は、この動きに対する今のところ静かな国際的反応に反映されています。

[翻訳に際しての参考資料]
Latest imagery shows 28 Russian aircraft (12 Su-24s, 12 Su-25s and 4 Su-30s) on the ground at airbase in Syria https://theaviationist.com/2015/09/22/latest-imagery-unveils-12-su24s/

2025年9月21日日曜日

【復刻記事】ロシア空軍の介入か:シリアで最新鋭機が目撃された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月21日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリアでの戦闘に投入されたロシア軍人や装備の目撃情報が相次ぐ中、数多くのロシア軍機や装甲戦闘車両(AFV)の投入が確認されたこともあって、シリア内戦におけるロシアの役割は急激に高まりつつあります。

 ロシア軍基地として活用するためのフメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港の改築と同時に、シリア上空で「Su-30SM」や「Su-24M/M2」などの軍用機を護衛する「Il-76」輸送機または「Il-78」空中給油機(注:おそらく後者の方が可能性が高いと思われる)が目撃されました。これらと共に目撃された「An-124」戦略輸送機については、多種多様な兵器と一緒に、少なくとも2機の「Mi-17」と2機の「Mi-24/35」ヘリコプターを空輸したとも報じられています。

 この飛行場には約12機もの「Mi-14」と「Ka-28」対潜ヘリコプターが配備されていましたが、この数週間で撤収が確認されました。そして、敷地内での新ヘリパッドと誘導路の建設で規模が急速に拡大されるとともに、ロシア軍機と装備の受け入れに応じて反政府勢力の攻撃から基地を防護するための防御体制も整備されつつあります(注:対潜ヘリはシリア空軍所属機)。基地の拡大は今までも多くのメディアによって指摘されていたものの、9月19日になって初めて、(衛星画像によって)滑走路に無防備に駐機されたロシア軍戦闘機の存在と専用のシェルターがまだ建築されていないことが確認されました。

 この時に撮影された4機の「Su-30SM」戦闘機のほかに、インターネット上で公開された動画では9月19日と20日にそれぞれ「Il-78」を護衛する4機の「Su-24」戦闘爆撃機と、(おそらく)さらに4機の「Su-27/30」がホムス北部上空を同様の編隊を組んで飛行しているように見えます。この映像は、ロシア軍機がラタキア近郊のフメイミムに向かっていた可能性が高いことを示しています。これとは別個に推測できる事項は、ロシア機がカスピ海上空を飛行した後にイランとイラク上空を通過したというものです。この説はホムス上空で彼らがとったアプローチを説明してくれるものの、現在のイラク及びシリア上空で活動している大量の外国機を考慮すると、リスクの高い方法ではあります。それでも、フメイミムに展開した最初の「Su-30SM」4機がギリシャ領空を通過したことは判明しているため、展開には双方のルートが使われていることも考えられるでしょう。

 先の動画と、ロシア空軍のスホーイ戦闘機4機のシリア配備に関するアメリカ政府当局者のコメントは、これまでに少なくとロシア機が3回に分けてシリアに飛来したことを示唆しています:まずは 「Su-30SM」が4機、次に「Su-24M/M2」が4機、そして「Su-30SM」と思われる形式不明機が4機です。


 「Su-30SM」はこれまでSyAAFが使えなかった能力をもたらすほか、ロシア空軍はあらゆる攻撃や防御ミッションを細かくフォローすることができるようになります。

 探知・収集した情報を地上部隊に中継できることから、この新鋭機は空中指揮プラットフォームとしても機能します。広範囲にわたる種類の誘導・無誘導兵器を運用可能であることから、「Su-30SM」はシリアの戦場に適した非常に汎用性の高い航空機と言えるでしょう。 しかしながら、これらの戦闘機がロシア空軍で使用されている最新鋭の戦闘機の一部で、対地攻撃だけでなく空対空戦闘も可能であるという事実は、空軍が配備にこの戦闘機を選んだ別の理由を暗示している可能性があります。というのも、これらの戦闘機が初めて目撃される直前に、ロシアはシリア内戦に関するアメリカ側との最初の協議を終えたばかりだったからです。こうした高性能な最新鋭機のシリア配備が世界に強力なメッセージとなることは言うまでもありません。

 「Su-30SM」より性能が劣る「Su-24M/M2」の配備については、シリア空軍も同じ機体(しかも全てが最近にロシアのルジェフでMK規格からM2規格にアップグレードされたもの)を運用していることを踏まえると、特に驚くようなことではありません。シリアで「Su-24M2」の運用を担う第819飛行隊は、シリア中部のT4基地を拠点にして11機を運用し続けています。予想され得るロシアの「Su-24M/M2」のT4展開はロジスティクス面での円滑化に役立つでしょうし、すでに利用可能な広大な基地を利用することになるので賢明な選択と言えるのではないでしょうか(編訳者注:結局はT4ではなくフメイミムに配備された)。

 シリアに展開する機体の量に左右されますが、ロシア・シリアの統合化された「Su-24」飛行隊は大規模な空爆によって地上の状況を迅速に変える能力を持っています。反政府勢力のあらゆる攻勢を阻止することもできるし、ロシアやアサド政権側の攻勢で彼らの防衛線が吹き飛ばされる可能性さえあるのです。

「Su-27」と表記されているが、カナード翼の存在で「Su-30SM」と識別できる

 飛行機以外の重装備も同時にシリアに空輸されていると報じられています。9月15日の衛星画像では、約26台の装甲兵員輸送車(APC)/歩兵戦闘車(IFV)、6台の戦車、4機のヘリコプター、大量のトラックやその他の装備が飛行場に点在しているのが確認されました。

 9月17日にノヴォシビルスクで撮影された写真には、2機の「Mi-24/35」攻撃ヘリコプターと少なくとも1機の「Mi-17」輸送ヘリコプターが「An-124(RA-82035)」輸送機に積み込まれている様子が写っています。その後、同機は18日にシリア上空でトラッキングされ、夕方に再びロシアのモズドクに着陸したことが確認されました。こうした状況や衛星画像は、現時点でロシア・シリアで大規模な空輸作戦が展開中であることを示唆しています。


26台のBTR系APCと6台の戦車が見える(ただし、BTR系はIFVである可能性がある)

 シリア内戦へのロシアの軍事的介入が強まるというニュースは、決して青天の霹靂ではありません: 7月下旬のロシア軍無人偵察機の撃墜から今月初めの(おそらくロシアが運用する)「パーンツィリ-S1」防空システムの納入に至るまでの相次ぐリポート全てが、アサド政権への支援が大幅に急増していることを証明しているからです。

 こうした流れから、ロシアが反政府勢力の攻勢でアサド政権が屈服することを許さないだろうことは明らかでしょう。そして、ロシアと反政府勢力の間で戦争がまだ始まっていないにもかかわらず、当面はアサドが権力の座を維持し続けるのが現実のようです。

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

  2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年9月16日火曜日

【復刻記事】ロシア軍のシリア展開が確認:「R-166-0.5」通信車が目撃された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月16日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数日、ロシア軍がダイレクトにシリアへ軍事介入しているという事実を暴く証拠が急増しています。

最近納入されたロシア製UAVとロシアの「BTR-82A」歩兵戦闘車(IFV)が目撃されたことに加え、ロシア軍関係者と思われる人物がラタキア県でのアサド政権側の攻勢に参加したことを示す音声が、(これまで多くの人が考えていたレベルよりも)ロシアがシリア内戦に深く関与していることを証明したのです。

 シリアへ向かう多数のロシア軍揚陸艦が頻繁にボスポラス海峡を通過していることや、ロシア空軍の「An-124」戦略輸送機がラタキアに向けて少なくとも15回も飛行したことは、ロシアがアサド政権の支援でどの程度関与しているのかを物語っています。これらの艦艇や輸送機は、大量の車両や装備、兵員をシリアに送り込んできました。ロシア軍部隊を収容するため、フメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港はロシア軍基地となり、現時点で地上・航空戦力の展開を可能にするため改築中です。

 新たに公開されたロシアの「R-166-0.5」統合指揮通信車(HF/VHF通信車)がシリアの沿岸地方を走行する様子を撮影した画像によって、今やこの国におけるロシアの意図を疑う余地はほとんど消え失せてしまいました。

 「R-166-0.5」は長距離にわたって妨害に強い音声とデータ通信を提供する能力があり、ロシア軍がはるか内陸部で行動しながら、(沿岸部の一大拠点である)タルトゥースやラタキアにある自身の基地と通信することを可能にします。

 この車両がシリア兵に護衛されている様子が見えますが、彼らはおそらく国民防衛隊(NDF)の所属でしょう。ただし、これより注目すべきなのは、車両のハッチの近くに座っている兵士です。一見すると撮影されていることに気づいていないように見える彼は、ロシア軍で一般的なデジタルフローラ迷彩の戦闘服を着ていす。これは、私たちが本当に(シリア軍やPMCではなく)ロシア軍人を分析の対象に含めたことを改めて証明していると言えるエビデンスです。

 「R-166-0.5」の後部にある車両番号がダークオリーブ色の塗料で塗りつぶされたため、この車両が所属する旅団を特定することが不可能となっています。車両番号やその他の識別マークを隠すことはウクライナ紛争で一般的な慣行となりました。

後部右側の番号が塗りつぶされている:前方には護衛の車両が見える

 非公式なロシア陸軍の編制装備定数表(TOE)によると、旅団の通信大隊には合計8台の「R-166-0.5」が装備されているとのことです。したがって、「R-166-0.5」が目撃されたということは、最近になって旅団本部か少なくとも1個強化大隊(いわゆる大隊戦術群/BTG)が最近になってシリアに到着したことを意味しています。

 参考として、「R-166-0.5」の仕様の一部をロシア陸軍のファクトシートから抜粋しました(下の画像にある車両はロシア軍で運用されている個体です)。


通信距離
  • HF/短波, 静止時 (アンテナ展開時) – 1000 km
  • HF/短波, 移動時 – 250 km
  • UHF/超短波 , 静止時– 70 km
  • UHF/超短波, 移動時 – 25 km

周波数の帯域
  • HF – 1.5-29.99999 MHz
  • UHF – 30-107.975 MHz
ロシア軍の「R-166-0.5」(参考)

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2025年9月6日土曜日

医療外交:COVID-19対策でアフリカに寄贈されたアメリカの野戦病院を衛星画像で見よう


著 ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月11日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが世界中の国々で猛威を振るっています。(この記事の執筆時点で)全世界でのCOVID-19による死者は約700万人に上っていますが、要請検査の実施率や死因の特定困難を踏まえると、実際の犠牲者はさらに多いと思われます。そして、COVID-19はパンデミックとの闘いで他国を支援しようとする世界の大国間での覇権をめぐる争いも勃発させました。アフリカのパンデミック対策では中国とアメリカが中心的な役割を果たし、この大陸に大量の支援を提供しています。その支援の大部分は移動式野戦病院であり、アフリカ諸国はこれによって、最も被害の深刻な地域に最最高水準の病院を迅速に展開する能力を獲得したのです。

 2020年、米アフリカ軍司令部(AFRICOM)は、中国がとても及ぶことができない規模の野戦病院の寄贈することによって、アフリカにおけるCOVID-19との戦いの取り組みを開始しました。収容能力が30床から35床、または40床の規模を誇る負圧設備を備えた軍用規格の野戦病院は、通常は1か国につき1セットが寄贈されましたが、一部には2セットを提供された国もあります。北アフリカのアルジェリアからアフリカ大陸の最南端にある南アフリカまで、合計15か国のアフリカ諸国が、アメリカの戦略の一環として野戦病院を受け取ることにしました。

 ところで、アメリカがアフリカに大規模な野戦病院を寄贈したのは今回が初めてではありません。過去には、ルワンダ、セネガル、ガーナ、ウガンダなどが、2019年にアメリカが実施した「アフリカ平和維持早期対応パートナーシップ(APRRP)」の一環として、最初に野戦病院を受け取っています。同プログラムは、アフリカ諸国が必要に応じて災害に適切な対応ができるよう、医療能力の向上を支援することを目的としたものでした。2019年のプログラムで受け取った野戦病院については、2020年と2021年に同一の国が新たに受け取った野戦病院と共に、COVID-19対策に活用されています。


 南アフリカは、アメリカから野戦病院を最初に受け取った国でした。この40床の収容能力を有する病院は、この国で最も被害の甚大な都市の一つであるマフィケングにある総合病院の隣に展開されました。



 アンゴラは提供された40床の野戦病院を沿岸の町であるソヨに展開しました。



 ブルキナファソは40床の野戦病院を受け取り、首都ワガドゥグーの「殉教者の記念碑」の隣に展開させました。



 ジブチも40床の野戦病院を受け取り、首都ジブチ市の保健省の近くに展開させました。



 ガーナは30床の野戦病院を受け取り、首都アクラのサッカースタジアムに展開させました。



ニジェールは40床の野戦病院を受け取り、首都ニアメーの第3駐屯地に展開させました。



 ナイジェリアは40床の野戦病院を受け取り、首都アブジャにある総合病院の隣に展開させました。



 チュニジアは30床の野戦病院2セットを受け取り、そのうち1セットは首都チュニスにある総合病院の隣に展開されました。



 ウガンダは2019年のAPRRPプログラムの下で2セットの野戦病院を受け取りました。そのうち1セットについては、後に首都カンパラ近郊のウガンダ人民防衛軍(UPDF)司令部に展開されました。



 セネガルはAPRRプログラムの一環として受け取った野戦病院をトゥーバ市に展開させました。



 ルワンダは2019年のAPRRプログラムに基づいて受け取った野戦病院を、首都キガリの基地に展開させました。



 このほか、アルジェリアは2021年に35床の野戦病院を受け取りました。衛星画像によると、この野戦病院はブリーダ市の軍用保管施設に1か月未満の期間で展開され、その後別の場所へ再配置されたか、あるいは保管状態に入った可能性があります。アメリカから野戦病院を受け取った他の国にはケニア、エチオピア、モーリタニアが含まれます。このうちモロッコについては、2022年初頭に野戦病院を受け取る予定です。


 アメリカが野戦病院を寄贈しただけでなく(医療などに伴って)必要とされる技能などの訓練と専門家を提供したことは、同国が依然としてアフリカ大陸に極めて大きな関心を持ち続けており、この関心を具体的な援助で証明するための手段を有していることを示しています。このことは、(例えばフランスのような)アフリカに歴史的な関心を抱いてきた別の国々がパンデミック期間中に全く存在感を示さなかった時期と重なっている点にも注目するべきではないでしょうか。


改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)